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御招ばれ <第1章> 「 第 1 回 」

    御招ばれ <第1章> 「 第 1 回 」

 *** 前口上 ******
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。
  あくまで私的には……ということですが(^◇^)

あ、それと……当たり前ですけど、一応、お断りを……
*) これはフィクションですから、物語に登場する団体、個人は
  すべては架空のものです。実在の団体とは関係ありません。


 *** 目次 *******
  <第1回>(1)~(6)  /いつもの大西家へ
  <第2回>(7)~(11) /お浣腸のお仕置き
  <第3回>(12)~(17)/鞭のお仕置き


 ***< 主な登場人物 >***************

 春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
     レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
     遥との間につくった隠し子。
 美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
     するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
     植松大司教が芸者小春に産ませた子。
      二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
     預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。

 大西泰幸……中世史の研究をする大学の先生。実の子はすでに
    医者として独立、『茜』という養女をもらっているが、
    春花や美里も養女にしたいという希望を持っている。
 大西一枝……大西泰幸の妻、専業主婦。茜を厳しく躾けるが、
    茜は彼女を慕っている。
 大西茜……大西泰幸の養女。13歳で春花や美里よりお姉さん
    だが、楚々とした感じのお嬢さんとして躾けられている。
 高瀬先生……古くから大西家に出入りしているお医者様。特に
    子供達へお仕置きがある時は浣腸や導尿などでお手伝い
    もする。
 明子さん……長い間大西家に仕えている住み込みの女中さん。
    大西家の生き字引。

 **************************


 御招ばれ <第1章>(1)

 聖園学園は孤児達の施設。ここに預けられた子たちは、ここで
寝起きをして同じ敷地内にある学校に通って、そしてまた戻って
来ます。つまり、普段の孤児たちはこの孤児院を一歩も出ること
なく暮らしていました。
 ですから……

 「退屈よね」
 「やることないもんねえ」
 ということになります。

 春花と美里はともに11歳。とっても仲の良いお友だちです。
そして、何よりちょっぴりお転婆で、ちょっぴり悪戯好きの少女
たちでした。
 今日も、最初のうちは自分たちの部屋がある二階の手すりから
一階のピロティをただぼんやり眺めていましたが……

 「ねえ、1階、誰もいないみたいよ」
 春花が言えば……
 「じゃあ、やる?」
 美里が答えます。

 「よし」
 二人は躊躇なく一階と二階を繋ぐ緩やかにうねった螺旋階段の
手すりへとやってきます。

 そして、何のためらいもなく、自分たちの身の丈より高いその
手すりへよじ登ると、そこには、ちょうど彼女たちの可愛いお尻
だけを受け入れる木製滑り台が一基、一階へと降りています。

 「ヤッホー」
 「行け、行け」

 春花が先頭、美里が続きます。
 一階の広いピロティを目指して出発です。

 しだいにスピードが上がり、カーブのたびに身体が振られます。
スリル満点のジェットコースター。パンツに摩擦熱が伝わって、
それも心地よいことでした。

 「やったあ!」
 「大成功」
 二人がそう言って声を上げた直後です。

 滑り台も最後の短い直線。あとは華麗にジャンプして着地する
だけ、という処まで来て……

 「ヤバっ……」
 春花の目の前に誰かが立ちふさがったのでした。

 「え~~~」
 後ろの美里もすぐにその異変に気づきます。

 「はい、ここまでよ」
 その人は、せっかく楽しんでいた二人の滑り台をここで止めて
しまいます。

 「降りなさい。何度も言ってるでしょう。もし、落ちたらどう
するの。下の床は大理石、大怪我だわ」

 その人は林先生と言って子供たちが住む寮の舎監の先生でした。
普段は優しい先生なんですが、それはあくまで規則を守る子だけ。
規則を破る子には、逆に容赦がありませんでした。

 というわけで、先生は二人を大階段に並べて立たせると……
 「スカートをあげて」
 と命令します。

 本当は二人とも「そんなの嫌です」って言いたいところですが、
ここでそんな駄々をこねると、次は、鞭、浣腸、お灸…お仕置き
はどんどんエスカレートしますから従わざるを得ませんでした。

 すると、目の前に現れた白いショーツを、先生は当然とばかり
に脱がします。そして……
 「二人とも反省の壁の前へ行って膝まづきなさい」

 反省の壁というのはマリア様の像が高い場所に飾られている壁
のこと。二人はマリア様が見下ろすその場所に行って、壁の方を
向き膝まづかなければなりません。
 でも、こんなこと、この学園ではよくあることでした。

 そして……
 「二人ともスカートを上げなさい。もし、私が見に来たときに
お尻が隠れていたら、次は寝る前に鞭を与えます。お尻がシーツ
に摺れて痛い思いをしたくなかったら、真面目に罰を受けない」

 「………」
 「………」

 「いいですね」
 二人が黙っているので林先生の声が大きくなります。

 「はい」
 「はい」
 蚊の泣くような声。林先生はそんな二人の心細い声を聞くと、
その場を離れたのでした。


 二人は、背後に林先生がいなくなったことをおっかなびっくり
後ろを振り向いて確認すると、またおしゃべりを始めます。

 「あ~~あ、今日は調子よかったから、最後のジャンプは3m
くらい飛べた気がするんだけどなあ」
 「3mって?」
 「だからさあ、床にあるモザイクの聖人の頭くらいまでよ」
 「無理よ無理、そんなに遠くまで飛べないわよ」
 「そんなのやってみなきゃわからないでしょう。今度は、蝋を
塗ってみようと思うの。絶対、もっとスピードが出るはずだわ」
 「そんなことして、また林先生に見つかったらどうするのよ。
この間の典子みたいに中庭に素っ裸で立たされるわよ」
 「大丈夫よ、ばれないようにするもの」

 二人はその時までお互いスカートの裾を捲り上げて話していま
した。もし、ふいに林先生が現れてもいいようにです。
 ところが、ここで、玄関先から男の人たちの声がします。

 「……(えっ!)」
 「……(うそ!)」
 二人は言葉にこそ出しませんが、心の中は緊張します。
 むしろ言葉に出せないほど緊張していたと言うべきかもしれま
せん。

 実は、女子修道院といっても100%男子禁制ではありません。
ミサには司祭様がおいでになりますし、あの忌まわしい金曜日の
懺悔聴聞だって取り仕切るのはいつも男性の聖職者です。

 でも、これらは聖職者であり顔見知りの人たちですから、まだ
よかったのです。でも、今聞こえているのはそれらの人たちとは
明らかに違う声。聞き覚えのない男性の声がいきなり外から聞こ
えてきたのでした。

 「これは凄い、ステンドグラスの天窓が見事だ」
 「全体ロココ調ですね。その時代の創建でしょうかね」
 「祖父の住まいをそのまま残して孤児たちの寄宿舎にしており
ます」
 「ほう、ここが孤児の寮ですか。驚いたなあ、やはり伯爵とも
なるとスケールがでかい」
 「へえ~そうでしたか。道理で立派な建物だと思いましたよ。
でも、氏素性の知れない孤児にはもったいないんじゃないですか」
 「いえ、いえ、これも神の思し召しです。孤児といえど神から
使わされた大切な子どもたち、粗末に扱う理由にはなりません」
 「(ハハハ)いや、これは失礼。お立場も考えず……どうやら
私は徳が足りんようですな」
 「そんなことはございませんわ。でも、こうした恵まれない子
たちの面倒を一晩でもみていただけるなら、それは神様に多くの
徳を積むことになりましてよ」

 大勢の見知らぬ紳士たちを引き連れて院長先生が玄関を入って
きます。

 「(ヤバイ)」
 「(ヤバイ)」
 すると、とっさに二人とも持ち上げていたスカートの裾を下ろ
しました。

 林先生から何を言われたか、忘れたわけではないでしょうが、
女の子ですから、これはもう生理的にやむを得ないことでした。

 その集団は壁を向って膝まづく二人の少女たちに気づいていま
したが、紳士のたしなみとして見てみぬ振りをして通り過ぎよう
とします。
 ただ、その時の話題はというと、やはりそのことでした。

 「最近は男女同権とやらで、娘が増長て困りものです。何か、
妻に任せず何か新しいお仕置きを考えないと……」
 「同感、同感、うちにも娘がいますが、ちょっと甘い顔をする
と、すぐにつけあがりましてな。困ったものです。」
 「うちはここと同じですよ。二階へ行く階段の踊り場で、こう
やって膝まづかせるんです。……そうか、うちはもっと凄いな。
パンツを剥いでスカートを上げさせますから」
 「そりゃあ凄い。家庭ならではですかな?」
 「当たり前じゃないですか。よそ様の処でそんなことしません
よ。家にかえってから、たっぷりオシオキです」
 「おおお、こりゃあ厳しい。(ハハハハハハ)」

 紳士の集団は高笑いを残して奥へと去って行きましたが、二人
は生きた心地がしませんでした。
 と同時に、二人は林先生の言葉をすっかり忘れてしまっていた
のでした。


***********(1)***********


 御招ばれ <第1章>(2)

 二人は、大人たちがいなくなったピロティで再びおしゃべりを
始めます。

 最初は膝まづいたまま小声で……

 「びっくりしたあ」
 「びっくりなんてもんじゃないわよ。心臓が止まるんじゃない
かと思ったわ」
 「林先生、今日が御招ばれの日だって知っててこんな事させた
のかなあ」
 「さあね、でも、もしそうだったら相当な悪魔ね」
 「悪魔?それはちょっと可哀想よ」
 「どうしてよ。私たち、危うく死ぬまでずっとみんなに言われ
そうな大恥かくところだったのよ」
 春花の声が高い天井から跳ね返って戻ってきます。

 御招ばれの日というのは、その名の通り、孤児たちが一般家庭
に御招ばれする日のことで、月に一度、土曜日の午後出掛けて、
日曜日の午後学園に帰るスケジュールでした。

 招待するのは日頃から聖園学園を援助している後援会の人たち。
 もちろん、いずれも身元の確かな人たちでした。

 二人は同じ姿勢に疲れたのでしょう。春花が足を崩してあぐら
座りをすると、美里もすぐにマネをします。

 そうやって楽な姿勢になると、二人の会話は段々と声が大きく
なっていきます。
 でも、本人たちはそのことに気づいていないようでした。

 「だいたい、林先生って、結婚したことあるの?」
 「さあ、分からないわ。でも、普段は「私は神様と結婚したの」
なんて言ってるじゃない」
 「そんなの嘘よ。嘘に決まってるわ。きっと、男に捨てられた
のよ。だいたい見たこともない神様とどうやって結婚するのさ」
 「それは……」
 「あの曲がった性格は、誰からも相手にされなくて、仕方なく
修道院に来たよ。やけっぱちなのよ。決まってるわ」

 と、その時でした。

 「誰がやけっぱちなの?」
 二人の頭のはるか高いところから林先生の顔が現れます。

 二人は慌てて壁の方を向いて膝まづきますが、当然のことなが
ら手遅れでした。

 「おあいにくね、私は、男性に捨てられたからでも相手にされ
なかったからでもないの。純粋に神様のもとで暮らしたいから、
ここへ来たのよ。それ以外にシスターになった理由なんてないわ。
あなたたちも、そんな他人の心配してるより、まずは自分たちの
心配をした方がいいんじゃないかしら」

 林先生の忠告に二人は期せずして唾を飲み込みました。

 「あなたたち、このままじゃ、夜の鞭のあとは這ってベッドに
戻ることになるわよ」

 厳しい鞭打ちを暗示する言葉。実際、そんな子の噂はあちこち
で耳にしますから……

 「(ヤバイなあ)」
 「(嫌だなあ)」
 林先生の言葉は二人の背筋を一瞬にして凍らせるのでした。

 ところが……
 「と、言いたいところだけど、今日は御招ばれの日ですからね。
特別に許してあげます。ただし、これに味をしめて、また同じ事
を繰り返すようなら、お招ばれは中止して、お仕置きに切り替え
ますからね。そこいらは、よ~~~く、覚えておきなさいね」

 林先生はこう言って二人を解放してくれたのでした。

 「やったあ~」
 「ラッキー」
 二人は小躍りして食堂ホールへ向かいます。

 もうその時は、『また同じ事をやったらお仕置き』なんていう
林先生の言葉はすっかり忘れていたみたいでした。


 食堂にはさっき危うくお尻を見られそうになった大人たちの他
にもたくさんの紳士淑女たちがにこやかに語らっていました。
 彼らはこの週末ここの孤児たちを自宅に泊めるボランティアを
していたのです。

そして、そのお招ばれに出かける子どもたちもまた、普段より
ちょっぴりおめかしをしてすでにスタンバイしています。

 まだ経験の少ない下級生は、日頃面倒をみてくれるシスターが
一緒に着いていってお泊りさせますが、慣れてる上級生や中学生
はすでに品定め、お金持ちで、ハンサムなおじさんのいる家庭で
週末を過ごしたいと夢を膨らませていたのでした。

 実際、ボランティアの人たちは孤児を自宅に招くと精一杯歓待
してくれますから、日頃孤児院では出ないような料理を食べられ
るだけでも孤児たちにはメリットがある催しだったのです。

 特に、春花と美里の場合は……

 「先生、遅れてごめんね」
 美里が、静かに座っている大西先生の首っ玉に、いきなりしが
み付けば……
 「先生、夕食は何出してくれるの?私、今夜はビーフシチュー
がいいなあ」
 春花は、ちゃっかりそのお膝に腰を下ろすと、今夜の夕食まで
オーダーしています。

 二人にとってこの紳士はすでに他人ではありませんでした。
 五月の連休に初めて出会ったカップルでしたが、以降は月一回
この催しが開かれるたびに大西先生が必ずこの二人を指名します
から、二人も大西先生と急速に親しくなっていきます。

 この夏休みには、十日間のお泊まりまで経験していましたから、
今ではまるで家族のようにじゃれあう関係になっていたのでした。

 ただ、この日の大西先生は一つの重大な判断をしてここに来て
いました。
 ですからその事を率直に二人に告げます。

 「実はね、君たち二人を私の養女に迎えたいと思っているんだ」

 「養女?」
 「私たち、先生の娘になるの?」

 「そうだ」

 「私たち、先生をお父さんって呼ぶんだよね」
 「おばさんがお母さんで…茜さんはお姉さん?」

 「そんなになるのは嫌かい?」

 「それは……」
 美里は口ごもりましたが……
 「大丈夫だよ、私は……おじさん優しいもの」
 春花は即答します。

 「ただ、今、決めなくていいんだ。……実を言うとね。今日、
私の家に二人を行っていったら、君たち二人が『養女なんて嫌だ』
って言いだすんじゃないかと思って心配してるんだよ」

