2ntブログ

Entries

銀河の果ての小さな物語 <第1章> §1

☤☤☤☤☤☤  銀河の果ての小さな物語  ☤☤☤☤☤☤

     ☤☤☤☤☤☤   <第1章>  ☤☤☤☤☤☤
             ~ バンビの赤ちゃん期 ~

§1

 私がその人と出会った時、彼女は文字通り巨人だった。巨大な
顔は、私を見つけるといつもものすごいスピードでよって来る。
たいてい笑っているから、その意味ではそんなに恐くはなかった
が、巨大なスプーンに何やら山盛りになったものを口の中へねじ
入れられた時は殺されるかと思うほどショックだったこともある。

 「美味しい?」

 彼女がしつこく尋ねるので思わず頭を下げると、また同じよう
なものをを山盛りにして私の口元へ持ってくるから、どうやら頭
を下げるのは「もっと!」という意味らしい。

 しかも、私が昨日までやっていた、口に含むとやわやわで噛む
とミルクの出る食事がしたいと思っても、彼女は、ひたすら……
「あ~ん、あ~ん」を繰り返すばかりだった。

 仕方なく、試しにもう一度ほんのちょっとだけ口を開けると、
スプーンの先で私の口を無理やりこじ開け、その山盛りの物質を
無遠慮に私の口の中へと押し込む。

 そしてここでも「美味しい?美味しい?」としつこく尋ねるの
だった。

 飲み込めと言われれば飲み込めなくはない代物だが、どうも、
私は彼女の笑顔に弱い。彼女が笑うとついつい私も一緒になって
笑顔になってしまうのだ。
 それを誤解して……

 「そう、おいちいの。よかったわ。あなたはね、銀のスプーン
をくわえて生まれてきたの。不幸になんかなるはずないわ」
 と、きた。

 これは、その後もかなり長く私に語り続けた彼女の決まり文句
だった。
 そして、そのトレードマークである銀のスプーンをアップリケ
や刺繍やらで、やたらめったら私の服に縫いつけていた。

 もちろん、私がそんな異物をくわえてこの世に生まれてこなか
ったことは周知の事実なのだが、これは世に言う慣用句の一種で
『それほどまでに幸せな幼年期』と言う意味らしかった。
 早い話が彼女の育児自慢なのだ。

 お母さんの必要すぎるおせっかいはともかく、『養育惑星97』
での私の生活はそれほど不快なものではなかった。
 緑の草原にいつも緩やかに南風が吹いていて、そこに百件余り
の住宅が建ち並んでいるのだが、森も湖も山も川もそのすべてが
私には優しかった。

 養育惑星であるため、もともと人工的に気候を調整して住みや
すくはしてはあるものの、調整したのは何も自然だけでなかった。
 ここに住む住民はある意味選ばれた人たち。みんな穏やかで、
とげとげした感じの人は一人もいなかった。

 もともと子育てが仕事の彼女たちは、幼い子が公園で砂遊びに
夢中なら、その子が飽きるまで、その砂遊びにつきあってくれる。
山遊び、川遊び、家の内外を問わず私たちがやりたいことの最初
の先生だった。

 お昼もそうだ。いい匂いがしていれば、どのお家でも上がり込
んで、そこでご馳走になって、何の問題もなかったのである。

 子供たちは、誰もが袖無しのジャケットを着せられているが、
これさえ身につけていれば大人たちは機嫌がよかった。というの
も、このライフジャケットさえ着ていれば、その子が、今どこで
何をしているか、たちどころに中央管制室のモニターに映し出さ
れる仕組みになっている。

 居場所だけではない。今日、食事したか、うんこしたか。今、
運動しているか、寝ているか。今、楽しいげにしているか、恐い
思いをしているか。などなど大人たちは子供たちの動静をリアル
タイムで監視できる。
 当然、その情報はコンピューターが一元管理していた。

 早い話24時間体制で監視されているわけで、子どもたちは、
どんなに平静を装っていても大人たちに嘘をつくことができなか
ったのである。

*******************(1)*****

 しかも、この薄手のジャケットは万が一危険なことが起こった
時にも重宝だった。

 例えば一定以上のスピードで何らかの物がその子に近づいたり、
周囲の温度が異常なスピードで上昇したり、はたまた頭から水を
かぶったりしただけでも、たちどころに体全体をバリアで包んで
保護する仕組みになっていた。

