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§9 <天使の庭で>

§9 <天使の庭で>

 「いかがですか、ここの暮らしは?」
 茜ちゃんがこの場を去ると、彼女のママ、秋山先生が私に話しか
けてきた。
 「快適です。まだ慣れない事も多いのですが来てみて想像以上で
した」
 「それはよかった。私たちもそう言って頂けると張り合いがあり
ます。(’-’*)♪ここはなんと言ってもお父様方のお力で成り立っ
ておりますもの」
 「いやいやそれを言うなら先生方のご尽力の賜物ですよ。それに
してもどの子もあまりによい子ばかりなんで驚きました。私も一応
子育てはしてみましたけど、うちの子はこんなに素直じゃなかった。
こういう言い方は問題あるかもしれませんが、なさぬ仲の子を、
どうしたらこんないい子が育てることができるのか不思議なくらい
です。私は当時お金も教養もありませんでしたからそれは仕方の
ないことかもしれませんけど……」
 「そんなことありませんわ。簡単なことですのよ」
 「えっ!?」
 「余計な情報を入れず、過度な期待を持たず、常に愛情深く育て
ればそれだけでいいんです。『あなたはママの赤ちゃん。お父様の
赤ちゃん。司祭様も女王様も先生方も全ての大人の人たちはあなた
を愛していますよ』って語りかけ続け抱き続ければ、みんなみんな
良い子に育ちます。お金や教養は関係ありません。全てはよりよき
暗示ですわ」
 先生はゆっくりとした口調ながらも自身ありげにおっしゃいます
から、こちらはちょっと拍子抜けしてしまいました。でも、確かに
言われてみれば、子育てなんてそれだけの事なのかもしれません。
ただそんな事ができるのは日本広しといえどここだけ、亀山でしか
出来ない芸当のようでした。
 「私たちはお父様方が天使のように汚れのないお子さんをお望み
なので、そのように教育しているだけですわ」
 「茜ちゃんは快活なよい子ですからきっと人気者なんでしょうね」
 「打てば響くタイプなのでお父様だけじゃなく他のおじ様方にも
人気がありますのよ。おかげでお仕置きされる事も多いですけど
……。ただ、あの子ならそれも乗り越えられるでしょうから心配は
していませんのよ」
 「なるほど。でも同じように育てていても、やはり個性は人それ
ぞれ、中には優等生タイプというかお仕置きに縁のない子もいたり
するんじゃないですか…」
 「ええ、理屈はそうですが……そもそもお仕置きに縁のない子
なんて実は一人もおりませんのよ。お仕置きを受けるのは神様の
思し召しでもありますからね、私たちとしてはどの子にも平等に
光が当たるように育てるだけですわ」
 先生は茜ちゃんが戻ってくるはずの校舎の入り口を気にしながら
こう続ける。
 「誤解があるといけませんが、お仕置きに縁のない子だからその
子は優秀という事ではないんです。むしろ、そうした子は恥をかき
たくないあまり、何に対しても消極的になってる子が多いですから
ね。むしろ、好ましくないんです」
 「打っても響かないタイプ?」
 「そうした子は何かと言うと自分の殻にこもってしまいますから
……私たちにとってはむしろ困った子なんです」
 「いけませんか?そんな優等生タイプの子は?」
 「恥をかくというのは女性にとっては辛い事です。心を痛める
出来事です。でも、それを嫌がっていては肝心な時にも目を背けて
チャンスを潰したり、困難を恐れて小さな傷口をかえって大きく
してしまい、揚句の果てに、取り返しのつかない事にもなりかねま
せん」
 「度胸をつけさせるってことでしょうかねえ?」
 「ええ、そう言う事でもあります。よく男は度胸なんて言います
けど本当に度胸が必要なのは力のない女の方なんです」
 「で、ここならハレンチなお仕置きも安全ということで訓練して
いるってことですか?」
 「もともとこうしたことは親子のような親しい関係があって成り
立つものなんです。お仕置きってもともと家庭内の出来事ですから
……ただ、ここは特別なんです」
 「特別?」
 「ここの場合、子どもたちにとっての『お家』は『お父様の住ま
い』ということではありません。亀山にあってはこの山そのものが
天使たちの家であり揺り篭なんです」
 「なるほど、そんな理由があったんですね。私はてっきりお父様
の要望に応えるためかと……(≡^∇^≡)……とんだげすの勘繰りで
したね」
 「いえ、もちろんそれもありますよ。お父様に満足していただく
のは子供たちや私たちの義務ですから。ただそれが子供たちのため
にならないなら、もちろんやりません」
 「ということは、恥ずかしいお仕置きは効果があると…
(≡^∇^≡)」
 「ええ、女王様はそういうお考えですし、私も無意味だとは思っ
ていないんです…ま、子供の頃はなんてハレンチな事するんだろう
って思ってましたけど……(≡^∇^≡)」
 「ん?『思ってました』?…ってことは先生もここのご出身?」
 「ええ、子供の頃は裸のお尻を晒すたびにママや先生方を恨みま
した。ですが、それが良いか悪いかをいう前にこれは必要なんだっ
て実社会へ出てからわかったんです」
 「裸にならなきゃならない事態になったんですか?」
 「まさか」
 先生が笑う。
 「そうじゃなくて、私たちって……世間知らずで社会に出て行く
でしょう。それって箱入り娘さんと同じなんです。そんなお嬢様
たちとお知り合いになれたのでお話をうかがっていると、実は育て
られ方もよく似ていて…彼女たちもお家で恥ずかしいお仕置きを
たくさん受けたそうなんです。もちろんお嬢様たちの場合は、
お父様お母様の他は古くから仕えている女中さんだけの密室でした
けど、でも、これが一人二人なんかじゃなくてわりとどの家庭でも
行われていたみたいで……それで、私たちだけが変なことをされて
たわけじゃないんだってわかると、考え方も少しずつ変わってきた
んです」
 「でも、中にはなかなか隙を見せない子もいるんじゃないです
か?」
 「ええ、優等生タイプにはそういう子が多いんですが……でも
そこは子供の事、なんとかなります。理由はなんとでも見つける事
ができますから……」
 「たとえ、こじつけでも…」
 「ええ、そのような事をした事もあります。大事なことは、みん
なと同じようにちゃんとお仕置きを受けさせること。ちゃんと恥を
かかせることなんです」
 「でも、大丈夫なんですか?そんな事をして…」
 「どうしてですか?むしろその方がお友だちともうまくいきます
わ」
 「お友だちと?」
 「女は妬み嫉みの強い生き物ですからね、『一人のお友だちが自分
たちとは違ってお仕置きを受けなかった』となると……それを許さ
ない子が多いんですよ」
 「でも、それはその子が大人たちの意向に副って生活してきた
結果で……その子の責任ではないでしょう」
 「はははは(^◇^)」先生は意外なほど高らかに笑いました。
 そして………
 「それは男性の考えですわ。女の子の社会はそうはならないん
です。お友達や仲間の子たちとは理屈抜きに同じ事をしていたいん
です」
 「なるほど、運命共同体って事ですか」(≡^∇^≡)
 「これって女性にとってはとっても大事なことなんですよ。『いつ
までもみんなとお友達でいたいけど、一緒になってお仕置きは受け
る勇気はない。でも仲間はずれにもなりたくない』こんな気持が心
の中で渦巻いているんです。ですから優等生の子を無理やりにでも
お仕置きしてやると、むしろいい顔になるんです」
 「いい顔?……ですか?」
 「ええ、何と言ったらいいか…そうですね…憑き物が落ちたという
か、…ほっとしたというか」
 「不思議ですね。そんなことしたら嫌われて口もきかなくなるみ
たいに思えますけど」
 「その反対のケースがほとんどですわ。口にはだしませんけど、
私、女ですから、その子の気持がわかるんです」
 「どういうことですか?」
 「女の子というのはお友だちの中で一人浮いてしまうのが嫌なん
です。『不正をしたわけじゃないんだし私が優秀だったからお仕置き
受けないだけでしょう!』なんて言ってみても虚しい言い訳でしか
ないんです。女の子の世界ではみんなと同じ事ことをするのに理由
なんか必要ないんです。『一人だけ抜け駆けしてずるい。あんな子、
許せない』女の子の理屈はこれだけです。それだけで、陰口をたた
かれたり、仲間外れにされたりしますから」
 「え!?だって…」
 私はそこまで言って思わず絶句してしまった。
 「だから女の子って、一人でお仕置きを受ける時はこの世の終わ
りみたいに泣き叫ぶくせに、みんな並んですっぽんぽんにすると、
その時はわりと平気な顔してる子が多いんです。……どうしてだか
わかります?」
 「いいえ」
 「女の子は、みんなと一緒にいるという安心感が気持をとっても
楽にしてくれるんです。これはどんな精神安定剤より効きますのよ」
 「ほう……」
 「実は、女の子にとって一番辛い罰というは、ぶったり叩いたり
することでも恥をかかせることでもないんです。…長い時間一人に
すること。孤独の中に置くこと。これが女の子にとっては極刑なん
です」
 「そんな罰がここにもあるんですか?」
 「えっ?」先生は一瞬戸惑った様子だったが、すぐに笑って……
 「ありませんわ。だからやらないんです。子どもたちに与える体罰
は、どんなに厳しいものでも、愛の中で行われなければ何の意味も
ありませんもの」
 「なるほど」
 私が気のない返事を返すと、そこへ茜ちゃんがようやく戻って
きた。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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