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第2章 幼女の躾 (1)

<A Fanciful Story>

           竜巻岬《5》

                      K.Mikami

【第二章:幼女の躾】(1)
《幼女の躾》


 赤ちゃんを卒業してアリスには服が与えられた。花柄のワンピ
に、下着は清潔感のある白い綿のキャミソールとショーツ。
 それは女の子のごく普通のファッションのようだが……

 「ねえ、これってなんでこんなにスカート丈が短いの。…膝上
二十センチ以上あるわよ」

 アリスが文句をいうとハイネの答えは明快だった。

 「何言ってるの。あなたはまだ幼女。つまり幼稚園児なのよ」

 アリスのファッションは言われてみれば納得の特大幼児服なの
だ。

 「服だけじゃないわ。あなたは身も心も幼児でなきゃいけない
の。いいこと言葉が使えるようになったといっても、今使えるの
はせいぜい朝晩のご挨拶と物をもらった時の感謝の言葉ぐらいよ」

 「例えば、どんな言葉ならいいの?」

 「だから…『おはようございます、お母様』『おやすみなさい、
お母様』『ありがとうございます、お母様』…とにかく、最初は、
『はい、お母様』って言えればそれでいいの。でも、間違っても
大人の人たちと議論なんかできないのよ」

 「分かってるわ。ペネロープ様の前で可愛らしい園児を演じれ
ばそれでいいんでしょう。簡単よ。私こう見えてもお芝居は上手
なの」

 「いいえ、それじゃだめよ。演じるんじゃなくてなりきるの。
そうでなければペネロープ様はあなたを認めてくださらないわ。
あのお方は、感受性がもの凄く強いんだから……」

 「ねえ、これってどのくらいかかるの。また六ヵ月、八ヶ月?」

 「人によってだけど、あなたなら……ひょっとして、三ヵ月も
かからないかもしれないわね。何しろ根が子供だから…地のまま
でいいのかもしれないわ。……ま、そういうところは私も助かる
んだけどね……」

 ハイネは母親のように甲斐甲斐しく着付けを手伝っているが、
ふと思い出したように

 「そうだ、忘れてたけど、あなた、むだ毛の処理はしたの?」

 「むだ毛って」

 「ここのことよ」ハイネはアリスの股間を叩く。

 「?」

 「ここに毛のはえた園児なんていないでしょう」

 「え、そんなことまでやるの」

 「当たり前でしょう。お仕置きの時はパンツも一緒に脱がされ
るのよ。その時、どんな言い訳するつもり。これまでは赤ちゃん
ということで私がやってたけど、これからはあなたが毎日自分で
お手入れするの」

 「剃刀で?」

 「そうよ、殿方が使うT字の剃刀が洗面所に出てるから、それ
を使うといいわ。毎日じょりじょりやってね。厳しい人になると、
お仕置きの時は必ずそこを触って検査するんだから……ざらざら
してただけでも追加罰よ」

 「厳しいのね。おっぱいは取らなくていいの?」

 アリスはふざけてそう言ったのだが、ハイネは至極真面目に…
 「取りたいなら、医師を呼んであげてもいいわよ」

 「…………」

 「幼女は、演技やパフォーマンスじゃなくて、身も心も幼女に
ならなきゃ卒業できないの。自分のおっぱいが大きい事に疑問を
もたないようなら、失格よ。気をつけてね」

 「わかったわ。気をつける……」

****************************

 アリスは楽屋裏で色んなノウハウをたたき込まれると、ハイネ
に付き添われて恐る恐るペネロープの処へ。これが幼女になって
初めてのご挨拶だった。

 「まあ、まあ、よく来たわね。どうかしら久しぶりに着た服の
感触は……」

 ペネロープの部屋は厚いペルシャ絨毯が敷き詰められ、ロココ
を基調とした数々の調度品が所狭しと配置されているような処。
 彼女はそんな家具に埋もれるようにしてソファに座っていた。

 「えっ……あっ、はい、とっても気持ちいい…です!」

 アリスは、その豪華な調度品に目を奪われつつも、老婆の前に
立ってわざと幼児のような口調で話す。

 「おむつの生活は大変だったでしょう」

 「はい、慣れませんでしたから……」

 「誰でも、慣れてる人はいないわ。今さら、この歳になって、
赤ちゃんをやれって言われても戸惑うのは当然だもの。……でも、
あれで、あなたは生まれ変わることができるの」

 「…?…」

 「自殺するような人が、口先でいくら、『私は今日から生まれ
変わります』なんて宣言してみても、人間、そう簡単に今までの
生活習慣を変えることなんてできないわ」

 ペネロープはその皺枯れた指でアリスの頭を撫でたが、彼女は
嫌がらない。権力者に媚びてというのもあろうが、アリス自身、
目の前のこの老婆に、言い知れぬオーラを感じていたのである。

