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天国 ~第五話~

 *** 第五話 ***

 さて……
 こうして、めでたく僕は天上人の一員となれたわけなんだけど、
それは赤ちゃんを卒業できたってことで、立場は未だに幼児のまま。
つまりエンジェルちゃんのままなんだ。
 天使ってのは成長が遅いからね、これから何十年もかけて大人
になるの。

 でも、僕はこれに不満なんてなかった。
 『子供だからハンデだ』なんて感じたことがあまりないかった
んだ。

 親兄弟や先生たち限らず、普段顔を合わせる大人たちはみんな
優しくて、僕たちと街中で顔が合えばたいてい微笑んでくれる。
 それだけじゃなく、頭をなでたり抱き上げて高い高いをしたり、
肩車で公園中を巡ったりもする。
 天国の人たちって、社会の決まりごとにそってあてがいぶちで
暮らしているだろう、物欲がない分みんなとってもフレンドリー
なんだ。

 しかも、天使ってのは人の心を読むのがとにかく巧みな人たち
だからね。こちらは『あれ欲しいなあ』って思っただけなのに、
いきなりその玩具が目の前に出てきたりする。

 『言葉が出なくても表情だけで暮らせる』と言われる天国では
こんなの日常茶飯事なんだ。
 むしろ、慣れないと怖い。

 神様の基準では、子供をあやしたくらいの奉仕では、もらえる
愛もささやかなものみたいだけど、それでもみんな子供が大好き
で、僕たち(エンジェル)を見つけると、向こうの方から寄って
来るんだ。

 『どんな社会も幼児は愛されるもの。人間の社会もそうだった。
ただ、見ず知らずの大人が、まるで本当の親のように振舞っても
何の問題が起きないのは、それだけ他人を信用できるから。治安
が抜群にいい天国だから見られる光景なんだよ』
 ってね、僕の先代さんが夢の中で教えてくれたことがあるんだ。

 先代さんというのは、昼間は僕の心の後ろにいて、間違った事
をしようとすると、チクッチクッって心臓を刺して教えてくれる。
 特に夜は夢の中に出てきて、人間時代の思い出や昼間の出来事
にもっと具体的なアドバイスもしてくれるんだ。
 ボクの話し相手兼アドバイザーでやさしいおじさん。

 実は、ボクはその人のことを先代さんって呼んでるけど、正確
にはボクは先代さんの生まれ変わりだから二人の遺伝子は一緒。
一心同体なはずなんだけど、お互い経験しない事は記憶に残って
いないから人格はそれぞれ別。

 天国で生まれて天国しか知らない僕にしてみたら、『その人は
確かに『ボク』なんだけど、やっぱり優しいおじさん』っていう
何だか不思議な関係なんだ。

 その先代さんが、いつもボクの未熟で小さな心を守ってくれて
いるせいもあるんだろうけど、大人が冷たいとか、怖いだなんて
思ったことは一回もないよ。大人は優しいのが当たり前だもん。

 礼儀正しくしてたら、抱っこで、頭なでなでで、甘い甘い愛の
お菓子がもらえる。目の前に差し出された薬指をしゃぶると……
体中が幸せな気分になってそのまま寝てしまうこともあるくらい
なんだ。

 もしその人に時間がなくて愛のお菓子がもらえなくても大丈夫
だよ。物語の世界に入り込める特典付きの絵本がもらえるから。

 天国って、子供にとっても甘い世界なんだ。

 実のところ、幼い頃(…今でも十分幼いけど)の僕は、そんな
特権を最大限利用して大人たちに甘えまくっていた。

 近くの公園に行くんだって……
 まずは通りかかった大人の足に抱きついてみる。こうすれば、
ほぼ100%の確率で抱いてくれるからね。
 大人って、小さい子に甘えられると弱いんだ。

