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第11章 貴族の館(3)

              第11章 貴族の館

§3 修道院学校のお仕置き(1)

 『わあ、立派ね!家のオンボロ校舎とは大違いだわ』
 カレンは思った。

 時計台を持つ三階建ての本棟を中心に図書館や体育館、運動場
までしっかりと整備されていて、そこは立派な私立学校だった。

 「ここで2歳から15歳までの子が学んでいます。時計台校舎
の左側が9歳迄の子が学ぶ『幼児学校』。こちらは男の子も一緒
ですが、15歳までの子が学ぶ『基礎教育学校』は生徒は全員が
女の子です」
 正門を入ったところで伯爵は誇らしげに学校を語った。

 「何人くらい生徒さんはいるんですか?」

 「定員は特に定めていないので、各学年人数はまちまちなんで
すが、だいたい10人から15人前後です」

 「そんなに少ないんですか」

 「何しろ、私たち一門の為に作った学校ですから、一般からの
入学希望者がそんなにいないんです。……それでも最近はこれで
増えた方なんですよ。私が通っていた頃には1クラスに3人しか
いないなんて時がありましたから」

 「でも、その方がマンツーマンに近くてお勉強がはかどったん
じゃありませんこと……」

 「たしかに……おかげでよくぶたれました」
 伯爵は笑う。そして……
 「では、女の園の方へ行ってみますか」

 こう言って二人を誘うと、カレンが……

 「あのう……伯爵様は……男性ですよね。いいんですか?」

 こんなふうに申し訳なさそうに訊ねるから、伯爵は、一瞬その
質問の意味が分からず困惑するが、すぐにまた頬の筋肉を緩めて
……
 「大丈夫も何も、私は理事長ですからそれは仕方ありませんよ」

 伯爵はカレンの疑問にこう答える。
 「お嬢様。女の園といっても、それは生徒だけの事で、教師や
聖職者には男性もいます。女性だけでコミュニティーを維持する
のは大変なんです。重しがいるんですよ……」

 「重し?」

 「有無も言わさぬ強い力です。女性だけの社会では往々にして
みんながいい子になろうとして馴れ合いになってしまい、うまく
いかないことが多いんです。そんな時は誰かが悪役になってやら
ないと……」

 「悪役?」

 「例えば生徒にとって自分のお尻を叩く先生は悪役でしょう。
でも、それって誰かがやらないといけないでしょうから……」

 「そんな……」
 カレンは頬を赤くして俯いた。

 「そりゃあ、男性の前でお尻をだすなんて嫌でしょうけど……
でも、これはこれでいいこともあるんですよ」

 「どんなことですか?」

 「女性同士だと、それってずっと遺恨として残りますけどね、
男性の場合は『所詮、男に女の気持なんて分からないから仕方が
ない』って諦めがつきますから……

 「そんな……」
 カレンは再び頬を赤くして俯いた。

*************************

 校舎へ入る入り口は時計台の真下に一つだけ。でもここを入る
と、すぐに左と右に分かれる。左へ行く子たちはまだ幼いから、
それほど強い体罰を受けることはなかったが、右側へ行く女の子
たちは常にその事を頭において行動しなければならなかった。

 とりわけ、土曜日の午後は『一週間の精算』と称して、素行の
悪い子たちには、その罪に見合うだけの罰が用意されていた。
 もっとも、誰もがそうなるのではなく、災難はごく一部の生徒
に限られるから、土曜日の放課後が特別ではない。
 三人が廊下を歩くと、どこからともなく女の子たちの甲高い声
が木霊して、そこは華やいだ雰囲気だ。

 お仕置きがどんなに怖くても、所詮、当事者だけの問題。指名
を受けなかった彼女たちにしてみれば、『一週間の精算』など、
よその国の出来事だったのである。

 ただ、伯爵が二人を案内して石の階段を下りて行くと、そこは
地下室という場所柄もあるだろうが、重苦しい空気が漂っていた。

 この地下室は、大戦中はトーチカとして利用されていた物なの
だが、頑丈すぎて取り壊しに骨が折れる為、そのままの形で残り、
その地面の上に、戦後、新たに校舎を建てたのだ。

 当初は、物置として使われていたが、悲鳴が外に漏れることが
少なく、暗く陰鬱な空気が、生徒の恐怖心を煽るという理由から、
いつの間にかお仕置き専用の部屋になっていた。

 当然、構造も昔のままで、階段を下りると、そこから放射線状
に七つもの廊下が走っている。七つともその突き当りの部屋が、
お仕置き部屋で、今、まさにその最中。各部屋とも防音には気を
配っているので、伯爵やニーナにしてみれば、生徒の悲鳴が外に
漏れてうるさいということはなかったのだが、カレンだけはその
耳のよさが災いして、どの部屋の音も拾ってしまう。彼女にして
みれば、その地下への階段に足を踏み入れた時から、少女たちの
悲鳴と鞭の音が頭の中で鳴り響いていたのである。

 階段を下りた伯爵は、まず一号路と呼ばれる東側の廊下を進む。
東側と言っても自然光が差し込む窓はなく、朝日が当たることも
ない。地下室はどこもそうだが、電気の照明がなければ真っ暗で、
何もできない世界だった。

 「暗い廊下ですね。電気代を節約されてるんですね」
 ニーナが心配すると、伯爵は笑って……

 「それもありますが、生徒たちを怖がらせる為の演出ですよ。
お仕置きを受ける時は気を引き締めてもらいたいので、わざと、
暗くしてあるんです。

 そんな薄暗い廊下を三人が歩いて行くと、その先が急に明るく
なっていて、スポットライトを浴びたようにドアの前に七八人、
木製ベンチに腰を下ろした少女たちがいる。

 いずれもここの女生徒たちだが、年齢はばらばらだった。
 10歳の子もいれば15歳の子もいる。その範囲の子を預かる
学校だから、その範囲の女の子がそこにずらりと並んでいたので
ある。

 まだ乳離れの済んでいないあどけない顔から、もうどこか大人
の匂いを感じさせる少女まで、さまざまな少女たちが、いずれも
沈痛な面持ちで息を潜め、そこに並んでいたのだった。

 と、ここで一人の少女が伯爵に気づく。

 「!」

 気づいた瞬間、その子はまるでビックリ箱を開けた時のように
勢いよく立ち上がったが、それに気づいた他の子供たちも次から
次に同じような勢いで椅子の前で直立不動の姿勢をとる。

 最後に一人、この中では最年少とおぼしき少女が泣き止まずに
椅子にそのまま座っていたが、その子も気がついた友だちに注意
されて立ち上がる。
 どうやらこの学校では、伯爵様に出合ったら、こうしなければ
ならないと教わっているようだった。

 カレンにはその光景がまるでナチスの軍隊のように見える。

 「ここにいるのはどんな子供たちなんです?」

 ニーナが伯爵に質問すると、伯爵はそれには直接答えず、今、
目の前で直立不動になっている12 3歳とおぼしき少女に尋ね
た。

 「君はなぜ、ここにいるのかね?」

 「ギリシャ語の成績が悪かったからです」

 「何点だったの?」
 「35点でした」
 「そう、それはもう少し頑張らないとね」

 伯爵は隣りの子に……
 「君は?」
 「数学の宿題をやってこなかったからです」
 「そう、残念だったね」

 さらに次の子にも……
 「君は……」
 「ローラに悪戯して……それで……」
 「ローラってお友だち?」
 「はい」
 「悪戯って?」
 「靴に画鋲を刺して……悲鳴上げるんじゃないかと思って……」
 「よく、やるやつだ」

 「君は、さっき、泣いてたよね。ここは初めてかい」
 「…………」少女は何も言わずにうなづく。
 「先生に、ここへ来るように言われたんだね」
 「…………」少女はまた何も言わずにうなづく。
 「先生はどうしてそんなこと言ったの?」
 「私が先生なんか嫌いだって言ったから……」
 少女が初めて口を開いた。
 「そう、先生にそんなこと言っちゃいけないんだよ。女の子は
誰に対しても『あなた嫌い』なんて露骨に言っちゃいけないんだ。
今日は我慢しなくちゃね。…でも、私が先生にあまり痛くしない
ように言ってあげるからね」
 「…………」
 伯爵にこう言われて少女はまた何も言わずにうなづく。