 「どうして?……私、おじさん好きだよ」
 「私だって、おじさん好きだよ。おばさんも、茜ちゃんも……」

 「ありがとう、春花ちゃん、美里ちゃん。だけどね、今までの
お泊りは、君たちはお客さんだったんだ。お客さんには良い思い
で帰って欲しいだろう。だから、みんな優しく接してきたけど、
もし、君たちが僕の家族になったら、優しい事ばかりじゃなくて、
厳しいことだって起こるんだ」

 「どういうこと?」
 美里は首を傾げましたが、春花にはその意味がすぐに理解でき
たみたいでした。

 「お仕置きね」

 「えっ!」
 美里は慌てて春花の顔を見ます。
 だって、これまでそんな事一度もなかったことだからでした。
自分たちがぶたれたことはもちろん、茜さんがお仕置きされてる
ところも見たことがありませんでした。

 でも、大西先生は、『もし養女になったらそれもあるんだよ』
と警告したのです。

 「茜の奴、今日、ちょっとしくじりをしてね。お仕置きをする
予定でいるんだ。今までだったら、そんなこと君たちがいる間は
避けてたんだけど、今回はそれを見てもらおうと思ってるんだ。
当然、気持の良いものじゃないよ。でも、もし私の娘になったら、
嫌でもそうしたことは出てくるからね。普段通りの生活をやって
みて、それでも、私の処へ来たいなら、喜んで受け入れるけど、
もし、それを見て、こんな処は嫌だと思ったら私の娘になる話は
断ってもいいんだ」

 「…………」
 美里はいきなりの重い決断に口を開きませんでしたが……
 「それって……もし、私たちが養女になったら、やっぱり、茜
さんと同じお仕置きを受けるってことですよね」
 春花の方がむしろ冷静でした。

 「そういうことだ。だから、おじさんとの関係も今日で終わっ
てしまうかもしれないけど、あとで『こんなはずじゃなかった』
って言われたくないからね。あえて、正直に本当の処を君たちに
見てもらおうと思うんだ。……どうだい?……着いて来るかい?」

 こんな事をわざわざ宣言されてしまうと、二人ともまだ子ども
ですから、そりゃあ怖気づいてしまいますが、そこへ、林先生が
やってきました。

 「どうしたの?良いお話よ。あなたたちはまだ子供で知らない
でしょうけど、先生はこのあたりでは有名な学者さんなの。実直
で信頼も厚い町の紳士なのよ。実直な方だからこそ、本当だった
らしなくてもお仕置きの話までなさって、あなたたちを迎えよう
としてるんでしょう。そんな人に、『養女に…』って誘われたら、
断る手はないわね」

 林先生にそう言われると二人の心は動きます。
 実際、お仕置きは大人の専権事項。養子に迎える子どもにわざ
わざ断りを言う大人なんて他にいませんでした。

 「……はい」
 春花は少し唇を噛んでいつも通り大西先生のお家へ行く返事を
します。
 「……私も……」
 美里も答えます。こちらの乗り気はいま一つでしたが、ここで
春花と別れて週末を独り寮で暮らしたくないという思いが強くて、
この日は渋々OKしたのでした。


**********(2)************


 御招ばれ <第1章>(3)

 二人は車寄せに止めてあった大西先生のベンツに乗り込みます。
事情は他のお友だちも同じでした。春花や美里のように定まった
里親がいない場合でもくじを引いて誰かしらが子供たちを自宅に
招待してくれます。中には、それほど裕福ではない家庭も含まれ
ていましたが、大人たちは自分たちにできる精一杯のもてなしを
してくれましたから、子供の方からその招待を断ることはできま
せんでした。

 二人と大西先生との出会いも最初はクジ引きですからまったく
の偶然だったのです。ですが、二回目からは先生の方からご指名
が入ります。
 子供たちも優しく迎えてくれる先生のお宅が気に入って、その
関係が今に続く事になるのですが、それは大西先生の暮らしぶり
がセレブだったからではありませんでした。

 大西先生、たしかにベンツには乗っていましたが、その愛車は
かなりの年代物で、二人が座る後部座席のシートにはすでに穴が
あいています。
 二人は、飛び出してきたスプリングでドレスを破かないように
注意しながら座っていなければなりませんでした。

 到着したお宅もそうです。緑の木々に囲まれた古い洋館はちょ
っと見は趣のある建物なのですが、決して映画のロケに出てくる
ようなピカピカの豪邸ではありませんでした。
 建てた年代があまりに古すぎて、住むにはむしろちょっと問題
がある建物だったのです。

 板張りの廊下は普通に歩くだけでギシギシと音をたてますし、
木枠のガラス窓からは隙間風が入り込みます。本来なら壁に埋め
込まれているはずの電気の線やガス管も、壁や天井をむき出しの
まま這い回っていました。

 でも、そんな事、子供の二人には関係ありませんでした。
 いえ、今となってはむしろこここそが懐かしい我が家といった
感じで、ドアに取り付けられた少し緩んだ真鍮のドアノプを勢い
よく開け放つと、奥に通じる廊下を駆け抜けて行くのです。

 「おばさま、お招きありがとうございます」
 「おばさま、お招きありがとうございます」

 競争するように奥へとやってきた二人は居間にいらした先生の
奥様にさっそくお礼を述べます。
 この挨拶は院長先生に習ったものでしたが、今では「ただいま」
という言葉と同じでした。

 「あら、いらっしゃい」
 と、先生の奥様が……
 「いらっしゃいませ」
 茜お姉様もご挨拶を返します。

 でも、二人がお上品なのはたったこれだけ……
 そっそく二人のおやつのために用意されていたオレオとココア
をテーブルに見つけると、菓子盆に手を伸ばして鷲づかみ……

 「やったあ」
 「わたしも……」
 後はソファーで跳ね回ります。

 すでに自宅気分というか、躾けも何もできていない山猿状態な
わけですが、先生をはじめ大西家の人たちがそんな二人を咎める
ことはしませんでした。

 「今週はどうだったの?孤児院で叱られたりしなかった?」
 二人が落ち着いたところで、おばさまが尋ねます。

 「ん……ない事はないんだけど……もう、いつもの事だから」
 春花が答えると、さらに尋ねてきました。

 「あそこでは、あなたたち、毎日、お仕置きを受けてるの?」

 「私が毎日お仕置きされてるわけじゃないけど……孤児院の子
の誰かしらは、毎日お仕置きされてるわ。だって、お仕置き部屋
から悲鳴が聞こえなかった日なんて1日もなかったもの」

 「お仕置き部屋なんてあるんの。恐いのね。どんな時にそこへ
入れられるのかしら?」

 「どんなって……お友だちと喧嘩したり……入っちゃいけない
芝生に入ったり……授業に遅れたり、消灯時間を過ぎてもおしゃ
べりしてたり……ま、理由は色々」
 春花に続いて美里も……
 「特に、金曜日の夕方は大変なの」

 「どうして?」

 「懺悔聴聞会ってのがあるよ。子供はみんな司祭様にその週に
犯した自分の罪を懺悔しなければならないの。その日のうちなら
まだいいんだけど、二日も三日も前の事なんて、いちいち覚えて
られないでしょう。だから、みんな自然と日記をつけるようにな
るわ。それを読み返して、一週間の行いを暗記してから司祭様に
会うようにしてるの」

 美里の言葉に春花が入り込んだ。
 「そう……だって、その週に犯した罪を全部言えなかったら、
お仕置きが増えるかもしれないでしょう。みんな真剣に覚えるわ」

 「そうなの。大変ね。司祭様って、日頃からそんなに子供たち
の事を丹念に調べてるんだ」

 「そうじゃなくて、林先生が私たちの罪を全部書いた閻魔帳を
司祭様に渡すから、それを見ながら判断なさるのよ。あんちょこ
があるんだもの。こっちはかなわないわ」

 「なるほどね」
 おばさまは笑います。そして……
 「で、罪を告白したら許されるの?」

 「小さい子はね、小学3年生くらいまでは、お膝に抱かれて、
『だめだよ、良い子でいなきゃ。これから私と一緒に神様に懺悔
しましょう』っておっしゃるだけなの」

 「だけど、4年生くらいからはお仕置きとして本当にぶたれる
こともあるわ」

 「あら大変。それじゃあなたたちは司祭様からぶたれたことが
あるわけ?」

 「もちろん……でも、先生より痛くない」
 「嘘よ!司祭様の鞭ってとっても痛いことがあるんだがら……」

 「どんな罰を受けるの?お尻でも叩かれるのかしら?」

 「だいたいお尻が多いけど、手のひらだったり、太股だったり、
お臍の下をぶたれたこともあったわ。トォーズという革紐の鞭なの」

 「先輩に聞いたんだけど、うちでは小学5年生から中学1年生
位までが一番厳しいんですって……」

 「そうなの?……でも、それじゃ、あなたたち、まさに適齢期
ってわけね。…でも、どうしてその年頃の子が厳しいのかしら?」

 おばさまは二人に微笑みながら首を傾け、ココアのお代わりを
入れてくれます。でも、そんなおばさまの問いかけに答えたのは
春花でも美里でもありませんでした。

 「昔から、そのくらいの歳が女の子の躾どころって言われてる
からさ。その頃女の子は一時的に体力的にも男勝りになるからね。
ほおっておくと男を馬鹿にして結婚したがらなくなると言われて
るんだ。ま、職業婦人にさせるつもりなら、それでいいんだろう
けど……たいていの親は、娘の結婚式を楽しみにしているからね。
じゃじゃ馬になって婚期が遠のかないようにその時期は特に注意
して娘を厳しく育てるんだ」

 大西先生は、うがい手水に身を清め普段着に着替えると、居間
へと戻ってきたのでした。

 「この子たちはそれがちょうど始まった時期、うちの茜はその
クライマックスというわけさ。あそこは孤児院と言っても躾けに
手を抜かないからね。どの子を選んで連れてきてもこちらが困る
ことがないんだ」

 ここで、それまで沈黙を守っていた茜さんが口を開きます。
 「じゃあ、この子たちも、うちと同じお仕置きを受けることが
あるんですか?」

 「あるんじゃないかな、聞いてご覧」
 先生は茜さんに言いましたが、茜さんは真っ赤な顔をしてただ
俯いてしまいます。
 それはとても恥ずかしくて訊けないということのようでした。

 その代わりを先生が務めます。
 「二人は、お尻叩きの他にどんなお仕置きをされたことがある
のかな?」

 「えっ、お仕置きで……」
 二人も最初は答えにくそうにはしていましたが、茜さんと比べ
れば二人はまだ幼いので正直に答えます。

 「何でもあるよ。……嘘をついたら、お口に石鹸を入れられて
ゲーゲーいいながらお口の中を洗わされるし、お腹の中も洗わな
きゃいけないって言われて浣腸だってされるもの」

 「あれは気持悪いね」

 「そう、もの凄く嫌な罰なの」

 「あと、テストのカンニングがばれて、中庭の張り付け台で、
二時間も立たされてた子がいたわ」

 「そう、そう、敬子の事でしょう。パンツ一つでね。もの凄く
可哀想だったもん」

 二人がお互いの顔を見合わせて盛り上がるなか、先生は新たに
質問します。
 「君達の処はお灸のお仕置きもあるんだって?」

 「うん、あるよ。お勉強しない子が受けるの?」
 「お勉強も厳しいんだ」

 「林先生ってね、そういう時はいつも『私はあなた方に難しい
ことは求めていませんよ。真面目にやれば、みんなできることを
ちゃんとやりなさいって言ってるだけです。それができないのは
あなた方にやる気がないからでしょう』って……」

 「そう、いつも言われてるの。怠けてる子は最初は鞭だけど、
そのうち院長先生のお部屋に呼ばれて、お尻にお灸を据えられる
のよ。私はやられたことがないけど、やられた子の話だと、もの
凄~く熱くてお尻に穴があいたかと思ったんだって……」

 二人の答えに、なぜかおばさまが……
 「そうだそうよ、茜」
 と言って、茜お姉様に向かい意味深に微笑むのでした。

 「鞭は、たしか革のスリッパだったよね」
 先生が確かめると……

 「私たちはまだそうだけど、6年生からはみんなに見られない
処ではヘアブラシで、見られる処では革のパドルなんだって……
聞いただけでゾッとするわ」

 「中学生になるとお仕置きはケインよ。あれはもの凄く痛くて
先輩の子がよく悲鳴あげてるわ」

 「公開のお尻叩きもあるんだろう」

 「もちろん、たくさんあるわよ。特に日曜礼拝の後は……必ず
誰か舞台の上に呼ばれて……ほかの子への見せしめなの」

 「君たちはやられたことあるの?」

 「ないよ」
 「私もない……」

 「そういうのはたいてい中学生のお姉さんたちだから。鞭打ち
台に縛り付けられて両方の足を大きく広げさせられるの。おかげ
で嫌なのが見えちゃうけど、目を背けると私たちも叱られるから、
仕方く見てるんだけど……お尻も紫色になっちゃうし、とっても
気持悪いわ」

 「私も、あれ、見たくない」

 春花が時に力説し、美里がそれに合いの手をいれますが、二人
の少女のお仕置き話はつきそうにありませんでした。
 でも、それを聞かされていた茜ちゃんが、実は何より辛い立場
なのでした。


**********(3)************


 御招ばれ <第1章>(4)

 三時のおやつが終わると、二人は茜お姉ちゃんやおばさま達と
遊びます。トランプをやったりゲームをしたり、指人形をはめて
即興の劇に興じたり、お庭に出てピンポンなんかも……

 とにかく思いついたことで遊びます。それは、これまでと一緒
の時間。おじさまが孤児院で深刻ぶって話したことなどすっかり
忘れてしまうくらい楽しい時間だったのです。

 お招ばれした子がやることは、楽しく遊ぶこと、美味しく食事
をすること、愉快にお風呂に入ること、そしておじさまおばさま
のベッドで一緒にご本を読んでもらって眠ること、ただこれだけ
だったのです。

 幸薄い孤児達に少しでも家庭的な雰囲気を味わってもらいたい、
そう思って大人たちが始めた慈善の催しでしたから、孤児たちも
最初からここで勉強しようなんて気はありません。

