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4/20 亀山物語<外伝>~2~

4/20 亀山物語<外伝>~2~

*)これ一応小説の一部なんですがHシーンありません。

 香澄さんの話によれば、彼女が育ったのは、『聖母会』という
宗教団体が運営する孤児院だそうです。

 ただ、孤児院といっても街で見かけるようなものを想像しては
いけません。規模が違います。
 三つも四つもの山々や広い田畑がそのまま孤児院の敷地になっ
ていたそうです。

 「そうなの、その中の一つの山が亀山と言って、ここには学校
や教会、病院、劇場、……何よりお義父様と一緒に暮らすお家が
たくさんあったの。つまり私たち孤児が暮らす街があったのよ」

 「街?」

 「そう、ここでは一軒のお家に十二三人の兄弟と同居してるの」

 「兄弟と同居って……それみんな孤児なの?」

 「そうよ、もちろんみんな血の繋がりなんてまったくないけど、
ここでは、同じ家に住む子供たちは、みんなお義父様と同じ苗字
を名乗って、同じ兄弟として育てられるの」

 「兄弟?」

 「そう兄弟よ。だってみんな同じ家に住んでるってことは同じ
お義父様の庇護を受けてるんですもの。血は繋がらなくても全員
兄弟に違いないわ」
 香澄さんは屈託なく私に笑顔を見せた。

 「お母さんはいないの?」

 「もちろんいるわよ。普段はそのお母さんと一緒に兄弟三人で
敷地内のコテージで暮らしてるわ。私のお母さんは真理子だった
けど、他にも良子さんとか真由美さんとか、紀子さんとか、色々
いらっしゃったの」

 「同じお義父様の元で暮らしていても、お母さんが一緒の兄弟
と違う兄弟がいたんだ」

 「そういうこと。あなた、なかなか飲み込みが早いわね。……
ただ、お母さんと呼んでても実際はニーナというか家庭教師なの。
お義父様は、すでに社会をリタイヤしてここに移られてるから、
子育てなんて、そんな骨の折れることはなさらないわ。ひたすら
子どもを可愛がることだけがお仕事なの」

 「それで、いじめとか喧嘩なんてないの?」

 「まったくないってことじゃないんだけど、少なかったわ……
うちはそれがテーゼだから、そういったことは特にうるさかった
わ。いじめ、喧嘩は厳禁なの。とにかく、兄弟でもクラスメイト
でも、みんな仲良くしてないと大人たちはご機嫌が悪かったわ」

 「叱られるの?」

 「叱られるなんて生易しいものじゃないわ。もし兄弟喧嘩して
たり、妹や弟をいじめてたりすると、幼い頃でもお尻の皮が擦り
むけるほどぶたれたわ」

 「体罰ありだったんだ」

 「ありもあり大有り。それもあなたたちが体験しないような、
やたらハレンチなお仕置きがたくさんあったんだから」

 「ハレンチなお仕置き?どんな?」

 「ふふふふふふ」
 香澄さんは思わせぶった笑みを浮かべると……
 「どんなって言われるても困るけど……とにんく本を読んでも、
どこにも書いてないようなハレンチなお仕置き。お義父様ってね、
そんな子どもの泣き顔を見たり、泣き声を聞いたりするのがお好
きなの。だからお母さまたちもお義父様のご機嫌取りに、そんな
セッティングをしてたんだと思うわ」

 「それって、あなたもやられたことがあるってこと?」

 「もちろん、お仕置きを受けずに山を降りる子なんて誰もいな
いもの。どんなに慎み深く過ごしていても、一学期に一回や二回
は必ずお仕置きされたわ」

 「ふうん、聞きたい。それって、例えばどんなことされるの?」

 「聞きたい?」

 「じゃあ、話してあげるけど道端というわけにはいかないから
私のお部屋へ行きましょうか。今日はお暇ある?」

 「ええ、まあ……」

 「だったらそうしましょう」

 すると、まるで香澄さんと私の会話が聞こえていたかのように
黒塗りの高級車が私たちの脇へと止まります。

 「心配しないで、私の家の車だから……学校が乗用車での通学
を快く思ってないみたいだから、いつもここで待ち合わせてるの」

 香澄さんは私を乗せて自宅へと向います。
 私は声を掛けた初日から香澄さんの家へと招待されたのでした。

***************************

 香澄さんのお屋敷は車で30分ほど行った丘陵地の一角にあり
ました。
 年輪を重ねた槇や松の巨木が門柱の代わりに立っていて、そこ
をくぐると広い池や咲き乱れる花壇が出迎えてくれます。

