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第3章 童女の日課(8)

<The Fanciful Story>

              竜巻岬《16》 

                              K.Mikami

【第三章:童女の日課】(9)
《悪戯オンパレード》<3>


 四人の童女たちにとってその冬のクリスマスは味気ないものに
なった。数々の悪戯がペネロープの不評をかってしまいXスマの
パーティーに呼ばれなかったのだ。

 パーティーのご馳走もケーキもプレゼントも全ては夢の彼方へ
と消え去り、かろうじてイヴの日のミサへの出席が許されただけ
だった。

 「あ~あ、つまらないなあ。去年のXマスプレゼントはさあ、
狐のハーフコートだったのよ。アン、あなただって、ツイードの
ドレスもらったじゃない」

 「そうよ、でもあんなものいつ着て行くの。クリスマスかせい
ぜい復活祭の時だけよ」

 「いいじゃないの、それでも。女の子はたった一日のために、
三百六十四日を犠牲にできるんですからね。ところがどうなの、
今年は……ロールケーキ一巻とチョコレートの小箱が一つだけ。
私たちは子供じゃないのよ」

 「何言ってるの。私たちは子供じゃない」

 「そりゃあそうだけど。クリスマスぐらい大人になってお祝い
したいわ。少女たちだってこの日はドレスを着てレディーたちと
対等な口をきいてパーティーに出席できるのよ。去年は、私たち
だってそうだったじゃない」

 「仕方がないでしょう。誰かさんが派手に悪戯をしかけるから」

 「何言ってるのよ。けしかけたの、あなたたちでしょう。……
こっちは、ない知恵絞ってあれこれ悪戯を考えてるのに」

 「どうだか。あんたのは単なる思いつきじゃないの」

 「言ったわね。私だって独りならあんなことしないわよ」

 「もういいじゃないアン。ケイトもやめて。私たちはすでに、
先生たちの間では四人組として悪名を馳せてるの。今さらケイト
一人が抜けてみても、それも四人組の仕業と思われるだけだわ。
それより、これからXマスパーティーの買い出しに行くんだけど
付き合わない」

 リサが思いがけない話を持ち出す。

 「買い出しってどこへ」

 「食料倉庫よ。私の勘に間違いがなければ極上のハムとウイン
ナー、それにシャンパンだってまだ残ってるはずよ」

 「でもねえ……今度見つかったらただじゃあすまない気が…」

 「何言ってるの。今までだって、ただすんだことなんて一度も
なかったじゃないの。アンはどう?…嫌なの?」

 「いいわ、つきあってあげる。どのみち、この四月には結論が
出るんだもの。良い子になるのはそれからでも遅くないわね」

 アンが腰をあげるとケイトも同調した。

 三人はドアの方へ。でも一人足りない。

 「アリス、あんたもいらっしゃい。抜け駆けはだめよ」

 アリスは気がすすまなかった。単なる悪戯ではなく泥棒という
行為が彼女を逡巡させていたのだ。が、積極的に反対することも
ままならない。結局、これも四人で行動することになった。

 しかし、もしこの時アリスを一人残していけば事態は変わって
いたかもしれない。

 「やったあ。大漁、大漁」

 食料倉庫は大バーゲン中だった。クリスマスと新年をひかえて
保存食を中心に買い溜めしてあるのだ。パーティーに浮かれて、
人が寄り付かないこともあり、買い出しは順調に進んだ。

 生ハムやウインナーはリサが……林檎やバナナはアリスが……
シャンパンはケイトが……それぞれ担当する。

 「アン。それも持っていくの」

 「これは上物のブランデーだわ。きっとご領主様のお使いもの
だわ」

 「だったらやばいんじゃない」

 「いいじゃないの。こんなチャンスめったにないのよ。どうせ
明日はお休みだし…私、これ持っていくわ」

 こうして四人は、意気揚揚と自室へ引き揚げてきた。

 すると……

 「ん???」

 部屋の電気がついている。

 「アリス、部屋の電気は消しなさいって言ったでしょう」

 「いやあね、消してきたわよ」

 四人が怪訝な面持ちで部屋に入ってみると……

 「…!…」
 「…!…」
 「…!…」
 「…!…」

 四人にとっては顔見知りの婦人が部屋の奥にどっかと腰を降ろ
しているではないか。
 しかもそれだけではない。今まで何もなかったはずのテーブル
にはローストビーフやフルーツポンチ、シャンパンなどが乗って
いる。

