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見沼教育ビレッジ / 第1章 /§13~§14 

****** 見沼教育ビレッジ (13) ******


 そうこうしているうちに最初の先生がやってきます。
 森田先生と言う国語の先生。白髪にメガネをかけ、チェックの
ジャケットを着た温厚そうな年配の紳士でした。

 最初は1学期の復習から……
 ここでの授業は学校のように懇切丁寧にはやってくれません。
要点だけを掻い摘んで説明したら、即、確認テスト。という流れ
で、授業はめまぐるしく進行していきます。
 50分の授業は学校の一時限と同じですが、それでいて1ヶ月
分という猛スピードです。

 『そんなのついていけない』
 と最初は思ったんですが、やっていくうちに……でも、それで
どうにもならない、ついていけないという事はありませんでした。

 というのも、先生方はすでに今まで過ごしていた学園から詳細
な学力情報を得ていました。それは単に中間や期末の成績を取り
寄せたというだけでなく、これまで私が学校でどのような勉強を
してきたのか…理解力は…応用力は…暗記力は…集中力は…等々
ありとあらゆるデータを元に授業案を練って進めていきます。
 ですから、この50分の中に無駄な時間というのは一秒たりと
ありませんでした。(ちょっとオーバーか……でも、そんな感じ)

 おかげで50分が終わると、もうそれだけでこちらは疲労困憊
です。
 『1日分たっぷりやったあ~~』
 そんな感じでした。

 これを午前中だけでも4クール、午後は2クールというのです
から…………死にます。

 おまけに……
 翌日は広い範囲からの復習テストが最初にありますし、漢字や
英単語の類は、毎日に100個以上暗記してきて明日に備えなけ
ればなりませんから、授業のない午後や夜も自由時間が自由時間
になりませんでした。

 「こんなの絶対続きませんよ」
 私は1日終わってケイト先生に愚痴を言うと……

 「大丈夫、大丈夫、あなたのことをすべて調べ上げた上で組ん
だ授業ですもの。どの先生も、あなたにできないことは最初から
求めないの」
 と、軽~~く言われてしまいました。

 「だって~~え、課題だってこんなにあるんですよ」
 それでも私が甘えると……

 「だから、慣れるわよ。朝の儀式と同じ。辛いのは最初だけ。
すぐに慣れるわ。だって、私の授業中の蝋燭にも、授業後のお尻
叩きにも、あなた、すぐに慣れてきてるじゃない」

 「慣れてません!あれは、それどころじゃなかったから……」

 「そうそう。いつも『それどころじゃない』って思って続けれ
ばいいのよ」
 ケイト先生の笑顔に私は膨れっ面でした。

 私は、授業中、何度かケイト先生の蜀台から流れ落ちる蝋涙を
手の甲に受けます。いえ、それだけじゃありません。授業の終わ
りには必ずケイト先生からのお尻叩きが待っていました。これは
その時間を受け持った教科の先生が私の授業態度を判断して下す
罰で、『なし』というのはありません。最低でも三つ、多い時は
12発もパンツを脱がされたお尻に平手打ちされます。
 こんな大変な勉強は初めてでした。

 でも、たしかに、ケイト先生の答えにも一理あります。
 これほどまでに忙しいと普段なら大騒ぎになるお仕置きでさえ、
もうどうでもよいことのように感じられますから……
 人間って、不思議なものです。

 朝のお浣腸も、オムツも、お漏らしも、授業中のローソクも、
授業後のお尻叩きも……忙しさの前にはその優先順位が下がって
しまうのでした。

 「私、馬鹿なんですから……」
 私は、今の苦役から逃れたくて何度かこんなことを言いました。
 すると、ケイト先生は……

 「あら、あら、あなたいつからお馬鹿さんたちの仲間入りした
の?……園長先生は、あなたのこと、最近、成績が落ちてるけど、
本来はとっても優秀な生徒だっておっしゃってたわよ」

 「そんなこと買いかぶりです」

 「そんなことないわ。だって、あなたは今日一日やっただけで、
もう随分と慣れたんですもの。……それは、今、あなたの人生の
フィールドが机の上にあるってことなの。机の上で作業している
時が一番楽しいでしょう?」

