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真理子のお仕置き(上) ~ ある朝の出来事 ~

      真理子のお仕置き(上)
                 ~ ある朝の出来事 ~


 哲哉は兄弟の中で最後まで寝ていた。
 論文の執筆に時間を取られ寝たのが明け方だったのだ。
 その彼が周囲の喧騒で仕方なく目を開けると……

 『ん?何だこりゃ?』
 寝ぼけ眼に奇妙な人影らしきものが見える。
 誰かが寝ている自分の目の前に立っているみたいだ。
 焦点も合わないまましばしそれを見ていると……

 『わっ、やめろ、バカ』
 いきなり生暖かい水をかけられた。

 『わあっ、何するんだお前!!』
 こりゃあ、温厚な哲哉でなくても怒るかもしれない。
 だって、哲哉の頭を挟みつけるように立つ全裸のその子は彼が
目覚めたことを確認するや、いきなり放尿してきたのだ。

 起きた早々異常事態だった。
 慌てた哲哉はすぐさま三歳のミミの両脇を鷲づかみにして起き
上がる。

 「ミミ、ここはトイレじゃないんだぞ!!」
 哲哉が恐い顔を作って叱ったが、ミミは笑顔のまま。
 「知ってる」
 そう答えた顔も悪びれてる様子はなかった。

 「じゃあ、どうしてこんなことするんだ?」

 「だって、健太兄ちゃんもやってる」

 そう言われて気がついたのだが、6歳の健太までが立ったまま
パジャマから小さいのを出しては自分の腰の辺りへ放物線を描い
ている。

 「こら、健太!!!」

 さすがに大声が恐かったのか健太の放物線は一瞬で引っ込んだ
が、こちらも顔は笑顔、悪びれている様子など微塵もなかった。
 きっと彼らにしたら、こんなことは目覚まし代わりのちょっと
した悪戯ということのようだ。

 哲哉の大声に異変を感じたのだろう。台所から高校生の佳苗が
顔を出す。

 「……?……」
 彼女、しばし部屋の様子を観察していたが……

 「哲哉、いい歳して、おねしょなんて恥ずかしいわよ」
 と、こちらも笑顔で語りかけた。

 「何言ってるんだ!!お前、一番上の姉ちゃんだろう。何とか
しろよ!!」
 哲哉は大声を上げたが……
 「最後まで寝てる方が悪いのよ。私はチビたちのお弁当作りで
忙しいの。自分でやった不始末は自分で処理しなさいってのが、
亡くなった父ちゃんの言いつけなのよ。……ごめんね~~」

 佳苗は薄情にも台所へ戻っていく。
 「お前のところでは、いったいどんな仕付けしてるんだよ!」
 哲哉は憤懣やる方ない様子で台所へ帰る佳苗に罵声を浴びせた
が……確かにこの場合、相手が幼い子供たち、どうしようもない。

 実は、同じ屋根の下で暮らす兄弟と言っても、哲哉を除く四人
の子供たちは彼の父が再婚した相手、富子の連れ子だった。
 それでも普段ならまだ富子がいるから幼い子の暴走ににらみを
きかすこともできるのだが、ここ数日は、大人二人がハネムーン
に出ていて留守なのだ。

 その間は、大学生の哲哉と高校生の佳苗がボスとなって小さな
子供達をまとめていかなければならなかった。

 「いいかいミミ。お前は女の子なんだから、あんなことしちゃ
だめだよ」

 「あんなことって?」

 「寝てる人の顔にオシッコなんか掛けちゃいけないってこと。
あんなことすると、大事な処が全部丸見えになっちゃうぞ」

 「大事な処?」

 「そう、大事な処だ」
 哲哉はそう言いながら、ミミのお股をタオルで綺麗にしてやる。

 「お兄ちゃん、見たいの?」
 「見たくありません!」
 「だって、真理子お姉ちゃんが、男の子はみんな女の子のお股
が見たいって……」

 『やっぱり、黒幕はあいつか』
 哲哉は殺気を感じて僅かに開けられた襖に目をやる。
 すると、そこにはこの部屋を覗く人影が……

 『ヤバイ』
 と思ったのだろう、人影はさっとその場を離れるが、哲哉にし
ても佳苗にしても、今回の首謀者が誰かは分かっていた。

 真理子、11歳。
 肩まで伸ばしたワンレンのストレートヘアが自慢で、ことある
ごとに弟の健太や妹のミミをそそのかしては悪戯を仕掛けてくる。
もちろん、そのことは長女の佳苗も知っていたから、哲哉が寝床
て大声を上げたときも、黒幕は誰かすぐに分かっていたが、朝は
彼女にとっても忙しい時だから、あえて相手にしなかったのだ。

 その後、哲哉と佳苗は、自分たちのお父さんやお母さんと同じ
仕事をする。

 哲哉は素っ裸でいるミミに幼稚園の通園服を着せ、顔を洗い、
朝食の席では膝に抱いて一緒に食事をする。
 佳苗も食事のあとは健太や真理子のランドセルの中身を確認、
忘れ物がないかチェックしたり、妹や弟たちの身なりを整えたり
とこちらもお父さんお母さんの代わりだから双方朝は忙しいのだ。

 しかし、二人にとってお父さんお母さん代わりなのはこれだけ
でなかった。

 準備が整った健太が先に「行って来ます」と言って佳苗の目の
前を通過したその瞬間だった……

 「お待ち!」
 佳苗が機敏な動作で逃げようとする健太のランドセルを上から
鷲づかみにして引っぱる。

 「わあ!」
 健太は簡単に尻餅をついた。
 ランドセルを背負ってると、これがウイークポイントだ。

 「何するんだよ。学校行かないと遅刻しちゃうだろう」
 転んだ健太は不満を口にしたが、佳苗だって、もちろん戯れで
こんなことはしない。

 「あんた、何か忘れてない?」

 「何かって……?」

 「あんた、哲哉お兄ちゃまのお布団にオシッコして、それで、
何もしないでこの家を出られるとでも思ってるの?」

 「えっ!?」
 健太は青くなる。ことの良し悪しは別にしても佳苗姉ちゃんが
怒っているという現実は、たとえ一年坊主だってわかるのだ。

 「だって、あれは……真理子姉ちゃんが『哲哉兄ちゃんにこの
家で大きな顔されないように、最初に何かぎゃふんと言わせた方
がいい』って言うから……」
 もじもじとした様子で健太は事情を話した。

 実は、健太。このことは他言しないと、真理子姉ちゃんと固く
約束していたはずだったのだが、佳苗お姉ちゃんに凄まれると、
あっさり口を割ってしまう。

 「あっ、そう……あなたたち……哲哉お兄ちゃんをぎゃふんと
言わせたかったんだ」
 健太のおかげで、厳しい視線が次は真理子に向くことになった。

 「真理、……あなた、哲哉お兄ちゃんが嫌いなの?」

 「……そういうわけじゃあ……」
 真理子は下を向き、ぼそぼそと申し訳なさそうに答える。

 「まあ、いいわ。……」
 佳苗姉ちゃんは一つため息をつくと、視線を再び健太へ……

 「あんた……いくら一年生でも……哲哉お兄ちゃんのお布団に
オシッコすることがいけないことだってことぐらいは分かるわよ
ね」

 「…………」
 あらためて佳苗姉ちゃんに凄まれると健太はもう答えない。

 正直に答えてしまうと、そんなに悪い事とは思っていないのだ。
だって兄弟みんなのために真理子姉ちゃんがやろうと言ったこと
なんだから……

 ただ、普段は早口の佳苗お姉ちゃんが、それを封印して噛んで
含めるように自分に話していることで『これはまずいことなんだ』
と分かったみたいだった。
 だから、弱々しく「はい」とだけ答えたのである。

 「こんなこと放っておけないもの。お義父様に申し訳ないし…
…お母さんに知れたら、お灸ものよ」

 「エッ!!」
 健太はお灸という言葉に思わず顔をあげて驚く。

 「それが嫌だったら、学校に行く前に私からのお仕置きを受け
てもらうからね」

 「えっ、姉ちゃんから……」

 「そうよ、どうする?このままじゃ、あんたお母さんからまた
チンチン焼かれるよ。……その方がいいの?」

 小一の健太から見れば佳苗お姉ちゃんは大人も同じ。
 そのお姉ちゃんの威しだから効果がないわけがなかった。

 「ごめんなさい」
 健太は謝っただけだが、これが佳苗お姉ちゃんからのお仕置き
を承諾した証しだったのである。

 「分かったんなら、そこの鏡台の椅子に両手を着きなさい」
 佳苗姉ちゃんは凛とした態度で命じる。

 いや、佳苗お姉ちゃんだってほんの数年前までは、同じ姿勢で
お母さんからお尻をピシピシやられていた身なのだが、ここでは、
そんな弱さは微塵も見せなかった。

 かえって、いつからそこにいたのか、哲哉兄ちゃんが割り込ん
で来て……
 「いいよ。僕のことだったら……もう、何とも思ってないから」
 と、とりなしてくれたのである。

 ただ、それにも……
 「いいの。これは、うちの問題だから……厳しくする時はしと
かないと、示しがつかないわ」

 佳苗お姉ちゃんはこれも拒否したのである。

 「さあ、真理!ぼさっとしてないで、あなたも手伝いなさいよ。
健太の両手を押さえるの」

 佳苗お姉ちゃんは、もう完全にお母さんの代わりを務めていた。

 「……!……」
 背もたれのない鏡台用の椅子に両手を着いた健太の半ズボンと
パンツを一緒に脱がせると、お母さん愛用の三尺物差しを持って
構える。

 「しっかり、数を数えるの。……わかった?」
 佳苗お姉ちゃんは我が家の流儀に従ってそう命じる。
 そして、自分だって散々お世話になったそれで、「ピシャ」と
最初の一打を繰り出したのだ。

