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3/15 サマースクール(午前中~3~)

3/15 サマースクール(午前中~3~)

*)また、自分の世界へ戻ってきました。(^-^)/

 その部屋は12畳ほどの広さがありましたが、奥に大きな事務
机と書棚があって、それに壁際に荷物置きのような飾り気のない
テーブルと古いソファが一つ。その他には家具らしいものは何も
ありません。
 広さの割にはガランとした部屋でした。

 ただ、ここへ連れて来られた子供たちにしてみると、それ以外
のことが気になります。

 一つは大きな事務机の後ろの壁に掛けられた大きな額。
 そこに描かれている創立者の大西胤子女史の肖像画があまりに
凛々しくて、子供たちにしてみると、その絵を目の当たりにした
だけで何だか叱られたような気分になってしまいます。

 それにもう一つ、事務机の脇にある傘たてに放り込まれたり、
その上の壁に掛けられた色んな種類の鞭の数々。
 樺の小枝を束ねた鞭やケイン、黒光りするトォーズ(革紐鞭)、
や乗馬鞭、そして伸ばせば2mはあろうかという牛追い鞭まで、
多種多様な鞭がまるでコレクションのようにして飾られています。

 これらは実際に使われることはありませんが、女の子を脅すに
は十分効果的でした。

 そんな悪趣味な部屋へ、私とオマルは老シスターに肩を抱かれ
て連れてこられます。

 「失礼いたします」
 挨拶のあと、そのシスターが事務机からこちらをいぶかしげに
見ている学園長の耳元に二人の事を告げ口して、事は始まるので
した。

 この時、事務机の主は、遠く九州の系列校から派遣されていた
春山先生。彼女がこのサマースクールを取り仕切っていました。

 40歳前後でしょうか……ウェーブの掛かった長い髪を肩まで
たらしたそのお顔は柔和で、私にはパッと見、優しそうにも見え
ますが、もちろん、こちらは叱られる身、警戒を緩めたりはでき
ませんでした。

 先生はシスターの報告を聞き終わると、まず、私たちに向って
右手を小さくパタパタさせます。
 これは、『そこに敷物に膝まづきなさい』という合図でした。

 私たち二人は、目の前にある敷物に膝をつけて、両手を胸の前
で組みます。これは桃園学園で生徒が先生に対して恭順をしめす
時にする伝統のポーズなのですが、これって、要するに……
 『どんな言い訳もしません。どんなお仕置きも引き受けます』
 という意味だったのです。

 すると、春山先生は大きな事務机を回って、私たちの目の前へ。
 そして、先生もまた、その敷物の前で膝まづかれたのでした。

 『何かヤバイかな?』
 息がかかるほどのとても近い距離でのお話。こちらはてっきり
事務机のその場所から私たちを見下ろして、お説教が始まるもの
とばかり思ってましたから、もうそれだけでどぎまぎです。

 「伯爵様の処は楽しかったかしら?」

 いきなり、返事に窮するような質問が飛んできます。
 でも、答えないわけにもいきませんから……

 「はい」
 と、私が小さな声で答えると、オマルにも……

 「小川さん、あなたは、ここ、初めてよね」

 「はい」

 「千賀さんに誘われたの?」

 「いいえ、勝手に……チッチは関係ありません。私が勝手に、
彼女、毎年来てるみたいだし、どんな処か知りたくて……」

 「そう、……それで、楽しいかしら?」

 「…………それは」

 「だって、もともとここはあなた方のような優等生が来る場所
じゃないもの。勉強嫌いの落ちこぼれさんたちの為に企画された
キャンプなのよ。そのことは知ってるわよね」

 「は、はい……」

 「だから、千賀さんが伯爵様の部屋へ出入りしていると最初に
分かった時は『とんでもないことだから、やめさせるべきです』
って、主張する先生もいたの……」

 「…………」

 「驚いた?……でも、むしろそう主張するほうが世間では正論
なのよ。……でも、ここでは多くの先生方の考えが違ってたの。
どう違ってたか、千賀さんわかるかしら?」

 「それは……」

 「勉強ができないのも、家に帰りたくないのも、それはそれで
どちらも心に傷があるからだからで、単に勉強を教える事だけが
教師の仕事じゃないんじゃないかってことになったの。幸い事情
をお話したら、千賀さんのお父様も伯爵様も快く受け入れてくだ
さったから、今日までこんな不思議な事が続いてるのよ」

 「じゃあ、父もこのことは……」

 「もちろん、ご存知よ。……あら、あなたお父様がご存じない
とでも思ってたの。だって、毎年期末テストを白紙で出す子が、
夏休みを終えると再びクラスのトップに返り咲くなんて、そんな
奇跡が毎回毎回続くはずないじゃない。誰だって、そんな馬鹿な
こと、まともに信じたりはしないわ」

 「そりゃあ、そうですですけど……父は私に無関心ですから」

 「そんなことないわ。あなたって成績の割りに心は子供なのね。
お父様はとてもあなたのことを気にかけておいでなのよ。常々、
あなたに関することはどんな些細なことも細大漏らさず報告する
ようにっておっしゃってるわ」

 「だって、今まで何も言ってくれなかったし……特別扱いも、
これといってなかったみたいだから……」
 私は顔を赤らめました。

 「だって、あなたは勝手に白紙の答案をだしてここへ来たんで
すもの。こちらも、あなたを特別扱いしなければならない理由が
ないわ……そうでしょう?」

 「…………ええ」

 「あなたは、ここではみんなと同じ落第生。みんなと同じよう
に、ここでの規則を守って暮らさなければならない困ったちゃん
の一人だわ。だから今日だって、4時限目の授業に遅れたから、
ここにこうして呼ばれたんでしょう?」

 「はい、ごめんなさい」

 「よろしい、素直でなによりだわ」
 先生は満足そうな笑顔で立ち上がります。

 その直後でした。
 奥の部屋で物音が……

 「いやあ~だめえ~ごめんなさい」

 女の子の悲鳴がほんの小さくですが、大きな事務机の後ろから
聞こえてきます。そこはこの部屋のさらにずっと奥の部屋。私も
一度覗いたことがありますが、そこは『折檻部屋』という名前が
ぴったりの場所でした。
 その声がインターホンがオンにしてあった為に流れたのでした。

 「まったく、みっともない声をあげて……」
 春山先生は慌てて事務机にもどり首を振りながらインターホン
をオフにします。そして、私たちにこう付け加えました。

 「一人、ここを脱走した中学生がいて、その子のお仕置きなの。
ああした子は堪え性がないから、勉強の前にまずはお仕置きして
我慢することを覚えさせてからでないと勉強もはかどらないわ」

 先生のため息に私とオマルは思わず二人で顔を見合わせます。
 お互い、相手の目はなんて大きいんだろうって思いました。

 すると……
 「あら、どうしたの?怖いの?…でも、そうかもしれないわね」
 先生は素っ頓狂な顔の二人を見て苦笑いです。

 「あなたたちみたいな優等生は滅多にお仕置きなんてされない
もの……そうだ、あなたたちに手伝ってもらいましょうか。……
あの子のお仕置き」

 「!」
 「!」
 私たちは再び顔を見合わせます。
 もちろん、そんなのイヤですが、イヤとは言えませんでした。

 「あなたたちのお尻をぶつより、その方がよほどあなたたちの
為にもなるわ。……だって、同じ桃園の生徒といっても劣等生が
受ける厳しいお仕置きなんて、あなたたち見たことないでしょう。
これも一種の社会科見学よ。ついてらっしゃい」

 私たちは春山先生の後に続きます。
 今はそうするしかありませんでした。

***************************

 お仕置き部屋への入口は、大きな事務机の右奥にある小さな扉
から入ります。そこはドアを全開にしても、身をかがめて中腰に
ならなければ通れません。おまけに、その先もトンネルになって
いて、洞窟の中を三人は中腰で進みます。

 「まるで忍者屋敷ね。どうして、お仕置き部屋をこんな不便な
処に造ったのかしら?」
 オマルがこぼすと春山先生が答えます。

 「逃走防止のためよ。あなたたちみたいに聞き分けのいい子ば
かりなら問題ないんだけど、うちには何かというと脱走したがる
子が大勢いるの。ましてお仕置きなんてされてたら、なおさらで
しょう。……さあ、もうすぐよ。明かりが見えてきたわ」

