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(1/8)     バス営業所(1)

(1/8)     バス営業所(1)

 私は幼稚園時代からもっぱらバス通学(通園)だった。母親の気
位が高く近所の幼稚園では満足できなかったらしいのだが、通わさ
れていた当人にとっては何とも迷惑千番な話で、御陰で常に早起き
を強いられていた。

 夏場はともかく冬場などは家を出る時はまだ星が瞬いていた。
 その星を見上げながら歩き空が白々と空け始める頃、私は一軒の
東屋に着く。中にはいつも数人の男達がストーブを囲んで談笑して
いた。新聞を読みながら、お茶をすすりながら、家から持ってきた
弁当を突きながら、大笑いするでもなく、和やかな雰囲気が窓越し
に眺める私にもよくわかった。

 「おっ、坊主、来てたのか、入れ入れ」
 私を見つけるとこう言って招き入れてくれる。勝手に入り込んだ
りはしないが、その暖かさが好きで断ったことは一度もなかった。
 バスが出るまでのほんの数分の滞在でストーブにあたる以外何す
るわけでもない時間なのだが、忙しい私にとっては貴重な安らぎの
場だった。

 私が覗き込んでいたこの施設、バス会社の営業所(というか折り
返し所に付属する詰め所)で、本来ここにバス停はなく一般の乗客
はここから200米ほど離れた起終点となるバス停で待っていなけ
ればならないのだが、私の場合は母の口利きで特別にここから乗せ
てもらっていた。

 今はそんなこと菓子折一つで頼んでも応じてくれないだろうが、
当時はそのあたり自己責任で鷹揚に処理されていた。だからこの営
業所にたむろするメンバーが入れ替わっても私の存在はその後の人
たちに申し送られ、結局のところ幼稚園の時代から小学校の高学年
になるまでここが私専用のバス停兼休憩所になっていた。

 ついでに言うと、私は電車通学をしていたころ、電車の先頭にぶ
ら下げてある行き先案内板を車掌さんにねだって取り替えさせても
らったことがある。

 想像以上に重くて車掌さんが支えていなければ落としていたかも
しれなかった。

 子供の特権というやつか、今なら部外者を運転席に立ち入らせた
だけでクビだなんて言ってるくらいだから、当時は、実にのどかな
暮らしよい時代だったようだ。

 昔はこのように子どもにつき許されるということがたくさんあっ
たような気がする。逆に言うと大人の方も子どもにしてやれる事が
たくさんあって、それがまた大人の権威を高めてもいたのだ。

 今はやれ子供の権利がどうだこうだとうるさく議論するが、街で
大人と子供が触れあうことが極端に少なくなったような気がする。
『すべては自己責任で……』となぜ親の方も悟れないのだろうか、
 了見の狭さが悲しいね。


山への入口 <小>
注)写真はこの記事とは無関係です。


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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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