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4/18 亀山物語<外伝>

4/18 亀山物語<外伝>

 *)昔書いた外伝の導入部分を補正したものです。

 私が転校してきたばかりのその子と出会ったのは校内のパン屋
さんの前でした。
 昼時に店を出す業者に男子も女子も群がるなか、そうした喧騒
を避けて、独りたたずむ少女がいました。

 『見るからにいい身なりをしているわ。ただもんじゃないわね』

 生徒は全員制服を着ていますが、誰もが同じ値打ちの服を着て
いるわけではありません。
 同じデザインの制服でも、その生地なり、仕立てなりで価格は
大きく違うものなのです。彼女の場合は肩のライン背中のライン
が身体にぴったりフィットしていますから最高の生地を仕立て屋
が丹念に仕上げた物なのでしょう。

 それだけではありません。彼女、ただ立っているだけなのに、
その立ち姿に気品がありますし、隙がありません。ああした姿勢
は普段やりつけていない田舎の小娘に、「お前もやってみろ」と
言ったところですぐに真似のできるものではありませんでした。
 生徒の私からみてもお嬢様という形容がぴったりの子だったの
です。

 「ねえ、何見てるのよ?」
 ノン子に肩を叩かれました。

 「……ああ、あの子ね。ちょっと変わってるでしょう。何でも
毎日一万円だしてはアンパン一つ牛乳一個買うんだってよ。……
おばちゃんが、おつりがないって言ったら『カード使えますか?』
だってさ……カードでパンが買えるわけないじゃない。『どっか
頭おかしいんじゃないか』ってみんな言ってるわ」

 『カードってクレジットカードのことだろうか』

 この時代、まだカードというのは大人の社会ですら一般的では
ありませんでした。持ってる人は大人でもごく限られた人たち。
未成年でも親に信用があれば発行してくれますが、これまで、私
以外の高校生が、実際に持ってるところを見たことがありません。
そんなクレジットカードを彼女も持っているのでしょうか。

 そんなつまらないことで興味がわいてしまい、私は彼女に声を
かけてみます。
 自分で買ったアンパンと牛乳を持って……

 「あなたの分、買っておいたわよ」
 こう声を掛けると彼女は軽く会釈して微笑み、そして何のため
らいもなく
 「ありがとう」
 と言って受け取りました。

 そして、そのまま立ち去ろうとしますから、
 「あら、だめよ、一万円払って……」
 と言ってみると……

 「あら、ごめんなさい。忘れてました。どうぞ……」
 これまた何のためらいもなく私に新札を一枚渡してそれっきり
また立ち去ろうとします。

 『嘘でしょう、この子、高校生にもなって買い物したことない
のかしら』
 私は唖然としました。
 
 私も小学校の低学年頃までは、買い物にいつも家の人が着いて
きて、その人がお金を払いますから、親からお小遣いという物を
もらったことがありませんでしたが、それはあくまで幼い頃まで
の事。こんなに成長した子がお金と関わらない暮らしをしてきた
なんて信じられませんでした。

 面白くなってきた私は、この世間知らずのお嬢様に、再び声を
掛けてみます。

 「あなた、おつりをわすれてるわよ」
 私が、もらったばかりの一万円札を渡すと、これまた……
 「あら、これいいんですか?……今日はたくさんお金が戻って
こなくて助かります」
 渡した一万円を何の疑いもなくまたお財布の中に丁寧にしまお
うとしますから、さすがに二の句がつげませんでした。

 「あなた、計算はできるわよね」
 恐る恐る尋ねてみると……
 「ええ、まあ一応、……通知表の数学の欄には5のスタンプが
押してありますので……それなりの評価は頂いてます」
 ときた。

 つまり彼女の頭の中では買い物と数学の計算は別の次元の世界
で起こっているということなのかもしれません。

 益々、興味を引かれた私は、ついでとばかり、
 「ねえ、あなたカード持ってたら、それでもいいわよ」
 と言ってみましたら、これもあっさり……

 「あら、それは助かるわ。では、これでお願いね」

 そう言って私に差し出したのは黒いアメリカンエクスプレス。
 『何コレ!!?、あなた何様なの???何であなたみたいな子
がこんな田舎の高校にいるのよ???』
 私の目が丸くなります。
 当時のアメリカンエクスプレスカードは私が父に頼んで作って
もらったVISAなんかよりはるかに格上のカードでした。

 私は、彼女のカードを確認するうち、風変わりだけどこの子と
お友だちになってみたいと思ったのでした。

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 本当はそんなことをすると遠回りなのですが、帰り道が一緒だ
からという口実で彼女に近づきます。
 こんなお嬢様ですから私にはハードルが高いかと思ったのです
が、話せば意外に気さくな子でした。

 彼女の名前は桐山香澄。なんと、地元桐山藩の17代目当主、
桐山影虎氏の娘さんなのです。

 ならば納得のお姫様と言いたいところですが、実は、私も偶然、
この子と同じ桐山家のお姫様を一人知っているのです。
 ただ、その人は一般常識人。決して世間ずれなどしていません。

 そこで気になったのでさらに聞いてみると……

 「私、最近、お父様の養女になったばかりなんです」
 と教えてくれました。

 本妻との間にすでに娘さんがいるのにあらためて養女を迎えた
というのです。もちろんそれだけでも十分面白いお話なのですが、
話はさらに続きます。

 彼女の生い立ち、育った環境がまるでおとぎ話なのです。私は、
彼女から子ども時代の話を聞くたびに、まるで小説でも読み聞か
されているように、興味津々で引き込まれていったのでした。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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