 窮屈な姿勢で20m。薄暗い穴の中を進むのは本当に骨が折れ
ました。

 「ふう~やっと出た」
 私は出口で大きく背伸びします。
 と同時にその両目も大きく見開きます。

 そこは広いサンテラスのような場所。目の前は深い崖ですが、
遠くまで緑の山々を見渡せて、さながら観光名所にでも迷い込ん
だ面持ちでした。

 「ヤッホー」
 オマルが思わず叫びますが、そのくらい美しい景色でした。

 「素敵な場所でしょう。本当は、こちらに教室を作ろうという
意見もあったくらいなのよ。でも、胤子先生(創立者)が薄暗い
地下室なんかより、こんなすがすがしい場所の方がより多くの子
が改心するんじゃないかしらっておっしゃって、それで、ここが
子どもたちをお仕置きする場所に決まったの。……それに、ここ
なら、どんな大声をだしてもお友だちのいる教室までその悲鳴が
届かないでしょう。お仕置き部屋としてはうってつけだわ」

 春山先生はにこやかでしたが、私たち二人はまたもや顔を見合
わせます。

 いくら普段あまり厄介にならない場所といっても私たちは未だ
生徒の身、お仕置きの事を楽しげに語る春山先生には背筋が凍る
思いがしたのでした。

 「こちらへ、いらっしゃい。あなた方にはお手伝いしてもらい
たことがあるの」
 おじけづく二人に、春山先生がサンテラスから続くロッヂ風の
建物の扉を開けます。

 今さら逃げ隠れ出来ない二人が恐る恐る踏み込んだ室内は……

 『何よ、コレ!?』
 『やだあ~~なつかしい~~』
 と思う景色でした。 

 12畳ほどの明るい部屋に、円錐形の帽子を被って椅子に座る
子やわざと大きく作られた幼児用木馬に跨る子、椅子の座面に膝
まづいてその背もたれを抱くようにしている子など様々です。
 そして、どの子の傍らにもシスターがいて子供たちに何やら話
かけています。

 実はこれ、桃園学園の幼稚園に実際にあったのお仕置き部屋を
そのまま模したものだったのです。

 桃園の幼稚園では、オイタを繰り返したり、お言い付けを守れ
ない子はこんな部屋に隔離されてしまいます。
 そして、椅子や木馬や先生のお膝の上なんかで先生のお説教を
聴く訳ですが、これが女の子の世界ですからね、くどくどしくて
長いんです。

 でも、それをちゃん聞いて『ごめんなさい』を言わないうちは
決して許してもらえませんでした。
 泣いたり、笑ったり、怒ったり、あくびをしたり、なんてのは
ダメなんです。

 真面目な顔で最後まで聞いて、『ごめんなさい』が言えないと、
たとえお母さんがお迎えに来ていても返してもらえませんでした。

 幼稚園児が相手ですから、ぶったり叩いたりはありませんが、
先生たちも決して妥協はしませんでした。

 「ねえ、あなた、お母さんをどのくらい待たせたことあるの?」
 オマルが懐かしがって私に尋ねてきます。

 「覚えてないけど、1時間くらいならあったと思うわ。最後は
泣きながら『ごめんなさい』の連呼だったけど……」

 「優秀じゃないの。あたしなんか、母に手を引かれて幼稚園を
出た時は星がまたたいてたなんてことが何度もあったわ。『どう
してあなたはそんなに強情なの』ってよく母に叱られたけど……
『許してくれないんだから仕方がないじゃない』ってそこでまた
おおむくれよ」

 「とにかく『心から反省してます』って態度になるまでは妥協
しない先生方だったけど、こっちも自分の気持をどう表現したら
いいのか分からなくて、最初から最後まで泣きっぱなしだったわ」

 「言えてる。あの幼稚園泣けば許されるってもんじゃないから
辛いのよね」

 二人が昔の話題で盛り上がってるところに春山先生が口を挟み
ます。
 「それは、ここでも同じよ。このくらいの歳になると『うわべ
だけ反省してますって顔を作りさえすれば、それでごまかせる』
って思い込んでる輩が大勢いるけど、それではいつまでたっても
この部屋は出られないの」

 「でも、そうすると、いつまでも先生とにらめっこすることに
なりませんか?」

 「だから、そういう時は、そういう気持になりやすいように、
サポートしてあげるの」
 春山先生の言葉に二人の背筋が反応します。

 『サポートって……オシオキ』
 『サポートって……オシオキ』
 思い浮かぶことは二人とも同じでした。

 その思いを見透かしたように春山先生が……
 「あなた達だって、これまでに一回や二回は経験したでしょう。
幼稚園の頃ならいざ知らず、少しぐらい理屈が言えるようになる
と誰だって我を通したい時があるもの。……でも、そんな時って、
どうなったかしら?」

 『やっぱり……オシオキ』
 『やっぱり……オシオキ』
 思い浮かぶことはやっぱり二人とも同じでした。

 「中学生の頃ってね、自分の思い込みだけで正義や真理を語る
お年頃なの。とにかく自分だけが正しくて、他の人の意見が邪魔
で仕方がないよ。だから初めは聞く耳をもたないわ。……でも、
それでは、いくら説得しても無駄だから、そんな時は別の方法を
試す事になるんだけど……桃園では何をするか、二人ともご存知
よね?」

 「お灸もやるんですか?」
 思わず、オマルが口を滑らすと……

 「ええ、やるわよ。……桃園の勲章みたいなものですものね。
あなたたちみたいに優秀な子でも、一度くらいは経験したことが
あるんじゃなくて?」

 春山先生の悪戯っぽい笑顔に二人は思わず顔を見合わせます。
 お互いの、そのえも言われぬ複雑な表情は、不本意ながら経験
済みということでした。

 「ほら、あそこに、円錐形の帽子を被って丸い回転椅子に腰を
下ろしてる子がいるでしょう」

 二人は春山先生の視線の先を見つめます。

 そこでは、おかっぱ頭の少女が回転椅子をほんの少しだけ左右
に動かし、俯き加減に少し怒ったような表情で、シスターのお話
を聞いています。

 少女はシスターのお話を無視しているわけでも、あからさまに
反抗的な態度をとっているわけではありません。世間的にみれば、
先生からお説教を聞く態度としてはこれで十分なのかもしれませ
んが、桃園の場合はさらに厳しいモラルを子どもたちに求めます
から、その基準に照らすと、これでは不十分でした。

 「あのような反抗的な態度では、とても反省しているとは言え
ないわね」

 春山先生の嘆きに二人は小さく頷きます。
 幼稚園の頃『心から本当に申し訳ないという顔』ができるまで、
家に帰してもらえなかった二人としては、春山先生の評価だって
十分に頷けるのでした。

 「あの子、何したんですか?」
 私が尋ねると……

 「脱走よ。大脱走。親に連れられて一旦はここの門をくぐった
んだけど、隙をみて逃げ出したの。手分けして探してもらったら、
近くの街のゲーセンで楽しんでたわ」

 「それで……お仕置き……」

 「人には色んな事情があるから『どんな場合もまず体罰』って
考えは持たないつもりでいるけど、事情を徹底的に訊いてみて、
それがその子の心の弱さから来る場合は、お仕置きも選択肢よ」

 「…………」
 「…………」

 「あら、そんなに緊張しないで……何もあなたたちをお仕置き
しようというんじゃないんだから……ただね、心の弱い子という
のは、表向き『お仕置きはイヤだ!そんな事されたら死んじゃう』
なんてだだをこねていても、自分じゃ何もできない決められない
子たちだから、本心は誰かに背中を押してもらいたがってるの。
他人から強制されることで、『あれは仕方がない事だったんだ』
って自分の心を納得させて始めたいのよ。そうすればうまくいか
なかったとしても他人のせいにできるでしょう。……あなた達は
そんな経験ないかしら?」

 『……言い訳?……責任転嫁?』
 そんな言葉が頭の中をぐるぐる回ります。
 私だって弱い人間ですからそんなことがないはずがありません
でした。

 「うまくいかなかった時の保険をかけたいのよ。あなたたちの
中にもそれはあるでしょうけど……劣等生の場合は、それが極端
なの。……でも、ここでは失敗はさせないわ。むしろ、圧倒的に
恥ずかしいこと、辛いことをさせてから必ず成功させるの。成功
するってどういうことなのかを身体に叩き込んで覚えさせるのが
この学校の目的ですもの。ですから、あなたたちが幼稚園時代、
反省するまで家に帰してもらえなかったように、ここでは成果を
上げるまで、元いた自分たちの学校へは戻さないわ」

 春山先生の言葉は今の私たちには直接関係ないかもしれません。
でも、私にしてもオマルにしても、この学園で長く生徒をやって
いればお仕置き以外にも辛いことは山ほど経験しています。です
から、春山先生の言葉は私達の背中だって凍らすのに十分だった
のでした。


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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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