 「ひとつ」
 健太の声がすでに震えている。
 もちろん佳苗お姉ちゃんは十分に手加減しているのだが、痛さ
より恐さが先に立って健太は震えていたのである。

 「ピシャ」
 「ふたあつ」

 「ピシャ」
 「みっつ……」
 たった三つで健太の数を数える声は泣き声になっていた。

 でも、お仕置きはこれからだ。

 「ピシャ」
 「よっつ……」

 「ピシャ」
 「いつつ……」

 溢れ出た涙が頬を伝い、少しだけ赤くなったお尻の反対側では
可愛いおチンチンが一緒になって震えている。

 「ピシャ」
 「むっつ……」

 「ピシャ」
 「ななつ……」

 お尻がほどよいピンク色に染まり鳥肌がたっているのがわかる。
 端から見れば可哀想な姿だが、佳苗お姉ちゃんは心を鬼にして
こう叫ぶのだ。

 「ほら、声が小さくて聞こえない。もう一度、七つからよ」

 「ピシッ」
 「ななつ……」

 「ピシッ」
 「やっつ……」

 嗚咽が止まらなくなった健太は真理子姉ちゃんに両手を押さえ
られているため、涙を拭くこともできなかった。

 「鞭の一つ一つを『ごめんなさい』っていう気持で受けるの。
……わかった?」

 「はい」

 「声が小さい!もっと大きな声で!」

 「はい、わかりました」

 「よし、じゃあしっかり構えて……」

 「ピシッ」
 「ここのつ……」

 「ピシッ」
 「とう……」

 「いいこと、あんたのやったことは本来ならお灸にあたいする
の。このくらいじゃ足りないのよ。わかってる!」

 「はい」

 「よし、じゃあ最後はしっかり歯を食いしばって……いくわよ」

 「ピシッ!」
 「痛い!!ごめんなさい、もうしません。あああああ……」
 健太はこのお仕置き一番の鞭を受けて泣き叫び地団太を踏む。
 そして、それが終わってから思い出したように……
 「じゅういち」
 と数をかぞえるのだ。

 「ピシッ!」
 「いやあ~~もうしないで~~ごめんなさい。……じゅうに」

 十二も十一と同じ。でも、これで許されたのである。

 佳苗お姉ちゃんは健太の身なりを整えると涙を拭き鼻をかんで
学校に送り出す。
 当然、真理子だって健太と同じ小学校なのだから一緒にに家を
出ようとしたのだが……

 「あなたはまだ家を出ちゃだめよ。ミミを通園バスに乗せたら、
あらためてお話があります」
 と、佳苗お姉ちゃんに宣言されてしまったのだ。

 実は、この佳苗お姉ちゃん、お母さんが再婚する前から、妹や
弟たちが悪さをした時のために日頃から懲罰権を与えられていた
のである。

 それがどんなに恐いかを知っていた真理子は逃げられなかった。
もし、佳苗お姉ちゃんに逆らうと、それをお母さんに告げ口され、
今度はお母さんと二人がかりでのお仕置きを食うことに……
 それはさすがに彼女としても避けたかったのだ。

 自分の部屋で正座して待っていると、佳苗お姉ちゃんがやって
来た。

 「あんた、相変わらずね」
 「何が?」
 「何がじゃないでしょう。健太やミミをたきつけてあんなこと
させて……」
 「あたし、やってないよ」
 「だから、そこがいけないんでしょう。自分は手を汚さないで
人を使って悪ささせて……ま、あんたのことだから……二人に、
『哲哉さんのお布団でオシッコしたら哲哉さんが自分でやったと
勘違いして大慌てするわよ』ぐらいのこと言ったんでしょう?」

 「…………」
 真理子は答えなかったが、その時、彼女の顔色が変わったので
有罪が確定する。女の子の裁判では顔色だって立派な証拠、物証
はいらなかった。

 「ほら、ごらんなさい、やっぱり黒幕はあなたなんだから……
あなたのやってることは、哲哉お兄様やお義父様だけでじゃない、
何よりお母さんに恥をかかせてるのよ」

 「ごめんなさい」

 真理子はペコリと頭を下げて謝りはしたものの佳苗お姉ちゃん
にしてみれば、下げた頭より尖った口の方が気になるのだ。

 「まったく反省してないみたいね」

 「え~そんなことないよ」
 真理子は口を尖らせたまま反論したが……

 「あんたの顔は反省してるって顔じゃないわね。そんな顔で、
いくら『反省してます』なんて言っても誰も信じないわよ。……
仕方ないね、反省できないんじゃあ……こういう時は、お仕置き
しかないわね」

 「え~~やだあ~~~」

 「イヤじゃないでしょう。あんたが悪いんだから……頭で覚え
られない子はお尻で覚えるしかないじゃない」

 「いやよ。だって、ここには哲哉兄さんもいるのよ」

 「そうよ、だからいいんじゃない。『うちは、昔からこんなに
厳しく仕付けてます』というのを見てもらわないと、山猿ばかり
四人も連れて来たなんてお義父様に言われたら、お母さんだって
立つ瀬がないわ」

 「えっ……だって……」
 真理子は不承知でしたが、佳苗お姉ちゃんの厳とした物言いに
反論できません。結局……

 「さあ、もういいから、学校行きなさい」
 と、今度は家を追い出されてしまったのでした。


***********(上)*************

美麗芸能事務所 ~里香の卒業~

(作者一言)
一話完結の話を一つ挟みます。
アイドルなんて柄にないもの書いちゃった。
描いてる時はまだよかったけど、読み返すと感性が錆びてる
なあって実感しました。(T_T)

**********************

      美麗芸能事務所 ~里香の卒業~

里香はダブルベッドに腰を下ろすと、ごぐ自然にサイドテーブル
に置かれたオンザロックのウイスキーグラスに手を伸ばす。
すると、男がそれを遮って自分がそれを口にする。

今度は封の切られたキャメル(タバコ)へと手が伸びた。

それをくわえデュポンを摺りあげ、立ち上がったオレンジ色の炎
に顔を近づけるが……再び、目の前からその炎が消える。

「やめないか、今夜はまだ仕事が残ってるんだろうが……そんな
タバコ臭い匂いをさせてスタジオに入るつもりか?」

男はその大きな手で女の華奢な手のひらごとデュポンを包み込む。

「桃野里香の仕事は何だ?」
男は里香の後ろからスルリと女の尻を抱き上げて自分の膝の上に
乗せる。

大柄な男と小柄な少女。それはまるで親子のようにも見えた。

「答えなきゃいけない?」

「ああ、もう一度聞いておきたいね」
男は少女の背中から細い顎を握った。

「アイドルよ。純情派アイドル」

「そうだ。覚えてはいたんだな。……だったら、何をして、何を
してはいけないのかも覚えてるだろう」

「…………」
少女は何も話さない代わりに小さく頷く。

「だったら、今日のクイズ番組、なぜ怒られたかわかるだろう?」

少女は再び小さくうなづいく。

「お前と組んだ安藤啓太(大御所俳優)はあの番組が招いた目玉。
いわばお客さんさんだ。それを差し置いてお前が、バンバン正解
してどうなる。お前は、ああした処ではお飾りなんだぞ。大御所
をたてて馬鹿に徹するのるがお前の仕事のはずだ。今さらそんな
こと講釈せんでも、わかってるだろう!?」

「わかってます。でも、あいつ、あんまり何にも知らないから、
馬鹿馬鹿しくなっちゃって……つい」

「何がついだ。そんなことで芸能界が生きられると思ってるのか。
お前はお嬢様ってふれこみで売ってるが、お前の親衛隊だって、
別に利口なお前を見たいわけじゃない。おもちゃとしてのお前が
見たいんだ。そこは勘違いするな!」

「はい」

男は美麗芸能事務所の社長。アイドル桃野里香の育ての親だ。
小6の時、大酒のみの父親を説得して事務所に所属させて以来、
彼が実質的な父親としてアイドル桃野里香を育ててきた。

芸能活動だけではない。勉強も行儀作法もきっちりやらせてた。
むしろ少女にしてみたらアイドルになりたくてこの道に入ったと
いうより、勉強のできる環境を求めて社長についてきた、と言う
べきかもしれない。おかげで、彼女は堀越ではなく都立に通って
いる。レッスンもイベントもコンサートもこなしながらなおかつ
都立に通うというのは至難の業なのだが、少女はそれをこなして
きたいた。

『山の手のお嬢様』をキャッチフレーズに中学二年でデビュー。
以来、仕事と勉強以外では何一つ余裕のない日常だったが、それ
でも、これまでは彼女が社長に対して不満を口にしたことはなか
ったのである。

「このあいだの『アイドル選手権』の時もそうだ……お前は選に
漏れたその瞬間、ふくれっ面したよな。…………あれ、バッチリ
カメラに抜かれてたぞ。……清純可憐なお嬢様で売ってるお前が、
あんな顔をしたら、イメージダウン間違いなしだ。こんなミスは
これまでなかった」

「ごめんなさい、あの時は疲れてたから……」

「そんなの理由になるか、たとえ12時間立ちっ放しでも笑顔を
撒き散らすのがお前たちの仕事だろうが……デビューの時、私と
かわした約束を忘れたのか?…ん?……それとも何か、アイドル
なんか飽きたか?………いずれにしても、それができないなら、
アイドルなんかやめてしまえ」
社長は右手で里香の顎を割れんばかりに握りしめる。

「ごめんなさい、ホントにごめんなさい。今度はミスしないから」

「それも聞き飽きたな。最近のお前は、仕事に身が入ってない。
デビューして4年、お前ももう18歳だからな、アイドルとして
は薹がたち始めている。そろそろ、卒業を考えてもいい時期かも
しれんな」

「卒業?」

「だから、アイドルやめて別の道に進むってことさ。ちょうど、
AVの仕事が来てるから……一度、やってみるか?」

「えっ!」
里香は驚く。そう聞いただけで身体が固まってしまった。

「そう驚くことはないだろう。いきなり役者といっても、どの道
お前にまともな演技なんかできないだろうし……歌手というのも
なあ……」
社長は鼻で笑う。里香の歌唱力を知っているからだ。

社長はさっき里香が悪戯していたタバコをくわえると…… 
「こちらがこり押ししても失敗したら二度目はこない。アイドル
なんて潰しの利かない商売だからな……別の道といって言っても、
道は限られるんだ。簡単じゃないのさ」

「…………」

「何だ浮かない顔だなあ。AV嫌か?清純派アイドルのAV出演
なんて、今じゃそう珍しくもないぞ。何よりお前は、まだ現役の
アイドルなんだし、商品価値は高いってわけだ」

「…………そんな」

「何が『そんな』だ、仕方がないじゃないか……アイドルとして
やっていけないなら………それとも何か、俺の処を出るか?」

「…………」
社長がそう突き放すと里香が困った顔をした。
ここを去りたくないという顔をしたのだ。

そこで社長はもう一押ししてみる。
「そうだ、やっぱりSMがいい。あれなら、演技もくそもない。
お前は、ただされるがままにしてればいいんだから。楽なもんさ」

「………………」
社長は膝に乗せた里香の身体の震えをじかに感じていた。
だから、『可愛いもんだ』と思ったのである。


そんな二人の蜜月を「サー」という金属音が引き裂く。
社長がリモコンを操作し、目の前のカーテンが一気に引かれた音
だった。

里香の前にいきなり眩いばかりの明るい舞台が現れる。
そこは社長の自宅に特設された練習用の舞台だった。

ここでは里香も幾度となくレッスンを受けていたから、本来なら
見慣れた風景のはずだったのだが……

「……(これは)……(いつの間に)……」
里香は声が出ない。

そこは普段とは違いSMのセットが組まれていた。
鞭打ち台や三角木馬の大道具に始まり、浣腸器や室内便器、枝鞭、
バラ鞭、極太蝋燭などの小道具がこれ見よがしに並べられいる。
ふと気づいて天井を見上げると、人を吊り上げる為の滑車までが
掛かっていた。
しかも、そこには仮面を着けた見知らぬ男が……

声には出ないが、里香は逃げ出さなければと思ったのだ。
だから、思わず社長の膝を飛びのこうとしたわけだが……それは
叶わなかった。

幸助社長もそれは承知して身構えていた。

里香が飛びのこうとした瞬間、彼は里香の両腕を握り押さえ込む。
結果、里香は僅かにお尻を浮かしただけだった。

「あっ……いや……」
里香は、幸助の胸倉を右手で押し、大きな太股を両手で押して、
その場から離れようともがいたが、どうにもならない。

そのうち、舞台から下りてきた仮面を被った黒いスーツ姿の男が、
里香をさらっていく。

その時、里香を手放す幸助社長に何のためらいもなかったのは、
彼がこの企画を立案したからに他ならない。

「あっ、だめえ~~~」
里香は、自分をさらおうとする男を前に、一瞬、懇親の力でそれ
を拒絶しようとしたが、カメラが回る時に光る赤いライトが目に
入ると、とたんにその手は力強さを欠くことになる。

『自分は、今、撮られている』
そう思った瞬間、里香は本名の青地里香から桃野里香へと変わる。
屈折した18歳の女子高生から、山の手のお嬢様へと変身する。
男のように仮面をつけていなくてもそれは同じだったのである。

これは理屈ではない。長年アイドルとしてやってきた彼女の習性。
もちろん、これが誰によって仕組まれたどんな企画かなんて事は
関係ない。この先どうなるのかがわからないままでも、カメラが
自分を捕らえれば、もうそれだけで、『この企画を成功させなけ
れば……』という強迫観念が強く彼女の脳裏に浮かぶのだった。

だから、後はこの黒いスーツ姿の男のなすがままだったのである。

「やめてえ~~もうしないで~~~人殺し~~~だめえ~~~」
椅子に腰を下ろした男の膝に乗せられた里香は必死に叫び続ける。
……が、本気になってその男と格闘はしなかった。

「だめえ~~~」
声は一段と大きくなり、スカートがまくられていく。

ショーツも下ろされて……
「いやあん」
甘い声に変わった。

「ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ」
リズミカルに軽快に里香のお尻は赤くなる。

「いや、いや、いやあん」
甘えたような声が稽古場全体に響いた。

もちろん、それで何かが起こるわけではない。
「ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ」
同じ強さ、一定のリズムで少女の尻を叩き続ける男。

痛さに耐えかねて里香が思わず後ろを振り返ると……
仮面のすき間から見える男の顔が僅かに笑ったように見えた。

やがて……
「だめえ、だめえ、もういやあ~~」
里香のお尻が、健康そうな子供のリンゴのほっぺのようになった。

それでも男は叩き続けたが……
「ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ」
このくらいが適当と思ったのか、30回ほど叩いてからその手を
止める。

ただ、それで終わりというわけではなかった。

今度はゴム製のパドルで……

「パ~ン」
「いやあ~もうだめえ~~許して~~壊れる、壊れるから~~」

乾いた音のあと、すぐに里香の悲鳴が続く。

「パ~ン」
「ホントにやめて~~」
「パ~ン」
「いやいやいやいや」
「パ~ン」
「だめえ~~お願~~い」

最初は元気よく叫んでいたが……

「パ~ン」
「痛いよ~~~」
「パ~ン」
「だめだよ~~」
「パ~ン」
「壊れる~」

やがて、声に力がなくなり……

「パ~ン」
「やめろよ~~~」
「パ~ン」
「やめて~~~」
「パ~ン」
「おねがい、やめて~~」

そのうち悲鳴は哀願へと変わっていった。

そして、ついには……
「パ~ン」
「…………」
「パ~ン」
「…………」
「パ~ン」
「…………」
その哀願の声さえ聞こえなくなったのである。

今は、彼の膝でただただ痛みに耐えてじっとしているのが精一杯。
声を上げるのさえおっくうになっていた。

「パ~ン」
「…………」
「パ~ン」
「…………」
「パ~ン」
「…………」

そんな過酷な状況がしばらく続いて、里香の頭は機能を停止して
しまう。思考停止状態。しかし、そんな薄れいく意識の中で……
彼女はある夢を見ていた。

恋愛禁止の掟の中にあって、自分を唯一抱いてくれた男の温もり
が心の中に蘇ってきたのだ。

『そういえば、彼もあの時は私のお尻を叩いた』
里香の脳裏に、彼が自分の処女を奪い去る前にやった愛のスパが
その肉感と共に蘇るのだ。

『幸せだった。……あの時の気持がここにもあるみたい』
こんな苦痛がなぜ心地よいのか分からぬまま、里香は最後の数発
を見知らぬ男の膝でリンクさせる。

『今、彼が私のお尻を叩いてる』
自分の頭にそう信じ込ませることでお尻の痛みを逃がそうとした
のだ。


やがて……
里香はパドルを許され、男の手によってベッドに横たえさせられ
るのだが、そこでは何もしなかった。
社長に愚痴を言うわけでもなし、こんなひどい目にあわせた男に
食って掛かるわけでもなかった。
ただただ、今はそこに身を横たえていたかったのである。

それは里香がこのスパンキング男に疲れて動けないのではない。
むしろ、彼に酔っていたのだ。
『気持いい、こんなことって初めて、あの時はもっと優しかった
けど、彼にこんなことされたら、私、死んじゃうかもしれない』

里香は初めての男との逢瀬に今の現実を重ねて楽しんでいた。

そんな彼女の身体を仮面の男が再び抱きかかえる。
しかし、里香はそれにも抵抗しなかった。

後ろ手に縛られ、空中に吊るされてからですら、どこか夢見心地
だったのである。


里香がやっと危機感を感じたのは、自分を見上げている仮面の男
を見た時だった。

そこには仮面の男だけではない。社長も自分を見上げているないか
……そして何より、自分の真下には鋭角な角の木材が迫っている。

「いや!!」
里香は、不安定に吊り下げられた身体をひねったり、慌てて足を
バタつかせようとしたが、すでに手遅れだった。

「いやあ~~~やめてえ~~~」
里香の陰部が尖った角材の上へと吸い込まれていく。

「いやあ~痛い」
最初の痛みは、局部が着地した痛み。

しかし、そんなものは全体の中ではものの数にもならぬほどささ
やかな痛みでしかなかった。

「いや、やめて、お願い」
下半身を晒したまま三角木馬に乗った里香の哀れっぽい声が響く。

今まさに社長と仮面の男がそれぞれ自分の右足と左足に鉄アレイ
を括り付けようとしているのだ。

「だめえ~~~」
里香は最後の最後まで叫び続けたが、無駄だった。

『痛~~~い』
重しによって、里香の陰部はさらに角材へとめり込む。

それはスパンキングのようにヒリヒリとする痛みではない。脂汗
が滲むような重苦しい痛みが、股の中から子宮、胃、肺、そして
顎の辺りへと競りあがってくるのだ。
ボディーブローの痛みだ。

おまけに、手は後ろ手に縛られ、そこから伸びるロープが天井の
滑車へと繋がっている。胸もいつの間にかブラがはずされてむき
出しに……
とんでもない格好でいたのだ。

『あたし、何してたんだろう、どうして抵抗しなかったんだろう』
里香は今頃になって思ったが、あとの祭りだった。


そんな時、里香の股座が突然……

『えっ!!!!』

驚いた里香が体勢を変えようと重心をほんの少しだけ移動させる
と、もうそれだけで……

「いたあ~~~い」
激痛が走った。

三角木馬は、微動だにしないように跨いでいても脂汗が出るほど
痛い。ただその時は、麻痺させた急所によって激痛は避けられて
いる。それが重心を代えてしまうと、上半身の体重があらためて
麻痺していない急所の一点へのしかかることになり、その瞬間は
悲鳴を上げるほどの激痛が走るのだった。

「(はあ、はあ、はあ、はあ、はぁ、はぁ、はぁ、……………)」
やがて押さえつけた急所が麻痺し始めると、鈍痛を残して激痛は
治まる。激痛は短い間だけだ。

そうやって激痛が治まるにつれ、荒い息も収まるのだが……
そうやって痛みが治まる頃になって、里香は自分の身体の異変に
気づく。
右足の太股を細く血が流れているのだ。

バージンを失った時の血ではない。純粋な擦過傷の血なのだが、
里香にはそう映らなかった。あの時の映像が、生々しく頭の中で
リピートされていく。

「(いやあ~~やめて~~~)」
本当は声に出して叫びたかったが、それができなかった。

流れる血の道を仮面の男がその舌で上に向かって、美香の股座に
向かって舐めているのが見える。

『何て、ことを……』
おぞましい光景。二度とは見たくない光景のはずだ。
仮に相手がどんな人であっても絶叫するような事態のはずだが、
彼女は仮面の男を許してしまう。

官能が、頭の天辺から、手の指先から、足の指先から、子宮へと
一気に集まり、それが今度は頭の天辺へ、手の指先へ、足の指先
へと痺れを持って返る。
身体がこれを何回も繰り返すのだ。

『ああ、私、嫌って言わなきゃ……言わなきゃいけないのに……
言えない。言えないのよ。……だって、やめてほしくないから』
里香は自問自答する。

津波のような官能に何度も洗われた彼女の理性は、身体の麻痺と
一緒に消滅してしまったかにみえたのだが……

『違いないわ。やっぱり彼よ』
恍惚の意識の中で、里香は、今、この太股を舐めているのが誰な
のか、ついに感じ取ってしまったのだった。

「(あ~~こんなことって………恥ずかしい、お義父さん(社長)
が見ているのに……死ぬほど恥ずかしいのに……やめられない。
やめて欲しくない。………ああ、なんて私はだらしがない女なの。
……でも、これって、これって、嬉しいもの……こんな幸せな事、
今まで一度もなかったんだもの)」

里香には、うめき、悲鳴をあげる外への顔のほかに……もう一つ、
内なる心の叫びあったのだ。

最後に、仮面の男によって洗濯ばさみが里香の乳頭を飾る。

「痛あ~~~い」

久しぶりに心の声を上げた里香だったが、その声は悲嘆でも哀願
でもなかった。
後ろ手に縛られた自分が目の前までやってきた彼を抱けないもど
かしさと、彼に抱いて欲しい甘えとがない交ぜになった不思議な
よがり声だったのである。

そんな少女の喘ぎ声を聞いて、社長は小さくため息をついた。
彼にとって女の子は商品。その状態の良し悪しを見極める能力が
なければ芸能社の社長は務まらない。
当然、里香の心のうちもお見通しだったのである。


ひとごこちつくと、社長が口を開く。
いまだ歓喜に頬を赤く染めた里香を見上げながら、彼はこう問い
かけたのだ。

「なあ、美香。よう~く考えて答えるんだぞ」

「は……はい」

「お前、この男が誰だかわかるか?」
社長は、仮面男の二の腕を手荒く掴むと木馬に跨る里香の足元へ
突き出す。

「それは…………」
最初、里香は考えた。

この場でアイドルの掟に背いたことを告白したらどうなるだろう。
ましてや相手は社長の一人息子。ただではすまないかもしれない。

しかし、その瞬間、真治の右手が優しく、馬を跨ぐ里香の右足に
触れと……言葉はなかったが、里香にはそれが『大丈夫だから…』
と、彼が言っているように思えたのである。

だから正直に答えた。
「真治さんです」

里香には確信があった。たとえ顔は隠していても背格好、体形、
髪のくせ、何より自分に触れる時の感触が、あの時自分を愛した
彼だったのである。

その瞬間、真治は仮面を取る。

「まったくもってけしからん奴だ。父親の商品に手をつけるとは
な……」
社長は憮然とした表情を作りかけたが、その顔は途中から笑顔に
変わってしまう。

「ごめんなさい、わたし……」
里香はそれだけ言ってあとの言葉が出てこない。

しかし、それから先の言葉は、実は必要ではなかった。
社長はすでに里香が誰かに抱かれたことを察知していたし、それ
が原因でアイドルの世界から足を洗おうとしていたことも感じて
いたのである。

ただ、つい先日、事もあろうにまだ未成年の息子から里香と結婚
したいと打ち明けられて、これには怒りを抑えられなかった。

彼は、仕事上付き合いのあるヤクザをを使って真治を監禁。親の
権限とばかりに、息子のペニスに特大の灸を据えて脅しをかけた
のだ。
ただ、すでに里香のことしか見えなくなっている息子に、そんな
脅しは効果がなかった。

そこで、こんな趣向を……
父親は、もし、仮面を着け一言もしゃべらないお前を真治さんと
呼んだら二人の仲を許してやると約束したのである。

社長親子が勝手に仕組んだ賭け芝居に勝った里香に、もう余計な
言葉はいらなかった。

木馬を下ろされた里香は、下半身裸のまま社長の前に立つ。
すると、こう尋ねられた。

「お前、真治が好きか?」

「えっ……………………」
里香はしばらく間があって頷く。

「真治も私もサディストだぞ。それでもいいのか?」

「えっ……………………」
これもしばらく間があって頷いた。

「真治はお前と結婚する気だ。だが、お前はどうなんだ。真治と
結婚してもいいのか?」

「それは…………」
言葉に詰まったが、それも結局は、頷いてしまう。

「わかった、なら、アイドルは卒業させてやる。……ただし……
うちの鉄の掟である恋愛禁止の約束を破ったんだからな。そこは
たっぷりお仕置きしないとな」

「オ、シ、オ、キ……」

「そりゃそうだ。だってお前はまだうちの所属タレントなんだぞ。
……さあ、こい」

社長は満面の笑みで里香を膝の上に迎えた。

もちろん、ノーパン。
もちろん、平手。
社長だけじゃない、息子の真治も一緒に里香のお尻を責める。

「ピシャン」
「いやあ~~~」
「ピシャン」
「やめてえ~~」
「ピシャン」
「壊れる~~~」
「壊れない壊れない、大丈夫、大丈夫、ほら、真治。未来の花嫁
の両手を押さえてやれ……」
「ピシャン」
「だめえ~~~死んじゃう」
「死んじゃうくらい今に気持ちよくなるよ」
「嘘よ~~」
「嘘じゃないって、僕が気持ちよくしてあげるから……お父さん
代わって……」
「ピシャン」
「いやあ~~痛い、痛いって~~」
「痛い、痛いも好きのうちって言うだろう」
「言わないわよ~~~」
「ピシャン」
「ああああん、だめえ~~~~」
「ピシャン」
「いやあ~~~ん」

里香のその夜は、結局、仕事もキャンセルして社長親子と三人で
スパンキング大会。
辛く辛く、楽しい宴は夜遅くまで続いたのだった。

*************************

おねしょ ~エッセイ~

  おねしょ

 僕のおねしょ最終日は小2の時。
 それ以前にも記憶がないから恐らく物心ついて以来最初で最後
のおねしょ。

 てっきり叱られるかと思ったら、意外にも連れて行かれたのは
お仕置き部屋ではなく、大学病院。
 あちこち調べられたけど、結局、悪いところはどこもなかった。
 いまだにその時のおねしょの原因はわかっていない。

 僕んちの親は心配性だからこうだったけど……
 多くの家では、おねしょなんかすると、お仕置きされることも
多かった時代なんだ。

 「こいつ、そもそも起きる気がないんだ!」
 とか言われてね……早い話が根性論。
 おねしょは病気と言うより怠け癖の一つと考えられていたんだ。

 『怠ける子には、お仕置き』
 というのが常識で、おねしょの場合は圧倒的にお灸が多かった。
 実は、これには男女差があまりなくて、女の子もけっこう被害者
だったんだ。

 大義名分は『治療』ということになってたけど、お母さん達が
聞きかじりの知識で施術してたから、どこまでツボを知ってたか
も疑問で、早い話が折檻なんだろうけど……これが、公開処刑に
なる場合も多くて……幼い日の僕が見学できたのも、一人や二人
じゃなかったんだ。

 被害者は、下は幼稚園児から上は中1のお姉さんまで色々。
 小説に書くような危ない部位はなかったみたいだけど、みんな
幼い子を連れたお母さんたちの見ているなかで晒し者にされて、
そりゃあ可哀想だった。

 家の中で父親がする折檻はあんまり他人には見せないんだけど、
母親が我が子にするお仕置きの場合は、井戸端会議みたいに近所
のおかみさん連中をわざわざ呼び集めて、さながら公開処刑みた
いになることも少なくないんだ。

 中1のお姉さんの時は、さすがに背中だったけど、それでも、
すでに胸は大きくなりかけてるわけだし……幼稚園くらいのチビ
ちゃんなら、お尻もビーナス丘も全然お構いなしだった。

 その時の僕は性欲なんてまだないから、単に『可哀想』だった
けど、これが僕のお仕置き小説の原点になってるのは確かだ。

 今さらながら、良い時代だったなあって思うよ。

***********************

見沼教育ビレッジ(番外編) ~§1 罰当番~

*** 見沼教育ビレッジ(番外編) ***
§1 罰当番

******<登場人物>**********
 新井真治/家の主人
 秋絵さん/お手伝いさん
 子供たち/高坂知美(中2)
      河合春花・森野美里(小4)
      真里菜ちゃんと明日香ちゃん(小1)
 園長先生/子供たちの小中学校の校長先生
***********************

 真治氏は施設を離れると夕方遅くいったん自宅に戻る。
 というのも、そこでまだ一仕事残っていたからなのだ。

 彼の家は高級住宅街の一角にあった。
 そこは周囲がまだプロパンガスだった時代にあって、その区画
だけ都市ガスが敷設され、水洗トイレを可能にする下水が流れて
いる。

 大きな松や槇の木が囲う彼の家は、普通の建売住宅なら五軒や
六軒も建てられるほどに広く、南欧調の外壁や青い芝生、それに
小さいとはいえプールまである。彼自慢の家だ。

 そこへ、街灯が灯る時刻になって真治氏は帰ってきたのである。

 「ああ、これから帰る。……あと5分というところかな。……
今日はお嬢さん方、来てるんだろう?……で、玄関でのお出迎え
は?……そうか二人ね?……わかった、わかった……」
 彼がご自慢のフェラーリに備え付けられた自動車電話で話すの
は、家のお手伝いさん、秋絵さんだ。

 今回、家族はみんな見沼に出かけているから、家は彼女一人に
任されていた。

 「えっ、!今日は、全部で五人も来てるの?…………なるほど、
先生を入れたら六人ね。…………こっちは大丈夫だよ。とにかく
必ず五分で帰るから、粗相のないように……」
 彼はそれだけ言って電話を切る。

 「一番上は中二か……他人の目にふれさすには、ちょいと歳が
行き過ぎてないか」
 真治氏はポツリと独り言を言ってアクセルをふかした。


 このあとは、短い道中。
 自宅に近づくと、フェラーリ独特のもの凄いエンジン音が鳴り
響くから彼のご帰還は家にいる誰にもすぐにわかった。

 「さあ、あなたたち、お仕事よ。何て言うかは覚えてるわね。
ちゃんとご挨拶するのよ」

 真治氏は車をガレージに入れ終わる頃、そんな秋絵さんの声を
聞く。

 そうやって玄関先へ回って来ると……
 案の定、その玄関先ではまだ幼稚園児くらいの女の子が二人、
手持ち無沙汰で立っていた。

 「おじちゃま、お帰りなさい」
 いずれも真治氏を見つけるとすぐに駆け寄って来て……

 一人が馴れ馴れしく抱きつき、もう一人は……
 「かばん、持ちます」
 なんてなことを言う。

 この二人、真治氏のことを『おじちゃま』だなんて読んでいる
くらいだから、もちろん彼の子どもではない。
 近くの教会に預けられた孤児たちなのだ。

 実は、真治氏。こうした孤児たちの為に、お仲間たちと一緒に
『臨時の父親』なる一風変わったボランティアをしていた。

 このボランティア、教会の子どもたちを月に一度自宅に招いて
もてなすというもので、普段なら澄江夫人や美香や香織といった
子供たちも手伝ってくれるのだが、今、自宅に帰れるのは真治氏
だけ。
 しかも具合の悪いことに彼は今週『罰当番』に当たっていた為、
どうしても自宅へ帰らざるを得なかったのである。


 『罰当番』?……
 名前だけ聞くと、まるで真治氏が罰を受けるみたいに聞こえる
かもしれないが、そうではない。
 罰を受けるのはあくまで招いた子供たちの方。
 学校や寄宿舎、それに月一回行くお招れ先などでいけない事を
した子どもたちが、教師やシスターからだけなく、外部の人たち
からも罰を与えられるという制度だった。

 「いつも顔見知りにばかりお仕置きされていると、子供たちも
慣れてしまって、お仕置きの効果が薄くなります。ここは子ども
たちの為にも、新しい刺激をお願いしたいのです」
 とは園長先生の弁。

 悪者役にさせられるお父さんたちは、当初、気が進まなかった
が、園長先生に……
 「お仕置きは愛情。こうしたことは愛情溢れるお父様方にしか
お頼みできないのです」
 と、説得されて引き受けたのだった。


 真治氏は、お出迎えしてくれた子供たちがさっさと玄関を開け
て家の中へ戻ろうとするので、試しにその短いスカートをほんの
ちょっと捲ってみた。

 すると、そこに可愛いお尻がちょこんと覗く。
 二人は慌てて自分のスカートの後ろに手をやるが……
 
 「どうした?……恥ずかしいかい?」
 真治氏が二人に笑って尋ねると、二人はそろって振り返り……
 「恥ずかしい」
 と、正直に答えた。

 約束では自ら罪を告白しスカートを捲ってお尻へのお仕置きを
真治氏にお願いするという段取りだったみたいだが、どうやら、
二人とも短い待ち時間の間に忘れてしまっているようだった。

 「そうか恥ずかしいか……でも仕方がないな、恥ずかしい事を
するのがお仕置きだから……」
 真治氏が笑うと…

 とうやら二人、真治氏のナゾに気づいたとみえて、同じように
顔がほころんだ。
 そして、さしたる躊躇もなく短いスカートを目一杯引き上げた
のである。

 ショーツを穿いていない二人だから、おへそから下は、当然、
スッポンポンだった。

 それを見て真治氏の顔がさらにほころぶ。

 「ごめんなさい」
 「ごめんなさい」
 「今日、給食の時間に喧嘩をしました」
 「あたしも喧嘩をしました」

 ちび二人はどうやらこれをやらなければならないと思い出した
ようだ。

 「そうか、……でも、今は仲良しなんでだろう?」

 「うん」
 「そう」

 「そうか、それは良かった。お友だちとは仲良しでいなきゃね」

 真治氏とちびちゃんは顔を見合わせ再び笑顔に……
 ちびちゃんたちもお臍から下を丸裸にして笑っていたのである。

 ただ、園長先生からお仕置きを頼まれている真治氏としては、
このまま解放というわけにはいかなかった。
 そこで…

 「よし、話はわかった。わかったけど、本当はそれを真っ先に
言わなきゃいけなかったんじゃないのかい?……園長先生からも
そう言われたはずだよ」

 真治氏に指摘されて二人の顔が急に曇る。
 『しまった』
 と思ったのだ。

 ただ、これは二人に悪意があったからではない。10分も前に
言われたことなど幼児は単純に忘れてしまう。
 幼児は、たとえ5分10分前であっても興味のないことを長く
意識し続けることはできないのだ。

 もちろん真治氏も子育て経験者だからそのことは承知している。
だから、この二人にも過激な事をするつもりは最初からなかった。

 彼は少しだけ恐い顔を作って、幼い二人を怯えさせると……
 スカートを持ち上げさせたまま、回れ右をさせる。
 あとは、少しだけ小さな身体を支えるようにして…

 真里菜ちゃんに三つ。
 「パン、パン、パン」
 明日香ちゃんにも三つ。
 「パン、パン、パン」
 裸のお尻を平手で叩いた。

 もちろん、これもそんなに強くは叩かない。スカートの上から
お尻の泥をはたく程度だ。

 それでも許されて振り返った時、二人は青い顔をしていた。

 「怖かったかい?」
 真治氏が尋ねると…
 「はい」
 「はい」
 と、素直な答えが返ってくる。

 でも、これはお約束の言葉。たとえ大したことのなかったお仕
置きでも良家の子女は「怖かったです」「痛かったです」「恥ず
かしかったです」と挨拶しなければならないと親や教師から教わ
るのである。

 「よし、それじゃ、スカートを下ろしてお家へ入ろう」
 真治氏が許すとたんに二人にも笑顔が戻る。

 そして、まるで我が家にお客様を迎え入れる時のように、一人
が真治氏のかばんを持ち、もう一人が彼女たちには大仕事となる
重い玄関の扉を開ける仕事を手伝う。

 微笑ましい光景のなか…
 「やれ、やれ」
 真治氏は苦笑しながら我が家の玄関を入るのだった。

 もっともこれは彼女たちが幼い為に用意された軽いお仕置き。
 年齢が上になるにつれ、お仕置きもきついものになるのは当然
のことだったのである。


 真治氏がお出迎えの二人に先導されて居間へ行くと、秋絵さん
が夕食の準備をしながら待っていた。

 「あっ、坊ちゃま……いえ、その旦那様、お帰りなさいまし…
…美香お嬢様はお元気でしたでしょうか?」
 秋絵さんはご主人への挨拶もそこそこにさっそく美香のことを
気にかけてくる。彼女が真治氏のことを今でも思わず『坊ちゃん』
と呼んでしまうのは彼がそう呼ばれていた頃から働いていたから。
 秋絵さんはこの家では家族同然だったのである。

 「ああ、あいつは強いよ。学校からいきなり施設に移したから
さぞやしょげてると思いきや、これがそうでもなかったから安心
したよ。……あげく、自分から私の跡を継ぎたいだなんて言い出
しやがった」

 「まあ、頼もしいこと。さすがは、新井家のご長女ですわ」

 「なあに、世間を知らんだけのことさ……ところで、電話では
お客さんは五人と聞いていたが、あと一人は?」

 真治氏は、すでに玄関先でお出迎えを済ませたチビ二人に加え、
居間へ来る途中、階段の踊り場で壁の方を向いて膝まづく小学校
高学年くらいの少女二人を確認している。
 ゆえに、残りはあと一人だった。

 「あと、お一人は……」
 秋絵さんはそこまで言って、少しだけ考える。
 そして……
 「あっ、その方は……ただいま、入院中なんです」
 と答えた。

 彼女の意味深な笑いは、ご主人がその謎を解いてくれることを
きっと期待してのことだろう。

 「入院中?………どういうことだ?」
 真治氏はしばし考えたが、その答えが出ぬうちに、階段を一人
の老婦人が下りてくる。

 「まあまあ、ご主人、お帰りでしたか。申し訳ございません。
さっさと上がり込んだうえにご挨拶にも遅れてしまって……私、
ちょっと、入院患者の方を看ておりまして……」

 オープンなこの家の居間は階上からも素通しだ。

 「こちらこそ、私一人しか参加できなくて……恐縮です」

 「構いませんよ。ご無理を申してるのは私どもの方ですから。
あ、そうそう、今回もう一人、高坂和美という生徒を連れて来た
のですが、あいにく風邪でふせっておりまして、ただいまお部屋
をお借りして休ませております。じきによくなると思いますので、
その時、またあらためてご挨拶させますわ」

 真治氏は園長先生と挨拶を交わし、そこで秋絵さんが謎をかけ
た入院患者の意味を知るのである。
 そもそも風邪でふせっている生徒を先生がわざわざお仕置きの
場に連れてくるはずもなく、またすぐ治るというのも不自然で…
真治氏はその場で、入院中とは『今、お仕置きの最中で会わせる
ことができない』という教会の隠語だと悟ったのだった。

 先生は白髪をなびかせ上品な笑みをたたえて階段を下りてくる。
 と、その途中の踊り場で膝まづく二人の少女に気づいた。

 「あらあら、あなたたち、まだご挨拶してないの?」

 立ち止まり、二人を見下ろしながら尋ねると……
 二人は恐る恐る首を振る。

 「じゃあ、早くご挨拶しなきゃ。……ちゃんと前を向いて……
さあ……新井のおじさまにご挨拶なさい」

 園長先生は命じたが、二人がすぐに向き直ることはなかった。

 膝まづく二人のスカートは、すでに目一杯の場所まで捲り上げ
られ、ピン留めされて下りてこない。ショーツもすでに足首まで
引き下ろされていた。
 そんな状態で前を向いたらどうなるか、誰でもわかることだった。

 二人は真治氏が自動車電話を切った直後からずっと可愛いお尻
を丸見えにして踊り場の壁とにらめっこをしていたのだ。
 真治氏がここへ帰ってくれば、当然その時はご挨拶しなければ
ならないのは分かっていたが、その勇気が出ないままに踊り場で
固まっていたのである。

 真治氏もまた、玄関を入るなり二人の姿を確認はしていたが、
この格好の子どもたちに声を掛けてよいものかどうかためらって、
結局は、先に居間へと入って行ったのだ。

 「あなたたち、ここでのお作法は教えたわよね。なぜ、教えた
通りにできないの。恥ずかしいなんて言い訳は許さないと言った
はずよ」

 園長先生は二人を見下ろし、真治氏に挨拶するよう命じるが、
時期を失していったん固まった身体がすぐに動くはずもなかった。

 「………………………………………………………………」
 「………………………………………………………………」
 二人は押し黙ったまま動こうとしない。

 これが玄関先で出迎えた幼稚園児たちなら人の体の表裏なんて
そんなに関係ないのかもしれないが、十歳を超えた少女にとって
は、とてもデリケートな問題であり、重い決断だったのである。
 といって、『やらない』というわけにもいかなかった。

 「さあ、どうしたの?あなたたち、ご挨拶もできなくなったの?
……さあ、前を向いて、ご挨拶なさい」
 園長先生にせっつかれ、二人の顔は益々青くなる。

 どうやら、二人の進退は窮まったようにみえた。
 しかし、それでも決断できない二人。

 「どうしたの?ご挨拶も満足にできないの。だったら、さらに
厳しいお仕置きもあるのよ。知美お姉ちゃんみたいに三角木馬に
乗ってみる?」

 さらに厳しく迫る園長先生の処へ今度は真治氏がやってきた。

 彼は、何も言わず二人のショーツを引き上げると……
 「さあ、これでご挨拶がしやすくなっただろう。……前を向い
てごらん」
 と、優しい声で促す。

 慌てて園長先生が……
 「いけませんご主人。これはお約束ですから……」
 と止めたが……真治氏は聞き入れなかった。

 彼の言い分は……
 「もう、このくらいの歳になったら可哀想です。私たちの時代
とは違いますから……ここでできなかった分はお仕置きに上乗せ
すればいいでしょう。夕飯が冷めますから」
 真治氏は優しく微笑んで園長先生を説得。

 「…………」
 「…………」
 二人は園長先生の顔色をしきりに窺います。

 そして、園長先生が『仕方ないわね』というため息をついたの
を確認すると、やおら前を向き、あらためてご挨拶するのでした。

 「河合春花です。本日はお招きありがとうございます」
 「森野美里です。よろしくお願いします」

 「おや、おや、こんなに可愛い顔をして……とても、こんな子
たちにお仕置きが必要だなんて思えませんけど……先生、この子
たち、何をしたんですか?」

 真治氏がその大きな手で包み込むようにして二人の尖った顎を
すくい上げると、それを見ていた園長先生が苦笑します。

 「色々ですわ。教会脇の芋畑からサツマイモを失敬したり……
図書館にある高価な本に落書きしたり……いつだったか音楽室に
あるチューバの中で蛙を飼ってたこともありましたわ。とにかく、
この子たちの悪戯を数え上げたら、今週分だけでも十本の指では
足りませんのよ」

 「そりゃあ頼もしい。男の子並みだ。私も腕白盛りの頃はお尻
を叩かれない日は一度もなかったくらいです。学校で、家で、と
毎日でした。ごくたまに一日一度もお尻を叩かれない日があった
りすると、かえって寝つきが悪かったくらいです」

 「ま、ご冗談を……」
 園長先生が手を口元に当てて笑い、春花も美里もそれには僅か
に顔が緩んで微笑んだように見えた。

 「ところで、入院患者の方は……今夜は絶食ですか?」
 「いいえ、呼んでまいります。実はまだお仕置きの最中ですの。
ただ、こうした席で食事をさせるのも、お仕置きの一つですから、
お招れさせていただきますわ……」
 「そりゃあよかった。……ところで、本日の私のお役目は?」

 真治氏が尋ねると、園長先生は緩んだ顔をいくらか元に戻して
……
 「ご見学くださればそれで……ただし、今回はお口を出さない
ようにお願いします」
 と釘を刺したのだった。


 その日夕食、テーブルを最初に囲んだのは真治氏と園長先生。
それにノーパン姿で真治氏をお出迎えしてくれた幼稚園時代から
の親友、真里菜ちゃんと明日香ちゃん。それに、こちらも階段の
踊り場で長い間待たされていた春花ちゃんと美里ちゃん。
 この六人だった。

 こうした席は、本来なら、にぎやかです。
 この催しはお招れと呼ばれ、教会の子供たちにとっては楽しみ
の一つなのです。

 『臨時の父親』を名乗るお父様のお宅へお招れした子供たちは
大歓待を受けます。
 見知らぬ家でそれまで読んだことのない本や触れたことのない
玩具に出合って、食事もご馳走です。当然、教会で食べる食事よ
り美味しいに決まってます。
 それにお友だち同士はしゃぎあっていても、少しぐらい羽目を
外していても、この日は先生も少しだけ大目に見てくれますから
この日の食事風景はどこも大はしゃぎでした。

 ですが、ここはそういった意味ではまったく違っていました。
 何しろ、ここへ来た子供たちはお仕置きの為にお招れしたわけ
ですから、他のお招れとは意味が違います。これからお仕置きと
いう子どもたちのテンションがあがろうはずもありません。

 この先お仕置きがない真里菜ちゃんと明日香ちゃんは明るい声
を響かせていましたが、四年生の春花ちゃんと美里ちゃんは口数
も少なく、どこかうつろな表情です。
 それはこれから二人にはしっかりとしたお仕置きが用意されて
いるからでした。

 そんななか、少し遅れてもう一人、このお二人さんよりさらに
深刻な問題を抱えたお姉さんが階段を下りてきます。

 ただ、彼女はすでに中学生。先生方から大人になる為の訓練を
十分に受けていますから、こうした場合も、ふて腐れたり物憂い
顔をしてはならないと自分でわかっていました。

 ですから食堂のテーブルに着く時も、ここが痛いあそこが痛い
なんて素振りは見せません。気品のある顔立ちの中に深刻な顔は
隠して真治氏の前に現れたのでした。

 「大変遅くなりました。高坂知美と申します。今晩は、お招き
ありがとうごさいました。よろしくお願いします」

 真治氏は腫れぼったい目や椅子に座る仕草を見て彼女がすでに
厳しい折檻を受けていることを見抜きますが、それ以上にその凛
とした居住まいたたずまいに感銘を受けます。

 教会の子供たちは、決してお嬢様という立場ではありませんが、
その躾はある意味お嬢様と同様、いえ、お嬢様以上に厳しいもの
だったのでした。


 夕食は秋絵さんの手料理。
 時間を掛け腕によりをかけて作った料理は近所のレストランと
比べても引けをとりません。もちろん、子供たちは大満足でした。

 『お仕置き前で食事も喉を通らないのでは……』
 などと心配した真治氏の予想を見事に裏切ります。
 子供たちは現代っ子、『お仕置きはお仕置き』『食事は食事』と
ちゃんと使い分けてるみたいでした。

 一方、食欲旺盛な子どもたちを尻目に大人たちはおしゃべりで
盛り上がります。

 話題の中心はここにいる子どもたちのこと。

 『子供たちは教会の中で、いったいどんな生活をしているのか?』
 『友だち仲は?……虐めはあるのか?』
 『学校の成績は気にしないのか?』
 などなど、真治氏としてもそれは興味津々でした。

 真治氏は残酷なまでの体罰には反対でも、体罰そのものを否定
するつもりはありませんから……
 『子どもたちが、普段、どんなお仕置きを受けてるのか』
 そんなことも園長先生にしきりに尋ねていたのでした。

 「子どもたちの生活ですか?……それは、一般のご家庭と大差
ないと思いますよ。ただ、男の子も女の子も聖職の道へ進みます
から、礼儀作法や上下関係は少し厳しいかもしれませんけど……」

 「友だち仲ですか?……教会が理想の花園でなかったら信者は
どこに行くんでしょう?ここでは仲良しで暮らすことが当たり前
なんです。子供だってそれは同じ。だから、理由のいかんを問わ
ず、取っ組み合いの喧嘩をしたらお仕置きです。それでも女の子
なので、妬み嫉みはある程度仕方がないでしょうけど……露骨な
虐めなんてしたら……いえ、やはりありえませんわ」

 「学校の成績?……多くは望みませんけど、もちろん、怠けて
いる子はお仕置きを受けることになります。……成績が落ちた罰
というより、怠けた罰を受けることになるんです」

 「どんなお仕置き?……これも一般のご家庭と大差ないと思い
ますよ。スパンキングは平手も鞭もありますし、閉じ込め、締め
出し……強い気持で子どもの胸に教訓を植えつける時は、浣腸や
お灸、晒し者にするのも選択肢の一つですわ……ただ、優しさや
愛情なしにはそんな事しませんから子供たちもついて来るんです」

 園長先生は自分の教育方針を自画自賛で説明する。

 一方、子どもたちはというと、耳の痛い大人たちの話は、極力
聞かないようにしていた。その分、食べることに集中していたの
である。

 そんな、子供たちのもとへデザートが運ばれ、『やれやれ』と
思っていた矢先のことだ。
 真治氏が、またもや彼らの食事の味を落とす振る舞いに出る。

 「ところで先生、食事の後は、どのようになさいますか?」

 すると、園長先生……
 「春花ちゃんと美里ちゃんには、お灸をすえようと思います。
日頃の『悪戯』の分も含めて、20個くらい下半身に据えれば、
お腹も温まるんじゃないでしょうか」

 園長先生の言葉はどこまでも穏やか。でも、その穏やかな言葉
の内容を二人は聞かずに済ますことができなかった。

*** 見沼教育ビレッジ(番外編)~§1罰当番~***

見沼教育ビレッジ(番外編)~§2お灸~

***  見沼教育ビレッジ(番外編) ***
§2 お灸

 夕食が終わり、つかの間の歓談。やがて……
 「では、ご主人。ご見学のほどよろしくお願いします」
 園長先生の言葉で食堂の全員が仏間となっている和室へと移動
することになった。

