2ntブログ

Entries

第3章 / §3

第三章
   カレンの旅立ち


§3

 先生とラルフ、それに新しい家族となった少女が、夜行列車を
乗り継いでたどり着いたのはウォーヴィランという山の中の田舎
町だった。

 週末こそ急行列車が臨時停車することもあるが、平日はというと、
お義理に列車がその駅に止まっても、誰も降りないし乗り込まない。

 だから、三人ものお客さんが降り立ったこの日は、その列車の
車掌さんにとっても特別な日。カレンが列車の床とプラットホー
ムの段差に戸惑っていると、車掌さんが抱っこしてぺんぺん草の
はえたホームへと下ろしてくれた。

 「ありがとうございます」
 カレンが恥ずかしそうにお礼を言うと車掌さんも恥ずかしそう
に帽子のひさしに手を添えてこたえた。

 抱っこだなんて、五、六歳の頃、お父さんからやってもらって
以来の事。ずいぶん久しぶりだったが、今はその時にはなかった
興奮が身を包む。

 『男の人から抱かれた!』
 カレンの体はもう完全な子供ではない。だから恥ずかしかった
のだ。心ひそかに興奮するカレンだが、もちろんそんな事は顔に
ださない。

 降り立った場所には青空と緑と新鮮な空気があったからカレン
にとってもそこは決して不快な場所ではなかった。

 「(わたし、ここで暮らすのね)」
 カレンは遠くアルプスの山々を見ながらあらためて自分が新た
なステージに立ったことを実感するのだった。

 と、それはともかく、ここはこんな田舎の駅なのだから、当然、
駅前にバスやタクシーなんて気の利いたものはない。
 先生たちは、駅前の農家に馬車を出してもらうと、それを足代
わりにして家路に着いていたのである。

 「馬車は初めてかい。お尻が痛いだろう?先生はドのつくほど
のケチんぼだから、お金はあるのに自分で車を買おうとはしない
んだ」
 ラルフの気遣いにカレンが笑う。
 「大丈夫です」
 カレンも慣れたのだろう。サー・アランの屋敷を出た時に比べ
れば、よく笑うようになっていた。

 しかし、ラルフの言葉に先生は不満そうだ。

 「ラルフ、何度言ったら分かるんですか、私はケチで車を買わ
ないのではありません。あの排気ガスの匂いがいやなだけです。
カレン、あなただって、ああした石油ガスの匂いは嫌でしょう?」

 「ええ」

 「ほれ、ごらんなさい。誰だってあんな匂いは嗅ぎたくないの
ですよ」

 得意げに先生が胸を張ると、ラルフが……

 「そうですかねえ。私は子供の頃、車が来ると喜んであの匂い
を嗅ぎに行ってましたけどね。……なんて言うか……そう、文明
の香りでしたよ。あれは……」

 「馬鹿馬鹿しい、よほど野蛮な町で育ったんですね。あなたは
……カレン、これから行くカレニア山荘はそれはそれは美しい所
ですよ。あなただって、きっと気に入るはずです。……四季折々
の草花に囲まれ、澄んだ湧き水にボート遊びもできます……おう、
早いですね。もう見えてきました。若い娘さんと一緒だと、とり
わけ、時間のたつのが早く感じられます。……???」

 ブラウン先生はそこまで饒舌に語りかけていたいたが、ふと、
窓の外に何かを発見したようだった。

 「あっ、すみません。ここで止めてください」

 先生は馬車をいったん止めさせると、にやりと笑って、馬車を
降り……

 「あなたたち先に行って待っててください。私もすぐに山荘へ
戻りますから」

 そう言い残して、今はツユクサの花が咲き乱れる草原へと歩み
出したのである。

 「どうかなさったんですか?」

 心配そうにカレンが尋ねると……
 ラルフは……

 「いえね、子どもたちがお仕置きされてるのを見つけたんで、
助けに行ったんですよ。とにかく子供の好きな人だから……」

 「……」

 カレンは先生が行こうとしている方向に目を凝らす。

 と、確かにそこには、生い茂る夏草に隠れるようにして二人の
幼い女の子が見て取れた。

 ただ、ラルフが言うように二人がお仕置きされているのなら、
大人の姿が見えないのが不自然だし、だいいち、遠目からにしろ
二人の少女が泣き叫んでいるという様子もなかったのである。

 「私たちも行ってみますか?」

 悪戯っぽい顔をしたラルフの誘いに、

 「いいんですか?山荘で待ってなくても……」

 と尋ねると、意外な答えが返ってくる。

 「かまいませんよ。どうせ、あの子たちも先生にとっては自分
の子供のようなものなんですから……」

 「子供のような?……」

 いぶかしがるカレンにラルフは説明する。

 「先生は里子を7人ほど育ててるんです。あれはその中の二人
なんですよ。…さあ、僕たちも行ってみましょう。ここからなら、
山荘へも歩いてそんなに遠くありませんから……」