 「ニーナ先生、こんなものですけど、よろしいでしょうか?」

 「はい、ありがとうございます」
 ニーナの喜ぶ顔を見て、伯爵も笑顔になって……
 「みんな、座っていいよ」
 生徒へ着席の許可を出した。

 「ここにいる子供たちは、まだ、ましな方です。本当に問題の
ある子は個別に呼ばれますからね、お友だちと顔を合せることは
ないんです。お仕置き、見ていかれますか?」

 伯爵に勧められるとニーナ・スミスは少し微笑んでから……

 「でも、私のような者がよろしんでしょうか?」
 あらためて伯爵に訊ねたのである。

 「かまいませんよ。貴族の娘といえど子供は子供です。過ちを
償う姿を見られたとしても恥ではありません。それに、あなたは
しっかりしたお方で分別もおありのようだし何より校長先生でも
ある。カレンさんにしても今は立派な作曲家という社会的な立場
がおありだ。いわばこの子たちを指導する立場にあるのですから
この子たちの方から不平を言う資格はありませんよ。……どうぞ
お気遣いなく」

 伯爵がそう言った直後だった。丸いドアノブが回り、部屋から
一人の少女が出てきたのである。

 彼女は部屋の中へ向って……
 「ありがとうございました。失礼します」
 と大きな声で最敬礼してから開けた扉を閉める。
 
 そして、急いでいたのか、小走りにその場を立ち去ろうとする
ので……
 「待ちなさい、ドリス」
 伯爵が呼び止めた。

 すると、彼女はドアの処では神妙に見えた顔から一転、こちら
を振り返った時は、すでに明るい笑顔だった。
 「ばれちゃった」

 「叔父さんに、ご挨拶はないのかい?」
 伯爵にそう言われると、ドリスは体をくねらしながら答える。

 「ごきげんよう、おじ様」
 ただ、その時も彼女は両手をお尻から離さない。
 どうやら部屋の中でもそれなりに可愛がられたようだった。

 「今週もお世話になったみたいだね」
 「へへへへへ」ドリスは照れくさそうに笑う。
 「何したの?」
 「何って、特別なことは…………ただ、ちょっと…………」
 「ただちょっと、何だね?」

 「算数の成績がちょっと悪かったの」
 「何点だった」
 「15点」
 「50点満点で?」
 「…………」
 伯爵の言葉にドリスは首を振る。100点満点で15点だった
のだ。

 「算数は嫌いかい?」
 「どうして?」
 「だって、算数って、数字や記号ばかりで誰も人が出てこない
でしょう。誰もいないところで何かやっても楽しくないもん」

 「なるほど、女の子らしいな」
 伯爵は苦笑した。
 「それだけかい?」
 「あと……校長先生の写真にお髭とサングラスを書き足したら
ベルマン< Bellmann >先生のご機嫌が悪くなっちゃって……」

 「落書きだね。……書き足したのはそれだけ」
 「それだけって……」
 ドリスは口ごもる。
 その後ろめたそうな顔は、それだけでないと言ってるようだ。

 「それだけじゃないんだろう」
 「…………う……うん」
 ドリスは伯爵に促されて渋々認める。
 「他に、何か書き足したね。ベルマン先生はそのくらいのこと
なら、君をここへ送ったりしないはずだよ」

 「う……うん、ちょっと、その横に書き添えたの」
 「何て?」
 「『Oh神よ。子供たちのお尻を叩く私を最初に罰したまえ』」

 「なるほどね」
 伯爵は呆れたという顔になった。
 「深い意味はなかったのよ。ちょっとした軽い遊びだったんだ
から……」

 「いいかい、ドリス、先生は、校長先生に限らず他の先生方も
神父様も君達のためにお尻を叩いているんだよ。そんな人たちを、
神様を使って懲らしめようだなんて、考えること自体いけない事
なんだ。もっと、もっと、自分の立場を考えなきゃ。君は身分は
あっても、社会ではまだまだ半人前の人間なんだ。そのことは、
何度も教わってるからわかってるよね」

