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第6章 同床異夢のピアニスト(2)

          <<カレンのミサ曲>>

第6章 同床異夢のピアニスト(2)


§2 二人の月光/心を伝えるピアノ


 地方大会が終わり、すぐに本選出場の三名が決まった。

 一人はアン、もう一人はハンス、そして最後の一人にサンドラ
という名の女の子が選ばれた。

 装飾音に彩られた彼女のピアノはボリューム感があって華やか。
とても12歳とは思えない超絶技巧の持ち主だったから審査員の
心を捕らえたのだろう。
 しかし、ブラウン先生の評価が何故か今一だったのを、カレン
は隣りの席で感じていた。

 いずれにしても選ばれた三人は大会後のパーティーに出席して
その会場で一曲演奏しなければならない。

 ブラウン先生は、ここでも他の家族は返したが、カレンだけは
このパーティーに参加させたのである。

 ここで、カレンはアンに声をかけた。

 「おめでとう。アン」

 「ありがとう、久しぶりにうまくいったわ。すべては私の実力。
でも、ちょっぴりあなたのおかげよ。これ、しばらく貸しといてね」

 アンはそう言って、カレンの赤いスカーフを目の前でひらひら
させる。

 「それ、またお尻に敷くつもり?」

 「そうよ、まさか、あなたをお尻には敷けないでしょう」

 「えっ!?」
 カレンは開いた口が塞がらなかった。
 そこで、尋ねてみた。

 「私がそんなに嫌いですか?」

 「嫌いよ。いけない?……だって、あなたは、私が裸にならな
きゃできないことをいとも簡単にやってのける人ですもの。私が
面白いわけないじゃない」

 「…………」
 カレンにはアンの言っている意味が分からない。

 それを説明してくれたのはブラウン先生だった。
 「カレン、アンが言いたいのはね、あなたの集中力なんですよ。
あなたはピアノの前に座れば、即座に自分の世界にのめりこむ事
ができるでしょう。それが羨ましいと言っているんですよ」

 すると、アンがさらに続ける。
 「それに、私には二台のピアノを同時に弾きこなすなんてまね、
できないもの」

 「????」
 カレンが首をひねっていると、男の声がした。

 「何なの?二台のピアノって……」

 「何だ、ハンス。あなたそこにいたの!他人の家の痴話喧嘩を
立ち聞きするなんて、趣味が悪いわよ」

 「痴話喧嘩って?君が演奏前によく裸になるってことかい?」

 ハンスがそう言うと、アンは大きな目をさらに大きく見開き、
赤いほっぺをさらに真っ赤にしてから、ハンスの頬を平手打ちに
しようする。

 すると、彼はそれをかわし、襲ってきたアンの右手を取ると、
こう言うのだった。
 「そうかあ、フレデリックの言ったのは本当だったんだ」

 『あのやろう』
 そう思ったかもしれないが、後の祭りだった。
 アンの顔は血の気を失い目はうつろになって、その場に立って
いられないほどのショックをハンスに見せてしまったのである。

 「いいじゃないか、集中力を高める方法は人それぞれだもん。
でも、会場のどこで裸になったんだ。トイレかい?」

 「わたし、そんなこと、してません!!!」
 ハンスの言葉にアンは大声を出して横を向いてしまう。

 そして、ブラウン先生もまた……
 「ハンス君、失礼ですよ。ヤングレディーにそんな言い方は…
………」
 凛とした態度で若僧を注意したが、彼の耳元までくると……
 「大丈夫ですよ。ハンス君。今はもっと効果的なものが見つか
りましたから……」

