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第4章 / §4

第4章
  子供たちのおしおき


§4

 「…………(先生かしら)」
 
 優しいタッチのピアノ。でも、ブラウン先生のものとは違う。

 「アンが弾いてるんだ」

 ラルフはそう言うとさりげなくカレンの肩を抱いて中庭へと
入っていく。

 そこは先生の自宅であるカレニア山荘と里子の子供たちが通う
ピノチオ小学校とを分ける庭で、この先の建物が一応校舎という
わけだが、それはあくまで便宜上の事。子供たちにしても、そこ
で働く先生たちにしても、カレニア山荘にあるすべての建物は、
彼らの自宅であり学校だった。

 「わあ~~素敵な場所ですね。まるで天国にいるみたい」
 中央の噴水に建つ白亜の天使と女神像が美しくて感激している
カレンに、ラルフは……

 「そうかい」
 としか言えなかった。彼には見慣れた風景だったのだ。

 「流れるようなメロディー。とっても上手だわ。まるで女神様
が奏でてるみたいだもの」

 「きっと、アンだよ。どっか頼りなさげに弾くからすぐわかる」

 「そんなことありませんよ。とっても繊細なんです。こんな、
柔らかな音、ピアノじゃなかなか出せませんから」

 「そうかなあ……」
 ウルフはそう言ったあと、思い出したように
 「あっ、そうだ。アンのやつコールドウェル先生からお仕置き
されるんじゃなかったっけ……」

 「えっ!、たしかダニーさんは先生に捉まったって……」

 「だからさ、捉まったって事はお仕置きされるってことなんだ。
でもピアノが聞こえてるからね、違うかもしれないな。とにかく、
行って見よう」

 「えっ、いいんですか?」

 「もちろん、かまわないさ。ほら、おいでよ……」
 ラルフはカレンの手を引いて走り出す。

 肩の関節が外れるんじゃないか、前につんのめって転ぶんじゃ
ないか、そんな勢いでカレンはラルフと一緒に走り出す。

 噴水のしぶきが心地よかった。

 「待ってよお~~」
 ラルフの衝動的な行動に翻弄されてカレンの息があがる。
 大きくて頑丈な手にがっしりと握られて、カレンの顎から上は
沸騰する。

 「(男の人に手を握られた!)」
 カレンの想いはたったそれだけ。でも、胸の鼓動は止まらない。

 「おい、アン。いるかい」

 ラルフはカレンの手を引いた勢いそのままにコテージのドアを
開けるが……

 「失礼しました」

 慌てて、またドアを閉めてしまう。
 カレンが怪訝そうな顔になると……中から再び声がした。

 「いいわよ、はいってらっしゃい」

 女性の声、大人の声だった。

 「失礼しました」

 ラルフはカレンと一緒に、今度は部屋をノックしてから丁重に
中へと入っていく。

 中にいたのはピアノに向かっていたアン・シリングとその脇に
立つコールドウェル先生。

 「どうしたの、ラルフ?……何か御用事?」

 コールドウェル先生は三十代後半のスレンダーな美人。普段は
長い髪を肩まで垂らしラフなシャツにタイトなスカート姿だった。

 「お忙しいのなら出直しますが……」

 「かまわないわ、レッスンもちょうど終わったところだから」

 「実は、この子が……」
 ラルフはそう言ってカレンの両肩を抱くと、まるで美術品でも
扱うかのようにしてコールドウェル先生の前へ差し出す。

 「私、カレン・アンダーソンといいます。今日から、こちらへ
住むことになりました。よろしくお願いします」

 「あなたそうなの」
 コールドウェル先生はそう言ってしばしカレンを舐めまわす。

 「誰かが噂してたわ。……先生の酔狂がまた始まったって……
原因は、あなただったのね」

 「先生、それはカレンに失礼ですよ。カレンは、あくまで先生
に請われてここに来たんでから……」

 「あら、そうなの」

 「…………」
 カレンは言葉がなかった。
 だって、自分の弾くピアノはあくまで独学。ブラウン先生の他
は誰も認めてくれてないみたいだし、当然、反論もできなかった。

