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第2章 幼女の躾 (2)

<A Fansiful story>

           竜巻岬《6》

                     k.Mikami

【第二章:幼女の躾】(2)
《初めての友達》


 アリスが幼女となってしばらくしたある日のこと、ペネロープ
がお茶の席にアリスを招いた。
 そこは本来、童女と呼ばれる人たちから参加を許される場所で、
いまだ幼女でしかないアリスが招かれるのは破格の扱いだ。
 しかも、彼女はペネロープのすぐ脇に席を取る。

 「アリス、何だかだいぶやつれたみたいに見えるけど……幼女
の暮らしは大変なのかしら」

 「いいえ、大丈夫です。お母さまのご慈愛に感謝します」

 「ありがとう。でも、ここではそんな型にはまったごあいさつ
はいらないわ。今日は、あなたが心に抱いている本当の気持ちを
私に話して欲しいの。ハイネもいないしここでなら何を言っても
かまわないのよ」

 「……<そう言われても>……」
 とアリスは思う。

 「そう、常によい子でいたいのね。それはそれで大変に結構よ。
でも、もし我慢できなくなったらいつでも私の処へいらっしゃい。
私の胸になら全てをぶちまけていいのよ。あなたは私の娘なんだ
から、何も遠慮はいらないわ」

 ペネロープは慈愛に満ちた母の眼差しでアリスを諭した。

 「はい、おかあさま」

 ハイネに娘の養育を任せている以上、母親とはいえ小さなこと
にまであれこれと指図できないペネロープだが、アリスのことは
ずっと気にかけていた。

 実際、庶民と異なり上流階級の家庭では子供たちが親と一緒に
食事をしたり歓談したりできるのは十才を過ぎたころから、それ
以前は、養育係に全権を委ねている場合がほとんどで、その場合
「お早ようございます」と「おやすみなさい」を言いに子どもが
親の処へ出向く以外は、親の方が養育係の処へ出向いて子どもに
会いに行くことになるのである。

 当然、子供は実際の親より養育係の方に懐くわけで、アリスも
その点では例外でなかった。どんなにきつい折檻を受ても自分の
庇護者はハイネしかいないと信じていたのである。
 その意味からもペネロープに普段の愚痴は言いにくかった。

 お茶の席にはアリスのほかにも大勢の子供たちが参加している。
 もちろん子供たちといっても、いずれも二十歳を越えた人たち。
一般社会ならレディーと呼ばれる人たちだ。ただここでの身分は、
『童女』であったり『少女』であったりする。

 ペネロープはそんな子供たち一人一人に声をかける。
 この時間は、普段は子供で管理されている彼女たちがつかの間
大人に戻れる瞬間。ペネロープにしても彼女たちのことを細かく
観察しては事故の起きないようにしているのだ。

 「フランソワ、ピアノの発表会までもうあまり時間がないけど
大丈夫なの」

 「はい、今回はとても体調がいいんです」

 「そう、それはよかったわ。当日、貧血で倒れたなんてあまり
名誉なことではありませんものね」

 「キャシー、あなたの油絵がまた入選したんですって」

 「はい、今度の作品はサロンにも出品させて頂きました」

 「そう、それはよかったわ。でも、あまり公の場所に展示すると、
もともとあなたはプロなんだし過去が分かってしまわないかしら」

 「それは大丈夫です。以前とは絵のタッチを大きく変えてしま
いましたから……気付く人は誰もいないはずです」

 「ミッシェル、あなたから頂いたレースの花瓶敷、とても重宝
しているわよ。あなた、器用なのね。知らなかったわ」

 「いいえ、お母さま。私は何も取柄がありませんから、編み物
ぐらいしかできなくて」

 「とんでもない。女の子にとって編み物は立派な趣味ですよ。
もっと高度なものを習いたいのなら先生を呼んであげてもよくて
よ」

 「はい、お母さま。ご好意に感謝します」

 「では、誰か探しておきましょう」

 ペネロープ女史はこうして大半の子を誉めたが、中には叱る子
もいた。そうした子に対しては自ら出向くのではなくまず自分の
席近くに呼び寄せてから話を切り出すのが彼女のやり方だった。

 「リサ、あなた最近手遊びをするそうね。世間じゃあんなもの
健康に影響がないから放っておけばいいって言う人もいるけど、
ここでは禁止しているの。……そのことは知っているわよね」

 「はい、お母さま」

 ペネロープの前に立って小さくなっているのは、軽くウェーブ
の掛かった髪をかきあげるスレンダーな体つきの女性。こんな処
で暮らしているから化粧っ気はないが、アリスの目にはその精悍
な顔つきが十分『美人』と評価できる人だったのである。

 「男性のように、やらないとストレスで仕事や勉強にも支障が
でるというのならいざ知らず、女性には、それほどの強い欲求は
ないはずよ。あれはたとえ健康に直接的な害はなくても生活習慣
が乱れ根気が奪われるからここでは禁止しているの。分かってる
でしょう」

 ペネロープはそこでいったん言葉を区切ると、周囲を気にして
から再びリサを静かな眼差しで見つめる。

 「コリンズ先生にもご相談してみるけど、場合によっては幼女
か、ひょっとすると、赤ちゃんに戻ってもらうかもしれないわね」

 「許してください。もう二度と手は触れませんから」

 リサは慌てたようにペネロープの前に膝まづくと両手を胸の前
で組んで哀願した。

 「およしなさい。リサ。ここはそんなことをする場所ではない
わ。お茶の席なのよ」

 「私、もう、赤ちゃんなんていやです。あんな恥かしい思いを
するくらいなら死んだほうがましです」

 リサは激しく訴えたが、ペネロープはいたって平静だった。

 「そりゃあ、死ぬのは構わないけど、もう死ねないでしょうね。
あなただって、一度は赤ちゃんを経験しているもの。あれを乗り
越えてから再び死を選んだ人は誰もいないの。あなたたちを厚遇
してあげられるのも、二度と自殺なんてしないだろうって確信が
あるからよ。だから軽々しく『死ぬ死ぬ』って言わないで頂戴ね」

 「…………………」

 リサは急に静かになった。本当は死ぬ気などない自分の気持ち
をペネロープに見透かされて恥かしかったのだ。

 「本当は赤ちゃんに格下げするお仕置きもあるけど、しばらく
は幼女で様子を見てあげましょう。その代わり一週間は貞操帯よ。
いいですね」

 「はい、お母さま」
 リサは小さな声で答えた。

 「…てい…そう…たい…」

 側(かたわら)で聞いていたアリスが、思わず、ぼそっと呟いく。
すると、そのアリスの言葉にペネロープが反応したのである。

 「ん?……あなた、貞操帯って知らないの?」

 「…………」
 それがどんな用途で使われて、どんな形のものなのか知らない
はずなのにアリスの顔が赤くなる。

 「無理もないか、あなたはまだ若いものね。アリスちゃんには
まだ関係ないわね。貞操帯というのはね、おいたをするお手々が
体の中に入らないようにするものなの」

 アリスもやがてはお世話になるその器具、この時はペネロープ
に説明されても、とんとそのイメージが浮かんでこなかった。

****************************

 二日後、アリスに初めての友だちができた。
 先日のお茶会で出会ったリサが格下げされて幼女のクラスへと
やってきたのだ。

 リサはこの時十八才、十五才になっていたアリスとは三つしか
違わないが、育ちのせいかアリスに比べると随分と大人びている。

 「へえ~あなたがアリスちゃん。随分、可愛い顔してるのね。
とても十五には見えないわ」

 「だったらいくつに見えるの?」

 「そう、いいとこ十一ってところかしらね。なるほどお母さま
のお気にいりって感じだわ。だってあなた清楚で品があるもの。
きっと私なんかとは育ちが違うのね」

 「私が『お気に入り?』…そんなことないわよ。だって滅多に
ペネロープ様……いえ、お母さまになんてお目にかからないもの」

 「それは当たり前よ。だって、あなたまだ幼女じゃない。ここ
では童女になって初めて一緒に食事もできるし、養育係への不満
だって、少しは口にできるようになるんだもの」

