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第9話 ②
<第9話> ②
そう言って娘のショーツに手を掛けたが、真里の方がその手を押さえ
て抵抗するのである。
「どうしたの?」
あらためてママが尋ねると…
「だって……」
彼女はこちらへと視線を向ける。
どうやらここに誰かいると感じているらしかった。亀山はその性格上
子供たちには知らされていない秘密が沢山ある街なのだが、私の時代で
さえ、お仕置き部屋の鏡はマジックミラーになっているというのが定説
になっていた。
当然、真里としても心穏やかではないのだろう。
ただ、そうは言ってもママがおいそれとそんなことを認めるわけには
いかなかった。
「どうしたの?その鏡になにかあるの?」
「だって、それってマジックミラーなんでしょう」
「そうよ、昔はお父様や司祭様が娘のお仕置きを確認するために使っ
てたの。でも、今は部屋を閉鎖しちゃったから誰も覗けないはずよ」
「ほんと?」
「ほんとよ。行ってみる?」
こう言われたらそりゃあ確認するでしょうから……
「うん」
真里は頷いてさっそくスカートのピンを取り始めます。
すると、その隙に倉田先生は鏡の前へやって来て入口の方へ目配せし
ます。『一旦待避』の指示でした。
そこで河合氏はさっそく私たちが入ってきた入口へと向かったのです。
そして早々マリア様の像を動かして鍵を下ろそうとしますから…
「大丈夫ですよ。すぐにここへは入れませんから、それよりもう少し
ドアを開けておかないとタバコの煙が……」
「あっ、そうか、まずかったなあ」
河合氏は慌てて煙りを外に出そうとするが、何しろ換気の悪い部屋の
ため思うにまかせない。それでも、真里がこの部屋へ押し入るまでには
相当の時間がかかった。
というのも、向こう側はドアの前に椅子や机が積み上げられていて、
まずはそれをどかさなければならないのだ。おまけに鍵が三つも掛かり
引き戸もスルスルと開けられる状態ではなかった。
私たちは先生が鍵を開け始めたところで退散したがそれまででもゆう
に10分は経過していた。
「ほら、これで満足したかしら?」
倉田先生は立て付けの悪いドアを押し開けると、してやったりとでも
言わんばかりに言い放ったが、真里は疑い深い眼差しで部屋のあちこち
を嗅ぎ回っている様子だ。
「もう、いい加減になさい。一目見れば誰もいないのはわかるでしょ
うが」
「うん、……」でも、ママ、この部屋ただ、
こちら側のドアは隠し扉で見た目は板壁にした見えないうえにしっか
り施錠されているから子供の眼力で見抜くのは難しかった。
『そうか、こんな仕掛けになってたのか』
私は過ぎ去りし日に先生とここを訪れた日の事を思い出していた。
真里もこれで私とまったく同じ経験をするこになるのだ。
「ねえ、ママ、この部屋、タバコの匂いがしない?」
真里はするどい嗅覚でタバコの匂いを嗅ぎだしたが……
「どうして?」ママは一応鼻を動かしてはみるのだが……
「いいえ、あなたの気のせいよ」
と、一蹴されてしまう。
「さあ、気がすんだら帰るわよ」
結局、何の発見もないまま真里は先生と裏部屋をあとにした。
戸を閉めて鍵が掛けられ、以前のように椅子や机をドアの前で積み上
げている様子に聞き耳を立てながら、頃合いを見計らって私たち裏部屋
へと戻ってみる。
再び、マジックミラーを覗いてみると、真里がすでに下半身をすっぽ
んぽんにされているところだった。
新たな蒸しタオルが用意され、真里はそれにお股とお尻を任せる。
亀山での正式なお仕置きの作法では、鞭打ちの時はお股とお尻をママ
や先生から綺麗に拭いてもらうのが慣例になっていた。
ま、小さい頃ならまだしも大きくなってからは誰も見てないとはいえ
これって結構恥ずかしかったのを覚えている。
これが終わると、お馬さんと呼ばれる鞭打ち台に自らしがみつかなけ
ればならない。このお馬ちゃん、クッションが効いてるから抱き心地は