 「人は成長するにつれて知らず知らず自分の歪んだプライドで
物事を判断しようとするものなの」

 「歪んだプライド」
 アリスは小さな声でその言葉を口にする。

 「そう、大人に取ってプライドは必要よ。何よりそれで自分の
心を守ってるもの。でも、それが正当なものなら困難はあっても
自殺なんて手段はとらないわ。それが間違ってるから結果や手段
も間違うの」

 「…………」

 「再スタートを切るには、そんな歪んだプライドを、まず剥ぎ
取ってしまわなければ、次の人生も結果は同じよ。……だから、
ここでは、まず…親の愛情以外生きるすべのない本当の赤ん坊に
戻って、とにかく恥をかくことから始めるの」

 ペネロープはアリスの瞳を見据える。それはまるで魔法使いが
少女に呪いをかけているようにも見えるが、アリスはひるまない。
 ペネロープの瞳をしっかりと見つめて話を聞いているのである。

 「その最初の試練にあなたは打ち勝ったの。だからここにいる
のよ。今のあなたは、もうヒロミ・キーウッドじゃないの。私の
大事な娘、アリス・ペネロープなのよ」

 「えっ!……私が、ペネロープ様の……む…す…め………なん
ですか?」

 いきなり『娘』という言葉が出てきて、驚き取り乱すアリスを
見て微笑みながらペネロープはこう続けた。

 「そうよ、法的にはまだだけど、このお城の中ではそうなの。
だから、これからは、私のことは『お母さま』って呼ばなければ
ならないけど……できるかしら?」

 「えっ!?……(何だ、そういうことか)」

 アリスは一瞬驚き、次には『何だ、そう言うことか…』と納得
するわけだが、いずれにしても、これを拒否することも、アリス
には許されていなかった。

 「私に対しては、常に『はい、お母様』って言うのよ。言って
ごらんなさい」

 「あ……は、…はい、お母様」

 「よろしい。大変よいご返事ですよ。これからあなたはペネロ
ープ家の子供としてここで生きるの。年令はおいおい引き上げて
あげるけど、立場はずっと子供のまま。……もし、子供の領分を
逸脱するようなことがあれば、ただちにお仕置き……いいわね」

 「………」
 ペネロープの鋭い視線にアリスは思わずたじろぐ。

 「それと、立場は子供でも体は大人なんだからお仕置きの時は
世間の子供よりぐんと厳しいわよ。……それも覚悟しといてね」

 「はい、お母さま」

 「よろしい。では、最初の躾をしましょうか。……まず、私の
足元に膝まづくの。………そう、そうしたら、両手を前に出して
ごらんなさい………そうです。手のひらを上にして品物がそこに
乗るようにするのよ」

 アリスはペネロープの求めに応じて恭しく両手を差し出す。

 「……できましたね。……よろしい。……それが、我が家では
子供たちが目上の人に何かをしていただく時のポーズです。……
覚えておきなさい。大事な姿勢ですからね。……では……まずは
お菓子をあげましょう」

 ペネロープはケーキを一つアリスの両手に乗せる。

 「ありがとうございます。お母さま」

 アリスがお礼を言うとペネロープはたったそれだけのことにも
満足そうに微笑むと……

 「まあ、感心だこと。やはり私が見込んだ娘だけのことはある
わね。ではね、そのケーキはハイネに預けなさい。今度はご本を
あげましょう」

 ペネロープはケーキをハイネに預けて何もなくなった手に再び
今度は絵本を乗せる。

 「グリム童話とアンデルセンよ。お部屋に帰ってハイネに読ん
でもらいなさい」

 「ありがとうございます。お母さま」

 しかし、それもまたすぐにハイネに預けろと言うのだ。

 そして、次はクレヨン、その次はお人形……
 ペネロープは、自らが用意した女の子の欲しがりそうな品物を、
アリスの両手の上に与え続けていく。

 もちろん、アリスはそのたびごとに……
 「ありがとうございます。お母さま」
 とお礼を言わなければならなかった。

 そんな儀式がしばらく続き……
 『何の為にこんなまどろっこしいことをしているのだろう』と
思い始めた矢先のことだった。

 次にアリスの手に乗った物は奇妙な物だった。細い枝を束ねた
箒の先のような物。

 「これが何だか分かりますか?」

 ペネロープに尋ねられて少し間があったが、アリスはこの正体
を思い出す。

 「思い出したみたいね。そう、これは樺の木の鞭よ。何に使う
かも……ご存じよね。……今すぐに使うものではないけれど……
あなたにとって、これも大事なものよ」

 「はい、お母さま。ありがとうございます」

 「賢いわ、あなた。私の意味がわかったみたいね」
 ペネロープは頬を緩ました。

 「そうなの。大人が子供にあげるものは、甘いお菓子や楽しい
ご本ばかりじゃないの。辛いものもあるのよ。……でも、そんな
時でも、ご返事は……『はい、お母さま、ありがとうございます』
なのよ……言えるかしら」

