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§3 <天使の庭で>

§3 <天使の庭で>

 お父様の朝は隣で寝ているチビちゃんたちのパンチと蹴りで始ま
る。さらにはトイレへ行くのが面倒な子もいて、そうした子がお隣
さんだとこちらもパジャマがびっしょりなる。
 ただその程度のことで気分を害するようなお父様というのはこの
街にはいないから、この子たちは常に天使でいられるのである。
 「ほら、しっかり立って」
 私は寝ぼけ眼の少女をベッドの脇に立たせると蒸しタオルで股間
を拭き上げる。もう11歳にもなるというのに、驚くほど悪びれた
様子がない。
 「…………」
 まるで、そうしてくれるのが当たり前とでも言わんばかりの眼差
しだ。
 むしろ大人たちの方が……
 「御前様(女中さんたちは我々をそう呼ぶことが多い)、そのよう
な事は私たちがいたします」
 女中たちはそう言って私から蒸しタオルを取上げようとするする
が、どうやら、彼女たちの方がよほど私の気持が分かっていない様
だ。
 「大丈夫だ。私がやるよ」
 にこやかに断ると相手もそれ以上無理強いはしなかった。
 そもそも私がやっているのは苦役でもなければボランティアでも
ない。これが好きだからやっているのである。
 まだ、下草もろくに生えていない少女の臍の下に手を入れている
だけで幸せなのだ。しかも彼女は熱いタオルを股の中に入れ、ごし
ごし擦っても嫌がったり恥ずかしがったりはしない。といってこと
さら苦痛に耐えている様子でもない。『ごく当たり前のことが当たり
前に起こっている』そんな表情で身じろぎ一つしないのである。
 彼女をこのスケベおやじの前に立たせているのはむろん愛情だけ
ではない。安藤先生の場合は、この子が赤ん坊の時からの付き合い
だから愛情もあるだろう。しかし、私は初対面から数日しか経って
いないのだ。少女にしてみれば私の存在はほとんど他人に他なら
ない。にも関わらず、こうして初老男の前にすっぽんぽんで立って
いられるのは信頼と権威がそうさせているのだった。
 ここでは、庭師や賄のおばちゃん、大工さん、バキュームのおじ
さんに至るまで子どもを邪険にする大人はいない。大人は常に自分
たちに優しくしてくれるという『大人への信頼』があるのだ。
 それと物心つく頃から色んな機会をとらえて「お父様はとっても
偉い人」と教えられ続けた結果、頭の芯にまで刷り込まれた『お父
様の権威』というものが少女を金縛りにしているようだった。
 もちろん、だからといってお父様の側も好き勝手をやっている訳
ではない。嫌がれば止めるという分別はここでは誰もが持っている。
だからこそ続いてきた関係だった。
 私は茜の身体を一通り拭いてやると、ショーツやシュミーズを着
せてやる。
 歳も歳だし彼女が独りで着替えができないわけではないが、大人
たちが着替えさせている時は逆らってはいけないと日頃から躾られ
ているのだ。
 私たちは子どもたちの教育や躾にほとんど口を出さないが、すべ
てはこちらの意向に沿うよう先生方が子供たちを御指導くださるの
で、こちらとしてはその事に何の不満もなかった。
 要するに私たちは完成されたお人形(アンドロイド)をただ抱く
だけでよかったのである。
 ま、これも私たちが若ければ自分の手で仕付けて、教育して、
自分の色に染めたいところだが、何ぶん、みなさんお年より。この
中では一番若い私にしたところでそれはしんどい事だったのである。
 だから、私たちはお父様と名乗らされてはいるが、実質的には子
どもたちのおじいさん、おばあさんといった役どころだった。
 しかし、それでもなお亀山での生活はこの上なく楽しい田舎暮ら
しだったのである。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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