 こうなると、一時的に子ども自身は身動きがとれないが、数分
以内に、大人たちが駆けつけてくれるので子どもが不慮の事故に
遭う可能性は極めて低かった。
 だから、この星ではライフジャケットを身につけずに外に出る
ことは、裸で外に出るのと同じだったのである。

 穏やかな大人たちとクオリティーの高い安全装置のおかげで、
子供たちはすべてにおいて快適に暮らしていけていると思われる
かもしれないが、子どもの立場で言わせてもらうと、全てが快適
とまではいかなかったのである。

 例えば、この安全装置。子どもの立場からすれば、高い崖から
落ちても、池に飛び込んでも、たき火の中で騒いでも全然平気だ
と分かってしまえば、誰だって試してみたくなるのが人情。
 ところが、大人たちはそれを絶対に許さなかったのだ。

 それを許すと、いつしかジャケットを着忘れて崖から飛び降り
かねないと彼らは危惧していたようだった。
 だから、そんなことを企てる悪戯っ子は、崖から落ちて怪我は
しないものの、その日の夕方、母親から真っ赤に熟れたリンゴか
トマトのように、色が変わるまでお尻をぶたれるはめになるので
ある。

 養育惑星ではカラスの鳴かない夕方はあっても、子どもが母親
からお仕置きされて悲鳴あげない夕方はなかった。まるで持ち回
りのように、どっかしらの家で子どもの「ごめんなさ~い。もう
しませんから~~」という声がしていた。だから、子供にとって
はここが天国だなんてとても思えなかったのである。

 ちなみに、ここでは子どもをお仕置きするのは何も母親だけと
は限らない。ここに住む大人なら誰でも、街で悪さをするお転婆
娘を見かければ、その子のショーツをはぎ取ってお尻を叩く事が
できた。

 そもそもこの星には自制心のない大人などいなかったし、子供
が嫌いな大人や子供の要望に応えらないほど忙しくしている人も
一人もいなかった。
 ここでは大人たちも比較的のんびり暮らしているのだ。

 そのせいだろうか、子供の方も顔見知りの大人たちからぶたれ
ても、それほど強いショックではなかった。

 しかも、親や先生からは……
 「あなた方は、何兆という中から選ばれた特別な神の子です。
ですから、グレートマザーはあなた方のために、この愛のエリア
を与えてくださいました。この愛のエリアは、天国と同じくらい
すばらしい場所なのです。ですから、ここで起こったことは天国
で起こったことと同じ。あなた方がお母様にお尻をぶたれるのも、
神様にぶたれたのと同じなんですよ」
 と、こう言ってお説教してくるのだ。

 こんな無茶苦茶な論理でも、これを大まじめに、毎日のように
語り聞かされれば、洗脳されない子供はいない。
 「大人は偉い人。神様と同じ」
 という乱暴な神話も、素直に心に届くという仕掛けだったので
ある。

********************(2)****

 おまけに、彼らは小型のエアジェットを背負って普段から野山
や町中を自由に飛び歩いている。
 子どもとしてはそういった意味でも街ゆく大人たちは、殿上人。
 『大人になれば空が飛べる』と信じるだけでも、大人になりた
いという動機付けには充分だった。

 ただ、街行く大人たちが誰も親切で、どんな時でも甘えられる
とはいっても、子どもにとって、お母さんというのはやはり別格
の存在。

 特に私の場合は、お母さんがよほど気に入っていたのか、家に
いる時はいつもそばにいたし、遊びの途中でも理由もなしに家に
戻ることが何度かあった。少し離れた処にいた時でも、彼女が、
何をしているのかをいつも気にしていたのである。

 そして、つとめて抱いてもらっていた。朝といわず昼といわず、
夜だって当然のように添い寝だった。

 ま、赤ん坊なのだから当たり前かもしれないが、お母さんの懐
が一番心地よい場所だったような気がするのだ。

 それはまた、逆の見方をすれば彼女がいかに私を大事にしてく
れていたかという証でもあった。

 お母さんは幼い私のことを、『バンビ』『バンビ』と呼んで愛
してくれた。

 なぜ、『バンビ』なのかはその後分かることになるが、いずれ
にしても、こうして大事にされ愛された子供というのは、途中で
多少きついお仕置きにあっても、そう簡単には大人を恨んだりは
しないものなのである。

******************(3)****

コメント

コメントの投稿

コメント

管理者にだけ表示を許可する

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

最新記事

カテゴリ

FC2カウンター

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR