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見沼教育ビレッジ / 第1章 / §2~§3

****** 見沼教育ビレッジ(2) ******

 見沼教育ビレッジは、ビレッジという名の通りまるで一つの村
のようでした。

 ひときわ背の高い管理棟を中心にして、教会があり公園があり
体育館があります。テニスコートも図書館も映画館だってあるん
です。手紙だってちゃんと届きます。そして、何より意外だった
のは寄宿舎というか寮というか、子どもたちが集団で寝泊りする
建物がないことでした。

 生徒には一人一軒の一戸建て住宅が割り当てられ、子供たちは
そこで暮らすことになります。その住宅群だけで村の七割程度を
占めていました。まさに、ビレッジというわけです。

 私が寝泊りする家も、当然こうした住宅群の中にありました。

 『まるで建売住宅みたいね』

 整然と同じような建物が並ぶさまは、場末の不動産開発会社が
切り開いた新興住宅地みたいです。

 「ほら、ここがあなたの家もちゃんとあるわよ。似たような家
が多いから気をつけてね。……ほら、間違わないようにちゃんと
名前が書いてあるわ」
 ケイト先生に案内された家のポストにはすでに私の名前があり
ました。


 「さあ入って、入って。ここは今日からあなたの家ですもの。
遠慮はいらないのよ」
 ケイト先生が玄関で手招きします。

 玄関を入ってまず案内されたのは私の部屋でした。

 「ここがあなたの部屋。天蓋付きのベッドなんて素敵でしょう。
……あ、荷物はそこに置いていいわ。後はこの子が自分で片付け
るでしょうから、あなたたちは帰っていいわよ」

 ケイト先生は部屋に着くなり付き添って来た二人に私の荷物を
置かせて返します。ここからはケイト先生と私のマンツーマンで
した。

 実は荷物といっても寮生の身ですから所帯道具のようなものは
ありません。二人が持ってきてくれたのもトランクが二つだけ。
学校の寮から持って来たのは、私服が二三着と下着、それに……
お気に入りの小説や教科書、参考書のたぐいと、洗面道具くらい
でした。

 「私、ここで先生と勉強するんですか?」
 私は部屋をひとあたり見回して尋ねます。そこには天蓋つきの
ベッドの他にも天板の広い机や天井まで届くような大型の本棚、
一人用のソファや大型のベンチチェストなどが置いてありました。

 「ここでの私は、あなたの子守りがお仕事なの。言ってみれば
お母さん役よ。だから、あなたがどんなにわずらわしいと思って
も、私は一日中あなたのそばにいて色んなアドバイスを送り続け
ることになるわ。ただし、勉強の方は専門の先生がいらっしゃる
から、昼間、その方がこちらへ出向いて、ここで教えてくださる
ことになってるの」

 「家庭教師?」

 「まあ、形の上ではそういうことになるかもね。でも、ここの
先生方は世間の家庭教師のように甘くないわよ。ちょっとでも、
集中心を切らすと、即、お仕置き」

 「…オ…シ…オ…キ」

 「耳を思いっきり引っ張られて、このベンチチェスに寝かされ
て、『目を覚ませ~~』ってお尻を叩かれることになるわ。……
もっとも、叩くのはその先生じゃなくて私なんだけどね」

 「ここにうつ伏せになるんですか?」
 
 「軽い時はね」

 「軽い時?」

 「問題のある時は、うつ伏せじゃなくて、そこに仰向けに寝て、
両足を高く上げて鞭をいただくの」

 私はそんな自分の姿を想像して赤面します。
 「まさか、……パンツなんか……脱ぎませんよね」
 ホントにまさかだったんですが……

 「あるわよ。そんなことも……痛くて悲鳴があがるわよ」
 先生は悪戯っぽく笑いますが、こちらはその言葉を聞いた瞬間、
心がすでに瞬間凍結状態になっていました。

 『それって、痛いというより、恥ずかしい』
 と思ったのでした。

 そう思って再びこの部屋を眺めなおすと、ベッドの天蓋からは
人を拘束するための革紐がぶら下がっていますし、天井には頑丈
そうな滑車が据えつけられています。壁に掛かっている牛追い鞭
はもちろん実際には使われないでしょうが、傘立てのような籠に
立てかけられた樺枝の鞭や書棚の引き出しから覗くケインは現役
のようです。

 『いったい、ここはどういう部屋なの……』
 そうこうするうち、私は衝撃的なものを見つけてしまいます。
それは大きなチェストの裏側に隠すようにして置いてありました。

 「……あらあら、気づいちゃった」
 緊張した私の視線をケイト先生は追っていたのでしょう。
 何も言わないのに私の心を読み解きます。

 チェストの裏には卑猥な雑誌によく登場する三角木馬が……

 『まさか、これ……三角木馬じゃないわよね。……うっ……嘘
でしょう。いくらお仕置きでも、これじゃまるでSMなじゃない』

 目を丸くしていると……
 「あらあら、最近の子はおませさんね。あなたみたいな子でも、
これが何かわかるみたいね」

 不安で一杯になった私の心を逆撫でるかのようにケイト先生は
わざわざその組み立て式の木馬を部屋の中央へ引っ張り出すと、
あっという間に組み上げてしまいます。

 「牛追い鞭の方はお飾りだけど、こちらは絶対に使わないとは
お約束できないの。……あら、あなた、随分な驚きようだけと、
これに乗ったことがあるのかしら?」
 先生は木馬をポンポンと叩いて警告します。

