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St.Mary学園の憂鬱~番外編~

           St.Mary学園の憂鬱
                 ~番外編~

         <<夏休み地獄編>>②

<クラスメート>

 山間を縫うように走る黒塗りの高級車。
 それが、見晴らしのいい丘の上に差し掛かった時、急停止する。

 「またでございますか?」
「またって何よ、今日はこれが初めてよ」
 「もう、学校まで五分とかかりません。そこでなさったら……」
 老人の声を背に車を降りる少女。

 白いブラウスに紺のプリーツスカート。背伸びをするその顔は
けっこう可愛らしい。でも、なぜか頭は丸刈りだった。

 「あっ、お嬢様」
 老人が後を追って車を降りるが、その時は少女はすでに緑の坂
を駆け下りていた。

 「やれやれ」
 老人をため息をつくが、追いかけるようなことはしなかった。

 少女は丘を駆け下りると茂みの中へ突進。
 背の高い草の陰でしゃがむと……

 「********」

 ティシュをその場に捨てる。

 「やっぱりウンコは外でなきゃ……」
 およそ女の子らしくない事を言ったあと、遠くを見つめる。
 「誰よ、あれ?……私以外に、野ぐそ?……まさかね」

 少女は腰を上げた。


 一方、こちらはそんな野生児のような少女に見られているとも
知らず一心不乱にマーガレットで花占いをしている少女。
 同じようにしゃがんでいても、やってることはまるで違うのだ。

 「……やる……やらない……やる……やらない……やる………
やらない……やる……やらない……やる……やらない……やる」

 とうとう花びらが残り五枚となって、『やる』という花びらを
引く。この先、四枚目がやらない。三枚目がやる。二枚目がやら
ない。最後は……
 もう、結果は見えていた。

 少女はそこでためらいながらも、再び花びらを引き抜き始める。

 「……やらない……やる……やらない……」
 そして、最後の一枚を引き抜いた時……

 「!」
 少女の目の前に新たなマーガレットが現れた。

 驚いて少女が振り返ると、そこに野ぐその女の子がいる。
 「本当はやりたくないんでしょ。だったらこれ使ったらいいわ」

 そう声をかけられ、おかっぱ頭の少女は顔を赤くして再び向き
直る。
 おかっぱ頭といっても、彼女のヘアスタイルはおしゃれなヘア
カットなどではない。襟剃りした首の上に、ヘルメットのような
黒髪が乗っかるワカメちゃんカットだ。
 そんな幼女のような髪型をしているが、顔も身体もしっかりと
中学生に見えるから、そのアンバランスがおかしかった。

 その笑い声にムカッときたのか、おかっぱ頭の少女がふたたび
振り向く。
 「あなた、誰なの?」

 ところが、その答えは意外な処からやってきたのである。

 「野ぐその好きなお姉さんよ」

 「!」
 今度は、その野ぐそのお姉さんが顔を真っ赤にして振りかえる
番だ。

 「あなた、誰よ?」
 もの凄い剣幕で睨みつけるが、スケッチブックを抱えたその子
はモヒカン刈りにした髪を風に靡かせるだけで動じない。

 「あなたって馬鹿じゃないの。観察力ってものが何もないのね。
見ればわかるでしょう。みんな同じ服、St.Maryの制服を着てる
のよ。お仲間に決まってるじゃない」

 「あたしの…………してたの…………その~……見てたの?」
 言いにくそうにたずねると、それには答えず、モヒカンの少女
はスケッチブックを開いてわたす。

 「!」
 そこにはさっき草むらでしゃがんでた自分の姿がスケッチされ
ていたのである。

 「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない。私、あなたの
名前だって知ってるわよ」

 「?」

 「合沢千穂さんでしょう。槍投げ関東大会3位の実力者よね。
お爺様は有名な植物学者の合沢啓一氏。ご両親が離婚した関係で
そのお爺様に育てられたんだけど、フィールドワークでお爺様と
一緒に野山を歩くうち、野ぐその楽しさに目覚めた。……そんな
ところかしらね」

 「あなた、誰よ!」

 「私?……私は、南条静香。あなたと同じA3よ。ちなみに、
その子もA3なの」

 「えっ、こんな大人しそうな子が……」

 「そうでもないわよ。この子、佐竹幸恵って言って、名古屋の
St.Maryじゃ知らない人がいないくらいの有名人よ。……だって、
気に入らないお友だちを何人も病院送りにしてるんだから」

 「この子が?……」
 千穂はあらためてマーガレットの少女を見直すが、どこをどう
見ても、身体は華奢だし顔は大人しそうだし、武闘派のイメージ
ではなかった。

 「この子のお爺さんはね、名古屋マフィアのボスなの。しかも、
この子を溺愛してるそうよ。だから、孫娘を泣かす奴は許せない
みたいで……まだ、死人がでてないのが不思議なくらいだって、
うちの調査員が言ってたわ」

 「調査員?」

 「そうなの。うちの家業は興信所なのよ。アーバン探偵社って
いうんだけど、知らない?……本社は大阪にあるけど、いちおう
全国展開してて、関東にもけっこうお店があるのよ」

 「名前だけは……」

 「ついでに教えてあげるとね、今でもこの子の舎弟さんたちが、
校門を入るまではあちこちで見張ってるみたいよ」

 「えっ!」
 千穂があわててあたりを見回すと、それまで気がつかなかった
が、黒づくめの男たちがあちこちからこちらを見ている。

 『ということは、私の野ぐそも見られてたってことかしら…』
 千穂は今さらながら背筋が寒くなった。

 そんな千穂の耳に囁くような幸恵の声が届く。
 「私は、……たしかに、お爺様は名古屋で金融業をしています。
でも、私はそんな怖い事なんてしてません。ただ、私がお爺様に
悲しい顔をすると、お爺様のお友達の方々が心配してくださって、
時々、不幸な事が起こるみたいですけど…それって私のせいじゃ
ないんです」

 『それって、「その通りです」って言ったのと同じじゃない。
この子、ピントずれてる』
 千穂は思った。

 「でも、不思議よね。あそこには今日は百人を超える子が入る
のよ。その中で、A3は私たち3人きりなのに、こうして同じ処
に集まっちゃうんだから……」
 静香が言うと……

 「仕方がありません。私、行きます」
 幸恵が立ち上がる。

 「行くって、どこへ?」
 千恵が幸恵に尋ねると……

 「ですからリフォーム学校です。みなさんも私と一緒に行って
くださるんでしょう。だったら、心強いですから……」
 幸恵の言葉に……

 「あんた、ひっとして、さっきの花占い、『やる』『やらない』
ってやつ、あれ、学校に行くか行かないか決めてたの?」
 千恵が驚くと……

 「ええ、逃げ出そうか、どうしようかと思って……」
 こともなげに幸恵が言うから……

 「あんた、長生きするわね。あんな沢山の人たちがお見送りに
来てるのに、今さら逃げられるわけないでしょう」
 千恵が言えば……

 「だって、あの方たちは私のお味方ですもの。わけを話せば、
お父様の処へ連れて行ってくださるわ」

 「あのねえ……」
 千恵の言葉を遮って静香が……
 「いいから、いいから、この子と私達じゃ住む世界が違うの。
……さあ、参りましょうか、お姫様。……ところで、お姫様は、
お鞭とか受けたことがありますか?……そうですか、見たことは
おありなんですね。……それでは、私達と一緒に初めての経験を
なさいませ」

 静香は幸恵の肩を抱いて丘を下りて行く。
 その下りた処に地獄の世界は口を開けて待っていたのだった。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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