 春花ちゃんと美里ちゃんへのお仕置きは、ここへ来ていきなり
告げられたわけではない。子どもたち全員が学校を出る時すでに
どんなお仕置きになるかを告げられていたのである。

 つまり、真里菜ちゃんや明日香ちゃんのような幼い子はべつに
して、この家を訪ねたときには心の準備はできていたのだ。
 ただ、それにしても取り乱さない子どもたちの姿に、真治氏は
好感がもてた。昔の良家の子女はたとえ親からお仕置きされる時
でも気品を失わないように躾られている。そんな古きよき伝統が
こんな孤児院で守られていることが嬉しかったのだ。
 そこで、彼、こんな事を提案したのである。

 「どうでしょう、私が艾のいくつかに火をつけるというは……
もちろん、お仕置きに差し障りがなければ、ですが……」

 すると、先生も……
 「まあ、やっていただけるんですか。それは何よりですわ」
 と応じたのである。


 大人たちが襖を開くと、六畳の仏間にはすでに薄手のお布団が
敷かれ腰枕が二つ置いてある。そこにお線香や艾はもちろんだが、
万が一、粗相した時のためにバスタオルやパンツの着替えまで、
秋絵さんによって抜かりなく用意されていた。

 「恐れ入ります、こんなに丁寧にご準備くださって……」
 感激した園長先生が秋絵さんにお礼を言うと……

 「何でもありませんわ。うちのお嬢様も、こうしたことござい
ますから」
 という答えが……

 実際、ここの娘である美香や香織もこの薄い布団の上で必死の
形相になったことが1度や2度でなかった。

 「さあ、お二人さん。ここで裸になりなさい。残していいのは
靴下だけ。あとは全部脱いで頂戴」

 「…………」
 「…………」
 園長先生の命令にすでに正座していた二人は互いの顔を見合せ
ますが……気まずい雰囲気……

 「…………」
 「…………」
 続いて、締め切られた襖や同じように部屋の隅で正座している
真里菜ちゃんや明日香ちゃん、それに知美おねえちゃんを見ます。

 「…………」
 「…………」
 でも、もう部屋のどこを探しても『やらないですむという方法』
というのは見つかりませんでした。

 「さあ、やってしまいましょう。いくらお部屋を眺めていても
お仕置きは終わりませんよ……先程はおじさまのご好意であなた
たちは恥をかかずにすんだかもしれませんけど、私の方は大恥を
かいたの。今度はそうはいきませんよ」

 同じように正座をしていても園長先生は背筋を伸ばし凛とした
姿で上から幼い二人を睨みます。
 こうまでされては仕方がありませんでした。

 春花ちゃんが、最初に自分のブラウスに手をかけて脱ぎ始め、
美里ちゃんがあとに続きます。

 「まったく、二人とも手間がかかりますね。新井のおじさまが
ここまでご用意くださったの。今度、私に恥をかかせたら、学校
に戻ってからもう一度お仕置きのやり直しですから。……覚えて
おきなさい。……いいですね」

 園長先生は服を脱ぎ始めた二人を前にして更なるお説教です。
 対する二人はというと……

 「はい、ごめんなさい」
 「ごめんなさい」
 蚊のなくような声を出すのがやっとでした。


 二人は服を脱ぐためにいったん立ち上がりますが、靴下を除き
素っ裸になると再び正座に戻ります。
 ただ、その様子はとても落ち着かないものでした。

 両手で胸を覆い、お臍の下の割れ目を何とか隠そうとして、前
かがみになってもじもじと太股を締め続けます。
 夏のことですから裸になっても寒いということはありませんが、
とてもじっとしていられない様子だったのです。

 もちろん、胸など膨らんでいませんし、陰毛だってありません。
大人の兆候なんてまだ何もありませんが、そこは女の子でした。

 そんな二人に園長先生はご挨拶を命じます。

 「それでは、まず、こんなにも立派なお仕置きの場を用意して
下さった新井のおじさまにお礼をいいましょう。…………ほら、
ちゃんと背筋を伸ばして……『新井のおじさま、お仕置き、あり
がとうございます』」

 先生がお手本をみせて、頭をさげますと、小学生は真似しない
わけにはいきませんでした。

 「新井のおじさま、お仕置き、ありがとうございます」
 「新井のおじさま、お仕置き、ありがとうございます」

 二人は靴下以外は素っ裸。でも真治氏に向かって両手を着くと、
園長先生を真似てしっかりご挨拶します。

 庶民感覚では自分をお仕置きする親に『ありがとうございます』
なんて変ですが、これもお嬢様仕様。お嬢様の世界でならこれも
常識でした。

 「さあ、それでは、まず最初はお尻のお山からよ。お布団の上
に、うつ伏せになって……」

 ご挨拶がすむと、園長先生の指示で、二人はうつ伏せに……
 すると、今度はそれまでとは打って変わって素早く動きます。
 もうこうなったら、早くやって早く終わらすしかありませんで
した。
 
 「何だ、やればできるじゃないの」
 園長先生はそう言って艾を丸め始めます。
 その手先、手馴れたものでした。

 綺麗な円錐形になって艾が七つ八つあっという間にお盆の上に
並べられ、まず最初の二つが二人の左のお尻の山へ乗ります。

 「……!……」
 「……!……」
 据えられた経験のある二人、もうそれだけで背筋に電気が走り
ました。

 「あなたたちの悪戯には、私もほとほと手を焼いてきたけど、
今日はいい機会ですからね、新井のおじさまに据えて頂きます。
私なんかと違って、それはそれは熱いですからね。噛み枕を口の
中に入れて、それをしっかり噛み締めて熱さに耐えるんですよ。
わかりましたか?」

 「…………」
 「…………」
 二人の少女は明らかに動揺していました。

 『先生の普段やっているお灸より熱いって……どのくらい大変
なんだろう』
 取り乱した様子は見せなくても心配で心がパニックに……。
 当然ご返事も遅れてしまうのです。

 「どうしました?ご返事は?」

 園長先生に少し強い調子で命じられて二人は我に返ったみたい
でした。

 「はい、先生」
 「はい、先生」

 真治氏の仕事は艾に火を移すだけのことですから、誰がやって
も結果は同じ。彼がやったからって特別熱いなんてことはありま
せんが、信頼している園長先生の言葉ですから幼い二人は素直に
信じます。
 嘘も方便。お仕置きとしては好都合でした。

 やがて、真治氏が火のついたお線香を持ってまずは春花ちゃん
のお尻へと近づきます。
 艾の乗った付近を少し摘み上げてお線香の火を艾へと移すと、
それはあっという間に下へと降りていきました。

 「い~~~~ひ~~~~だめえ~~取って、取って、取って、
いやあ~~~ん」
 両足を必死にバタつかせ、噛み枕を吐き出して、腰を振ります。

 でも、春花ちゃん、学校や寮ではこうではありませんでした。
 幼稚園時代からお転婆娘だった彼女はお灸の経験だって一回や
二回じゃありません。ですが、逆にその事で熱さに慣れてしまい、
最近では、『鞭のお仕置きなんかよりこっちの方が楽よ』なんて
涼しい顔で友だちに吹聴していたくらいでした。

 もちろん艾を大きくすれば一時的に効果は上がるでしょうが、
そのぶん痕も大きく残ります。ですから園長先生はそのことには
否定的だったのです。

 それが今回……
 大人の男性からいきなりお尻の肉を摘まれたショックと熱い火
の玉の痛み、おまけに園長先生から『特別熱い』なんて脅されて
いましたから、熱がる姿もそりゃあ尋常じゃありませんでした。

 園長先生としては大成功というわけです。
 園長先生は穏やかな笑顔を見せて真治氏に会釈します。それは
協力してくれたことへの無言のお礼でした。

 さて、次は美里ちゃんです。

 美里ちゃんは、春花ちゃんのお友だちでしたが、春花ちゃんに
比べればおとなしい子でした。
 ですから普段から威勢のいい事ばかり言っている春花ちゃんの
狼狽ぶりを間近に見てショックを受けます。

 お尻から太股にかけて鳥肌がたち全身が小刻みに震えています。

 『どうしよう』『どうしよう』
 お灸を据えられる前からうろたえているのがよく分かりました。

 もうこれなら、十分にお仕置きの効果ありです。あえてお灸を
据えなくてもよくいらいですが、園長先生は、それでも真治氏に
艾への点火を依頼します。
 それは、美里ちゃんだけ許してしまうと春花ちゃんがひがんで
女の子の友情にひびが入りかねないからでした。

 ただ……

 「ひ~~~~~~~」
 美里ちゃんは、お手玉のような噛み枕を吐き出すこともなく、
必死に熱さに耐えて頑張ります。

 いえ、そうやって美里ちゃんが頑張れたのは、園長先生が春花
ちゃんの時よりほんの一瞬早く、艾をその親指でもみ消したから
でした。

 『この子は反省できた。お仕置きは終わり』というわけです。

 ただ、この一箇所だけでお灸のお仕置きが全て終了というわけ
ではありませんでした。

 今度は、右のお尻のお山に据えられます。

 「い~~~~ひ~~~~だめえ~~取って、取って、取って、
いやあ~~~ん」
 春花ちゃんは再び悲鳴を上げます。
 二つ目のお灸もそれで慣れるということはありませんでした。

 「う~~~~~~ひ~~~~~~~」
 美里ちゃんもそれは同じです。

 さらに……

 「さあ、今度はここ。いつもあなたたちが熱い熱いって泣いて
るお尻のお骨にいきますからね。今まで以上に頑張らないと……
お漏らしすることになるわよ」

 園長先生はそう言って二人の尾てい骨を人差し指でグリグリ、
加えて割れ目の中にまで手を入れてオシッコの出口をグリグリ、
真治氏すら赤面するようなことを、同性の強みでさらりとやって
のけます。

 たしかに、尾てい骨へのお灸は熱いみたいで……過去、幾度も
お漏らしする子がいました。

 「いやあ~~~ごめんなさい!もうしません、しません」
 「だめえ~~~あつい、いや、いや、いや、お願いやだあ」

 二人とも噛み枕を吐き出して布団をバタ足で蹴り続けます。
 こんなことはお尻のお山に据えられていた時はなかったことで
した。


 と、ここまでは真治氏もある程度予測していた。
 というのも自分の娘たちにも同じようなことをしていたからだ。

 今の娘は、自分のお尻を見ず知らずの人に見せることに抵抗が
ないみたいだが、当時は、そんなこと、親が心配する必要がない
ほどありえなかった。
 だから、逆に、ここに小さな火傷の痕があったとしても、親は
さして心配しなかったのである。

 しかし、園長先生は二人をいったん正座させると、二人にさら
なるお仕置きを命じる。

 「少し落ち着いたら、前にも据えていただきましょう。まずは
春花ちゃんから……今度は仰向けになって寝なさい」

 真治氏は、何気に言い放った園長先生の言葉に驚いた。
 『えっ!?この子たちはそこもやるのか!』

 女の子の前とは、おそらくお臍の下、ビーナス丘あたりを指す
のだろうが、そこは子宮のある場所でもある……そこへの施灸は
さすがに女の子には可哀想だと感じられたのだ。

 ただ、覚悟を決めてお布団の上に寝そべっている春花ちゃんの
その場所にはすでにしっかりとした灸痕が刻まれている。すでに、
何度か経験があるようだった。
 となると、いったん引き受けたからには『これは嫌です』とは
言いにくかった。そこで……

 「先生、実は私、あの場所への施灸は経験がないのです」
 園長先生の耳元まで行って囁く。

 「大丈夫ですわ。艾はこちらで用意して乗せますのでご主人は
お線香の火を艾に移してくださればよろしいかと思います。後は
こちらで処理いたします。大事なことは、この子たちに男性から
お灸を据えられる恥ずかしさを体験させることですから……熱さ
じゃありませんのよ」

 先生もまた、子供たちにさえ聞こえないような小声でこう囁く。
 真治氏、やらないわけにはいかなかったのである。

 今までとやり方は同じ。園長先生がご自分で整形した艾を施灸
の場所へと乗せていく。
 ただ、今度はお尻と違い、艾が乗せられところ火をつけられる
ところを子供たちは目の当たりにするわけで、それだけでも十分
に辛い罰だった。

 「さあ、しっかり踏ん張りなさい」

 今度は園長先生ご自身で春花ちゃんのビーナス丘のその場所を
摘み上げる。

 「お願いします」

 真治氏は園長先生の言葉を受けて、その盛り上がった丘の天辺
へお線香の赤い頭を近づけた。

 「……あっ、熱い……いや、いや、だめ~だめ~」
 顔を歪ませ、眉間に皺を寄せて必死に耐える春花ちゃん。
 彼女が激しく泣き叫ばなかったのは、むしろこうした事に慣れ
ているからだろう。

 「はい、先生、ここにもう一つ」
 園長先生は、そのたびに真治氏を呼んで火をつけさせ、終れば
またすぐ隣りに次の艾を乗せていく。

 お尻の艾に比べればこちらの艾は小さいが、春花ちゃんのそれ
だって狭いお庭なわけで、そんな処に、春花ちゃんは結局六個も
お灸を据えられるはめになったのだからたまったものではない。
 抓られた赤みとお灸の熱による赤みで最後は全体が真っ赤々に
なっていた。

 「春花ちゃん、お臍の下がカイロを乗せたみたいに今でも暖か
いでしょう」
 園長先生は春花ちゃんが頷くのを確認すると…
 「しばらくはそうやってじっとして反省してななさい。絶対に
触っちゃだめよ。綺麗に治らなくなりますからね。わかった」

 先生は、再度春花ちゃんが頷くのを確認して今度は美里ちゃん
に取り掛かる。

 こちらは春花ちゃんの様子を見ていて怖気づいたのか、すでに
最初からべそをかいていた。

 すると、園長先生、タオルで美里ちゃんの涙を拭きながらも、
それを叱るのだ。
 「何ですか、こんなに大きな子が、お灸のお仕置きくらいで、
めそめそしたりして……そんな顔しないの。……お仕置きをして
いただく新井のおじさまに失礼よ。ほら、もっとシャキッとしな
さい。……先生がいつも言ってるでしょう。あなただって下級生
から見ればお姉さんなの。……泣けば許されるという歳ではあり
ませんよ」
 園長先生は、気の弱い美里ちゃんにあえて冷たく言い放つのだ
った。

 一方、真治氏はというと……
 その頃この座敷の隅で正座して妹たちのお仕置きの様子を見学
させられている高坂知美の姿を見ていた。

 『彼女もきっとこんなお仕置きを受けて育ってきたんだろう。
身じろぎ一つしないというのは驚くに値しないということなんだ
ろうなあ。……今の彼女はどんなお仕置きをされてるんだろう?
……今は、もっと厳しいこと、されてるんだろうなあ』

 そう考えると、彼女がお仕置きされている様子が目に浮かぶ。
 その妄想はもうお仕置きの域を超えてSMだったのである。

 とはいえ、真治氏にそんな趣味があるわけではない。彼にして
みたら春花ちゃんだけでも十分に後ろめたい気持でいたのだ。
 ただ今までの行きがかり上、美里ちゃんに対してもやってあげ
なければいけないと思っていたのである。


 園長先生と真治氏のコンビで再びお灸の折檻が始まります。

 「いやいやいやいや、だめ、熱い熱い熱い…………あああ~ん、
またまたまた、ごめんなさいごめんなさい、いやいやいや、もう
しませんから~~~…………いゃあ~~死んじゃう死んじゃう」

 美里ちゃんはビーナスの丘が真っ赤に染まるまで悲鳴や泣き言
を言い続けます。でも、それは春花ちゃんに比べればまだ小さな
声でした。

 つまり、大人たちに向かって許し請うために叫んでいたのでは
なく、自分を励ますために叫んでいたのです。
 幼い彼女でも今さら泣き言を言って園長先生が許してくれない
ことぐらいは分かります。
 でも、何か言ってないと耐えられなかったのでした。

 いずれにしろ、真治氏はほっと胸をなでおろします。
 『やっと終わった』
 そう思ったに違いありません。

 ところが、ところが……

 「さあ、では最後に、お股の中にも一つすえますかね。二人共
いつもの姿勢をとって頂戴」

 園長先生に命じられて、二人は反射的に両足を上げようとしま
したが……どちらからともなく途中でやめてしまいます。

 「さあ、どうしたの?いつもの姿勢って忘れちゃったかしら」

 園長先生は、再度促しますが、今度は足を上げようとしません。
それどころか、今据えられたビーナスの丘まで両手で覆ってしま
ったのでした。

 原因はただ一つ。二人は途中でこの部屋に真治氏がいることを
思い出したのでした。
 いつものように園長先生やシスターだけなら問題はありません
でした。だって、そこには女性しかいませんから。どんな大胆な
ポーズにもなれたのです。

 「あら、急に恥ずかしくなっちゃった?……困ったわねえ……
いいこと、あなたたち。……ここへあなたたちを連れて来たのは、
あなたたちに恥ずかしいお仕置きを受けてもらおうと思ったから
なの。教会には普段男性がいらっしゃないでしょう。お仕置きで
あなたたちを裸にしても、おしゃべりしたり、走り回ったり……
女の子がそれじゃいけないから、ここに連れて来たの。……でも、
そんなに恥ずかしいなら、こちらもやり甲斐があるというものだ
わ。……さあ、さっさと足を上げてごらんなさい」

 園長先生は再度命じます。
 もとより、子供たちがこれに従わないはずがありませんでした。

 恥ずかしさいっぱいの姿勢。
 よくお母さんが赤ちゃんのオムツを換える時にさせるあの姿勢
です。

 幼い二人にとってもそれが恥ずかしくないはずがありませんで
した。

 さすがに心配になった真治氏が尋ねます。
 「今度はどこにお据えになるんですか?」

 「どこって、会陰の真ん中ですよ」

 あまりにあっけらかんと言われて真治氏は思わずのけぞります。
 「…………」

 無言のままでいる真治氏に代わって園長先生が説明します。
 「男の子だって、オチンチンに据えたりするでしょう。あれと
同じことですわ」

 「熱くないんですか?」

 「もちろんお灸ですから熱いですけど、特別熱いわけではない
んです。そのあたりも男性と同じですわ。あくまで皮膚の上から
据えるわけで、粘膜にはさわりませんから………何より、そこは
据えた痕が人目につかないでしょう。そういった意味でも好都合
ですの」

 「なるほど……」
 真治氏は園長先生との会話を成立させる為に相槌をうちますが、
本当は目がくらみそうでした。

 そんな、真治氏の様子がわかったからでしょうか、園長先生は
こうも付け加えるのでした。
 「女性は、お仕置きをするのもされるのも恐らくは男性よりも
好きなんです」

 「えっ!?」

 「どうしてだか分かります?」

 「………いえ」

 「苦痛も愛の一部だと感じられるから………だって、女性には
自分の身体以外に愛を感じる場所がありませんもの。愛する人の
行いは撫でられてもぶたれても同じことなんです。それはこんな
幼い子でもやはり同じなんですよ。女性にとって大事なことは、
その人を愛しているか否かだけ。何をされたかは、実は話の種に
過ぎないんです。私の場合も普段この子たちが私を慕ってくれる
から、お仕置きとしての愛が成り立つんです」
 園長先生は相変わらず意味深なことをさらりと言って笑うので
した。


 園長先生はこのあと、秋絵さんや知美さんにに手伝わせ、二人
にお股を開かせてそこにお灸を据えましたが、真治氏もさすがに
これだけには参加しませんでした。
 理屈はありません。強いてあげれば紳士のたしなみということ
でしょうか。

 でも、真治氏は二人がお股の中を焼かれるのを見ながらこうも
思うのです。

 『もし、これが美香や香織だったら、私だってやったかも……
結局は信頼の問題…………お仕置きは愛……かもしれんな』
 と……

*** 見沼教育ビレッジ(番外編)~§2お灸~***

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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