 「…………」
 私は慌てて顔を横に振りました。

 「当たり前だけど……これって、とっても痛いわよ」

 私は三角木馬を正視できないて、そこから思わず目を背けたの
ですが、その背けたはずの視線の先にはベッドパンがあります。

 「あら、今度はオマルにご執心なの?……やはり頭のいい子は
色々と好奇心旺盛ね」
 ケイト先生はまごつく私をからかいます。

 「それはあなた専用のトイレ。もちろん、あなただって普段は
家のトイレを使うことができるんだけど……勉強をさぼったり、
悪さばっかりやってると、この部屋に監禁されちゃうことだって
あるから、そういう時には重宝するわよ。……あっ、そうそう、
特に、メンスの時は注意しないと……私たちは慣れてるからいい
けど、あなたは大恥をかくことになるわよ」

 その日、天気は晴天。私に与えられた部屋は日当たりがよくて、
その陽だまりの中に私もいたはずでしたが、幼い私はケイト先生
の思うがまま、何か説明を受けるたびに小さな胸が震えて仕方が
ありませんでした。


 勉強部屋を見終わった私たちは他の場所へも行ってみます。

 「ここがお風呂。二人で入っても狭くない広さでしょう」

 「二人?」

 「そう、私とあなたが一緒に入るの。ここではね、私とあなた
は四六時中いつも一緒なの。食事も、勉強も、お風呂だって一緒
に入るのよ」

 『こんな場所まで二人一緒だなんて……ここではプライバシー
なんてないのかしら?』

 私は心の中だけでつぶやいたはずでしたが……先生は、まるで
私の心の声が聞こえたかのように話し始めます。

 「残念だけど、ここではプライバシーなんてものはないのよ。
ここでの四週間、あなたは身も心も自分のすべてをさらけ出して
生きていかなければならなくなるわ。赤ん坊みたいに……」

 「赤ん坊みたいに……?」

 「泣くのは勝手だけど、それでは何の問題も解決しない。従順
こそが最大の美徳だと、教えるためにそうしてるの。勿論それが
女の子にとってどれほど辛いことかは知ってるけど、ここへ来た
ら辛抱するしかないわね」

 「…………」

 「そんな悲しい顔しないで…………だって、そうしなければ、
あなたは更生されないもの。……あなたが立派に更生することは
ご両親の願いであり、私たちの願いなの。それを忘れないでね」

 「はい、先生」
 私は諦めにも似た境地でそう言ったつもりでしたが……

 「いいご返事だわ」
 ケイト先生は初めて私を褒めてくださいました。

 「ただ、私や先生方、もちろんご両親もそうだけど、あなたを
守る立場にある人に対しては、自分を隠すことが許されていない
けど、それ以外の人に対しての秘密は守られるわ。ここはハイソ
なお嬢様がよく利用するから、この建物だってプライバシー重視
の造りになってるの。どの家も全室冷暖房完備、防音装置付き。
お尻の痛さに大声で悲鳴をあげても、外では聞こえないわ」
 ケイト先生の顔に再び柔和な笑みが戻ります。

 「あなただって、自分がお仕置きされてる姿を他人に覗かれた
くないでしょう?」

 「ええ、まあ」

 「それにね……こうして隔離してしまうと、子どもたちに思い
切ったお仕置きができるから、私たちにとっても都合がいいのよ。
何事も、中途半端はよくないわ」

 『なるほど、まずはお仕置きありきってことみたいね』
 私は思いました。

 「じゃあ、この家の中の悲鳴は外に漏れないんですか?」

 「家の中でやる分にはそうよ。窓を閉めれば、ほとんど悲鳴は
聞こえないわ……だって、どんな時も他人の迷惑をかけちゃいけ
ないでしょう」

 ケイト先生は悪戯っぽく笑ったあと、こうも続けるのです。
 「ただし、中には見せしめとしてお仕置きする場合もあるから、
そんな時は、もちろん別よ」

 『見せしめ!』
 私の心にその言葉は強く残ります。

 「あら?また、驚かせちゃった?……あなたは、感受性が強い
から何にでも反応するのね。……あなたは賢い子だから、私たち
を悩ますこともないでしょうけど、中には我の強い子やおいたが
過ぎる子もいて、そういう場合は、こちらも綺麗事ばかり言って
られないから、非情なこともしなければならなくなるの」

 「それって、どこで……やるんですか?」

 「朝礼やミサのあとで行われることも多いけど…一番多いのは、
やはり自宅の庭よ。ピロリーって知ってる?」

 「えっ……まあ……」
 私は歯切れの悪い返事をします。
 知ってるのに知らないと言えば叱られそうですし、知ってます
なんて大きな声では言いにくいものでした。

 「首と両手を二枚の板で挟んで晒し者にするの。うちのは膝ま
づくタイプだから小さいの。……そうね、百聞は一見にしかず、
ここで説明するより見に行った方が早いわね」

 「…えっ!?………」
 私は何も反応しなかったつもりでしたが、ケイト先生は私の手
を引いて庭へと連れ出します。

 そこは高い生垣に囲まれた10坪ほどの空間でしたが、手入れ
の行き届いた草花が咲き乱れ、ベンチや小さな噴水まであります。
 一見すると住宅街のどこの家庭にでもありそうな庭なのですが、
その庭の片隅に、ケイト先生が説明していた木製の晒し台(ピロ
リー)がありました。