 よく遊び、よく遊べの週末だったのです。

 でもそんな二人が、お庭で奇妙なものを見つけてしまいます。

 「なんだろう、あれ?」
 草むらに隠れるようにして肋木(ろくぼく)が立っています。
でも運動するにはそれは中途半端な高さしかありませんし、その
下は窪地になっていて、二本の板が渡してあります。

 何かの残骸でしょうか。
 恐らく大人たちが見つけてもそうとしか思わないでしょうから
それから先には進みません。
 おばさまも……

 「何でもないわ」
 とそっけない一言でした。

 でも、二人は違っていました。
 「あそこへ行ってみる」
 と言ったのです。

 すると、今度はおばさまが慌てます。
 「だめよ、危ないから」
 そう言って引き止めようとしたのですが……

 「大丈夫です。おばさま。……美里、行こう」

 春花が美里の手を引きますから、おばさまは、さらに慌てて、
本当の事を話すことにしたのでした。
 おばさまにしてみたらそれは見つけてほしくないものだったの
です。

 「あれは、おトイレよ。汚いから行かない方がいいわ」

 こう説得したら諦めると思ったのです。
 ところが…

 「えっ!あれ、おトイレなの」
 「うそ!!あれって、二枚の板が並べてあるだけだよね。あれ
じゃあ、外から丸見えだよ」
 二人はさらに食いついてきます。

 「いいのよ、家族だけで使うものだから……」
 「でも、腰掛ける便器もないし……いちいち持って来るの?」
 「そんなもの最初からないわ。あそこにしゃがんでやるのよ」

 「しゃがんで???」
 「しゃがんで???」
 二人にはしゃがむという言葉の意味が分からないみたいでした。

 「……ねえ、水はどこから出てくるの?」
 「……ねえ、腰掛けないで、どうやってウンチするのさあ」

 二人の興味はつきません。おばさまは、言葉を濁してどうにか
ごまかしたかったのですが、お手上げでした。

 「やっぱり探検してみる」
 好奇心を抑え切れない二人はとうとうその場所に目指して行っ
てしまいます。

 「わあ、これトイレなの?何だか臭そう……」
 「ここにしゃがんでウンチを落とすんだよね。でも、これって、
葉っぱしか見えないよ」
 「きっとその下にウンチがあるのよ」
 二人は板の上に膝まづくとそこから窪地になった穴を覗き込み
ます。

 「もし、落ちたらどうするんだろう?」
 「きっと、ウンコまみれね」
 春花がほがらかに笑います。春花にしても美里にしても自分達
が汚いものに触れているという意識はまったくありませんでした。
 実際、そこには今現在ウンチなんてなかったのです。

 「いやだあ、押さないでよ。ほんとに落ちたらどうするのよ」
 二人はたわむ板の上でふざけあっています。

 そして、それに飽きると今度は肋木によじ登って、その上から
二枚の板へ飛び降り始めます。
 着地の時、板に滑って尻餅をつくこともありましたが、遊びの
楽しさに比べればそれって平気なことだったのです。

 「でも、これ何だろうね」
 「だから肋木でしょう。学校にも寮にもあるじゃない」
 「でも、こんなに低くないでしょう。これ、私たちの身長より
低いのよ」

 すると、そんな遊びを始めた二人がちょっぴり心配になったの
か、おじさまがやって来ました。

 「さすがに孤児院にはこんなものはなかったとみえるな」

 「うん、初めて見た」
 「これトイレなの?……私、こんなドアも壁もない処じゃ恥ず
かしくてできないわ」
 「私も……」
 二人は笑っていました。

 「そうか…君たちの処ではないだろうな」
 「どうして?」
 「だって、これは我が家専用。お仕置き用のトイレだもん」

 「…………」
「…………」
 二人は子供ですから、『お仕置き』という言葉には敏感に反応
します。その言葉を聞いたとたん二人から笑顔が消えてしまいま
した。

 「脅かしちゃったか。ごめんね」
 おじさまは二人の心が和むように穏やかに笑います。

 「君たちの孤児院がどんなに面倒見がいいといっても、そこで
暮らす人たちはみんなは他人だからね、そこまで厳しいお仕置き
はできないかもしれないけど、ここは家庭の中だからね、お外で
は絶対にできない恥ずかしいお仕置きもあるんだよ。……ほら、
いいから、しゃがんでみてごらん」

 「えっ、……」
 おじさまの求めに美里が応じました。理由はありません。その
時、春花は肋木の上、美里は板の上にいたからでした。

 「ほら、この二枚の板に片方ずつ足を掛けて、腰を落とすんだ」

 「……こうですか?」
 春花や美里たちは、生まれた時から様式トイレで用を足します
から、そもそもしゃがむという習慣がありませんでした。

 「そう、そう、それでウンチするんだ」

 「えっ!こんな格好で?……だめ、私、キツイもん」

 「だって、昔の日本人はみんなそうやってウンコしてたんだよ」

 「えっ!?うそ!こんな格好で」

 「嘘じゃないさ。みんなそうやってたんだから、できないはず
ないよ。……慣れれば、君にもすぐにできるようになるよ」

 「無理、絶対に無理」

 「そうかあ、無理かあ……でも、それじゃあ困ったなあ。……
だって、こうやってウンチができるのは、うちのお仕置きでは、
まだ軽い方なんだよ」

 「えっ!?」
 「(どういうこと?)」

 二人はおじさまの言葉に、まるで豆鉄砲を食らった鳩みたいに
きょとんとしてしまったのでした。

 「美里ちゃん、そこに膝まづいてごらん。………そう、そう、
その方が楽だろう。……そうしたら、両手を前に……ちょうど、
肋木の横木が掴めるだろう。……どの高さの横木でもいいんだよ。
それに掴まって……そう、そうやってお浣腸のあとウンチを我慢
するんだ」

 「(えっ!!)」
 「(えっ!!)」
 そりゃあ驚きます。やらされてる美里だけでなく、肋木の天辺
に腰掛けてその様子を見ていた春花だって、驚きで声がでません
でした。

 いえ、この二人が暮らす孤児院にもお浣腸のお仕置きはありま
した。でも、それは少しの時間我慢してからおトイレを許される
ものだったのです。

 こんなお外で……しかもたわむ板の上で……何よりみんなから
見られるかもしれないこんな場所でウンチを我慢するなんて……
ありえないことでした。

 「…………」
 「…………」
 二人にとってはあまりにも現実感のない話だったのでした。

 「ほら、あなた、そんな話、よそ様にしないで頂戴!二人とも
怯えてるじゃないの」
 おばさまが遅れて中にはいります。

 すると、おじさまは……
 「大丈夫さ、この子たちは孤児院で暮らしてるんだから外には
漏れないよ。それに、この子たち自身、うちの子になりたいって
言ってるみたいだし……もし、そうなったら……いきなりこんな
ことしたらショックも大きいだろうし、ここで少しだけ我が家の
やり方にも慣れておいた方がいいんじゃないかと思ってね、それ
で今日は連れて来たんだ」

 「それはわかりますけど、この場所は二人には見せませんよ。
さすがに、それでは茜が可哀想ですから……」
 おばさまはきっぱり。

 「わかってるさ、ここは君の管轄だ。それをどうこうするつも
りはないよ」

 どうやら、おばさまの意見が通ったみたいで……二人はこの先
まずお風呂へ入ることになったのでした。


*********(4)***********


 御招ばれ <第1章>(5)

