2ntブログ

Entries

(1/17)       映画館

(1/17)       映画館

 私の家の近くに古い映画館があった。いわゆる名画座というやつ
でロードショウなんて言葉とは無縁な映画館だった。
 便所は臭いし、椅子は狭いしぐらつくし、売店の菓子なんていっ
たいいつ仕入れたのかって思ってしまうようなしろものだった。

 学校が夏冬春の休暇時は必ず子供向けのアニメがかかっていて、
あれ30円か50円だったか、とにかくお安く楽しめたし、ちょい
と話題性のある映画が手に入った時なんかはそれをかけるけど、や
はり圧倒的に多かったのはポルノ。当時はまだピンク映画なんて言
ってたか、おばちゃんの艶めかしい姿を描いたポスターが後生大事
にガラスケースに入れられて張り出されていた。

 当時の私にとってそれはエロスというよりグロテスクな化け物の
ようなもので性的な興味の対象ではなかったのだが、見てみたいと
いう欲求に代わりはなく、ある日友だちと謀って、それをのぞき見
する計画をたてたのである。

 戦略はこうだ。その日の午前中までは学校がお休みということで
アニメがかけられているが、その日の夕方からはポルノへ切り替わ
る事になっていた。今はそんなことはないみたいだが、当時は一日
の途中で出し物が変わるなんて事はそう珍しいことではなかったの
である。
 そこで私と悪童二人は午前中アニメを見たあとポルノ映画が始ま
るまでは便所へと隠れておいて、ポルノをちょこっと見たら、その
まま入口を全速力で駆け抜けようというのだ。

 しかし、10分や20分ならいざ知らずポルノ映画が始まるまで
は四時間。
便所といっても掃除用具をしまう物置みたいな処だから、臭いし、
暗いし、何より小学生にとってそんな長い時間は退屈でならなかっ
た。

 というわけで、二時間後甲高い声が劇場中に響き渡りおやじさん
に見つかりそうになる。その時は窮余の一策、隠れていた物置の板
塀を蹴破って外に出て難を免れたのだが……
 よせばいいのに一時間後自分たちが蹴破った板塀の処からもとの
物置へと舞い戻ってしまう。そりゃあ見つかるだろうという知恵は
当時の小学生にはなかった。

 でも館主のおじさんがいい人で蹴破った板塀の修理を手伝うと、
10分だけピンク映画を見せてくれた。そこはエロスとは関係ない
部分なのだが、大いに興奮したのを覚えている。そしてまだ五分と
立たないうちに映画館の入口を三人で猛ダッシュ。近くの児童公園
まで駆け抜けた。つまり成功したわけだ。

 それにしても四時間、バカとしか言いようのない苦労だ。しかし、
そんな無駄な時間が手に入るほど、当時の少年の生活はのんびりと
していたのである。

コメント

コメントの投稿

コメント

管理者にだけ表示を許可する

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

最新記事

カテゴリ

FC2カウンター

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR