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第3章 / §4

第三章
   カレンの旅立ち


§4

 先生の家は、確かにサー・アランの邸宅に比べれば質素だが、
大自然の中にあって敷地も充分に広く、白い外壁を取り囲むよう
に周囲は手入れの行き届いた庭が広がっている。

 一行は黄色いバラを這わせた大きな門をくぐった辺りで、丁度、
庭に水をまいていた初老の婦人に出会った。

 「あら、先生、お帰りなさい」

 「やあ、ニーナ。ただいま。出かけた時は咲いていなかったの
に、今は良い香りがします。丹精した甲斐がありましたね」

 「はい、今年は天候に恵まれたせいですか、大きくて立派な物
が多いんですよ」

 「ほら、ほら、そんなにしがみついたら重たいよ」

 「どうかなさったんですか?」

 「いえね、途中で拾いものをしたんだよ」

 先生がそう言うと、その拾いものが二つ、先生の肩にぶら下が
ろうとして飛び跳ねている。

 「あらあら、あなたたちだったの。ちょうどよかったわ。ヒギ
ンズ先生も『もうそろそろ許してあげましょう』なんておっしゃ
ってましたから……」

 ニーナにつられて二人は笑顔を見せたが、まだ先生の腰からは
離れようとしなかった。
 というのも、家の中にまだ、恐い人が残っていたから……。

 と、その時だった。その恐い人が二階のテラスから顔を出す。

 「先生、お帰りになってたんですか。ちょうどよかった二階に
上がって来てくださいな。その悪ガキ二人組も一緒に……こっち
は、もう大変なんですから……」

 結構、貫禄のあるその中年のおばさんは、先生を見つけるなり
まくし立てる。

 事の次第はどうやらこの二人が知っていそうだが、先生は例に
よって小首をかしげて微笑むだけで、あえて二人に事情を尋ねない。

 そのまま全員が二階へと上がって行くと、そこは先生が仕事を
する広い書斎。

 この件では用がないかも知れないラルフとカレンも一緒。
 一方、チビちゃん二人は、本当は別の所へ行きたいのかもしれ
ないが、こちらもおつきあいすることになった。

 「見てくださいよ。先生。先生のピアノが、ほら!」

 見ると、先生の書斎に置かれた純白のグランドピアノに、クレ
ヨンで色とりどりの装飾がなされている。

 草花やお家や太陽やパティーやキャシーや先生もいる。

 「……ほう(^_^;)」
 先生はそれに気づくなり、にっこりと笑って見せた。

 「いやあ、これはなかなか見事な芸術的な作品じゃないですか
(^◇^)パティー、あなた、なかなか絵の才能がありますよ」

 先生はそう言ってパティーの腰を掴むと目よりも高く持ち上げ
る。
 それは彼女がピアノの屋根に描いた芸術作品をもっとはっきり
見せてやろうという親心だった。

 「おじちゃま、私の絵、好き?」

 「あ~、大好きだよ。心のこもった絵は大好きだよ。だから、
しばらくこのままにしておこうね」

 先生は、おねだりが功を奏して肩の上の見晴らしをを再び手に
入れたパティーに向かってこう言うと、ベスには……

 「……というわけだから、ベス、その絵はそのままでいいよ。
消してしまうのももったいないでしょう。あとはそのままにして
おきましょう」

 ブラウン先生はせっかく途中まで消してくれたベスの苦労より、
気まぐれで描いたパティーの絵を選んだのである。

ただ、先生のそれは誰に対しても寛容というわけではなかった。

 「ところで、このクレヨンはあなたのではないようですが……」

 「キャシーお姉ちゃんが貸してくれたの(^_^)」

 「そう、キャシーがね……親切なお姉さんでよかったですね」

 「わ、わたし知らないわよ。それはパティーが無断で……」
 いきなり振られたキャシーは青い顔になる。

 「キャシー。あなた……「これで描きなさい」ってパティーに
クレパスを渡しましたね」

 「私は……」

 「あまり見苦しいまねをしてると、またお尻が痛くなりますよ」

 先生にこう言われるとキャシーは今だ悪夢の残像が残るお尻を
確かめながら口をつぐんだ。