 そして、抱いてくれれさえすれば、あとはしめたもので……
 縁もゆかりもないそのおじさん、おばさんに向かって一言。

 「公園」
 と命令すればよかった。

 羽根はまだなくとも、当時だって歩けるわけで公園へ行くのに
大人の力を借りる必要なんてまったくないんだけど、とにかく、
自力で行くより抱っこで入園?したかったんだ。
 きっと、愛されてるっていう証しが欲しかったんだと思う。

 それだけじゃないよ。他の子が持ってる玩具が欲しくなったら、
『あれ、欲しい』って当然のようにおねだりしていいんだ。

 ブランコやシーソーやジャングルジムで一緒に遊んで……

 広い園内をうろつくうち、たまに迷子になることだってあるん
だけど、そんな時でも慌てたことなんて一度もなかった。
 そんな時は、とにかく新たな大人を探せばよかったんだ。

 今、一番近くにいる大人がターゲットで……
 いつもと同じように、大きな足にしがみ付いて、抱っこされた
瞬間、今度は「帰る」と一言。
 あとは寝ててもよかったんだ。

 その後は災難を引き受けてくれた大人がテレパシーでお父様に
僕の住所を尋ね、おんぶか抱っこでお家まで運んでいってくれる
ことに……。

 家につく頃には疲れて眠ってしまってることが多いから、次に
目覚めた時は、ママのお布団の中で一緒におネンネしてたなんて
こともしょっちゅうだ。

 こんなお気楽世界だから、ママだって僕が近くに見えなくても
大慌てなんてしない。
 『そのうち誰かに拾われて帰って来るでしょう』
 って……こちらもまたお気楽世界の住人だったんだ。

 天国には、天上人やエンジェルの他にも妖精や精霊など色んな
住民がいるけど、その全ての住民がお父様のPCにより一括管理
されているの。超監視社会。

 とにかく一年365日一日24時間、一瞬の隙もなく監視され
てるから僕たちにはプライバシーってものがまったくないんだ。
 変な話だけど、Hをしてる時だってちゃんと記録に残ってる。

 だから、ここへ来た人の多くはそれが重荷でとっても息苦しい
と感じるみたいだけど、このデータは裁判にでもならない限りは
表には出ないから、よい子にしてればまず大丈夫なんだ。

 そもそもこんな風に監視しているのは、お父様に覗き見趣味が
あるからじゃなくて、あくまで事故防止。

 天国では事故が予想される場合はどんな住民でも瞬時に大きな
ボールの中に入れてしまい、安全な場所まで移動させてから開放
する仕組みになっているんだ。

 天国の住民はPCチップと同じで不必要なパーツとなっている
人はひとりもいないから、住民を一人残らず管理して事故のない
ようにしているんだ。

 ところが中にはそんな救命用のボールに入りたくて崖の上から
わざと飛び降りて遊んだりもする悪ガキもいて困りものなんだ。

 こうした場合、崖から落ちて痛い思いはしなくても、その後、
お仕置きで痛い目や恥ずかしい目にあったりする。
 その子の年齢にもよるけど、たいてい村の広場で修道女達から
お尻をむき出しにされてスパンキングのお仕置きってことになる。

 というのは、いくら自由に過ごせる天国といっても、仕方なく
やついうっかりとは違って、わざとっていうのは、やっぱりダメ
なんだよね。

 天国で暮らす住民は、その居場所や健康状態など本人の今が、
繭玉PCに逐次報告され続けているから、迷子になってもすぐに
ナビしてくれるし、病気になったとたん、本人に自覚がなくても
自宅に救急車が横付けされてしまう。

 つまり、天国の住民は事故や自殺で亡くなることはなかったし、
こんな超監視社会の天国では人攫いなんてできるわけがないから、
もし、暗くなって幼児が街中を独りで歩いていたら、誰かしらが
送ってくれる。
 その意味でもママは何一つ心配していなかったんだ。

 もちろん、それは虐待についても同じ。
 天国は人の理性が信じられるところだったので体罰そのものは
依然として合法だったけど、繭玉のAIが全ての状況を考慮して、
これ以上のお仕置きは子どもにとって有害と判断すれば、瞬時に
親から子どもを取上げてしまうこともあるんだ。

