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庄屋の奥様 (3)

***** 庄屋の奥様 (3) *****

 神父は芝居がかった物言いで奥様の手を取って立ち上がると、
祭壇の脇にある小部屋へと誘(いざな)います。そして、その部屋
の中にある小さな椅子の埃を払い、これに腰を下ろすようにと、
丁重に勧めてから、自らは白いガウンを脱ぎ去り、中に着込んで
いた真っ赤なローブ姿のままで、奥様の入った小部屋とは反対の
部屋へむかうのでした。

 私は、建築当時からここに関わっていて知っているのですが、
奥様の入った部屋と、今、男が回り込んで入った奥の部屋とは、
小さな窓で繋がっています。
二人はその窓にお互いの顔を寄せ合い、そこで何やら密談を始めた
みたいでした。

奥様の声はとても小さく、聞き取りづらかったのですが、少年二人
が香炉を振り回すのをやめてからは私の耳へも届きます。
ただ、それは私のような者が聞いてはならない内容でした。

「それでは、あなたは昨夜、夫に求められたにも関わらず、理由
もなしに拒んでしまったのですね」

「はい、とても頭が痛かったものですから」

「それは理由にはなりません。夫婦和合は神の恩寵であり、夫が
求めるのは明日の働きに備えてのこと。夫の働きは神のご意志な
のですからそれを遠ざけることは神のご意志に背くことでもある
のです」

「お、お、お許しを……さりながらあの時は本当に頭が痛くて…
…私の頭痛は神のご意志ではないのでございますか」

「これまた何たる不見識。罪ななき者に災いをもたらすは悪魔の
仕業。だいいち、あなたはその夜、夫に身をまかせても明日にな
れば昼までも寝ていられる身。どちらが神のご意志か、はたまた
悪魔のささやきか、わかりそうなものを……」

「では、私の頭痛は悪魔の仕業だと……」

「もとより自明のこと。そのようなことも即座に分からぬでは、
この家も危うき限りじゃ。よろしい、口で分からねば、別の場所
を説得いたそう」

「あああっ、口が滑りました。どうか、お許しを。私が悪うござ
いました。どうかお鞭ばかりは……先月頂いた分の御印も、まだ
取れてはおりません」

哀願する奥様の声は真に迫っています。しかも香炉の煙が晴れる
につれて、小部屋のドアが開いているのが分かります。私は眠気
を忘れ、その先の展開を求めて、さらに目と耳をとぎすますので
した。

「いやいや、こうしたことは自らの懺悔だけでは落ちませぬ。体
の中と外を丹念に洗い、悪魔が吐き散らかした毒素を聖なる鞭で
たたき出さねばならなぬのです」

「そんなこと……私にはとても……」
司祭の決定に奥様は落胆して、その場に倒れこみます。
すると、司祭はすぐさま部屋を飛び出て奥様のもとへと駆け寄る
のでした。

「何も心配いりませぬ。私にお任せあれば今夜は心地よくお眠り
になりましょう。明日は、天国もかくあらんと思えるほど爽快に
お目覚めできましょうほどに……」

「本当に……」

「奥様はすべてを神のしもべたる私めにお任せあればよいのです。
さあ、お気を確かに……」

「あなたに任せてよいのですね」

「何よりそれが肝要かと……」

**********************(3)***

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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