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第4章 / §2

第 4 章
  子供たちのおしおき


§2

 ラルフはその公園の隅でうごめく古びた麦わら帽子を見つける。

 「……やあ、ダニー」

 麦わら帽子がこちらを向くと、彼は、滑り台のはげたペンキを
塗り替えているところだった。

 「やあ、ラルフ。今日は可愛らしい恋人を連れてるじゃないか。
お前さんにしては上出来だよ」

 老人は、赤ら顔に刻まれた深い皺を波打たせて機嫌よさそうに
挨拶する。

 「僕のお客じゃないよ。先生が連れてきた新しい家族なんだ。
まだ16歳だけど、先生は寝間でこの子にピアノを弾かせたいら
しいぜ」

 「なんだ、あんた、ピアニストかい。でも、そりゃあいいかも
しれんな。グラハムはいい人だったけど。爺さんだったからな。
先生も、やはりこんな綺麗な娘(こ)の方がいいんじゃろう」

 好々爺の皺が笑う。

 「カレン、さっき草原でパティーとキャシーが枷に繋がれてた
のを見ただろう。あのピロリーもこのダニー爺さんが作ったんだ。
家の修理だけじゃなくて、こんな子どもたちが遊ぶ遊具もみんな
大工仕事はダニーのおかげさ」

 ラルフが褒めるとダニーは照れくさそうに笑ってから、
 「あの二人はには、お許しがでたのかい?」

 「ああ、ぼく達が馬車での帰り道に通りかかってね。先生が、
外してやったよ。……もっとも、キャシーの方は、その後また、
コレだけどね」

 ラルフは、右手にスナップをきかせて胸の前で振ってみせる。
 まるでオートバイのアクセルをふかしているようなポーズだが、
これで木馬の持ち手を握ってるさまを表しているのだ。

 ダニーにしても、もうそれだけで何のお仕置きかが分かるよう
で……

 「あいつ、また、跨ってるんだ?」

 「仕方ないよ。例によってキャシーがたきつけたみたいだから
……先生、おかんむりなんだ」

 「やっぱりそうか。性悪で困ったもんだ。何かというと友達を
引っ張り込みやがる。先生があれほど嫌ってるっちゅうのに…」

 「幼いときからの性癖だからね、そう簡単には治らないよ」

 「『三つ子の魂百までも』っていうじゃろ、あれじゃな。……
でも、先生はよく辛抱してなさる。根競べじゃな」

 ダニーの言葉にラルフが反論する。

 「ただね、先生も、本当はあの子が好きなんじゃないかなあ。
頭もいいし明るい子だからね。あの性癖だって、もとを正せば、
幼い頃の虐待が原因なんだろうし、それは先生も承知してますよ。
それに何よりキャシーって、あんなに色々お仕置きされてても、
いつもけろっとしてるじゃないですか。やっぱり孤児院よりここ
の方が住み安いんですよ」

 「そりゃあそうだろうよ。孤児院って処は、ただ子供を飼って
おくだけの施設じゃからな。お仕置きにしても、めしにしても、
こことは月とすっぽんじゃもん」

 「孤児院でも、お仕置きってあるんですか?」
 カレンが口を挟んだ。

 「えっ!?……もちろん、ある、なんてもんじゃないさ」
 ラルフが一瞬戸惑い、やがて笑って答えると、その後をダニー
が付け足す。

 「…ああいう処はね、お譲ちゃん。大勢の子どもたちが少ない
職員と一緒に暮らしとるんじゃ。体罰もなしに秩序を維持しよう
なんて土台無理な相談なんじゃ。……そう言や、あんた……」

 ダニー爺さんはそこまで言うと、カレンを下から上へ舐めるよ
うに見上げてから。

 「見るからにお嬢様らしい素振りじゃね。……だったら孤児院
なんか見たことないじゃろうけど……あそこへ行くとな、こんな
小さな子にだって鞭をつかうんだよ。ここでのお仕置きなんか、
可愛いもんさね」

 ダニーはしゃがんだ自分の頭の高さぐらいに手を置く。
 それほどまでに小さな子にも鞭を使うと言いたかったのだ。

 「…………」

 一方カレンは、お嬢様と言われて思わずはにかんだ。もちろん、
お世辞だろうが、そんな事を面と向かって言われたのは、これが
初めての経験だったのだ。

 「キャシーにしてみりゃあ、先生のスパンキングなんて、昔の
虐待に比べれば軽いもんだろうし……むしろ、心の奥底では……
先生のお仕置きを望んでるんじゃないかって、思うんですよ」

 ラルフがキャシーをやぶ睨みにして解説すると、ダニーもそれ
に続く。

 「あんたもそう思うかね。わしもそうなんじゃ。……あの子に
とって、ここでのお仕置きは、罰ということ以上に先生との絆に
なっとるじゃないかってね」

 「きずな?……まさか……だって、お仕置きって、嫌なことで
しょう?」
 ダニーのため息混じりの言葉にカレンは素直に驚く。

 「(ふふふ)お嬢様には、分からないことさ」

 嘲笑するように言われて、カレンはむきになった。
 「わたし、お嬢様なんかじゃ」

 「わかってるさ。君がお嬢様でないことぐらい。でも、キャシ
ーの気持は分からないだろう?」

 ラルフに言われて、その一瞬、カレンの心臓が止まった。

 「えっ?」

 「あの子、元々はね、もの凄く寂しがり屋さんなんだよ。……
だから、本当は誰からも『良い子、良い子』してもらいたいんだ。
だけど、これだけライバルが多いと、先生の愛を自分一人が独占
なんてできないから、そこで、わざと悪さを仕掛けては先生から
お仕置きをもらってるってわけ」

