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第 8 話
< 第 8 話 >
また数日して河村氏が私を誘ってきた。出会った時『一ヶ月ほど滞在
したいが宿泊費が心配だ』などと言ってしまったため、彼が私のホテル
代を一月分前払いしてしまったのだ。そのためこちらもつき合わざるえ
なくなっていた。
場所は河村氏の邸宅。中庭にいるというのでそちらに回ってみると、
一見ワイルドに見えるイギリス庭園風の芝の上で彼は籐椅子に寝そべっ
ていた。
庭の奥には小さな滝と泉がしつらえられていて、滝の水は若い女性が
肩に担いだ壺の中から流れ落ちている。そして、その泉のほとりでは、
小学四年生になった楓ちゃんがママにお尻を洗ってもらっていた。
「どうですか、ここでの暮らしは?」
「どうもこうもない。最初こそ不安だったが、今となってはどうして
もっと早く移住しなかったのかと悔やまれるくらいだ」
「では順調なんですね」
「順調すぎて怖いくらいだ。真里も今ではすっかりうちの娘だ。先生
は『もうそろそろこちらで引き取ります』なんていってるが、僕の方が
離れがたくなってる」
「いえ、手放しても当番の日にはまた添い寝できますよ。一週間か、
10日のうちには……」
「そんなことはわかってるよ。でも、その辛抱すら効かないんだ。私
自身、自分がこんなにも分別のない人間だったのかと思うほどでね。…
…何度も何度も、『こんな小娘に…』って思うよ。でも愛おしくて仕方が
ないんだ。君たちはいったい幼い頃からどんな躾を受けて育ってるんだ」
「どんなっていわれましても、他を知りませんから……とにかく私達
の目標はお父様に可愛がられること、愛されることだって口を酸っぱく
して教えられるんです。器楽の演奏もバレイも古典詩の暗唱も…およそ
学校で教わるものはすべてお父様に恥をかかせないために一生懸命やら
なきゃいけない。そんな感じでした」
「なるほど、わかるような気がするよ。真里もね、最近になって……
……」河村氏はそこまで言うと思いだし笑いで一度吹き出してから言葉
を続ける。
「寝床で、『おいた』までするようになってね」
「『おいた』ですか……ひょっとしてそれ、添い寝の時に乳首を舐めら
れたとか……」
「そう、それ……驚いたよ。女性ならいざ知らず男の小さな乳だから
……どうして?ってこっちは戸惑ってるんだが、向こうは無邪気に笑っ
てるからね」
「それは亀山では親に対して親愛の情を示す表現なんです。お父様に
抱かれた時は自分の気持ちを無にして甘えなさいって先生にはよく言わ
れますけど、どうしていいか分からない時によくやるんです。私なんか
お母様でしたから本当に赤ちゃんです。でも幸いにしてここに移住する
人でこれが嫌いという人はまずいませんから……おいたと言ってもこの
おいたはお仕置き覚悟でやってるわけじゃないんです」
「やっぱり、僕のためにやってくれてたんだね」
「お嫌いですか?」
「お好きです」
河村氏は破顔一笑。青空に顔を向けて高笑いだった。
「もし、そんなに仲良くなれたんなら、本当にもう先生に任せた方が
いいです。他の子の手前というのもありますから。ここにいる子たちは
みんな孤児で、しかも女の子でしょう、みんな平等に扱ってやらないと
臍を曲げちゃうんですよ」
「ええ、分かってます。先生にもそこの処は注意されましたから……」
河村氏はしばらく間をおいてからこう続ける。「………時に、合沢さん。
これはできないなら聞き流して欲しいんだが……」
「何ですか、あらたまって?」
「この間あなたと図書館に行ったでしょう。あれから、私、あそこに
独りで通ううちに真里をお仕置きしてみたくなりましてね。もちろん、
自分の手で子供をお仕置きできないのは知っています。でも、ああした
映像ではなくライブでお仕置きの様子を見れないものかと思ってるんで
すよ……」