 「弾かせてみればわかりますよ」
 ラルフはそう言うとカレンの肩を抱いて、今アンが座っている
ピアノの方へ押し出そうとするが……

 「せっかくだけど、それは結構よ」

 「どうして?」

 「だって、我流の人に滅茶苦茶やられて、せっかく整えた調律
を乱されたら困りものだもの。この子の発表会まで、もうあまり
時間がないの。今は、このままそっとしておいて欲しいの」

 ラルフはコールドウェル先生の言葉を一応聞いたが、終わると
すぐに踵を返した。

 「カレン、行こう」

 彼は怒って、カレンの肩を抱くと部屋を出ようとしたのである。
 ところが……

 「あ、あなた、……え~~と、何て言ったっけ……そうそう、
カレン。あなただけ残って頂戴」

 コールドウェル先生がカレンだけを呼び止める。
 そこで、ラルフも振り返るが……

 「ああ、あなたはいいわ。15分ほど暇を潰してから、この子
の引き取りにまた来てくれる?」

 コールドウェル先生の謎の言葉。しかし、ここでの暮らしにも
慣れてきたラルフは、それが何を意味するのか、感じ取ることが
できたみたいで……。

 「わかりました。先生」

 彼はコールドウェル先生には何も反論せず、カレンにだけ……
 「15分したら迎えに来るから」
 とだけ言って、部屋を出て行ったのである。

****************************

 「(どういうことだろう?)」
 不安なカレンはどうしていいのか分からず、部屋の隅で小さく
なっていた。
 そこから蚊の泣くような声で……

 「あの~~~私、何をすれば……」

 と言ってみた。すると……

 「あなたは何もしなくていいわ。そこで見てればいいの」

 コールドウェル先生はそれだけ言うと、背筋を伸ばした。
 ただそれだけ、それだけで、しばし時間だけが過ぎた。

 「………………」

 コールドウェル先生は何も話さない。何かしたわけでもない。
強いてあげれば、ほんの少し顔つきが厳しくなっただろうか。
 カレンが見る限りそれだけだった。

 そんな空気のなか、アンだけが落ち着かない様子でいる。

 「…………」
 ピアノの鍵盤を叩くでもなく所在なさげに白鍵と黒鍵を交互に
なでている。

 そんな無意味な時間が30秒ほど続いただろうか。
 結局、沈黙を破ったのもコールドウェル先生だった。

 「アン、あなた、何かお話があるんじゃなくて……」

 「…………」
 そう言われた瞬間のアンの表情が凍りついたのが、カレンにも
はっきりわかった。

 鍵盤で遊んでいた細くしなやかな指の動きもぴたりと止まり、
両耳へ垂らした三つ編みのリボンが微妙に震えている。

 そんな沈黙がさらに三十秒ほど続いただろうか。
 コールドウェル先生が再び、こう言うのである。

 「あなた、早くしないと、ラルフは15分でここへ帰って来る
って言ってるわよ」

 こう言われたことが、アンの重い腰をピアノ椅子から押し上げ
ることになる。

 「…………」
 彼女はぜんまい仕掛けのお人形のようにぎこちなく立ち上がる
と、無言のまま、すぐ脇にいたコールドウェル先生の足元に膝ま
づく。
 そして、両手を胸の前に組んでこう言うのだった。

 「わたし……昨日、練習をサボって演奏会へ行きました」

 「ええ、知ってるわ。アッカルドさんでしょう。あなた行きた
がってたものね。でも、こんな大事な時期に丸1日近くピアノに
触らなくて大丈夫なのかしらね?……あなた、そんな天才だった
かしら?」

 「いいえ」
 アンは小さな声で答える。

 「しかも、お父様には『コールドウェル先生の許可はちゃんと
取ってあります』なんて嘘までついて連れて行ってもらったんで
すってね。私が出張で村を留守にしたことをいいことに…………
つまり、それって『私の指導は受けたくない。自分独りでやって
いきます』ってことなのかしら。私は、もういらないってこと?」