 ラルフは御者に荷物を山荘へ運び込んでくれるように頼むと、
四百メートルほど行った先からカレンと一緒に先生のあとを追う。

 一方、先生の方は、一足先に目的地に着いていた。

****************************

 「やあ、二人とも元気だったかい」

 そこは広い草原の真ん中。色とりどりの草花に囲まれて女の子
が二人、先生を迎えてくれたのである。

 「先生、おかえりなさい」
 「おじちゃま、お帰りなさい」

 一人は6歳くらいで草原に両足を投げ出して座り、もう一人は
少しだけお姉さんで10歳くらいか、柵の間に首と両手を乗っけ
たようにして立っている。

 二人とも今すぐにでも先生に抱きつきたかったのかもしれない
が、それはかなわなかった。

 「おや、パティー、お昼ご飯は食べたかい?」

 「食べたよ。お昼ご飯のあとで、ベスおばちゃんがここへ連れ
て来たの」

 「おいた、したのかい?」

 「わからないけど、そうみたい。とっても怒ってたから」

 「そう、恐かったねえ。(∩.∩)でも、もう大丈夫だよ。
おじいちゃんが外してあげるからね」

 先生はパティーの前では終始笑顔で、彼女の頭をなで、おでこ
やほっぺを擦りあわせてはあやしている。そして、彼女の両足を
挟んでいた厚い板の掛け金を外してやると、自由になったお祝い
にと飛びついてくる彼女の暖かい抱擁を受けることになった。

 「わあ、ありがとう、ありがとう」

 ブラウン先生はパティーから首っ玉にしがみつかれて少々困惑
気味だったが、その顔は満面の笑みのままである。

 「わあ、寂しかったねえ。……でも、もう大丈夫だよ」

 先生は、じゃれつくパティーがこうして欲しいのだと悟って、
彼女のお尻をすくい上げると、肩の上へ。

 「(はははは)高いだろう。パティーは高いところが大好きだ
もんな」
 「うん」

 そして、その姿のまま、今度はキャシーの元へと向かうのだ。

 「やあキャシー、元気かい?君もこう毎日毎日同じ風景ばかり
じゃ、見飽きるでしょう?こいつもたまには角度を変えてやった
方がいいかもしれませんね。どうせ、明日もまた使うことになる
でしょうから……」

 先生が皮肉を込めて『こいつも』と言って叩いたのはピンクや
モスグリーンやライトブルーなんかで塗り分けられたぶ厚い板。
色だけはカラフルだが、こちらはパティーのとは違い、立ったま
まの姿勢で首と両手首を両方いっぺんに厚い板に挟まれていた。

 これはピロリー(pillory)と言って、その昔、破廉恥な罪を犯し
た者をさらし者にしておく為の枷。もちろん中世の頃のものでは
なく、先生が新たに挟む部分にクッション材をいれたりして考案、
新たに建具職人に作らせたものだった。
 
 つまり、地面に座っていられるパティーに比べて、立たされた
ままのキャシーの方がお仕置きとしても重いものだったのである。

 「ところで、キャシー。この間は森の入口でブナの木の妖精を
やってたみたいだけど、今日はこちらの草原で何をしてるのかな。
今回はモンシロチョウの妖精にでもなったのかい?」

 先生の言うブナの木は、森の入口にあって、ここにも同じ様な
枷が設置してあった。キャシーは、昨日まで、そこの住人だった
のである。

 彼女、そこに繋がれた時に……

 「わたし、ブナの木の妖精になったの」

 なんて、先生に強がりを言ったもんだから、先生がからかった
のだった。

 しかし、パティーもそうだが、このキャシーも、先生の登場に
笑っている。こちらは何だか苦笑いだが、二人には悲壮感はまる
でなかった。むしろ先生が現れて、二人は『助かった』と思って
いたのだ。

 実際、先生は子供たちの期待を裏切らなかった。

 「ほら、クマさんが寂しがってるよ」

 先生は、キャシーにまとわりつく窮屈な首輪をはずしてやる為、
まずは、パティーを地面に下ろし、転がってしまったパティーの
クマのぬいぐるみを抱かせる。
 パティーに、もう抱っこから降りなさいというわけだ。

 「さあ、今度はお姉ちゃんのお仕置きを解いてあげようね」

 点数稼ぎというわけでもないだろうが、先生は、幼い子供たち
にとても優しかった。
 ただ、キャシーについて言うと、彼女の場合は無条件で自由の
身になったわけではなかったのである。

 そんなブラウン先生がキャシーの枷を外そうとした瞬間だった、
後を追ってきた二人が先生の前に登場する。

 「おや、お二人さん?馬車を降りたんですか?そのまま乗って
行けばよかったのに。ここは露草で足元が濡れますよ。……ま、
いいでしょう。ここから自宅まではそう遠くありませんから」

 先生は例によって小首を傾げて微笑を浮かべる。

 その笑顔の向こう側を覗き込むようにして、ラルフが止まり木
の住人をを発見する。

 「おやおや、キャシー。また君かい!まだ小さいのに悪戯だけ
は一人前なんだから……今日は何をやらかしたんだ!……あまり
目に余るようだとまた孤児院へ返されちゃうぞ!」