申し分ないのだが、結構高いので小さい体には怖かったのを覚えている。
男の子はパンツも半ズボンも脱がされて下半身はすっぽんぽんだが、
女の子はスカートは捲られて安全ピンで留められている。どちらも同じ
ような哀れな姿だが、女の子にはさらに加えて試練があった。
「はい、口を開けて」
ママの指示で真里が口を開くと、そこにねじ込まれたのは今の今まで
自分が穿いていたショーツだったのである。
「さあ、いくわよ。よう~~く反省してね」
先生はそう言うと使い込んだトォーズを真里のお尻に添わせるが……
最初はそれだけ。すぐには一発目を振り下ろさない。
その代わりに、ピタピタとトォーズの革の感触をお尻全体に覚えさせ
ながら、同時にたっぷりとアルコールを浸した脱脂綿でお尻の隅々まで
をしっかり拭き上げるのである。お尻の穴も、女の子は性器も……
私もああしてやられた一人だが、子供は体温が高いためにアルコール
のひんやり感が余計に強烈で、これからぶたれる革の感触と共にお尻を
なで回されると発狂したいほどの恐怖感だった。
「えっ、発狂したいほどって、そりゃあいくら何でもオーバーですよ。
だって、そんな辛いことをしてるようには見えないけどなあ」
私が思い出話をすると、河村氏が冷ややかなので、つい…
「あれをやられたことのないあなたに何が分かるんですか!あなたも
あの子と同じ頃にこれをやられてみれば、それがどんなに恐ろしいか、
分かりますよ」
私は河村氏を睨みつけてしまった。亀山のお仕置きは過激な事をして
いるように思われがちだが、お灸を除くとその主体は精神的なもので、
いかに身体を痛めずにお仕置きの効果をあげるかを追求しいる。これも
そんな長年の経験から割り出された一つなのだ。
亀山では、このくらいの年齢の子にはこれが、こんな性格の子にはこ
れが、今の精神状態ならこの方が、…と、ケースバイケースでお仕置き
のやり方が細かく決められていたのである。
倉田先生はようやくじらしにじらして最初の一撃を放つ。
「うっ!!!!」
それは自分のショーツで猿轡をしているから悲鳴にはならないが、私
の経験でいうなら、その強烈な衝撃は、お馬さんを抱いて逃げ出したい
ほどの痛みだったに違いない。
最初の一撃は身体が慣れてないせいもあるが目から火花が散るという
表現が決してオーバーじゃないと分かるほどキツいものだったのである。
倉田先生はここで一旦真里の口からショーツを吐かせるが、その顔は
それまでママに甘えた子供らしいものとは違い、たった一発で唇を振る
わすほどの怯えの表情に変わっていたのである。
「今日は12回にしましょう。国語が6回、算数が6回よ。いいわね」
「……」真里は本当は『はい』というつもりだったが、そのあまりの
衝撃に声が出ないでいた。
「今、1回すんだから、あと11回よ、頑張りなさい」
倉田先生はそう言うと、再びショーツを真里の口に噛ませ、再び後ろ
に回って脱脂綿に含んだアルコールを可愛いお尻へ丹念に塗り始める。
そして、太股を大きく開かせてはその奥に秘められたまだまだ可愛い蕾
にもしっかりと新鮮な外気を取り込んでやるのだ。
「………………」
これには河村氏も満足した様子で、思わず笑みがこぼれる。
ただ、私はここで育って、この部屋に何度も出入りしている身として
は、時が経った今でも女の子の御印を見てにやつく気にはなれなかった。
倉田先生は一旦前に回って口に含ませた真里のショーツを取り出すと
「痛かった?」
笑顔で尋ねたが返事は返ってこなかった。
たかが革ベルトとあなどるなかれ、本気の一発は大人だって飛び上が
るほど痛いのだ。子供の真里にとってはこのまま身体をバラバラにされ
るんじゃないかと思うほどの恐怖だったに違いなかった。
「(今のは何?こっちはそれどころじゃないの!)」
そんな仕儀だったのだろう。
「あなたも、もう六年生になったんだから、お仕置きも五年生の時と
同じじゃないの。しっかりパンツを噛んで自分の至らなさを反省なさい」
先生は動揺の収まらない真里の口に再びショーツを噛ませようとした
が、何か気がついたのかそれをあらためて広げてみる。
「あらっ?あなた、今ならメンスの時期にはかかってないわよね。…
…痔かしら???まさかね………ひょっとして画鋲の上に腰かけたとか」
倉田先生はすかさず真里の顔を見る。
すると、相手は子供だから顔色がすぐに変わってしまうのだ。
「そう、画鋲だったのね……で、誰なの?」
倉田先生は当然犯人を聞きたがるが……
「…………」
真里はすぐには口を割らなかった。というのもこうした事は子供同士
の遊びの中で起こることで、もし、こんなことで友だちを売ったりした
ら、それこそあとで、仲間はずれにされたり虐められたりしはかねない
からだ。
とはいえ、先生もこうした問題を看過できなかった。亀山では、『お友
だち同士が仲良くしていなければいけない』という絶対的な決まり事が
存在するからだ。
もちろん巷にだって仲違いする同級生や反目するクラスメートなんて
珍しくもないだろうが、ここではお父様方がご自分の娘を溺愛している
場合が少なくなく、子供の喧嘩がいつの間にか親の喧嘩となって、その
挙げ句いじめっ子の粛正なんて物騒なことにもなりかねない。
庶民にはピンとこないかもしれないが権力を持った人たちにとっては、
たかが孤児の一人や二人、お人形をゴミ箱にでも放り投げる様な気安さ
で、それから先の人生を潰すことなど簡単にできるのだ。
そんな大人の事情もあってか先生は『とにかく、仲良くさせておかな
ければ…』という強迫観念にとらわれ、子供同士の喧嘩や虐めには特に
神経を尖らせていたのである。
「いいたくないの。でも、そんなことしてると、また虐められるかも
よ」
「いいの、遊びだったんだから……」
「遊び?悪ふざけしてたってこと?でも、度が過ぎれば同じことよ。
ここではお友だちと仲良くできない子はお仕置き。そう決まってるの。
あなただって知ってるでしょう。亀山では一番大事なお約束よ」
「………………」
「あなたがそのお友だちの事を言いたくないってことは、あなたにも
何か後ろ暗いことがあるんじゃないのかしら。そうなったら、あなたも
お仕置きの列に並ばなきゃならなくなるわね」
「そんなことありません……」
「だったらいいじゃないの。先生だってあなた達がどんな遊びをして
いたのか知りたいわ。……でも、それがイヤなんでしょう」
「イヤってわけじゃ……」
真里はやっぱり口が重かった。そこで先生は最後の手段……
「いいわ、だったらおばば様にここへきてもらいましょう。あなたも
おばば様になら話せるでしょうから」
「だめ、そんなことしないで…」
さすがにこれには反応が早かった。
色々やられるお仕置きだがやはりお灸だけは別格で、この山を下りる
までそうたびたびすえられたわけではないのだが、ひとたびすえられる
と、その後3年間はママや教師の脅しだけで効果があるというありがた
いお仕置きだったのである。
「美枝ちゃんと美子ちゃんです。三人でお仕置きごっこやろうってこ
とになって、画鋲をいくつお尻につけられるか競争してたんです」
真里はようやく口を割った。聞けばたわいのないことだが、虐めとい
うのはこんなことからエスカレートするから先生としても気が抜けない
ないのである。
「……でも、二人には私がしゃべったなんて言わないでね」
「そう、そんなに二人が怖いの」
「怖いってわけじゃ……」
真里はそう言ったが、怖いというのが真実だろう。これを口実に仲間
はずれにされたり虐められたりしかねないからだ。
そんなことはママだって百も承知だったから、この後真里は密告した
二人の前で厳しいお仕置きを受けることになる。そして、その二人には
それよりもさらに厳しい折檻が待っていたのだった。
これが亀山流のけじめの付け方で、密告された方も目の前で密告者が
厳しい罰を受けているので、自分たちも仕方がないかと思えるのである。
「へえ、子供の世界にもそんなに大変な深謀遠慮があるんですね」