 「ねえ、茜お姉様はお浣腸されてからあのトイレでウンチする
の?」
 春花はお風呂で自分の体を洗っている女中の明子さんに尋ねま
すが……

 「知りません!そんなこと……」
 当初はそっけない返事が返って来るだけでした。

 「やっぱり、口止めされてるのよ」
 それを見ていた美里が湯船の中から訳知り顔で語りかけます。

 すると、今度は明子さんが春花のつるぺたの胸をゴシゴシやり
ながらこう言うのでした。

 「考えてごらんなさい。自分がウンチしてるところを他人に見
られるなんて、どんなに恥ずかしいか。あなたたちはまだ小さい
からそれほど感じないかもしれないけど……」

 「わかるわよ、それくらい……私なら死んじゃうかもしれない
くらい恥ずかしいもの」

 「相変わらずオーバーねえ、美里は何でも大げさなんだから…」
 春花は美里の物言いに『また始まった』というような呆れ顔を
します。

 「何よ、じゃあ春花は恥ずかしくないの!」
 「そりゃあ、そんなことされたら私だって恥ずかしいけど……」
 「けど、何よ」
 「だって、私たちもみんなの前でお尻だしたことあるじゃない
の。院長先生怒らしちゃって……」

 「そりゃそうだけど、あれはお鞭をもらっただけで……ウンチ
なんてしてないもの」
 「そりゃそうだけどさあ……」

 「ねえ、ウンチって、どのくらい我慢するの?」
 美里はやはり興味津々といった様子です。

 「そんなこと聞いてどうするんです?女の子が関心持つ事じゃ
ありませんよ」
 明子さんは最初にそう言いましたが、やがて仕方ないと言った
表情で、まるで独り言を言うようにして説明してくれました。

 「お子さんの歳にもよりますし、お父様やお母様をどのくらい
怒らしたかにもよりますけど……せいぜい20分くらいかしらね」

 「20分!?」
 それまで比較的冷静だった春花の方が目を丸くして驚きました。
 「えっ、そんなに!……無理、無理、無理、私、絶対に無理」
 もちろん美里も……こちらはあまりのことに驚きを飛び越えて
最初から顔が笑っています。

 最後はお互い顔を見合わせて笑います。

 というのも、二人はお仕置きではなくあくまで医療行為として
ともにグリセリン浣腸を受けたことがあります。
 ですから、それが途方もないことだとわかるのでした。

 でも、明子さんの方は真剣で、二人を叱りつけるように、こう
言います。
 「何、笑ってるの!人間、なせばなるですよ。女の子はねえ、
こんな処で恥をかきたくないと思ったら、自然と、我慢ができる
ようになるんです。…茜お嬢様だって、最初の頃は当然のように
オムツにお漏らしでしたけど、あなたたちぐらいの歳には、もう
ちゃんと我慢できて、お外のトイレでなさってましたよ!!」

 「でも、結局…ウンチしているところは見られるんでしょう?」

 「そりゃそうですけど、見ているといってもお父様かお母様、
それに私のようなごく幼い頃からお世話もうしている者だけです
から……」
 と、ここまで言ってから……

 「あっ、高瀬先生がいらっしゃるか……」
 明子さん、小声で付け足したのですが、それを二人は聞き逃し
ませんでした。

 「高瀬先生って?」
 「ね、誰?」
 二人の小娘が再び湯船の中ではしゃぎ出します。

 困惑気味の明子さんでしたが、もう、こうなったらすべて話す
しかありませんでした。
 いえ、彼女自身も、本当は話したかったのかもしれませんが…

 「お子様たちがいつもお世話になってる小児科の先生ことよ。
ここにもよく往診にみえるの。特にお仕置きのある時は脅かしに
大きな浣腸器をもってみえられるから、それを見るとご兄弟とも
部屋中を逃げ回って、効果てきめんでしたよ」

 「ご兄弟?」
 「お子様たちって、おじさまの子供って、茜お姉様だけなんで
しょう」
 怪訝に思って尋ねると、二人にとっては意外な答えが返ってき
ます。

 「違いますよ。茜お嬢様は2歳まで施設で育ったあと、ご夫婦
が女の子を育ててみたいとおっしゃって養女になさったんです。
お二人の本当のお子様方は二人とも坊ちゃんで、すでに独立され、
今は年に二回ほどしかご実家には戻られませんけど、共にお医者
様をなさってます」

 「なんだ、そうなのか」
 春花は単純に納得しましたが、美里は気になる事がありました。

 「ひょっとして、その先生って、お仕置きの時はいつもここへ
来るの?」

 恐る恐る尋ねたことが、不幸にして当たってしまいます。
 「ええ、そうですよ。ちょうどいい機会ですからね、健康診断
をしていただいたり、発育状況を診てもらったり、お浣腸の量も
先生がお決めになって、ご自身がなさる事もありますし、お導尿
なんて素人ではやりにくいことも先生がやってくださいますから。
……そうそう、茜お譲様はこれが大変にお嫌いで、いつも大泣き
されてました。……そうだ、あなた方も頼んであげましょうか?」

 明子さんに言われたとたん、二人は湯船の中へ……
 導尿がどんなことなのか、実は二人とも知りませんでしたが、
とにかく、今はここしか隠れる処がありませんでした。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 処変わって、こちらはおばさまのお部屋。
 その時、茜さんはお母さんに呼ばれていました。

 「先週、二学期の中間テストの結果をみせてもらったけど……
これ、あまり芳しくないみたいね。お父様にも、当然お見せした
けど、渋い顔なさってたわ」

 「ごめんなさい」

 「まあ、あなたの場合は、女の子なんだから、男の子のように
クラスの中でも抜きん出た成績でなきゃならないというわけでは
ないけど、……それでも、ある程度の成績は残してもらわないと
……」

 「…………」

 「変な言い方だけどね、うちはインテリであることが家業の家
なの。だから、あなたの成績は、あなただけのものではないわ。
それはこのお家の看板でもあるわけですから。他のお家のように
学校の成績なんて悪くても仕方がないとはならないの。そこの処、
何度も説明してきたからわかるわよね」

 「はい」

 「『あれが東都大の教授の馬鹿娘か』なんて世間で後ろ指でも
さされるようになったら、私もお父様も立つ瀬がないわ」

 「ごめんなさい」

 「まあ、それがわかってるなら、もっと頑張ってもらわないと
………これは何よりお父様の体面にも関わることなのよ」

 「はい」
 茜さんはこの時点でもう涙を流していました。
 こんなお説教を過去に何度も聞かされていたからなのです。

 「もちろん、これがあなたの側に何か障害があってというなら、
それは仕方がないことだけど……大病したわけでもなし、虐めに
あってたわけでもないわよね」

 「はい」

 「……強いて原因を考えると……………(ふう~)」
 お母さんは一つため息をついてから……

 「マンガの読みすぎ、テレビの見すぎ、お友だちとの長電話、
休日のたびにお友達と街をぶらついて、勉強は犠牲にしても好き
な映画やコンサートは外さない……これじゃあ、勉強している暇
がないわね。……だいたい、お父様から頂いたスケジュール通り
に一日を過ごした日が何日あったかしらね?……(ふう~)」

 お母さんがため息をつくたびに茜さんは背筋がゾクッとします。
 「…………」

 「これじゃあ、成績が下がっても当たり前よね。お父様もね、
今回はご自身で作成されたスケジュール通りに茜が勉強していな
かったことをお知りになって、とっても憤慨されてるのよ」