 「あなた、やってみる?」
 「えっ!」
 先生に誘われて私は一瞬驚きましたが、あえて抵抗はしません
でした。どうせ形だけと思っていましたから……

 「まず、この桶の中で膝まづくの」

 まずは古いバスタオルが数枚敷き詰められた大きな桶に入って
膝まづくと……次は、目の前にある半円形にくり貫かれた厚い板
にそれぞれ首と左手右手を乗せます。

 後はその上から同じように三つの半円形のくり貫きがある板が
下りてきてドッキング、首や両手首は板から抜けなくなります。
 それにしても、高さといい、穴の大きさといい、私にぴったり
でした。

 「まるであつらえたみたいですね?」
 何気にこう言うと、先生は涼しい顔で……
 「あつらえたのよ。昨日、あなたの体形を園長先生からお聞き
して、大急ぎであつらえたの。だから、これはあなた専用。……
でも、もしこのキャンプで太ったら調整してあげるわね」

 ケイト先生はいたずらっ子のような笑顔で舌を出します。
 きっと私を和ませようとしてそうしたのでしょうが、私はそれ
を見てまたまた背筋がぞくぞくっとしました。

 最初は、おふざけのつもりでしたが、実際にこうして体を拘束
されてしまうと、やっぱり恐怖です。

 今は服も着ていますし、お尻をケインでぶたれる心配もありま
せんが……これが裸にされ、こんな形にされてお尻をぶたれたら
……そんなこと、想像しただけでお漏らししそうでした。

 「どうしたの?……あなた、震えてるわよ。寒いの?……」
 ケイト先生は意地悪そうな目つきで尋ねます。

 「…………」
 私は窮屈な首を振ることしかできませんでした。

 「あなたはそこまで先生を怒らせないと思うけど…一応言って
おくとね、最悪のケースは、お部屋で浣腸されて……裸でここに
連れて来られて……ここで拘束されたまま、この桶の中でお漏ら
し……なんて事もあるの……この桶はその為のものなのよ。……
つまりはオマルね」
 先生は、まるで幼い子に言って聞かすように、……お部屋……
ピロリー…桶…と、その一つ一つを指差しながら私に説明します。

 「想像してごらんなさいな。自分がそうやって剝き出しのお尻
を叩かれてるところを……」

 「…………」
 たしかに、こうして拘束されていると服は着ていてもその恐怖
が実感できます。

 「ここでぶたれるのはベッドルームでぶたれるのとは違うの。
……たいていの子がたまらず悲鳴をあげるわ。……恐いからよ。
だから、そんな時は、お隣を覗かなくても、鞭音と悲鳴で何やっ
てのるかすぐにわかるってわけ」


 ケイト先生がまさにそんな話をしていた時です。
 まるでその時を計ったかのように女の子が一人、私たちの庭へ
転がり込んできました。

 実は、この庭の大部分が高い生垣によって目隠しされています
が、ただ一箇所、火事など不測の事態が起こった時の為に、自由
にお隣と行き来できる木戸が設けられていました。

 彼女はそこから入ってきたのです。

 とにかく凄い格好でした。
 上半身は裸。下半身だって身につけているのはオムツだけです。
おまけに私と同じように首と両手首を厚い板に挟まれていて……
それをすっぽり被っています。

 初対面の人の前に出るのにあられもない格好と言ってこれほど
ハレンチな姿で現れる人は見たことがありませんでした。

 「!!げっ!!」
 「!!えっ!!」
 驚きはお互い様のようです。

 彼女は私たちの存在に気づくと、まず目が点に……
 そして、数秒後、顔を真っ赤にしてしゃがみ込みます。
 その身体のつくりからして、どうやら私と同年代のようでした。

 「見ないで!!見ないで!!みんな見ないでよお!!」
 彼女はしゃがみ込んだまま叫び続けます。
 普通は両手で胸だけでも隠すんでしょうが、あまりにも大きな
帽子のせいでそれもできませんでした。

 「みんなあっち行ってよ」
 怒っているような泣いてるような声が響きました。
 でも、そのやむにやまれぬ声が、彼女にとっては最も恐い人を
呼び寄せることになるのでした。

 「あ~いたいた」
 女の子を追って再び木戸が開きます。
 入って来たのはケイト先生と同じ大人の女性。ケイト先生より
少し年配の……私の母くらいの年恰好でした。

 「やあ、ケイト、そちらは新人さん?」
 彼女はケイト先生に比べれば大柄で小太り、貫禄があります。

 どうやら、この人はケイト先生のお仲間。今入って来た少女の
指導教官のようでした。

 「そう、今日からここで暮らす短期受講生。初日だから最初に
色々説明しておこうと思って……」

 「ふ~ん、なかなか品のいいお譲ちゃんだ。こんな子が、何か
するとしたら『S』かな」
 その人は拘束された私の姿を頭の天辺から足先まで眺めてから
評価します。
 そして、こんなことを言うのでした。

 「で、親は来るのかい?」

 「ええ、ご両親とも今日の夕方までには……たしか、妹さんも
一緒に……」

 『えっ親って何よ!?香織(妹)まで一緒ってどういうことよ』
 今度、驚いたのは私の方です。

 「百合子先生、何かお手伝いしましょうか?」
ケイト先生は百合子先生に申し出ますが……

 「大丈夫よ。一人でできるから……」
 ケイト先生の申し出をあっさり断ると……

 「ほら、だだこねてたって何も良いことなんておきないよ。…
…あんたもいい加減ここに長いんだし、ちっとは悟らないとね」

 百合子先生はそう言って少女の枷を外すと……
 「さあ、向こうでオムツを替えないと………おや?何すねてる
んだい。……えっ?恥ずかしい?……何、言ってるの!!いつも
すっぽんぽんのくせして……だから言ってるだろう、恥ずかしい
のもお仕置きのうちだって……だいいちこれが最初じゃないんだ
もの。十回もあんたの恥ずかしい処を見せられたらご両親だって
すでに見飽きてるよ。いいかい、ここに入ったら、辛抱して我慢
して卒業するしかないの。一般の学校みたいに中途退学ってのは
ないんだからからね」
 こう言って諭します。

 百合子先生の言葉はケイト先生に比べたら乱暴です。
 でも、少女は泣きながら頷いていました。
 どうやら、これ以上抵抗するつもりもないみたいです。

 「さあ、約束どおり今夜はお灸20個。ご両親もお手伝いして
くださるから、しっかり頑張るんだよ」
 最後まできつい言葉。でも、少女は百合子先生に促されるまま
立ち上がります。

 百合子先生は、そのままオムツ姿の少女に肩を貸すようにして
このお庭を出て行きます。

 少女の一時の激情はすっかり収まったみたいに見えましたが、
私の方は逆でした。
 少女の受けた受難がやがて現実のものになりかねないと思うと、
今度は私の方が、我を忘れて逃げ出したい気分だったのです。

 そんな胸騒ぎを見透かしたかのようケイト先生は穏やかに尋ね
ます。
 「あらあら、あなた目、またが点になってるわよ。大丈夫?」

 「……えっ、」
 私はその言葉で我に返ります。

 「気にしなくていいわ。あの子、もとは札付きの悪だったから。
でもね、あんな子に限って、一皮捲れば気持が弱いのよ。だから、
今は、虚勢じゃなくて本当の強さを教えてる最中なの」

 ケイト先生はそう言いながら私の枷を外してくださいます。
 でも、それはそよ風が一瞬頬を掠めた程度の、ささやかな勇気
しか私に与えませんでした。

 「あのう、私の両親がここに来るって本当でしょうか?」
 私はさっきの先生たちの会話から生じた疑問を尋ねてみます。
 すると、答えは明快でした。

 「ええ、いらっしゃるわよ。昨日あなたに渡したパンフレット
にもちゃんと書いてあったはずよ。ここでの暮らしは原則として
家族一緒なの。場合によっては、ご両親にもあなたのお仕置きを
お手伝いしていただくかもしれなくてよ」

 「そうなんですか」
 私は気のない返事を返します。

 『厳しいお仕置きを両親の前でなんて、なんて残酷なんだろう』
 『両親に取り押さえられながらケイト先生からお仕置きされる
なんて…………それって、どんな気持だろう』
 色々と頭をめぐらしますが、考えれば考えるほど頭は混乱する
ばかりでした。

 「4週間って、けっこう長丁場なの。お互い肩のこらない関係
でいましょうよ。ね」
 ケイト先生はピロリーから私を解放すると、あらためて握手を
求め、ハグしてくれます。

 『そうかあ4週間かあ。その間、私、ずっと缶詰にされちゃう
んだ!あ~あ、大切な夏休みが終わっちゃうじゃないの!』
 私はケイト先生に抱かれながら、身の不運を嘆きます。

 でも、今の私は、次から次に突きつけられる新たな事実の連続
に心の休まる暇がありませんでした。


*************(2)**********

*******  見沼教育ビレッジ (3) ******

 お昼になった。
 美香とケイト先生はいったん家を離れて管理棟にある食堂へと
向かう。
 予約を入れればデリバリーサービスもしてくれるのだが、先生
は美香に村の様子を見せようとして外へ誘ったのだった。

 家並みが途絶えたあたりからマロニエの並木がまっすぐに続き
敷き詰められた石畳には塵一つ落ちていない。木立を吹き渡る風
のざわめきとテニスコートで打ち合うボールの音だけが二人の耳
に届いていた。

 「何だかとっても静かな処なんですね。普段行く軽井沢の別荘
よりこっちの方がよぽど静かだわ」
 美香は大きく伸びをする。

 「ここは、巷の喧騒の中でいつもお転婆している子どもたちの
溜まりたまり場だから、あえて静かな環境にしてあるの。人間、
騒がしい処で暮らすと、心まで刺々しくなって、間違いも起こし
やすくなるから。………もちろん、彼らにが静かにしているのが
苦手なことは知っているわ。……でも、……いえ、だからこそ、
こうした場所でも暮らせるように訓練しているの。……ところで、
あなたは、どう?……こんな環境はお嫌い?」