 「じゃあ、幼女って辛い立場になったんだ」

 「そりゃそうよ。お庭だろうと、食堂だろうと、養育係が一言
『パンツをおろして!』って言えば、三秒以内にパンツを下ろさ
なきゃルール違反だし、一言でも口答えしたら、やっぱり無条件
でお尻をぶたれる身の上よ。……でも、今日からは私もあなたと
同じ」

 「そうだ、そういえば私、先日のお茶会でお母さまから、不満
なことがあったら何でも相談にいらっしゃいって……あれって、
本当に不満なんて口にしちゃっていいのかしら?」

 「もち、かまわないわ。お茶会ってそんな席だもの。……でも、
ほんとに!?」
 リサは目を丸くして大仰に驚いてみせる。

 「羨ましいなあ。私なんて幼女の時にそんなこと一度も言われ
たことないのよ。やっぱりあなたはお母さまのお気にいりなのよ」

 「そうかしら」

 「絶対そうよ。これは明らかな差別だわ」

 「差別かどうかはわからないけど、私は早く童女になりたいわ。
ここにきてもう一年近くになるけど絵本の他はただの一冊も本を
読んだことがないの。赤ちゃんの時は無我夢中だったけど、今は
なんだかのんびりしすぎて頭のなかに蜘蛛の巣が張りそうだわ」

 「それ、私へ皮肉かしら」

 「え、どうして?」

 「だって童女や少女になったら勉強や習いごとをたくさんやら
されるのよ。それもたっぷりとお仕置き付きでね。私はその点は
幼女って羨ましいなあって思ってるの。ただ、養育係の命令には
絶対服従だけど、のんびり暮らせるもの……」

 「私とは反対ね。私、忙しいのはかまわないの」

 「あなた、若いからね、じっとしてられないんでしょう」

 「……ただね、慣れたのは慣れたのよ。幼女の暮らしにも……
だって今では、どこでもパンツが脱げるもの」

 アリスは自分で言って思わず苦笑する。

 「そう、退屈だったらちょうどいいわ。あなたの好奇心を満足
させてあげられるちょっとした穴場があるの。ついてらっしゃい」

 「でも、もう夕食もすんだし、このお部屋を出ちゃいけないん
でしょう」

 「大丈夫。三十分くらいなら養育係も帰ってはこないわ。あの
人たち、町から運んできた荷物を納屋に入れるのを手伝ってるの。
いいから、いらっしゃいよ」

 アリスはリサに誘われるまま恐る恐る部屋を出て着いて行くと
……

 「どこへ行くの。ここは、たしかご城主様の……」

 「わかってるわよ、そんなこと。……さあ、ここから入るのよ。
ちょうど改修工事をやってて、おあつらえ向きに壁が壊れてるの」

 「わたし……」

 アリスが二の足を踏むとリサはぐいっと彼女の肩をつかむ。

 「何言ってるの、今さら。ここまで来たら、あんたも同罪よ。
見て帰らなきゃ損じゃない」

 二人が工事のためにあけた穴から中へと忍び込むと、ちょうど
そこはお城の書庫。

 「どう、すごいでしょう。天井まで本がびっしりよ。これ全部
売り飛ばしてもトラック十台じゃ運びきれないわね」

 「だって、これ全部侯爵様のものでしょう」

 「当たり前じゃない。きっと何代も前からここにため込んでる
のよ」

 「ねえ、これってどういうふうに分類してるのかしら。何だか
雑然と並んでいて見つけにくい気もするけど」

 「何言ってるの。ここは街の図書館じゃないのよ。ご領主様が
ご自身で分かっていればそれでいいじゃない。そんなことあなた
が心配することじゃないわ。それよりおもしろいものがあるの。
こっちへ来て」

 リサは、ずけずけと書斎の方へ入っていくと……どこでそれを
知ったのか本棚の奥に隠されたスイッチを……

 「えっ!!」

 驚くアリスの目の前で、本棚の一部が横にスライドして秘密の
入り口が現われたのである。

 「やっぱりまずいわよ。もし、見つかったら。私たちただでは
すまないのよ」

 アリスの不安にもリサは強気だった。

 「大丈夫よ。ご領主様はすでに出掛けたし、ここはご領主様の
プライベートルームだもん、もう夜だし誰も来ないわ。……さあ、
入って、入って……あなたの望みの本じゃないかもしれけどね、
ちょっと面白いものがあるのよ」

 「でも……」

 「何、うじうじ言ってるの。……前にも言ったけど、ここまで
来たら、あなたも同罪なんだからね」

 リサは再びアリスの肩を鷲掴みにすると、その秘密の部屋へと
力任せに放り投げたのだった。

 アリスが踏鞴を踏んで入った処は主人愛用の葉巻とコニャック
の香りがまだ残る小部屋で、壁には数点の油絵が掛かっていた。

 「これは…………えっ!」

 何気なく掲げられた絵を眺めていたアリスだが、気がついて、
思わず息をのむ。

 油彩は、どの絵を見ても子どもが家庭で折檻されているところ。
子供の年齢や性別、親の身分などはさまざまだが、父親の威厳に
恐怖する子供の顔や母の慈愛の中で泣く子供の様子などが、克明
に描きこまれいた。
 もちろんどれも具象画。写真と見まがうばかりの描写力だった
のである。

 「ほら、これ」

 アリスが壁に掲げられた絵画に見入っていると、どこから持ち
出してきたのか、リサが自分の上半身が隠れるほどの大きな画集
を持って現れる。

 「ほら、見て!」
 そこにはさらにエロティクな絵が……

 「何?それ……」

 「エロチックな絵ばかり集めた本よ。『SYUNGA』って題
が付いてるわ。…………ねえねえ、コレ見て御覧なさいよ。……
へえ、『家庭での折檻』なんて絵、本当にあったんだ」

 「なあに、『家庭での折檻』って……」

 「『O嬢の物語』に出てくる絵よ。あなたの国の北斎もあるわ。
ほら……これって、大蛸に女の人が絡みつかれてるんでしょう。
ぞくぞくしちゃうわ」

 「わあ、何よこれ。……気持悪い。……グロテスクなだけよ」

 「そうかなあ、私は好きよ。北斎って、なかなかのセンスだと
思うわ」

 二人は知らず知らずその画集の虜になっていく。
 だから、背後に人が近付いていようとは露ほども疑っていなか
ったのである。

 「えへん」

 咳払い一つで二人は天井までも飛び上がった。

 恐る恐る振り向いてみると、そこには……

 「このお城も古いから幽霊はよくでるけど、こんなにはっきり
と見えたのは初めてよ」

****************************

 ペネロープにこんなところを見られてしまってはもう申し開き
がたたない。

 二人は元いた居室まで連行されると、そこでネグリジェの裾を
自ら捲るように命じられたのだった。

 「………………」

 呼び寄せられたメイドたちの視線を気にして逡巡していると、
それにもペネロープの鋭い声が飛ぶ。 

 「さあ、早くなさい」

 「……………………」

 やがて二人の震える足が、くるぶしからふくらはぎ、さらには
太ももへと、次第にあらわになっていく。やがて、白いショーツ
までもが周囲の目に晒されることになったが、二人の悲劇はそれ
だけではない。

 無表情を装うメイドたちによってネグリジェの裾が少女たちの
胸元で止められると、さらにその次は……

 「ショーツもお脱ぎなさい」

 ペネロープはにべもなかった。

 「……………………」
 「……………………」

 幼女の悲しい定め。二人は否応なしに実行すると……

 「あら、リサ。……あなた、いつの間にそんなに成長したの?」

 ペネロープは皮肉な笑顔でリサに近づくと、その股間に萌えだ
した下草に触れてみる。

 「幼女というのはね、アリスみたいにここがすべすべになって
なきゃおかしいでしょう。あなた、日頃のお手入れを怠ってるの
ね」

 「それは……それは……」

 リサには、その次の言葉が出てこない。
 ただ、ペネロープも『だからどんな罰を与える』とは言わなか
った。それは養育係の領分だからだ。しかし、事が発覚した以上、
ただではすまない。さすがのリサもこれには正体がなくなるほど
呆然としてしまったのである。

 その後二人は、その哀れな姿のまま、おのおの別の窓辺に連れ
て行かれると、上半身を窓の外へ突き出すような姿で膝まづかさ
れる。そして一番下が半円形に刳り貫かれた鎧戸が降ろされると、
二人は枷として細工されたこの窓に、身体を完全に挟まれた格好
になったのだった。

 建物の外からは二人の少女が戯れているように見えるこの光景。
実はこの二人、誰かに鎧戸を上げてもらわなければ絶対に部屋へ
は戻れなかったのである。

 「ハイネ~~~」

 「シャルロッテ~~~」

 二人は恥を忍んでたまたま下を通りかかった自分達の養育係を
呼ぶ。
 まさかこのまま夜明かしもできないから誰に助けてもらっても
よさそうなものだが、その時は必ずお尻を見せなければならない
理不尽さがあるため、やはり一番親しい関係にある人がよかった
のである。

 『なんてことを』

 二人の養育係がこれを見て驚かないはずがない。慌てた二人は
押っ取り刀で飛んで来る。

 そこには、当然、ペネロープが待っていた。
 彼女はことの真相を伝えると、養育係の二人に釈明を求めた。
 そして、それを聞いた上で……

 「ハイネとシャルロッテ。どうやら、これはあなたたちに責任
があるみたいですね」

 と結論づけたのである。こんな時、罰を受ける側の対応という
はその年令や身分にはあまり関係がないようで、二人の養育係の
態度は、ついさっきまでしょげかえっていた二人の幼女と大差な
かったのである。

 「ともに鞭を半ダースずつ六回、相手のために振るいなさい」

 まさに二人にとっては『やれやれ』と言いたげな事態である。

 「分かっていると思いますが、手加減というのは罰せられたい
と願う相手を侮辱することであり、自らの罪の浄化をないがしろ
にするものです。その場合は数に数えませんからそのおつもりで
…………では、始めなさい」

 ペネロープは毅然として言い放つ。
 が、二人の耳元へやってくると、こうも呟いたのである。

 「お二人とも、腕の見せ所ですよ」

 その瞬間、ハイネとシャルロッテにかすかな笑みが戻る。
 しかし、罰は罰。ペネロープの言い付けどおり、ひとりがその
豊満なお尻を突き出すと、もう一人が籐鞭で細く赤い筋を付けて
いく。

 細身のケインが奏でる『ピュー、ピュー』という風を切る高い
音やお尻を捕らえた瞬間の『ピターン』という鈍く乾いた音は、
なぜか罰を受けている養育係本人よりも、その音だけしか聞こえ
ないはずのアリスやリサの方により強い衝撃を与えることになる。

 おまけに、佳境に入り……

 「あっ…あっ、いたっ……ああ、ありがとうございます…あ~」

 鞭打たれる側の切ない声が聞こえ始めると、窓辺の二人は耳を
押さえる事ができない自分がもどかしくてならなかった。

 「よろしい。以後はこのようなことが起こらないように」

 ペネロープは三十分にもおよぶ懲罰の終わりを稟とした態度で
告げ、部屋の出口に向かったが、その際ハイネとすれ違いざまに

 「アリスへのお仕置きはもういいから」
 と、小声でささやいたのだった。

 「さあ、もういいからお部屋へ入りなさい」

 「まったく、あなたたちのおかげでとんでもない目にあったわ」

 二人の養育係はそれぞれに受け持ちの娘を鎧戸から解放したが、
結局、その夜お仕置き部屋へと連れ去られたのはリサだけだった。

 「今日はもう遅いからあなたは寝なさい」

 ハイネにそう言われたアリスだが友だちが折檻されているかと
思うとなかなか寝つかれない。

 『リサはどんなことされてるんだろう』

 いろんな空想が次から次へと沸き上がり、やがて悪夢となって
かけ巡る。

 二時間ほどでリサは部屋へ戻ってきたものの、その顔は見るか
らにやつれ、もう誰とも視線をあわせたくないという雰囲気で、
ベッドに入ってもすすり泣きが聞こえる。

 とうとうリサに声がかけられなかった。

 『明日は我身ね……』

 アリスはリサのすすり泣きを聞きながらその晩はまんじりとも
できなかったのである。


*****************<了>********

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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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