 少し嘲笑気味にラルフが叫ぶと、先生はむしろラルフを諌めた。

 「ま、そう怒りなさんな。この子にはまだ自分のしている事が
どれほどの悪事か分かっていないのです。何にせよ、子供は元気
なのが一番です。こんな所に縛ってしまうと、せっかく神様から
戴いた無限の可能性がしぼんでしまいます。特に女の子は独りに
しておいていいことはあまりありません。常にみんなのいる所で、
たっぷりと、可愛がってあげないとね……」

 先生はそう言って、あらためてキャシーの枷もはずしてはくれ
たのだが……

 「……こんな所に見張りもおかず孤独にしておくくらいなら…」

 「あっ、だめえ~」

 キャシーは事態の急変を悟って、慌てて叫んだものの、手遅れ
だった。

 先生は大柄な人ではないものの、10歳の少女くらいならどう
にでもなろうというもの。
 先生はキャシーの身体をいったん軽々と空中に放り投げてから
キャッチ。手頃な石の上に腰を下ろして……

 「いやあ~ん、ごめんなさい…だめえ~やめてえ~(パン!)」

 可愛いお尻を叩き始める。

 「いやあん、恥ずかしいから……」

 こんなに小さい子だから、そんなのは当然とばかりにショーツ
も剥ぎ取られてしまった。

 お嬢様の時は時間を掛けるので最初は軽くだったが、今度は、
最初から一つ一つ力を込めて叩き始める。

 「キャシー、私が何も知らないと思ってるんですか!(パン!!)」

 「いやあ、ごめんなさ~い」

 「あなたの悪い癖は、何かというと人をそそのかして悪戯する
ことです。妹たちがお仕置きされてるのが、そんなにおもしろい
ですか!それはあなた自身が直接やるよりいけないことですよ!
(パン!!)」

 「いやあ、痛い、痛い、もうやめてえ~」

 「やめて~じゃないでしょう!どうせ今度も、パティーをかど
わかしたんでしょう(パン!!)」

 「だめえ~~痛いの嫌い!(>_<)」

 「誰だって痛いのは嫌いです!(パン!!)」

 「いゆあ~~やめてえ~~(>_<)ゞ」

 「やめて~じゃないの!『わかりましたか』って、聞いてるん
ですよ!(パン!!)」

 「いやあん、わかりました。もうしませ~ん(/_;)」

 「本当に?(パン!!)」

 「ほんとう!やめて~だから、やめて~(>_<)ゞ」

 「本当?嘘じゃない?(パン!!)」

 「あ~~~ん、うそじゃないから~~~(T.T)」

 「信用できませんね(パン!!)」

 「ほんとに、ほんと、本当だから(>_<)」

 「今度、嘘ついたら、ローソクのお仕置きですからね(パン!!)」

 「いやあ~ん、だめえ~~、ローソクはだめえ~~(T_T)」

 「だめえ~って、仕方がないでしょう。キャシーがいい子なら、
こんなことにはならないんですから。そんなに嫌なら、言われた
ことをよ~く覚えておきなさい(パン!!)」

 「なりなます。いい子になります。約束します。本当に…約束
しますからあ~(;。;)」

 「だったら、本当に約束するね(パン!!)」

 「だから、ローソクだめえ~(>_<)」

 「本当だよ!!(パン!!)」

 「本当に約束します。いい子になります(>_<)ゞ」

 「ようし、じゃもういい」

 先生はほとんど力任せとも思えるような力で、10歳の少女の
お尻を一ダースも叩いた。

 もちろん、力任せと言っても理性を失っていたわけではないの
で手加減はしているのだが、幼い子には長い時間のお仕置きより
厳しくても短い時間の折檻が有効だというのが先生の持論だった
のである。

 先生は絹のハンカチでパティーの顔を拭うと、みんなで一緒に
手を繋いで家路につく。

 そして、もう家に着く頃には……

 「ねえ、おじちゃま、バーディーのお人形買って……」
 「この間、買ってあげたんじゃなかったかい?」
 「新しい着せ替えセットがでたのよ」
 「あ、パティーずるい。それ、私が最初に見つけたやつでしょ。
それは私が先よ」

 パティーにしろ、キャシーにしろ、つい先ほどまで自分たちが
お仕置きされていたことなんて、けろりと忘れて、先生の両足に
まとわりつくと離れなくなっていたのである。

 草原のグラスは大人の腰の高さほどもあり、二人のチビさん達
なら顔が隠れるほど。しかも、露を含んでいるから、押し分けて
通るうちにその人の服を濡らしてしまう。

 そんな露草にカレンが気を取られるうち、いきなり視界が開け、
そのお屋敷はいきなり彼女の目の前に現れたのだった。

 『山荘って……こんなに大きいんだ』

 カレニア山荘は木造のロッヂ風だが、ホテルほどもある大きな
二階建ての建物だったのである。

*******************(3)******

コメント

コメントの投稿

コメント

管理者にだけ表示を許可する

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

最新記事

カテゴリ

FC2カウンター

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR