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St.Mary学園の憂鬱~番外編~

        St.Mary学園の憂鬱
                 ~番外編~

       <<夏休み地獄編>>③

<初めての寄宿舎>

 千穂は一旦車に戻ると、そのまま校門脇の駐車場へ。
 そこは今回この合宿に参加する百名以上の生徒と父兄でごった
がえしていた。

 『みんな楽しそうね』
 千穂は羨ましそうにそれを眺める。

 ここにいる子はみんなこれからお仕置きされに行くようなもの
だから楽しかろうはずはないが、他の子はこの校門をくぐる間際
までこうして身内が付き添ってくれるのだ。
 これは自分とは大きな違いだった。

 お爺さんの死後、未成年の彼女にも後見人はついていたのだが、
その人達はこんな処へ来る人たちではなかった。

 『あっ、佐竹さん』

 佐竹幸恵は、裏金融のドンである啓一お爺ちゃんが、ひときわ
でかいリムジンで乗り付けていて、その中へ引き入れている。

 「こなくて……いいのに」
 幸恵はおじいちゃまのだっこの中で甘えていた。

 「私を恨んでいるかい?こんな処へ入れて……」
 おじいちゃまに言われて幸恵は首を振る。
 「怖がらなくていいんだよ。お仕置きなんて、ほんのちょっと
で、すむからね。頑張ったご褒美は何がいい。何でもいいぞ…」
 おじいちゃまはやさしく孫娘を撫でた。
 老人にすれば可愛くて仕方がないといった感じだったし、幸恵
もここでは幼い子供に戻っている。

 『あっ、南条さん』

 軍用ジープの側にはサングラスを掛けた中年女性と静香がいた。

 「来ないって言ったじゃないか」
 「ごめん、時間が空いちゃったの。……下着持ってきたわ」
 「ここは、支給される下着以外着用できないの知ってるだろう」
 「大丈夫、ベッドのマットレスに挟んでおけばいいわ。何かの
時に役立つはずよ。この辺、夜は冷えるから……」
 「余計なことだけど、貰っとくよ」

 千恵にはこんな会話をする相手がいなかった。
 しかし、この門をくぐれば三人の立場が一緒になる。
 それだけが彼女には救いだったのである。

 千恵が小石を蹴りながら校門で待っていると、静香がお母さん
に肩を抱かれてやってくる。
 でも、千恵に気づくと、すぐに笑顔になって駆け出した。

 「チャオ。待っててくれたの?」
 静香の明るい言葉の後ろ10m位の処に、サングラスを外した
静香のおかあさんの姿があった。

 一方、幸恵はお爺様がその小柄な両肩を抱きながらやってくる。
大柄なお爺様に小柄な幸恵の身体がすっぽり収まっていて、正面
から以外、幸恵の顔が見えない。

 そんな彼女も二人を見かけると……
 「こんにちわ」
 と挨拶した。

 「幸恵、お友だちかね?」
 お爺様の声に……
 「ええ、さっきお知り合いになったクラスメートの方たちです」

 「そう、孫をよろしくお願いしますよ。何ぶん気が小さいので
ご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが、ご親切には、
それなりに報いますので、どうかよろしくお願いします」

 老紳士はこれがマフィアのボスかと思うほど丁寧な物言いで、
中学生二人に挨拶したのだった。

 ところが、その瞬間……
 肝心の幸恵が、校門を背に脱兎のごとく逃げ出したのである。

 あっけに取られる二人。
 でも、啓一氏は落ち着いたものだった。

 「運動会にはまだ早いのに、困ったものです。でも、大丈夫。
すぐに戻りますよ」

 啓一氏の言葉通り。幸恵がその場へ戻るのに3分とは掛からな
かった。
 ただし、今度は……

 「馬鹿やろう、こんなの恥ずかしいだろう。下ろせ、下ろせよ」

 黒づくめのスーツに身を包んだ男性が、手足をバタバタつかせ
ている幸恵を肩に乗せて運んで来る。それはまるで荷物のようだ。

 「いやあ、だめえ~~ごめんなさい」

 幸恵の大音響がご近所に流れる中、その荷物は床几(しょうぎ)
に腰を下ろした啓一氏の膝の上へ……

 「だめえ~~~もうしないから、ごめんなさい」

 啓一氏は何も言わず、荷解きとばかりに幸恵のスカートをまく
りあげて、そのお尻をぴしゃりぴしゃりと五つ六つほど叩いた。

 そして、その荷物を再び抱き上げると、校門の中へと運び……
穏やかに立たせて捨てたのだった。

 「べえ~~~」

 幸恵はお爺様にアカンべーをすると、今度は学校の中へと走り
去ったのである。

 『あの子、幼児か!?』
 二人は、思わずこぼれ出そうな笑いをこらえつつそう思うのだ
った。


 入園式は百人の生徒が一同に会せる礼拝堂で行われた。
 A3クラスの住人は、その中でもたった3人きり。この少し前、
衣裳部屋でピンクのブラウスに紫のプリーツスカートを渡されて
それに着替えたところだった。

 他の子が学校の制服でよかったのに対し、A3クラスの子だけ
はこの格好で通さなければならないのは慣例だからだが、落第生
中の落第生に対する見せしめという意味もあったに違いない。

 「ねえ、この色の取り合わせ、おかしいわよね。デザイナーの
センスがないんだわ」

 幸恵は両脇の二人に同意を求める。彼女はいつの間にか、三人
の真ん中に座って、今はしきりに与えられた服の品定めをしてい
たが、そのうち、「A3の子、うるさいわよ」という声で黙って
しまう。

 演壇に立ったのは、理事長先生。札幌から鹿児島まで、全国に
12箇所もあるSt.Mary学園の統括責任者だ。

 「みなさんは色んな事情からここへいらっしゃったと思います。
中には中間期末のテストの時にたまたま体調が悪かっただけ、と、
嘆いている方もいるかもしれません。でも、それは言い訳です。
決められた日時に体調を整えるのもあなた方り責任だからです。
でも、大丈夫ですよ。次回からは、そんな愚痴が出ないように、
ここでは日々の日課もしっかり管理しますから。………………」

 演説しているのは御歳80歳の学園の大長老。ブロンドの髪に
高い鼻、青い瞳はどこから見ても西洋人だが、アメリカから日本
に来て長いせいか日本人以上に流暢な日本語で話している。
 とはいえジェネレーションのギャップは大きく、生まれてまだ
14、5年しかたたない子供たちと話題が合うはずもなかった。
 子どもたちにしてみれば、それが義務だから仕方なく、欠伸を
押し殺しながらも、その演説を聴いていたのである。

 ところが……
 そんなことに頓着のない幸恵だけは前のテーブルにほっぺたを
押し付けると、すやすやと昼寝を始めたのだ。

 「ちょっと、やめなさいよ」
 「幸恵、叱られるわよ」
 「だって、眠いもん」
 両サイドの二人が心配して、起こそうとするが、彼女は一向に
意に介さない。

 すると、たちまちシスターがやって来て……
 幸恵を無言で連れて行く。
 二人はてっきりお尻を鞭で叩かれるものだと思っていたが……

 大幹部が演説しているさなか、それを邪魔するような音はたて
られない。そこで、彼らが取った方法が……

 「ショーツを脱ぎなさい」
 小さな声だがそこはまだ中学生。大柄なシスターに上から目線
ですごまれると抵抗できなかった。そこで幸恵がその指示に従う
と……

 「これに座って。スカートを持ち上げてお尻をじかに乗せるの」
 厚い鉄板が敷かれた座板の上に、ショーツを脱いだ剥き出しの
お尻が当たるから幸恵は顔をしかめる。

 「どう?冷たいでしょう。目が覚めたかしら?…………何なら、
先生のお話が終わった後に、熱~~い鞭でもう一度お尻を暖めて
あげてもいいのよ」
 シスターの意地悪な言葉に幸恵はただ下を向いてしまう。

 「……あなたたちは怠惰という罪を犯しました。でも、恐れる
ことはありません。罪は清算すればよいのです。電車に乗るのと
同じです。目的地までの切符を買わなかったあなたたちは、その
ままでは駅を出ることができません。でも、そこで精算すれば、
出られるでしょう。その先に罪はありません。ここも同じです。
駅に精算所があるようにここは学校の精算所なのです。どうか、
二学期はまた晴れがましい気持でみなさんの学校の門をくぐって
ください。健闘をお祈りします」

 理事長先生のお話が終わると、幸恵は千穂や静香のもとへ返さ
れた。幸い、鞭のお仕置きはなく、どうなることかと思っていた
二人はほっと胸をなでおろしたのだが……
 当の幸恵はというと、ほんの一瞬だが、意地悪なシスターたち
を下から睨みつけて、どこか不満そうな顔を見せたのである。

 「馬鹿ねえ、何であんな時に机に顔をつけて寝るのよ。どうな
っても知らないわよ」
 千穂が言えば……
 「いい度胸してるわ。それって、天然?学校でもいつもそんな
なの?」
 静香も驚きを隠せない。