 「はい、お母さま」

 「まあ、いいご返事だこと。きっと、あなたのお母様はいい躾
をなさってたのね」
 アリスの答えにペネロープはますます上機嫌だった。

 そして、次はもっと衝撃的なものとなる。

 「……!……」

 何にでも『はい、お母様』は分かっているつもりでも、さすが
に、これに対するお礼の言葉は、とっさには出てこなかった。

 大きな注射器のようなガラス製のピストン式の潅腸器。ほんの
少し前までなら、忌まわしくて撥ね除けていたであろう代物を、
今はさしたる違和感もなく手に乗せることができる。
 それだけでもアリスには驚きだった。

 「あなた、散々苦労したみたいだから、これが何だか、あえて
言わなくてもよいでしょうけど……これも女の子には、なくては
ならないお品物なのよ」

 「はい、お母さま。ありがとうございます」

 「そして、最後はこれ」

 ペネロープが最後に乗せたのは、2フィートほどの細い鉄の棒。
ちょっと見は暖炉をかき回す火箸のようにも見えるが、その先に
はペネロープ家の家紋であるイチイの花が彫りこまれている。

 「あなた、その様子じゃご存じないみたいね」

 ペネロープはそう言ったが、アリスはこれを知らなかったわけ
ではない。『まさか、こんなものまで…』という思いが、彼女を
怪訝な顔にさせていたのである。

 「それは、焼き鏝っていうものよ」

 「(やっぱり)」
 ペネロープの答えにアリスの悪い予感は見事に的中してしまう。

 「あら、ご存知だったの。……本来は、牛や馬が我が家の所有
であることを現すために押すものだけど……この城では人間にも
絶対に使用しないとは言い切れないの。その時は、覚悟してね」

 「…………‥」

 「あら、そのお顔の様子だと、ご不満なのかしら?」

 ペネロープは目が点になっている少女を励ますつもりでこうも
付け加えるのだ。

 「でも安心して、私、結構こういうことには手慣れているから、
あなたをそんなに苦しませずに刻印できると思うわよ。だから、
これにも『ありがとうございます』を言ってね」

 「……あ、~は、い。おかあさま。ありがとうございます」

 さすがのアリスもこの時ばかりは平常心ではいられなかった。
だから、恐る恐るこう尋ねてみたのである。

 「あのう~、焼き鏝ってどこに押されるんでしょうか?」

 「あらあら、あなた、もうそんなこと心配してるの……いいわ、
教えてあげる。お臍の下よ。下草を全部綺麗に刈り取ってから、
真っ赤にしたのをジューってね。……やられたことないでしょう
けど……熱いわよ~~~」

 ペネロープはあっけらかんとしている。
 アリスには、穏やかに笑って答えているのだが、その口元は、
言外に『あなた、可愛いわね』と言ってるようだった。

 「………………」

 「どうしたの?浮かない顔して……大丈夫よ。滅多なことでは
そんなこと起きないから……」

 ペネロープは椅子に座ったまま、アリスを膝の上に引き寄せて
抱きしめる。

 「あら、あら、あなた、お顔が真っ青よ。ちょっとお薬が効き
過ぎちゃったかしらね……よし、よし、いい子、いい子、大丈夫、
大丈夫、何もあなたにそんな事をするなんて言ってないでしょう。
泣かないでちょうだい。ただね、自殺する人って、物事を短絡的
に考える人が多いから、緊張感のない生活は危険なの。その戒め
なのよ。元気をだして……」

 心配したペネロープが、抱いたアリスの身体の肩や背中を擦り、
両手に息を吹きかけると、青ざめた少女の顔にもいくらか赤みが
さし始めた。
 それを確認して、彼女はこう約束させるのだ。

 「さあ、復習よ。…あなたは私の娘として私が与えるどんな事
にも『ありがとうございます』と言って、無条件に受け入れなけ
ればなりません。それはクッキーや絵本やリボンといった楽しい
ことばかりじゃなくて、お仕置きのような辛いことに対しても、
やはり『ありがとうございます』と言って受け入れなければなら
ないの。……できますか?」

 「はい、お母さま」
 
 「よろしい。………やはり、私の判断は正しかったみたいね。
あなたを竜巻岬で見かけた時から、『この子はとても立派な躾を
受けてる』って感じてたの。やはり私の目に狂いはなかったわ」

 ペネロープはアリスを自分の目の前で立たせると、その両肩を
掴んで……

 「しばらくは、人生をやり直すための修行の日々だから、辛い
ことも多いでしょうけど、辛抱しなさいね。私が決して悪いよう
にはしないわ」

 彼女はこう言ってアリスを励ましたのである。

***************<了>**********

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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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