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第7章 祭りの後に起こった諸々(1)


        <<カレンのミサ曲>>

第7章 祭りの後に起こった諸々

************<登場人物>**********
(お話の主人公)
トーマス・ブラウン<Thomas Braun>
……音楽評論家。多くの演奏会を成功させる名プロデューサー。
ラルフ・モーガン<Ralph Morgan >
……先生の助手。腕のよくない調律師でもある。
カレン・アンダーソン<Karen Anderson>
……内戦に巻き込まれて父と離ればなれになった少女。

(先生の<ブラウン>家の人たち)ウォーヴィランという山の中
の田舎町。カレニア山荘

<使用人>
ニーナ・スミス<Nina>
……先生の家の庭師。初老の婦人。とても上品
ベス<Elizabeth>
……先生の家の子守。先生から子供たちへの懲罰権を得ている。
ダニー<Denny>
……下男(?)カレニア山荘の補修や力仕事をしている。
アンナ<Anna>
……カレニア山荘で長年女中をしている。
グラハム<Graham>
……カレンの前のピアニスト

<カレニア山荘の里子たち>
リサ<Lisa >
……(2歳)まだオムツの取れない赤ちゃん。
サリー<Sally>
……(4歳)人懐っこい女の子。
パティー<Patty>
……(6歳)おとなしいよい子、寂しがり屋。
マリア<Maria >
……(8歳)品の良いお嬢さんタイプ
キャシー<Kathy>
……(10歳)他の子のお仕置きを見たがる。
アン<Andrea>
……(14歳)夢多き乙女。夢想癖がやや気になる。
ロベルト<Robert>
……(13歳)端整な顔立ちの少年
フレデリック<Friderick>
……(11歳)やんちゃな悪戯っ子。
リチャード<Richard>
……(12歳)ポエムや絵画が好きな心優しい子。

<先生たち>
ヒギンズ先生<.Higgins>
……子供たちの家庭教師。普段は穏和だが、怒ると恐い。
コールドウェル先生<Caldwell>
……音楽の先生。ピアノの他、フルートなどもこなす。
シーハン先生<Sheehan>
……子供たちの国語とギリシャ語の先生。
アンカー先生<Anker>
……絵の先生。
エッカート先生<Eckert>
……数学の先生
マルセル先生<Marcel>
……家庭科の先生

<先生のお友達>
ラックスマン教授<Laxman>
……白髪の紳士。ロシア系。
ビーアマン先生<Biermann>
……獣医なので先生とは呼ばれているが、もとはカレニア山荘で
子供達のお仕置き係をしていた。今は町のカフェの店主。
アンハルト伯爵婦人
……戦争で息子を亡くした盲目の公爵婦人
ホフマン博士<Hoffmann>
……時々酔っ払うが気のいい紳士

<ライバル>
ハンス=バーテン<Hans=Barten>
……アンのライバル、かなりのイケメン。
サンドラ=アモン<Sandra=Amon>
……12歳の少女ピアニスト。高い技術を持つがブラウン先生の
好みではない。

<幻のピアニスト>
セルゲイ=リヒテル(ルドルフ・フォン=ベール(?))
……カレンにとっては絵の先生だが、実はピアノも習っていた。

*****************************

第7章 祭りの後に起こった諸々

§1 楽しい休日の暗転

 リチャードの詩を何度読んでも、カレンには曲ができなかった。
そこで実際に村のあちこちも歩いてみた。

 この村はあの詩の通りだ。
 若草色の山々に紫色の厚い雲がわき、そこから地面に向かって
差し込む光の帯は、たとえそこから天使が降りてきても驚かない
ほどに神々しい。
 森に住む動物たち植物たち、そのすべてが神からの賜り物だと
カレンは思った。
 きっとお祭りの当日は、数多くの花火が上がって山々に村々に
雷鳴を轟かすことだろう。それは神からの賜りものであり、村人
全員の感謝のしるしでもあるはずだ。

 子供の詩だから中身は単純、詩の意味は分かっている。
 でも、メロディーは浮かばなかった。

 彼女が生まれ育ったアフリカは赤い土と砂嵐の国。緑は僅かに
オアシスの町に申し訳程度にあるだけ。
 人々は高い塀を巡らして砂嵐を避けながら囲い込んだ緑を必死
に守って暮らしている。
 こんな豊かな大自然の歌などカレンにはできそうになかった。

 ところが、曲を作り始めて三日目の朝、彼女はあることを思い
出すのである。

 『リヒテル先生からもらった絵があったわ』

 カレンはサー・アランの屋敷から送られてきたばかりのピアノ
の一部を剥ぎ取る。
 そこにはリヒテル先生が故郷を偲んで書いたという板絵が貼り
付けてあったのだ。

 動乱の故国から脱出する時、いくつも荷物を作ることができな
いから、苦肉の策でアップライトのピアノに貼り付けた絵だ。
 逆に言うと、それほど大切な絵だったのである。

 若草色の森と霞む山々。沸騰したように湧き出す厚い雲と深み
のある青い空。手前に描かれた可憐な白百合との対比が美しい絵
だ。

 『これをむこうで見ていた時は、こんなのおとぎ話だと思って
みていたけど、この絵って、ここの風景に似ているわ』
 カレンは思った。

 そして、リヒテル先生との楽しかった思い出を、あれこれ想像
しながらいくつもの曲を作ったのである。

 七つ、八つ、簡単なメロディーラインだけを書いて先生の処へ
持っていくと、あとは先生の方で選んでくれて、こまかな作業は
全部先生がやってくれたのだった。

 「ん~~いいできです。やっぱり、あなたに頼んでよかった」

 こう言われると、カレンは肩の荷がおりる思いがしたのである。

**************************

 村のお祭りは、仮装行列が村じゅうを練り歩いたり、重い砂袋
を持ち上げる重量挙げや棒倒しのような男たちの競技があったり、
女たちが開くバザーのお店があったり、幼児達が王子様やお姫様
に扮して寸劇を披露したりと、学校の運動会と文化祭がごっちゃ
になったような催しで終日賑わったが、その間、入れ替わり立ち
代り楽器演奏を披露したのはカレニア山荘の子供たちだった。

 もちろん、村を讃える歌は山荘の人たち全員、つまり、大人も
子供もブラウン先生も混じって合唱した。
 もちろん、口パクの人もいたし音程を外す人もいたが、そんな
のはここではご愛嬌だったのである。

 そんなお祭りはもちろん誰にとっても楽しかったが、楽しい事
の後は、当然、疲れがやってくるわけで、とりわけ大人たちは、
次の日は休養をとるのが習慣になっていた。

 だから、学校も仕事もその日はお休み。
 ただ、若ければそれも心配ないわけで……

 「いいよ、カレンが一緒なら行っておいで……」

 眠そうなお父様からアンは外出の許可をもらう。
 せっかくのお休みも、家でゴロゴロするだけじゃもったいない
し、ピアノの練習も気乗りがしなかった。

 『この日は息抜き』と二人は村のお祭りの前から決めていたの
だった。

 「『太陽がいっぱい』っていう映画が町に来てるのよ。主演の
アラン・ドロンがかっこいいんだから……」
 アンはそういってカレンを誘ったのだ。

 ルートはいつも通り。馬車で山を降りて、駐車場となっている
農家の庭先からはタクシーに乗る。

 そうやって、町の古ぼけた映画館で映画を観るわけだが、この
映画だって封切りというわけではなかった。二年も前に公開され
た昔の映画だ。
 しかし、娯楽の少ないこの地方の少女たちにとってはこれでも
十分な娯楽だったのである。

 「よかったわね」
 「よかったわ。今年一番の感激よ」

 二人は映画を観終わって感激を分かち合ったが、感激したもの
はお互いに違っていたのである。
 カレンにとって、この映画はアラン・ドロンの映画であり、彼
の裸の肉体が脳裏から離れない。
 一方、アンはというと、ニーノ・ロータ(Nino Rota)の切ない
音楽が耳から離れなかった。

 「ねえ、お腹すいたわ。カフェでお食事しない」
 アンが提案すると、カレンが不安そうにしているから……
 「あなた、お父様からいくらもらったの?」
 アンはカレンの財布を覗き込む。

