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第3章 童女の日課(4)

<The Fanciful Story>

           竜巻岬《11》

                     K.Mikami

 【第三章:童女の日課】(4)
 《一番厳しい罰》


 アリスはスミス先生からとんでもないお仕置きを受けたものの、
その後はまた順調だった。男の先生からはたまに両手の平に鞭を
貰う事もあったが、それも同室の先輩に比べればはるかに少ない。

 反省室での悩みも他の子のように『どうか鞭の数が少なくなり
ますように』というものではない。むしろ、先生方からコリンズ
先生の処へ上がってくる日誌の所見が毎日のように『特になし』
となっていることの方が問題だった。

 『特になし』なんて無罪放免で一見ハッピーなことのようだが、
嫉妬深い女の子の世界では、いつも独りだけがよい子になってる
と仲間外れにされかねない。

 『そんなことぐらいで僻(ひが)むような友だちならいらない』
 なんて思うのは男の子の了見で、女の子の場合は多少の不利は
あっても孤立して生きるよりはましと考える子が多い。アリスも
そんな一人だった。

 そこで、アンやケイトがきついお仕置きを受けそうだと、わざ
とケイトのスカートをめくってみたり、アンの大事にしている本
を隠したりする。大した悪戯じゃないから、罰も大したことには
ならない。それでアンやケイトが慰められるのならお安いことと
アリスは考えていたのだ。

 「どうしてあなたまでそんな子供じみた悪戯をするの。今日は
籐鞭三つよ。……屈みなさい」

 こう言われればしめたものだ。さらにわざとパンツを脱ぐこと
を渋ったり、鞭が当たると大仰に顔を歪めて痛がったりもする。

 「何ぐずぐずしているの。そんなに堪え性のない子には訓練の
意味でも、もう少しお仕置きが必要ね」

 これで先生からあと三つ四つ鞭を追加して貰うことができる。

 おかげでアリスのお尻には赤い鞭傷が付き、反省室を出るとき
には涙さえ浮かべる有様だが、

 「アリス、このワセリン、ケイトに塗ってやってね」

 コリンズ先生もこうしたアリスのお芝居を承知していた。
 承知していてなお先生はアリスを咎める事はなかったのである。

 部屋に戻ったアリスはお湯に浸したタオルで体を拭くとさっき
先生から貰ったワセリンを三人で塗りっこする。こんな時アリス
一人だけが白いお尻のままではいけなかった。

 「ごめんねアリス。あんたにこんなことまでさせちゃって」

 ケイトの言葉は、アリスにとっては何よりの報酬だ。

 「うんうん」
 アリスは首を横に振る。
 鞭はもちろん痛い。しかし、友情にひびが入ることに比べれば
被害はぐっと少ないように思えるのだ。


 ただ、誰もがこうして順調に生活できているわけではない。
 なかには絶望の淵をさまよっている少女も……


 「もう三ヵ月になるけど、どうかしらね、あの子」

 ペネロープはハイネとシャルロッテを自室に呼びつけていた。
あの子というのはアリスと一時期部屋を共にしてたリサのこと。
反抗的で悪癖も治らない彼女は、今は監獄生活を強いられていた。

 高い塔の最上階に閉じ込められているというと、何やら童話の
世界のお姫様のようだが、現実のリサ姫様の生活環境はそんなに
ロマンチックではない。三度三度の食料だけはメイドたちが小窓
から差し入れてくれるので不自由はないものの、あとは何もして
くれないのだ。

 誰にも会えない、どこへも行けないのはもちろんの事、いくら
お姫さまでも食べたらそのままという訳にはいかない。生理現象
は必ず起こるのだ。

 室内便器が一杯になっても鉄格子のはまった窓ではその容器を
窓の外に出すことができない。つまりその中身を投げ捨てる事が
できないのだ。

 自分の匂いに耐えかねた彼女は、結局、死んだ気になって中の
物を鷲掴みにして窓の外へ放り投げたが、それでも部屋の臭気は
消えなかった。

 おまけに、手に付いた汚物を洗い流す水がないのだ。
 自分の汚れた手を見てリサは悲しくなった。

 孤独と不安、それに鼻をつく悪臭が彼女を苦しめ、出口の見え
ない苦行は彼女を絶望の淵へと追いやっていく。

 「最近はおとなしくしているみたいですけど、とにかくつかみ
どころがなくて……」

 シャルロッテが答えると、ペネロープは

 「女の子なんてみんなそうよ。本当の気持ちなんて、自分でも
分からないことが多いもの」

 「本当に反省しているのか。ここでやっていく気があるのか。
もしないのなら…」

 ハイネの言葉にペネロープが続ける。

 「そうね、竜巻岬に戻ってもらうしかないわね。……いいわ、
私が判断しましょう。……私の子供ですもの」


 こうしてペネロープはリサが閉じこめられている塔の最上階へ
とやってくる。

 「ガチャッ」

 重い鉄の扉の錠が開く音がして、リサに緊張が走った。

 「わあ、なんて臭いんでしょう」

 ペネロープは部屋に入るなりハンカチを取出して鼻を押さえ、
施錠された窓を開け放った。そして、リサがそれまでに抱え込ん
だ汚物をカーテンごと窓の外へ投げ捨てる。

 「もうないの」

 彼女は辺りを見回すと室内便器に目を止めて、それもまた容器
ごと外へ。

 その後もあちこち見回したが、やっと落ち着いたとみえてリサ
の椅子にどっかと腰を落ち着けた。

 「ふう……こんなに酷い処だとは思わなかったわ。お仕置きと
しても少しやり過ぎね」

 その落ち着き先を見計らうようにしてリサがペネロープの前に
膝まづく。

 ただ、彼女は両手を胸の前で組んだままペネロープには何も話
さない。否、話せなかったのだ。

 ペネロープもまた訴えかけるリサの眼差しを見つめながら何も
語らない。

 そんな二人の沈黙がどれほど続いただろうか。いきなり、

 「裸になりなさい。素裸に」

 ペネロープは一言だけ宣言する。

 すると、リサもそれで十分だったのだろう。彼女は何も言わず
服を脱ぎ始め、やがて自らの力では外せない貞操帯を除き全裸と
なった体を汗臭いベッドの上へと投げ出した。

 「ピシッ」

 ほどなく、ペネロープの巧みな鞭さばきから生じた革紐鞭の乾
いた音が、牢獄の鉄格子を抜けて、五月の大空へと解き放たれる。

 「ピシッ、ピシッ、ピシッ」

 立て続けに数回振り下ろしたあとで、

 「お母さまの言い付けを守らない子は悪い子ですよ」

 「ピシッ」

 「分かってますか」

 「ピシッ」

 「もう、悪い行いはしませんね」

 「ピシッ」

 ペネロープは独りで小言を言い、ひたすら鞭を振るう。でも、
リサはそれに何も答えない。彼女は、ただただペネロープの鞭に
泣くだけだった。

 「どうですか。ご返事は」

 「ピシッ」

 「<はい>」リサはそう言ったつもりだったがペネロープには
伝わらない。

 「うれしいの」

 「<はい>」

 「ピシッ」

 「どうなの。やっぱり嬉しいんでしょう」

 「ピシッ」

 リサは微かに頭を振る。

 「女の子にとって、一番厳しい罰はぶたれることじゃないの。
誰からも相手にされないことよ。これに懲りたら、ぶたれている
うちに心を入れ替えなさいね」

 「ピシッ」

 「<はい>」

 リサはやはり微かに頭を振るだけが精一杯だった。


 リサは死の淵で許された。おむつをつけて赤ちゃんで一ヵ月。
さらに毎日お尻を叩かれる幼女で一ヵ月。この日から合計二ヵ月
もかかったが、それでもついにアリスたちとの再会をはたしたの
である。

 「リサ、よかったわ。あなた本当にリサなのね。みんながもう
今頃は竜巻岬の海の底だって……みんなが脅かすから、……もう
会えないんじゃないかと思ってたのよ」

 「ごめんねケイト。心配かけて。……でも、もう大丈夫よ。…
…私、二度と幼女へは落ちないわ。御転婆はレディーになるまで
封印するから……」

 「本当?」

 「本当よ、とにかくレディーになるまでは頑張るつもりなの。
だって、ここには横道なんてないんだもの。レディーになるか、
先生たちの気紛なお仕置きを受けてここで暮らすか、……あとは
死ぬかだもんね」

 「やっぱり死にかけたんだ」

 アンがリサの顔色を鋭く見抜く。

 「そうよ。みんなが監獄って呼んでるあの塔のてっぺんに、私、
三ヵ月も閉じこめられてたの。危うく本当に死にかけたわ。……
こんな話みんな聞きたくないわよね」

 「わあ、そんなことないわ。私、聞きたい」

 「もちろんよ。ねえ、話して……」

 アリスに続いてケイトも賛成したが、

 「あんた変わらないね。先生方はあんたのそんなおしゃべりな
ところも含めて御転婆だって言っているのよ」

 「いいじゃないの、アン。せっかく、リサが話してくれるって
いうんだから、話の腰を折らないで。……じゃああなたは聞きた
くないのね」

 「いいえ」

 「まあ、図々しい。だったら黙って聞きなさいよ。……いいわ、
リサ。話して……」
 この場はケイトが取り仕切った。

 「そこでは十日に一度ハイネさんかシャルロッテが懺悔を聞き
にきてはくれるんだけど、どんなに真剣に懺悔しても相手にして
いないみたいな、冷たい表情で帰って行くし………時間がたつに
つれて……明日はもう目が覚めないんじゃないかって……」

 リサは思わず言葉に詰まる。

 「だから夜は恐くて寝られないし、……昼間うとうとしてるん
だけど、外で小さな物音がするたびに心臓が握り潰されるくらい
強いショックを受けて飛び起きるの」

 「かわいそう」

 「それって蛇の生殺しよね」

 「でも懺悔が聞き届けられたから帰れたんでしょう」

 「ええ、まあそうなんだけど。最後にお母さまが来たの。その
時は正直言ってこれが最後かなって思ったわ。だから最後の懺悔
は何を言おうかって迷ったの」

 「で、何って言ったの」

 「……んん……」リサは首を横に振る。
 「結局何も言えなかったの。ただ、お母さまを見つめてただけ」

 「それで許してもらったの」

 「………」リサは静かに首を縦に振った。

 「以心伝心ってわけね」

 「素裸になりなさいって言われたの。それだけ。……ベッドに
うつぶせになったら鞭が飛んできて……嬉しかったわ」

 リサは思わず涙ぐむ。

 「変なの。鞭でぶたれるのが嬉しいだなんて」

 「そりゃそうよ。どんなにお尻が痛んだって死ぬよりはましで
しょうよ」

 「そうじゃないわ。リサが何も言えなかったのは、お母さまが
自分を許してくれたことが嬉しかったのよ。それが分かったから
でしょう。違うかしら」

 「………」リサは静かにこうべを垂れる。

 「さすがはアン。亀の甲より年の功ね」

 「もうよしましょうよこんな話。せっかく四人揃ったんだもの。
これからは四人揃って少女になることを考えましょうよ」

 アリスは沈んだ雰囲気の井戸端会議に区切りをつける。それは
一番の新参者であるアリスが、初めてイニシアチブを取った瞬間
でもあった。


*****************<了>*******

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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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