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女の子だって大変なんですから  

<< 女の子だって大変なんですから  >>

当時よくやられていたお仕置きはお尻叩きと浣腸とお灸。男の子
と女の子で多少その扱いに違いがあるものの女の子だから免除と
いうものはなかった。
女の子もお尻を叩かれお灸を据えられ、お浣腸を我慢しなければ
お仕置きは終わらなかったのだ。取りたてて特別扱いはなかった
ように思うが強いて差があるとすれば女の子のお仕置きは非公開
が原則ということ。特に小学生でも高学年になると、親や教師も
男の子の目だけは気にしていたようだ。
実際十才を過ぎる頃になると女の子のお仕置きを目にする機会は
めっきり減ってしまった。そこで僕は、世間は女の子に甘いんだ
とばかり思っていたのだが、事実は逆で、むしろ、女の子の方が
お仕置きの機会が多くて、男の子以上にきついことをされること
だってたくさんあったのだ。
もちろんお仕置きと一括りにいっても、注意程度の軽いものから
それこそ折檻と呼べるような激しいものまで様々。太ももをつね
られたり、おやつを抜かれたりお小言だって必要以上に長ければ
それだって子どもにとっては立派なお仕置きなのだ。それを数に
加えると、むしろ女の子の方が大変だったように思う。
もちろんそんなもんは適当に受け流せばいいじゃないかとお思い
かもしれないが、男の子女の子に限らず虫の居所が悪い時という
のがあるわけで、そんな時は親や教師が期待する受け答えができ
ないことがある。時に相手を怒らせてしまうことだってあるのだ。
問題はこんなの時で、これが男の子なら仕方ないかですまされる
ことが、女の子だとこじれてしまうことが多くて、当然だけど、
きついお仕置きに発展してしまうことも。
こうなった時、実は女の子のお仕置きが男の子以上になるケース
が多いみたいだ。
ただ残念なことにこれを直接見る機会は男の子にはあまり無いの
だが、ただ、その子の妹あたりから情報は漏れ伝わりる。恐らく
口止めされていたんだろうが、元々おしゃべりは女の子の呼吸と
やら。おしゃべりできないのが苦しいみたいなので口を割らせる
と、これが事細かに説明してくれました。
そこで語られる内容は女の子特有の脚色はあるにせよ、えっそれ
本当!?って聞き返したくなるほどのものでした。
浣腸ありお灸ありスパンキングはもちろんのこと晒し者にされた
りお気に入りの服を焼かれたり、教科書までやかれちゃった子も
います。そのえげつなさは男の子以上。男の子の罰ってたいてい
お尻叩きだけですからその種類の多さには舌をまくほどだったの
です。

駿 と 由梨絵 の 物語 <第2話>

駿由梨絵物語

 < 第 2 話 >

 『毎日お尻を赤くして』という言葉を由梨絵が聞いていたわけ
ではないが、事実は保護者(伯爵)の言うとおりになった。

 その日の放課後。
 お仕置き台と呼ばれる園長室の机にうつ伏せになった由梨絵は
大きく両足を広げてパンツはすでに剥ぎ取られている。

 今、由梨絵のパンツは、鞭の痛みに驚いてよだれを垂らしても
机が汚れないように彼女の顎の下に敷いてある。

 先生がしっかり検査したから、どうやら汚れはないみたいだが、
自分の物とはいえ舐められるほどの至近距離にパンツがあるのは
由梨絵にとっても悲しかった。

 『恥ずかしいなあ、どうしてパンツまで脱がなきゃならないの
さあ』

 涼しいお尻が先生から丸見えなのは仕方がないとしても、両方
の太股までが開かれているから、今はその中までも丸見えなのだ。
 外の風が、スーっと女の子の大事な場所にまで入り込んで来て、
そのたびに背筋がゾクゾクっとする。

 「さあ、いきますよ」
 園長先生の声に再び背中がゾクゾク、頭がカーっと熱くなる。

 「ピシッ」

 そんな破滅的な緊張感のなか、最初の一撃がお尻に当たった。
 思わず、机の角を掴んでいた両手に力が入る。

 『うっ、痛あ~』
 涙が一滴。……でも、由梨絵は感傷に浸ってもいられなかった。

 「一つ、園長先生ありがとうございます」
 脳天まで達する痛みを堪えて、由梨絵は約束の言葉を口にする。

 ここでは園長先生からお仕置きの鞭をいただく時、数を数え、
一回ごとに『園長先生、ありがとうございます』とお礼を述べる
しきたりになっていたのだ。

 先生の持っている鞭はゴム製のパドル。
 相手が小学生の女の子ということもあって威力のある鞭は使わ
ない。しかもそんなに力いっぱい振り下ろしているわけでもない。
 ただ、大人の目からはママゴト遊びのようにさえ見える光景も
……

 「ごめんなさい、もうしません。ごめんなさい。もうしないで」

 二回目が振り下ろされるのを感じて由梨絵は慌てて懺悔した。
 たった1回ぶたれただけですでにべそをかいているのだ。

 こんな恥ずかしい格好で普段は優しい園長先生にぶたれている。
 もうそれだけで、女の子には泣くのに十分な理由があったのだ。

 ただ、お仕置きはお仕置き。一旦始めると園長先生も簡単には
妥協してくれない。

 「ほらほら、まだ11回も残ってるじゃないの。パンツを穿き
たかったら、さっさと泣き止みなさい。お臍の下が風邪ひくわよ」
 園長先生からの冷たい返事が返って来る。

 「はい……ごめんなさい」
 由梨絵は、か細い声でそれだけ。もうそれが精一杯だった。

 「さあ、いつまで泣いてるの。あなたがどんなに泣いてみても
約束が果たされるまでこのお仕置きは終わりにはなりませんよ。
お約束は12回ですよね。きっちり守ってもらいます」

 こんな時、園長先生はどんなに時間がかかっても、生徒が泣き
止むのを待ってからでないと、次の鞭を与えない。それは、罰を
受ける子が、今なぜ罰を受けているのかを理解しないままでは、
懲戒としての意味がないからだった。

 お仕置きの鞭は、喧嘩やリンチではないから、単に叩けばよい
のではない。子供を自分の犯した罪と向き合わせ、これがその為
の報いなんだということをしっかり頭の中でリンクさせる必要が
あったのである。

 「まだ鞭に慣れていないあなたにはちょっぴり可哀想だけど、
これも神様から与えられた試練だと思って頑張りなさい。いい、
女の子は何事にも耐えることで強くなるの」

 「はい、先生」
 由梨絵は蚊のなくような声で答える。

 「今は苦しいかもしれないけど乗り越えられない試練はないわ。
何よりここは神様から祝福された愛の園だもの。あなたに悪意を
持つ人なんてここには誰もいないのよ。この鞭だって、しっかり
耐えれば、その先にはきっと良いことが待ってるから……さあ、
頑張りましょう。いいですね」

 「…………」
 由梨絵は何か答えたかったのかもしれないが、今は鼻をすする
音だけがする。

 「女の子はね、男の子のように爆発的な力が発揮できないぶん、
どんな時も根気と我慢が大事なの。我慢で幸せを掴むの。だから、
我慢できない子は幸せにもなれないわ」

 先生に励まされ、由梨絵は鼻をすするのをやめて気を取り直す。

 こうして、やっと二つ目がやってくるのだった。

 「ピシッ」

 「ひぃ~~~」
 本当は上げてはいけない悲鳴。でも、由梨絵にしてみるとどう
しようもなかった。声になってしまうのだ。

 「二つ、園長先生ありがとうございます」

 「由梨絵ちゃん、我慢、我慢、我慢しなくちゃ……」
 園長先生の声は優しかったが、体中が小さく震える由梨絵に、
その優しい声が聞こえただろうか。

 「非力な女の子が自分の力で道を切り開くというのは、とても
とても大変なことなの。だから与えられた場所で一所懸命働いて、
そこを幸せな場所に変えていかなくちゃ。女の子にとってはそれ
が幸せの近道よ。でもその為には我慢、我慢、我慢しかないわね。
とにかく我慢を覚えなきゃ女の子は一人前になれないわ……さあ、
次ぎいきますよ。どう?落ち着いたかしら?」

 「…………」
 由梨絵は僅かに首を縦にする。

 「そう……だったら、次、いくわよ。歯を喰いしばって……」

 「ピシッ」

 「ひぃ~~~」
 三つ目。鞭に慣れない由梨絵にとっては一番痛みを感じる頃だ。

 「私、我慢なんかしたくない!!特待生にもなりたくない!!」
 由梨絵は思わず本音を口にするが……

 「だめよ、なりたくないと言っても、もう特待生になってるの。
今さら後戻りはできないわ。さっきも言ったでしょう。女の子は、
与えられた場所で努力するしかないの。我儘を言ったからって、
決して幸せにはならないものなのよ。……さあ、さあ、ちゃんと
数を数えて」

 「三つ、園長先生ありがとうございます」

 「よろしい、じゃあ、次ぎいきますよ。歯を喰いしばりなさい」

 「ピシッ」

 「いやあ~~~」
 思わず叫び声を上げる由梨絵。
 本当は規則違反だが、これが給費生として最初のお仕置きだと
いうこともあって園長先生からも大目に見てもらえたみたいだ。

 「四つ……」
 由梨絵は嗚咽し一つ鼻をすすってから続ける。
 「……園長先生ありがとうございます」

 「ピシッ」

 あとはもうただただ涙声だった。

 「五つ、園長先生ありがとうございます」

 園長先生が振るっているゴム製パドルというのは、その大半が
女の子や幼い子のためのもので、大きな音はするものの、大人に
叩かれてもそれほど酷い痛みにはならない。
 この鞭、慣れれば小学生でも耐えられる程度だった。もちろん、
何度かここへ来て、この鞭に慣れていればの話だが……

 先生の側にしても、失神するほど強い鞭ではお説教が頭に入ら
なくなるから困るのだ。
 なのに由梨絵が大仰に反応しているのは、彼女が人一倍怖がり
で臆病な性格だから。
 決して園長先生が由梨絵に特別残酷なことをしているわけでは
なかった。

 「ピシッ」

 「………………」
 必死に机にしがみ付く由梨絵。

 でも、もう悲鳴は上げなくなった。
 臆病な由梨絵もさすがに痛みに慣れてきたのである。

 勿論、こんな鞭でも本気でぶっていれば回数と共に痛みは増す。
でも、ここではそうはならなかった。ということは、園長先生の
鞭は、慣れることのできる程度の痛みということのようだ。

 「六つ、園長先生ありがとうございます」

 「ピシッ」

 「……『私は世界一不幸な少女だわ』…………」
 鞭の痛みに慣れてきた由梨絵は心の中で悲劇のヒロインを演じ
始める。女の子がよくやる夢想劇。そうやって、今ある現実から
心を逃避させ、鞭の痛みを少しでも紛らわせようとする常套手段
だ。

 すると、そんな事は百も承知の園長先生。今度は頃合いを見計
らい、由梨絵のお尻を軽く触れてチェックする。

 冷たく濡れた指が火照ったお尻に触れると、そのとたん……
 「冷たい!!」
 思わず由梨絵が叫んだ。

 氷水で冷やされた園長先生の指が触れたのだ。
 これで驚かない子はいなかった。
 由梨絵も、たちまち厳しい現実へと引き戻される。

 「はい、由梨絵ちゃん。オネンネしないの。今は反省の時間よ。
反省してちょうだい。先生のお尻叩きは『ただ寝そべっていれば
そのうち終わるでしょう』じゃないの。ちゃんと心を込めて一つ
一つのお鞭の痛みを受け止めなきゃお仕置きの意味がないわね。
いいこと、いいかげんな態度でいる子には鞭の数を増やしますよ」

 園長先生は百戦錬磨。うつ伏せになった由梨絵のちょっとした
心の変化も敏感に感じ取ることができるのだ。

 「ごめんなさい、先生」

 「一つ、一つ心を込めて、ごめんなさいって気持でお鞭を受け
なきゃいけないの。特に女の子はそうしたごめんなさいの気持が
大事なのよ」

 「はい……」
 由梨絵は力なく答えるのだが、それが精一杯だった。

 「……はい、それじゃあ心を込めてもう一度『七つ、園長先生
ありがとうございます』からよ」

 「七つ、園長先生ありがとうございます」

 「ピシッ」

 「……『こんな処にいられないわよ。今夜、逃げ出そう』……」
 その瞬間、由梨絵は衝動的に家出を決意するが……

 「八つ、園長先生ありがとうございます」

 でも、それも実行できなかった。
 だって、物心ついてからずっと、おじ様のお家とこの学校しか
世間を知らない由梨絵。逃げだすとして、いったいどこに逃げる
のか、そこで何をするのか、辛いから逃げ出したいというだけで
今の彼女には何一つあてなどなかったのである。

 「ピシッ」

 「……『今日はお家に帰りたくない』……」
 家に帰れば、学校でぶたれたお尻をおじ様に見せなければなら
ない。それがおじ様とのお約束だった。

 「九つ、園長先生ありがとうございます」

 「ピシッ」

 「……『お家で、おじ様も怒ってるのかなあ』……」

 「十、園長先生ありがとうございます」

 「ピシッ」

 「……『まさか、お家でもお仕置き?嘘だよ、そんなのないよ』……」

 「十一、園長先生ありがとうございます」

 「ピシッ」

 「…………『今日の夕ご飯、何かなあ~』………」

 「十二、園長先生ありがとうございます」

 「はい、おしまい。よく頑張ったわ。……前にも言ったように
女の子は我慢が大事。これもよい訓練になったはずよ」

 由梨絵のお仕置きは園長先生のねぎらいの言葉で終わる。
 お尻はすでに真っ赤。まるで熟れたリンゴみたいだけど、でも、
とにかく最後まで耐えられて、ほっと一息だったのだ。

 ただ、これで由梨絵へのお仕置きがこれで完全に終わったわけ
でない。
 お仕置き台を降りた由梨絵は、園長先生の前に立つとパンツを
脱いだ姿で表と裏を丁寧にチェックされる。
 これは罰ではないかもしれないが、女の子にとってはまた別の
意味で辛い試練だった。

 検査されるのは真っ赤になったお尻やビーナス丘と呼ばれお臍
の下の割れ目。
 これが終わると、再び机の上に仰向けになって両足を高くあげ
なければならない。

 その筋の言葉でいう『ご開帳』というやつだ。

 「恥ずかしい?でも、ちょっとだけ我慢してね」

 園長先生は由梨絵の太股を広げると、その指を大淫唇にかけて
押し開く。普段なら誰にも見せない由梨絵の秘密がいとも簡単に
あらわになっていく。
 『女性だから……』『園長先生だから……』由梨絵はそう思う
しかなかった。

 「まあ、綺麗ね。……最近はここを悪戯する子が増えてるけど、
あなたの場合は悪戯による皺の乱れも色素沈着もないみたいだし、
これなら何の問題もないわ。きっとお父様がちゃんと躾てられる
のね」

 「お父様じゃありません。おじ様です」

 突然のダメ出しに園長先生は苦笑する。
 「そうそう、あなたの場合はおじ様ね。ごめんなさい。でも、
あなたのおじ様はあなたを実の娘と同じように愛されてるのよ。
この綺麗な女の子が、何よりの証拠だわ。女の子って、他人から
見られる処にだけは気を使うけど、こうして見えない処は無頓着。
誰かが注意してあげないと何もしないだらしのない子が多いわ。
実をいうと、こういうところでその子の育ちが分かるものなの。
……でも、あなたは合格。おじ様に感謝しなきゃいけないわ」

 お仕置きのあとは発育検査も兼ねていたのだ。

 「はい、おしまい。次回のテストはもう少し頑張りましょうね。
……もう、パンツを穿いていいわよ」
 園長先生からのお仕置きが、これでやっと終わった。

 園長先生は教育者としてよいことをしたと満面の笑みだったが、
由梨絵にしたら、こうした受難が毎日のように降りかかるのかと
思うと、そりゃあ暗澹たる思いだったのである。

 由梨絵は、もともと学業も中位。悪戯も人並みするし、女の子
らしい嘘だってつく、そのあたりごく普通の少女だった。決して
ほかの子の模範になるような品行方正の生徒という訳ではないの
だが、それが、いきなり給費生となって、彼女自身、世間の風が
急に強く吹き始めたと感じていたのである。

 とりわけ大変だったのは学業だった。

 もともと中くらいの成績でしかなかった子が、次の学期末まで
には上位一割の中にいなければならないというのだから、困った
ものである。

 「そんなの無理!!絶対に無理!!」
 由梨絵は何度も伯爵に懇願したが……

 「無理、無理って、やってみなければわからないじゃないか」
 と、聞き入れてもらえなかった。

 当然、勉強時間は増え、家での自由時間は減らされる。勿論、
頑張ってはいるが、もし、学校でのテストが90点以下ならば、
放課後は園長先生の部屋へ行き、今日のような『励ましの鞭』を
受けなければらない。

 ちなみに、これが一般生徒のだったら励ましの鞭は80点以下。
 ここでも給費生はやはり特別だったのである。

駿 と 由梨絵 の物語

    駿由梨絵物語

 < 第 1 回 >

 由梨絵は現在11歳、肩まで伸びた真っ黒なストレートヘアに
細く白い首筋、高すぎない鼻筋やふっくらほっぺが子どもらしく
愛くるしい顔をしている。わずかに膨らみかけた胸を覆っている
ジャンパースカートの裾を翻しながら、その日も長い廊下をスキ
ップしながらやって来る。それははた目にも快活な彼女の個性を
感じさせて清々しかった。

 「おじさま、何かご用?」
 由梨絵はいきなり分厚い木製ドアを押し開く。
 どうやら書斎に入る時、ノックは普段から不要のようだ。

 「おう、由梨絵か……」

 安藤伯爵は書棚から取り出した大判の書籍を立ち読みしていた
が、大きな鼈甲めがねをおでこに押し上げたままその瞳が明るい
声の方を向いた。

 「学校は終わったのかい?」

 「終わった。宿題も全部すんだよ」

 「それは凄いな、いつもそんな風にきちんとした生活態度なら
いつでも特待生になれるな」

 「無理よ、私がそんなの……私ってそんなに頭なんてよくない
もの」

 「そんなことはないさ。私の娘ならきっと学業も優秀なはずだ
よ」

 「えっ……」
 由梨絵は思わず絶句した。

 
由梨絵は伯爵の娘ではない。彼女との歳の差を思えば伯爵は祖父
に当たるかもしれない。いや、この二人、そもそも血縁者ですら
ないのだ。もちろんそんなことは、当人同士にあっては百も承知
していることだったから、普段は、『由梨絵』『おじ様』と呼び合
っていた。

 「座りなさい」
 伯爵は幼い娘に一人用ソファを勧めるが……。

 「いいわ、いらない。私、立ってるから……」

 「いいから、座りなさい。そうやって落ち着かない動きをして
いたら、まるでオシッコを我慢しているみたいで、こちらが落ち
着かないんだよ。

 「はい」
 由梨絵はその椅子にお尻からポンと弾むように腰を下ろした。

 一方、伯爵は読みかけの本を年季の入った本棚に戻すと……
 「さてっと……」
 由梨絵とは向かい合わせになる二人用のソファに、ゆっくりと
腰を下ろした。

 そこで銀の煙草入れから細身の洋もくを取り出して火をつけ、
それを一服二服くゆらせてから口を開いた。
 その間は彼は何も言わなかったのである。

 そして、

 「君はいつから、私の娘になったんだい?」

 「えっ……」
 その言葉は由梨絵の胸に衝き刺さる。
 それだけ言われただけで彼女には思い当たる節があったのだ。

 「別に、私はおじさまの娘というわけでは……」
 心苦しそうに弁明すると……。

 「そうなのか?……実は、今日、園長先生から『理事長先生は
制服の変更をお考えなのですか?』って質問されたよ」

 「…………」
 由梨絵は口を閉ざす。本当は何か言いたかったが、何を言って
も自分に不利になりそうで言葉にならなかったのだ。

 「僕は知らなかったよ。学校で君は僕の娘として見られている
みたいだね」

 「それは……」
 由梨絵は思わず顔を床に向けてしまう。

 「今さら、話すことでもないけど、君は僕の娘ではないんだ。
旅の途中、飯田という場所で身重の女性が苦しんでいたのを病院
に運んだのがきっかけで連れていた君を引き取ることになった。
恐らくは君のお母さんと妹になっただろう赤ちゃんは亡くなって
しまったけど、なついていた君を街の施設に入れるのは心苦しく
て……それでここに引き取ったんだ」

 「は……はい」
 由梨絵の返事は歯切れが悪い。
 彼女は何がどうなっているのかを理解してしまったようだった。

 「僕は君があまりに可愛いもんだから、本当の娘のようにあれ
もこれもと世話をやいてきた。でも、もし、本当のお父さんなり
血縁の方がここへ現れたら、君を引き渡さなきゃならないからね。
それで、あえて養女にもしなかったんだが、正式に僕の娘になり
たいのかね?」

 「………………」
 由梨絵はこの時はっきり言わなかったが、心の中の答えは常に
イエスだった。

 「君は、学校ではお友だちに僕をお父さんと紹介してるみたい
だね。……だったら、君は理事長の娘というわけだ。……そこで、
お友だちに頼まれた。お父さんを説得して、今の古臭い制服を、
もっと……そのなんだ……君たちの言葉言うところの………何て
いったか……そうそう、イケてるデザインにして欲しいって……」

 「それは……別に……私が、そう言ったわけじゃないけど……
そういう事になっちゃって……」
 由梨絵は顔を真っ赤にして答えた。

 「ま、無理もないか、現に君は僕の家から通ってるわけだから。
だけど、嘘はよくないな。そんなこと吹聴してると今度はもっと
困難なことを、アレもしてこれもやって欲しいって頼まれちゃう
よ」

 「……私は……別に、嘘なんかつくつもりは……」

 「でも、君が否定しなければ、嘘が嘘のまま独り歩きしちゃう
だろう?」

 「……はい」

 「そこでだ、園長先生に頼んで、これからは君のことを給費生
として扱うことにしたんだ」

 「キュウヒセイ?……」
 由梨絵は、使い慣れないその言葉に戸惑ったが……

 「君のクラスでは聡子ちゃんが、たしかそうじゃないか?」
 おじ様の言葉で意味が通じた。

 「えっ!!!給費生って特待生のことなの?」
 由梨絵は驚き、身体が硬直し、目が点になった。

 「そうだよ。昔はそう呼んでた。いいだろう。学費は免除され
てるし、日常生活に必要な物は何でも支給されるから、生活にも
困らない。お小遣いもちゃんと出るんだから気がねなしに使える。
何より、理事長の娘が給費生なわけないから、みんなに嘘をつか
ずにすむしね」

 伯爵はすました顔であっさりと言いのけたが、それは給費生に
おける陽の当たる部分だけのこと。実際の生活がとっても大変な
ことは小学生の由梨絵にもわかっていた。

 給費生というのは、家が貧しいけど学業が優秀なために学校が
学費免除で受け入れた生徒のことで、学費のほか学園生活で必要
な必要最小限の物は何でも支給してもらえる結構な立場ではある
のだが、その代わり、いわば学校の広告塔として模範生でいなけ
ればならなかった。

 学業は成績上位の一割以内。これ以下になると退学させられる
規則になっている。それだけでない。素行や品性でも他の生徒の
模範になるように求められていたから、もし規則違反をして罰を
受ける時は一般の生徒の二倍三倍の罰を受けることがよくあった。

 おまけに、一般の生徒からは、あの子だけ優遇されてるという
やっかみや自分たちとは育ちが違うといった特権意識もあって、
よく虐めの対象にもなるから、居心地の悪さを感じる子も少なく
なかったのである。

 『茨の学園生活』
 頭にそんな言葉が浮かぶ。自分がそんな立場になっちゃう。
 これは由梨絵にしてみたら大変なショックだった。
 だから、恐る恐る伯爵にこう尋ねてみた。

 「これ、お仕置きなの?」

 すると、その不安そうな顔が気になったのだろう。伯爵は笑顔
で由梨絵を抱き上げる。
 「いいや、そうじゃないよ。生活はこれまでと変わらないよ。
お前は今まで通りここで生活していくし、今まで通り私に甘えて
いいんだよ。私もお前に不満は何もないもの。ただ、君が私の事
を誤解してはいけないと思ったからそうするだけさ」

 由梨絵はしばらく伯爵の膝の上で抱かれた。
 愛撫だった。

 でもそれは幼い頃からずっと毎日やってきたことと同じこと。
 伯爵はこれまで由梨絵を実の娘のように育ててきたから食事も
お風呂も音楽会やピクニックもすべて一緒の生活を送ってきた。
つまり由梨絵は娘同様だったのだ。

 だから『給費生になれ』だなんて由梨絵にとっては少なからず
ショックだったに違いない。

 そのショックをいくらか癒してもらってから部屋をでた由梨絵
だったが、その顔は来た時とは違ってうな垂れていたのである。

 さて、そんな由梨絵に代わって、今度は執事の牧田さんが伯爵
の書斎に入ってきた。

 「手続きは済んだか?」

 「はい、完了しました。でも、よろしいのですか」

 「何がだ?」

 「いえ、私はてっきり由梨絵お嬢様を養女になさるのかと……」

 「どうしてだ?ま、どうなるか分からんが今でもそのつもりだ
よ」

 「ならば何も特待生などになさらなくても……特待生ともなり
ますと、色々と……」

 「何だ、そのことか」
 伯爵はソファに腰を下ろして含み笑いをすると……
 「ただな、それならそれで由梨絵が私の家にふさわしい女性に
なってらなければならない。爵位はなくなっても六百年続く我が
家の一員になるのだから……しかし、あの子は特殊な事情で引き
取ったからそんな訓練をこれまで一度もしてこなかった。だから、
今回はその試練のようなものさ」

 「さようですか。それで安心いたしました」

 「安心したかね。お前はあの子が好きなようだな」

 「はい。由梨絵様がそばにいると心が和みます」

 「もともと不憫だから一時的に引き取ったが確かに優しい子だ。
顔がいいわけでもなく学業もスポーツもそこそこだが、あの子が
いると心が乾かない。だから私だって養女にとも思っているんだ。
ただし、これといって才能のない者は努力がいる」

 「たしかに……若い時の苦労は買ってでも、と申しますから」

 「そうだな。男の子ならもう少したってから鍛え始めるのだが、
女の子は成長が早い。むしろ、今が鍛え時なのだ。毎日のように
お尻を赤くして暮らすのも振り返ればいい思い出になるさ」

 伯爵は年代ものの赤ワインをグラスで一口。
 それは可愛い娘への祝杯だった。

おばあちゃん先生のお仕置き

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 陽だまりの洋室の一人用のソファに腰を下ろして年配の婦人が
うたた寝をしている。

 それを部屋の入口から隠れるように覗き込む幼い少女が三人。
何やら言い争っている。

 「真理ちゃん、入ってよ」
 「いやよ、メグ(恵)ちゃんから入ってよ」
 「だって、あなたが最初にボールを芝生に入れたんじゃない」
 「何よ、あんな高い球、梯子でも持ってこなかったら取れない
じゃない。あんな球を投げた、あなたが悪いんでしょうが」

 すると三人の中では一番背の低い里香が二人を無視して部屋の
中へ……

 「先生、こんにちわ」
 里香は園長先生の身体を揺すっている。

 唖然とする入口の二人。
 「え~~~何するのよ」
 「やめなさいよ」
 二人は園長先生に取り付いた里香を必死に引き戻そうとするが、
里香はお構いなし。

 そのうち、うたた寝から醒めたおばあちゃんが起きてしまう。
 それどころか……

 「園長先生、お仕置き、お願いします」
 大きな声は園長先生を完全に目覚めさせてしまった。

 「あら、里香ちゃん。どうしたの?……あら、真理ちゃん……
メグ(恵)ちゃんも一緒なの。……御用かしら?」

 こうなると、部屋に入りそびれていた二人も中へ入ってこなく
てはならなくなった。

 「先生、園長先生にお仕置きをお願いしなさいって美川先生が」
 里香が、その幼い両の手で、さながら甘えるように園長先生の
お膝を揺する。

 その様子は、まるでお仕置きという意味が分かっていない幼子
のようだった。

 「あら、そうなの。……あなた、何かオイタしたのかしら?」
 先生は少し寝そべった身体を立て直すとき、おずおずと入って
来たほかの二人にも笑顔を振りまく。

 「あら、あなたたちも、お仕置きが必要なの?」

 三人の少女はこの時まだ7歳。
 学校で決められたオカッパの髪、服はライトブルーのシャツに
たけの短い臙脂のフリルスカートといういでたちでアイボリーの
短ソックスを履いている。靴は日本の学校ならどこでも採用して
いる先っちょが赤いゴムになった白い上履きを履いていた。

 「***********」
 「***********」
 二人は先生の前までやって来たが恥ずかしそうにしているだけ
で、何も話さない。

 話さないというより、こうしたことは話しづらい、むしろ里香
の方が異常だった。

 すると、ここでも園長先生のお膝を一足早く占拠していた里香
が口火を切る。

 「今さっき、私たち礼拝堂の裏にある芝生の上でゴルフの練習
していたんだけど、そしたら望月先生がカンカンに怒っちゃって
……」

 「望月先生が……ゴルフって??」園長先生は小首をかしげる。

 「あなたたち、ゴルフボールとかクラブとかお道具はどうした
の?」

 「何?それ……そんなの知らない」里香も先生のお膝の上で、
やっぱり小首を傾げる。

 「とにかくドッヂボールが入ればよかったの。芝生の真ん中で
穴掘りして……花壇の処からボールを蹴って……それでその穴に
何回で入るか競争してたんだけど、真理ちゃんって偉いんだよ。
3回で入れちゃったんだから……」

 「なるほど、そういう事でゴルフなのね」

 「そうだよ、ゴルフってできるだけ少ない回数でボールを穴に
入れた人が勝ちなんでしょう?」

 「そうね、だったらゴルフだわね。……それで、里香ちゃんは
何回で入れたの?」

 「七回。真理ちゃんなんて10回よ。……それで、もう一回、
花壇の処からやろうとしたら望月先生がかけっこでやってきて、
『あなたたち、何やってるの!』って……」
 里香は園長先生に両手で目尻を吊り上げて見せる。

 「どうやら望月先生、怒ってたみたいなの。それで園長先生の
ところでお仕置きしてもらいなさいって……」

 「なるほど、それで私の処へ来たのね」

 「そういうこと……ね、わかった?」
 里香ちゃんは屈託のない笑顔で園長先生を見つめる。

 「お話はわかったわ。……でも、あの芝生は、お姉さんたちが
年に一度開かれるテニス大会の為にだけ使う芝生なの。だから、
普段はああして何も行われていないけど、その日の為にお姉さん
たちがみんなで大事に大事に育ててるから、あそこには普段入っ
ちゃいけないのよ」

 「ふ~~~ん、そうなんだ。それで望月先生が、おばあちゃま
先生のところへ行きなさいって言ったんだ」
 里香は納得したみたいだったが、その顔はすぐに暗くなって…
 「……ねえ、おばあちゃん先生は、私たちをお仕置きするの?」
 不安そうに尋ねた。

 すると……
 「なあんだ、そんなこと心配してたの?大丈夫、しないわよ。
あなたたちはそれが悪いことだって今日初めて知ったんだもの。
もちろん、二度としないでしょう」

 「うん」

 「だったらそれで十分。お仕置きなんて必要ないわ。しません」

 「ほんと!?」
 今度は急に顔が明るくなった。

 「本当よ、こんなことであなたたちをお仕置きしたりしないわ。
私はあなたたちが本当の事を話してくれたことがとても嬉しいの。
だから、それで十分。お仕置きなんて必要ないわ」
 園長先生はそう言うと里香を膝の上からさらに高く抱き上げて
頬ずりする。

 「ホントにほんと」
 里香が念を押すと、他の二人もその場に膝まづいて園長先生の
顔を覗き込んでいた。

 子供たちにとってお仕置きはそれほど一大事なのだ。

 そんな子供たちの気持を察したのだろう。園長先生は三人の顔
を見回すと……
 「ここでは、嘘をつかない子、自分のしたことから逃げない子
にお仕置きしませんって決めてるの。ただ、あそこはお姉ちゃま
たちが大事に育ててる芝生だから、あなたたちが掘った穴は元に
戻さなきゃだめよ」

 園長先生は、里香の頭を撫でて頬ずりすると、いったん膝から
下ろし、代わりに真理を抱く。

 「頭についてるリボンは望月先生が作ってくださったの?」

 「そうよ、似合ってるって……」

 「とってもよくお似合いよ。あなた、あんな高い塀を飛び越え
ていくようなボールを投げられるなんて、運動神経がいいのね」

 「お転婆さんだって言いたいんでしょう」
 真理は少しはにかむような甘えるような仕草で園長先生の胸を
借りている。

 「いいのよ、それって素敵なことだもの。子どもの頃はお転婆
くらいでちょうど良いわ」

 園長先生は真理を下ろすと、最後にメグを抱く。
 メグは穴掘りを一生懸命やったせいか服が多少汚れていたが、
園長先生はそれを気にする様子もなかった。

 「あなたが一番一生懸命に穴を掘ったのね。お友だちのために
そうやって働く事はとっても尊いことよ。……でも、もうそれも
終わったから、今度はお顔とお手々を少し綺麗にしましょう」

 「柴崎、これを濡らしてきてちょうだい」
 園長先生はご自分のハンカチを秘書の柴崎さんに渡す。

 その短い間、園長先生は抱いたメグの額に自分の額を擦り付け
てお互い笑って過ごした。

 やがて、濡らされたハンカチが届くと、おばあちゃん先生は、
「あなたは望月先生にここでの顛末を報告してきてちょうだい」
と、新たな仕事を与える。

 その後は濡らしたハンカチが真っ黒になるまでメグの顔や手を
拭き、真理や里香ともにらめっこをしたり肩車をしたりして過ご
す。その姿はまるで三人の本当のおばあちゃんのようだ。

 それもそのはず、ここはカタリナ会の修道院が経営する特殊な
孤児院。彼女たちも赤ん坊の時からここの寄宿舎で暮らしている
から、他の世界を知らないのだ。
 園長先生のことを、おばあちゃん先生と呼ぶのはそのせいで、
子供たちにしてみれば園長先生といえど身内と変わらなかった。

 こうして、三人が三人ともおばあちゃん先生のお膝に乗ると、
これでお仕置きは終了。

 このくらいの年齢の子がお仕置きを受けるのは、それが他人を
怪我させてしまうかも知れない時と、自分が怪我してしまうかも
しれない時だけ。何をやったにせよ、本格的なお仕置きは、まだ
一度も受けたことがなかった。

 「もう二度と、あの芝生には入りませんってお誓いの言葉だけ
は述べましょうね」

 園長先生に促されて、三人はあらためて床に膝まづく。
 両手を胸の前で組んで……

 「私たちは、もう二度と、お姉様たちが大切にしている芝生の
中に入りません」

 園長先生の言葉に合わせて、三人も……

 「私たちは、もう二度と、お姉様たちが大切にしている芝生の
中には入りません」
 と、唱和する。

 これはこの学校のしきたりのようなもの。園長先生に呼ばれた
時はお仕置きを受けたか否かにかかわらず生徒は必ずこの姿勢で
こうした誓いの言葉を口にしなければ開放してもらえなかった。

 そして、その誓いの言葉が終わりかけた頃、膝まづいた三人は
不思議な音を聞くのである。

 「あっ……ああああ」

 それは誰かのうめき声。でも……

 『何だろう?』
 思わず顔を見合わせる三人。

 でも人生経験の浅い三人にはドアの向こう側にある苦悶の表情
を想像できなかった。

 「さあ、もういいわ。望月先生には私から三人は良い子に戻り
ましたってご報告しておくから心配要らないわよ」

 「ホント!必ずご報告してね」
 真理がほっとした笑顔で……でも、思いは三人とも同じだった。

 「さあ、もういいでしょう。行きなさい。次の授業は理科よね。
先生をお待たせしちゃいけないわ」
 園長先生のやさしい声に送られて、幼い子供たちは部屋をあと
にする。

 すると、三人が部屋を出たのを確認して、おばあちゃん先生は
一人用のソファから立ち上がったのだが……
 その顔は心なしか締まって見えた。

**********************

 「さて、どんな具合かしらね」
 園長先生は奥の扉を前にして一言。
 そして、天上まで続く高い高い本棚を右へと滑らすと……

 『ス~~~~』
 この大きな本棚が引き戸となって奥の部屋へと続いている。

 ただ、今ここにいた小さな子供たちとってそこは縁のない部屋。
ここはもう少し大きくなった子供が何かの折お仕置きをうける為
の部屋だった。

 薄暗かった部屋に、たくさんの白熱燈を従えたシャンデリアが
まばゆい光を放つ。
 それまで薄っすらとしか見えなかった景色が白日の元になる。

 あたりの気配に気を配る園長先生のそのキリリとしまった顔は
幼い子を相手にしていた先ほどまでとは別人だった。

 30平米程の広さの部屋には人一人が乗るには十分な長方形の
テーブルが一つ。
 今は中学校の制服を着た少女を一人、四つん這いにして乗せて
あった。

 「ああああああああっ」
 重苦しい吐息と共に少女の全身が小刻みに震え、それに合わせ
てテーブルも揺れている。

 ひんやりとした部屋の空気が、彼女の頑張りによる熱量だけで
まるでストーブでも炊いているように温まって感じられるから不
思議だ。

 しかし、園長先生の視線は冷ややかだ。

 うつ伏せの少女のお尻はテーブルに押し付けた顔より高い位置
にあって、おまけにスカートが捲り上がっている為にビニールの
オムツカバーが丸見え。
 それが小刻みに揺れて擦れキュキュという音を出していた。

 園長先生は少女のお尻を一瞥すると、自らこの部屋の管理人に
任命した木村先生に擦り寄り小声で尋ねた。

 「木村、どうなの……終わったのかしら?」

 「いえ、半分ほどで止まって、まだ残っています」

 「そう、じゃあ、今、オムツの中はベチョベチョってわけね。
どうりで軽く異臭がすると思ったわ」

 園長先生と木村先生はヒソヒソ話だったが、振り返ると少女の
顔は真っ赤になっている。
 そこで、今度は園長先生の声が大きくなる。

 「わあ~~臭い臭い。この娘、学校でウンコしちゃったんた。
わ~~恥ずかしいわね」
 園長先生はわざと幼い苛めっ子がはやし立てる時のような声を
出した。

 すると、少女が思わずテーブルに顔を伏せて隠す。
 今の少女に園長先生のお茶目なツッコミを相手にしている余裕
はない。
 全身鳥肌の少女は、未だ四つん這いのままで、時折襲う荒波に
必死に向き合っていた。

 「あっ……あああああ」

 少女の頭や額からあふれ出た球のような脂汗は、やがて一つの
雫となって頬を滑り降り、小刻みに震える顎の先端からテーブル
へと落ちる。そこには後悔の涙も含まれていた。

 「さて、どうでしょう。……小坂さん、どうなの?なぜこんな
ことになったのか、思い出してくれたかしら?」

 「はい……」
 力ない声が返って来る。

 「だったら、あなたがしたこと、教えてちょうだい」

 「…………は……はい」
 小さく震える声。でも、やっと搾り出した声だった。

 「そう、それはよかったわ。昔から教師の世界では健忘症の子
にはお鞭よりお浣腸が効くっていわれてるけど、本当みたいね」
 先生は少しおどけた調子だ。

 「カンニングをしました」

 「そう、カンニング」
 園長先生は何やら思わせぶった表情だが、事の顛末は、すでに
知れていた。

 「それじゃあ、あの紙はやっぱりあなたが作ったのね。今度の
テストって、あなたまでもがカンニングしなきゃならないほど、
そんなに大変だったの?」

 「いいえ……あれは……亜紀ちゃんに頼まれて……」

 「なるほど、あなたが自分の為にそんな事やるはずないものね。
……ということは、それって、純粋にお友だちの為なのかしら?」

 「亜紀ちゃん、このテストで合格点取らないと、午後も補修を
やらされて大事なテニスの試合に出してもらえなくなるからって
……それで……」

 「それで答案用紙にまず自分で答えを書いてから回収されない
問題用紙の方を破って、そこに答えを書き移して前の座席の亜紀
ちゃんに渡してあげた。……そういうことかしら?」

 「…………」
 律子は頷くだけで答えた。

 「ところが、その答えを書いた紙を亜紀ちゃんが自分だけじゃ
なく他の子にも回してあげたから、その紙はテストを受けていた
クラス全員に行き渡り、結局、大半の子が満点。……めでたし、
めでたし、というわけね」

 先生の皮肉に律子ちゃんは身の縮む思いだ。

 「…………そうよね」

 最後の『そうよね』には園長先生のため息も混じっていた。

 「あなたは、お友だちの為によかれと思ってやったのかもしれ
ないけど、それって安西先生にしてみたら大迷惑なの。テストは
子どもたちがどの程度教科の内容を理解しているかを示す大事な
指標なんですもの。仮に誰かに教えてもらった答えを書いて百点
がたくさん出たとしても嬉しくないわ。それは分かるでしょう?」

 「……は、はい」
 律子の蚊の泣くような声がする。

 「どう、こんな姿勢でテスト風景を見た事なんてないでしょう?」
 園長先生は、園長室に設置されていたモニターを四つん這いの
律子にも見えるように移動させていた。

 モニターは一台ではない。今、学園の中で何が行われているか
が瞬時に把握できるように、園長室では10台以上のモニターに
学園のあらゆる場所が映し出されていた。

 「あらあら、あなたのおかげてお友だちがみんな今日二回目の
テストを受けてるわ」

 「……私は……」

 「わかってる。あなたはあれは亜紀ちゃんの為にやっただけで
他の子のことは知らないって言いたいんでしょう」

 そして、園長先生はこう付け加える。
 「人間は安易な方法が見つかるとそれに流れるものなの。……
あなたにそのつもりがなくても、こういう事になるわ」

 「私はそんなことまで……」
 律子はそこまで言って口をつぐむ。

 「そんなことまで考えてなかった?でも、意図していなくても
起こった結果には責任を取らなきゃならないわ……それが大人に
なるということなの」

 「私は……ただ……亜紀ちゃんがそれで助かるならと思って……」

 「親切心が裏目に出たってことかしら?……今回は、あなたが
自分の為にカンニングしたわけじゃないけど、罪としては決して
軽くないよ。それと、何よりよくないのは私が最初にカンニング
ペーパーの出所を尋ねた時、あなたが素直に白状しなかったこと。
これが今回の一番の罪だわね」

 「ごめんなさい先生。……私、勇気がなくて……」

 「犯した自分の罪を素直に認めるのは勇気のいることだけど、
ここではあえてそれを求めるの。それはあなた達をこうして援助
してくださるお父様方が、高い学力より天使のような無垢な子で
あって欲しいと願っておられるから。その願いは私たちも同じ。
幼い頃、先生たちとかわした『嘘をつきません』というお約束は
あなたがここの生徒である限り絶対のお約束。知ってるわよね」

 「はい、先生」

 「じゃあ、先生に嘘をつかないというお約束を守れない子は、
理由のいかんを問わず辱めのお仕置きを受けなければならない。
この規則も知ってるでしょう?」

 「はい、先生」

 「よろしい。納得できたんなら、もう、お浣腸はいいわ。木村
に手伝ってもらって、カーテンの向こうで着替えなさい。それが
終わったら、ここへ戻ってケインで一ダース。それで、終わりに
しましょう」

 「えっ、ケイン?……あっ、……は、はい」
 律子ちゃんは明らかに動揺していた。

 ケイン一ダースは女の子としては厳しい罰。女の子の場合は、
通常はトォーズと呼ばれる革紐鞭が多かったからだ。

 「どうしたの?……不満?……これでもあなたのことを考えて
お仕置きは精一杯軽くしたつもりだけど、いやだったら別の罰を
考えなきゃいけないわね」

 「あっ、……い、いいえ……そんな……ありがとうございます」

 律子は慌てたどたどしく消え入りそうな声になる。
 もともと絶対君主の命令を拒否するなんて一介の生徒にはでき
なかった。

 園長先生は律子に一応の区切りをつけると、それまで注目して
こなかったマリア様の肖像が掛かった壁の方を見る。

 そこにはテーブルに乗る少女と比べるといくらか華奢な体つき
の女の子が二人、白い丸首シャツにブルマー姿で膝まづいていた。

 「マコちゃん、リサちゃん、お待たせ……さて、あなたたちは
反省できたかしら」

 園長先生に水を向けられて、二人は思わず顔を見合わせたが、
結局、声がでない。

 二人は小学五年生。小学生は中学生と比べても身体が小さくて
華奢だ。だから、こんな部屋に連れ込まれ大人に見下ろされると
たいていこんな事を思う。

 『怖い。オシッコちびりそう』
 二人は頭の中で同じ事を思っていた。

 律子もそうだが、二人もここで新参者ではない。赤ん坊の頃に
この修道院に引き取られ、以来ずっとシスターたちと一緒に暮ら
している。お姉ちゃん達が通う学校も入学前から出入りしていて
校庭は自宅のお庭の一部。学校の先生が親代わりになって遊んで
くれることもしばしばで、おばあちゃん先生とも普段ならため口
がきけるほど仲がよかった。

 ただ、子供たちに評判の悪いお仕置き部屋へ二人が連れて来ら
れたのは今回が初めてだし、園長先生のこんな怖い顔も初めて。
そのあまりの恐怖に二人とも声が出なくなっていた。

 「時の経つのは早いものね。つい最近まで私はあなたたちの事
を『可愛い赤ちゃん』『元気な赤ちゃん』とばかり思ったけど、
気がつけばあなたたちもすでに11歳。そろそろ赤ちゃんを卒業
させてあげて分別というものを身につけてもらわないといけない
年頃になってる。……今日は、それでここへご招待したの。……
驚いた?」

 「…………」
 「…………」
 二人は無言のまま頷く。それが今の二人に出来る精一杯だった。

 「ここはガールをレディへと創りかえる舞台裏。男の子もそう
だけど、女の子も単に歳を重ねればレディというわけではないの。
お姉様らしい気品や立ち居振る舞いは汗と涙、努力と試練を重ね
て身に着くもの。ここはその訓練の場所なのよ」

 「…………」
 「…………」
 二人はあらためて部屋の中を見回す。
 シャンデリアの輝くこの部屋は一見すると豪華だが、窓もなく
背の高い本棚が防音壁となって悲鳴をあげてもその声が容易には
外へ漏れそうにない。そんな圧迫感が二人を不安にしていた。

 「……目をぱちくりさせて……ビックリした?……正直ね。でも、
その正直でいることが、ここでは何より一番大切なことなのよ。
女の子は、自分を守ろうとして男の子より簡単に嘘をつくけど、
一つ嘘をついてしまうと、それを隠そうとして、次から次に嘘を
つかなければならなくなっていき、やがて自分のついた嘘を必死
に真実だと思い込もうとする。女の子にはよくあるパターンよ」

 「…………」
 「…………」
 二人は生唾を飲んだ。
 この二人にしても経験のない話ではなかったのだ。

 「そうやってあがいてみても、嘘が真実に変わることはないわ。
実際そうやって身を滅ぼした子が何人もいるの。私たちにしても、
そうした子にはたくさんお仕置きしなければならないし、お互い
何一つ徳になることはないのよ」

 「…………」
 「…………」
 二人の顔が青ざめる。

 「オシオキ……」
 マコちゃんが蚊のなくような小さな声でつぶやいた。
 この言葉が重いのはリサちゃんも同じだ。

 「あなたたちも立派なレディになるまでにはこういった部屋で
痛い思いや恥ずかしい思いをたくさん経験することになるわね。
でも、それもこれも、あなたたちのため。それにみんなに愛され
ている子に試練は少ないわ」

 「ホントに?」
 リサちゃんが不思議そうに尋ねた。

 「本当よ。……ここでは『清楚』で『勤勉』で『従順』な子が
愛されるの。生活にだらしのない子や怠け者、我ままばかり言う
子は嫌われるわ。学校で習ったでしょう」

 「はい」

 「中でも最も大事なことは、他人にも自分にも嘘をつかないと。
ここでは正直にさえしていれば恐れる事は何もないわ。お友だち
や先生、お姉様、周りにいる誰もが救いの手が差し伸べてくれる
から心配ないの。女の子はそれを大事にしなきゃ」

 おばあちゃん先生は中腰になってリサちゃんの頭を両手で持つ
と、頭と頭をコッツンコさせた。
 そして、こう続ける。

 「本当よ。ところが、大きくなるにつれて守りたいものが沢山
増えちゃうから、そういう勇気がなかなか出なくなっちゃって、
その結果、ああして恥ずかしい罰をたくさん受けるはめになるの。
……嫌よね、ああいうの」

 おばあちゃん先生の振り向く先に、今まで律子が頑張っていた
テーブルがある。その先、カーテンが引かれた向こう側では……
恥ずかしい音やすすり泣く律子の声が……

 二人がそれを映像としてそれを見る事はなかったが、カーテン
越しでも恐怖は十分に伝わってきていた。

 「お姉ちゃま、嘘をついたんですか?」

 園長先生は、再び幼い二人の方を振り返ると……

 「そうなの。最初は、『私、カンニングなんかしてません!』
って頑張っちゃったの。こちらは調べがついてるから訊いてるの
に……あなたたちだってあんなことするの嫌でしょう?」

 「…………」
 「…………」
 二人は即座に首を縦にする。

 「お浣腸って恥ずかしいし苦しいものね。嫌に決まったるわよ
ね」
 園長先生は静かに微笑むと自らその場に膝まづいて二人を一人
ずつ抱きしめた。

 リサちゃんをひとしきり抱きしめてから、次はマコちゃん……
 これは二人への最後通牒だった。

 「……よし、それじゃあ尋ねるけど、お二人さんは今日は何が
あってここへ行きなさいって秋山先生に言われたの?」

 「それは……」
 「え~~~っと……」
 二人はやはり口が重かったが……

 園長先生が念を押す。
 「リサちゃん、マコちゃん、ここでは嘘をつく子はいらないの」

 先生は事の顛末を知っていたが、あくまで二人の口からそれを
聞きたかったのだ。

 大きなプレッシャーが圧し掛かるなか、リサちゃんがやっとの
ことで口を開く。
 「お掃除の時間にマコちゃんが…『食堂の机を並べて、そこで
かけっこしない』って言うから……私、仕方なく……その……」

 すると、すぐにマコちゃんの反論が返って来た。
 「嘘だね、それリサちゃんが最初に言い出したんでしょう」

 「私は、ここ(食堂)で走ろうなんていってません。ここでも
できるねって言っただけじゃない」

 「嘘よ!リサちゃんが教室よりここ(食堂)の方が長く走れる
からここでやろうって……」
 二人はお互いの肩をぶつけ合う。

 しかし、園長先生にとってそんなことはどうでもよかった。
 「で、机を並べ替えて走路にしたのは誰なの?…リサちゃん?
マリちゃん?」

 「それは……二人で……」
 「自分の走る分は自分で作ったから……」

 「そう、あんな広いお部屋の端から端までに机を並べるのって
大変だったんじゃない?……でも、楽しかったんでしょう?」

 「…………」
 「…………」
 二人は小さく首をこっくり。

 「そりゃあ楽しいわよ。お友だちもたくさん応援してくれてた
みたいだし……食堂のおばちゃんも『急に運動会が始まったから
びっくりした』っておっしゃってたわ」

 「始めは、机を三つだけ並べて石飛するつもりだったんだけど
……リサちゃんが、もっと長くしてかけっこした方が面白いって
言うから……机を全部並べることになっちゃって……」
 マリちゃんはちょっぴり不満そうに反論したが……

 「どちらが最初に思いついたかなんて関係ありません。だって、
最後は二人して机を並べて走路にしたんだもの。この期に及んで
相手が悪いなんて言えないわ」

 「…………」
 「…………」
 二人はシュンとなった。

 「私がいけないって言ってるのはみんなで食事をするテーブル
に上履きのまま上がることです。あなたたちそんなことして汚い
とは思わなかったの。それに、不安定な机の上を走ったりしたら
危ないでしょう。足を踏み外して落ちたりしら、たとえ机の上の
高さからでも大怪我になるところよ。食堂は体育館じゃないの」

 「ごめんなさい」
 「ごめんなさい」
 二人は殊勝な顔でうな垂れる。

 「ほら、見て御覧なさい」
 園長先生はモニターの映像を切り替え、今の食堂の様子を映し
出す。

 「ほら、あなたたちが土足で踏み荒らしたテーブルをお友だち
がお掃除してる。……これって、誰のせいでこうなったの?」

 「…………わたしたちです」
 「…………ごめんなさい」

 「本来なら、あなたたちが首謀者ですからね、率先してお掃除
に参加してもらうところだけど、今日はもっと大事なレッスンが
必要だと思って……それで、今日はこちらに来てもらったのよ。
……どういうことだか、わかるわね。ここに来たのが何の為か?」

 再び、おばあちゃん先生の黒い影が二人の顔に圧し掛かる。

 「はい」
 「はい」

 「何の為だか…わかるかしら?」

 「お仕置きですか?」
 リサちゃんだけが勇気を振り絞って答えたが思いはマリちゃん
も同じだった。
 二人はお仕置きを覚悟していたのである。

 「わかってるなら、それで結構よ」

 「…………」
 「…………」
 二人は先生の鋭い視線に耐え切れず視線を床に落としてしまう。

 「ただ、あなたたちの場合は、まだ小学生だから、鞭でお尻を
叩くお仕置きだけは免除してあげるけど……」

 「えっ、お仕置きしないの?」
 マコちゃんが、思わず視線を上げふっと息をつく。
 「帰っていいの?」
 リサちゃんも目が輝いた。

 「いいわよ。お仕置きが済んだら……」

 「えっ?だってお仕置きはしないって……」

 「そんなこと言った?私は鞭を使ったお仕置きは許してあげる
って言っただけよ。お仕置きはしませんなんて言ってませんよ」

 やっと二人の顔に血の気が戻ったのもつかの間、またシュンと
して下を向いてしまう。

 「ぶったり叩いたりはしませんよ。ただし、一つだけ、あなた
たちには大事なお仕事があるわ」

 「どんなこと?」

 「これから、ここで律子お姉様のお仕置きがあるんだけど……
それをここで見届けてほしいの」

 「えっ……お姉様のお仕置きを……」
 「……それって……見るだけ?」

 「そうよ、見るだけでいいわ。辛いお仕置きを事前に見学して
おけば、あなたたちがこれからオイタがしたくなったとき、思い
とどまるきっかけになるかもしれないでしょう。あなた達だって
中学生になれば、このくらいのお仕置き、ないとはいえないのよ」

 「他山の石とか……」
 「見せしめ?」

 「あら、マコちゃんもリサちゃんも難しい言葉知ってるわね。
その通りよ。律子お姉様だって、先生の前だけでお尻出すのと、
後輩に見られながらお仕置きを受けるのでは心に残るものが違う
んじゃないかしら。より深く反省ができた方が先生も助かるから
これは一石二鳥ね」

 「…………」
 「…………」
 二人にはおばあちゃん先生の笑顔が怖かった。

 そうこうしているうちにカーテンが引かれる。
 現れたのは紺の制服姿をピシッと身につけ、こわいほどの顔で
園長先生を見据える凛とした律子お姉様の姿。
 そこには、先ほどまでオマルにしゃがみ込み、涙を拭い鼻水を
すすりながら泣いていた姿はなかった。

 「園長先生、ありがとうございました」

 律子はこの修道院の作法にのっとって園長先生の前に膝まづき
両手を胸の前に組んで挨拶する。
 それは気品さえ感じさせる姿だった。

 それもそのはずでここで暮らす子供たちは単なる孤児ではない。
世間によくある、親の虐待や経済的に困窮したために施設に預け
られたという孤児たちとは少し事情が異なっていた。
 
 実は、ここの先生方、この子たちの親の素性をご存知なのだ。
しかもその名は、この教団の中にあっては『幹部』と呼ばれる人
ばかり。そんなお偉いさんたちが不義を犯してつくってしまった
のがこの子たちであった。

 堕胎を禁じる教義のもと、産んではみても育てられないわけで、
結局、同じ教団内の修道院で秘密裏に育ててもらうことになる。

 『教会の子供たち』と呼ばれるこの子たちには、当然、親から
養育料が支払われているから経済的には困らない。しかも、将来
ひょっとしたこの教団の幹部になることもありえるわけで、それ
なりの教養や躾も叩き込まれる。但し、人目については困るので、
生活のほとんどが修道院の中という超かごの鳥生活だった。

 「あなたも、中学生になって、少しは女らしく振舞えるように
なりましたね」

 園長先生は律子を褒めると、すぐにマリア様の額が掛かった壁
を向く。
 そして、幼い二人にこう命じたのだった。

 「あなたたち、あなた達もお姉様のお仕置きを見学させていた
だくんだったら、そのままの姿では失礼よ。ブルマーとショーツ
は脱いで見学しなさい」

 おばあちゃん先生の言葉は寝耳に水、青天の霹靂だった。

 『ブルマーとショーツってどういうことよ』
 『どうして私たちまでそんな恥ずかしいことしなきゃならない
のよ』
 二人の頭は混乱する。
 でも、これは園長先生の命令。無視も拒否も出来なかった。

 「…………」
 「…………」
 お互い、顔を見合わせ、両手でそうっとブルマーに手はかけた
ものの、そこから先が進まない。
 結局、ブルマーは下がらなかった。

 すると、園長先生が……
 「何してるの。早くなさい。あなたたちは、ここにお客さんで
来てるんじゃなないのよ。お姉様と同じようにお仕置きで来てる
じゃないの。お姉様のお仕置きをパンツを穿いて見るなんて失礼
よ」

 先生の言葉が真上から降ってきて二人は身が縮む。
 でも、だからって『はい、わかりました』とはならなかった。

 小学生といってもそこは女の子、恥ずかしいのだ。

 そんな乙女の気持を見透かすかのように、暗黒の大王が降りて
くる。

 彼女は二人の前で中腰になると……
 「何、愚図ぐすしてるの!…恥ずかしいの?…いいでしょう!
まわりは女性ばかりなんだから」

 たったこれだけ言う間に二人のブルマーとショーツを下ろして
しまう。

 「お仕置き部屋では先生の命令はすぐに従わなきゃ。お仕置き
が追加されてしまうわよ」

 『恥ずかしい』
 『死にそう』
 二人は頭の中ではぼやきながらも、先生に言われることなく、
胸の前で両手を組む。

 『とにかく、反省のポーズをとらなきゃ』
 『今度は本当にお尻をぶたれちゃうよ』

 二人が怯えるなか、先生は……
 「いい心掛けね。その姿勢でお姉様が美しい心を取り戻すのを
見ていなさい。その間は『お姉様が美しい心を取り戻せますよう
に』って、マリア様にお願いするの……いいですね」

 「はい、先生」
 「はい、先生」
 二人は反射的に声を揃えた。

 「さて、律子ちゃん。妹二人が、あなたのお仕置きを応援して
くれるそうよ。頑張らなくちゃね」
 先生は身体の向きをテーブルに戻すと、まだ何の準備もできて
いない律子ちゃんの顔を見て笑う。

 『夢なら早く醒めてよ~~』
 律子は心の中で叫んだ。

 あまりにも絶望的な状況になると、今、起こっている出来事が
まるで夢をみているように感じられて現実感がなくなってしまう
もの。
 でも、これは悲しい現実。律子ちゃんは、これから恥ずかしく
て痛いお仕置きを覚悟しなければならなかった。

 律子ちゃんは腰枕と呼ばれるクッションにお臍の辺りを乗せて
うつ伏せになると、テーブルの角を両手でしっかり握る。
 ガマ蛙が車に引かれたようにペッチャンコで、お尻だけが高い
無様な姿勢。でも、これが鞭のお仕置きの際に生徒が取らされる
姿勢だった。

 準備はこれだけではない。
 木村さんによってスカートが捲り上げられ、ショーツが下げら
れる。周囲が女子ばかりだから遠慮がないけど、お尻にスースー
風の当たる律子はやはり恥ずかしかった。

 「さあ、行きますよ。よ~~く歯を喰いしばっていないと舌を
噛みますからね」
 園長先生の声。

 最初はケインの先端がお尻のお山を撫で回すだけだったが……
そのうちそれがお尻を離れたと感じると、いきなり衝撃が走った。

 「ピシッ!!」①

 律子ちゃんの両手が思わず全力で机の角を握る。
 その瞬間はヒキ蛙の身体全体に電気が走っていた。

 「いやあ~~痛い」
 大きな声。肩を震わせ、肩まで伸びたストレートヘアが揺れる。
 本当は腰から下も揺らしたかったが、鞭は初心者ということも
あって念のため木村さんが腰を押さえていた。

 「だらしがないわね。このくらいのことで悲鳴をあげて……」

 園長先生は冷淡に言い放つ。
 実際、鞭のお仕置きと言うのは慣れているかどうかで受ける側
の感覚が随分違う。もし、これが幼い頃から親や教師にケインを
当てられていた子だったら悲鳴はおろか呼吸一つ変わらなかった
に違いない。
 先生はその程度でぶったのだ。

 「さあ、次」

 その言葉から10秒ほどあいて……
 「ピシッ」②

 「ひい~~~」
 園長先生にだらしがないと言われて必死に頑張ったから身体を
動かさず泣き言は言わなかったが、お尻が痛いという現実は同じ。
 自然と涙がこぼれる。

 「できるじゃない。このくらい誰でも耐えられるのよ。レディ
はこのくらいのことでジタバタしてはいけないの。恥の上塗りで
しょう。女の子は今自分がどのよう見られているかに細心の注意
を払わなきゃいけないの。……分かったかしら?」

 「はい、先生」
 律子ちゃんはこうしか言えなかった。
 反論なんて出来なかったのだ。

 「さあ、もう一つ。いきますよ」

 再び10秒後……
 「ピシッ」③

 「ひぃ~~~いやあ」
 出すつもりのない声が出る。

 「ふぅ」

 園長先生は一つため息をつくと……
 「…無様ね。そんなことではあなたを中学生と認めるわけには
いかないわね。心がまだ子供なら子供としてしか扱えないわね」

 こう言ってすでに三つの赤い筋が出来ていた律子ちゃんのお尻
へ顔を近づけていくと、何も言わず、少女の太股を……

 「あっ!!……」
 もちろん、律子ちゃんは自分が何をされたか分かったが、悲鳴
も上げなかったし押し開かれた太股も元に戻さなかった。

 そんな律子ちゃんに園長先生はきつい一言。
 「子どものあなたが隠す必要ないでしょう」

 そして……
 「さあ、もう一つ」

 「ピシッ」④

 「ひいっ~~」
 声は出来るだけ絞ったが、肩も頭も大きく揺れる。ついでに、
女の子の恥ずかしい場所も……

 中一の体ではそれはまだ子供のそれにも近かったが、スースー
する場所が恥ずかしいことに変わりはなかった。
 そこを風が通り抜けた瞬間、律子ちゃんの顔が真っ赤になった。

 「恥ずかしい?」

 「は……はい」
 先生の質問に素直に答えると……

 「恥ずかしいのもお仕置きよ。我慢しなくちゃね。できる?」

 「はい」

 「よろしい。では足を閉じないようにしなさいね。閉じたら、
鞭の回数を増やします。いいですね」

 「はい」

 「よろしい、ご返事は合格。では次、いきますよ」

 「ピシッ」⑤

 「あっっっっっっ」

 それは今まで以上にお尻に応えた。
 でも律子は我慢する。わずかな時間でも園長先生とのやり取り
が彼女の支えになっていた。これが無言のまま、太股を開かせ、
ケインで打ち据えていたら律子は大暴れしていたかもしれない。

 「お股が涼しいでしょう。でも、ここで暮らした子どもたちは
全員、こんな恥ずかしい格好をしてきたの。一回だけじゃなく、
何回も……」

 「私も、またぶたれるんですか?」

 「それはあなた次第。ここでは、怠けたり、規則をやぶったり、
お友だちを傷つけたりしない限り、お尻をぶったりしないもの。
あなたは優等生だから、こんな経験、今日が初めてなんでしょう
けど、多くの子はもう2~3回はここを訪れてるのよ」

 「えっ……でも、聞いたこと……」
 
 「口止めされてるからよ。ここであった事は絶対に外で話して
はいけないの。ただ、女の子っておしゃべり好きでしょう。話題
に困ると、ついついお友だちにおしゃべりしてしまうみたいね。
でも、そんなことが先生にバレちゃうと、ここへ連れ戻されて、
それこそ、これまで一度も経験したことのないようなお仕置きを
受けるはめになるわ」

 「オシオキ?……それって、どんなお仕置きなんですか?」

 「それは、あなたもお友だちにこの部屋でこんな事があったよ
っておしゃべりしてみれば分かるわ」

 「……」

 「さすが優等生ね、こんな姿でもお仕置きことが知りたいんだ」

 「そういうわけじゃ……」

 「つい、おしゃべりがながくなったわね。さあ、次、いくわよ」

 「ピシッ」⑥
 「ヒィ~~~~」
 そのあまりの勢いに律子の両目が思わず飛び出す。

 「痛い~~~」
 律子の小さな声も拾われ……
 「ほらほら、愚痴を言わないの。鞭のお仕置きは一発一発噛み
締めて反省しなきゃ」

 「はい」

 「さあ、次」

 「ピシッ」⑦
 「あああああああ」

 律子は地団太を踏む。痛みを逃がそうとして腰を激しく振った。
その中では自ら両足を開いてしまうことも。
 見学する妹たちにも自分の大事な処が丸見えになったが、今は
そんなこと言っていられなかった。

 「ピシッ」⑧
 「いやあ~~やめて~~~」

 「ピシッ」⑨
 「もうしませ~~んから~~」

 「ピシッ」⑩
 「いやあ~~痛い、痛い、だめだめ」

 それから先の律子は半狂乱。自分でもどうやって鞭のお仕置き
を終わらせたのか、覚えていないくらいだった。

 「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」
 荒い息が止まらないまま園長先生の声を聞く。

 「よく頑張ったわね。もう、おしまいよ」
 園長先生がねぎらうと……

 「いいんですか?あと二つでしょう?一ダースだから……」
 律子は最初そう言ってテーブルを離れなかった。

 「あら、あなた、意外にしっかりしてるのね。ほかの子なら、
そんなの無視して『もうかった』と思ってテーブルを降りるのに
……さすがは級長さんね」
 園長先生は律子の耳元までやって来て微笑む。

 「そんなこと……」
 園長先生の吐息が掛かるなか、律子は思わず頬を赤く染めた。

 「二つはおまけ。あなたが健気にお仕置きに向き合ってくれた
ことへの特別のご褒美よ。さあ、もういいわよ。起きて」

 今の律子は下半身が丸裸。自分の恥ずかしい場所ができる限り
見えないように慎重に身体をよじり、ショーツを上げスカートを
調えてテーブルを降りたのだが……
 あたりを見回すと、周囲ではちょっとした事件が起きていた。

 前にも話したが、先生の命で律子が受けていた厳しいお仕置き
を、マリちゃんとリサちゃんが並んで見ていたのだが……

 その時よほど怖かったのだろう、リサちゃんの方が、その場で
お漏らしを始めてしまったのだ。

 こんな厳しいお仕置きのある学校では幼い子のお漏らしなんて
珍しくない。先生も落ち着いたもので、律子ちゃんにさえ気づか
れないまま、新しいショーツが与えられたリサちゃんは部屋の隅
で正座してべそをかいていた。

 律子はその場面を直接見ていないが、その痕跡は絨毯のシミと
なって残っている。それを見ただけで一目瞭然。何が起こったか、
すぐに理解できたのである。

 さらにそのシミの脇、友だちの粗相と同居させられて迷惑そう
な顔をするマリちゃんと目があった。

 「…………」

 お仕置きを受けた者同士、言葉はかけないものの気持は通じて
いたらしく、律子が笑うとマリも同じように笑って返すのだ。

 ほどなく園長先生が二人の前に現れると……
 二人をマリア様が描かれた肖像画の下に並ばせ、膝まづかせる。

 ここでも二人はショーツを下ろして両手を胸の前で組むことに。
でも、これはこの教団の教義ではハレンチなことでも何でもなか
った。無垢な身体に穢れは宿らないと信じられていたのだ。

 「マリア様、もう二度と悪さはいたしません。これから先も、
どうかマリア様のご加護が得られますように」
 「マリア様、もう二度と悪さはいたしません。これから先も、
どうかマリア様のご加護が得られますように」

 二人はこの姿勢のまま懺悔する。

 懺悔が終わって、おばあちゃん先生が最後に注意したことは、
二人にとってとても大事なことだった。

 「ここで起こったことは決してお友だちに話してはいけません。
もし、あなたたちがお友だちに話せば、今度はあなたたちがあの
テーブルでうつ伏せになるの。そんなの嫌でしょう」

 「はい、先生」
 「はい、先生」

 「よろしい、分かったのならそれでいいわ。ショーツを上げて
帰りなさい」

 園長先生の言葉に二人は大喜び。
 さっそく立ち上がると駆け出すついでにショーツを引き上げた。

 「この部屋でのこと、決してよそで話しちゃだめよ」

 園長先生は駆け出す二人の背中めがけて叫んだが、はたして、
その声は少女たちの耳に届いただろうか。
 二人の少女は、園長室の開かれた扉の向こうで待つ多くのお友
だちの波の中へと消えていった。

 *****************<了>****

美国園  <3>耐力検査

 ~ 中一グループ ~
 進藤佳苗(しんどう・かなえ)
 松倉亜美(まつくら・あみ)
 三井由香里(みつい・ゆかり)
 吉田恵子(よしだ・けいこ)
 木島弥生(きじま・やよい)


<3> 耐 力 調 査

 中一グループの五人は身体検査が終わると、しばらく放心状態
だった。

 もちろん、自分たちの番が回ってくるまでに、四年生、五年生、
六年生と妹たち三組が終わっている。
 聖書を複写しながら、どの子も舞台をチラッ、チラッと覗き見
していたのだから、自分たちがこの先どうなるのか、頭の中では
すでに学習済だったはずなのだが……。

 ところが、舞台に上がってみると……
 「………………」
 降り注ぐ上級生たちの視線が気にならないわけがない。

 『覗かれてる』
 そう感じるだけで両膝が震えて止まらなかった。
 心ここにあらずということなのだろう、中には自分の名前さえ
間違える子がいたくらいなのだから。

 まして、こんな処で裸になるなんて……
 それがどれほど勇気のいることか、五人はあらためて実感する
ことになる。

 しかも、彼女たちが受ける辱めはそれだけではない。
 テーブルの上で仰向けにさせられた五人は、最初、お臍の下を
綺麗にされるのだ。生まれて初めて谷間に生えだしたまだまだら
な軟らかい毛を、係りのシスターが手馴れた様子で綺麗さっぱり
剃りあげていく。

 院長先生からも事前の相談などはなく、気がついたら目の前で
ジョリジョリされいる。そんな子が少なくなかった。
 ということで……。

 「いやあ~」
 思わず悲鳴を上げてしまうと……
 「ほら、ピーピー言わない、ジタバタしないの」
 係りのシスターに一喝される。こちらは当然のことをしている
といった雰囲気だ。

 それだけではない……
 「あんたら、まだ子どものくせに、こんなの飾りは贅沢よ」
 そんなことまで言われて剃刀を大事な場所に当てられるのだ。

 美国園では、多少なりとも羞恥心を考慮してくれるのは高校生
から。中学生まではその扱いにおいて小学生と何ら変わりはなか
った。要するに子ども扱いというわけだ。

 今の人たちの感性では分かりにくいかもしれないが、古い世代
の人たちにはモラトリアムという概念がなく、相手を、大人か、
子どもかの二者択一で判断するところがあった。中学生の場合は
肉体的な変化は認めつつも、まだまだ稚拙な面が多いことから、
単純に子どもと見るむきが多かった。

 ましてや、古い価値観に縛られ日々禁欲的に暮らすシスターは
日頃向き合っているのが理性ある大人だけ。小中学生はというと、
いずれ理性を持たぬ山猿としか映っていない。
 彼女たちの頭の中では、男の子も女の子も全てが子どもとして
一括処理されるために、この二つに性差はなく、今なら当然配慮
されるべき乙女のプライドも、自ら女性でありながら考慮の必要
なしと判断していたのである。

 ただ、そんな山猿たちにも寝床は必要だから、身体検査が終り
バイブルの一節を清書し終わると、部屋が割り当てられる。

 五人部屋。ルームメイトは全員、中学一年生の少女たち。

 一人分は、粗末なパイプベッドと洗面用具が入った小さな鏡台
だけ。お隣とは一応カーテンで仕切られていたものの、何のこと
はない、大部屋の病室と言った風情だ。
 そこへ五人がやってきた。

 「あ~~~いや、今でもミミズが千匹体中を這い回ってる気が
する。気色悪いったらないわ」
 弥生は、さっそく与えられた自分のベッドで大の字になると、
これ見よがしに体中をかきむしる。

 「でも、いいじゃない、無事終わったんだから」

 由香里の言葉に佳苗が反応した。
 「まあ、今日のところは、これで終わりだけど……明日からが
ねえ……」

 思わせぶった言い方が気になったのだろう、今度は亜美が……
 「何よ、明日も身体検査やるわけ?」

 「身体検査はあれだけよ。だけと、他のことがあるの……」

 またしても佳苗が腹に一物って感じに聞こえるから、今度は、
恵子が凄んだ。

 「何よ!奥歯に物が引っかかってるみたいな物の言い方止めて
くれないかなあ!気になるじゃないの!言いたいことがあるなら、
はっきり言っちゃいなさいよ」

 「……ま、いいけどさ。知らない方が、今日はぐっすり眠れる
んじゃないかと思ったんだけど……」

 「どういうことよ?」
 亜美の声は大きかったが、気持はみんな同じとみえて、四人が
全員佳苗の方を向く。

 「去年の例だけど、身体検査の翌日は耐力測定があったのよ」

 「え~~~なに~~~今度は、体力測定?」
 「運動するの~~~?あたし、苦手だなあ~~~」
 亜美も由香里も誤解している。
 ひょっとして残りの二人も、やはりそれは誤解して耳に入って
来たかもしれなかった。

 「『たいりょく』って、べつに運動するわけじゃないわよ」

 佳苗の言葉に亜美は……
 「じゃあ、何するの?」

 「だから字が違うの。私が言ってるのは、体の力じゃなくて、
耐える力の方。耐える力と書いて耐力測定なの」

 「何よ、それ?」

 「う……うん……」
 佳苗は少し言いにくそうに間を持たせると……
 「だから手っ取り早く言っちゃうと、お仕置きの試験があるの」

 「何よ、それ……オシオキの試験って……」
 由香里は突然舞い込んだ言葉に頭の整理ができない。

 「だからさあ、その子がここのお仕置きにどれくらい耐えられ
るか、事前にチェックするのよ」

 「まさか~~~そんなのあり~~~~」
 「何よそれ……悪いことしたからお仕置きってことじゃなくて」
 驚きは当然だった。

 「そういうこと。……これは悪さをしたかどうかは関係なくて、
全員が受けさせられるの」

 「う、嘘でしょう、何も悪いことしてないのに私たちお仕置き
されちゃうわけ!!冗談じゃないわよ」

 「そんなの人権蹂躙よ」

 「私、お父様に訴えてやるわ」

 女の子の話は盛り上がり、その声は廊下にも鳴り響く。
 そこで、通りがかった若いシスターが顔を出すことになるのだ。

 「何が人権蹂躙なの。まだ嘴の黄色いひよこのくせに偉そうに。
……お父様に訴えるんですって、……どうぞ、どうぞ構わないわ。
ここでの体罰はすべてお父様の承諾を頂いてやってることなの。
あなたたちがどんなに泣こうがわめこうが、私たちが訴えられる
ことはないわ。…それに、もう一つ。あなたたちは大事なことを
忘れているみたいね。『私、悪いことなんか何一つしていません』
って顔してるけど、そもそも悪いことをしてない子は、始めから
ここへは来ないの。悪いことをしたから、お父様を怒らすような
ことをしたからここにいるんでしょう。どうやら、その辺りから
再教育しなきゃダメみたいね」

 「……………………………………………………」
 ストレートヘアの若いシスターにまくし立てられると、全員、
声が出なくなってしまった。

 「あら?みんな黙っちゃって、私、何か間違ったこと言ってる?
『悪い子にはお仕置き』これって世の中の当たり前じゃなくて…
…違うかしら?」

 「……………………………………………………」

 シスターは子供たちのだんまりに小さくため息をつくと……
 「たしかにさっきは、この部屋では相手にだけ聞こえるような
小さな声でならおしゃべりも許しますと言いましたけど、あなた
達の大声、廊下までキンキンに聞こえてますよ。もし耐力測定前
にお仕置きされたくなかったら、慎みなさい。いいですね」

 この部屋の室長でもある若いシスターはそれだけ言うと、一旦
部屋を離れる。

 これが自分たちの学校での出来事なら、すぐにでもおしゃべり
が復活しそうなものだが、さすがに後の祟りが怖かったのか……
 「また、あとでね」
 佳苗が言うと、それに異を唱える子はいなかった。


 とはいえ、ここに集まっているのは、若い女の子たちばかり。
このままずっと口をつぐんでいるなんてできなかった。

 おしゃべりはお風呂で再開する。

 「ねえ、でも、私たちのあんな詳しいデータなんて本当に必要
なのかしら」
 恵子が佳苗の背中を流しながら問いかける。

 サービスの裏には経験者の彼女だったらその辺の謎に詳しいん
じゃないのかという思い込みもあった。

 そんな思いを察してか、佳苗はこう答えたのである。
 「私もホントか嘘かは知らないんだけど、噂では、お父様の中
には、あのデータをもとに娘さんの生き人形を作る人がいるんだ
って。そういうの、お父様たちの中では流行ってるみたいなのよ」

 「生き人形って?……蝋人形みたいなものなの?」

 「さあ、材料が何なのかは知らないわ。ただ、私たちの身体を
忠実に再現した人形を職人さんに頼んで作ってもらってるらしい
わ」

 「いあ~~恥ずかしい。私、そんなのいらな~い」
 由香里が思わず両手で胸を隠す。

 「バカねえ、あんたの為に作るんじゃないわよ。……あくまで
お父様の趣味よ。娘の成長を写真や動画だけじゃなく、三次元で
も再現したいんだって……」

 「何だか悪趣味ねえ……でも、私のお父様はそんなことしない
と思うわ」
 亜美が甘えたような声を出すと……。

 「どうして、そんなこと分かるのよ?」
 佳苗が鼻で笑う。

 「だって、お父様は幼い頃から大の仲良しだもん。私、今でも
一緒にお風呂入ってるんだから……人形なんかいらないはずよ」
 亜美の言葉にその場にいた残りの少女たちはドン引きだった。

 「そんなのわからないわよ。愛してるからこそ、そうやって形
に残したいのかもしれないじゃない。だって、あなたは成長する
けど、人形は成長しないでしょう。可愛いままだもん」

 「それに、そのお人形、一体、何百万円もするみたいよ」

 「………………」
 一同絶句、本当にドン引きだった。

 父親が私の体でそんなお人形さん遊びみたいなことするなんて
……誰もが信じたくなかった。でも絶対にないとまでは言い切れ
なかったのだ。


 さて、次の日。それは約束通り行われた。
 それも、起きた瞬間から、行われたのである。

 朝六時、定刻の起床時間。
 とたんに、けたたましく手押しワゴンの車輪の音が廊下に響き
渡る。

 これは一台ではない。何台もの車輪の音が遠くから迫っている。
今日は耐力測定だが、これから毎日、このワゴンが寝ている少女
たちを叩き起こすことになるのだ。
 誰の身にも辛い朝の儀式だった。

 「おはよう、みなさん」

 どこかの部屋を係りのシスターが訪れたのだろう。まだ寝ぼけ
眼でいる少女たちの耳にもその晴れやかな声が聞こえる。

 『そうか、朝なんだ』
 ベッドで背伸びをするうち、この中一グループの部屋にもそれ
はやってきた。

 洗面器だのタオルだのワゴンには色んな物が乗っているのだが、
中でも少女たちの目を引くのが浣腸器。ピストン式のガラス製で、
ちょうど注射器を二周りほど大きくしたような形をしている。

 「!!!!」
 これを見て少女全員に緊張が走る。

 当時、病院にある浣腸器といえばたいていがこの形だったので
誰の目にも見覚えがあったのだ。
 この浣腸器、一般家庭で行なわれていたイチヂク浣腸と比べて
も迫力が違うことから、それはそれは強烈な思い出として残って
いた。

 今でこそ、子どもが病院に行っても滅多なことでは浣腸なんて
されなくなったが、当時は、医師の前で「熱があってお腹が痛い
みたいです」なんて母親が口を滑らそうものなら、たいてい注射
や薬の前にこの浣腸でお腹を綺麗にするのが一般的。

 だから、ここにいる五人も病院での浣腸は経験済み。もちろん、
それがどれほど恥ずかしいか、その後、何が起こるかも承知して
いる。だからこそ、このぶっとい注射器を見ただけで少女たちは
自然と緊張するのだった。

 「これから、お浣腸の耐力測定を行います。普段は時間を設け
ますが、今回はテストですから時間は区切りません。我慢できる
だけ我慢してください。もちろん、どうしても我慢できないなら
ベッドの上でやっても構いませんよ」

 早川シスターはごく自然に微笑んだが、少女たちの表情は……
 『そんなあ~~』
 というもの。

 「どのみち自分のベッドですから他の人に迷惑は掛からないわ。
……ただし、努力もせずにわざと漏らすなんて恥知らずなことを
する子はここにはいないと思うけど、それはNGよ。……もし、
そんな子がいたら……熱~いお灸をお臍の下に追加しますから、
そこは気をつけてね」

 若いシスターは若い子たちの緊張を解こうと思ったのか、茶目
っ気たっぷりの笑顔で、まだベッドの上にいる五人を前に説明を
始める。
 ただ、どうやって説明されようと、それはさらっと聞き流せる
といった内容ではない。全員が鳥肌をたてて聞くことになったの
は言わずもがなだった。

 『私たちにここでお漏らしをしろって言うの?』
 亜美の口びるが震える。

 『構いませんって……ここで我慢するの?このベッドの上で?』
 由香里は目が点になっている。

 「あの~~う」
 恵子が恐る恐る手を上げてみた。

 「何ですか、恵子さん」

 「もし、汚したら……これ……自分で洗うんですか?」

 恵子の質問に、他の四人の顔は複雑だ。
 『そんな最悪のケースを今はまだ考えたくない』
 そんな顔だった。

 「高校生なら、当然そうだけど、あなた方はまだ中学生だから
子ども扱いということで下働きのシスターが洗ってくれるわよ。
……どう?安心した?」

 「そうですか……わかりました」
 恵子の力ない返事が返ってくる。

 「ただし、これはわざと粗相したわけではないとこちらで判断
した場合だけよ。もし、恥も外聞もなくわざとやったりしたら、
自分で洗って中庭に干してもらいます」

 「えっ、どうして?」
 思わず恵子の顔が上がってしまった。

 「当たり前じゃない。不可抗力とわざとは違うの。ここでは、
わざと罰を免れようという子には特に厳しいお仕置きが待ってる
から、覚えておきなさい」

 「はい、シスター」
 恵子の消え入りそうな小さな声。
 『何だかバカなこと聞いちゃったかな』という思いも含まれて
いた。

 「ここでは何事にも全力で取り組まない子には厳しいお仕置き
があるの。みなさんも覚えておいてね。このお浣腸も当然そう。
わざと汚したりしたら洗濯だけじゃないわ。その物干しの隣りで
シーツが乾くまでパンツ一つで立ってなきゃいけないし、先ほど
言ったけど、お股の中を焼く『特別ヤイト』というのもあります。
せっかくの夏ですもの。冷たいのよりむしろ熱い方がお好みなら、
そうしてくださって結構よ」

 シスターは悪魔チックな笑顔を見せて微笑む。こうした場合、
もちろんこれは完全な脅しだった。

 お灸は当時の子どもたちにとっても最高刑。ましてお股の中だ
なんて、脅しに決まっているが、脅された方としては『実際には
やらない』という確証もないわけで……。
 このあとほとんどの子が自分のベッドの上で死ぬほど辛い我慢
をすることになるのだ。

 というわけで、子どもたちにしてみれば、シスターの言葉は、
信じられないほど残酷な宣言ということになるのである。

 「人によって耐えられる力は様々でしょうけど、あなたたちの
場合はまだ小学校を卒業してきたばかりですから、体もまだ華奢
ですし長時間は無理でしょうね。ただ、こうして見ると最近の子
らしく発育もよくてお尻の筋肉もしっかりしているみたいだから、
……そうですね……45分くらい我慢できるんじゃないかしら」

 『嘘でしょう……45分なんて……そんなに我慢できないわよ』
 由香里は思った。でも、それは他の子も同じ思いだったのだ。

 「あらあら、ずいぶん深刻な顔になっちゃったわね。……でも、
大丈夫よ。そんなに長くはしないから……とはいっても、30分
以内というのはないかもしれませんね。ま、そのつもりで頑張り
ましょうね」

 『さ……さんじゅう……ふん』
 弥生は気が遠くなりそうだった。
 いや、弥生だけではない。45分が30分でもそれはそんなに
変わらない。佳苗を除く四人が四人ともショックで口がきけない
でいた。
 
 実際、病院での浣腸も、薬の効果を上げるためトイレを5分か、
10分程度待たされたりするものだが、それでも大変な思いだ。
 全身に鳥肌がたち、脂汗で全身ぐっしょり。膝の震えは止まら
ないし、何かをしっかり握りしめていないと、飛び出してしまい
そうで怖い。当時はゴムプラグなんて一般的じゃなかった。

 それが浣腸なのだ。
 それを30分だなんて誰も乗り切れる自信がなかったのである。


 「さあ、始めるわよ。まず、自分のベッドの上で仰向けに寝て
くださいね」

 若いシスターの号令一下、どの子もその命令に反抗しなかった。
 渋々には違いないが、誰もが自分が寝ていた白いシーツの上に
身を置いて天上を眺めることにしたのである。

 「よろしい。このあとは全て私がやりますから、あなたたちは、
ただじっとしていればそれでいいの。それがあなたたちの仕事よ。
楽チンでしょう。……だから約束して欲しいの。奇声を上げたり、
暴れたりはしませんって……もし、それができない子には、別の
お仕置きをしますから、注意してね」

 早川シスターは、まだ中一の彼女達から見れば気品たっぷりの
お姉さんシスターだが、取っ組み合えば自分たちでも勝てそうな
ほど華奢に見える。しかも、こうして見渡せば、この部屋にいる
大人は彼女だけだし、彼女さえ突き飛ばせばこの部屋を逃げ出す
ことも可能なはず……
 亜美はよからぬことを考えていた。

 すると、ここで不思議な事が起きる。
 「亜美ちゃん、気持はわかるけど、あまり男の子みたいな冒険
は考えない方がいいわよ」
 早川シスターが、亜美の目の動き、ちょっとした素振りだけで
その心の奥底を言い当てたのだ。

 「たとえこの部屋を突破できても、その先にはたくさんの先輩
シスターたちが待ち構えているし、迷路のようになった学園内の
どこをどう行けば出口に辿り着けるのか、あなた、それも分から
ないでしょう」

 「……(えっ、どういうことよ。どうして私の考えてることが
分かるの?)……」
 微笑む早川シスターに、亜美は無言を通す。
 それは、何一言もおしゃべりしてないのに、どうして私の心が
読めるのか……怖くてならなかったからだった。

 タネをあかせば簡単なこと。
 多くの子がここで無謀なチャレンジを試みるから早川シスター
が先手を打ったのである。

 だから、これは亜美だけに効果があったのではない。他の子に
対しても、そのギラギラとした反抗的な瞳を閉じさせるのに効果
があったようだった。

 まず、全員のパジャマのズボンが脱がされる。
 脱がされたズボンは部屋の隅に放り投げられ、すぐに取り戻せ
ない場所へと行ってしまう。
 その結果、まずは下半身スッポンポンの少女たちの悩ましい足
が10本、5台の寝台に並ぶことになるのだった。


 そうしておいて早川シスター、まずは佳苗のベッドへとやって
来る。

 「あら、お久しぶりね、佳苗さん」
 早川シスターが、ベッドの上で無表情に天井を向いている佳苗
を覗き込むと、佳苗はプイと横を向く。

 「…………」
 しかし、覗き込まれた佳苗は顔をこわばらせていた。
 怯えていたと言うべきかもしれない。

 さっそく……
 「あら、一年も経つとご挨拶の仕方も忘れちゃうのかしら」
 シスターのイヤミがその顔に飛んでくる。

 「こん……こんにちわ、早川シスター」
 声は小さかったが、佳苗も覚悟が決まったようだった。

 「去年から見ると……あなたも、ずいぶん大人になったみたい
ね」
 早川シスターはまるで横たえたミイラを前に興奮する考古学者
のような目つきで佳苗の体を嘗め回す。

 女の子の身体が変化するのは、胸と腰とお臍の下。
 早川シスターはその全てに目を通した。

 「あなたがここへ再び足を踏み入れたのは残念だけど……でも、
その分、あなたが大人になっていていれば、こちらも助かるわ。
脱走3回は、あなたがまだ小学生だったから先生方も大目に見て
くださったけど、中学生にもなると最初の1回目から受ける罰が
グンと違うから、そこは大人の判断をしてちょうだいね。私も、
あなたの悲鳴は二度と聞きたくないもの。協力してくれるわね」

 「………………はい、シスター」
 佳苗は少し考えてから返事を……。
 色んな思いを整理するのに時間がかかったのだ。

 「そうそう、その調子。女の子はね、素直が一番なの。女性は
男性のように片意地張っても何もいいことはないわ。あなたも、
もう中学生なんだし、いつまでも『幼い子だから仕方がない』は
通らなくなるわよ。さあ、それじゃあ両足を上げて協力してね」

 早川シスターの言葉に佳苗は逆らわない。
 同部屋の子たちが、見てはいけないと思いつつもこちらを覗き
見している……そんな気配を感じながらも、彼女は両足を上げる。

 そこには、女の子の全てが綺麗に縦に並んでいた。

 あられもない姿というのは、まさにこういうことなのかもしれ
ないが、ここではこれが日常。佳苗だけではない、ここにやって
来た女の子のすべてが毎朝この姿にならなければならなかった。

 「ちょっと、拝見するわね」
早川シスターがそう言って触れた場所は、女の子、それも若い子
が最も強く刺激を感じる場所だった。

 ビニールの手袋さえつけていない素手の感触が、まだ思春期が
始まったばかりの幼い少女にとってどんなものか……

 「あっ~~~~イタイ、イタイ」
 長い吐息のあと、我慢しきれず正直な気持が口をついてでた。

 「まだ、固い蕾のようね」
 早川シスターがポツリと独り言。

 それに反応した佳苗が顔色を変えたのがシスターには見えたの
だろう。
 「あら、ごめんなさい。気に障ったかしら?……でもね、こう
したものは、たった一度でも、その密の味を覚えると、なかなか
抜け出せなくなるから……でも、あなたは立派よ。最初は誰でも
興味本位だけど、でも、それが抜き差しならなくなって、結局は
うちに来る子も多いの……誰とはいえないけどね」

 早川シスターは佳苗の大きな太股を左右に開くと、その間から
顔を出して可愛らしく笑って見せる。

 「でも、あなた……この一年でずいぶんと成長したじゃない。
こんな処にも、もうちゃんと毛が生え始めてるし……」

 早川シスターに言われて佳苗は顔が真っ赤になった。
 というのも、女の子は意外なほど自分のその場所には無関心で
お風呂や寝室で一人でいても、そのたびにしげしげと眺めたりは
しないものなのだ。恐らく佳苗も早川シスターに指摘されるまで
その事実は知らなかったに違いなかった。

 「あっ……あああ~~~……んんんんん……いやあ、いやあ」
 佳苗の頭が左右に揺れる。

 早川シスターはその後も遠慮がなかった。オシッコの出る穴、
赤ちゃんが出てくる処、そして、もちろんウンチの出る穴も……
穴のあいてる場所はすべて触れてみたのである。

 そして股間に異常のないことを確認すると、最後に一つ強めに
下腹をグイっと押してからその場を一旦離れた。

 「それでは始めますからね」

 シスターは、ベッドの脇に止められたワゴンに向かい、小さな
バケツの中にピストン式の浣腸器を突っ込んでグリセリン溶液を
吸い上げる。

 これが病院なら、さしずめこげ茶色の薬壜からおごそかに……
なんだろうが、ここでは朝の忙しい時に、五人をいっぺんに処置
しなければならない。そこで、浣腸液は、賄い担当のシスターが
調理室でバケツに作り置き、それを担当するシスターが受け持ち
の部屋へと運んで行く手はずになっていた。

 「わかってるでしょうけど、お尻の力を抜いてね。………もし、
このガラスの先が一回でお尻の穴に刺さらなかったら、反抗あり
とみなして、お仕置きが追加されるの……そういうこと、覚えて
るわよね」

 早川シスターの注意に佳苗は僅かに顎を引いてわかったという
合図。
 実際、故意ではなくとも、ガラスの先端がお尻の穴を刺激した
瞬間、お尻の穴に力を入れて肛門を閉じてしまう子は多いのだ。

 佳苗も昨年は幾度となく追加のお仕置きをもらった口だった。

 「あっ」
 ガラスの尖った感触がお尻の穴を刺激する。

 その一瞬、佳苗はお尻を閉じたが、すぐに思い直してその先端
を受け入れる。今頃は、カテーテルを繋いで先端もゴムになった
が、この頃はまだピストン式浣腸器の先端を直接肛門に押し入れ
るやり方が一般的だった。

 「…………」
 グリセリン溶液がお尻の中を逆流する感覚は、何とも言えない
不快感だ。

 「さあ、もう一本よ」
 一回が50㏄。二回なら100㏄。
 たしか昨年は1回で済んでいたから、『あれっ?』と思ったが、
言えなかった。

 代わりに早川シスターが……
 「小学生の時とは体が違うもの。50㏄じゃみんな鼻歌混じり
でしょう」

 佳苗は早川シスターの笑顔が憎たらしかった。
 小学生の時から確かに身体はいくらか大きくなったけど2倍に
なんかなってない。昨年は5人が5人とも泣きながらお漏らした
のを覚えているのだ。

 『どのくらい我慢できるだろう?』
 佳苗の脳裏には失敗する自分の惨めな姿しか映らなかったので
ある。

 「あっ……また入って来た……」
 二本目が下腹に入ると、自分でもその重さが分かるのだ。

 「さあ、今度は……オムツを当てましょうね」

 早川シスターは童顔だから、普段も高校生くらいに見える。
 だから、大きな赤ん坊にオムツをあてるその姿も、母親という
より、ママゴトを楽しむ少女のように無邪気に見えた。

 『あっ、やだ~~……だめえ~~~』
 グリセリンの効き目は早い。
 オムツを着け終る前に、早速、佳苗は顔をしかめなければなら
ないのだ。

 「あっ、だめ」
 思わず出た佳苗の言葉に、早川シスターが反応する。

 「何言ってるの、経験者が……そのうち、慣れるって知ってる
くせに……」
 意地悪な物言いに佳苗はさらに顔をゆがめる。

 実際、浣腸の効果には波があって、いつも一定に苦しいのでは
なく周期的に恐怖が襲ってくるのだ。
 最初の激しい便意を乗り切れば、その後は比較的楽に過ごせる
時期がおとずれる。
 そして、また……

 「あああっ~~~ひぃ~~~~いやあ~~~~」
 全身、鳥肌で脂汗の地獄が……これが、無限に続くことになる
のだった。

 もちろん、佳苗だけが犠牲者ではない。
 五人全員が早川シスターによって浣腸され、オムツを穿かされ
自分のベッドで四つん這いになって30分という時間が過ぎ去る
のを待っている。

 一応、プライバシーを尊重して、お互いベッドが見えないよう
間仕切りのカーテンは閉じられているのだが、この時、他人の事
に構っていられる余裕は誰一人持っていなかった。

 五人が五人とも、自分の事でとにかく精一杯なのだ。
 『とにかく恥をかきたくない』
 それだけが望みで全員シーツを必死に握りしめていたのである。


 30分という時間は、普段ならさして何も感じないほどの短い
時間なのかもしれないが、こうして過ごす30分は、その長さが
身にしみる。

 オーバーでも何でもなく気絶しそうなくらい苦しい時間なのだ。
しかし決して気絶なんかできなかった。もし、そんなことしたら
……

 『私、生きていけない』
 なりたての乙女たちは譲れない一線をそんな思いで耐え続ける。

 そんな苦悶の時間がベッドテーブルに置かれた砂時計によって
刻まれていく。
 『まだ10分』『まだ5分』『まだ2分』
 誰もが砂の落ちるスピードが他の物より遅いように感じられ、
30分は5時間にも8時間にも感じられるほどだった。


 「はい、よくがんばったわね」
 早川シスターが最初に始めた佳苗についてその終わりを告げる。

 ホッと一息と言いたいところだが、これですぐに楽になるわけ
でもなかった。

 「どう?まだ大丈夫?……それともオムツの中にしちゃう?」
 早川シスターは佳苗に確かめる。

 お姉さん達に比べれば濃度が薄いとはいえ、まだ幼い体の彼女
たちにとっては30分が限界で……もし、オムツを取り除くと、
オマルに跨る前に、そのまま………なんてケースも……

 もちろん、子どもたちは、そんな赤ちゃんのような真似なんて
イヤに決まってるが、意地を張った結果がどうなるか……今なお
続く下腹の大波が、『限界』『限界』『破滅』『破滅』と警告を発し
続けている。

 そんな恐ろしい未来予想図が頭をかすめた少女たちにとって、
 『ここではシスターの好意に甘えよう』
 というのも一つの選択肢だった。

 しかも佳苗は経験者。
 『今さらここで見栄を張っても仕方ない。これより辛く惨めな
行事がここではまだ沢山あるのだから……』
 彼女はオムツをトイレ代わりにした。

 四方をカーテンに遮られているから自分の醜態を直接友だちが
見学することはないものの、そりゃあ大変な勇気が必要だった。

 おならの音は聞こえるし浣腸液で薄まったと言ってもまったく
臭わないわけではない。何が起こっているのかを友だちは容易に
想像できるのだ。

 「……………………………………………………………………」
 仰向けになって両足を高く上げた佳苗の頭の中は真っ白。
 何も考えられない。何も考えたくない時間が流れていく。
 佳苗としては今起こっているこの忌まわしい現実が一刻も早く
流れ去って欲しかった。

 そんななか……
 「さあ、赤ちゃん、終わりましたよ」
 早川シスターは、終始ブスッとした顔を横に向けていた佳苗に
皮肉を込めて微笑みかける。
 それは満足という笑顔だった。

 男の感覚で言うと、本来、こんな事をしていて一番大変なのは
早川シスター本人のはずなのだが、こんな汚れ仕事をしていても
彼女自身はそれほど不満そうではなかったのである。