「自宅ではなく学校でのお仕置きを見たいという事ですよね」
「自宅では先生方が色々配慮してくださるし公園ではベンチの老婦人
にチップをわたせば面白いものも見せてもらえるんだが……」
「学校は教育現場ですからね……もし、今すぐどうしてもということ
なら『できません』とお答えするしかありませんね。たしかに、ここは
お仕置きの多い街です。でも、何の落ち度もない子供を折檻すれば先生
との人間関係に悪影響を及ぼしますし、子供の発育にとっても有害です
から……」
と、ここで河村氏は私の言葉を遮った。
「わかっています。その説明は何度も受けましたから。ここは孤児院
であって、巷の売春宿や風俗店ではないとおっしゃりたいんでしょう。
承知してますよ。ただ、真里が本当に何か悪さをした時、私がその場に
立ち会えないものかと思いましてね……親として」
「そういうことですか。それなら可能ですよ。……毎回お仕置き部屋
に乗り込んで行くというのはちょっと無理でしょうが、マジックミラー
越しでよろしければ真里ちゃんがお仕置き部屋へ行くたび倉田先生から
連絡してもらえるはずです」
「そんな制度があるんですか」
河村氏の顔に赤みがさした。正直な驚きと笑顔がなぜか嬉しい。
自分もお仕置きされて育った身なのだが、大人になると不思議なもの
で『子供のお仕置き反対』とはならない。自分もそれで散々苦労したく
せに今度は今の子供たちがお仕置きされてる姿が見たくて仕方がない。
それも品も教養もないスラムの子ではなく自分と同程度の環境で育った
子の泣き顔にひかれるというのだから人間立場が変われば得手勝手なも
のだ。
しかし、ここは私のような身勝手者の欲求を満たしてくれる場所とし
て作られているのだから、その為の準備は怠りなかった。
「そのことは説明されてないんですか?」
「ええ」
「今の制度は知りませんが、おそらく今でもそうした配慮はしてくれ
るんじゃないかと思いますよ。それに誰でもよければ教室の中二階でも
一日何回かは子供のお仕置きは見ることができます」
「ええ、それは利用させてもらっています。中庭でのストリップも…」
「そうですか、お仕置き部屋に連れ込まれるその先が見たいという訳
ですか。でも、あそこの目的はあくまで感化や躾、訓戒といったもので
すからね、脅しただけで終わりというケースもあります。あまり過激な
ものは期待なさらない方がいいかもしれませんよ」
「どのくらいの頻度でそのお仕置き部屋へは呼び出されるものなんで
しょうか?」
「その子の性格にもよりますけど週に二三回というのが一般的でしょ
うかね」
「そんなに……」
「いえ、だから毎度毎度厳しいお仕置きがそこで展開されるわけじゃ
ないんですよ。厳しい罰になったとしてもせいぜいそこで行われるのは
トォーズでのお尻叩きくらいです。跳び箱みたいな処に俯せに寝かされ
てお尻を叩かれるんです。…親御さんが見学なさってる時は両足を広げ
させます。……ですからね、ある程度の歳になると、先生に『両足を広
げなさい』って言われただけで『あっ、お父様が見に来てるんだ』って
わかったものなんですよ」
「なるほど、それじゃ部屋に入って見てても同じですね」
「いえ、それでも直に見られてるのとはショックが違いますよ。……
ああ、あと、一学期のうちには二回か三回。お転婆な子なら月に二三回、
お父様の前でのお仕置きというのがあります。これはお尻叩きだけじゃ
なくお灸もお浣腸もしますからね、子供としてはお父様に見られながら
という事もあってもの凄くショックです。その代わり、終わったあとは
数日お父様と添い寝ができますからね。女の子の中にはわざとお仕置き
される子だっているくらいなんです」
「まさか、そんな馬鹿な……」
「いえ、本当ですよ。生き証人の私が言うんだから間違いありません」
「でも、逆に『よい子でいよう、お仕置きされないように注意しよう』
と思ってる子は大人になるまでずうっと私の前でのお仕置きがなかった