 「えっ……」
 茜さんはこの時『意外な』という顔になります。
 というのも、ここ数日、出会うお父さんは、何時も通り穏やか
で、普段と何も変わらなかったからなのです。

 そんな茜さんの気持をお母さんが察したのでしょう。
 「どうしたの?お父様が怒ってるなんて信じられないかしら?
……でも、たしかに怒ってらっしゃるわ。それも、カンカンよ。
いつぞやは、『どうして、私の作ってやったスケジュール通りに
茜にやらさせないだ』って取り付く暇がなかったわ」

 「そうなんだ」
 茜さんはお父さんの怒りに初めて気がついたのでした。

 「それでね、お父様と二人で考えたんだけど………あなたには
久しぶりにお仕置きを受けてもらうことにしたの。……分かって
くれるわね」
 お母さんは茜さんを見つめると、抑揚を抑えた感じではっきり
宣言します。

 「えっ……」
 青ざめた顔の茜さん。ここに呼ばれた時にいくらか覚悟はして
いましたが、あらためてそう言われると、やはりショックだった
のです。

 「あなたへの本格的なお仕置きはいつ以来かしらね。そうそう、
前はまだ小学5年生だったから2年ぶりになるわね。6年生の時
も怪しいことはあったけど、受験の時期でもあったし、お父様と
もご相談して目をつぶっていたの。でも、その受験も終わって、
さあ、これからって時に、気が抜けてしまったんじゃ何の意味も
ないわね」

 「…………」

 「あら、どうしたの?いきなり震えだしちゃって……恐いの?
(フフフフ)まだ子供ね。…ま、もっとも、お仕置きが恐くない
子供というのがいたら言ったら嘘でしょうけど、あなたも大西家
の一員である以上、こればかりは逃げられないわ」

 お母さんは茜さんのおでこをチョンと指ではじきます。
 ちょっぴりからかわれたわけですが、茜さんは、むしろ落ち着
いたみたいでした。

 「はい、お仕置きお願いします」
 茜さんは畳の上に正座しなおすと、両手をついてご挨拶します。
 これもまた大西家の作法だったのです。

 「そう、わかりました。あなたも私達が知らない間に一歩一歩
大人へと近づいているみたいね」

 「えっ?」

 「あら、忘れたの。あなたが前回お仕置きを宣言された時は、
散々泣き叫んで、私の腰に抱きついて『ごめんなさい』『ごめん
なさい』って連呼したのよ。あなたが『お仕置きをお願いします』
と言えたのは、私がとても恐い顔をして脅しつけてからだったわ。
それが今は、自らご挨拶ができるんですもの。大人になったなあ
って感心してるの」

 「そんな…………ただ、お仕置きは今さらどうしようもない事
ですから……」

 「そうね、確かに……でも、それが大切なのよ。女の子は……」

 「…………」

 「女の子は男性とは違うの。それぞれが自分に与えられた場所
で力を発揮しなければならないわ。男性のように、その場所が嫌
なら、自分の気に入るようにそこを変えてしまえばいい、なんて、
なかなか思えないもの」

 「どうしてですか?」

 「単純なことよ。女性は男性に比べて、肉体的にも生理的にも
ハンデが大きいもの。力強くないでしょう。……それより、その
場所に留まって、自分の存在を認めてくれる人を探した方が……
ずっと楽だし、成功する可能性も高いわ。そのためには、まず、
相手の心を掴まなきゃ。相手が猛烈に怒ってるのに『私、嫌です』
なんて、すねてみても始まらないでしょう。だから、女の子は、
我慢するってことが大事になってくるわ」

 「それって、お仕置きのことですか?」

 「そうね、それも一つだわね……もし、これが私とあなただけ
の生活だったら、私はあなたに体罰なんか求めないと思うけど…
ここはお父様のお家なの。そして、あなたはその娘。あなたには
怒りに震えるお父様の溜飲を下げて差し上げある必要があるわ。
わかる?」

 「はい」
 茜さんは小さな声で答えます。

 「大丈夫よ。そんな深刻な顔をしなくても……お父様は立派な
方だから、どんなお仕置きをなさるにしても、あなたが耐えられ
ないような事はなさらないわ。だから、あなたとしては、そんな
お父様を信じて必死にしがみついていればいいのよ。そうやって
耐え抜けば、あなたは今まで以上にお父様から愛される事になる
わ」

 「本当に?」

 「もちろん本当よ。……お仕置きってね、親子がお互いの愛を
確かめ、これからを誓う儀式なの。お父様はあなたを愛したいの。
だから、それを、あなたの方で拒否してはいけないわ」

 「………………」

 「何だか信じられないって顔ね。でも、それがお仕置きという
ものよ。……あなたも子供を持てばわかるわ。……とにかく今の
あなたは必死になってお父様からいただくお仕置きに耐えるの。
……健気なあなたの姿をご覧になれば、お父様だって決して悪い
ようにはなさらないわ。だって、あなたはこの世の中で誰よりも
お父様から愛されてる子どもなんですもの」
 お母さんはそう言って茜さんを励ますのでした。


***********(5)***********


 御招ばれ <第1章>(6)

 その人は、いきなりお母さんや茜さんがいる部屋へと現れます。
玄関の呼び鈴も押さず、誰にも声を掛けず、長い廊下をつかつか
と歩いて、茜さんのいる部屋に顔を出すなり、帽子を取って……
 「こんにちわ」
 と言うだけでした。

 そして、お母さんもまたそんな失礼なお客様を咎めたりはしま
せん。
 むしろ……

 「まあ、先生。よくいらっしてくださいましたわ。ちょうど、
お迎えに上がろうかと思っていたところなんですよ」
 お母さんは恐縮したように座布団を勧めます。

 「ちょうど往診のついでがありましたから、立ち寄ってみたん
です」

 茜さんは大人の会話に耳を傾けながらも、白衣姿の先生の顔を
見たとたん、血の気がうせて呆然と立ちすくんでしまいます。
 こう言うのを茫然自失というのでしょうか、茜さんはお母さん
に……
 「ほら、何、突っ立ってるの。先生にご挨拶なさい」
 と言われるまでその場から一歩も動くことができませんでした。

 「先生、こんにちわ」

 ぶっきらぼうなご挨拶でしたが、気を取り直して茜さんが正座
すると、高瀬先生はそんな少女のあれこれに気を回すことなく、
笑顔で受け答え。

 「はい、こんにちわ。茜ちゃん、元気だったかい。相変わらず
赤いほっぺして元気そうだね。今はどうですか?お腹の調子は?」

 「…………」

 茜さんが答えにくそうなので、代わってお母さんが答えます。
 「それが、最近、また便秘がぶり返してきたみたいで……」

 「そんなことないもん」
 茜さんは、一旦正座して踵に着いていたお尻を浮かし、思わず
身を乗り出して反論します。
 それは、この便秘がお浣腸へと繋がることを恐れたからでした。

 「保健の先生が三四日なら問題ないって……」

 「何言ってるの。あなたの場合は、一週間も出ないことがある
でしょう」
 「そんなの、たまたまじゃない」
 「たまたまなんかじゃありません」

 「まあ、まあ、一度や二度ならそう問題ないでしょうが、毎回、
毎回となると、ちょっとやっかいかもしれませんね。茜ちゃんの
場合は習慣性になっているかもしれませんから……」

