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見沼教育ビレッジ / 第1章 / §11~§12

****** 見沼教育ビレッジ (11) ******


 『今、自分の腰のあたりがスースーするけど、きっと、私……
風邪ひいてるんだわ』

 馬鹿げてると思うでしょうけど、それしか自分の心を納得させ
られなかったのです。

 もちろん、お父さんとお母さんが私の為に仕事をしている事は
知っています。
 でも、それを認めるわけにはいきませんでした。
 だって、それを認めてしまったら、私はもう二度と誰とも顔を
合せられないような気がして怖かったのです。

 ですから、薄情者の妹が……
 「わあ~~お姉ちゃん、ばっちい」
 なんて叫んでも、それを受け入れることは出来なかったのです。

 『………………………………………………………………』

 オムツ替えに掛かった時間はおそらく1、2分でしょう。
 でも、その時間は、私には30分にも1時間にも感じられる程
長いものでした。

 「終わったよ」
 お父さんが枕元にやって来て声を掛けますが、お母さんはまだ
汚物を片付けていました。
 私はお父さんの笑顔にも顔を反対側に向けます。

 でも、そこにも妹の香織の顔があって……
 「よかった、私はお浣腸しなくてもいいんだって……」
 小憎らしい笑顔で私の顔を覗き込みます。

 何もない時だったらきっと首を締め上げていたと思います。

 行き場のなくなった私はしかたなく正面を向いて目を閉じます。
 すると、私の下半身にはしっかりオムツがはめられているのが
わかりました。

 「このオムツ、ずっとしてなきゃいけないの?」
 私は目を開けましたが、その時涙がこぼれました。

 「大丈夫だよ。お勉強の時は涼しい格好になるみたいだから」
 お父さんはやさしく教えてくれたのですが……

 香織はのしかかるようにして私の顔を見つめると……
 「お姉ちゃん、大丈夫だよ。すぐ取ってくれるよ。……だって、
これから痛~~い鞭を六回も受けるんだもの。オムツなんてして
たら痛くなくなるもの。絶対はずしてくれるよ」
 妹はそう言って笑います。

 天使のような笑顔。でも、そのお腹の中は、明らかにこれから
起こる私の受難が嬉しくて仕方がないといった様子でした。

 「悪魔」
 私が香織の顔めがけて吐き捨てると……彼女はさらに甲高い声
で笑います。

 『そうか、そうだったわね』

 でも、私は香織のおかげで朝の儀式のことを思い出しました。
 そうなんです。朝の儀式はまだ終わっていないのです。お浣腸
だけでホッとしてはいられませんでした。

 「あら、何なの?……何だか楽しそうね」
 噂をすれば…ということでしょうか、ケイト先生がお父さんの
背中から顔を出します。

 「美香さん。せっかくお母様から穿かせていただいたオムツだ
けど……これ、いったん脱がすわね。……あなたには、これから、
先学期の反省をして、鞭を受けてもらうことになってるの。……
そのことは説明したから覚えてるでしょう」

 ケイト先生は、そう言いながら私のオムツを脱がそうとします
から……
 「あっ、いいです。私、自分で脱ぎますから……」

 さきほどのお浣腸で度胸がついたのか、私、自ら申し出たので
した。ところが……

 「あっ、それは結構よ。せっかくのご好意だけど、こういう事
はあなたが自分でしちゃいけないことになってるの」

 「どうしてですか?」

 「だって、あなたは、今、赤ちゃんですもの。自分で着替えは
おかしいでしょう」

 「……」

 「それにね、赤ちゃんのお仕置きは、何より辱めが大事なの。
……恥ずかしいと思う気持をあなたが持つことがお仕置きなのよ。
オムツ替えも自分でやるより誰かにしてもらった方が恥ずかしい
でしょう。だから、脱がすのも私がやってあげるの。わかった?」

 「…………」
 私は何も答えませんでした。
 何も言えず、ただ裸の私を見つめるだけだったのです。

 「いらっしゃい」
 ケイト先生の優しい言葉に導かれ、ベッドを降りて鞭打ち台へ
と向かいます。

 鞭打ち台といっても、そこにあるのはサイドテーブルに腰枕を
乗せただけの簡素なものでしたが、今回はそれで十分でした。

 私が腰枕の上にお臍を乗せてうつ伏せになると、お尻が『どう
ぞお願いします』とばかりに浮き上がります。それは鞭を振るう
人がお尻を調教するのにちょうどいい位置でした。

 「足を開いて……」
そう言われましたから足を開きましたが……

 「もっと、広げなさい」
 と言われます。そこで、もっと開いたのですが……

 「さあ、恥ずかしがってないで、もっと一杯に開くの。もう、
ご両親の前ですべて見せちゃってるんだから今さら恥ずかしがる
ことなんてないでしょう……」
 先生はとうとう私の太股に両手を入れて力ずくでこじ開けます。

 私はべつに抵抗するつもりはなかったのですが、お浣腸の時と
同じで本能的に自分を守ってしまうみたいでした。

 「…………」
 お股の中に風がスースー入り込むなか、私は硬質ゴムでてきた
パドルの衝撃に耐えようとしてぶたれる前から身体が熱くなり
ます。
 こんな時はたとえ素っ裸でも寒さを感じている余裕がありませ
んでした。

 「懺悔の言葉はあなたの目の前に張ってある紙を読みなさい。
一発目って書いてあるところには何て書いてあるかしら?」

 ケイト先生の指示で、私は初めて自分がうつ伏せなった机の上
にそんな張り紙がしてあることを知ります。

 「私は悪い子でした。こんな悪い子にどうかきついお仕置きを
お願いします」

 「そう、それよ。でも、もっと大きな声を出して読むの」

 「…………」
 私はその瞬間、恥ずかしくなって声が出ませんでした。
 というのは、これは小学生の時には家庭や学校で散々やらされ
てましたから……中学生になった今は、もう卒業できたと思って
いたのです。
 それを香織の見ているこの場所で今さら……という思いが頭を
よぎったのでした。

 「どうしたの?嫌なの?……嫌なら、他のお仕置きに切り替え
ましょうか?……お灸でもいいのよ。そっちにする?」

 ケイト先生に脅かされて、私は勇気を振り絞ります。

 「私は悪い子でした。こんな悪い子にどうかきついお仕置きを
お願いします」

 私はもう半分以上やけで大声を出します。

 すると、ケイト先生の声がして……
 「では、お願いします」
 私は小さな声を聞いたのでした。

 『何のことだろう?』
 私にふとした疑問がわきます。
 でも、答えはすぐに出ました。

 「美香、歯を喰いしばりなさい。息を止めて、しっかり頑張る
んだよ」

 『えっ?私の腰に乗せた手はお父さん?』

 「ピシッ~~~」
 ろくに考える暇もなく強烈な一撃が私のお尻に炸裂します。
 それって、私の心と身体をバラバラにするのに十分でした。

 男性と女性では同じパドルでぶたれても痛みの質が違います。
 その時の痛みは、振り返らなくても間違いなくお父さんだった
のです。

 「だめ、お父さんだめえ~、しないでそんなことしないで……
お願い、ごめんなさいするから、お父さんやめて~、お願~い」

 恥も外聞もなく私は後ろを振り向いて鞭を握るお父さんに泣き
つきます。

 それって、理屈じゃありませんでした。
 ケイト先生の鞭だと思っていたのが肩透かしを食らったという
のはあるかもしれませんが、私にとっては幼児体験が全てでした。

 もちろん、お父さんから年から年中叩かれていたわけではあり
ません。我が家では、何かあっても私をぶつのは大抵お母さんで
した。お父さんが私を叩くことなんて一年に一回くらいしかあり
ません。
 でも、たとえレアなケースであっても、その強烈な思い出は、
今でも私の心の奥底に刻まれ続けています。

 『お父さんの顔は恐い。お父さんのお尻ペンペンは痛い。鞭は
もっともっと痛い。あの時お父さんは私を納屋の中に放り投げて
閉じ込めた』

 幼い日に経験した恐怖が、こんなに身体が大きくなった今でも
私を必要以上に震え上がらせ取り乱させるのでした。

 「ほら、ごめんなさい、ごめんなさい言ってないで、さっさと
二発目の項目を読みなさい。お仕置きの鞭がいつまでも終わりま
せんよ」
 お母さんが恐い人にはどうしなければならないかを脇から教え
てくれます。

 「もう一度良い子に戻れますように、厳しい鞭をお願いします」

 「そうだな、良い子に戻ってもらわないと、何より私が困る」
 お父さんはそう言って鼻息を一つ。それがうつ伏せになった私
にも伝わったのでした。
 そして、再び……

 「ピシッ~~」

 「いやあ~~ごめんなさい。もう、ぶたないで、いい子になり
ます。約束します。ごめんなさい。ごめんなさい」

 信じられないことですが、お父さんにぶたれる時、私の対応は
幼児の頃とほとんど変わりがありませんでした。
 中学生のプライドなんて、お父さんの前では軽~く吹っ飛んで
しまうのです。

 「さあ、三発目を読んで……」
 お父さんの声が恐いのです。

 「どんな…(はっはっはっ)…辛いお仕置きにも…(はっはっ
はっ)…耐えますから、もう一度、…(はっ)…良い子に………
良い子に……(はっ)……してください」
 私は反省の言葉は途切れ途切れ、嗚咽が止まりません。

 「ほらほら、いくら女の子でもそんなにぴーぴー泣いてばかり
じゃちっとも反省してることにならないぞ。少しぐらい痛くても
ぐっと我慢して耐えなきゃ。……ほら、もっとしっかりせんか」
 私はどんどん追い込まれていきます。

 「はい……」
 私は真面目に真面目にお仕置きを受けているのに、お父さんに
謝らなければならないのでした。

 「さあ、しっかり、歯を喰いしばって……こんな時は何も考え
ないことよ」
 お母さんが脇で励まします。

 「ピシッ~~~」
 三発目はお尻も暖まってきて、特に痛かったです。

 ひと際甲高い音がして、身体が机ごと前に持っていかれそうに
なります。その衝撃は、お尻だけじゃありません。頭の天辺まで
届きました。

 「かわいそう」
 香織の独り言が聞こえました。

 「じゃあ、あとの三つは…母さんに頼もうか」
 お父さんが突然パドルをお母さんに渡します。

 それは、事情はともあれホッとした瞬間でした。

 「私は誓います。絶対に悪い子にはなりません。お父様お母様
のどんなお言いつけも守ります」

 現金なもので、パドルがお母さんに渡ったとたん反省の言葉が
すらすら言えるようになります。

 「ピシッ~~」

 「(ひぃ~~~)」
 ぶたれた瞬間、私は机を両手で握りしめます。もちろんお尻は
ヒリヒリしています。
 お母さんだから優しいってことじゃ決してありません。
 でも、私はこの痛みに慣れていましたから、正直、お父さんの
鞭より、はるかに楽だったのです。

 「ほら、頑張れ、頑張れ、あと二つだぞ」
 いつの間にかお父さんが中腰になって私と視線を合せています。
 お父さんは私をあやすように笑っていました。
 いつもの優しいお父さんがそこにはいたのでした。

 恐いお父さんと優しいお父さん、それはどちらも私がよく知る
お父さんだったのです。

 「さあ、五発目を読んで……」
 今度はお父さんが私を励ます番です。

 「もし、それでもまた悪い子に戻ったら、もっともっとキツイ
恥ずかしいお仕置きをたくさんたくさんお願いします」

 私は早口ですらすらっと読んでしまいました。
 すると、それはそれで……

 「もっと丁寧に……心をこめて読むの」
 お母さんのお小言です。

 「ピシッ~」
 
 「ひぃ~~」
 お母さんの鞭は甲高い乾いた音がします。ぶたれた直後はお尻
の表面がヒリヒリして、そりゃあ痛いですから、思わず悲鳴を上
げてしまいますが、お母さんのお鞭はお尻のお肉にはあまり影響
を与えませんから、その痛みが長く続くことはありませんでした。

 「これからお勉強頑張ります。もし怠けていたら、夜にはまた
キツイお仕置きで励ましてください」

 「ピシッ~」

 最後の一発が届いた瞬間、私は悲鳴を忘れ安堵の顔をしました。
 それは、お母さんも見ていたみたいで……

 「あら、最後は効いてないみたいね。……だったら、もう一つ」

 「ピシッ~」
 とんでもないのが最後におまけでやってきます。

 「ひぃ~~」
 前の悲鳴がお芝居というわけではありませんが、これは本当の
心の声。最後の衝撃は目を白黒させ地団太を踏むほどの衝撃だっ
たのでした。

 「いつも言ってるでしょう。女の子はお仕置きを受けてる時は
いつも申し訳ないって気持でいなきゃ。やれやれ、なんて気持を
外に出しちゃいけないの。わかってる?」

 私はキツイおまけの一撃とお小言をもらってようやくお母さん
のパドルから開放されたのでした。

 『やれ、やれ、』
 今度は本当にやれやれです。

 でも、これで朝の儀式がすべて終わりたわけではありませんで
した。
 ほっとしていた私の耳に、まだ鞭打ち台にうつ伏せで張り付い
ていた私の耳に、ケイト先生が……

 「美香ちゃん、ご苦労様、起きていいわよ。……それじゃあ、
あとはお父様からお尻にお薬を塗っていただきましょう」

 こんな言葉を聞いたものですから……
 「えっ、お父さんにまた、見せるの」
 私の口は忘れっぽくて、思わず本音をポロリとさせてしまうの
でした。

 「あら、お父様はお嫌い?」

 「いえ、……そういうわけじゃあ……」

 「忘れたの?今のあなたは、『いいえ』を言えない子なのよ」

 「…………それはわかってますけど……」

 「わかってますけど、何なの?『恥ずかしいからそれは嫌です』
なのかしら?……でも、赤ちゃんの立場にあるあなたに、それは
言えないお約束よ」

 「………………(!)」
 泡を食った私は頭の中で、何とか反論を、口実をと探しました
が、結局、生唾を一口飲み込むことしかできませんでした。

 「今のあなたは、『パンツを脱ぎなさい!』と命じられたら、
脱がなきゃならないし、『お股を広げなさい!』と言われたら、
やらなきゃならないの。もちろん、穏やかに話して従ってくれる
なら何もしないけど、わがままを言うようだと、お隣のお嬢さん
みたいに、枷を首に捲きつけて大恥かきにお隣へ飛び込むことに
なるわ。あなたは頭のよさそうな子だから、そのあたりの理屈は
わかるわよね」

 「はい、先生」
 私は伏し目がちにうな垂れます。

 「わかったのなら、お父様のお膝にいらっしゃい。……お薬を
塗っていただきましょう。そのあと、オムツも着けていただいて
……それから、朝のお食事……分かりましたか?」

 「はい、先生」

 「よろしい。良いご返事ですよ。良い子はいつでもそんなふう
に素直でなくちゃいけないわ」
 ケイト先生は素っ裸の私を抱きしめます。そして、こう続ける
のでした。

 「あなたのように、今でもご両親から愛されてる子は、人生に
つまづいたら、まずはすべてを脱ぎ捨てて、その愛の中に戻って
みるのが再生の近道よ。その勇気があなたに幸せをもたらすの。
今はこの世の中で唯一あなたを愛してくれる人たちの前だもの。
どこをどう見られたっていいじゃない」

 「……はい」
 私の声は囁くように小さいものでしたが、ケイト先生の言葉が
何となくわかるような気もするのでした。

 「逆に言うとね、私のどこをどう見られたって構わないと思え
るお相手を見つけられるかどうが女の子の幸せの鍵なの。……今、
それはお外にはいないわ。家の中にいらっしゃるでしょう」

 ケイト先生はそう言って私を回れ右させると、すでにソファに
腰を下ろしているお父さんの元へ私の肩と背中を押したのでした。


****** 見沼教育ビレッジ (11) ******

****** 見沼教育ビレッジ (12) ******


 「覚悟を決めたか?……どうやら、お前も少~~しだけ大人に
なったみたいだな」
 お父さんは最初厳しい顔でそう言います。

 『覚悟って何よ!……こんな状況じゃ仕方がないじゃない……
私は私、何も変わってないわ』
 言われた私はそう思っていました。

 でも、お父さんには私の心持が最初の頃とは幾らか違ってきた
のがわかるみたいで、顔は厳しくても嬉しそうにしている様子が
こちらへと伝わってきます。

 ただ……
 『何がどう違うって言うのかしら?』
 幼い私にその具体的な中身まではわかりませんでした。

 お尻ペンペンの姿勢でお薬を塗られ、ベッドに仰向けらされて
オムツを穿かされます。
 友だちに見られたら自殺だってしかねないくらい哀れな姿です。

 当然……
 『こんな屈辱の時間、早く過ぎ去ればいいのに……』
 とそればかり思っていました。

 ただ、最初の頃と違いがあるとすれば、それはまわりの景色が
よく見えるようになったということでしょうか。
 お父さんがやっているたどたどしいオムツ替えの手つきやお母
さんとケイト先生の何気ない会話。香織の手持ち無沙汰な様子迄、
その時は冷静に観察できるようになっていたのでした。

 「要するに諦めただけよ」
 私は誰に聞かせるわけでもなく、ぼそぼそっと小さな声で独り
言を言います。

 すると、それにお父さんが反応しました。
 「だから、『お前も大人になったなあ』と言っているんだ」

 「諦めることが?」

 「そうだ、……それも一つだな」

 「どういうことよ」

 「お前はさっきまで自分のわがままや欲望だけを連呼していて、
それが受け入れられないと心を閉じていた。でも、今は、自分が
置かれている状況を冷静に観察しようとしている。こうなると、
『自分の欲望は一旦脇に置いてとりあえずは諦める』という選択
だって出てくる」

 「だって、諦めたらどのみち負けじゃない」

 「そうじゃないよ。相手のことを冷静に観察したうえで諦める
のは、何も逃げる負けるという意味じゃない。むしろ、その先で
よりよい結果を得るための手段なんだ」

 「ふうん」

 「そうしたこと分かればお前も一人前なんだろうがな。まだ、
そこまではいってないようだな。…………ま、いいさ。その方が
こちらも長いこと楽しめるというもんだ」

 お父さんは自分の出来栄えに満足したように笑うと、オムツ姿
の私を抱き上げます。
 いつ以来でしょうか、お姫様だっこなんて……。

 「先生、出来上がりましたよ」
 お父さんは自分の作品を誇らしげに目よりも高く差し上げます。

 「あら、美香ちゃん、お父様に抱っこしてもらったの?」
 「わあ~~よかったわねえ~~」
 お母さんやケイト先生の声に私の体は全身がピンク色に染まり
ました。

 「わあ、いいなあ、お姉ちゃん、私も抱っこされたい」
 妹の香織までもがお父さんの袖を引きます。

 「だめだよ。これは頑張ったおねえちゃんのご褒美なんだから。
お前もお浣腸するかい?」
 お父さんに言われると、香織はもちろん……
 「いやだあ、恥ずかしいもん」
 と、女の子らしく身体をくねらせて照れてみせます。

 「よかったわね、美香ちゃん、その調子よ」
 ケイト先生はお父さんに抱きかかえられた私の顔を覗きこむと、
人差し指で私のほっぺを突っついてあやします。

 ケイト先生だけじゃありません。この時、私を取り囲む全ての
人が私を本当の赤ちゃんを見ているように見つめ、微笑みかける
のでした。

 『まったく、何よ!馬鹿にしないでよ!』
 という気持も一瞬湧きましたが、家族全員が笑っている中では
それもすぐにかき消され、いつしか不思議な気分に……

 「ほ~~ら、高い、高~い」
 お父さんは何度も何度も私の身体を上下させます。
 すると、その度に天井が近くなったり遠くなったりしました。

 『私、赤ちゃんの頃って覚えてないけど、こんなだったのかあ。
このまま寝てしまいたいくらい気持がいいわ』
 私はお父さんの大きな腕の中でまどろみかけます。

 『不思議、痛いお尻がくすぐったくて気持いいなんて……』
 久しぶりに味わうお父さんの抱っこはパドルで叩かれたお尻が
まだ少し痛かったりしますが、それさえも心地よく感じられて、
楽しい思い出になったのでした。


 「さあ、お着替えを済ませたらしたら、顔を洗って食堂へ行き
ましょう。さっきから、いい匂いがしてきたわ」
 ケイト先生の明るい声が響きます。

 着替えと言っても脱ぐものはありません。私、その時はオムツ
しか身につけていませんから、あとは一つずつ服を着ていくだけ。
バンビのプリントされたスリーマーに始まり、袖と襟にレースの
着いた薄いピンクのブラウス。紺のプリーツスカートは膝上15
センチで小学生の妹のものより丈が短いものでした。

 しかし、ここでも私は一人前に扱われません。
 自分で服を着ることができないのです。

 お父さんとお母さんが、寄ってたかって裸の私に下着から身に
つけさせていきます。
 私はそんな甲斐甲斐しく働く二人に手出しすることは許されま
せんでした。

 「いいなあ、お姉ちゃん、お父さんとお母さんに何から何まで
やってもらって……」

 香織は脇で不満そうでしたが、私は……
 『何言ってるの。いつでも代わってあげるわ』
 と思っていました。

 実際、お母さんは、着替えの最中、目が笑っていません。
 考えてみればこのお仕置き、私だけが辛いんじゃありません。
私はお父さんお母さんにも大迷惑をかけているのです。

 ですから、お母さんがちょっとでも不機嫌な顔をすると、私は
申し訳なくて、着替えの最中や身づくろいをする洗面所でも、私
の心は針のむしろに乗ったままだったのです。

 妹はまだ幼いので私の気持なんてまだ分からないみたいで……
本当に代われるものなら代わりたいと思っていました。


 私たち家族は身支度を整えると食堂へ行きます。
 朝の食事の仕度は賄いのおばちゃんがやってくれていましたが、
私はここでも何一つ自由を与えられなかったのです。

 『?』

 私は食堂に入ってすぐ、奇妙な椅子の存在に気づきます。
 それは、サイズこそ大人用の椅子でしたが、形は幼児用の椅子
とそっくりだったのです。

 背もたれのプーさんのイラストはご愛嬌だとしても、その椅子
は前に小さなテーブルがあり、身体が転げ落ちないようにお股を
通したベルトで固定できるようになっています。
 お母さんと一緒に離乳食を食べる乳幼児が座る椅子という感じ
でした。

 『!』
 私は嫌な予感がしましたが……

 「美香ちゃん、いらっしゃい」
 ケイト先生がその椅子を引いて私にここへ座るように促します。

 『やっぱり』
 と、がっかり。どうやら、私の予感はピンポンのようでした。

 私はその椅子に座り、お父さんお母さんがその両脇に座ります。

 「いただきます」

 ケイト先生も交えて、みんなで食卓を囲みましたが、案の定、
私は何もさせてもらえませんでした。
 私に出来たのは、「いただきます」というご挨拶とお父さんや
お母さんがスプーンで口元まで運んできてくれた料理をパクリと
やって、口の中でもぐもぐするだけ。

 もし料理を乗せたスプーンが目の前にやってきたにも関わらず
口を開かず顔を背けると、もうそれだけで食事は中断。

 「いやあ、もうしないでえ~~~ごめんなさい、悪い子でした
いやいや。ごめんなさい、ごめんなさい、もうしないもうしない」

 香織がしかめっ面をする中で、私はオムツを脱がされて涼しく
なったお尻が真っ赤に焼きあがるまでお父さんやお母さんからの
平手打ちを覚悟しなければなりませんでした。

 それだけじゃありません。もし……
 「美味しいかい?」
 と尋ねられたら、満面の笑みで答えるのも、赤ちゃんとしての
私の義務だったのです。


 お浣腸されたうえにオムツにお漏らし。強烈にお尻をぶたれた
あとは、オムツをはめられて朝の食事を無理やり口の中にねじ込
まれる。これほど屈辱的な朝がこれまであったでしょうか。
 私は肉体的も精神的にもフラフラで自分の部屋へ向かったので
した。


 勉強部屋に戻ると、ごく自然に自分のベッドへ倒れこみます。

 「どう?朝の儀式の感想は?」
 それを見たケイト先生がカーテンを開けながら尋ねました。

 「…………」
 でも、私は答えません。答えたくありませんでした。

 「朝の儀式で疲れたのはわかるけど、ここからはもっと大変よ。
何しろお勉強しなきゃいけないんだもの。そのためには……まず、
オムツを外さなくてはね。この温気ですもの、こんな物してたら、
それこそお尻じゅうあせもだらけになっちゃうわ」
 ケイト先生は私が寝そべるベッドに腰を下ろします。

 「こんなこと、明日もあるんですか?」
 私は倒れこんだままの姿勢で、腰を下ろしてきたケイト先生を
薄目を開けて見つめます。

 「残念だけど、明日の朝も同じよ。そして明後日も……」

 ケイト先生は首を横に振りながら答え、私を仰向けにすると、
オムツを外し始めます。
 普通の常識なら、こんな事されたら抵抗するところでしょうが
私もすっかり慣れてしまったのか、この時は声もださず無抵抗で
した。

 「その先もずっとこうなんですね」

 疲れた声泣きそうな声に先生は……
 「疲れちゃったの?……無理もないわ。今日が初日ですもの。
……でも、すぐに慣れるわ。だって、ここにいる子たちはみんな
同じことしてるんですもの。あなただけじゃないから安心して」

 『あなただけじゃない』というのは、女の子には励ましの言葉
なのかもしれません。でも、ケイト先生にそう言われても、私の
心は『はい、そうですか』という顔をできませんでした。

 ですから、目を閉じて先生とは反対の方を向いてしまいます。
 すると、その視線の先には壁に掛かったゴム製のパドルが……

 今さら『あれ、どんな時に使うんですか?』と聞く気にもなり
ませんから、再び先生の方へ向き直ると……先生がちょうど蜀台
を戸棚から出している処でした。

 それは極太のローソクを1本だけ立てるタイプのタイプの物で、
小机の上には予備のローソクまでもがまだ箱に入ったままて準備
されています。

 『明かりなら電気で十分なはずなのにどうして?』

 パドルは今さらですが……こちらの蜀台は気になります。です
から、理由を尋ねてみたくなったのでした。

 「ローソクって必要なんですか?」
 恐る恐る尋ねてみると……

 「ああ、これ?……これは『お目覚まし』よ」

 「お目覚まし?」

 「そう、授業の途中で眠くなった子を起こす時に使うの。……
……火の着いた蝋燭をこうやって……」
 ケイト先生は私の右手を取ると、まだ火のついていない蜀台の
蝋燭をその上で傾けてみせます。

 「……!!!……」

 いくら世間知らずの私でも、それがどんな結果をもたらすかは
わかります。

 私は慌てて右手を引っ込めてしまいました。
 ただ、すねている時間はありませんでした。

 「さあ、そろそろ、最初の先生がお見えになるわ。これからは
私とあなたと、各教科の先生と三人でお勉強することになるの。
お勉強中はお父様やお母様といったご家族はご遠慮いただいてる
けど……どう、それじゃあ寂しい?」

 「……別に、そういうわけじゃあ」
 弱弱しく答えると……

 「じゃあ、しゃきっとした顔をしなさい。どの先生も真剣勝負
でみえられるのよ。50分間の授業で、あいだに10分の休憩が
入るけど……集中してやらないと……お昼も夜もごはんを立って
食べることになるから気をつけてね」

 「立って食べるって?……どうしてですか?」
 私は思わず尋ねます。
 それって、さっきは『分かりきってるから尋ねないでおこう』
としたことでした。

 「だから、お尻が痛いと椅子に座りにくいでしょう」

 「お仕置きってことですか?あのパドルで、やるんですか?」
 恐いけど、尋ねてしまいます。

 「10分休憩とお昼ごはんの後や夕ご飯の前に、先生方の指示
を受けて私がやるの。10分休憩の時は時間の関係で平手のお尻
叩きが多いけど……昼ごはんの後や夕ご飯の前は、庭の晒し台に
拘束してパドルが多いかしらね……親御さんから許可の出ている
子はお灸もあるし……赤ちゃん扱いだから公園で木馬に乗ったり、
乳母車でお散歩ってのもあるわね……こちらは気晴らしにはなる
かもしれなくてよ」

 「木馬って、三角木馬ですか?」

 「あらあら、おませさんはそんなことまで知ってるの。困った
子ねえ……」
 思わず口をついて出た言葉にケイト先生は苦笑します。そして、
こう続けるのでした。

 「ここでの木馬は、そんな危ないものじゃなくて、よく幼児が
家の中で乗って遊んでる玩具の木馬。それをただ大きくしただけ
の物なの。ただし、公園の木馬はオムツ姿で乗らなきゃいけない
から、それは覚悟しておいてね」

 「乳母車は?」

 「こちらは楽ちんよ。特注された大型乳母車に乗ってればいい
んですもの。これって中が広いでしょう、乗り心地が最高なの」

 「そうですか……」
 私が気のない返事を返しますと……
 
 「ただし、お家を出る時、もの凄くよく効くお浣腸をするから、
途中でオムツ換えをしなければならなくなるわね。知らない人が
沢山見ている前でのオムツ換えなんて、赤ちゃんにはぴったりの
お仕置きでしょう?」

 ケイト先生の皮肉な笑いに……私は滝に打たれたみたいに全身
びっしょりの脂汗。顔は真っ青になってしまいました。

 「そんなに怯えなくてもいいわ。真面目にやってさえいれば、
私のお尻叩きだけで済むはずだから……」

 ケイト先生の言葉はありがたかったのでしょうか。
 私には……
 『あなた、どんなに頑張ってもお尻叩きは免れませんよ』
 と、聞こえてしまうのでした。


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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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