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5/25 母の死

 母の死

 小学四年生になる直前、母が死んでしまった。

 なんて、書いたらセンセーショナルだろうなあ。

 だけど、彼女は生きてる。今でも生きてる。八十を越えたけど。

 ただ、僕にとっての母はこの時すでに亡くなってしまっていた。

 どういうことかというと……

 実は彼女、それ以降、僕に新しい知識を授けることができなく
なってしまったのだ。

 三年生ですでに、彼女の知識は底をついたみたいで、四年生に
なると家庭教師と称する人が自宅にやって来て、あれしろ、これ
しろ、とうるさく言ってくるようになった。

 それが、僕には面白くなかったから成績が落ちた。

 だって、新しい知識や経験は、生まれて以来、ずっとお母さん
のおっぱいの中で起きていたのに、それができなくなるなんて、
僕にとっては一大事なのだ。

 つまり、僕にとっては母が死んだのも同然だったのである。

 もちろん、家庭教師のお姉さんは立派な人だし、沢山の知識も
持ってる。

 だけど、その人は僕を膝の上に抱いてくれないし、頭も撫でて
くれない。ほっぺすりすりもしないような人から、いったい何を
学ぼうというのか。

 僕は正気でそう思ってた。
 だって僕にとっての勉強は立身出世の為にやってたんじゃない。
僕を愛してくれるお母さんを喜ばせるためにやってたんだから、
得体の知れない家庭教師が喜んでもしょうがないのだ。

 そこで、こちらもしょうがなく、勉強中はお母さんが同席する
ことになったんだけど……
 やっぱり、昔ほどの効率はあがらなかった。

 そこで、さらにしょうがなく。彼女は私を昔のように膝の上に
乗せて勉強させたのである。

 家庭教師のお姉さんは驚いただろうね。四年生にもなった子が
幼児みたいにお母さんの膝に乗せられて勉強してるんだから。

 でも、それ以上に驚いたのは僕の情報処理能力だったみたいで、
次回から、勉強の内容が格段に難しくなってしまった。

 困ったものだけど、僕の生い立ちからは仕方がなかった。

 つまり、ここからは母が死んで自分で知識を求めなくてはなら
ない。『世間的には当たり前』の始まりだったのかもしれないけど、
それが僕には辛かったのである。

 思えば母は性急過ぎた。二歳でたまたまひらがなを覚えたのが
きっかけで、矢継ぎ早に知ってる知識は何でもつめこもうとした
ものだから、小3で早々手持ちの在庫がなくなっちゃったという
訳。

 何しろ、女学校ですら親の賄賂でようやく卒業できたような人
だもん。持ってる知識も経験もささやかなものだったんだ。

 さてさて、絶対的な神様がいなくなってこれからが僕の苦難の
日々だったのである。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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