 勿論、『これはあくまで仕事』という割り切りもあるだろう。
しかし、何より大きいのは『哀れな少女を私が救ってやった』と
いう優越感が彼女の笑顔の原因だったのだ。

 奉仕する側とされる側の心模様。男の子の場合はどんな時でも
サービスを受ける側が有利だが、女の子の世界は逆。佳苗と早川
シスターの間には雲泥の差があったのである。


 佳苗の処置が終わると、次は亜美。
 彼女は早川シスターがそのベッドを訪れた時、すでに事切れて
いた。

 しかし、早川シスターはここでも慌てた素振りは一切みせない。
 もとよりこうなる事は自然なことだからだ。

 「大丈夫よ、心配しないでね。今すぐ綺麗にするから」
 穏やかな笑顔のシスターは放心状態の亜美を優しく介護した。

 「何も気にする必要はないわ。これはあなたの責任じゃないん
だから」
 シスターの手が、普段の生活では他人には絶対に触れさせない
場所を侵食していく。

 強烈な屈辱感。それまで築き上げてきたプライドがポッキリと
折れ『私の生涯はこの人にハンデを背負わされる』という恐怖が
圧し掛かる。

 亜美は自らに降りかかった不幸をあれこれ嘆いてはシスターの
処置が終わるのを待っていた。

 ところが、そんな不幸の真っ只中にあって亜美は自らの胸の奥
から湧き起こる不思議な感情を感じていた。

 甘く切ない思い。どこか懐かしい甘えの気持。
 そう、母にオムツ替えをしてもらっていた赤ん坊の頃の記憶が
一種の快楽となって蘇ってきたのだった。

 もちろん、そんなこと誰にも話すことはできない。自分の心内
でさえ消し去ろうとした思いだったのだから。
 しかし、その刹那の思いを、彼女は完全に消し去ることができ
なかったのである。

 「さあ、いいわよ。……しばらくは無意識に漏らしちゃうかも
しれないから、もうしばらくはオムツで我慢してね」
 早川シスターはそう言って亜美のベッドを後にする。


 三人目は由香里。
 彼女は前の二人とは違い未だ自らのプライドを守り続けている。

 四つん這いになった顔は真っ赤。シーツを弾き千切れんばかり
に握りしめ、全身を震わせて、未だ煩悩と戦い続けているのだ。
 この煩悩を沈めるのも早川シスターの仕事だった。

 「おめでとう由香里さん。よく頑張ったわ。もう、おしまいよ」
早川シスターは由香里を祝福して、その身体を持ち上げようと
したが……

 「いやあ~~~だめ~~~」
 由香里から強烈な拒否反応が返って来る。

 言葉だけでなく、その身体も1ミリたりとその場を動こうとは
しないのだ。
 いや、正確に言うと……動けなかった。

 彼女は必死に操を守り通した結果、今や、この姿勢で固まって
いたのである。もし、ほんのちょっとでも姿勢を崩したら大爆発
を起こしてしまう。
 そんな恐怖から由香里はその場を動けなかったのである。

 「いやあ~~~触らないで!!」
 少女の必死の声が甲高い声く部屋中に響く。

 しかし、早川シスターにしても、このままにしておくわけには
いかなかった。
 そこで、大波が治まるほんの僅かな時間を利用して、少しずつ、
ほんの少しずつ体勢を変えさせていく。

 そして、他の子の10倍は時間をかけて、ようようベッドパン
へ跨らす事ができた。

 ところが、ここでも由香里は抵抗する。
 こんな姿勢になっていてもまだ頑張っているのだ。

 30分もの間、全身全霊をかけて守り抜いた操を、そう簡単に
捨てられない。
 『今はもう大丈夫』『ここでやっても許される』と頭の中では
理解しているのに身体が反応しないのだ。

 「まだ、頑張ってるの。もう、いいのよ。ここで出してしまい
ましょう。どの道、いくら頑張ってもトイレにはいけないもの」

 早川シスターは説得を試みたが、一度固まってしまった強固な
由香里の意志は、すでに理性でのコントロールを失っていたので
ある。

 これもまた、この世界ではよくあることだった。
 だからシスターもまた慌てない。こんな時はどうすればよいか
彼女もまた十分に心得ていた。

 「はい、あまり、我慢してると身体によくないわよ。ここは、
カーテンで仕切られてるから他の子からは見えないの。大丈夫、
大丈夫よ、心配要らないから、ここでやっちゃいましょう」

 早川シスターはそう言いながらオマルにしゃがみ込む由香里の
下腹をゆっくり揉み始めた。

 そして、ものの10秒。
 それまで必死になって我慢し続けてきた由香里のお腹がそれに
以上耐えられるはずもなかったのである。

 「いやあ~~~~~」
 その瞬間、プライドが壊れた時の音が室内に響き渡る。

 これだけではない少女たちが命の次に大事にしてきたプライド
をここではいとも簡単に壊していく。

 女の子は『従順』『勤勉』ならそれでよいと思われていた時代。
そもそも女の子にプライドなど必要ではなかった。なまじそんな
ものを持っていると親の意見にさえ素直に耳を貸さなくなるから
かえって害悪だ、なんて意見さえあったほど。
 よくも悪しくも女の子は親や教師のお人形だったのである。


 プライドという鎧から開放された少女たちは、身も心も丸裸に
なって一時的に色んなコンプレックスに苛まれることになるのだ
が、それこそが大人たちの狙いで、指導者達はそんな因幡の白兎
のような少女たちを優しく介抱し、自分達への忠誠心を植えつけ
て、正しい道へと子供たちを導く。
 これが当時の更生。

 よって、こうした場所でのハレンチな行事は日常茶飯事だった
のである。


 四人目は吉田恵子。
 終わった三人は、言ってみれば良いとこのお嬢様タイプだが、
彼女と弥生は生まれ育ちが違っていた。
 二人は生まれも育ちも根っからの下町育ち。庶民の出だった。

 「あらあら、凄いわね。あなた、起き上がって大丈夫なの!?」
 早川シスターが驚くのも無理がない。仕切りのカーテンを開け
ると恵子はすでにベッドから起き上がっていたのである。

 「砂時計の砂が全部落ちたみたいなのでトイレへ行ってきます」
 気丈にも彼女はそう言って本当に歩き出そうとする。

 「ちょっと、待って……トイレまで遠いわよ。この部屋を出て、
廊下の先にあるけど……もし、途中で………」
 
 早川シスターは慌てて止めたが、恵子はそれを無視して歩こう
とするのだ。
 実際それって、とても危険なことだった。

 部屋の中には早川シスターを除くと他は同級の友だちばかり。
もちろん、友だちと言ってもどの子も昨日知り合ったばかりだが、
それでも彼女たちとは同室で、歳も同じ女の子同士。これからも
ずっと一緒に暮らす仲間たちだ。たった一晩といっても、すでに
何度もおしゃべりを繰り返して、お互い少しは分かりあえる間柄
になっている。その分、親近感だってあるのだ。

 それが、歳の離れた、これまでまったく口をきいたことのない
お姉様たちの前で醜態を晒すことになったら……。
 それって、同じ恥をかくにしても心に残る傷が断然違ってくる
のをシスターたちには長年の経験から分かっていた。

 もちろん、そんなこと今の恵子に関係ない。
 恵子の今は、恥をかきたくない一心。こんな処でやっちゃいけ
ないという義務感みたなものに突き動かされて必死に歩みを進め
ているのだ。だが、そこには冷静な判断が必要がだった。

 「院長先生!ちょっとお願いします」

 緊急性を感じたのだろう早川シスターが珍しく大きな声を出す。

 それに呼応して、すぐに院長先生が部屋を訪れた。
 院長先生は恵子たちの部屋に入るなり、ひと目で状況を把握。
笑顔で恵子を説得し始める。

 「あら、あなた、立派ね。自分でトイレへ行くのね。さすが、
乳母日傘で育ったお嬢様と違って下町の子はしっかりしてるわ。
偉いわよ。女の子はどんな時でも自分の事は自分でしなくちゃね。
……でも、この廊下は長いの。もし粗相なんかしたら、あなたが、
みんなの見てる前で、自分の粗相をお掃除することになるわよ。
それで、いいのかしら?……そんな危ないことをするより、この
部屋でやってしまった方がよくないかしら?だって、ここにいる
お友だちは、みんな、あなたと同じ境遇ですもの……恥ずかしい
なんてことないわ」

 「…………」
 しかし、恵子は首を縦に振らなかった。
 あくまでトイレだったのだ。

 すると、院長先生の方が方向転換。
 「いいわ、じゃあ、先生が手伝ってあげる」

 院長先生は納得した様子で恵子に近づくと……
 「あっ!」
 一瞬の早業で恵子の身体をお姫様抱っこした。
 そして、そのまま抱えて、トイレへと向かう。

 「あっ、院長先生、それは私が……」
 あまりの早業に早川シスターは着いていけず、部屋を出る院長
先生の背中に越しに声を掛けた。

 すると……
 「大丈夫よ。あなたは最後の子を手伝って……」
 院長先生はこう言い残すとそのままトイレへ。

 普段は上下関係がわりにはっきりしている修道院の社会だが、
このお浣腸ばかりは、一刻を争うので、誰彼なく手の空いた者が
その場の仕事を手伝う不文律となっていたのである。


 最後は木島弥生。
 彼女もまた恵子同様庶民の出なのだが、対応は恵子とは真反対
だった。

 実は、ベッドで四つん這いの姿勢でいる彼女のオムツはこの時
すでに膨らんでいたのだ。

 弥生は恥ずかしそうにしている。すでにお漏らししてしまった
ほかの子同様、申し訳なさいそうにしている。

 これって傍目で見る限り、何の問題もないように見えるのだが、
早川シスターの彼女を見つめる視線は厳しかった。
 彼女は子どもたちに浣腸を施した後もその様子をつぶさに観察
していたのだ。その観察眼からすると弥生の様子は不自然と感じ
られたのである。

 とはいえ、いきなり怒鳴ったりはしない。
 最初は穏やかに……

 「あら、あら、漏らしちゃったの?……大変だったわね。……
すぐにオムツを換えてあげるわね」

 早川シスターの言葉は文字に起こせば他の子と何ら変わりない
扱いだが、弥生は自分に向けられたその言葉に棘のようなものが
あるのを、すでにこの時、感じ取っていた。

 仰向けになってベッドに寝そべり、女の子にとってはこれ以上
ないほどの恥ずかしい、そして屈辱的なサービスにもじっとして
耐えていた弥生だったが、彼女の場合、さらにもう一つ耐えなけ
ればならない試練があったのである。

 「あなた、私がこんなことやってても、ちっとも恥ずかしそう
じゃないわね」

 弥生は早川シスターの言葉に慌てる。慌てて再び恥ずかしそう
な顔を作ってみせたが……

 「もう、およしなさいな」
 早川シスターにはそんな作り物の困惑顔がそもそも不快だった
のである。

 「私、注意したわよね。どうにもならなければ仕方がないけど、
頑張れるだけ、頑張りましょうって……あなた、これ、頑張った
結果かしら?」

 「…………」
 早川シスターの全てを見通したかのような自身ありげな物言い
に弥生の心はその芯が震える。
 弥生にしてみれば、真剣に我慢しているかどうかなんてどうせ
外からは分かりっこない。そう高を括っていたのだ。

 『ここにいるのは夏休みだけ。新学期が始まればもう会う事も
ないんだから、恥をかいても噂が広がる気遣いはない。だったら、
なるようになるさ』
 そんな男の子的な開き直りも彼女の心の中にあった。

 ところが、そんな思惑が通用しそうにない。

 そんな少女の心の動揺も、早川シスターは見逃さなかった。
 「弥生さん。あなた、随分度胸があるのね。私たちを試そうだ
なんて……しかも、こんな事までしでかすなんて……女の子には
なかなかできない芸当だわ」

 早川シスターの射るような視線に怯えて、弥生は思わず……
 「私はそんなこと……」
 と取り繕ってみたのだが……シスターはさらに眼光鋭く弥生を
睨みつける。

 女の子の世界では人を裁くのに証拠はいらなかった。
 素振りが怪しいというだけで彼女は有罪なのである。

 「そんなあなたの度胸には感心するけど……でもね、私たちも
これまで色んな子どもにたくさんのお浣腸をしてきたの。いわば、
『お仕置きのプロ』ってところかしらね。……だから、その子の
様子を見ていれば、それが不可抗力による事故なのか、それとも
真剣に私たちの罰を受けようとしているのか、ひと目で分かるの」

 「……でも……私は……」
 青くなった後も、弥生は再度反論を試みたが……

 「やめなさい。そうやって自分の心を偽るのが一番よくないわ。
ここではね、あなたが真実と向き合わうまでは罰がずっと続くの。
それって女の子の一番悪い性癖だから徹底的に是正させるのよ。
それがどんなに厳しく辛いことか……経験者はみんな地獄だった
って……そんなこと、経験しないにこしたことがないでしょう」

 「…………」

 「ここでは、バカになって素直にしているのが一番幸せに家へ
帰れる道なの。無駄な抵抗はしないにこしたことがないわよ」
 早川シスターはす弥生の耳元で囁く。

 「そうすれば、罰を受けずに済むんですか?」

 「いいえ、それでも罰はあるわよ。だって、お父様はその為に
あなた方をここによこしたんですもの。ただね、余計にぶたれる
ことはないでしょう」

 「…………」
 弥生は本当はそんな顔をしたくなかったが、悲しい顔になった。

 それに追い討ちをかけるように……
 「……それとね、あなたの場合、この検査では正確なデータが
でなかったから、次の耐力測定で倍の負荷を受けてもらうことに
なるの。それは我慢してね」

 「まだ、あるんですか?」

 「あるわよ、次はお尻叩きなの、あなたのお尻がケインの鞭に
どれだけ耐えられるか、テストするの。あなたの場合は他の子の
二倍の鞭を受けてもらうことになると思うわ」

 「…………」
 弥生は思わず息を呑んだまま言葉にならない。
 正直、卒倒しそうだった。

 「大丈夫よ。そんなに怖がらなくても。みんな参加するテスト
ですもの。これでお尻が壊れたなんて子もいないのよ。それに、
鞭打ちによる測定は身体をしっかり押さえつけてから行うから、
今回みたいなズルはできないの。あなた向きのテストよ」

 早川シスターの言葉は弥生にとって悪魔の囁き。
 少女はこのまま目をつむり、翌朝、あらためて目を覚ましたか
った。すべては夢だったことにして、この忌まわしいお話を終わ
らせたかったに違いない。

 しかし、現実は思うに任せない。
 こうして自分が粗相してしまったオムツの取替えを見続けなけ
ればならないのだ。惨めな自分と離れることはできなかった。

 「ほら、じっとしていなさい!」
 早川シスターの罵声が飛ぶ。
 13歳の少女には、こうした時でさえ夢の中へ逃げ込むことが
許されていなかったのである。


***************************

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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