 「なんだ、まだこんなにあるじゃない。大丈夫。これだけあれ
ば夕食だって食べられるわ。ホテルにだって泊まれそうじゃない。
あなた、よほどお父様から信頼されてるのね。私、こんなにお小
遣いもらったことないわよ」

 二人は街角のカフェに入った。
 目の前に美しい町の公園が広がって、まるでこの店がこの公園
を所有出てるように見える。
 お昼も、もうだいぶ過ぎていたが、店内はそこそこのお客さん
でにぎわっていた。

 そこで、二人はサンドイッチとココアを注文して昼食。
 映画館で買ったパンフレットを見ていた。

 すると、誰かが声をかけた。

 「アンドレアお嬢様、ごきげんよう」

 アンがその声に驚いて見つめる先には、ロマンスグレーの中年
紳士が立っている。
 「おじさん!?……わあ、見違えたわ。カッコいいじゃない。
……ってことはまさか……」

 「そのまさか。先月からここの支配人まかされちゃったんだ」

 「じゃあ、子供達のピアノ教室は?」

 「それも続けてる。掛け持ちなんだ」

 その顔にはカレンも見覚えがあった。
 『たしか、この人は……ビーアマン先生』

 アンのコンクールの日、お父様に紹介された中に彼の顔もあっ
たのをカレンは思い出したのだ。

 「おう、これはこれは、眠り薬のカレン嬢もご同席ですね」

 「こんにちわ」

 カレンは眠り薬云々を言われることには抵抗があったが儀礼的
に挨拶する。
 すると……

 「今日はいつも頼んでるピアノ弾きが風邪を引いて休んでてね。
アン、1時間だけその穴を埋めてくれないかなあ。お礼はするよ」

 ビーアマン先生は、通りに面したガラス張りの部屋に客寄せで
置いていた白いピアノへ視線を投げかけるのだが、アンはにべも
ない。

 「おあいにく様、私達、今日は休暇できてるの。仕事でピアノ
を弾くなんてまっぴらよ。それに、企業秘密もあるから他所では
ピアノを弾かないようにってコールドウェル先生にも釘をさされ
てるし……」

 「つれないなあ」

 「ピアノ教室はまだやってるんでしょう。教室のチビちゃん達
にでも弾かせれば?」

 「それが、今日は学校の遠足でね、ここには来てないんだ」

 「じゃあ仕方ないじゃない。諦めるのね。だいいち、こうして
ピアノの流れない日があってもいいじゃないの。静かでいいわ。
私なんて下手なピアノを聴かされるより、こっちの方がよっぽど
落ち着くわよ」

 「そりゃあ、君はそうだろうけど……ここはピアノの生演奏が
売りのカフェだからね。……」
 ビーアマン先生はそこまで言って、ふっと気がついた。

 「そうだ、カレン、君、コンクールは関係ないだろう。弾いて
くれないか?」

 「えっ!?私が……」
 カレンは驚いたが……

 「やめた方がいいわ。カフェのピアノなんて………お父様は、
こんな処でピアノを弾くのを喜ばないわ」
 アンが止めたのだ。

 「こんな処はないだろう。……今だって、こうして食事をして
るじゃないか」

 「今はお昼だからよ。……だって、夜はここ、酔っ払いの天国
だもん。こんな処でピアノなんて弾いてたらお父様から大目玉よ」

 「ねえ、アン、あなた言葉が過ぎるわよ。おじさまに向かって」
 カレンがアンの耳元でささやく。彼女はアンがビーアマン先生
に対してあまりにも馴れ馴れしいのが気になっていたのだ。

 すると、アンが怪訝な顔をするので……
 「ねえ、ビーアマン先生って、何の先生なの?」
 と尋ねるもんだから、今度はアンが笑い出した。

 「いやだ、知らなかったの。おじさんは、三年前まではうちで
働いてたの。もともとは獣医さんよ。だから、いちおう先生って
呼ぶんだけど……やってたのは動物じゃなくて、子供たちの世話。
それもお父様に命じられてのお仕置きの世話だったわ。そりゃあ
私たちにしてみたら怖い人なんだけどね、どっか気安いのよ」