 こうなると、ママはごめんなさいを言ってお父様の処へ子供を
引き取りに行かなければならない。
 それってママにするととっても恥ずかしいことだったみたいだ。

 だからそれを聞いてね、ママからのお仕置きの最中、お父様が
今の苦境を止めて下さるんじゃないかって毎回期待してたけど、
結局、僕の場合は一度も止めてくださったことはなかった。

 天国ってところは、安心、安全は徹底してるけど、その一方で
プライバシーはまったくない処だったんだ。

 そんな天使の家は、妖精たちが管理するお花畑の中にある。
 ブナの木やケヤキの太い枝の上に床を張っただけの簡素な造り
で壁はないけど通常はそこだけピンポイントで霧に包まれていた
からよそから覗かれる心配だけはなかった。

 もともと天国は暑からず寒からずの穏やかな気候で、一年の中
ほとんどの日が晴天。常に軟らかい風が心地よく吹いているけど、
それも大風になることはなかったから、むしろ壁なんかない方が
快適に暮らすことができたんだ。

 しかも、周囲のお花畑から色んなお花の香りが立ち上ってくる
から、ここに住んでるだけで幸せな気分になる。

 ママとの暮らしは、お膝でいただく愛のお食事も、オッパイを
舐めながらのおネンネも、ママと一緒に入るお風呂の時だって、
何もかも、それはそれは最高の気分なんだけど……

 ……ただ、不便な事が一つあって……

 実は、僕の背中にまだ羽根のない時代、自分の家だというのに
自分の力だけでは出入りできないんだ。

 仕方がないから、木の根元に立って「ママ~」と叫ぶ。

 もちろんすぐにママが降りてきて抱き上げてくれるんだけど。

 ただ、ママのご機嫌を損ねるとその時間が遅れることもあって、
早い話、樹上生活は子供に対する締め出しが簡単にできるから、
子供にとっては困りものだったんだ。

 これに対し、大人たちは背中に立派な羽根を持ってるでしょう。
普段から、空を飛んで移動することが多い。
 つまり、子供たちにとっては不便な樹上生活も大人たちにして
みると、むしろ快適なお家だったみたいなんだ。

 子どもたちはママに締め出されると、もうどうしようもない。
羽根のない悲しさに涙し、大木の根元に腰を下ろしてぼんやりと
ママの頭が冷えるのを待つことになる。

 ただ、そんな時はたいていお花畑を管理する妖精たちがやって
来て、慰めてくれることになっていた。

 実は、この妖精たち、同じ天国に住んでいても天上人とは違う
種類の住民で、お花の数だけいるの。みんな神様から与えられた
お花が枯れないように管理を任されているんだ。

 花の妖精たちは、その昔、このお花がこの世に生まれた瞬間、
たまたまそこに居合わせた虫や小動物たちが、神様の要請に応え
て天国へのぼったもので、元の姿は様々だ。
 コウロギやバッタの場合もあるし、ネズミやネコ、ヘビだった
りもする。

いずれにしても元々人間だった住民たちとは異なり、いきなり
天上人になることはないが、神様のお目にかなって人間への進化
が認められた子も少なからずいた。

 そんな妖精あがりの子が人間として認められる為には天国へと
上がってきた人間の子を一人前に育てる必要があり、これが最終
試験となっていた。

 そのあたりは煉獄から上がってきたお母さんたちも事情は同じ。
 いずれにしても、そりゃあ彼らにとっては大切な試験だからね、
子供たちは大事に育てられていた。

 この木の上の我が家。枝を掃うことなく建てなければならない
から、間取りは居間と寝室とバストイレ。簡素な造りだけどね、
天使の親子が二人で暮らすには不自由のない広さだった。

 実際、エンジェルちゃんと呼ばれる幼児の頃は赤ちゃん気分が
まだまだ抜けてないから何をやるにもママと一緒。

 ネンネ、ウマウマ(食事)、オップ(お風呂)、お散歩なんかは
勿論のこと、二人でお歌を歌ったり、絵本を読んでもらったり、
独りで楽しむ積み木遊びやお絵かき、オモチャのピアノを叩く時
だってそこには必ずママがいたんだ。

 そうそう、トイレにだって一緒に入ってたけど、べつにそれが
変な事だなんて思わなかった。とにかく、僕の方はママがいつも
手の届くところにいて欲しかったんだ。

 そんな幼い頃の僕は世の中は三つの物でできていると思ってた。
 『僕とママ……あとは……その他色々の物』

 中でもママは特別。僕の宇宙を支配する女神様だからね……
 『ママさえいれば、たとえ僕がいなくてもそれで十分幸せなん
じゃないか』
 なんて、変な事まで思ってた。

 そんなママのことだからね、逆に手を伸ばして触れられる位置
にママがいなかったらパニックだ。

 まるで宇宙が壊滅したような驚きで「ママ~~」「ママ~~」
って叫び続けることになる。

 幼い子にとってママがいないというのは不安で不安で死にそう
なくらい寂しいことなんだ。
 だから、いくら大人がみんな優しいと言っても、やはりママは
別格。

 どんなにママから叱られたとしても、お父様から「だったら、
ママと離れて暮らしますか?」と問われたら、「はい」と答える
子はいないはずだよ。

 そんなママとの一日は、まずお布団の中からから始まるんだ。

 オッキの時間、僕はママの薄いネグリジェを握りしめている。
 これは夢の世界から帰ってこれなくなると大変だから、必死に
握ってるんだ。

 実は赤ちゃんの時代からずっとそうなんだけど、天国で暮らす
エンジェルちゃんたちはどんな場合もママの愛のエリアからお外
へ出てはいけないという絶対の掟があるんだ。

 もちろん、その中にはママが好まない場所へ行ったらいけない
というのもあるけど、大事なのは心の方。

 前にも話したけど、超監視社会の天国ではエンジェルちゃんが
危ない場所に立ち入ろうとすると、お父様から体ごと止められて
しまうし、万一、高い崖から落ちたりしても、その瞬間、身体の
周囲が大きな風船の中に入ったようになって軟着陸。
 普通に暮らしていればどう間違っても怪我なんてしないように
なっているんだ。

 ただ、そんな天国でも身体と違って心の方は衝動的に動くから
簡単に制御できない。例えば、お気に入りの女の子がしゃがんで
いたら、その子のパンツが見てみたいと思っちゃうのが男の子。

 もちろんそれから先、何もしてないんだけど……
 これだって、天国では『ママの愛のお外に行った』という事に
なるんだ。

 天使たちは見つめ合うだけでお互いの心がすぐに読めてしまう
から、人間社会のように言葉を投げかけなくてもいやらしい心を
持っただけでアウトなんだ。

 『いやらしいことを想像してはいけない』
 これって、男の子には無理。

 『嘘をついてはいけない』
 これって、女の子には無理。

 でも、どちらもやっちゃいけない事だから、天国ってもの凄く
窮屈な場所でもあるんだよ。

 でも、そんな天国でも唯一自由に飛びまわれる場所があるんだ。

 それが、夢の中。

 夜、ママに身体を預けて一緒にネンネすると、それから先は、
どんな夢を見ても許されるんだ。

 最初の頃は、お父様抱っこされて天国じゅうを旅行したりとか、
ママや妖精さんたちで食事会をしたり、なんてのが多かったけど、
保育園や小学校に通い始めると、好きな女の子と二人だけでピク
ニックに行ったりとか、キスしたりされたりとか、もっと過激に
その子の裸を見たり、お仕置きされてるところが現れたりもする。

 でも、それが昼間に見る妄想じゃなくて、夜にママと一緒のお
布団の中でみる夢なら、天国でも許されてるんだ。

 ただ、ママからは……
 「お夢の世界でも、あまり遠くへ行くと帰れなくなるわよ」
 なんてね、脅されていたから……

 『ママと離れ離れになったら大変だ』
 ということでママのネグリジェだけはしっかり握って放さないようにしてたんだ。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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