 「…………」
 ドリスは静かに頷く。
 それは、これから起こるであろう出来事をある程度覚悟しての
頷きだった。

 「おいで……」
 伯爵はドリスを自分の懐へ招き入れる。

 彼女の頭が伯爵のお腹のあたりに吸い込まれる。
 そうやって、しばらく抱き抱えられてから……

 「学校の先生も神父様も、もちろん校長先生も私も……すべて、
ドリスが敬わなければならない人たちだ。それができない子は、
お仕置き。大事なことだから、学校で何度も習っただろう」

 「…………」
 ドリスは自分の遥か上にある伯爵の顔を見ながら静かに頷く。
 それはどんなお仕置きも受け入れますという子供なりのサイン。
この時代にあっては、親や教師が行うお仕置きに協力するのも、
良家の子女の大事な勤めだった。
 庶民の子のように自分の本心のままにイヤイヤは言えなかった。

 もし逆らったらどうなるか……
 その恐怖体験はすでに幼児の頃にすませているから、この廊下
に居並ぶどの子も、あの忌まわしい悪夢の箱を二度と開こうとは
しなかったのである。

 「パンツを脱ぐんだ」

 伯爵が命じると、ドリスはあたりを見回す。
 そこにニーナやカレンといった見知らぬ大人や逆に自分をよく
見知った学校の友だちがいるのが、気になるようだったが、とう
とう『いやです』という言葉は出ずに、自らショーツを太股まで
引き下ろしたのだった。

 伯爵は、ドリスの背中をその大きな左腕で抱え込むと、立膝を
した上にドリスを腹ばいにして、スカートを捲りあげる。
 当然、その可愛いお尻が白熱燈の下に現れるが、ドリスは暴れ
もせず、声もたてなかった。

 「………………」
 伯爵は、まずはまだ赤みの残るお尻を擦りながら、このお尻が
この先どのくらいの折檻に耐えられるか、値踏みをしながら……
両方の太股の間を少しずつ押し開いていく。

 普段、外気に触れない場所が刺激を受けて多少動揺するドリス
の可愛らしいプッシーをカレンは見てしまった。
 すると、それは他人の事のはずなのに、思わず、自分がドリス
の立場になったような錯覚に襲われて、ハッとするのだ。

 『わたし、何、馬鹿のこと考えてるんだろう』
 カレンは慌てて自分の頭に浮かんだものを消し去ろうとしたが、
それを完全に消し去ることはできなかった。

 「いいかい、先生を揶揄する事はとってもいけないことだよ。
わかるだろう」
 こう言って、最初の平手が打ち下ろされる。

 「ピシッ」
 「ひ~~いたい」
 思わず、ドリスの口から悲鳴が漏れたが……

 「静かにしなさい、ドリス。このくらいのお仕置きで声なんか
出したら恥ずかしいよ」
 伯爵は厳しかった。

 伯爵だって自分の子供をはじめとして何人もの子供たちのお尻
を叩いている。それがどの程度の衝撃かもよく心得ていた。
 たとえ、それまでにお尻を叩かれてリンゴが敏感になっていた
としても、このくらいのことで声を出すのはドリスが甘えている
からだと判断したのである。

 「歯を食いしばって耐えるんだ。でないと、終わらないよ」
 その声の終わりとともに二発目がやってくる。
 「ピシッ」
 「(うううううう)」
 今度は必死に声を出さずに耐えた。

 良家の子女は目上の人には従順でいるのが基本。どんなにお尻
が痛くても必死に我慢して声を出さないように罰を受けなければ
ならない。勿論、そこで暴れるなんてもっての他だった。

 実際、良家の子女たちは、暴れて当然の幼児の頃、暴れる体を
大人たちに押さえつけられ、厳しい折檻を何回も受けている。
 それだけではない。自らパンツを脱ぎ、お仕置きをお願いし、
必死にお尻の痛みに耐えてお礼を言う。そんなお仕置きの作法を
徹底的にその身体に叩き込まれるのだ。