 「ねえ、アン。あなたはお父様からお仕置きなんてされたこと
あるの?」

 「当たり前じゃない。男の子、女の子に関わらず、お父様から
ぶたれたことのない子なんてカレニア山荘には誰もいないわよ。
そんな時がビーアマン先生の出番なの。彼から私たちお浣………
ま、いいわ。……それは……」
 アンは思わず口を滑らせた自分を恥じる。

 「ねえ、アン、私、あのピアノ弾いちゃダメかなあ」

 「えっ、あなた弾きたいの?」

 「今日観てきた映画のBGM。あれが弾いてみたくなったの」

 「ふうん、そりゃあいいけど…でも、あまり長い時間はだめよ。
……ここ、夕方になると酔っ払いとか来るから……」

 「じゃあ、君が弾いてくれるのかい?」

 ビーアマン先生は大喜び。
 こうして、カレンのミニリサイタルが開幕したのだった。

****************************

 やがてニーノ・ロータ(Nino Rota)の哀愁を帯びたメロディー
がカフェの店内に響く。

 その時、客席に何か変化があったわけではなかった。
 コーヒーを飲む人、タバコを吸う人、おしゃべりが途中で途絶
えたわけでもない。
 
 しかし、カレンが一曲弾き終わると、あちこちで小さな物音が
聞こえ、……ある種の緊張感から解放された時のような安堵感が
カフェ全体を包む。
 まるでコンサート会場のようだ。

 カレンのピアノの音は最初とても小さく繊細で耳をそばだてて
いなければ決して聞き取れないほどだが、最後はほとんどの人が
ある種の高揚感をもって自分がその席にいることに気づく。

 そんなカレンのピアノを三曲も聴けば、彼女が席を立とうとす
る時……
 「僕は楽器のことは分からない。でも、あなたのピアノは好き
だから、もう一曲、お願いできないだろうか」

 こんな紳士が現れても不思議ではなかったのである。

 「でも……」
 カレンはそれを言うのが精一杯だった。
 その紳士だけではない。カフェ全体の雰囲気がカレンの次の曲
を望んでいた。その空気がカレンにも感じられるのである。

 「ねえ、アン。これは笑わないで聞いてほしいんだけど、……
彼女のピアノを聴いてるとね、ピアノって、本当に打楽器なんだ
ろうかって疑ってしまうんだよ。僕も数多くのピアニストの音を
聞いてきたけど、こんなのは初めてだ。ひょっとして彼女は今、
ギターを弾いてるんじゃないか?そんな錯覚に陥るんだ」

 ビーアマン先生の言葉がアンの心にも残る。

 そんな中、カレンはお客の注文に従いすでに六曲を弾き終えて
いた。さすがに疲れたので次の一曲で必ず終わりにしようと心に
決めて、「さて…」と思った時、自然とその指が動く曲があった。

 アフリカにいた頃、カレンの子守りをしてくれていたセルゲイ
おじさんといつも二人で弾いていた曲。おじさんがなくなった後
はカレンが彼のパートも弾いていた。
 題名はないが、優しく穏やかな曲を最後に選んだのだった。

 カレンはこの曲を弾くたびに思い出すことがあった。
 それは、セルゲイさんが最初ピアノの鍵盤を強く叩かせなかっ
たこと。
 弱く、弱く、音が聞こえる限界まで弱く叩いた音でメロディー
を奏でていた。

 最初は振動なのか音なのかわからない処から始まって、次第に
大きな音をそれに加えて制御していく。
 カレンのピアノは本来の音を弱めて音の深みを出しているので
はない。むしろ弱い音がベースとなり、すでにメロディーも完成
させているところへ、普通の音を入れて華やかさを演出している
のだ。

 カレンの奏でる音には、本来は外からは見えない根がちゃんと
存在していたのである。一見不要に見えるこの根があるからこそ、
そこに育つ草や木も自然に見えて、人の心を打つのだった。

 そんなカレンの音楽に弾かれるのは、何もカフェのお客ばかり
ではない。街行く人もまた、彼女の音を耳にすると、まるで吸い
込まれるように店の中へと入ってくる。

 そんな中に、黒ずくめの服を着た老女が一人、介添えの青年を
引き連れて入って来る。
 しかし、その瞬間だけはカフェ全体に少し異様な空気が流れた。

 老女は目が不自由で介添えの青年が手を取らなければ何もでき
そうにない。にも関わらず店に入った彼女はカレンの弾くピアノ
の方へ一直線に歩いていったのである。

 椅子につまづき、テーブルに進路を阻まれ、人にぶつかり……
お客が飲んでいたコーヒーカップさえ払い除けた。
 「ガシャン」
 という音がしてそのカップは床で砕けたが、そんなことさえも
彼女には関係なかったのである。

 彼女はついにカレンのピアノの前までやってくるが、そんな中
でカレンがピアノを続けられるはずもない。
 困惑と恐怖の中で、カレンは彼女の最初の声を聞くのだった。

 「ルドルフ、お前、生きていたのかい」

 歩行も困難、目も不自由な黒ずくめの老婆のわけの分からない
言葉に縮み上がっていると、一歩遅れた青年がよろけて膝をつい
た老女を抱く。

 「お母さん、これは兄さんじゃない。若い娘さんだよ。女の子
が弾いてたんだ」
 青年は老女の肩を抱いてとりなしたが、老女はきかなかった。

 「ルドルフ、お前、そこにいるんだろう。声を聞かせておくれ。
ルドルフ、後生だから、もう一度、母さんと呼んでおくれよ」

 老女はカレンの弾いていたピアノにすがりつく。
 身の危険を感じたカレンはすんでのところでその場を離れたが、
再び倒れこんだ拍子に鍵盤を叩いて……

 「ガシャン」
 という音が店内に響いた。
 そして、崩れ落ちたピアノの床で彼女は泣き続けたのである。

 『何なの?これ……』
 もちろん、カレンにはわけがわからない。
 単なる狂人の乱入なのか、でも、それにしては老女の身なりは
しっかりしているし、顔立ちも狂った人のようには見えない。
 介添え役の青年もそれは同じだった。

 困惑するカレンの両肩をいきなり掴む者がいる。
 「!!!」
 カレンの心臓は一瞬縮みあがったが、犯人はアンだった。彼女
は小声で……

 「さあ、出ましょう。長居は無用よ」

 そう言って、カレンにこの店からの脱出を促したのである。
 もちろん、カレンにとっても反対する理由はなかった。
 だから、二人してそっとその場を離れようとしたのだったが…

 「あ、君。君はここへ残って」

 それまで、床にひれ伏して泣き続ける老女を介抱していた青年
がいきなり、この場を立ち去ろうとしたカレンを呼び止めたので
ある。

 「いいから、行きましょう」
 アンは青年の言葉にかまわずカレンの腕を掴んだが、その様子
を見た青年はもっと強い言葉を二人に投げかけたのである。

 「いいか、これは命令だ。お前ら、そこへ立ってろ!」

 彼は何の権限があってそうしたのかわからないが、二人にはっ
きりそう命じられたのだった。

 「……………………………………………………」
 「……………………………………………………」
 もちろん、二人にそんなことを言われる覚えも義務もなかった
が、そこは世間を何も知らない小娘のこと。
 震え上がったまま、その場に立ち尽くしてしまったのである。

 もし、これが単なるならず者なら、ビーアマン先生にしても、
カフェのお客さんだってこの二人の少女にもっと協力的だったの
だろうが、彼らは単なる無法者ではなかったのである。

 そうこうしているうちに事態はさらに悪化する。

 異変に気づいたこの老婆と青年の配下とおぼしき男達がカフェ
に入ってきたのだ。
 すると、青年はやっと落ち着きを取り戻した老婆を椅子に座ら
せたまま、そこからその屈強な男たちに向かってこう命じるのだ
った。

 「このお二人を私の屋敷にお連れしろ。くれぐれも粗相のない
ようにな」

 こうして二人はわけがわからぬままに青年の屋敷に招待、いや、
連行されたのだった。

********************(1)****

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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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