 「効果的なもの?……あっ、そう言えば、今日は何か椅子下に
敷いてましたね。あれって、何かのおまじないですか?」

 「まあ、おまじないといえば、そうですが……この子が、その
おまじないの正体です」

 ブラウン先生はカレンの両肩を持ってハンスの前に押し出す。

 「えっ!?」
 いきなりハンスの鼻と30センチの処にまで近づいたカレンは、
戸惑い、恥ずかしくて顔が真っ赤になる。

 「へえ、この子が?」

 「正確に言うと、この子のピアノがおまじないの正体なんです」

 「この子もピアノを弾くんですか?」

 「ええ、簡単なものだけですがね、即興で……」

 「ひょっとして、二台のピアノを同時に弾くって……」

 「そう、彼女の事です」

 「聞きたいなあ、アンにそこまでさせたピアノを……」

 「ただ、ここではちょっと……」

 「いけませんか?パーティーも無礼講になってるみたいだし、
誰がピアノを弾いても硬いことは言いませんよ」

 「ええ、そうでしょうね。……でも、ここでは騒がしすぎます」
 ブラウン先生はあたりを見回す。そこはパーティー会場だから
多少騒わついてはいるものの騒々しいというほどではなかった。
 にもかかわらず、先生は難色を示すのだ。

 代わりに……
 「おう、サンドラ嬢が弾き始めましたね。こういう席には……
ああいう、ピアノの方が似合いますよ」

 「なるほど、曲芸みたいな超絶技巧だ。あの歳でこんなにたく
さんテクニックがあるんだから、うらやましいですよ」

 「ホントに……?」
 ブラウン先生は疑い深そうな目をして笑う。

 「だって、いろんなテクニックがあれば、それだけ表現の幅が
広がりますからね」

 「そりゃそうです。でも、もっと大切なことがありますよ」

 「もっと、大切なもの?」

 「そもそも、どんな音楽を相手に伝えたいのか。その完成形が、
あの子の音楽にはないのです。『私はこんなこともできますよ』
『あんなこともできますよ』という自慢話の羅列だけなんです」

 「そんなこと言っても、あの子はまだ幼いんだし……」

 「そんなことはありません。アンにしろ、あなたにしろもっと
幼い頃からそれはありました。お互い、たくさん名演奏を聞いて
育ちましたからね。何が人にとって心地よいことなのかがわかっ
てピアノを叩いています。だって、二人とも目標とする音がある
でしょう?」

 「そりゃあ、もちろん」
 ハンスが答え、アンが頷いた。

 「ところが、あの子にはそれがない。ただ、先生に言われた事
を一生懸命練習して身につけたから、聞いてくださいというだけ
のピアノなんです。ああいうのは、道行く人を驚かす大道芸では
あっても、芸術じゃありません」

 「厳しいですね。相変わらず先生は……」

 ブラウン先生の会話に、白髪の紳士が割り込んだ。

 「これは、ラックスマン教授。お耳に入ってしまいましたか。
お恥ずかしい」

 「いえ、私も彼女のついてはそうしたことを考えないわけでは
なかったのです。でも、歳も若いし経験を積ませてやるのもいい
かと思ってね」

 「確かに……せっかく全国大会へ出かけるんですから、彼女も
そうしたことを学んで来てくれるといいんですが……ただ、そう
考えると、12という歳はむしろ、もう遅いかもしれませんね」

 大人たちの話を聞きながら、カレンは話題の主のピアノを見て
いた。

 『鳴っている。鳴っている。ピアノが鳴り響いている。まるで
タイプライターのようにカタカタと……あれも、月光なのね……』
 カレンは思った。それは同じ楽譜をもとに弾いているはずなの
にまるで別の曲のように聞こえたからだ。

 彼女は吸い寄せられるようにサンドラのピアノの前に立った。

 まるで彫刻家が鑿と鎚で石を刻むような険しい表情。揺ぎ無い
信念と情熱がその顔にはほとばしっている。

 『12歳というこの少女が目指しているのはいったい何なのだ
ろうか?』
 カレンには理解できなかった。

 彼女にとっての音楽は自分の心をなごますものでしかない。
 『ブラウン先生は私のピアノを褒めてくれるけど……だったら、
先生のためのピアノが弾けるだろうか。…………無理だわ。……
だって、私のピアノは私のためだけのもの。……私と、お父様と、
それにリヒテル先生のためのものだもの』