 すると、代わりにラルフが口を開く。

 「でも、先生。現場も見ていないのにどうしてわかるんですか?」

 「はははは(^◇^)」先生は高笑いをしてパティーを膝に下ろす
と、そのままピアノの前に座った。

 すると、まるで条件反射のようにパティーがピアノを叩き始め、
稚拙な音だがバイエルの一曲が聞こえ始める。

 「ラルフ、私はこう見えてもこの子たちの親ですよ。その親が
娘の考えていることぐらい分からなくてどうしますか。親を長く
やっているとね。子どもが今やっていること、感じていること、
それこそ何でもわかるようになるんです」

 先生は大きなピアノに向かって小さな指が奏でるメロディーに
満足そうだった。

 「どうしてです?そんなことが出来たら超能力者ですよ」

 「ええ、そうですよ。親は子どものことでは超能力者ですよ。
そんな事、そんなに不思議なことですか?」

 「どうして?」

 「愚問ですねえ。愛しているからに決まってるじゃありません
か。親だからじゃありません。愛しているから分かるんです」

 「愛している?」

 「そう、私が子どもたちを愛しているからです。あなたも私も
同じ屋根の下にいてこの子たちと過ごす時間は同じようなもので
しょう。……でも、私にはこの子を育てなければならないという
責任がありますから。今、この子たちが何をしているかをいつも
注意深く観察しています。すると、そのうち、この子たちが、今、
何を考えているか、おおよそ判断がつくようになるんですよ」

 「そういうもんですかね……」

 「そういうものです。さっきも、事実は、この二人が草原の枷
に一緒に繋がれていたというだけでしたが、私は、馬車の中で、
この事態をおおむね想像していましたから、どうしようかあれこ
れ考えながら二人の方へ歩いていったんです」

 「またまた……」
 ラルフはそんなことあり得ないと言わんばかりに嘲笑する。
 しかし、先生は大まじめだった。

 「あなたも、子供をもってその子を愛してみればわかります。
その子の顔色を見ただけで、たいていの腹の内は読めますから。
…愛する子供との間には言葉以上に必要なものがあるんですよ」

 「それって、何ですか?」

 「信頼関係です。言葉では言い表せない信用。これがなくなっ
たら親は子供をぶたなくなります。ぶてば虐待にしかなりません
からね。そして、愛され続けた子どもの方でも、そんな親の変化
をちゃんと感じ取って修正できるんです。これが親子の信頼関係。
お仕置きって、外から見ると野蛮な行為に見えますがね、これは
これで立派なスキンシップなんですよ」

 先生は、ラルフに向かって得意げに講釈していたが、キャシー
が部屋から逃げ出そうとするのを見つけると、慌てて呼び止める。

 「キャシー、あなたへのお話はまだすんでいませんよ」(`ヘ´)

 「お・は・な・しって……私は別に……ヾ(^_^)BYE」

 「別に?ですか?…『私はパティーにクレヨンを貸しただけ、
ピアノにお絵かきはしていません』とでも言うつもりですか?」
(`_´)

 「…(^_^;)…」

 「あなたがもっと幼くて、お馬鹿さんならそれも良いでしょう。
でも、あなたはもう10歳にもなってるし、何より、あなたは、
とっても賢い子なんです。そんな言い訳はしてほしくありません
ね」( -_-)

 「……(^_^;)……」

 先生はしばしキャシーの反応を待っていたが、応答がないみた
いなので、こう言わざるを得なくなった。

 「ごめんなさいが言えないみたいですね。どうやら、あなたは
自分でやってないから、私は悪くないと居直ってるのかもしれま
せんね。でも、幼い子をそそのかして罪に陥れるなんてことは、
ここでは許されないと何度も教えたはずですよ。忘れましたか?」

 「……ごめんなさい」
 キャシーの口からやっとゴメンナサイが出たが、ブラウン先生
は許さなかった。

 「しかも、あなたの場合は、単に自分で手を汚さないだけでは
なく、幼い妹たちがこの件でお仕置きでもされようものなら、隣
の部屋からその悲鳴を聞いては楽しんでいる。まったくもって、
悪趣味もいいところです」
σ(`´メ∂