 高瀬先生の言葉にお母さんはわが意を得たりとばかり、
 「ほら、ごらんなさい」
 と言うのでした。

 「先生、今日で五日目なんで……そろそろ出してしまいたいん
ですが……」

 「わかりました。……茜ちゃん、ここに寝てごらんなさい」

 高瀬先生はいつものように茜さんを仰向けに寝かせると座布団
を腰の下に当てさせ、お腹を押してその張りをチェックします。

 「なるほど、少し張ってるかな」

 先生は茜さんのお腹を触診すると、用意された洗面器のお湯で
手を洗います。

 そんな先生を見ながらお母さんは尋ねました。
 「浣腸はどのくらいの量、やった方がいいでしょうか?」

 「そうですねえ、30㏄から50㏄もあれば足りると思います
が、ご心配なら100㏄でもかまいませんよ」

 「そんなに、大丈夫なんですか?」

 「心配要りませんよ。茜ちゃんも、もう体が大きいですからね、
100㏄くらいは耐えられますよ」

 高瀬先生とお父さんとは古くからの友人。この家にも茜さんが
生まれる前から出入りしていますから、大西家の家庭の事情にも
精通しています。ですから、部屋に入った瞬間の茜さんの表情を
見て、『今夜は、お仕置きだな』と悟ったのでした。

 そして、もし、お仕置きとしてやるのであれば、30や50㏄
では親御さんも物足りないはずだから、どの程度が上限かを知り
たいはず。そう読んだのでした。

 「それでは、100㏄でお願いできますでしょうか」
 「よろしいですよ。ただ、看護婦は帰してしまいましたので、
私でよければ…ですが……」
 「もちろんですわ」

 大人たちの会話は茜さんには残酷に響きます。でも、13歳の
少女なんて、世間の大人たちにしてみたらまったくの子供。何を
どうされても「年端も行かない小娘のくせに偉そうに口答えする
んじゃありません」とすごまれればそれで終わりだったのです。

 中学生になったといっても、大人たちの扱いは小学生のまま。
時折、『茜ちゃん』だった呼び名が『茜さん』に変化しますが、
それだけでした。
 どうしようもない現実が茜ちゃんを支配します。

 「明子さん、明子さん、……ここにお布団敷いてちょうだい。
茜にお浣腸しますから」

 お母さんが女中の明子さんに指示する声を茜さんはどこか遠く
の出来事のように聞いていました。

 明子さんが部屋に現れると……
 やがていつものように薄い布団が持ち込まれ、目の前に敷かれ
ます。タオル、オムツ、天花粉……もちろん、グリセリン溶液の
入ったこげ茶色の薬壜や50㏄入りのガラス製ピストン浣腸器も
洗面器に入れられて大事そうに目の前を通り過ぎていきました。

 もちろん、これって始めての経験ではありません。幼い頃から
二ヶ月に一回は必ず受けてきた習慣なのです。ですが、茜さんが
これに慣れるということはありませんでした。
 むしろ、それが次第に辛い行事になってきたのです。

 もちろん、年齢と共に恥ずかしいという気持が増してきたのは
事実ですが、それよりも、これをやらされるたびに、自分自身が
世の中から否定されてしまったようで辛かったのでした。
 まるで赤ちゃんのように何も出来ない、何もさせてもらえない
自分は家族の厄介者のような気がして嫌だったのでした。

 「準備ができたわよ。いらっしゃい」
 お母さんは高瀬先生がいらっしゃるので猫なで声で茜ちゃんを
呼びます。

 もちろん、茜ちゃんは目の前の布団に寝そべるしかありません。
今さら何か反抗できるわけではありませんが……

 「さあ。早くなさい」
 お母さんに催促されてから、恐る恐る敷かれた敷布団に近づき
ます。

 そこではお医者様の高瀬先生、女中の明子さん、お母さんまで
もが正座したままの姿勢で近づく茜ちゃんを見ています。
 それって、何だか映画のワンシーンのようです。

 もちろん、そんなの気持のいいことではありませんが、でも、
心の底のどこかには『悲劇のヒロイン』になった気分もあります。
そう考えると、不思議に勇気も沸いてくるのでした。

 やっとの思いで布団の縁まで辿り着くと、お母さんは……
 「まず、そこへお座りなさい」
 と命令しました。

 もちろん正座で、茜さんがその場に座ると……
 「いいですか、これからお浣腸を行いますけど、これは便秘の
治療だけでなく、お父様からお仕置きを頂いた時に、粗相が起き
ないようにするためのものでもありますからね。十分な量で行い
ます。……言ってる意味、わかりますね?」

 「はい、お母さん」

 茜さんは小さな声でしたが、お母さんは満足したみたいでした。
 「よろしい。今日は50㏄の浣腸器で二本分、100㏄を我慢
しなさい。我慢がお仕置きになりますからあえてお尻の穴に栓は
しませんけど、万が一ここで粗相などあったら困りますからね、
オムツをあてます」

 「(えっ、オムツ)」
 茜さんの顔が思わず歪んだのは、それが予想外だったからかも
しれません。

 「20分たったらオムツを外してあげますから、お外のトイレ
で用を足しなさい」
 お母さんは凛とした態度で宣言しますが、茜さんは自信があり
ませんでした。そこで……

 「私、そんなに我慢できないかもしれないと思うんですけど」

 怯えた様子でお伺いをたてると、お母さんは冷静です。
 「あなたも、もう小さな子供じゃないの。中学生なんだから、
そのくらいは我慢しないといけないわね。……もし、どうしても
ダメだったらオムツになさい。私が片付けてあげるから……」

 「えっ!それは……」
 もちろん、茜ちゃんはそんなことされたくありませんでした。
 十三にもなった子がたとえ身内のなかだけとはいえ、ウンチの
着いたオムツを母親に換えてもらうなんて、惨め過ぎます。

 「……どうしたの?嫌なの?仕方がないでしょう。何一つ根気
や根性のないあなたにはお似合いのお仕置きだと思うわよ。……
ちょうどいい訓練になるでしょうから……」

 「…………」
 茜ちゃんは心臓が締め付けられる思いでした。

 「もし、そんなこと、死ぬほど恥ずかしいことだと思うのなら
死ぬ気で頑張ることね。そうすれば、お灸のお仕置きだけは堪忍
してあげるわ」

 「(えっ!お灸も?)」
 茜さんの頭の中で何かが光ります。
 それは究極の恐怖でした。

 幼い子にもお尻ペンペンの罰はありますが、そんな場合だって
親は本気で叩いたりしません。でも、お灸は誰がやられても強烈
な熱さは同じでした。ですから、幼い子の場合、お灸のお仕置き
はより強烈な恐怖の記憶として成長しても心の奥底に残ります。
 茜さんも、その昔の思い出がフラッシュバックしたのでした。

 「(お母さんに泣きつこうか?)」
 恥も外聞もなく、『ごめんなさい』を言ってお膝にすがる。

 幼い日ならきっとそうしていたでしょう。でも、中学生になる
と、悲しいかな逆にその勇気が沸いてきませんでした。

 『今さらそんな子供じみたこと……』
 余計なプライドが邪魔をします。

 もう、残された道は一つしかありませんでした。


*********(6)*************

******<第1回はここまで>*********

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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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