 しかし、幸恵はというと……
 「まったく、度胸がないんだから……」
 視線をさっきのシスターたちに向けてつぶやく。

 二人には『度胸がない』って誰の度胸の事だか、まるで意味が
わからなかったのである。

************************

 三人は、ほかの大勢の子供たちと共に教科書やノートといった
勉強道具だけが入ったかばんを持ってこれから寝泊りする寄宿舎
へ向った。

 部屋はグループごとに分かれており、素行には問題のないB1
やB2といった大勢のグループを収容する大部屋もあれば、素行
にも成績にも問題のあるA2やA3といった少人数の為の小部屋
もあった。

 ちなみに、今回、A2で来た子は四人、A3で来た子は千穂、
幸恵、静香の三人だけである。
 当然、彼らには大きな部屋は割り当てられず、奥の四人部屋が
割り振られていた。

 「わあ、快適じゃない。私、ベッドはもっと狭いのかと思って
たけど、これなら私でも大の字で寝られるわ」
 千穂がさっそく白いシーツのベッドにダイブする。

 部屋にはこの他、自習用の机と本棚、それに絹地の笠を被った
昔ながらの白熱灯スタンドが備え付けられていたが、あとは何も
ない部屋だったのである。

 ふと見ると、そんな娘たちの部屋の入口に、短髪で恰幅の良い
ジャージ姿の中年オヤジが立っているから、静香が思わず……
 「あんた、誰?」
 と言ってしまう。

 「誰って、何だ。お前こそ誰だ?……人にものを尋ねる時は、
まず、自分から名乗るもんでしょうが……大阪のSt.Meryでは、
そういう事も教わらなかったのかい。失礼だよ。南条静香さん」

 「えっ、私、知ってるんですか?」

 「頭の格好見りゃわかるよ。今回は、東京、名古屋、大阪から
一人ずつ来るって聞いてたからね。見たところ、モヒカンはお前
さんだけじゃないか。昔から、素行の悪い生徒にお仕置きとして
強いる髪型は各学校で決まってるんだ。……お前さん処の大阪が
モヒカン。東京は丸刈り。名古屋がワカメちゃんカット。………
だから、誰が誰だか、ここに来たら一目でわかったよ。私は若林
輝子。ここの責任者。断っとくが、私は男じゃないよ」

 こう言われて三人が緊張しないはずがなかった。まるでヤクザ
のチンピラみたいなのが舎監だなんていうんだから『これって、
冗談か?』とさえ思ったほどだったのである。

 「今日は全部で101人来てるけど、そのうちBクラスの子が
81人。この子たちは主にお勉強できている良い子ちゃんだから
問題はないが、問題はAグループ。つまりお前たちだ。お前達の
場合は素行に問題のある生徒としてここに送り込まれているわけ
で、ここではお勉強だけでなく、その清算もしなきゃいけない。
ましてや、お前達みたいに3教科とも赤点だなんで言ったら一日
がどれほど大変だか、わかるよな」

 「はい、覚悟はしてきました」
 静香が言うと……

 「それは結構だ。とにかく泣いても騒いでも、こちらが定めた
ノルマをこなすまではここから出られないから。いちおう3週間
って学校では教えられたと思うけど、それはあくまで、すべてが
うまくいった場合のことで、それで出られるのは大半がBの子だ。
Aの子は4週間から5週間が当たり前で、夏休み終了ぎりぎり迄
ここにいた子も珍しくないから、そのへんは覚悟はしとくんだな」

 「…………」
 三人はヤクザ先生にすごまれて声もでなかった。

 「何だ、急にしゅんとしちゃったな。今年のA3は意外に純情
じゃないか」
 若林先生はにこやかに笑うと……
 「いいか、ここにAで来るってことは、お前達がそれだけ学校
に迷惑をかけたってことだから、その罪は償わなきゃいけない。
……でも、従順に罰を受ければ試練はそんなに長くはかからない。
要は、自分の我を捨ててマリア様や先生に身も心も委ねられるか
どうかってこと。それができた子から卒業だ」

 「…………」
 三人は青ざめた顔のまま一言も言葉がでなかった。

 「何だか、お通夜みたいになっちゃったな。ここには色んなの
が来るから、こちらも最初から甘い顔はできないけど、お前たちが、
誠心誠意ここで頑張るなら三週間はあっと言う間だよ」

 「…………」
 三人は小さく頷いた。

 すると、若林先生が廊下に向って叫ぶ。
 「桜井先生、終わったら、こちらもお願いします」

****************<3>*******

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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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