 そんなことを思っているカレンの脇を、演奏を終えたサンドラ
がすれ違う。亜麻色の髪にフローラルな香りが残った。

 その跡を、背の高い青年が追う。
 彼が、サンドラのピアノの先生なのだろう。ウェーブの掛かっ
た灰色の髪をなびかせ、神経質そうな顔をしている。
 二人はブラウン先生への挨拶が目的だったようだ。

 そこで見せる彼女の笑顔は、ピアノを弾いている時とはまるで
別人だった。
 満面の笑みを浮かべ、さかんに、全国大会へ出場できるように
なったことの感謝を大人達の前で述べている。

 しかし、その姿は心からの感謝というより、必死に自分を売り
込んでいるように見えて、カレンにはこの子が末恐ろしくさえ感
じられたのだった。

 そんなサンドラの人当たりにほだされたカレンはそこから視線
を外して、主のいなくなったピアノをみた。
 そして、それを見ているうちに、今度は、そのピアノが無性に
弾きたくなったのである。

 もちろん、ここでこのピアノを弾けるのは本選にでる三人だけ。
そんなことは百も承知だから、カレンは物欲しげにピアノを撫で
て回るだけ。
 それで満足するしかなかった。

 ところが、そこへ……

 「おい、お姉ちゃん、ピアノは撫でてるだけじゃ鳴らないぜ」
 こう言ってカレンに近寄ってくる男がいた。

 ホフマン博士だ。
 彼は予選会の前に出会った時は、もちろん立派な紳士だったが、
この宴会もお開きに近くなったせいか、かなり酒が回っていた。

 『まずいわ』
 カレンはとっさに作り笑いを浮かべて、その場を立ち去ろうと
した。ところが、一足早く酔っ払いの中年男に捕まってしまう。

 「いや、」

 羽交い絞めにされたカレンは、大声を出して人を呼ぼうとした
もののできなかった。
 それほどまでに、彼は素早く、カレンを生け捕ってしまったの
である。

 酒臭い息を吹きかけながら、博士はカレンを抱きかかえると、
まるで子供のように膝の上に乗せて、十八番にしているショパン
の前奏曲を弾き始める。

 彼は、ピアニストでも芸術家でもないから、そのピアノの音は
この会場では騒音のようなもの。
 周囲もビアノが鳴り始めた瞬間だけ振り向くが十六小節すべて
を聴く者はいなかった。
 『また、先生が酔って弾いているのか』
 という顔をしたあとはまたそれぞれの仕事に戻ってしまう。

 「さあ、弾いてみな」
 博士は短い曲を弾き終えたあと、カレンにピアノを勧めた。
 というより、それは強制したというべきなのかもしれないが、
背中を押してくれたのである。

 それに応えて、カレンがピアノに手をつける。

 ベートーベンの月光だった。

 さっき博士が弾いていたから、当初は、誰も気にも留めないが、
そのうち、誰かがその違いに気づいてピアノの方を向くと、その
数がしだいに増えていく。

 とうとうブラウン先生たちのグループまでもがそれに気づいた
のである。

 『カレン!』

 押っ取り刀でカレンの前に現れたブラウン先生は渋い顔だった。
 それに慌ててカレンは演奏をやめてしまうが……

 「おう、お父さん登場ですな。なるほど、これはいい眠り薬を
お持ちだ」
 先に口を開いたのはホフマン博士だった。

 「他人の薬を、こっそり試し飲みとは感心しませんな」
 ブラウン先生はホフマン博士をたしなめたあと…

 「カレン、このピアノは本選に出場する三人のために用意され
たものです。あなたのものではありませんよ」
 と叱ってみせた。

 そこで、カレンは慌ててホフマン博士の膝をを下りたのだが、
その時はすでに多くの人がピアノの前に集まって、ブラウン先生
の眠り薬の効き目を確かめたあとだったのである。

**************************

 帰りのバスの中、ブラウン先生は不機嫌そうな顔で外の景色を
眺めているから、カレンはずっと申し訳なさそうにしていたが、
バスを下り、カレニア山荘に向かう馬車の中では、アンが小声で
話掛ける。