 「まるでお金を払って入る公園みたい」

 思わずつぶやいた私の声は香澄さんに聞こえたかもしれません。
彼女、思わずくすっと笑ったようでした。

 10台、いえ20台は駐車が可能でしょうか。広い車寄せを右
に見て、私たちの車は建物の脇をすり抜けて裏へと回ります。

 こんな名家の場合、その家の表玄関はお客様専用。家族が普段
出入りするのは、たいてい裏に別の玄関が用意してありました。
 とはいえ、その裏玄関だって、私の表玄関より数段立派です。

 「お帰りなさいまし……」
 まるで温泉旅館の女将のように女中さんが広い玄関で三つ指を
着いてご挨拶します。

 「鼎さん、お友だちをお連れしたの。お義父様にご挨拶する間、
私の部屋でお待ち願ってて……」

 香澄さんは学校のかばんを鼎さんに預けると、さっさと廊下を
奥へと進み始めます。

 「こちらへどうぞ」
 私は鼎さんに案内されて一足早く香澄さんの部屋で待つことに
……

 『…………』
 こんな大邸宅です。香澄さんのお部屋もさぞや豪華で煌びやか
……と思いきや、案内されたお部屋を見て、私は目が丸くなりま
した。

 「しばらく、ここでお待ちください」
 女中の鼎さんはあっさり帰ってしまいます。
 「あっ……」
 私は慌てて振り返りましたが引き止める暇もありませんでした。

 『どういうこと?……ここって、本当に香澄さんの部屋なの?』

 怪訝な顔であたりを見回すと、確かに机の上の本棚には高校の
教科書や学習参考書などが並んではいます。
 たしかにそこだけ見ればそうですが、それ以外の場所には……

 『これってサイズは大きいけどベビーベッドよね。四方に柵が
あるし、メリーゴーランドも吊り下げられてるし、クマちゃんの
ぬいぐるみもある。……えっ、何これ!こんな大きな哺乳瓶見た
ことないわ』

 でも、驚きはそれだけじゃありませんでした。壁には聖母子の
油彩……衣装戸棚の上にはフランス人形……ガラス戸棚の中には
バービー人形……小机の上ではリカちゃん人形のままごとセット、
それも今まで遊んでいたかの様に置かれています。
 気がつけば、天井まで届くような大きな本棚の中もたくさんの
童話や絵本が幅を利かせて、高校生が読むような小説や雑誌類は
片隅に追いやられていたのでした。

 『歳の離れた妹さんがいるのかしら?』
 そんなことを思っていると……鼎さんが部屋に戻ってきます。

 「至急、主人がお会いしたいとのことです。ご案内いたします」

 「えっ?わたし?」

 驚きましたが、断れませんでした。私は香澄さんが消えた廊下
を鼎さんに案内されて進みます。

 曲がりくねった廊下は、右に見える中庭に気を取られていると、
いつの間にか屋根のついた渡り廊下へと変わり、やがてその終点
へとやってきます。

 そこはお屋敷の離れなんですが、庶民の家ならこれだけで充分
一軒分の建坪があります。

 「こちらへ」
 その三間ある建物の一番奥の部屋へ案内された私は香澄さんと
再会しました。

 20畳の座敷は畳の部屋ですが、そこに大きなダブルベッドが
置かれています。
 ご主人の影虎さんはそのベッドで横になって私を迎えてくれた
のでした。

 「君かね、香澄のお友だちというは?」

 「はい、藤川詩織といいます」

 「私がこの子の父だ。本来ならもっとちゃんとした格好で挨拶
するところだが、あいにく病気がちでね、こんな格好で失礼する
よ」
 影虎さんは、年の頃なら80歳くらいでしょうか、温厚そうな
顔だちの紳士ですが、たしかに体調はあまりよくない様子でした。

 「香澄、なかなか品の良さそうなお嬢さんじゃないか。よかっ
たね、お友だちができて……安心したよ。実は心配していたんだ
よ。亀山は特殊な里だからね。友だちがいなくて困ってるんじゃ
ないかと思って……」

 「大丈夫ですわ。私は、お義父様さえいていただければ、独り
でもやっていけますから……」
 香澄さんが枕元に膝まづきお父さんの手を包み込むようにして
握っています。

 「そうは、いかないよ。特に女の子は、孤独が一番よくない。
せっかくできたお友だちなんだから大事にしなくちゃ。…………
あなたも、よろしくお願いしますよ。この子はゆえあって世間の
常識の通用しない処で育ちましたから、何かと驚かれるかもしれ
ませんが、決して悪い子じゃありませんから、末永くお友だちで
いてください」

 「大丈夫です。私もみんなから変わり者だと言われてますから」

 私は自虐的にそういいましたが、香澄さんのそれは私のはみ出
しぶりとは桁違いでした。

***************************

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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