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(1/27) おやつ

(1/27) おやつ

 私の家ではおやつが出た。

 今の人に言わせると「それがどうした?当たり前じゃないか」と
思うかもしれない。しかし、昭和の30年代というのは、まだまだ
貧しい時代で、多くの家庭では子供に小遣いを与え駄菓子屋で何か
買っておやつにするというのが一般的なスタイルだったのだ。

 ただ我が家に限って言えば、絶対的な権力者である母親がこれを
快く思っていないこともあって、おやつは家の中で母親の膝の上で
食べるものだったのである。

 そこに出てくるものとしては、水菓子か虎屋の羊羹、風月堂のゴ
ーフル、モロゾフのチョコレートあたりが多かったように記憶して
いる。いずれにしても大人のお茶会で子供の口にはあわないものが
多かった。

 いえ美味しくないというのではない。ただ、コビトチョコレート
の銀紙の裏に当たりの字を見つける喜びや細いタコ糸を引寄せた瞬
間大きな三角飴が動いた感動に比べればそれはつまらない行事だっ
たのだ。

 おやつの時間というのは、母が近所のお母さんたちを招いて井戸
端会議を主催する時間でもあったから母にとってはそこに私が座っ
ている方が何かと都合が良かったのである。

 母にとっての井戸端会議は、
 「昨日P社のデザイナーさんに頼んでおいたこの子の服が届いた
の」と言ってはその服を私に着せてファッションショーを始めたり、
「今度この子が学級委員に選ばれたの」と言ってはその証のバッチ
をわざわざ制服から外させて閲覧させたりとやりたい放題。
 黙っていても何ら差し支えないことを次から次に披瀝するご自慢
大会なのだ。正直、聞いてるこっちが赤面する話も多くて、そう言
う意味でもここで出されるお菓子は美味しくなかったのである。

 母のお道楽はこれだけではない。先ほど述べたが……自ら描いた
デザイン画を子供服メーカーに送って完全オーダーメードの子供服
作らせたり、外国雑誌に載ったオモチャが今はまだ東京のデパート
にしか卸されていないと聞くと、地元デパートの外商部を呼びつけ
て取り寄せさせたり。はては本屋が仕入れた全集物をそっくり買い
あさり天井まで届くような立派なガラス書棚に並べては私の部屋を
飾りたてたりもした。
 いずれも大変な労力と出費だろうが、生まれながらにして母の赤
ちゃんだった私にすれば、それがごく普通の日常だったのである。

 息子をダシに平気で自慢話を続ける母に嫌気が差し膝の上でその
まま寝てしまった事もたびたびだったが、今となってはむしろこん
な母の道楽につき合ってくれた近所のお母さんたちにただただ頭が
下がる思いがするのである。


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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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