 「違います」
 アンは頭を振った。さきほどより声が少し大きくなる。

 「じゃあどうするの?怠けながらピアノが上達するようにして
くださいって言うの?……私、魔法使いじゃないから、あなたの
ために馬車やドレスやガラスの靴を出してはあげられないよ」

 「…………」

 「そんなに私が気に入らないなら、あなたへのレッスン、やめ
てしまいましょうか」

 「えっ、それは困ります」
 アンはそれまで伏目がちだった顔をあげてコールドウェル先生
を見つめる。

 「困ってるのはこっちよ」

 「ごめんなさい。どんなお仕置きでも受けますから」

 「おやおや、今度は随分と横柄なこと言うのね。……私は嫌よ。
あなたの悲鳴なんて聞きくないし、何よりそんな疲れるような事、
今さらしたいとも思わないわ。そんなことするより、やめちゃう
方が簡単よ」

 「えっ…………」
 アンは次の言葉が浮かばなかった。

 これが小学校時代なら、こちらが何と言おうとまずはお仕置き。
でも、それを我慢さえすれば、そのうちまたよしよししてもらえ
る。それで円満解決だったのである。

 「あら、黙ってるところをみると、止める方に気持が固まった
のかしら?」

 「…………」
 アンは再び頭を振る。今度はもっと強い調子で……

 すると、しばらく部屋全体が沈黙したあとに……

 「時間がないわ。決めてちょうだい。私のレッスンを受ける気
があるの?ないの?」

 「あります」
 アンの答えは明快だった。
 しかし、となると……

 「そう、だったら、あなたの決意を聞かせて欲しいわね」

 「決意?」

 「簡単なことよ。ここではこんな場合、子供たちならどうする
事になってたの?」

 こう言われて、アンは慌てて膝まづいた自分の背筋を伸ばして
両手を組みなおす。

 「どうぞ、悪い子にお仕置きをお願いします。どんな厳しい罰
にも耐えます。これからはずっと良い子になります」

 アンは、ここへ来てからもう何十回となく口にしてきた言葉を
話す。

 「わかりました。それでは、私からあなたに愛を授けましょう。
何一つ不平を言わず、ようく噛み締めて受けるようになさい」

 これもまた、何十回となく聞いた言葉だった。

 「はい、先生」
 アンに限らない。ブラウン先生と暮らす子供たちはみんなこう
言うしかなかったのである。

 そして、その次にはたいて、先生の前にお尻を出してその痛み
に耐える。これがごく普通のパターンだった。

 ところが……

 「わかったわ。だったら私の言うことは何でもきくのね」
 こうことわると、アンの返事は聞かずに……

 「だったら、裸になりなさい」

 「えっ!?」

 「ここで、全裸になるの。スリップもブラもショーツもみんな
脱ぎ捨てるのよ」

 「…………」
 アンが戸惑ってると、さらに……

 「早くなさい。ラルフが帰って来るわ」

 「だって…………」

 「何が、『だって』よ。約束でしょう。私の言いつけは何でも
守りますって……それとも、何かしら…あなた、その貧弱な身体
をラルフに見てもらいたいの?」

 「…………」
 アンは震えたように首を振る。
 そして、仕方なく、本当に仕方なく、ぽつりぽつりと着ている
服を脱ぎ始めるのだった。

 でも、この時、驚いていたのはアンだけではなかった。
 部屋の片隅でことの成り行きを見守っていたカレンもまた目を
丸くしていた一人だったのである。

 「…………」
 彼女はアンが自分の視線を気にしているのを感じて目をそらす。

 窓にはブラインドが下りていて外からは見えないし、何より、
女の子同士だから、たとえ裸を見られてもそれほど恥ずかしくは
ないのかもかもしれない。でも、こんな処で裸になるなんて普通
ではありえないことだったのである。

**********************(4)***

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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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