 「楽しくありません!!!……だいいち、机の上の作業って、
……それって当たり前じゃないですか!勉強させられてるんです
から……」

 「当たり前じゃないわ。だって、体育会系の人たちに同じ事を
しても寝てしまうのよ。どんなに蝋涙を落とそうが、鞭でお尻を
叩こうが、この人たち結果は同じなの。……でも、そんな子たち
が指導者にこんなトレーニングをしなさいって命じたら……今の
あなたと同じ。不満はあってもやはり真剣に取り組むの。だって、
その子たちにとって人生のフィールドは、机の上なんかじゃなく
本物のグランドの上にあるんだから……」

 「…………」

 「大丈夫、私がついてるから……どんなにあなたが『嫌だあ』
って言っても、ほとんど24時間、私はあなたのそばを離れない
の。赤ちゃんの面倒をみる母親と同じね。……こんな重宝な人を
利用しない手はないんじゃないかしら?」

 『どういう意味よ。あなたなんて厄介なだけよ』
 心はすでにけんか腰でしたが、たしかにその後、ケイト先生は
色んなアドバイスで私を助けてくれたのでした。


 1日6時限みっちり、学校と同じように時間割にそって授業が
行われます。息抜きに他のお友だちと一緒に体育や美術や家庭科
なんてのもありますが、大半の授業が、個室でマンツーマンって
ことでした。

 ここで、個々の先生のことをあれこれ書いてもいいのですが、
読者さんも退屈でしょうからそこは省きます。いずれにしても、
勉強の忙しさにかまけているうち、一週間はあっという間に過ぎ
去りました。


 次の日曜日……
 この施設は曜日に関係なく動いていますから日曜日もおやすみ
ではありませんが、お父さんがこの日施設を離れるというので、
私は特別に半日だけ家族水入らずで過ごすことを許されました。

 とはいえ、その日も午前中は初日と同じ。
 朝のお浣腸、お漏らしに始まり、両親からのお尻叩き……勿論
お勉強もあります。その最中に落とされる蝋涙だって別に回数が
減ったようには感じられませんでした。

 ただ、最初の頃に比べて何をされるにしても気持が楽になった
のは確かでした。
 蝋涙を恐れて殊更『授業集中しなきゃ』と思うこともなくなり
ましたし、課題を聞いて『こんなの徹夜しなきゃこなせないじゃ
ないの!!!』と癇癪を起こすこともなくなりました。

 いえ、そんな立派な事ばかりではなく……
 日頃繰り返されるハレンチなお仕置きのせいで、どこでも平気
で裸になれちゃいますし、誰にお尻をぶたれても驚かなくなって
いました。

 わずか一週間で、ケイト先生の言う通り、ここの生活に慣れて
しまったみたいで……それって自分でも、ちょっぴり、恐い気も
します。

 そんな日曜日の午後、突然ケイト先生の提案でぽっかりと暇が
できたのでした。

 昼食後、家族でよもやま話をしたあとで、お父さんが私を誘い
一緒に散歩に出かけることに……
 でも、お母さんと香織は家に残っていました。

 お父さんと二人だけの時間なんて久しぶりです。
 これが幼い頃なら何か買ってもらえると思って単純に喜んだと
思いますが、思春期になるとそこに微妙な溝が生まれます。

 『また、お小言かなあ?』
 『ひょっとしてお仕置きとか……』
 『まさか、ここが終わったらまた別の更生施設に行けなんて、
言わないでしょうね』
 私はお父さんと一緒に歩いていても、ネガティブな方向でしか
ものを考えられませんでした。

 「どうだ、ここでの生活は慣れたか?」
 「ええ、まあ……」
 「嫌なことばかりさせたから、私を恨んでるんだろうな?」

 「そんなこと……」
 私は下を向きます。
 言葉は否定的でしたが、それが私の本心でないことをお父さん
も承知しているみたいでした。

 「自分で抱えきれなくなったら、私の処へ直接連絡しなさい。
お母さんに話すと止められるだろうから、ケイト先生に話すんだ。
彼女が取り計らってくれるよ」

 「えっ?……じゃあ、明日やめてもいいの?」
 私は思わず本音を口走ってしまいます。

 すると……
 「もちろん、それでもいいけど…おまえはそんな弱音を吐く子
じゃないと信じてるよ」

 「…………」
 こう言われると、次に言葉がでませんでした。

 私には中学になった今でも『お父さんの信頼を裏切りたくない』
という呪縛が常に働いています。そして、そのことはお父さんも
よく承知していることだったのです。

 「ところで、おまえはどんなタイプの男性が好きなんだ?」

 「えっ!何よいきなり……」
 たしかに、そんなこといきなり言われても返事に困ります。

 もちろん私にだって憧れる人はいます。友だちとも色んな話を
します。
 ハンサムで、背が高くて、優しくて、英語が話せて……でも、
中学生の私にとってそれは具体的な誰かを指すのではなく、まだ
まだ、少女マンガに出てくる『彼』でしかありませんでした。

 そして何より、そんなことはお父さんには話したくないことだ
ったのです。

 そこで、私は逆にこんな事を言います。
 「私……お父さんの跡を継いで社長さんやってみたい」

 それは、お父さんのそばにずっといたいという意味程度だった
んですが……

 「(ははは)嬉しいけどね、お前には無理だ」
 あっさり、言われてしまいました。

 あまりにもあっさり言われてしまいましたから、ちょっとムッ
として……
 「どうしてよ。世の中には女性の社長だってたくさんいるのよ」

 「(ははは)そりゃあ、そうだけど……うちは『鍛冶屋』だ。
アパレルや雑誌社ならそうした道もあるだろうが、うちで働いて
いるは大半が男性。女の子が切り盛りできる商売じゃないんだよ」

 「ケチっ」

 「ケチで言ってるんじゃないよ。人はそれぞに向いた道がある
というだけのことさ。女の子は社会で片意地張って生きるより、
いい旦那さんにめぐり合って、子どもをつくり、その子と一緒に
愛し愛されて暮らすのが一番だ」

 「う~~~~ふる~~~~い。今どきそんなの流行らないよ」
 私は両手で胸を抱いて寒~~~いという仕草をみせます。

 「流行る流行らないの問題じゃないよ。人はそれぞれにあった
生き方をしないと幸せにはなれないってことさ」

 「だったら、いいよ。私は別の会社に勤めて、そこで社長さん
になるから……」

 「おやおや、随分勇ましいこと言ってくれるじゃないか。……
そんなにお嫁さんじゃいやなのか?」

 「だって、お母さん見てると、まるでお父さんの召使いみたい
なんだもん。あんなの嫌よ」

 「そうか、お母さん、そんなこと言ってたのか?」

 「そういうわけじゃないけど……私だって、男の子に負けない
くらい学校の成績いいんだから……できないはずないわ」

 「学校の成績ねえ……」
 お父さんは少し小馬鹿にしたしたような含み笑いを見せたあと
……
 「うちにも学校の成績が優秀だから雇ってくださいって推薦状
を持って毎年大勢の人がやってくるけど……そいつは、社会人と
しての優秀さにはあまり関係ないみたいだな」

 「なんだ、勉強なんてしなくてもいいんだ」

 「そうじゃないさ。ま、いいだろう、こんな話をおまえにする
のは少し早かったみたいだ。とにかく、今、おまえがやらなきゃ
ならないのは勉強。グレードの高い婿さんと幸せに暮らす為にも、
話し相手にもならんようなじゃじゃ馬や山猿じゃ、向こうも逃げ
出すよ。教養は何より大事だ」

 「私の結婚する人って、そんなふうに立派な人じゃなきゃいけ
ないの?」
 私はそれまでお父さんの求めに何でも応じてきたのに、この時
はちょっと変でした。

 「お前のお婿さんになる人は私の会社を継げる人でなきゃいけ
ないんだよ。跡継ぎがいなければ、会社はよその人の手に渡って
しまうからね。それではご先祖に申し訳ないから避けたいんだ。
……それがいけないかい?」

 「…………」
 私は何も答えませんでしたが、お父さんは私の気持がわかった
みたいで……自ら話題を変えます。

 「そうだ、ケイト先生が、この一週間のおまえの成績を取りに
行ってくださいっておっしゃってたから……まずは、管理棟まで
行ってみるか」

 お父さんの言葉は、私に新たな警戒心を抱かせます。せっかく
伸ばしかけていた羽根がまた引っ込んでしまいます。
 『やっぱり、お仕置きってことなの?』
 ここへ連れて来られてからというもの、私の頭からはお仕置き
という言葉が離れませんでした。


 管理棟は背の低い建物が多いこの施設の中では一番大きなビル。
7階のラウンジからは食事をしながら施設全体を一望することが
できました。

 その一階にある窓口でお父さんは私の成績表を受け取ります。

 「何て書いてあるの?」
 無表情で成績表を見ているお父さんの脇からそっと顔をのぞか
せると……

 「達成率95%。とてもよく頑張っておられます。これからも
この調子でお続けくださいだってさ」
 まずは嬉しいニュースが舞い込みます。

 でも、それには続きがありました。
 「ただし、達成できなった5%については、1%1回として、
ご父兄の手でお尻を叩いて励ましてあげてください……か……」

 この時、お父さん顔が笑っていましたから……私は……
 「嘘よ!そんなの。そんなこと書いてあるはずないじゃない」
 そう言って、お父さんが見ているレポートを奪い取ったのです。

 ところが、私の笑顔はそれを読んだ瞬間終わってしまいます。

 「…………」
 それって、冗談でも何でもなく、お父さんが読んだそのまま、
そこに書いてあったのでした。

 「どうやら、あと5回、私はお前の尻を叩かなければならない
らしいな」
 お父さんのニヒルな笑いは私の身体を再び凍りつかせます。

 おまけに、窓口の人までが……
 「お尻叩きでしたら、映画館がありますよ。ここの映画館は、
全部個室でから、お尻叩きにみなさんよくご利用されます」

 余計な情報まで教えてくれるのでした。

 このビルは、『管理棟』というくらいですから、もちろん事務
処理のための窓口が並んでいましたが、ビルの中はそれだけでは
ありませんでした。
 その他にも、映画館やゲームセンター、ボウリング場、カフェ、
コンビニなどが一緒に併設されていました。ですから付き添いの
家族たちもここをよく利用していましたし、私たちにとっては、
アミューズメントタウンとしての意識が高い場所だったのです。

 というわけで……
 「じゃあ、せっかくだから映画でも観て帰るか……」
 ということになったのでした。

 ただ、この場合、私の心は複雑です。
 『え~~~~』
 という気持も当然ありましたが、仕方がありませんでした。

 ただ映画館といっても、ここは街の映画館とは造りが違います。
 入口で入場料を払うと、部屋の鍵を渡され、指定された部屋に
に入って映画を観るシステムです。
 この映画館にはそうした8畳ほどの広さの個室が七つ八つあり
ました。

 いずれの部屋も独立していて厚い壁で区切られていますから、
ここなら、どんなに厳しくお尻を叩いてもお尻を叩く音や悲鳴が
外に漏れるのを心配する必要ないのかもしれません。

 私は、部屋に入ってさっさとソファに腰を下ろしたお父さんを
入口付近で恨めしそうに見ていました。

 「なんだ、毎日、散々お尻を叩かれてるくせに、まだ恐いのか」
 お父さんは笑います。
 でも、お父さんは恐い。やっぱり恐いものは恐いのでした。

 「いいから、おいで」
 再度促されて、ようやくお父さんの近くへ寄ってきます。
 これって幼稚園の時も、小学校の時も、そして中学生になった
今も変わらない儀式みたいなものでした。

 お父さんはお膝を叩きます。
 私は仕方なくそこへうつ伏せになると……

 「(はははは)ちょっと待ちなさい」
 今回はそう言って私をいったん立たせ、あらためて私のお尻を
膝の上に乗せ、私はお父さんと同じ方向を向いて座ります。

 「美香、この映画館なあ、映画を観る時に、おまけがついてる
みたいだぞ。……ほら」
 お父さんは目の前のしらっちゃけた画面を指差します。

 「おまけって?」
 その時、私はこのおまけが何のことだかわかりませんでした。

 ほどなく、室内が暗くなり映像が鮮明に見えてきます。

 ちなみにこの映画館、機械の操作は観客にまかされていました。
鍵を回し、セレクトボタンを押して、自分のみたい映画を観ます。
ただ、その中には、観客にとっては二度と見たくない映画という
のも含まれていました。

 『新井美香ちゃんの成長記録』

 『えっ~~~~~』
 タイトルバックにいきなり私の名前。
 それで驚いていると、さらに……

 『ん?……これって……どこかで見たような?……』

 『えっ!!!、これ!これ!これ!』
 私の身体が震えます。

 「止めてよ!止めて!」

 だってそれは、先日、ケイト先生からお尻を叩かれている時の
映像だったのです。
 数学の先生から「今日は少し集中が足りなかったみたいだね」
なんて言われた直後です。例によって休憩時間に裸のお尻を二十
四回も叩かれた時の映像でした。

 『いったい、どこで撮ってたのよ!』
 慌てた私は後ろを振り返ろうとしましたが、そんなことは百も
承知のお父さんが私の身体をしっかり押さえ込んで動かないよう
にしています。

 「やめて、止めてよ。こんなの恥ずかしすぎるわよ」
 私は叫び、身体をよじって抵抗します。
 ですが、その願いは叶えられませんでした。

 「いいから見てなさい」
 お父さんは、もう私を離しません。
 中学生にもなればもう少し抵抗できると思ったのですが、これ
もまた小学校時代と同じでした。

 「いいから、静かに見てなさい。自分の恥ずかしい姿を見るの
も、お仕置きだよ」
 こう言われてしまいます。

 そして、それは……
 朝の儀式の場面も克明に記録していました。
 お浣腸の場面も、オムツを穿かされる場面も、お漏らしも……
とにかく恥ずかしすぎて私は目を開けていられませんでしたが、
お父さんにはそれも不満なようで、目をつぶるたびに怒られます。

 「ほら、目を背けるんじゃない。自分のことだろうが、自分が
しでかしたことだうが……」
 お父さんはこう言ってイヤというほど太股を抓っては私を起こ
すのでした。

 「イヤっ!!!」
 これって、もう拷問でした。
 ですから、泣き出してしまいます。

 『自分の醜い部分は見せたくない、隠してしまいたい』
 女の子の大切な思いが踏みにじられて、そりゃあもう私の心は
パニックだったのです。

 そんな私を力ずくで押さえつけたまま、お父さんは耳元でこう
囁くのでした。

 「いいかい美香、美香は女の子だから綺麗なものだけ見て暮ら
したいんだろうけど……でも、世の中それだけではいけないんだ。
現実を直視する勇気がないと、女の子もやがては不幸になるから
ね。自分の醜い姿も勇気をもって見つめるんだ。……いいね」

 「これって、お仕置きなの?」

 「女の子に不足しがちな勇気を持つ大事な訓練だ。……でも、
そう考えたければ、それでもいいよ」

 「なんだ?おまえ、震えてるのか?……大丈夫だよ、怯えなく
ても……私がしっかり抱いててあげるから……それに、これは私
たち家族だけが見ることのできるプライベートフィルムだ。この
ことを知ってるのは私たち家族とケイト先生だけ。外には決して
漏れないからね。そこは安心していいんだよ。………だからね、
たとえ辛くても、目をそらさずにちゃんと見るんだ。……いいね」

 お父さんに励まされながら、私はその15分ほどの映画を観る
ことに……

 最初は、醜い隠したい場面の連続で目を覆ってばかりでしたが、
でもそのうち身体の力が少しずつ抜けていき、やがてどんな場面
も目をそらさず見る事ができるようになっていました。

 そして、その最後には不思議な感情が芽生えるのでした。

 映像はほとんどが私のお仕置き場面。汚くて、惨めで、悲劇的
……私にとっては何一つ晴れがましいところや自慢できるところ
なんかなかったはずなのに……でも、家族がケイト先生が、私の
ために献身的にお仕置きしている姿がそこに映っているんです。
それってお仕置きされてる最中はわからなくても、こうして映画
になって客観的に観るとよくわかります。

 ですから、最後にはこう思ったのでした。
 『私って、愛されてたんだ』
 と……

****** 見沼教育ビレッジ (13) ******

****** 見沼教育ビレッジ (14) ******


 お父さんのお膝の上で観た私の映画は、そりゃあほろ苦かった
けど、最後には思わず笑ってしまいました。

 どうして笑ったかというと……
 『へえ~~私のアソコってあんなになってたんだ』
 って分かったのがおかしかったのです。

 男の子は性器が見える処にあって普段見慣れてるでしょうけど、
女の子は努力しないとあそこは見ません。痒みがあったり、血が
出たりすれば、そりゃあ見ますけど……部屋に鍵を掛け、大胆な
ポーズをとって、鏡に映して……普段そんな努力はしないのです。

