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小暮男爵 ~第一章~ §3 / 赤ちゃん卒業?

小暮男爵

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 その日は、夕食までは何も変わったことはありませんでした。
 五年生になってやっとお父様との添い寝から独立できた私は、
夕食の間じゅう一つ年上の遥ちゃんとおしゃべり。遥ちゃんとは
歳が近いこともあって何でも話せる間柄でした。

 ところが、食事が終わって、さて自分の部屋へ戻ろうとした時
です。私は家庭教師の河合先生から呼び止められます。

 「美咲ちゃん、お父様が何か御用があるそうよ。お父様、居間
にいらっしゃるから行ってちょうだいね」

 こう耳元で囁かれたものですから、す~っと頭の中から血の気
が引いていきます。

 『お仕置き!?』
 嫌な言葉が頭をよぎります。
 誰とは限りませんが、夕食後お父様が子供たちを呼び出す時、
そういうケースがたくさんにあったのです。

 でも、行かないわけにはいきません。
 11歳の少女に逃げ場なんてありませんからそこは残酷でした。

 我が家の居間は、普段なら恐い場所ではありません。板張りに
ソファが並ぶ20畳ほどの洋間で、自由時間であれば子供たちが
レコードを掛けたりテレビを見たりします。

 おかげで少し騒々しい場所でもありましたが、お父様にとって
はそんな喧騒もまた楽しいみたいでした。
 ですから、よほどのことがない限り『うるさい』だなんておっ
しゃっいません。

 もちろん子供たちの出入りは自由。ただ我が家では、夕食後、
家庭教師の先生に居間へ行けと言われたら、それは要注意だった
のです。

 ここでは、お父様の耳元でパンパンに膨らました紙袋をパンと
破裂させても、ジャムがべっとり着いた手でお父様の襟を握って
も、お膝に乗って思いっきり跳ね回っても、それを理由に叱られ
たことはありません。
 ただ無礼講のはずのこの場所も子供たちにしてみたら必ずしも
天国ではありませんでした。

 ここはお父様に愛撫されるだけの場所ではありまん。子供たち
にしたらお仕置きを受ける時だってここで受けます。

 たとえ高校生になった娘でも、お父様が命じれば妹たちのいる
この場所でパンツを脱がなければなりませんでした。

 お父様はお家の絶対君主ですから娘たちのお尻を素っ裸にして
平手打ちしたり、お浣腸やお灸をすえることだって、それは可能
なわけです。
 ですからこの場所にはお尻への鞭打ちに際して身体を拘束して
おくラックやお浣腸、お灸などのお仕置き用具もあらかじめ用意
されていました。

 私はこの居間でお姉さまの悲鳴を何度も聞きましたし、あまり
見たくありませんがお姉さまたちの大事な部分だって幾度となく
目の当たりにしてきたのです。

 そんな場所に行くようにと河合先生に耳打ちされた私は心配で
なりません。そこで、まずは入口から中の様子を窺いますが……

 「ほら、どうしたんだ。おいで」
 すぐに気づかれてしまい、お父様が私を中へ招きいれます。

 その顔はいつに変わらぬ笑顔でしたから、こちらも、ついつい
つられていつもと変わらぬ笑顔で部屋の中へ。

 お父様のお誘いにやがて駆け出すと、いつものように無遠慮に
ポンとその膝の上へ飛び乗ります。
 その様子はまるで飼いならされた仔犬のようでした。

 「おう、いい子だ、いい子だ」
 お父様はオカッパ頭の私の髪をなでつけ、その大きな手の平で
私の小さな指を揉みあげます。
 これもまたいつものことでした。

 『取り越し苦労だったのかもしれない』
 お父様がいつも私にやってくる愛情表現で接してきましたから
こちらもそう思ったのです。

 でも、そこからが違っていました。

 「今日、お父さんね、河合先生と一緒に小宮先生に会ってきた
んだ」

 その瞬間『ギクッ』です。
 私はさっそく逃げ出したいという思いに駆られますが……

 「…………」
 その思いはお父様に察知されて大きな腕の中にあらためて抱き
かかえられてしまいます。

 『ヤバイ』
 私は直感します。でも、大好きなお父様の抱っこの中での私は
おとなしくしているしかありませんでした。

 実はクラス担任の小宮先生と私は最近あまり相性がよくありま
せん。

 だって、あの先生、友だちの上履きに押しピンを立てただけの
軽~い悪戯まで取上げて、まるで私がその子を虐めてるみたいな
ことを言いますし、テストの点が合格点にわずかに足りないだけ
でも放課後は居残り勉強です。

