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第4章 / §3

第4章
  子供たちのおしおき


§3

 「ラルフさん。わたし…お仕置きを望む子なんているわけない
と思うの……キャシーだってきっと後悔してると思うし、それが
できないのは彼女の意志が弱いから……まだ、あの子は子供なん
だし……」

 カレンは珍しく雄弁だった。ダニーやラルフの言葉が彼女には
しっくりいかなかったのだ。
 しかし……

 「君には不思議なことかもしれないど、僕にもキャシーの気持
って、わかる気がするんだ」

 「えっ?」

 「僕も親父には虐待されて育った口だから、キャシーの気持が
分かるんだよ。僕だって表向きは誰に対しても『お仕置きなんて
絶対いやだ。そんなことやるべきじゃない』って思ってる。……
思ってるけど……」

 「…………思ってる…けど?何なの?」
 ラルフの葛藤はカレンには疑問だった。

 これまで心地よいことをして、心地よくないことは避けるのが
人間の当たり前だと単純に思い込んでる少女に向かって、それを
どう伝えたものか、ラルフも言葉が詰まったのだ。

 「心のどっかで『開けろ』『開けろ』って声が聞こえるんだよ」

 「あ・け・ろ?」

 「そう、みんなが『開けちゃいけない』って叫んでいる壺を。
どうしても開けたくて仕方がないくなるんだ。それを開けても、
良いことなんか何もないのは分かってるのに……悪いことばかり
起こるって知っているのに、どうしようもなくそうしたくなるん
だ」

 「それ、きっと病気です。悪い病気です」
 カレンは決然として言い放つ。

 「かもしれない。でも、これってみんなが持ってるような気も
するんだよ」

 「私は、……そんな気持…持ってませんから」
 逃げるようにして言い放つカレンの顔に、ラルフは自分の言葉
の真実を悟る。そして悟ったあとは、それまでとは違う穏やかな
表情になるのだった。

 「僕が大きくなって、父の折檻から逃れられたと気づいた時は、
正直『これからの俺の人生はバラ色だ!』と思ったものさ。でも、
そんな考え、長くは続かなかった。……そうじゃなかったんだ。
それが証拠に、お仕置きはなくなっても、ちっとも人生がバラ色
には輝かないんだ」

 「どうしてですか?」

 「本当は、お仕置きのない暮らしは逆にとっても不安なんだよ。
……自分の存在が否定されちゃったみたいで……親の愛がなくな
っちゃったみたいで……だから、僕の心は、お仕置きを心配しな
くていい歳なのに、いつもお仕置きをされたくないって気持と、
お仕置きされたいって気持が同居してせめぎあってるんだ」

 「……そんなバカなこと」
 カレンは小さな声で独り言を言った。
 でも、ラルフはそれを拾い上げる。

 「バカなことだってことは僕だって百も承知さ。でも、これは
損得なんかじゃないんだ。どうにもならないことなんだ。君は、
そんな気持ちになったことが本当にないの?」

 「……」
 カレンは口ごもった。

 『私は、お仕置きされたいだなんて、そんな馬鹿な事を思った
ことなんて一度も……』
 そう思いながらも、カレンは何かが心にひっかかっているのに
気づく。

 『でも、何だろう?この心のざわめきは……』
 そう思い始めた頃、またラルフが口を開いた。

 「君はこれまで幸せな人生だったんだね。お父さんが行方不明
だっていうのに、周囲の人たちから大事にされたんだろうなあ。
僕からみればうらやましいよ。……先生に言わせるとね、幼い時
につけられた心の傷は、生涯、治らないんだそうだ。……あとは
それと、どうやって付き合っていくか、だけなんだって………」

 「ブラウン先生はお医者様もなさってるんですか?それとも、
学校の先生とか?」

 「違う違う。大学の先生もアルバイトでやってるけど小さい子
を学校で教えたことなんてないよ。ただ20年以上も孤児の面倒
をみてるだろう。自分なりのポリシー(哲学)はあるみたいなんだ」

 「ポリシー?」

 「キャシーの場合で言うと、虐待にならない程度に力を弱めて、
当分の間はお仕置きが必要というのが先生の判断なんだ。それが、
あの子の灯台になるって……」

 「灯台?」

 「自分を見失わないための目印というか、自分が今どこにいる
かを知るコンパスとでもいうか、そんな意味なんだけど、君には
ちょっと難しいか」

 少しラルフが微笑んだのを馬鹿にされたと思ったカレンは語気
を荒げる。

 「でも、パンツも脱がせて木馬に跨らせるなんて、女の子には
虐待です」

 カレンの剣幕に、ラルフはたじろぐ。

 「おいおい、いきなり何だよ。僕にそんなこと言ったって……
僕は先生の秘書でしかないんだよ。哀れな使用人さ。その苦情は
先生に言ってくれよ」

 カレンに詰め寄られたラルフはおたおたしながら顔の前で右手
を振る。

 「えっ!」
 それに気づいたのか、カレンの頬が少しだけ赤くなった。

 「それに、パンツなんて……ここではことあるごとに脱がされ
ちゃうから、みんなもう、慣れっこじゃないかなあ」

 「ことあるごと?」

 「そう、先生は幼い子に羞恥心なんて認めてないからね。……
男の子であれ、女の子であれ、先生のご機嫌を損ねると、すぐに
パンツをとられちゃうんだ」

 「中学生みたいな子も……」

 「少しは配慮してくれるけど……お仕置きする人の前ではやっ
ぱり脱がなきゃならないことにかわりはないよ」

 「私も……」

 不安になったカレンが声を落として尋ねると……

 「たぶん、大丈夫だと思うよ。君は里子じゃないんだから……
ただ……」

 「ただ、何なの?」

 「君はまだ16歳だからね。先生にしたら、まだ子供って扱い
じゃないかと思うんだ。先生の頭の中では18歳だって子供なん
だから。ついこの間も、ここを巣立った子が間違いをしでかして
警察のご厄介になったことがあったんだけど、その時も、先生は
ここへその子を呼びつけて、ここにいた時と同じようにお仕置き
したからね」

 「その人、いくつなんですか?」

 「18歳。……先生にしたら、それでも子供なんだ」

 「そうですか……でも、まさかお仕置きされるなんて思っても
みなかったでしょうから、ショックでしょうね」

 カレンは独り言のように小さな声で呟く。その顔は何か考えて
る様子だったが、そんなカレンをラルフは再び驚かす。

 「そんなことないよ。ショックじゃないと思うよ。だって事実
を知った先生は彼女にお仕置きするからいらっしゃいって手紙を
出して、それで彼女がやってきたんだから……」

 「じゃあ、わざわざお仕置きされるために?……逃げるとか、
無視するとかすればいいのに……」

 「他人ならそうするかもしれないね。でも、巣立ったといって
も、先生は依然として彼女のお父さんだし、カレニア山荘は彼女
のお家で、ウォーヴィラン村はふるさとだもん。お仕置きされる
ならもう行かないっていう選択肢は彼女にはなかったんだと思う
よ」

 「……………………」

 「君にはわからないか。でも仕方がないよ。君はここで育った
子じゃないんだから……」

 ラルフにはこう言われてしまったが、彼女の気持はカレンにも
感じることができたのである。

 その時だった。二人の微妙な空気の中へそのピアノの音は入り
込んでくる。

********************(3)*****

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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