 「……(-。-;)…………」

 「私はあなたのそんなところが嫌いなんです。そもそも、もし、
本当に自分が悪くないと思ってたら、あの枷の前で震えてたのは
なぜですか?叱られるような悪いことをしたと思っているからで
しょう」

 「……(-。-;)…………」

 「あなたは頭がよくて度胸もあるけど、人に対する思いやりは
欠けていますね。今日は、あそこへ行って座っていなさい。よい
と言うまでは降りてはいけませんよ」凸(ーーメ

 先生は、部屋の隅にしつらえられた小さな舞台に、これまた、
ちょこんと乗った木馬を指さす。それは幼児用の木馬を少しだけ
大きくしたようなもので、跨るとロッキングチェアのように前後
に揺れる。

 遊具のようなものだから、そこへ跨っても痛くもかゆくもない
はずなのだが、キャシーはなかなかその木馬に乗ろうとしなかった。

 「どうしました?恥ずかしいですか?私との約束ですよ。今度、
同じようなことをしたら、お馬に乗りますって約束したでしょう」

 ブラウン先生が少し強い調子で迫ると、キャシーの顔は今にも
泣きそうになった。

 「…………」

 というのも、この木馬へはショーツを脱いで乗らなければなら
ない約束になっていたからで、たとえ10歳の子供でも、それは
とてつもなく恥ずかしかったのだ。

 しかも、先生はこうした事には厳格で、同じ罰を14歳の子供
にさえ与えることがあった。

 「あなたはこうしたことが癖になってしまって、罪悪感が希薄
なのです。でも、それは直さなければなりません。そのためには
恥をかくお仕置きが一番いいのです」

 もちろん、10歳のキャシーは先生の命令に逆らえない。もう、
絶体絶命のピンチだったのである。

 「恥をかくって?」
 カレンはラルフに尋ねたが、答えたのはブラウン先生だった。

 「キャシー、お約束は覚えてますね」

 「…………」
 キャシーが無言のまま、小さく頷く。

 「分かっているならそうしなさい。お約束ですよ。ショーツは
脱いでお馬にまたがるんです。まごまごしてると夕食の時だって
下はすっぽんぽんです。それでもいいんですか?」(-_-メ)

 先生の怒りにラルフからは……
 「あ~あ、可哀想に……キャシーもいい加減に悟ればいいのに
……」

 パティーも不安そうに抱かれた先生の顔を見上げる。

 「お姉ちゃん、お仕置きなの?」
しかし、返ってきたのは小さな頷きだけだった。

 ここへ来て周囲はキャシーに同情的になったが、先生は譲らな
かったのである。

 「私は血も涙もない冷血人間ではありません。でも、しつけは
必要です」

 ブラウン先生は胸を張るが……

 「でもね、先生。今日はカレンも見てるし……キャシーだって
恥ずかしいですよ」

 ラルフが助け舟をだすが……

 「君もおかしなことを言いますね。恥ずかしいおもいをさせる
からお仕置きなんですよ。だいいち、ここは村の四辻ではありま
せん。ここには家族しかいないじゃありませんか。カレンだって
今日からはここの家族なんですよ」

 ブラウン先生は頑固だった。
 彼は、子供の悪戯やケンカ、しくじりといったことにはとても
寛容だったが、嘘をついたり人を陥れるようなことには対しては
厳格な人だったのである。

 「カレン、あなただってまだ子どもの年齢ですからね。これは
無縁ではありませんよ」

 先生はそう言い残して木馬の処へやってくると……

 「……!……」

 自らキャシーのショーツを引き落とし、短いスカートのすそを
腰の辺りまで跳ね上げてピンで留めてしまう。

 それが女の子にとってどんなに辛いか……。
 でも、ここではそれに逆らうことは誰もできなかったのである。

 「怖いかい?」
 ラルフがカレンの耳元でささやく。

「!」
 その声でカレンはハッと我に返った。

 今まで優しい人だとばかり思っていたブラウン先生の憤慨に、
少女の身体は、その瞬間まで固まっていたのである。

 すると、そんなカレンに向かってラルフが続ける。
 「先生って、モラルにはとても厳しい人なんだ。……何しろ、
わざわざ自費で小学校までは建てるような人だからね……」