 「いいえ私はむしろ静かな環境の方がいいです。運動している
より本を読んでる方がすきですから……」

 「そう、それはよかった。あなたの場合はあまり大きな問題を
抱えていないみたいだから、きっとそう答えると思ったわ。……
ところで、あなたはSだったわね」

 「S?」

 「シスター遊びのことよ。時代によって呼び方は色々だけど、
思春期の女の子が一度は通る通過儀礼みたいなものだわ。だから、
ほおっておけばいいんだけど……大人たちは昔の自分を忘れて、
何だかんだと問題視するのよ。特に生理を異にする父親にそれを
理解させるのは至難の業。そこは諦めた方がいいかもしれないわ
ね」

 「そうなんですか……」
 美香は気のない返事を返した。

 「ただね、腐っちゃだめよ。それはそれとしてお付き合いして
あげなくちゃ」

 「おつきあい?」

 「そう、女の子の人間関係は突き詰めればみんなお付き合い。
お仕置きだってごく幼い時は別として、大きくなればお付き合い
で罰を受けてるみたいなものだもの……」

 「えっ?」

 「あら、あなたは、違うのかしら?」

 「それは……」

 「あなたの歳ではまだ難しかったわね。ごめんなさいこんな話、
忘れて………いずれにしても、お父様はあなたが可愛くて仕方が
ないの。だから、こんな些細なことにまで目くじらをたてちゃう
の。そこは理解してあげてね。ちょっとしたことでも放っておけ
ないのよ。だから今度の事でも、お父様を恨んじゃいけないわ。
これはお父様とのお付き合いだと思って受け流すのが、あなたに
とっても一番よ」

 「お仕置きなのに……」
 美香は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。

 『これまで、父の教えは常に正しくて、お仕置きはその当然の
結論だったはずなのに……それをお付き合いだなんて……』

 美香は、この人は何て歪んだ考えなんだろうと思った。
 思ったけれど……振り返れば、自分だってそう思ってこの試練
を乗り切ろうとしていたのである。

 そんな困惑した美香に気づいた先生は……
 「ごめんなさい、まだ気にしてる?……忘れて……余計なこと
言っちゃったわね」
 先生は慌てて自分の言葉を取り消す。

 そして、無理やり美香の視線をそちらへ向けさすように……
 「ほら、見て見て……あの子、おかしいでしょう……(プッ)」
 ケイト先生は、大人たちに混じってテニスをしている若い娘を
指差すと、なぜかプッとふいた。

 「どうしたんですか?急にふいたりして……」
 怪訝な顔の美香にケイト先生は……
 「なんでもないわ。……ただ、あの子、またオムツ穿かされて
るのかって思ったのよ」

 「オムツ?」
 「そう、よ~く、見て御覧なさい。あの子のアンダースコート。
ね、違うでしょう」

 「あっ、ホントだ。今日の朝、失敗しちゃったんでしょうか?」

 「たぶんね、……あの子、チャコって言うんだけど、昔から、
からっきし堪え性がないのよ。お浣腸すればどこはばからずすぐ
にお漏らすしするし、鞭で叩たこうとすると、鞭が当たる前から
ぴーぴー泣くしね。この間も、お灸をすえようとしたら、まるで
この世の終わりみたいな声だったわ」

 「お灸って……そんなこともお仕置きにあるんですか?」

 「親御さんの許可があればやるわよ」

 「……私は……」

 「あなたはまだじゃない。私が指示されてないから……お灸は
それをやる専門の鍼灸師さんがいらして、私たちは助手で駆りだ
されるの。お灸の場合、暴れる子も多いから人手がいるのよ」

 美香は、ケイト先生の話を聞きながらほっと胸をなでおろして
いた。数は少ないとはいえ彼女自身も経験者だったのだ。

 人心地ついた彼女は、ポツンとつぶやく。
 「……私もやってみたいな」

 「ん?……」

 美香の独り言に気づいた先生が、わざと……
 「えっ!?オムツを?……お灸を?」
 なんて言うから、美香の顔が真っ赤になった。

 「いえ、そうじゃなくて、テニスをです」

 「何だ、そうなの……」
 先生は美香の顔を真っ赤にさせてご満悦だったのである。

 「どうぞ、どうぞ、いいわよ。お昼休みや夕食の前は自由時間
だもの。何してても構わないわ。テニスやろうと映画を見ようと、
あなたの自由よ。クラブハウスに行けば誰か相手してくれるはず
よ。やってみる?」

 「いえ……でも、今、私、お金ないから……」
 美香が恥ずかしそうに言うと……

 「何言ってるの。ここで生活するのにお金なんていらないわ。
食事もスポーツも学用品も、とにかくここで入り用のものは全部、
研修費としてあなたのお父様から事前事後にいただくからそれで
賄われてるの。ただし、タバコは手に入らないわよ。ここでは、
ただ、勉強して……スポーツして……おとなしく寝るだけの生活。
散々お転婆してきた子にとっては退屈で辛い日々でしょうけど、
やがて、みんなこの静かな暮らしにも順応していくわ。あとは、
言葉遣いや礼儀作法を教えて、卒業」