河村氏は私が中の様子を説明すると感激したようにこう呟いた。
「ところで、部屋の四隅に小鳥の巣箱みたいなのが掛かってるけど、
あれは?……」
「やだなあ、この間図書館で見たじゃないですか、カメラですよ。今
は無人ですけど僕の頃は8ミリか16ミリで専門の方が部屋にいました。
そう言えばカメラ用に照明が点いてて部屋全体ももっと明るかったか」
「まるで、映画撮りだ」
「ええ、昔はね。だからお仕置きに至る話し合いは別の部屋でして、
ここでは純粋にお仕置きを受けるだけだったんです。……そうか、今は
話し合いもこの部屋なのか……」
私は昔と何もかわっていないと思い続けていたがここではじめて隔世
の感を感じたのだった。
「ねえ、鞭のお仕置きってああやって、一回一回アルコールでお尻を
ぬぐうの?」
「回数が少ない時は全部やりますけど、今回は12回と言ってるから
最初の三回か四回だけだと思います。あんまり何回もやってると慣れて
効果が薄くなります」
「さっきの鞭はこっちもびっくりするくらい厳しかったみたいだけど
あんなの12回も受けるの?」
「鞭の威力というのは、たいてい最初が一番キツくて、あとはそんな
でもないんです。ほら、今、二回目の鞭が派手に「パーン」って鳴った
でしょう。でも、あんな音のする時はかえって痛くないんですよ」
「その場、その場で使い分けてるんだ」
「ええ、こんなもの鞭を扱う人のさじ加減ひとつでどうにでもなっち
ゃいますから、真里ちゃんだって最初12回ぶちますって言われた時に
そんなに反抗的な態度をとらなかったからこんなに優しくしてもらえて
るんです。もし、先生を怒らしちゃってキツいのを12回ももらったら
すぐにはお馬さんの背を降りられません…今晩、ベッドで仰向けに寝る
のも無理です」
「そんなに厳しいんだ」
「ええ、お仕置きですからね、仕方ないですよ。……お尻叩きなんて
いうと軽い懲罰くらいに思ってる人がいますけど、亀山では、やられて
三日目でもまだ痛いなんてのがあるんですから…こんなチビちゃんには
しませんけど……」
「そりゃ、そうだろうけど…でも、中学生ならそんなのもありなんだ」
「ええ、彼らはもう赤ちゃんではないので見せしめを受けることはな
いんですが、その分体罰はキツくなるんです」
「なるほど」
「私も赤ちゃんの頃は素っ裸にされるたびに『お姉ちゃん達はいいな、
恥ずかしいことされないから』と思っていましたが、実際なってみると
ケインなんて呼ばれる籐鞭で毎日のようにぶたれてヒーヒーでしたよ」
「よく考えられてるだね。たしかお仕置きのモットーみたいなのが…
あったよね」
「安全で、心に残って、…それでいて悪感情は残さない。最後に必ず
抱いてもらうのもその為なんです。特に赤ちゃんのお仕置きってのは、
その効果はどんなに長くても次のご飯までしかもたないようにできてる
んです」
「じゃあ、それから先は忘れちゃってもいいってこと?」
「忘れやしません。痛みがなくなるだけです。痛みは去っても心には
残るようにしてあるんです。今、そこで一回一回アルコールで拭いてる
のもその為なんですから…」
「なるほど、そういう意味か。飴と鞭を使い分け、皮膚感覚を大事に
してるってわけだ」
「そういうことです。女の子の場合は痛みと快感を微妙にすりあわせ
ながらリビドーを高めたりもします」
「それって、私のため?」
「ええ、それもありますが、その後の夫婦生活のために必要なんです。
男性は総じてサディステックなものですからね、受け手の女性はマゾヒ
テックに仕上げるんです。それで結婚させてみて、うまくいかなければ
ここに戻ってくればいいからって送り出すんです」
「なるほど、お仕置きにはそんな意味まで含まれてるんだ」
「女王様に言わせると、『お仕置きはすべて子供のためにやってるの。
女の子が偉ぶってお金を稼いでも愛されないなら幸せにはなれないわ』
ということになります」
私は思わず女王様の物まねまでしてみた。
「似てる、似てる」
それは意外にも河村氏にも受けたのだった。
そう言って娘のショーツに手を掛けたが、真里の方がその手を押さえ
て抵抗するのである。
「どうしたの?」
あらためてママが尋ねると…
「だって……」
彼女はこちらへと視線を向ける。
どうやらここに誰かいると感じているらしかった。亀山はその性格上
子供たちには知らされていない秘密が沢山ある街なのだが、私の時代で
さえ、お仕置き部屋の鏡はマジックミラーになっているというのが定説
になっていた。
当然、真里としても心穏やかではないのだろう。
ただ、そうは言ってもママがおいそれとそんなことを認めるわけには
いかなかった。
「どうしたの?その鏡になにかあるの?」
「だって、それってマジックミラーなんでしょう」
「そうよ、昔はお父様や司祭様が娘のお仕置きを確認するために使っ
てたの。でも、今は部屋を閉鎖しちゃったから誰も覗けないはずよ」
「ほんと?」
「ほんとよ。行ってみる?」
こう言われたらそりゃあ確認するでしょうから……
「うん」
真里は頷いてさっそくスカートのピンを取り始めます。
すると、その隙に倉田先生は鏡の前へやって来て入口の方へ目配せし
ます。『一旦待避』の指示でした。
そこで河合氏はさっそく私たちが入ってきた入口へと向かったのです。
そして早々マリア様の像を動かして鍵を下ろそうとしますから…
「大丈夫ですよ。すぐにここへは入れませんから、それよりもう少し
ドアを開けておかないとタバコの煙が……」
「あっ、そうか、まずかったなあ」
河合氏は慌てて煙りを外に出そうとするが、何しろ換気の悪い部屋の
ため思うにまかせない。それでも、真里がこの部屋へ押し入るまでには
相当の時間がかかった。
というのも、向こう側はドアの前に椅子や机が積み上げられていて、
まずはそれをどかさなければならないのだ。おまけに鍵が三つも掛かり
引き戸もスルスルと開けられる状態ではなかった。
私たちは先生が鍵を開け始めたところで退散したがそれまででもゆう
に10分は経過していた。
「ほら、これで満足したかしら?」
倉田先生は立て付けの悪いドアを押し開けると、してやったりとでも
言わんばかりに言い放ったが、真里は疑い深い眼差しで部屋のあちこち
を嗅ぎ回っている様子だ。
「もう、いい加減になさい。一目見れば誰もいないのはわかるでしょ
うが」
「うん、……」でも、ママ、この部屋ただ、
こちら側のドアは隠し扉で見た目は板壁にした見えないうえにしっか
り施錠されているから子供の眼力で見抜くのは難しかった。
『そうか、こんな仕掛けになってたのか』
私は過ぎ去りし日に先生とここを訪れた日の事を思い出していた。
真里もこれで私とまったく同じ経験をするこになるのだ。
「ねえ、ママ、この部屋、タバコの匂いがしない?」
真里はするどい嗅覚でタバコの匂いを嗅ぎだしたが……
「どうして?」ママは一応鼻を動かしてはみるのだが……
「いいえ、あなたの気のせいよ」
と、一蹴されてしまう。
「さあ、気がすんだら帰るわよ」
結局、何の発見もないまま真里は先生と裏部屋をあとにした。
戸を閉めて鍵が掛けられ、以前のように椅子や机をドアの前で積み上
げている様子に聞き耳を立てながら、頃合いを見計らって私たち裏部屋
へと戻ってみる。
再び、マジックミラーを覗いてみると、真里がすでに下半身をすっぽ
んぽんにされているところだった。
新たな蒸しタオルが用意され、真里はそれにお股とお尻を任せる。
亀山での正式なお仕置きの作法では、鞭打ちの時はお股とお尻をママ
や先生から綺麗に拭いてもらうのが慣例になっていた。
ま、小さい頃ならまだしも大きくなってからは誰も見てないとはいえ
これって結構恥ずかしかったのを覚えている。
これが終わると、お馬さんと呼ばれる鞭打ち台に自らしがみつかなけ
ればならない。このお馬ちゃん、クッションが効いてるから抱き心地は
申し分ないのだが、結構高いので小さい体には怖かったのを覚えている。