 「小学校?」

 思わずカレンも口をついて言葉が出る。
 それに気づいてラルフの声はさらに小さくなった。

 「そう、ここは人里離れた場所にあるからね。孤児院から子供
を預かるだけじゃなく、小中学校まで作っちゃったんだ。おかげ
でみんな噂してるよ」

 「噂って……どんな……」

 「先生も、お歳だろう。もう、あっちの方が役に立たないもん
だから、子供で間に合わせてるんじゃないかって……」

 「あっちの方?」

 カレンがぼそっとつぶやく。彼女はまだ幼く、『あっちの方』
と言われても、それが何を指すものか、すぐにはピンとこなかっ
たのである。

 一方、その声を聞きつけた先生の方はヴォルテージはあがる。

 「ラルフ、聞こえてますよ。聞き捨てなりませんね。誰が青髭
ですか!」

 「誰もそんなこと言ってませんよ」

 「言ったじゃないですか、私が、さも子どもたちを自分の慰め
ものとする為に育てているようなことを……」

 「ですから、……噂ですよ。せ・け・ん・の・う・わ・さ……
まったく、年寄りはひがみっぽいんだから……」

 「あなたもそんな風に思ってるんじゃないですか?」

 「思ってませんよ!」

 「でも、小学校まで建てるなんて……凄いんですね」
 カレンが素直に驚くと、先生は少しご機嫌がよくなり、背広の
両襟を両手でぴんと伸ばしてやや反り返ると、例の得意げな笑顔
になって……

 「ありがとう、カレン。私に変な野心なんてありませんよ。ただ、
せっかく育てているのですから、子どもたちには私の望むように
育っていって欲しいのです。……男の子は男の子らしく、誠実で
勇気があって……女の子は女の子らしく、淑やかに、清楚に…」

 「(^_^;」

 「おかしいですか。…かもしれませんね。でも、私は、今様の
『自分でお金を稼いで成功することこそ女の子の幸せだ』などと
いう考えにはなじめないのです。それを野心というなら、そうで
しょうが……それに……この国では、小学校の認可は極めて下り
やすいのです。四五人の生徒とそれにふさわしい先生がいれば、
いつでも始められますからね。だから、この国の自由な教育制度
には感謝しているんですよ」

 先生はキャシーの木馬から戻ると、膝に抱いたパティーの為に
子守歌を弾いている。
 そのせいでもあるまいが、パティーは先生の胸の中ですぐに
寝てしまった。

 「あ~あ、この子、先生の膝で寝てしまって…ほら、パティー、
だめよ、先生のお膝で寝ちゃ」

 ベスが揺り起こそうとするのを先生が遮る。

 「あっ大丈夫。私がベッドに運びましょう。きっと、草むらに
繋がれていたんで、疲れたんでしょう。少しだけ昼寝をすれば、
また元気になりますよ」

 「キャシーもお昼寝させましょうか?」
 ベスがそっと助け舟を出すが……

 「いえ、あの子は夕食まであのままにしておいてください。もし、
その前にあそこを離れるようなら私に言いつけてください。もっと
目の覚めるようなお仕置きをしますから……今度の日曜日あたりは
特別な反省会を開いても、良いかもしれませんね」

 ブラウン先生の言葉は当然キャシーにも届いている。

 「…………」

 その瞬間は、まだ何か言いたげだったが……

 先生の鋭い眼光が、お尻りを丸出しにして木馬に跨るキャシー
の落ち着きのない瞳を射抜いてしまうと……

 「…………」

 そこはまだ子供のこと、少女はもう何も言えなくなって、ただ
ただ下を向いて耐えるしかなかったのである。

 「ベス、では頼みますよ」

 先生はパティーを抱きかかえると、部屋を出る。
 そして、ラルフには、カレンを連れて家の中を案内するように
命じたのである。

********************(4)*****

ギリンガムの水車場(コンスタブル)
ギリンガムの水車場(コンスタブル)

*************<第三章はここまでです>***

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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