ってことになるんじゃありませんか」
「そう思うでしょう。ところが、子どもが一度も罪を犯さず一学期を
乗り切るなんて事ありませんから。回数はもちろんお転婆さんたちより
減りますけどね、一学期に一二度はそんなの子もお父様の前で恥をかく
ように仕組まれてるんです。そして、そういう良い子というのは、一旦
お仕置きとなると慣れていませんからね、色々と粗相もしがちで、より
罰が重くなってひーひー言わされることが多いです」
「でも、それじゃあ、その子があまりに可哀想じゃありませんか?…
…そんなことして性格が歪んだりしませんかね」
「たしかに……私も子供の頃、そんなタイプの子が好きで、その子が
お仕置きされた時は随分心配したんですが、その後の様子を見てると、
そうでもないみたいなんです。むしろそれまでより明るくなりました」
「まさか……それは、悟られまいとしてわざと明るく振る舞ってたん
じゃないですか?」
「いえ、違うんです。わざとそうしてるんじゃなくて本心からほっと
してたみたいなんです」
「信じられないなあ。どうしてですか?そんな嫌なことされてるのに」
「彼女が私にこう言ったんです。『女の子は、何をされたかが問題なん
じゃないの、誰にされたかが問題なの』ってね」
「誰にって……それは自分の面倒を見てくれてる先生の事ですか」
「確かにママがお仕置きの実行犯ですけど、そうじゃありませんよ。
ママはママ。確かに人生の先輩で先生ですけど、同性じゃないですか」
「というと、お父様ですか?……ま、まさか、孫ほども歳が違うんで
すよ。そんなおじいちゃんを……」
「でも、優しいでしょう。滅多に自分にお仕置きなんて仕掛けないし、
何でも買ってもらえる。そして、他に比べるものがないからですけど、
異性じゃないですか。憧れをもったとしても不思議じゃありませんよ」
「でもねえ……」
「女の子たちはそのほとんどが本心からお父様に可愛がられたいと思
ってるんです」
「ほんとうですか?」
河村氏は懐疑的な笑顔で僕を見つめる。でも、本当なら嬉しい。そん
な顔でもある。
「その子も、他の子がみんなお仕置きの後、お父様にそれまで以上に
可愛がられている事実を見聞きするにつけ疎外感を感じるようになった
みたいなんです」
「でも、痛い目にあって、大恥かいてでしょう。信じられないなあ。
それとも私が男性だから分からないのかなあ」
河村氏は自問自答するように苦笑した。
「いえ、そういう事だと思いますよ。男性には女性の気持ちが、女性
には男性の気持ちがよく分からない。子供だって同じです。特に女の子
は自分に強いコンプレックスをもってますからね。それを癒すために、
何事によらず徹底的に平等に扱ってもらわないと納得しないんです」
「ええ、そんなことを女王様にも言われたのできる限り平等に扱って
るつもりなんですけどね。プレゼントなんかも同じ歳格好の子には喧嘩
にならないように同じような物をプレゼントするようしていますから」
「そんな、ぬいぐるみやドレスなんかと同じように、自分に対するお
仕置きも平等の中に含まれるんです。……男には理解しにくいのですが、
彼女たち、とにかく仲間はずれにだけはなりたくないみたいなんですよ」
「…………」
河村氏は苦笑いをしながら首を振るが、私もこれには私なりの確信が
あった。私は彼女たちの中に混じって生きてきたからだ。
当たり前のことだが、お仕置きは女の子にとっても苦痛だ。年齢が上
がれば恥ずかしさも加わって、やがてそちらが主体になってくる。特に
厳しいお仕置きが終わった直後は放心状態で魂の抜け殻みたいなってし
まうものなのだが、その抜け殻をここでは放っておいてくれなかった。
先生やママ、お父様たちがよってたかって抱いてくれるのだ。
『放っておいてやればいいのに』
なんてよく思ったものだが、前にも述べたようにが亀山では子供の方
から『抱かれたくありません』は言えなかったから仕方がなかった。
もちろんこれは女の子たちにも悪評で、口を揃えて……
「放っておいてくれればいいのに……まるで赤ん坊みたいに抱くのよ、
感じ悪いったらないわ…後で抱くくらいならぶたなきゃいいじゃないの」
なんてなことを言っては友だち同士では盛り上がっている。
だから当初は『男の子も女の子も気持は同じなんだ』と思っていた。
しかし、それはあくまで彼女たちのたてまえであって本心ではなかった
のである。
子供たちは、厳しいお仕置きを受けた夜はその日が当番でなくても、
お父様とベッドを共にしなければならない。素っ裸の娘が血の繋がりの
ないで大人と一緒に一晩過ごすのだから何かあっても不思議じゃないと
思う人もいるだろうが、そんなことぐらいで野獣と化すような人は、こ
の亀山ではいくらお金があってもお父様にはなれない。
いや、問題は子どもの方で、女の子たちはこんな時、ママやお父様に
抱かれるだけで、友だちにも言えないある種複雑な満足感が心に生じる
のを期待していたのだ。
それを、普段はお仕置きされることを良しとしない『よい子』たちも
女の嗅覚として感じ取っているからこそ、彼女たちもお仕置きに憧れる
ようになる。
ただ、彼女たちの場合、お仕置きに興味はあるものの自ら進んで罪を
犯す勇気などない子がほとんどだから、先生り方が頃合いを見計らって
アシストしてあげるのだった。
『お仕置きと愛撫』
これを聞いて「ん?」と思われた方も多いだろう。そう、マゾヒティ
クな快感を亀山ではあえて教育や躾の中にそこはかとなく身に備わらせ
ているのだ。
『女の子はマゾヒティクな満足を得て暮らす方が幸せです。ですから
ここではそのように育てております。そこで結婚相手には少しサディス
テックな殿方が望ましいのですがどなたか心当たりがおありでしょうか』
私はお父様の一人が女王様に娘にはどんな相手が望ましいかと訪ねら
れた時の答えをようく覚えている。
実際、亀山の厳しいお仕置きは遠く結婚生活をも見越した教育であり
躾であったのは間違いないだろう。
また数日して河村氏が私を誘ってきた。出会った時『一ヶ月ほど滞在
したいが宿泊費が心配だ』などと言ってしまったため、彼が私のホテル
代を一月分前払いしてしまったのだ。そのためこちらもつき合わざるえ
なくなっていた。
場所は河村氏の邸宅。中庭にいるというのでそちらに回ってみると、
一見ワイルドに見えるイギリス庭園風の芝の上で彼は籐椅子に寝そべっ
ていた。
庭の奥には小さな滝と泉がしつらえられていて、滝の水は若い女性が
肩に担いだ壺の中から流れ落ちている。そして、その泉のほとりでは、
小学四年生になった楓ちゃんがママにお尻を洗ってもらっていた。
「どうですか、ここでの暮らしは?」
「どうもこうもない。最初こそ不安だったが、今となってはどうして
もっと早く移住しなかったのかと悔やまれるくらいだ」
「では順調なんですね」
「順調すぎて怖いくらいだ。真里も今ではすっかりうちの娘だ。先生
は『もうそろそろこちらで引き取ります』なんていってるが、僕の方が
離れがたくなってる」
「いえ、手放しても当番の日にはまた添い寝できますよ。一週間か、
10日のうちには……」
「そんなことはわかってるよ。でも、その辛抱すら効かないんだ。私
自身、自分がこんなにも分別のない人間だったのかと思うほどでね。…
…何度も何度も、『こんな小娘に…』って思うよ。でも愛おしくて仕方が
ないんだ。君たちはいったい幼い頃からどんな躾を受けて育ってるんだ」
「どんなっていわれましても、他を知りませんから……とにかく私達
の目標はお父様に可愛がられること、愛されることだって口を酸っぱく
して教えられるんです。器楽の演奏もバレイも古典詩の暗唱も…およそ
学校で教わるものはすべてお父様に恥をかかせないために一生懸命やら
なきゃいけない。そんな感じでした」
「なるほど、わかるような気がするよ。真里もね、最近になって……
……」河村氏はそこまで言うと思いだし笑いで一度吹き出してから言葉
を続ける。
「寝床で、『おいた』までするようになってね」
「『おいた』ですか……ひょっとしてそれ、添い寝の時に乳首を舐めら
れたとか……」
「そう、それ……驚いたよ。女性ならいざ知らず男の小さな乳だから
……どうして?ってこっちは戸惑ってるんだが、向こうは無邪気に笑っ
てるからね」
「それは亀山では親に対して親愛の情を示す表現なんです。お父様に
抱かれた時は自分の気持ちを無にして甘えなさいって先生にはよく言わ
れますけど、どうしていいか分からない時によくやるんです。私なんか
お母様でしたから本当に赤ちゃんです。でも幸いにしてここに移住する
人でこれが嫌いという人はまずいませんから……おいたと言ってもこの
おいたはお仕置き覚悟でやってるわけじゃないんです」
「やっぱり、僕のためにやってくれてたんだね」
「お嫌いですか?」
「お好きです」
河村氏は破顔一笑。青空に顔を向けて高笑いだった。
「もし、そんなに仲良くなれたんなら、本当にもう先生に任せた方が
いいです。他の子の手前というのもありますから。ここにいる子たちは
みんな孤児で、しかも女の子でしょう、みんな平等に扱ってやらないと
臍を曲げちゃうんですよ」
「ええ、分かってます。先生にもそこの処は注意されましたから……」
河村氏はしばらく間をおいてからこう続ける。「………時に、合沢さん。
これはできないなら聞き流して欲しいんだが……」
「何ですか、あらたまって?」
「この間あなたと図書館に行ったでしょう。あれから、私、あそこに
独りで通ううちに真里をお仕置きしてみたくなりましてね。もちろん、
自分の手で子供をお仕置きできないのは知っています。でも、ああした
映像ではなくライブでお仕置きの様子を見れないものかと思ってるんで
すよ……」
「自宅ではなく学校でのお仕置きを見たいという事ですよね」
「自宅では先生方が色々配慮してくださるし公園ではベンチの老婦人
にチップをわたせば面白いものも見せてもらえるんだが……」
「学校は教育現場ですからね……もし、今すぐどうしてもということ
なら『できません』とお答えするしかありませんね。たしかに、ここは
お仕置きの多い街です。でも、何の落ち度もない子供を折檻すれば先生
との人間関係に悪影響を及ぼしますし、子供の発育にとっても有害です
から……」
と、ここで河村氏は私の言葉を遮った。
「わかっています。その説明は何度も受けましたから。ここは孤児院
であって、巷の売春宿や風俗店ではないとおっしゃりたいんでしょう。
承知してますよ。ただ、真里が本当に何か悪さをした時、私がその場に
立ち会えないものかと思いましてね……親として」
「そういうことですか。それなら可能ですよ。……毎回お仕置き部屋
に乗り込んで行くというのはちょっと無理でしょうが、マジックミラー
越しでよろしければ真里ちゃんがお仕置き部屋へ行くたび倉田先生から
連絡してもらえるはずです」
「そんな制度があるんですか」
河村氏の顔に赤みがさした。正直な驚きと笑顔がなぜか嬉しい。
自分もお仕置きされて育った身なのだが、大人になると不思議なもの
で『子供のお仕置き反対』とはならない。自分もそれで散々苦労したく
せに今度は今の子供たちがお仕置きされてる姿が見たくて仕方がない。
それも品も教養もないスラムの子ではなく自分と同程度の環境で育った
子の泣き顔にひかれるというのだから人間立場が変われば得手勝手なも
のだ。
しかし、ここは私のような身勝手者の欲求を満たしてくれる場所とし
て作られているのだから、その為の準備は怠りなかった。
「そのことは説明されてないんですか?」
「ええ」
「今の制度は知りませんが、おそらく今でもそうした配慮はしてくれ
るんじゃないかと思いますよ。それに誰でもよければ教室の中二階でも
一日何回かは子供のお仕置きは見ることができます」