 『ばっちいものは、見ずにすむならあえて見ない』というのが
女の子のポリシーでした。

 ですから、アソコの事は意外と本人も知らないのです。

 それを図らずも目の当たりにして、笑ってしまったのでした。

 「何だ?何がおかしい?」
 お父さんは私に不思議そうに尋ねますが……

 「何でもないわ」
 私が本当のことを口にするはずかありませんでした。


 「さてと、映画は何を見るかな……」
 お父さんの前に5つのボタンがありました。
 そのどれにも映画のポスターが小さく縮尺版になって貼り付け
てありました。

 「美香、あまえはどれがいい?」
 お父さんは私に選ばせようとします。

 そこで、そのポスターを一通り眺めてから……
 「『ベニスに死す』なんていいんじゃないかな。この子、綺麗
だし……」
 と、望みを言ったんですが……

 「だめだ、だめだ、こんな退廃的な映画は……子供の観るもん
じゃないよ」
 あっさり否定されてしまいます。

 そして……
 「『屋根の上のヴァイオリン弾き』なんていいんじゃないのか?」
 と薦めてきますから、今度は私が……

 「嫌よ、こんな暗い映画、もっと明るいのがいいわ」

 「だったら、ちょっと古いが『俺たちに明日はない』ってのも
あるぞ。……西部劇だ」

 「だってあれ、銀行強盗の話でしょう……人が死ぬお話は嫌い
なの……それに、あれ大人の話よね」
 私は、最初の『ベニスに死す』を否定されたことで少しむくれ
ていました。

 そこで、その妥協案として選んだのが……
 「これなんか、いいんじゃない。『小さな恋のメロディ』……
男の子が可愛いわ」

 「まあ、いいだろう」
 お父さんはあまり乗り気ではなかったみたいですが、承知して
くれます。

 一方、私の方もこの時この映画のことはよく知りませんでした。
 ポスターのマークレスターが可愛かった。
 選んだ理由は、ただ、それだけのだったのです。

 「あ~、ビールとつまみ。ハイネケンあるか?……ならそれと
つまみはピーナッツでいいよ。………美香、おまえはどうする?」
 お父さんが内線電話でルームサービスに注文を出します。

 「私は、オレンジジュースとポップコーンでいいわ」
 私はオットマンに足を投げ出して答えました。

 ささやかですけど、これでやっと避暑地気分です。

 注文の品が部屋に届いてから、お父さんは映画のボタンを押し
ます。
 すると、開演のブザーが鳴り、辺りが暗くなります。
 映写機が回り始めました。

 スクリーンは小さめですが二人だけの貸切映画館は誰に気兼ね
もいりません。
 注文したオヤツをつまみながら……もし、観ている映画がつま
らなければ、毛布を掛けてそのままソファで寝てしまえばいいの
ですから……

 私は、当初、この映画にあまり興味がわきませんでしたから、
そうするつもりでした。
 お父さんに肩を借り、寄り添ってお昼寝するだけでもよかった
のです。

 ところが、私はその映画を最後まで見続けます。

 『飾り気はないけど、どこまでも美しいイギリスの景色と透き
通るような男性ハーモニーのBGM。……英国の子どもたちって、
こんなにも素敵な学園生活を送ってるんだ。私もトレシーハイド
になりたい。好きな人と一緒にあのトロッコに乗って未来を目指
したい……』

 映画を観たことのない人には、何を言っているか分からないで
しょうけど、とにかく大感動したのでした。

 もっとも、お父さんはというと……
 「まったく呆れた映画だ。どこの世界に、11歳のガキが結婚
なんか考える。おまえが11の時は、まだ、私の膝で甘えられる
だけ甘えてたぞ。……でも、それがまともな子供の姿だ」
 
 お父さんにはこの映画を理解することはできないようでした。

 でも、私の11歳も、ただお父さんの膝で甘えていたわけでは
ありませんでした。
 それって、むしろ『お付き合い』という気持の方が強くて……
何でも「お父さん」「お母さん」ではありませんでした。

 実ることはなくても淡い恋心はすでにありましたから、ダニー
とメロディの世界はまったくのおとぎ話ではなかったのです。

 そんな蒸気した顔の私を見て、お父さんは私を抱き寄せます。
 顔と顔が出会い、その口からは先ほどのビールの臭いがします。

 「いやあ」
 私はそのお酒の臭いでお父さんをいったんは拒絶しますが……

 「忘れたのかい?まだ、五回、私からのお尻叩きが残ってるよ」

 こう言われると私は再びそこへ戻らなければなりません。
 そう、私はまだ14歳。彼らからみたらお姉さんのはずですが、
それでもお父さんやお母さん、大人たちが決めたルールのなかで
生きていかなければなりませんでした。