 「だって、お仕置きって辛いことでしょう?」

 「そりゃあ、お仕置きなんて、痛いし恥ずかしいかもしれない
けど、こちらは『良い子、良い子』と違って、やらかせば、必ず
かまってくれるじゃないか。彼女にしたらそっちの方が大事なん
だよ」

 「そんなの嘘よ。女の子がそんな馬鹿なことするはずないわ」

 カレンはむきになって反論したが……大人たちは同意見だった
とみえて顔を見合わせて笑う。

 「あの子が、ほかの子のお仕置きを見たがるのも『ざまあみろ』
って思いの他に、自分もそこでやられてる気分になって、一緒に
楽しんどるんじゃ」

 ダニーの言葉はカレンの心に深く突き刺さった。

 「まさか、そんなこと。自分から罰を受けたいだなんて……」

 カレンの声は最初大きかったが、尻すぼみで小さくなる。
 というのも、さっきから、ある疑念が自分の心の奥底から突き
あがってきて、それを振り払いきれないでいたからだった。

 「(そんなことって……)」
 彼女は言ってるそばから自信がなくなってしまったのである。

 ダニーが続ける。

 「先生も手ぬるい事しとるから、あいつが付け上がるんじゃ。
その腐った性根を治すためにも、ここらでもっとガツンとやって
やらなきゃ、あの子のためにもならんよ」

 「それについては、先生が、この日曜日にでも特別反省会を…
なんておっしゃってたよ。本当にやるかどうかは分からないけど
ね」

 「ほう、そりゃあ耳よりじゃな。その時は、お弁当でも持って
見物に行かんとな……(はははははは)」
 ダニーは屈託なく笑い飛ばした。

 「……ところで、今日のお仕置きは誰がやったの?」

 「シーハン先生さ。……最初、しこたま尻を叩かれたあとに、
石炭部屋の隅に膝まづかされて、『今日は、お漏らしするまでは
許しません』なんてどやしつけたられたもんだから、やっこさん
たち、最初は二人して赤ん坊みたいにギャーギャー泣いとったん
だが……」

 「どうせ、最初だけでしょう」

 「そのうち静かになったもんで、気になって見に行ったんだ。
まだ泣いとったら、シーハン先生には内緒で、二人をわしの部屋
にかくまってやろうかと思ってな……」

 「で?、どうでした?」

 「泣きながら懺悔してるのかと思ったら、すでに、こそこそと
おしゃべりを始めてとって、井戸端会議の真っ最中じゃったよ。
……『お前ら、また、叱られるぞ!』って注意したら、今度は、
二人してげらげら笑い転げる始末でな………こっちも頭にきて、
二人の尻を二つ三つはり倒してから、『お前ら、まじめに懺悔の
お祈りをしろ』って言ってやったんだが……その大声が先生にも
聞こえちまって……」

 「そうか、それであの二人、外の枷に繋がれたってわけか……
なるほどね、あいつら、らしいや」

 ラルフは苦笑する。
 彼にしてみれば、その時の様子が手に取るように分かるらしく、
思わず、したり顔になったのだった。

 「まったく女の子ってのは、何をされてもすぐに泣くくせに、
慣れるのも早いもんだから、お仕置きする方も往生するよ。……
そもそも女の子にお仕置きなんかやって効果があるのかね?」

 「(はははは)ダニーもあの子たちには、相当に手を焼いてる
みたいだね」
 ラルフは明るく笑う。どうやらダニー爺さんの言葉は自分にも
納得できる意見だと思ったようだった。

 「いやね、シーハン先生には、お仕置きのあと、あそこを時々
見回るように頼まれてはいたんだ。殊勝な態度ならわしが許して
やってもよかったんだよ」

 「なるほど、目算が外れたというわけか。…………ところで、
ダニー、今日はもう他に可哀想な子はいないのかい?」

 「あ~、そう言えば、アンがコールドウェル先生にとっつかま
ってたっけ……今頃、中庭じゃないかな」

 「アンかあ……じゃあ次は、そこへでも行ってみるかな」

 ラルフがこう言うと、久しぶりにカレンが口を挟む。
 「アンさんて、小学校の何年生ですか?」

 「小学生じゃないよ。あの子14歳だったかな。今ここにいる
里子の中では一番のお姉さんさ」

 「そうですか……じゃあ、もうお尻叩きからは卒業ですね」

 カレンが何気に言うと、ダニーが笑って……

 「世間では、お嬢様にそんなにキツイお仕置きは似合わんのか
もしれんけど、うちに来たらそうはいかんよ。うちは年齢に関係
なく娘っ子のお仕置きはお尻叩きと決まっとるからね。あんまり
羽目を外しすぎると、おまえさんだって、ガツンとやられるよ」

 ダニーの忠告はカレンのほっぺをふたたび赤く染める。

 「じいさん、最初からそんなこと言って脅かしたら、この子、
逃げちゃうよ」
 ラルフはなだめたが……

 「だめだめ、そんなこと言っとるから、おまえさんは女に縁が
ないんじゃ。女なんてものはな。最初が肝心なんじゃぞ。最初に
厳しいことをびしっと言っておかないと、あいつら、すぐに他人
に甘えようとするし、他人をなめちまってわがままで高慢になる
しな」

 「わかった、わかった、気をつけるよ」

 そのダニーの忠告をお土産に二人は老人のもとを離れる。
 カレンとラルフはまた二人だけの時間を持つことになった。

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絵本(ソフィー・アンダーソン)
絵本(ソフィー・アンダーソン)
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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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