 私にとってはこの先生の方がよっぽど『私をいじめてる』って
思っていました。

 「小宮先生、心配してたよ。美咲ちゃんは本当はとってもいい
子のはずなのに、最近、なぜか問題行動が多いって……」

 「モンダイコウドウ?」

 「例えば由美子ちゃんの体操着を隠したり、里香ちゃんの机に
蜘蛛や蛇の玩具を入れたり、瑞穂ちゃんの教科書に落書きしたの
もそうなんだろう?……昨日も男の子たちと一緒に登っちゃいけ
ないって言われてる柿の木に登って落ちたそうじゃないか。幸い
怪我がなかったみたいだけど、柿の木というのは枝が急に折れる
から危ないんだ」

 「うん、わかってる」

 「分かってるならやめなきゃ」
 か細い声で俯く私の頭をお父さんは再び撫でつけます。

 自慢のストレートヘアは友だちにもめったに触れさせませんが、
幼い頃から習慣で慣れてしまったのか、お父様だけはフリーパス
でした。

 「でも、由美子ってこの間体育の時間に私の体操着引っ張って
リレー一番になったんだよ。あの子、いつもずるするんだから。
里香だってそう。宿題のノート見せないなんて意地悪するから、
私もちょっとだけ意地悪しただけ。……瑞穂の教科書は違うわよ。
あれはあの子が『ここに描いて』って頼むから描いてあげただけ
なの。私が勝手に描いたんじゃないわ。そしたらあの子、それが
自分の思ってたより大きかったから騒ぎだしちゃって…おかげで
先生には叱られるし、ホント、こっちの方がよっぽど迷惑してる
んだから」

 私はさっそく早口で反論しましたが……

 「…………」
 見上げるお父様の顔はイマイチでした。

 「それだけじゃないよ。学校の成績も、いま一つパッとしない
みただね。朝の小テストは今週三回も不合格だったみたいだし」

 「あれは……」

 「あれは宿題さえちゃんとやっていれば誰にでもできるテスト
なんだだよ。……不合格ってのは宿題をやってないってことだ。
……違うかい?」

 「それは……先生もそう言ってた」

 「それと……単元ごとのテストは、合格点が何点だったっけ?」

 「80点」

 「そうだね。でも、美咲ちゃんのは、ほとんどが80点以下。
河合先生も最近は勉強に集中していないみたいだって……何か、
やりたくない理由があるのかな」

 「……そういうわけじゃあ……」
 私は即座にまた反論したかったのですが、ちょっぴり考えると、
そのまま口をつぐんでしまいます。

 いえ、この頃は近所の男の子たちとも暇を見つけて一緒に遊ぶ
ことが多くて、それが面白くて仕方がないんです。……だけど、
男の子たちってやたら動き回るのが好きでしょう。だから、家に
帰る頃にはもうくたくたで、何をする気にもならないってわけ。
 勉強もどころじゃありませんでした。

 でも、それを言ったらお父様は納得するでしょうか。
 しそうにありませんよね。だから私は黙ってしまったのでした。

 そもそも原因はうちはお姉さまたちがいけないんです。みんな
揃いも揃って秀才ばかりなんですよ。何かと比べられる妹はいい
迷惑でした。

 「樹理お姉さまはあなたの歳には3年先の教科書をやってたわ」
 とかね。
 「遥お姉さまがこの問題を解いたのは2年生のときよ。凄いで
しょう。誰かさんとは大違いね」
 なんてね。
 河合先生にいちいち比べられるのもしゃくの種だったんです。

 それに、お父様の顔色を窺うと……
 『どうして、お前だけできが悪いんだ』
 って言われそうなんで、強いプレッシャーです。

 「まだ、あるよ。これは小宮先生も笑ってらっしゃったけど。
この間の家庭科の宿題。あれはみんな小百合お姉ちゃんに作って
もらったんだろう?」

 「えっ!…あっ……いや……そ……そんなことは……ないです」
 私は心細く反論しますが……実はそんなことがあったんです。

 「美咲ちゃん、お父さんには本当のことを言わなきゃだめだよ。
お父さん、嘘は嫌いだからね」
 お父様に諭されると……

 「うん」
 あっさり認めてしまいます。
 私は生来もの凄く不器用で特に縫い物はいつも高校生の小百合
お姉様を頼っていました。小百合お姉様はやさしくてたいていの
事はやってくれましたから頼み甲斐があるお姉様なんです。

 「他人に作ってもらった物を提出するのも、これはこれで先生
に嘘をついたことになるんだよ。宿題は下手でも自分で仕上げな
きゃ。……そんなこと、わかってるよね」

 「はあ~い」
 私は消え入りそうな声を出します。
 でも、心の中では……
 『わかってるけど、できませ~~ん』
 でした。

 そして、その心根を隠すように顔はお父様の胸の中へと消えて
いきます。

 これって、甘えです。
 お父様と私は施設から連れてこられて以来ずっと大の仲良し。
少なくとも私はそう思ってます。だって、こんなに身体が大きく
なった今でも、お父様はまるで幼女のように抱いてスキンシップ
してくれますから。

 これって、慣らされちゃったってことなんでしょうけど、私も
またそんなお父様の抱っこが嫌いじゃありませんでした。

 『姉妹の誰よりもお父様は私を可愛がってくださってる』
 そう確信していた私はお父様に嫌われたくありませんでした。

 お父様の命令には何でも従いますし、なされるまま抱かれると、
たまにその冷たい手がお股の中へも入り込んだりしますが、でも、
私はイヤイヤをしたことがありません。
 女の子の一番大事な処だってフリーパスだなんて、広い世界で
お父様ただ一人だけでした。

 ただ、そんな蜜月も終わろうとしていたのです。
 
 「美咲ちゃん、こっちを向いてごらん。これから、大事な話を
するからね」
 お父様はご自分の胸の中に沈んだ私の顔を掘り起こします。

 「お父さん、いつまでも美咲ちゃんが赤ちゃんだと思って来た。
正確に言うと、赤ちゃんのままでいて欲しかったんだ、だから、
これまでは何があっても河合先生に『あの子はまだ幼いから……』
って言い続けてきたんだけど、これからはそうもいかないみたい
なんだ。これからは甘いシロップばかりじゃなくて、時には苦い
お薬も必要なのかもしれないなって思ってるんだ」

 「えっ!?私、お薬飲むの?」

 「はははは、そうじゃないよ」
 お父様は大笑います。

 でも、私は分かっていました。お父様の言う苦いお薬が、実は
お仕置きの意味だということを……でも、とぼけていたのです。

 お父様のお家の同じ屋根の下にはたくさんの姉たちがいます。
 その姉たちがどんな生活をしているのか。
 その扱いが自分とはどう違うのか。
 五年生にもなれば大体の事はわかります。
 そして、そんな特別待遇がいつまでも続かないこともこの歳に
なれば理解できるのでした。

 お父様と顔を合わせるたびに抱っこされてきた私。これまでは
何をやらかしてもお父様の懐に飛び込めば誰からも叱られません
でした。
 そんな私も、これからはお姉さまたちと同じ立場で暮らさなけ
ればならなくなります。
 それをお父様が、今、宣言しようとしていたのでした。

 「これからしばらくはお父さんの部屋で一緒に暮らそう」
 お父様の言葉はその最初の一歩を刻むもの。
 ですから、私は戸惑いながらもイヤとは言いませんでした。

 私が観念したのが分かったからでしょうか。
 「最初は辛いことが多いかもしれないけど、美咲もいつまでも
赤ちゃんというわけにはいかないからね」
 お父様は宣言します。

 お父様の大きな顔が同意を求めて迫ってきます。

 『……(うん)……』
 絶体絶命のピンチ!でしたが……でも、私は頷きます。

 この家で育った幼女が一人前の少女として認められる為の試練
の一週間。
 他のお姉さまたちはもっと幼い頃に済ましてしまった儀式を、
私はこの時初めて受け入れたのでした。


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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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