男の子はパンツも半ズボンも脱がされて下半身はすっぽんぽんだが、
女の子はスカートは捲られて安全ピンで留められている。どちらも同じ
ような哀れな姿だが、女の子にはさらに加えて試練があった。
「はい、口を開けて」
ママの指示で真里が口を開くと、そこにねじ込まれたのは今の今まで
自分が穿いていたショーツだったのである。
「さあ、いくわよ。よう~~く反省してね」
先生はそう言うと使い込んだトォーズを真里のお尻に添わせるが……
最初はそれだけ。すぐには一発目を振り下ろさない。
その代わりに、ピタピタとトォーズの革の感触をお尻全体に覚えさせ
ながら、同時にたっぷりとアルコールを浸した脱脂綿でお尻の隅々まで
をしっかり拭き上げるのである。お尻の穴も、女の子は性器も……
私もああしてやられた一人だが、子供は体温が高いためにアルコール
のひんやり感が余計に強烈で、これからぶたれる革の感触と共にお尻を
なで回されると発狂したいほどの恐怖感だった。
「えっ、発狂したいほどって、そりゃあいくら何でもオーバーですよ。
だって、そんな辛いことをしてるようには見えないけどなあ」
私が思い出話をすると、河村氏が冷ややかなので、つい…
「あれをやられたことのないあなたに何が分かるんですか!あなたも
あの子と同じ頃にこれをやられてみれば、それがどんなに恐ろしいか、
分かりますよ」
私は河村氏を睨みつけてしまった。亀山のお仕置きは過激な事をして
いるように思われがちだが、お灸を除くとその主体は精神的なもので、
いかに身体を痛めずにお仕置きの効果をあげるかを追求しいる。これも
そんな長年の経験から割り出された一つなのだ。
亀山では、このくらいの年齢の子にはこれが、こんな性格の子にはこ
れが、今の精神状態ならこの方が、…と、ケースバイケースでお仕置き
のやり方が細かく決められていたのである。
倉田先生はようやくじらしにじらして最初の一撃を放つ。
「うっ!!!!」
それは自分のショーツで猿轡をしているから悲鳴にはならないが、私
の経験でいうなら、その強烈な衝撃は、お馬さんを抱いて逃げ出したい
ほどの痛みだったに違いない。
最初の一撃は身体が慣れてないせいもあるが目から火花が散るという
表現が決してオーバーじゃないと分かるほどキツいものだったのである。
倉田先生はここで一旦真里の口からショーツを吐かせるが、その顔は
それまでママに甘えた子供らしいものとは違い、たった一発で唇を振る
わすほどの怯えの表情に変わっていたのである。
「今日は12回にしましょう。国語が6回、算数が6回よ。いいわね」
「……」真里は本当は『はい』というつもりだったが、そのあまりの
衝撃に声が出ないでいた。
「今、1回すんだから、あと11回よ、頑張りなさい」
倉田先生はそう言うと、再びショーツを真里の口に噛ませ、再び後ろ
に回って脱脂綿に含んだアルコールを可愛いお尻へ丹念に塗り始める。
そして、太股を大きく開かせてはその奥に秘められたまだまだ可愛い蕾
にもしっかりと新鮮な外気を取り込んでやるのだ。
「………………」
これには河村氏も満足した様子で、思わず笑みがこぼれる。
ただ、私はここで育って、この部屋に何度も出入りしている身として
は、時が経った今でも女の子の御印を見てにやつく気にはなれなかった。
倉田先生は一旦前に回って口に含ませた真里のショーツを取り出すと
「痛かった?」
笑顔で尋ねたが返事は返ってこなかった。
たかが革ベルトとあなどるなかれ、本気の一発は大人だって飛び上が
るほど痛いのだ。子供の真里にとってはこのまま身体をバラバラにされ
るんじゃないかと思うほどの恐怖だったに違いなかった。
「(今のは何?こっちはそれどころじゃないの!)」
そんな仕儀だったのだろう。
「あなたも、もう六年生になったんだから、お仕置きも五年生の時と
同じじゃないの。しっかりパンツを噛んで自分の至らなさを反省なさい」
先生は動揺の収まらない真里の口に再びショーツを噛ませようとした
が、何か気がついたのかそれをあらためて広げてみる。
「あらっ?あなた、今ならメンスの時期にはかかってないわよね。…
…痔かしら???まさかね………ひょっとして画鋲の上に腰かけたとか」
倉田先生はすかさず真里の顔を見る。
すると、相手は子供だから顔色がすぐに変わってしまうのだ。
「そう、画鋲だったのね……で、誰なの?」
倉田先生は当然犯人を聞きたがるが……
「…………」
真里はすぐには口を割らなかった。というのもこうした事は子供同士
の遊びの中で起こることで、もし、こんなことで友だちを売ったりした
ら、それこそあとで、仲間はずれにされたり虐められたりしはかねない
からだ。
とはいえ、先生もこうした問題を看過できなかった。亀山では、『お友
だち同士が仲良くしていなければいけない』という絶対的な決まり事が
存在するからだ。
もちろん巷にだって仲違いする同級生や反目するクラスメートなんて
珍しくもないだろうが、ここではお父様方がご自分の娘を溺愛している
場合が少なくなく、子供の喧嘩がいつの間にか親の喧嘩となって、その
挙げ句いじめっ子の粛正なんて物騒なことにもなりかねない。
庶民にはピンとこないかもしれないが権力を持った人たちにとっては、
たかが孤児の一人や二人、お人形をゴミ箱にでも放り投げる様な気安さ
で、それから先の人生を潰すことなど簡単にできるのだ。
そんな大人の事情もあってか先生は『とにかく、仲良くさせておかな
ければ…』という強迫観念にとらわれ、子供同士の喧嘩や虐めには特に
神経を尖らせていたのである。
「いいたくないの。でも、そんなことしてると、また虐められるかも
よ」
「いいの、遊びだったんだから……」
「遊び?悪ふざけしてたってこと?でも、度が過ぎれば同じことよ。
ここではお友だちと仲良くできない子はお仕置き。そう決まってるの。
あなただって知ってるでしょう。亀山では一番大事なお約束よ」
「………………」
「あなたがそのお友だちの事を言いたくないってことは、あなたにも
何か後ろ暗いことがあるんじゃないのかしら。そうなったら、あなたも
お仕置きの列に並ばなきゃならなくなるわね」
「そんなことありません……」
「だったらいいじゃないの。先生だってあなた達がどんな遊びをして
いたのか知りたいわ。……でも、それがイヤなんでしょう」
「イヤってわけじゃ……」
真里はやっぱり口が重かった。そこで先生は最後の手段……
「いいわ、だったらおばば様にここへきてもらいましょう。あなたも
おばば様になら話せるでしょうから」
「だめ、そんなことしないで…」
さすがにこれには反応が早かった。
色々やられるお仕置きだがやはりお灸だけは別格で、この山を下りる
までそうたびたびすえられたわけではないのだが、ひとたびすえられる
と、その後3年間はママや教師の脅しだけで効果があるというありがた
いお仕置きだったのである。
「美枝ちゃんと美子ちゃんです。三人でお仕置きごっこやろうってこ
とになって、画鋲をいくつお尻につけられるか競争してたんです」
真里はようやく口を割った。聞けばたわいのないことだが、虐めとい
うのはこんなことからエスカレートするから先生としても気が抜けない
ないのである。
「……でも、二人には私がしゃべったなんて言わないでね」
「そう、そんなに二人が怖いの」
「怖いってわけじゃ……」
真里はそう言ったが、怖いというのが真実だろう。これを口実に仲間
はずれにされたり虐められたりしかねないからだ。
そんなことはママだって百も承知だったから、この後真里は密告した
二人の前で厳しいお仕置きを受けることになる。そして、その二人には
それよりもさらに厳しい折檻が待っていたのだった。
これが亀山流のけじめの付け方で、密告された方も目の前で密告者が
厳しい罰を受けているので、自分たちも仕方がないかと思えるのである。
「へえ、子供の世界にもそんなに大変な深謀遠慮があるんですね」
河村氏は私が中の様子を説明すると感激したようにこう呟いた。