「ええ、それは利用させてもらっています。中庭でのストリップも…」
「そうですか、お仕置き部屋に連れ込まれるその先が見たいという訳
ですか。でも、あそこの目的はあくまで感化や躾、訓戒といったもので
すからね、脅しただけで終わりというケースもあります。あまり過激な
ものは期待なさらない方がいいかもしれませんよ」
「どのくらいの頻度でそのお仕置き部屋へは呼び出されるものなんで
しょうか?」
「その子の性格にもよりますけど週に二三回というのが一般的でしょ
うかね」
「そんなに……」
「いえ、だから毎度毎度厳しいお仕置きがそこで展開されるわけじゃ
ないんですよ。厳しい罰になったとしてもせいぜいそこで行われるのは
トォーズでのお尻叩きくらいです。跳び箱みたいな処に俯せに寝かされ
てお尻を叩かれるんです。…親御さんが見学なさってる時は両足を広げ
させます。……ですからね、ある程度の歳になると、先生に『両足を広
げなさい』って言われただけで『あっ、お父様が見に来てるんだ』って
わかったものなんですよ」
「なるほど、それじゃ部屋に入って見てても同じですね」
「いえ、それでも直に見られてるのとはショックが違いますよ。……
ああ、あと、一学期のうちには二回か三回。お転婆な子なら月に二三回、
お父様の前でのお仕置きというのがあります。これはお尻叩きだけじゃ
なくお灸もお浣腸もしますからね、子供としてはお父様に見られながら
という事もあってもの凄くショックです。その代わり、終わったあとは
数日お父様と添い寝ができますからね。女の子の中にはわざとお仕置き
される子だっているくらいなんです」
「まさか、そんな馬鹿な……」
「いえ、本当ですよ。生き証人の私が言うんだから間違いありません」
「でも、逆に『よい子でいよう、お仕置きされないように注意しよう』
と思ってる子は大人になるまでずうっと私の前でのお仕置きがなかった
ってことになるんじゃありませんか」
「そう思うでしょう。ところが、子どもが一度も罪を犯さず一学期を
乗り切るなんて事ありませんから。回数はもちろんお転婆さんたちより
減りますけどね、一学期に一二度はそんなの子もお父様の前で恥をかく
ように仕組まれてるんです。そして、そういう良い子というのは、一旦
お仕置きとなると慣れていませんからね、色々と粗相もしがちで、より
罰が重くなってひーひー言わされることが多いです」
「でも、それじゃあ、その子があまりに可哀想じゃありませんか?…
…そんなことして性格が歪んだりしませんかね」
「たしかに……私も子供の頃、そんなタイプの子が好きで、その子が
お仕置きされた時は随分心配したんですが、その後の様子を見てると、
そうでもないみたいなんです。むしろそれまでより明るくなりました」
「まさか……それは、悟られまいとしてわざと明るく振る舞ってたん
じゃないですか?」
「いえ、違うんです。わざとそうしてるんじゃなくて本心からほっと
してたみたいなんです」
「信じられないなあ。どうしてですか?そんな嫌なことされてるのに」
「彼女が私にこう言ったんです。『女の子は、何をされたかが問題なん
じゃないの、誰にされたかが問題なの』ってね」
「誰にって……それは自分の面倒を見てくれてる先生の事ですか」
「確かにママがお仕置きの実行犯ですけど、そうじゃありませんよ。
ママはママ。確かに人生の先輩で先生ですけど、同性じゃないですか」
「というと、お父様ですか?……ま、まさか、孫ほども歳が違うんで
すよ。そんなおじいちゃんを……」
「でも、優しいでしょう。滅多に自分にお仕置きなんて仕掛けないし、
何でも買ってもらえる。そして、他に比べるものがないからですけど、
異性じゃないですか。憧れをもったとしても不思議じゃありませんよ」
「でもねえ……」
「女の子たちはそのほとんどが本心からお父様に可愛がられたいと思
ってるんです」
「ほんとうですか?」
河村氏は懐疑的な笑顔で僕を見つめる。でも、本当なら嬉しい。そん
な顔でもある。
「その子も、他の子がみんなお仕置きの後、お父様にそれまで以上に
可愛がられている事実を見聞きするにつけ疎外感を感じるようになった
みたいなんです」
「でも、痛い目にあって、大恥かいてでしょう。信じられないなあ。
それとも私が男性だから分からないのかなあ」
河村氏は自問自答するように苦笑した。
「いえ、そういう事だと思いますよ。男性には女性の気持ちが、女性
には男性の気持ちがよく分からない。子供だって同じです。特に女の子
は自分に強いコンプレックスをもってますからね。それを癒すために、
何事によらず徹底的に平等に扱ってもらわないと納得しないんです」
「ええ、そんなことを女王様にも言われたのできる限り平等に扱って
るつもりなんですけどね。プレゼントなんかも同じ歳格好の子には喧嘩
にならないように同じような物をプレゼントするようしていますから」
「そんな、ぬいぐるみやドレスなんかと同じように、自分に対するお
仕置きも平等の中に含まれるんです。……男には理解しにくいのですが、
彼女たち、とにかく仲間はずれにだけはなりたくないみたいなんですよ」
「…………」
河村氏は苦笑いをしながら首を振るが、私もこれには私なりの確信が
あった。私は彼女たちの中に混じって生きてきたからだ。
当たり前のことだが、お仕置きは女の子にとっても苦痛だ。年齢が上
がれば恥ずかしさも加わって、やがてそちらが主体になってくる。特に
厳しいお仕置きが終わった直後は放心状態で魂の抜け殻みたいなってし
まうものなのだが、その抜け殻をここでは放っておいてくれなかった。
先生やママ、お父様たちがよってたかって抱いてくれるのだ。
『放っておいてやればいいのに』
なんてよく思ったものだが、前にも述べたようにが亀山では子供の方
から『抱かれたくありません』は言えなかったから仕方がなかった。
もちろんこれは女の子たちにも悪評で、口を揃えて……
「放っておいてくれればいいのに……まるで赤ん坊みたいに抱くのよ、
感じ悪いったらないわ…後で抱くくらいならぶたなきゃいいじゃないの」
なんてなことを言っては友だち同士では盛り上がっている。
だから当初は『男の子も女の子も気持は同じなんだ』と思っていた。
しかし、それはあくまで彼女たちのたてまえであって本心ではなかった
のである。
子供たちは、厳しいお仕置きを受けた夜はその日が当番でなくても、
お父様とベッドを共にしなければならない。素っ裸の娘が血の繋がりの
ないで大人と一緒に一晩過ごすのだから何かあっても不思議じゃないと
思う人もいるだろうが、そんなことぐらいで野獣と化すような人は、こ
の亀山ではいくらお金があってもお父様にはなれない。
いや、問題は子どもの方で、女の子たちはこんな時、ママやお父様に
抱かれるだけで、友だちにも言えないある種複雑な満足感が心に生じる
のを期待していたのだ。
それを、普段はお仕置きされることを良しとしない『よい子』たちも
女の嗅覚として感じ取っているからこそ、彼女たちもお仕置きに憧れる
ようになる。
ただ、彼女たちの場合、お仕置きに興味はあるものの自ら進んで罪を
犯す勇気などない子がほとんどだから、先生り方が頃合いを見計らって
アシストしてあげるのだった。
『お仕置きと愛撫』
これを聞いて「ん?」と思われた方も多いだろう。そう、マゾヒティ
クな快感を亀山ではあえて教育や躾の中にそこはかとなく身に備わらせ
ているのだ。
『女の子はマゾヒティクな満足を得て暮らす方が幸せです。ですから
ここではそのように育てております。そこで結婚相手には少しサディス
テックな殿方が望ましいのですがどなたか心当たりがおありでしょうか』
私はお父様の一人が女王様に娘にはどんな相手が望ましいかと訪ねら
れた時の答えをようく覚えている。
実際、亀山の厳しいお仕置きは遠く結婚生活をも見越した教育であり
躾であったのは間違いないだろう。