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銀河の果ての小さな物語 < 第2章 > §1

☤☤☤☤☤☤  銀河の果ての小さな物語  ☤☤☤☤☤☤

     ☤☤☤☤☤☤   < 第2章 >  ☤☤☤☤☤☤
             ~ バンビ~の幼年期 ~


§1 昔とった杵柄

 あれは五歳の頃だったか、近くのゲーセンで遊んでいたらすぐ
にコインがあっという間になくなっていく。
 何しろまだ生まれてこの方5年しかたっていないので、うまく
遊べないのだ。
 遊べないけどゲームはやりたい。特にシューティングゲームは
私のお気に入りだった。

 「ああ、終わっちゃった。もう帰ろうね」
 母はそう言ったが……

 「だめえ!もう一度やる~~~~~」
 だだをこねてゲーム機にしがみつく。

 「ご飯食べなきゃいけないでしょう」
 こう言われても……

 「ご飯いらないから、これやるの~~」
 声はだんだんに大きくなる。

 「しょうがないわね」
 彼女はそう言って再びコインをいれてくれたのだが、それは、
僕がやるためではなかった。
 僕はお膝にのんのするだけ。お母さんが自分で操縦席に座った
のである。

 「ダダダダ…ダダダダダダダダダダダ……ダダダダダダダダダ
……ダダダダダダ…ダダダダダダダダダダ……ダダ…ダダダダダ
ダダダダダ…ダダ」

 お母さんのコスモビーグル(一人乗り戦闘機)があっと言う間
に敵の戦闘機を蹴散らしていく。
 重爆撃機や宇宙空母や敵基地なんかが次から次へと木っ端微塵
になっていく。
 それはゲームというより、始めからストーリーのあるアニメを
見ているようだった。

 第1、第2ステージぐらいではそうでもなかったが……

 「ダダダダ…ダダダダダダダダダダダ……ダダダダダダダダダ
……ダダダダダダ…ダダダダダダダダダダ……ダダ…ダダダダダ
ダダダダダ…ダダ」

 第4、第5も短時間で決着させると……
 当然、その勇姿に観衆も増える。
 そのざわつきの中で僕はなにげにおばさんたちの会話を聞いて
しまったのだった。

 「わあ、凄いわね」
 「そりゃそうよ。あの人プロだもん。恐らく空軍のパイロット。
それも編隊長経験者だわ」
 「まあ、そうなの……どうりで」
 「え!?どうしてわかるの。ただのゲーム好きじゃないの?」

 「違うわ。私、空軍にいたからわかるのよ。ゲームでは左手の
薬指は必要ないけど、実際のコスモビーグルでは、あれで尾翼の
方向舵を操って命中精度を高める重要な働きがあるの。だから、
いつも左の薬指が動いてる。それに、右手の小指が常に動いてる
でしょう。あれは編隊の他の機へ指示や連絡を送るための打電用
なの」

 「そんなの言葉でいいじゃん」

 「そんなことしたら、相手にこちらの動きを読まれちゃうわ。
あれは、各編隊ごとに暗号化されていて、その日ごと別のソフト
を使ってるのよ」

 「じゃあ、何打ってるのかわからないわね」

 「そんなことはないわ。打電する時はみんな同じよ。ただ途中
が暗号化されるだけだから。でなきゃ、百も二百も乱数表覚えら
れないでしょう」

 「あ、そうか。じゃあ、あの小指はごく普通の……」

 「そう、モールス信号よ。…だから分かるの。あの人が編隊長
だって…他の機に指示を出しながらゲームをやる人なんていない
もの。第七ステージと言えば、ゲームとは言ってもほとんど実戦
さながらのはずなのに、まだこの余裕だもの。現役時代は相当に
腕のたつビーグル乗りだったはずよ」

 「ふうん……でも、そんなお偉いさんが、どうしてこんな処に
いるわけ?ここは養育惑星で、ここで軍人と言えば、怪我したか、
歳を取って除隊した退役軍人だけのはずよ。あの人、まだ若いし
怪我してるようにも見えないけど」

 「そんなこと知らないわよ。……あっ、待って、また打電し始
めたから読んでみるわ…『セリーヌ、アナタノコドモ…バンビ…
…コンナニオオキクナッタワ……キジュウソウシャモコノトシニ
シテハソウトウナモノヨ……デモネ……ワタシ…コノコヲグンニ
イレルキハナイノ…ネ…ソノホウガアナタニトッテモイイコトデ
ショウ』」

 その直後、母のゲームは終わってしまった。

 「チッ、ゲームじゃ錐揉みが使えないか!そのくらいソフトに
組んどきゃいいのに」

 残念そうなお母さんの、ちょっときつい言葉。普段だったら、
もっとやさしい言葉を使うのに……その時は、お顔もちょっぴり
恐かった。

 しかし、期せずして周囲の観衆から拍手が起こると、お母さん
は顔を赤らめて僕の手を引いて外へ出た。
 お母さんは自分がみんなから見られていた事を知らなかったの
だ。

 そんな中、店で聞いた『セリーヌ』という名前が気になった。
 おばさんたちが話していた『バンビ』というのはどうやら私の
ことのようなのだ。

 そこで、近くのパフェに入ったとき、お母さんに……

 「ねえ、セリーヌって誰のこと?」
 単刀直入にこう切り出してみたんだ。

 すると、ほんの一瞬だけど、幼い私にもはっきり分かるほど、
お母さんの顔色が変わったようだった。

 「セリーヌって?……ああ、セリーヌね、子供服のメーカーの
名前よ」

お母さんは取り乱す様子もなく答えたが、私が『セリーヌ』と
いう名前を最初に聞いたのはこの時が初めてだったのである。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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