 『あ~、私はいつあのトロッコに乗れるんだろう』

 私はそう思ってお父さんのお膝に身体を沈めます。
すると、今度はお父さんが……

 「こうして、おまえのお尻をいつまで叩けるかな」

 お父さんはそう言いながら、私のスカートを上げ、ショーツを
下げます。
 さすがに、人前でこの姿を晒すことはなくなりましたが、お父
さんにとってお尻叩きはいまだ現役。熱く厳しいお父さんの平手
の下で、私はまだまだお父さんの子どもを演じなければならない
のでした。

 「ピシッ」
 「いやあ~」
 「何がいやあ~だ。こんな大きなお尻を叩かなきゃいけない私
の方がもっと嫌だ。ほら、ここは家の中じゃないんだ、こんな処
で足を開かない」

 私が慌てて、両足を閉じますと……
 「ピシッ」
 「いやあ~」
 再び、両足をバタつかせなければならないほど痛いのがやって
きます。
 
 「少し口をつつしめ。いくら防音装置のある部屋でもそれじゃ
外の人に聞こえるぞ」
 お父さんはそう言って、もう一つ……

 「ピシッ」
 「ひぃ~~~勘弁して~~」
 本音が出ます。だって、この時のお尻叩きはとっても痛かった
のです。一発一発がこんな痛い平手は初めてでした。

 「どうだ、少しはこたえたか?……おまえは今までのお仕置き
が私の目一杯だと思っていたのかもしれないが、こっちはこっち
で、気を使って緩めてたんだぞ。わかったか?」

 「はい、お父さん」

 「よ~~し、もうひとふんばりだ。しっかりつかまってなさい。
……ほれ」

 「ピシッ」
 「いや~~~~~」
 私は無意識に太股を開いてバタつかせます。
 そんな様子はまたビデオに撮られてしまうかもしれませんが、
こんなキツイお仕置きのもとでは、そんなこと言っていられませ
んでした。

 私はもう必死にお父さんのお膝を握りしめます。
 きっと、お父さんの太股にはくっきりと痣が残っているに違い
ありません。でも、それも仕方のないことでした。

 「『痣のつくほど抓っておくれ、それを惚気の種にする』か、
昔の人はいいことを言うなあ……」
 お父さんは、にが笑いを浮かべると、意味不明の独り言を言い
ます。そして、それが終わってから、最後の一発が炸裂したので
した。

 「ピシッ」
 「ひ~~死ぬ~~~」

 「大仰なこと言いなさんな。いまだお尻叩きで死んだ子なんて
いないよ。……さあ、終わったよ」
 お父さんは私を立たせ、身なりを整えさせます。

 そして、こう言うのでした。

 「私は、これから仕事に戻らなきゃならないので、美香とは、
ここでお別れだ。これからはお母さんやケイト先生の言いつけを
守って、頑張るんだぞ」

 「もう行っちゃうの?」
 私は急に寂しくなりました。

 「大丈夫、お母さんは残るから……」

 「でも……」
 人間なんて勝手なものです。
 つい先ほどまで、甘いアバンチュールを想い描いていたのに、
いざ別れるとなると、心が思いっきり子供に戻ってしまいます。

 「最後に、お前のお尻を思いっきり叩けてよかったよ」

 「もう、お父さんたら、嫌なことばかり言うんだから……」

 「そのうちお前にも分かるだろうがな。お尻なんてものは叩く
より叩かれてる時代の方が幸せなんだよ」

 「まさかあ~~。そんなわけないじゃない」

 私はその場で痛むお尻をさすりながら笑いましたが……でも、
時を経て気づいたのです。『お尻を叩かれる子は愛されてる子』
なんだと……

 お父さんの言う通りでした。
 でも、いつかは私もお父さんの元を離れて独りで羽ばたかなけ
ればなりません。そう、ダニーとメロディのように……二人して、
トロッコを全力で押して未来へ向かわなければならないのでした。


****** 見沼教育ビレッジ (14) ******

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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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