 「これから、先生を敬って、失礼な事はしないね」
 「はい、しません」
 「ピシッ」
 「(ひぃ~~~)」
 ドリスは思わず地団太を踏んだが、声は出さなかった。
 三発目からは『伯爵の平手の痛みに耐え、声を出さず、お礼を
言う』という、良家の子女の作法に従ってお仕置きを受け続ける。

 「いい子だ。その気持をずっと持ち続けない」
 「はい」
 「ピシッ」
 「(い~~~~)」
 ドリスにそれは形容しがたい痛みだった。一度、しこたま叩か
れたお尻をもう一度叩かれるなんて、これまでになかったからだ。

 「君は貴族の家に生まれたんだ。当然、やらなければならない
事はたくさんある。教養、礼儀、品性……そして、これも………
その一つだ」
 
 「はい」
 伯爵はドリスの声に反応しては叩かない。一瞬逃げようとした
可愛いお尻が元の位置に戻るのを見届けてから……
 「ピシッ」

 「(いやあ~~もうやめてえ~~~)」
 ドリスは心の中で叫んだ。

 伯爵の平手は暗い廊下に置かれたドリスの可愛いお尻めがけて
飛んでくるから、明るい待合のベンチに座るお友だちの処からは
よく見えないのだが、それだって恥ずかしい事に変わりはない。
何よりお尻の衝撃が背筋を通って後頭部にビンビン響いた。そして、
そこが響くと、ドリスの子宮が思わず収縮して、不思議な気持に
なるのだった。

 「ちゃんと、ごめんなさいができるね」
 「できます」
 ドリスはもうほぼ反射的にそう言い放ったが……
 「よろしい、では、ベール< Baer >神父様に事情を話しておく
から、明日は浣腸付きの鞭を独りで受けるんだ」
 伯爵の言葉にドリスは飛び上がる。

 「そんなあ~~~~」

 「何がそんなだ。貴族にとって身分をないがしろにすることは
とても重大な違反行為なんだよ。私たちは身分制度があるから、
貴族でいられるんだ。学校で習ったはずだよ。それを自分で壊す
なんて、軽々しく許されるわけがないじゃないか。今日のお尻の
様子を見ると、どうやらそこまでやってもらってないようだから、
明日は神父様の処で、正式に罪の清算をしなさい。……いいね」

 「だって、おじ様、神父様の鞭ってとっても痛いんだよ」

 「知ってるよ。だから事前に浣腸もしてもらって、粗相のない
ようにするんだ」

 「あれも嫌!!だって、あれも、もの凄く気持悪いんだもん。
終わった後も、お尻の辺りがなんか変だし……」

 「仕方ないだろう、お仕置きなんだから……もし、逃げたら、
月曜日の朝、ミサの終わりに全校生徒の前でやらされる事になる
から、それも頭に入れておくんだ。いいね」

 「…………」
 あまりのショックに目が点になったドリスだが、伯爵が……

 「わかったのかね」
 と、念を押すと、我に返って……
 「はい」
 と、小さく答えた。

 「よし、じゃあ今日のお仕置きはこれで終わりだ」

 ドリスは伯爵の立膝からは解放されたが、肩を落として、しお
しおと帰って行った。

 「厳しいんですね」
 ニーナがつぶやくと……

 「仕方がありませんよ。昔に比べればその権限は小さくなりま
したが、それでも依然として我々は為政者ですから身の処し方は
平民の人たちとは違います。軍に入れば今でも無条件に士官です
から、その信用に応えなければいけないわけです。……そもそも、
社交界での複雑な決まりごとや所作が、たった一打の鞭もなく、
子供に備わるとでもお思いですか」

 「そうですわね」

 「優雅に泳ぐ白鳥も、人の目に触れない水面下では必死に足を
バタつかせて泳いでいます。貴族もそれは同じ。ここは、貴族と
いう名の白鳥の水面下なんです」

 伯爵はさりげなくニーナの肩を抱くと、周囲にいる子供が恐怖
するそのドアをノックしたのだった。

********************(3)***

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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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