「ところで、部屋の四隅に小鳥の巣箱みたいなのが掛かってるけど、
あれは?……」
「やだなあ、この間図書館で見たじゃないですか、カメラですよ。今
は無人ですけど僕の頃は8ミリか16ミリで専門の方が部屋にいました。
そう言えばカメラ用に照明が点いてて部屋全体ももっと明るかったか」
「まるで、映画撮りだ」
「ええ、昔はね。だからお仕置きに至る話し合いは別の部屋でして、
ここでは純粋にお仕置きを受けるだけだったんです。……そうか、今は
話し合いもこの部屋なのか……」
私は昔と何もかわっていないと思い続けていたがここではじめて隔世
の感を感じたのだった。
「ねえ、鞭のお仕置きってああやって、一回一回アルコールでお尻を
ぬぐうの?」
「回数が少ない時は全部やりますけど、今回は12回と言ってるから
最初の三回か四回だけだと思います。あんまり何回もやってると慣れて
効果が薄くなります」
「さっきの鞭はこっちもびっくりするくらい厳しかったみたいだけど
あんなの12回も受けるの?」
「鞭の威力というのは、たいてい最初が一番キツくて、あとはそんな
でもないんです。ほら、今、二回目の鞭が派手に「パーン」って鳴った
でしょう。でも、あんな音のする時はかえって痛くないんですよ」
「その場、その場で使い分けてるんだ」
「ええ、こんなもの鞭を扱う人のさじ加減ひとつでどうにでもなっち
ゃいますから、真里ちゃんだって最初12回ぶちますって言われた時に
そんなに反抗的な態度をとらなかったからこんなに優しくしてもらえて
るんです。もし、先生を怒らしちゃってキツいのを12回ももらったら
すぐにはお馬さんの背を降りられません…今晩、ベッドで仰向けに寝る
のも無理です」
「そんなに厳しいんだ」
「ええ、お仕置きですからね、仕方ないですよ。……お尻叩きなんて
いうと軽い懲罰くらいに思ってる人がいますけど、亀山では、やられて
三日目でもまだ痛いなんてのがあるんですから…こんなチビちゃんには
しませんけど……」
「そりゃ、そうだろうけど…でも、中学生ならそんなのもありなんだ」
「ええ、彼らはもう赤ちゃんではないので見せしめを受けることはな
いんですが、その分体罰はキツくなるんです」
「なるほど」
「私も赤ちゃんの頃は素っ裸にされるたびに『お姉ちゃん達はいいな、
恥ずかしいことされないから』と思っていましたが、実際なってみると
ケインなんて呼ばれる籐鞭で毎日のようにぶたれてヒーヒーでしたよ」
「よく考えられてるだね。たしかお仕置きのモットーみたいなのが…
あったよね」
「安全で、心に残って、…それでいて悪感情は残さない。最後に必ず
抱いてもらうのもその為なんです。特に赤ちゃんのお仕置きってのは、
その効果はどんなに長くても次のご飯までしかもたないようにできてる
んです」
「じゃあ、それから先は忘れちゃってもいいってこと?」
「忘れやしません。痛みがなくなるだけです。痛みは去っても心には
残るようにしてあるんです。今、そこで一回一回アルコールで拭いてる
のもその為なんですから…」
「なるほど、そういう意味か。飴と鞭を使い分け、皮膚感覚を大事に
してるってわけだ」
「そういうことです。女の子の場合は痛みと快感を微妙にすりあわせ
ながらリビドーを高めたりもします」
「それって、私のため?」
「ええ、それもありますが、その後の夫婦生活のために必要なんです。
男性は総じてサディステックなものですからね、受け手の女性はマゾヒ
テックに仕上げるんです。それで結婚させてみて、うまくいかなければ
ここに戻ってくればいいからって送り出すんです」
「なるほど、お仕置きにはそんな意味まで含まれてるんだ」
「女王様に言わせると、『お仕置きはすべて子供のためにやってるの。
女の子が偉ぶってお金を稼いでも愛されないなら幸せにはなれないわ』
ということになります」
私は思わず女王様の物まねまでしてみた。
「似てる、似てる」
それは意外にも河村氏にも受けたのだった。