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3/8 初めてのお酒

3/8 初めてのお酒

*)思い出話

 その日は、父と一緒に質屋組合の寄り合いに参加していました。
寄り合いと言っても中身は日帰りの親睦会で、当時まだ幼稚園児
だった私もおまけで参加していました。

 温泉旅館に着くと、さっそく大きなお風呂で泳いで、長い廊下
を走り回って、お土産を売っているガラスケースに乗っかったり
とやりたい放題です。

 でも、そんな探検旅行が一段落すると、レジャーランドのよう
に遊具がありませんから、やることがなくなります。
 仕方なく元いた広間に戻ると、今度は一緒にバスでやってきた
はずの大人たちがいませんから、独り残っていたおじさんに……

 「お父さんは?」
 って、尋ねたら近くの名所をみんなで見に行ったとのこと。

 仕方なく、独りでお銚子を傾けているそのおじさんのおそばに
いることにしたのです。
 スルメや裂きイカなんかもらって、お酌なんかしながら……

 すると、そのうちそのおじさんがこんな事を言うのです。

 「坊や、お前も一杯やるか」
 ってね。

 もちろん、ぼくはそれまでお酒なんか一滴も飲んだことがあり
ませんでしたが、父が飲んでいるのは目にしていましたから興味
はあったんです。

 そこで……
 「うん」
 と言うと、おじさんが盃にほんのちょびっと注いでくれます。

 それは時間が経つと自然に乾いてしまうほどちょびっとだった
んですが、飲んでみました。

 『美味しい』
 正直、そう思いました。
 そしてそれまで知らないおじさんと二人きりだった部屋が急に
楽しい場所に思えるようになったのです。

 すると、そんなぼくの変化におじさんも気づいたんでしょうね。
 「おまえ、なかなかいける口じゃないか。よしもう一杯いくか」
 って、僕を膝の上に抱くと二杯目を注いでくれるんです。

 前の一杯が美味しかったぼくは二杯目もグイッとやってみます。

 『わあ~~~こんなに楽しい気分は初めてだ』

 盃二杯、それもほんのちょびっとの量だったんですが、何しろ
幼稚園児で小さな身体でしたからね、完全に酔っ払ってしまった
のでした。

 そして、三杯目、四杯目、……
 『わあ~~~天井が回ってる』
 ぼくはおじさんの膝に座ることさえできず、その場に倒れこみ
ます。
 天井は回っていますが、とてもいい気分でした。

 そうやって倒れてる私は、やがて、座敷に帰ってきた父に発見
されます。
 すると、こちらは気分がよく寝ていても、私を見つめる父の顔
は恐ろしく怖いものでした。

 『やばい、お酒飲んだから怒ってるんだ』

 すぐに、そう思いましたが、何しろ足腰が立ちませんからどう
にもなりません。
 ぼくはお仕置きを覚悟したんですが……
 父が僕にしたのは、温泉場へ連れて行って、頭を水で冷やして
脱衣場の畳の上に寝かせただけでした。

 その後のことは母から聞いたのですが、父は私にお酒を飲ませ
たおじさんの胸倉を掴んで……
 「どうして家の息子に酒なんか飲ませた。お前、俺に恨みでも
あるのか。もし死んだらどうするつもりだ」
 って怒鳴り散らしたそうです。

 一触即発、周りにいたみんなが止めなかったらきっと殴り合い
の喧嘩になっていたみたいです。
 喧嘩っ早い人ならともかく、普段とっても大人しい父ですから、
周囲の人たちが一様に『あの時は驚いた』って言ってました。

 それで、その旅行はその後父の懐に入れられて無事帰ってきた
わけですが、これには後日談がありまして……

 数日後、今度は父が私に……
 「お前もやってみるか?」
 って盃を勧めたんです。

 もちろん、量はほんのちょびっと。一杯だけですが……
 でも、やっぱり美味しかったです。

 おじさんと喧嘩までしたそんな事を、今になってなぜ僕に求め
たのかは謎ですが、父もまたおじさん同様、盃を飲み干す僕を懐
に抱いて満足そうでした。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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