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9/10 母という人

9/10 母という人

         < 最初のおしおき >

 さて、私の最初のお仕置きは何だったか、ふっと考えてみた。
 うちの母親は発展家で気も強い。たとえ幼児や赤ん坊でも本気
になって怒るし、体罰なんてのも日常茶飯事だ。本来子育てには
向いてないタイプだったと思う。

 とにかく、物心ついた時から母親に赤ん坊らしくあやされたと
いう記憶がない。他人を甘やかしたり甘えられたりするのが苦手
な人なのだ。
 どんな時でも「子供だから仕方がない」とは言わず、幼い子に
対しても、何でも大人と同じ対応を求めた。

 普通、幼児の頃は犬のことを「ワンワン」魚を「オトト」なん
て言ったりすると思うが、我が家では、物心ついた時から「犬」
は「イヌ」であり、「魚」は「サカナ」だった。
 だから、かなり長い間「オトト」というのは、そういうサカナ
の名前だとばかり思っていたのだ。

 会話だってそうだ。幼児がよく使う単語途切れ途切れの文章で
はだめで、母と話す時は、必ず日本語として成り立つように整理
してから話さなければならなかった。

 そんな環境で育っているから、幼稚園へ行った時もお友だちと
会話が成立しないのだ。
 入園しても、私は、お友だちの中で浮いてしまっていた。
 幼児らしい会話ができなかったのだ。相手も当然そうだろうが、
こちらも、お友だちが何を考えているのか理解できなかった。

 『電車ごっこって何?どうして縄跳びの紐をみんなで腰に巻き
つけるとそれが電車になるの?電車って切符を買って乗るものだ
よ。見たことあるだろう。乗ったことないの?』
 と、まあこんな会話をしてしまう鼻持ちならないガキだった。
 そりゃあ、友だち無くすわなあ。

 そのかわり、先生とはうまがあった。相手の言うことは何でも
わかるし、こちらの言うこともほぼ100%聞いてくれる。おか
げて幼稚園時代は先生の腰に張り付いて暮らしていた。
 ここが一番の安息の場所だったというから、幼稚園時代の私は
典型的な孤立児だったのである。

 さて、そんな問題多き母だが、私が彼女を嫌っていたかという
と、そうではない。母は性格も明るかったし、ボキャブラリーも
豊富で、おしゃべりしていても人を飽きさせない。日常生活も、
約束事さえ守っていれば実に楽しい人なのだ。

 母は、私によく童話を聞かせたが、その内容は必ずしも原作に
忠実ではなくて、悪人として絵が描かれている人物も、母の手に
かかると、ことごとく良い方に脚色されて善人になっていた。
(私の小説に悪人がほとんど出てこないのもそのためだ)

 例えば、赤ずきんちゃんのオオカミは、道草好きの赤ずきんち
ゃんを戒めようとして、おばあさんに頼まれ、おばあさんの代わ
りにベッドで寝ていただけだし、お菓子の家の魔女も、ヘンゼル
とグレーテルに自分でこしらえたお菓子を食べさせたくてお菓子
の家を造ったことになっている。最後には、二人をお父さんお母
さんのもとへ送り届けているのだ。白雪姫にいたっては継母の方
が善人で、白雪姫は継母の言いつけを守らないわがまま娘という
設定なのだからグリム兄弟もびっくりだろう。

 私はそんな善人ばかりで成り立つ童話を、母の膝の上とベッド
の中で聞いて育った。
 どうして母がそんな手の込んだことを考えついたかは不明だが、
母は私をとにかく溺愛していたから、物語の中でさえ悪い感化を
与えたくなかったのかもしれない。

 ただ、そんな中にあって、唯一の物語に刺激を与えていたのが
子供たちの気まぐれな悪さ(いたずら)だった。

 赤ずきんは道草をしていた罰として最後にお母さんにしこたま
お尻を叩かれることになっていたし……ヘンゼルとグレーテル、
白雪姫も、やはり最後はお仕置きされる設定になっている。

 当然、この他のお話でも、色んな場面で子たちへのお仕置きは
頻繁に出てくる。当然、こうした場面は母によって用意される訳
だが……それは不思議と私がお昼にしでかした悪さとリンクして
いた。

 母としては、我が子を戒める意味でそんなお話をこしらえるの
だろうが、聞かされるこちらは心地よいわけないから、そこから
逃げようとする。
 しかし、そこは幼児の悲しさ。頭のてっぺんからつま先まで、
母の胸の中に抱きかかえられると、お話が終わるまでピクリとも
身体を動かす事ができなかった。

 で、思うのだが『これが一番最初のお仕置きだったのかな』と
最近は感じているのである。

***********************

コメント

[C3] No title

優しい情景が浮かび上がるような幼いころのお話、大好きです。
後の記憶や印象に埋もれ、自分ではすっかり忘れていた小さい頃の、
寝る前にお話をせがんでいた時の光景が、ふと蘇りハッとしました。
親子間の距離の近さに、いつもほのぼのさせていただいてます。
  • 2015-09-12 22:40
  • しおごはん
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  • 編集

[C4] Re: No title

> 優しい情景が浮かび上がるような幼いころのお話、大好きです。
> 後の記憶や印象に埋もれ、自分ではすっかり忘れていた小さい頃の、
> 寝る前にお話をせがんでいた時の光景が、ふと蘇りハッとしました。
> 親子間の距離の近さに、いつもほのぼのさせていただいてます。

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 「しおごはん」さんコメントありがとうございます

 まずは、コメントいただいたのに一週間以上もご返事が遅れて
しまい大変申し訳ありません。

 私の場合は、見ての通り、夢のようなというか荒唐無稽な物語
しか描けませんから、しおごはんさんのように、地に足が着いた
というか、リアリティーのある物語が描ける人が羨ましいのです。

 このブログは、頑張りすぎず、ぼちぼちやっていくつもりです。
 これからも、よろしくお願いします。
  • 2015-09-20 22:20
  • tutomukurakawa
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Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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