 「気にすることないわ。お父様、今はもうそんなに怒ってない
から……」

 「…………」

 「私はあなたより付き合いが長いから分かるの。あの先生は、
いつもあんな調子なのよ。あなたのせいじゃないわ」

 「でも……」

 「それより、あなたの月光は絶品ね。サンドラなんか目じゃな
かったわ」

 「そんなこと」

 「それが証拠に、あの部屋にいたほとんど全ての人が集まって
きたじゃない。あれはあなたの奏でる二台のピアノを聴きたくて
みんな集まったの」

 「二台のピアノ?」

 「そう、音の鳴るピアノと音の鳴らないピアノよ」

 「音の鳴らないピアノって?」

 「余韻ですよ。音を鳴らすだけがピアニストの仕事なら、自動
ピアノは天才的なプレヤーなんでしょうけど、誰もそんなことを
言う人はいないでしょう。それは機械では無音の部分をどうにも
デザインできないからなんです。あなたのピアノに感激するのは
鳴るピアノと鳴らないピアノのハーモニーが絶妙だからその音が
美しく響くんですよ」

 突然、先生が二人の話しに口を出す。こんな狭い馬車の荷台、
どんなに小声で話していても、その声が先生に伝わらないはずが
なかった。

 カレンは恐縮したが、カレンに先生の言葉の意味は理解できな
かった。彼女が弾くピアノはあくまで天性のもの。理屈があって
奏でるものではなかったのである。
 だから、カレンは黙ってしまう。

 そのカレンに向かって先生は……
 「まあ、いいでしょう。本当はあんな酔っ払いの膝の上ではなく、
もう少し勿体をつけてあなたの才能を発表したかったのですが、
仕方ありません。その代わり、その赤いスカーフはもう少しだけ
アンに貸してやってくださいね」

 ブラウン先生は、また元の笑顔を取り戻してカレンを見つめる
のだった。

***************************

 夕食のあと、カレンはリチャードの部屋へ行く。
 朝、あのサウナの中で先生に頼まれた作曲の仕事がずっと気に
なっていたからだ。

 すると、そこにはすでにアンの姿が……。

 「あら、カレン。あなた、この子の出来損ないの詩にあわせて
曲を作れって、お父様に命じられたんですって……」

 アンはリチャードのベッドに大の字になると、その詩が書かれ
た紙を天井を向いて詠んでいた。

 「えっ……ええ、……まあ……」

 「それにしても相変わらず、下手くそな詩ね。無理に、こんな
大人びた表現にしなくていいのよ。…書いてるの、どうせあなた
だってわかってるんだから……」

 こう言われたから、そこにいたリチャードが反論する。
 「だって、最初書いたのはお父様が『子供っぽくて村のお祭り
にふさわしくない』って……」

 彼はそう言うと書いた詩をアンから取上げる。

 「こんな韻を踏んだような詩、今どき流行らないわ。最近は、
大人だってビートルズを聴く時代なんだから……お父様は、頭が
古いの。化石化してるのよ。………ねえ、カレン、あなただって、
そう思うでしょう」

 「それは……」
 自信のないカレンは歯切れの悪い言葉でお茶を濁す。

 「ただ、わたし、教養がないから、こんな難しい詩にどうして
曲をつけていいのか、かわからなくて……」
 本音を正直に吐露すると……

 「簡単よ。ミサ曲と同じで韻を踏む感じで和音を合せるの。…
…といっても、あなた楽譜のこと、まるっきり知らないそうね。
……いいわ、私がやってあげる。全国大会までは少し時間がある
から……ときどき、お父様も無理な注文つけるから困るのよね」

 「でも、それじゃあ……私が頼まれたことですし……」

 「それじゃあ、あなた、自分でできるの?」

 「それは……」

 「こんなものは創作活動というより塗り絵みたいなものなの。
誰がやっても、そう大きく違わないわ。スカーフのお礼よ。……
それよりさあ、六時十四分。あれ、もう一度聴かしてくれないか
しら」