 「……それが四週間なんですね」

 「あなたの場合はね。……でも、長い子は、半年、一年、二年、
ってここにいる子もいるわ。………中学までは義務教育だから、
近くの学校へここから通わせてるの。よほど、ここがお気に入り
みたいよ」
 先生は含み笑いを浮かべたあと、こう続ける。
 「あなたの場合、学業は優秀だし、罪と言ってもシスター遊び
くらいだから、ここの生活に順応するのは早いんじゃないかしら。
ただ、夜は貞操帯をはめてもらうことになるから、ちょっと窮屈
かも……それと、ここの規則で寝る時はパジャマも下着も許され
ないの。私と一緒にすっぽんぽんでベッドに入ることになるわ」

 「えっ!そこで、私、何されるんですか?」
 不安になって美香が尋ねると……

 「何されるって……ご挨拶ね」
 ケイト先生、顔をしかめてちょっとくさったような顔に…でも、
すぐに気を取り直して……
 「何もしないわよ。ただ私とあなたが一緒にベットで寝るだけ。
あなたがベッドで何か変なことをしやしないか、大人たちが心配
してるから、私がお目付け役になって一緒にいるだけの事だわ。
だって、あなた一度信頼を裏切ってるでしょう。だから、新たに
純潔の証しを立てるためにそうしてもらうの。それさえ慣れたら、
後は楽よ。ここではバカンス気分で過ごせるわ」

 「そうなんですか」
 美香が気のない返事を返す。
 バカンス気分はオーバー。何より両親がここへ来るというのが
今の美香には気になっていた。


 マロニエの並木道の両側には、テニス場の他にもボウリング場、
ゲームセンター、映画館やカフェ、お花屋さんやヘアサロンなど
まるでどこかの街が移転してきたように並んでいる。

 「ここには図書館や体育館みたいなものだけじゃなく、色んな
施設があるんですね」

 美香が驚いて尋ねると、ケイト先生の答えは明快だった。
 「だって、お勉強ばかりしていたら飽きるでしょう。誰だって
息抜きは必要だわ。健全な娯楽は次の仕事の活力源よ。真面目に
取り組んだ子にはこうした処へ来て遊べるように自由時間が増え
る仕組みになってるの。逆に、だらけてやってると勉強部屋での
監禁時間が増えて、お仕置き時間も増えるってわけ……」

 「信賞必罰ってことですか?」

 「それほどオーバーな話じゃないけど、やはり人参は必要って
話よ。……それに、ここは父兄同伴が原則でしょう。付き添って
くださる親御さんたちのためにもこんな施設が必要なのよ」


 並木道を過ぎると、二人は高いフェンスで囲われた公園を右に
見ながら進む。
 やがて、目の前が開け、高い処に大時計のある管理棟が現れる。
生徒たちの為の食堂はこの中にあった。

 時分時とあって中は混雑していたが、カフェテリア方式の食堂
は整然と秩序が保たれている。

 「ここで生徒手帳をおばさんに渡してね」
 美香が先生に言われるまま先ほどもらったばかりの生徒手帳を
カウンター越しのおばさんに差し出すと、受け取ったおばさんは
手早くその手帳を機械にかざし、お盆のバーコードも機械に読み
取らせてから、お盆と生徒手帳を美香へ。

 生徒とおばちゃんが一体になった流れ作業。まるで儀式のよう
にスムーズだ。

 「あとはそのお盆に好きなものを乗せてくればいいわ。ただし、
各コーナーに係りの人が立ってるから、必ずその人がそのお盆と
料理の器についてるバーコードを読み取ってから持ってくるのよ。
もし、それをしないで持ってくると、罰を受けることになるから
気をつけてね」

 「あ、……はい」
 美香は、なぜそんな手間の掛かることをするのか分からぬまま
生返事をして料理を取りに行く。

 大広間はまるでホテルのバイキングレストランのようだった。
壁沿いに色んな料理が目移りするほどたくさん並んでいたのが、
美香はこれが初めてということもあってあまり食欲がわかなった。

 スープと生野菜、それに小さなクロワッサンを二つだけ取ると
ケイト先生を探し始める。

 混雑する大食堂は、気がつけば生徒と先生のカップルばかり。
どのペアもまるで親子のような親しさだ。

 そんな熱気にも圧倒されて美香は心細かったが、そのうち先生
の方がまごつく美香に気づいたのだろう。
 「美香、こっちよ」
 という声がかかった。

 声の方を向くと、先生はすでに自分の分の料理をお盆にとって
着席している。いや、そればかりではない。その隣りでは、なぜ
かやけに親しげな女の子が一人、ケイト先生にじゃれついていた
のである。

 近づくと、さっそくその子が……
 「新米さん。ここでは好きなものを好きなだけ取って食べれば
いいの。たとえお相撲さんみたいに沢山食べてもお金はいらない
から心配しないでね」

 ませた口をきくこの子は、でも、見るからにまだ小学生という
姿だった。
 顔が幼く見えるということもあるが、短いフリルのスカートや
襟足を刈り上げたオカッパ頭が美香にそう思わせたのである。