 「Xマスおめでとう。今夜はみなさんとささやかなパーティー
を開こうと思って準備したけど、どうやら徒労だったみたいね」

 ペネロープは呆れてものが言えないといったふうだった。

 と、その時、後ろのドアが閉まる。
 すでにコリンズ先生もこの部屋に入っていたのだ。
 四人はあっという間に袋の鼠になった。

 「…………………………」

 こうなってしばしの沈黙が過ぎた。ペネロープは自制しようと
つとめるのだが、そう思えば思うほど余計に鼻息が荒くなって、
四人をさらに萎縮させてしまう。四人は抱えてきた荷物さえ置け
ないままにその場に立ち尽くすだけだったのである。

 やがて、コリンズ先生が仲裁に入る。
 四人組にまず荷物を床に置くように促すと、アリスに向かって
……
 「懺悔なさい」

 「でも、許してくれる?」
 アリスはいつになく弱気になっていた。

 「許していただけるかどうかにかかわりなく、それが礼儀よ」

 コリンズ先生に背中を押されるように前へと進み出たアリスは、
ペネロープの足元で、両膝をついて胸の前で両手を組むいつもの
ポーズをとったが、ペネロープのあまりに鋭い視線に、ついその
目をそらしてしまう。

 「今日はせっかくのクリスマスなのに、これじゃあ淋しいって、
みんなが……それで、食料倉庫へ行って……」

 途切れ途切れの懺悔に、ペネロープが一喝。

 「アリス、誰に向って話してるの。私の目を見て話しなさい」

 アリスは恐怖心のあまり身動きがとれないのだ。
 見かねたコリンズ先生が、アリスの顔を起こしペネロープの方
へ向けて支えてやる。おかしな格好だが、こうしてやらなければ
彼女はまたすぐに下を向いてしまうのだった。

 「今日はせっかくのクリスマスなのに食事が淋しかったので、
食料倉庫から食べ物を取ってきてしまいました。ごめんなさい」

 「だらしがないわね。先生に支えていただかなければ懺悔一つ
まともにできないの。ま、それはいいでしょう。私はねアリス、
あなただけはこんな事をする子じゃないと思っていたからとって
も残念だわ」

 「………………」

 「コリンズ先生。その子を連れていらっしゃい。どうせ、一人
では私の膝まで辿り着けないでしょうから」

 アリスはコリンズ先生に抱えられるようにして、ペネロープの
膝にうつぶせになるとネグリジェの裾を捲りあげられた。

 「……パン」

 ワンフットスティクと呼ばれる小振りの枝鞭は小さな反動でも
よくしなって的確にアリスの丸い膨らみをとらえた。とはいえ、
所詮は七十に近い老人の力である。しかも、アリスはショーツを
穿いたままだ。

 「パン………パン………パン………パン」

 ゆっくりとした調子で控えめに響く鞭の音は、傍目には小学生
ぐらいまでしか効果がないようにさえ思えた。
 ところが、一ダース半をこえたあたりからアリスが暴れだす。

 両足を蹴りあげ、体をよじって、もがき苦しむのだ。コリンズ
先生があわててアリスの両手と頭を押さえるが、最後には……

 「ごめんなさい。もう悪さはしません。二度と盗みはしません
から。良い子になります。やめて、もうだめ。痛い、痛い、痛い
痛いんだってばあ~~ごめんなさい。ごめんなさい」

 アリスが子供のような懺悔を始めたのである。

 「さあ、もういいわ。これ以上は、私の方が重くてやってられ
ないもの」

 アリスは結局二ダース半で解放されたが、膝から降ろされても
歯の根はあわず、嗚咽も止まらない。それはアリスが鞭に慣れて
いないことを差し引いても驚きだった。だから

 「私はもう疲れたわ。あとはあなたがやってちょうだい」

 ペネロープがこう言った時、他の童女たちはほっとしたに違い
なかった。


 四人が均等に前菜を消化すると、次はいよいよメインディシュ
だが、それには準備がいる。

 四人は自分たちのベッドに仰向けに寝かされると、まず枕側の
ポストに両手を万歳するような形で縛り付けられた。
 続いてその両足も短い紐を足首に結わい着けて、右足は右手の、
左足は左手の、ポストに固定される。

 早い話、赤ちゃんがおむつを取り替える時のあのポーズ。
 女の子にとっては最も恥ずかしいあの姿勢で、この料理は食べ
なければならななかったのである。

 「アン、それにケイト。あなたたちがそんなにお酒が飲みたい
とは知りませんでした。本来なら許されないところですが、今日
はクリスマスでもあることですし、特別に許してあげましょう。
ただし、ベッドにはこぼさないようにね」

 ペネロープの挨拶が終わると、さっそくコリンズ先生によって
二人にお酒が振舞われた。ただしそれは口から飲むのではない。
グリセリンと混ぜてピストン式の浣腸器で肛門という名の口から
流し込まれたのだ。

 「……<あああ~>……」

 二人の下腹が一瞬にしてか~っと熱くなる。腸に直接手を突っ
込まれて揉みこまれているような、強烈な刺激が下腹を襲うのだ。

 お浣腸の経験はある二人だが、その締め付けられるような大腸
の動きはそれまでに経験したことのないものだったし、なにより
悪酔いしたような状態で排泄を我慢するのは最悪だったのである。

 おまけにこれまでなら何としてでも我慢しなければならないと、
心が一つにまとまっていたのに、直腸から吸収されたアルコール
のせいで頭が半分マヒしてしまい、こんな切羽詰まった状態でも、
時折このまま出したら気持ちいいかな、などと思ってしまうのだ。

 二人は、この不思議な凌虐感に苛まれながら寝ることもできず
クリスマスの夜を過ごさなければならなかった。

 これに対しリサとアリスの未成年組はもっと単純だった。

 「あなたたちは未成年ですからお酒は遠慮なさい。その代わり、
私があなた達にプレゼントをあげましょう。これはずっとあなた
たちのそばを離れないし、重くないから荷物にもならないわよ」

 ペネロープはそう言うと、日本で覚えたという鍼灸のお道具を
テーブルに取り出す。しかも、今回ばかりは艾の大きさが今まで
とは違っていたのである。

 お灸は、艾がごく小さなものなら熱いと感じる時間も短いし、
灸痕も、よほど目を近付けなければわからないほど些細なものだ
が、ある一定以上の規模で皮膚を焼いてしまうとその火傷の痕が
はっきりと残ってしまう。

 ペネロープは、今回あえてそれをやろうとしたのだった。
 目標となった地点は、肛門とヴァギナの間。ここに一センチ大
の艾を七個、十字の形にのせて一つずつ火をつけようというのだ。

 「……<んnnn>……」

 猿轡をされコリンズ先生ががっちりとその体を押さえているに
もかかわらずリサのベッドは地震のように揺れる。しかもそれが
終わったにしてもお仕置きはまだ全体の七分の一でしかないのだ。

 アリスの場合は、卒倒しかける自分の意識を繋ぎ止めるだけで
精一杯だった。

 「アリス、あなたにこんなことはしたくありませんでしたが、
仕方がありません。恨むなら私を恨みなさい。いきますよ」

 ペネロープの言葉が終わるとあの膨らむおしゃぶりが口の中へ。
あとはどうやって我慢したのかわからないほどの熱さ痛さだった。

 二人の寝台がそれぞれ七回ずつ揺れ動き、ペネロープは大仕事
を終えて帰って行く。
 四人が、やっと終わったと思ったのも束の間、その帰りしな、
ペネロープはコリンズ先生にこの四人の恥ずかしい格好を写真に
撮るように指示していたのだ。

 「ガシャ(バシャ)」「ガシャ(バシャ)」「ガシャ(バシャ)」
「ガシャ(バシャ)」「ガシャ(バシャ)」「ガシャ(バシャ)」

 やがて、激しいシャッター音と共にフラッシュが焚かれ、四人
組は定められた格好のまま記念写真に収まる。
 しかも、彼らはこの後もこの恥ずかしい格好のままで夜明しを
しなければならなかった。

 成年組は夜中じゅうお浣腸を我慢し続けなければならないし、
未成年組もお灸の痕に薬を塗ってもらったものの患部をこすって
はいけないということで、お股剥き出しの格好を強いられたのだ。


 いずれにしても四人にとっては散々なクリスマスだった。
 いや、そう言ってはなるまい。この場合はコリンズ先生こそが
一番迷惑を被ったのだろうから。


 四人組に対するデザートは次の日の昼近くになって振舞われた。

 ペネロープの呼び出しにしたがって彼女の部屋へ行ってみると、
昨夜の四人組の痴態が、すでにパネルとなって張りだしてある。

 「どうかしら?……なかなかの出来栄えじゃなくて。せっかく
だからお城のみんなが見える所に飾りましょうか」

 ペネロープのこの本気とも冗談ともつかない言葉に四人は返す
言葉がない。昨日の今日だから、何と言っていいのかわからない
のだ。

 「あなた方が少女になりたくて色々運動しているらしいことは、
先生方から聞きました。でも、あなた方は時々やり過ぎるみたい
ね。今回のも、そうです」

 「ごめんなさい、お母さま」

 アリスが言うと他の子も
 「ごめんなさい」
 「お母さま御免なさい」
 「ごめんなさい」
 と、口をそろえる。

 すると、ペネロープは満足そうに微笑み……
 「私は、今でもあなたたちを愛していますよ。私はね、あなた
たちを愛したいから助けたんです。目的はたったそれだけ。一般
の人にはきっと奇異に聞こえるでしょうけど、本当に目的はそれ
だけなの」

 ペネロープは座っていた籐椅子から腰を浮かすと、アリスの手
を取り、再び座りなおした自分の膝に乗せる。
 そして、アリスの服を一枚一枚脱がせ始めたのである。

 「お金や財産目当ての人に言うことをきかせるのは、簡単よ。
でもねそれじゃあ嫌なの。子供は可愛いけど、けっこう残酷な事
も平気で言うし、何よりお婆ちゃんには育てるのが大変だわ」

 アリスはとうとう下着姿になった。しかし、それも…

 「アリス、恥ずかしい?」

 「いいえ、お母さま」

 ペネロープはアリスの体全体、局部や胸の膨らみまでも丹念に
撫でまわす。

 「どう、気持ちいいかしら」

 「………はい」

 「よろしい。あなたはどんな時にも私の愛を無条件で受け入れ
る準備ができているみたいね。これで安心したわ。服を着なさい。
次は、ケイトいらっしゃい」

 こうしてペネロープは四人を次々に裸にしていくと、その敏感
な部分を含めその身体全体を丹念に愛撫していく。
 そして、それが終わると、こう言うのだった。

 「四人ともあんなにキツイ折檻をしたのに、私の愛を受け入れ
る気持ちに変わりはないみたいね。あなたたちの愛が変わらなけ
れば、それは私も同じよ。このパネルを掲げる話はなかった事に
しましょう」

 「……ふう…」

 期せずして四人から一様にため息が……

 「このパネルは持ち帰りなさい。ただし、捨ててはいけません。
今度あなたたちが悪さをした時はこれをお城のどこか目立つ所に
掲げますからそのつもりでいなさい。いいですね」

 「はい、お母さま」

 こうして四人組に対するクリスマスディナーはお開きとなった。


 その帰り道、ケイトが、
 「う~~、今でも虫酸が走るわ。あんなの恐いからおとなしく
しているだけじゃない。どうしたら、あんなお婆さん愛せるのよ」

 「ケイト、聞こえるわよ」

 「聞こえたっていいわよ。あんな婆さんに愛されるくらいなら、
私は今でも竜巻岬から身を投げた方がまだましよ」

 「そうかしら、私にはあなたが一番お母さまの愛を受け入れる
気があるように見えたけど……違う……」

 アンがこう言うと、ケイトは……

 「何言ってるの、アン。馬鹿なこと言わないでよ」
 言下にはねつけたものの、なぜかそれ以後は何一つ口を開こう
とはしなかった。

 それはともかく、さすがにあのパネルの存在は童女達にとって
悪戯に対する大きな抑止力となった。
 女の子にとって身体を苛めるだけの体罰より見せしめとなる罰
の方がより効果的なのだ。たとえ異性がいない場所であっても、
自分の性器が写った写真が公衆の前に張り出されるなどという事
になれば、それは女としての自殺行為に等しかったのである。


 四人はすっかりおとなしくなり、冬場は何も問題を起こさず、
季節はやがて春を迎えようとしていたとある日曜日。

 四人は暖かさに誘われて湖へ来ていた。ここは城主が飲料水の
確保を目的に作らせたもので、湖といっても直径百メートルほど
しかない小さな池だが水温む頃には村人のボートが出て賑わう。

 ただ、この時はシーズンには少しばかり早かった。

 「まだ、誰もボートなんて漕いでないわね」

 「ちょっと早すぎたのよ」

 「じゃあ帰る?」

 「嫌だあ~、せっかく外出許されたのに、今度はいつお城の外
に出られるかわからないのよ」

 「だってボートがないのよ」

 「あるわよ。ほら」
 リサは陸揚げされている一艘のボートを指差す。
 それは真新しいペンキが塗られ、オールも付いていた。

 「大丈夫なの、これ」

 「だってこれペンキ塗りたてよ。沈むような船にペンキなんて
塗るはずないじゃない。それに、お母さまがボート屋さんが営業
してたらお母さまの名前を出して借りていいっておっしゃった
のよ。みつかったら、その時、そう言って断ればいいわ」

 「でも、誰が漕ぐの。私達みんなボートなんて漕げないのよ。
第一そのお話はエルマンじいさんがそこにいるから乗せてもらい
なさいってことでしょう」

 「私、漕げるわよ」

 「え、だってさっきは漕げないって」

 「さっきはあんまり経験ないし自信がなかったからそう言った
だけ。こんなの簡単よ」

 リサの言葉に説得力などない。だが、幼女の様に駄々をこねる
姿に負けて他の三人はボートに乗ることを承諾したのである。

 リサの目的は湖の真ん中にある小島。そこの白い水仙に彼女は
目を奪われていたのだ。

 「さあ、みんな手を貸してね」
 当然のことながら張り切るリサ。

 女の子四人でボートを水辺まで持っていくとそれはものの見事
に浮く。水も入ってこないようだ。

 「ほらごらんなさい。何の問題もないじゃない」

 たしかにその時は何の問題もなかったのだが……。

 リサは二人乗りのボートにお客を一人ずつのせて島をめざす。
かなり危なっかしいオールさばきで、なかなかボートを桟橋に着
けられず、思いのほか時間がかかったが、とにかく、全員を島に
上陸させることができた。

 「わあ、すごくきれい。想像以上よ」

 「こんなところがあったのね。誰がお手入れしてるのかしら」

 「まるでお城の中庭みたいよ。でも、これは自然の公園ね」

 「どう、みんな。私のおかげよ。尻込みしてたら何もできない
んだから」
 リサは鼻高々だった。

 「ねえ、この花摘んでいきましょうよ」
 アリスの提案に誰も異を唱えない。

 四人は手に持ちきれないほどの白水仙の束を抱えるとボートに
帰ろうとした。
 ……ところが、

「ボートが沈んでるわよ」

 見ると船の半分までが水に浸かっているではないか。

 「やっぱりこの船使えなかったのよ」

 これまで辛うじて持ちこたえていた補修用の板が外れて、そこ
から水が入ってきたのだった。

 彼女たちは慌てて水を掻き出そうとしたが、あいにくそこには
バケツのような物が何もない。
 今度は、ボートを岸まで引き揚げようとしたが、空のボートを
水辺へ引いてくるだけでもやっとだった彼女たちに、そんな力が
備わっている訳がなかった。

 「どうすんのよ。どうやって帰るつもり」

 「あんたがどうしてもボートに乗るんだって駄々をこねなきゃ
こんなことにはなってないのよ」

 「あ~あ、これでまたしばらくは外出は無理ね」

 非難はたちまちリサに集中する。

 「大丈夫、そのうち誰か向こう岸を通るわよ。大声だせば気が
つくわ」

 リサは悔しまぎれに言い返したが……
 一時間たっても、二時間たっても人っ子ひとりこの湖に人影は
現われなかった。

 夕暮れが迫るなか……

 「このままじゃ野宿ね」

 アンが言うと、リサが……

 「私はいやよ、野宿なんて」
 と答えるので、さすがに温厚なアンも怒って……

 「何言ってるの。あんたのせいでしょう。いいから早く薪拾っ
てらっしゃしゃいよ」
 と怒鳴ることになる。四人のなかに一時険悪な雰囲気も流れた。

 ところが、ケイトが隠れて煙草を吸うために、くすねておいた
ライターでその薪に火をつけると、助け船は意外に早くやって来
た。

 普段火の気のないところから煙が上がっているを不審に思った
村人が様子を見に湖へ降りてきてくれたのだ。

 「おじさ~ん」

 黄色い声を張り上げて泣き叫ぶ四人組に野太い声が返ってくる。

 「待ってろ、今、そっちへ行ってやるから」

 ちょうどその頃、お城の方でも帰りの遅い四人を気遣ってコリ
ンズ先生を中心に捜索隊が出発していた。

 「ちょうどよかったよ先生」

 村人が救援のための船を出すところへその捜索隊がやってくる。

 湖の岸辺は時ならぬお祭り騒ぎになっていた。野次馬を含め、
大勢の村人とお城から来た捜索隊が手に手に松明を持って桟橋に
集まり、小島で焚かれていたものとは比べものにならないほど大
きな焚火が四人の子供たちの到着を待ち焦がれていたのである。

 やがてバタバタという音とともにエンジン付きのボートに乗せ
られたお祭りの主賓が篝火の燃え盛る岸へと帰ってくる。

 「よかった、よかった」

 上陸した彼らに、期せずして拍手が起こった。誰の顔もこれで
一件落着という安堵感でいっぱいの笑顔だったのだ。

 ところが、そんな中で一人だけ恐い顔のまま仁王立ちしている
女性がいた。
 コリンズ先生である。彼女の顔は揺れる松明や焚火の炎の中に
あってより凄味が増し、子供たちにとってはこれから先の身の上
を暗示しているかのようだ。

 案の定、彼女は再会した子供たちにいたわりの言葉をかけるこ
とがなかった

 「弁解することはなにかある?」

 これが四人を前にした彼女の第一声だったのだ。

 「……………」

 それがないとわかると、

 「アン、あなたケイトの手を持ちなさい。ケイトはアンのお腹
に頭を入れる のよ。リサ、あなたはアリスを手伝いなさい」

 コリンズ先生のてきぱきとした指示に従いアンとリサがお友達
のお仕置きの準備をすると先生は何の躊躇もなく二人のスカート
の裾をそのくるぶしのあたりから一気に捲り上げる。

 すると、彼女たちはいずれもショーツを穿いていなかった。
 それは彼女たちの好みというではなく、外出着としてメイドが
用意してくれた前近代的なファッションには、始めからショーツ
など付いていなかったのだ。

 当然、二人の剥出しのお尻は村人や捜索隊の人たちの前に晒さ
れる事となる。
 燃え盛る焚火にほてったお尻が松明の炎の中で怪しく揺らぐ中、

 「ピシッー」

 手慣れた鞭の軌跡が鮮やかなラインを刻む。
 いつもの手順、いつもの風景だ。

ただ、鞭打たれて初めて、
 『恥ずかしい』
 という感情がケイトとアリスにわき起こった。
 恐怖心が過ぎ去り初めて我に返ったというべきかもしれない。
 気がつけばこのお仕置きはいつもの身内での折檻ではないのだ。
見ず知らずの人たちに自分たちはお尻を晒しているのだ。

 そう思うと、一刻も早くこの場を逃げ去りたい気持ちで一杯に
なった。

 その心は自分たちを支えてくれている友達にも伝わる。

 彼女たちもまた、両手とお腹から伝わってくる友だちの異常な
身震いに、はっと我に返ったのだろう。

 だから、友だちの一ダースの折檻が終わった後、リサは無理を
承知で頼み込む。

 「お願いです。私へのお仕置きはお城へ帰ってからにしてくだ
さい。その時は鞭の数が二倍になってもかまいませんから」

 しかし、そんな願いが受け入れられるはずがない。

 「だめよ。ここでの鞭はお城での十倍も効果があるんだから。
あなたも明日からは少女になるんだし、いつまでも、聞き分けの
ないことを言ってちゃいけないわね」

 コリンズ先生の言葉は四人にとってはまさに青天の霹靂だった。

 「私、少女になれたんですか」
 恐る恐るリサが尋ねると

 「そうよ。今日、あなた方が行方不明になる前に四人まとめて
少女になる事が決まったの」

 「お母さまのお許しも得たんですか」

 「もちろんそうよ。でも、ひょっとしたら今回の事件でお流れ
になるかもしれないわね。……さあ、そうならないためにも少女
らしくちゃんと罪の償いをなさい」

 四人は希望と不安を胸にお城へ帰ったが、結局、決定は覆らな
かった。

 アリスが童女になって一年余り、四人は待ちに待った少女とし
ての暮らしをやっとスタートさせることができたのである。

夏の夕暮れ(アルベルト・エーデフェルト)

<イメージ絵画>
夏の夕暮れ(アルベルト・エーデフェルト)


************* <了>******


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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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