 「六時十四分って?」

 「だって、題名しらないもの。あなたが私のレッスン場で弾い
た曲のことよ。六時十四分に弾いたでしょう。だから六時十四分」

 「でも、あれは……」

 カレンは口をつぐんだ。
 カレンの弾く曲は一期一会。本人でさえ二度と弾けないのだ。
ところがそれを……

 「だったら、私にちょうだいよ。私が色んな処で弾いて広めて
あげるわ」
 アンは明るくおねだりするのだった。


 困惑するカレンを尻目にアンは彼女の手を引き、居間へ。
 そして、そこのピアノで『六時十四分』を再生する。

 「たしか、こう、だったわよね」
 
 アンは自らピアノを弾き、聴き覚えたカレンのピアノを楽譜に
起こしていく。それは、昨夜、ロベルトやブラウン先生がやって
くれたのと同じ作業だった。

 ただ違うところがあるとすれば、出来上がった楽譜がすっきり
していること。先生がつけた装飾音などなくとも、その音はより
シンプルに誰の心にも美しく響いたのである。


 こうして二人の取引は無事収まったようにみえたたのだが……

 「カレン、これは君の曲ではないですね。……アン、ですかね、
……こんなお茶目な曲をつけるのは……」
 村のお祭りで詠う曲を先生の処へ持って行ったカレンは、再び
ブラウン先生の渋い顔に出会うのだった。

 「この詩はたしかに韻を踏んで書かれています。でも、あなた
サー・アランの屋敷にいた頃、私に言いましたよね。私が奏でる
ミサの曲は韻を踏んだものじゃないと……私は明るいメロディー
が好きなんだと……」

 「ええ……」

 「だからそれでいいんですよ。私はあなたに曲を乗せてほしい
とは言いましたが、それはこんな韻を踏んだ旋律を期待したから
ではないんです。あなたの感性でメロディーをつけてください」

 「…………」
 カレンが黙っていると……

 「だから、簡単なことだ言ったでしょう。私はあなたにそんな
難解な宿題なんて出しませんよ。これはね、あなたなら一時間も
あればできますよ。詩を何度も何度も読み直してください。詩の
心を自分の心とすれば、メロディーは自然にあなたの脳裏を流れ
ます。今までだってあなたはそうして音楽と向き合ってきたじゃ
ありませんか」

 ブラウン先生はそう言ってアンの作った曲を付き返した。

 「ごめんなさい。作りなおします」
 カレンが申し訳なさそうにそれを受け取って、部屋を出ようと
すると……

 「そうだ、肝心なことを忘れてました。『六時十四分』あれは
いい曲ですね。最近、アンが、よく弾いてますけど……あれは、
あなたの曲でしょう」

 「あれは……」

 カレンはそこまでしか言わなかったが、ブラウン先生はカレン
の顔色を見て判断する。

 「やはり、そうですか。アンに聞いたら『これは私のものです』
なんていいますからね。おかしいと思っていたんです。あなた達、
ひょっとして楽曲を取替えっこしたんじゃないんですか?アンは
あなたにお祭りの歌を提供して、あなたのピアノ曲を得た。そう
いうことですね」

 「…………」

 「音楽は誰に権利があるかではなく、誰の心にあるかで決まる
んです。きっとアンはあなたに憧れを持っているんでしょうね。
あなたの曲をじぶんの物にしようと一生懸命練習していました。
おかげで、コールドウェル先生はまたおかんむりですよ」

 「私にアコガレ?」

 「そうですよ。……何か不思議ですか?……私もそうですよ。
…いえ、これからはもっと増えるでしょうね。いずれ、あなたの
ピアノはこれから楽譜として出版されるでしょうから」

 「そんなこと……」

 「予定してますよ。そんなこと……」

 ブラウン先生はお茶目に笑ったあと、こう続けるのだった。

 「どんなに精緻な譜面を残しても、どんなに高性能な録音機で
音を残しても、その音楽を真に弾きこなせるのは本人しかいない
んです。アンが、どんなに憧れようと、どんなに練習しようと、
あなたの曲があなたの身体を離れることはないんですよ」


********************(2)****

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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