 「あら、あなた、それだけでいいの」
 ケイト先生が美香の持ってきた食事を見て心配するが……

 「あっ、わかった。あなた、何か悪いことしたんでしょう」
 その子が疑いの目で美香の瞳を覗き込む。
 「だから、心配して食べないんだ」

 「悪いこと?」
 美香にはこの女の子の言う意味が分からない。

 「またまた、とぼけちゃって……お浣腸されるかもしれないと
思って控えてるんでしょう?」

 「キャシー!」
 ケイト先生は突然女の子を一喝する。

 「ごはんの時間よ。場所柄をわきまえなさい。……いいこと、
この子は今日ここへ来たばかりなの。そんなことは知らないわ。
だいたい、あなたに他人の事が言えるのかしら……またこんなに
襟足を刈り上げてもらって………あなたと会うと、いつもワカメ
ちゃんカットじゃないの」

 「ワカメちゃんカット?」
 聞きなれない言葉に美香の口から思わず独り言がでた。
 それをケイト先生が説明してくれる。

 「この子のこんな頭、幼い女の子しかしないでしょう。だから、
ここではこういう頭のことをワカメちゃんカットって言うの」
 先生は抱きついてきたキャシーのうなじを愛おしく逆撫でる。

 「この子、キャシーと言ってね、こんなに甘えん坊さんだけど、
けっこうやんちゃなのよ。……こんな頭で、こんな服着てるから、
あなた、小学生に見えたんじゃない。でも、これでれっきとした
中学二年生」

 『私と同学年?』
 美香はこの時初めてこの子が自分と同学年だと知ったのだった。

 「こんな短いスカート穿かされて、こんなヘアスタイルにされ
て……この事自体、立派なお仕置きなんだけど、この子みたいに
悪さばかり繰り返す子は、このスタイルに自分が慣れちゃって、
恥ずかしいなんて思わなくなっちゃうから困まりものだわ」

 「仕方ないわ。だって、これが私のトレードマークだもの」
 キャシーは明るく言い放った。

 「先生はキャシーさんのことよくご存知なんですね」

 美香はケイト先生に向かって話したのだが、それに答えたのは
キャシーだった。
 「ご存知もなにも、ケイト先生は先週まで私の指導教官だった
んだもん。……ねえ、先生。二人はとっても仲良しなんだから…」

 キャシーは甘ったれた声を出したかと思うと、いきなり先生の
懐に顔を突っ込んできて頭をすりすり。

 「コラ、コラ、やめなさい。まったくもう~いつまでたっても
あなたはそうなんだから……」
 ケイト先生は迷惑そうにキャシーを引き離すが、かといって、
そんなに強く叱るわけでもなかった。

 ヘアスタイルもさることながら、その大胆ないちゃつき方にも
美香はあいた口が塞がらなかったのである。
 たしかに美香は学校で友だちと擬似恋愛を楽しんではいたが、
それはあくまで友だち同士。学院内で教師と生徒がこんなふうに
戯れることがあったかといえば、それは絶対に考えられなかった
のである。

 美香はケイト先生にじゃれつくキャシーを見ていて……
 『何なのこの子。節操はないし、貞操観念はないし、幼稚で、
頭も悪そうで、もとは浮浪児かしら?ひょっとして精薄児かも』
 頭の中で散々に酷評してみるのだが……

 でも、そのうち………
 『でも、この二人楽しそうね。まるで息の合った漫才師みたい』
 やがて、自分のそうした思いが、実は嫉妬だと気づくのである。

 実際キャシーは子供っぽいところはあっても美香が考えている
ほど頭が悪い子ではなかった。
 
 「さあ、いつまでやってるの。食事がさめてしまうわ。………
お祈りして、お食事をいただきましょう。」
 ケイト先生がキャシーを跳ね除けて、居住まいを正して食事が
始まる。

 「今日、ここで暖かい食事がとれることを神様に感謝します」
 ケイト先生が最初にお祈りの言葉を述べ、生徒もあとに続く。
お祈りは宗教宗派に関係なくできるように簡素な言葉だけだが、
子どもたちはこの食前の祈りを欠かしてはならなかった。
 これも躾の一つだったからだ。

 ただ、食事が始まっても、二人はまるで親子のように親しげに
話しを続けている。

 キャシーは午前中の出来事を洗いざらい物語り、ケイト先生は、
キャシーのために自分の料理を取り分けて与えたり、ナプキンで
口元を拭いたりする。まるで、幼い子のためにする甲斐甲斐しく
世話を焼く母親のような献身ぶりだった。

 『何もそこまで……』
 とも思うが、美香にはそれがどこかうらやましくもあった。

 そして、気がつけば、他のテーブルでも事情は似たり寄ったり
だったのである。

 『これって、みんな先生と生徒の関係よね。でも、みんな親子
みたいに見えるわ』
 
 美香が驚くのも無理なかった。
 肩を抱いたり、頭を撫でたり、膝の上に抱いて頬ずりなんての
もあった。ある先生などは自分のスプーンに料理を乗せて生徒の
口元まで運んでやっているのだ。

 『幼児じゃあるまいし……』
 美香は思う。たしかに生徒の歳を考えれば異常というべきかも
しれなかった。
 しかし、これがここのやり方。お仕置きのやり方だった。

 「どうしたの、美香?狐につままれたような顔になってるわよ。
羨ましいのかしら?」
 思わず、ケイト先生から声がかかった。

 「そんなこと」
 美香は否定したが……

 「ここでは、先生がお父様お母様の代わりをしているの。それ
も、まだ若い頃のお父様とお母様の代わりをね」

 「どういうことですか?」

 「お父様お母様が若いってことは、あなたたちは、もっと幼い
わけでしょう。そんな幼い頃の思い出をを疑似体験させてるの。
ひねくれ根性の染み付いた子ってね、そのままでは何を言っても
聞く耳をもたないけど、幼児の昔に戻してあげると、話を聞いて
くれるようになるから、まずは、その時代に戻してあげてるのよ」

 「私も……そんなふうに甘えなきゃいけないんですか?」

 「あなたにはたぶん必要ないと思うけど、でも、もしあなたが
手を焼くようなお転婆さんだったら、年齢はどんどん戻されて、
最後は赤ちゃん扱いよ」

 ケイト先生の言葉を追いかけてキャシーが……
 「そうそう、赤ちゃんって大変なのよ。オムツを穿かされて、
おしゃぶりをくわえさせられて、食事は哺乳瓶のミルクだし……
柵で囲われた特性ベビーベットで一日中過ごすの。そりゃあ一日
二日は、この方が楽でいいかなんてたかをくくってるられるけど、
三日も経つと死にそうに寂しくなるわ」

 「(ふふふふふ)」
 キャシーの言葉を聞いた美香は思わず含み笑いをした。そして、
キャシーにこう尋ねたのである。
 「楽しそうね。何日くらいやらされるの?」

 「楽しい?……馬鹿言わないでよ。あなたオママゴトと勘違い
してるからそう思うのよ。最後は先生に必死に懺悔して『どんな
お仕置きでも受けますから許してください』って言わされるんだ
から……」

 「あなた、やられたことあるのね」
 美香はキャシーのその時の姿を連想して笑ってしまう。

 「まあね、こんなに大きくなってから両親にオムツ替えを見ら
れたらどんな気持がするか。それで効果がないと、この人、今度
はお友だちまで呼んで来るんだから……女の子のプライド、ずた
ずた……二度と立ち上がれないんじゃないかと思ったわ。………
あなたも一度体験してみればいいのよ」

 「(あっ、そうか……なるほどね)」
 美香は、言葉にこそださなかったが、少しだけこのお仕置きの
恐さがわかったような気がした。
 「(確かに、そんなことになったら恥ずかしく街を歩けない)」
 と思ったのだ。

 「で、何日くらいやらされるの?」
 美香は続けてキャシーにたずねてみる。

 確かに大変な罰には違いないが、心の奥底から笑いがこみ上げ
てくるから彼女の頬は膨らんでいる。むしろ、笑いを堪えるのに
必死といった顔になっていたのだ。

 その質問にはケイト先生が答えた。
 「期間とかは別に決まってないわ。とにかく改心するまでよ。
ほかのお仕置きでもそうだけど女の子のお仕置きでは期間や量を
あらかじめ決めないの。どんな微罪でお尻を叩く時でも、反省し
なければお尻が赤くなって血が滲むようになっても終わらないの。
そこらが男の子とは違うところだわ」

 「えっ、ここに男の子っているんですか?」

 「この管理棟のエリアは女の子専用だから男の子いないけど、
男の子は男の子で別の管理棟エリアがあるの。二つのエリアには
高い塀があるから、男の子の顔を見る事は普通はないわね」

 ところが、ケイト先生の答えに、キャシーが反論する。
 「普段はそうよ。でも、今日は特別。……ごくたまにだけどね、
男の子を見る事ができるの。それもヌードでよ」
 キャシーの声が弾んでいた。

 「(ヌード?)」
 すると、キャシーの言葉に美香の胸までも高まるのだ。

 彼女だって思春期の女の子。『男の子のヌード…』と聞けば、
ただそれだけで生理的に胸がときめく、顔が赤くなってしまうの
である。

 「ねえ、ちょうどよかったわ。今日、公園で公開処刑があるの。
一緒に見に行かない?」

 「公開処刑?」

 「そう、みんなが見ている前で行われるお仕置きのことよ。…
…何でも、向こうの男の子とこっちの女の子が炭焼き小屋で逢引
してたんですって……男の子はともかくその女の子、大胆なこと
するもんだと思うわ。私ならできないわね。だって公開処刑なん
かされたらプライドずたずたで、これから先もう生きていけない
と思うもの」

 キャシーの意見に、しかし、ケイト先生は……
 「大丈夫よ。あなたは、こんな短いスカート穿いて、こんな頭
にカットされても、こうして元気じゃない。たとえみんなの前で
裸になされて鞭でぶたれるようなことになっても、神経が図太い
んですもの、ちゃんと生きていけるわ」

 「わあ、ひどいよ先生。それじゃあ、まるで私にデリカシーが
ないみたいじゃないですか」

 「あら、あなたにそんな高尚なものあったかしら、あなたとは
二年もつきあったけど、一度もそんなもの感じたことがないわ。
『ひょっとしてこの子、山から逃げてきたお猿さんじゃないか』
って思ったぐらいよ」

 「わあ、ひどい、先生ひどいよ。私だって女の子なんだからね」

 最後は、二人、またじゃれあいだした。
 ただ、美香にしてみると、キャシーが語る公開処刑が具体的に
どんなものなのか、この時は今一つピンとこなかったのある。


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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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