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庄屋の奥様 (2)

***** 庄屋の奥様 (2) *****

ある日のことです。

私は礼拝堂の壁の塗り替えを頼まれて、それを終えたところでした。
奥様は相変わらす熱心な耶蘇さんの信者ですからとても喜ばれて、
お酒をだして私をねぎらってくださいます。

すっかり、いい気持ちになった私はごちそうのお礼を言っていった
んは外へ出たのですが、外はちょうど寒い時期で雪がちらつき始め
ています。私の家は遠いですし、こう酔っていては車を走らすこと
もできません。

私は、戻って宿を無心しようと考えたのですが、もうすでに母屋
に電気はついていませんでした。困った私は、今仕事を終えたば
かりの礼拝堂に行ってみます。あそこに藁がつんであったことを
思い出した私は、勝手知ったる他人の家とばかりに、藁の布団に
くるまるとそのまま寝てしまったのでした。

一眠りすると時間は真夜中になっていました。酔いもさめ、帰ろ
うか、朝までここに泊まろうか、と迷っていた、その時です。
 礼拝堂の扉が開く音がします。

 『えっ、こんな真夜中に?』

 しかも、入ってきた足音は一人二人ではありませんでした。朝
の早い百姓の家ではこんな時間に働く者はいません。それは庄屋
様の処でも同じはずでした。

『さては、どろぼう』

そう思った私は心を引き締めます。ですが、藁を積み上げた土間
へ差してきたのは百目ローソクの明るい光。しかもそれがやがて
何本も立ち並び、まるで真昼のように輝いています。
コソ泥が仕事をするにはあまりに大胆な光の量でした。

節穴を通して広がる先には、奥様と顎髭を蓄えた中年紳士。それ
に12、3歳位でしょうか、まだ可愛らしいという形容で十分の
少年が二人見えます。

私はとっさにこれが奥様のおっしゃってたミサなのかと思いま
した。

奥様は白いケープを被った薄絹のワンピース姿、中年紳士は、金
モールの刺繍も鮮やかなガウンを纏っています。二人の少年は共
に白いシャツに白いホットパンツ姿。

赤毛でそばかすだらけの顔をしている方がやや体も大きく年長
でしょうか、金髪の方は今でも母の乳を恋しがる子供に見えま
した。

この二人が、それぞれに長い鎖のついた香炉を振り回すなかで、
祈りの儀式が始まります。

香炉はとても強い香りでたくさんの煙もでます。もう奥様の顔さえ
判別できないほどの煙が部屋中に立ちこめる中で奥様は跪いたまま
何かの教典を読んでおいでのようでした。

それが終わると、かの司祭の声がします。

「神のご加護がそなたとそなたの夫、この家のすべてにもたらされ
んことを」

彼はそう言うと仰々しい飾りの付いた杖を取り出して、奥様の肩に
宝石に飾られたその先端を押しつけます。

すると、さも今の動作で気づいたかのような物言いでこう言うので
した。

「何か悩み事はござらんか。心の震えがこの杖に伝わってくるが…」

奥様は両手を胸の前で組んだまま首を横に振りますが、男は腰を
落とすや、奥様の目を見つめて離しません。

「ありませぬか。隠し事はなりませぬぞ。神の前にあっては純潔
こそが救いの証しなのです。純潔でない者の望みを、神は絶対に
お聞き届けにはなりません。自らに巣くう悪しき妄念を赤裸々に
告白し、魂の浄化を受けることこそ救いの道なのです」

**********************(2)***

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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