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庄屋の奥様 (1)

***** 庄屋の奥様 (1) *****

村には庄屋様がおりました。たくさんの田畑や山林を持っていて
村一番のお金持ちでした。戦後は農地改革があったために田畑は
少なくなりましたが、それでも、村一番のお金持ちであることに
違いはありませんでした。

その庄屋様の現在の当主様はそりゃあ立派な方で、戦後、隣町に
大きな縫製工場を建てて農地改革で失った田畑以上の利益を得て
いました。その当主様の元へ隣町の分限者からお嫁入りなさった
のが現在の奥様でして、今もお綺麗ですが、嫁入り当時は天女様
天女様と噂がたつほどの器量よしでございました。 

 おまけに嫁入り先の庄屋様も何不自由ないお暮らしぶり。同じ
百姓というてもお肌はすべすべ、日焼けのシミ一つありません。
奥様もよくできた方で、偉ぶったところがどこにもなくて村では
奥様を悪く言うものは誰もおりませんでした。

そんなある日のこと、庄屋様のお屋敷のはずれに妙な建物が出来
ておりますから聞いてみますと、なんでも奥様のご要望で礼拝堂
を建てたとのこと。
私どもはその時になって初めて奥様がクリスチャンであることを
知ったのでした。

村に耶蘇さんはおりませんでしたが、もちろん信ずる処は人それ
ぞれですから、それ自体は何の問題もありませんでしたが……
しばらくして妙な噂がたち始めたのです。

「奥様は金曜日になると礼拝堂に中年男やらまだ幼い少年たちを
そこへ連れ込んでるらしい」
とか……

「いやいや、金曜日の夜は、あの礼拝堂の近くで女の悲鳴がする」
とか……いうものでした。

それが奥様の耳に入ったのでしょう。奥様は私のような出入りの
職人にまでそのことを説明してくださいます。

「あのお方は、私たちの教会では司祭様と言って、とても地位の
高い坊様なの。少年たちはそのお弟子さんたちですわ。土日は、
お忙しいので金曜日にお招きして、ご一緒に祈りを捧げていただ
いているのですよ」

奥様の説明はこんなものでしたが、金曜日の夜に女性の悲鳴が聞
こえるという説明は最後までありませんでした。

それでも村人はそれで納得したみたいでした。金曜日の夜に聞こ
えていたという女の悲鳴も最近は噂を聞かなくなっていました。
もともと娯楽の乏しい村のことです。誰それがきつねの鳴いたの
を勘違いして尾ヒレをつけて話したのだろうということになった
のでした。

ですから、そのことについては私もすっかり忘れていたのです。

『お美しく、お優しく、何不自由ない暮らしをなさっている』

そんなイメージの奥様像が私の脳裏にはすでに定着していました。

***********************(1)**

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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