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4/29 締め出し

4/29 締め出し

*)ショートショート

 「あんたみたいな子はもうおうちには入れません。どこへでも
行っちゃいなさい」

 お母さんにそう言われて僕は勝手口から突き出された。
 あとはガラス戸がピシャンと閉まって、要するに締め出された。

 「やれやれ……」
 僕はため息をつく。これがもっと幼い頃なら、「ごめんなさい」
と言って勝手口の扉を叩くところだろうが、すでに僕も四年生、
そうそうみっともないまねもできない。

 そこでどうしようか頭をめぐらした結果、一つの結論に達する。

 『不知火君の処に行ってみよう』
 そう思った。  

 不知火君というのは、隣のクラスの学級委員なんだけど、学校
では僕とも親しかった。
 ただ彼の家は僕の家から遠い。自転車でも1時間以上の距離だ。

 だから、おいそれと彼んちに遊びに行けなかったけど、今日は
これから時間も空いてることだし、遊びに行ってみるか……

 軽い気持だった。

 山を越え、谷を下り、橋を渡り、自動車の排ガスを吸いながら、
一時間の道中は小4の子にはちょっときつかったけど、それでも
本人がまだ家にいたからラッキーだった。

 「何だ、お前、そんな遠くから来たのか!?」

 不知火君のお父さんが驚く。不知火君ち、バイク屋さんだった。

 暗い階段を上がって、ひらけた六畳間が彼の城。

 でも、天才を謳われた不知火君にしては本が少ない気がした。
 「これだけ!?」
 なんて、偉そうな事を言ってしまった。

 僕の部屋にはこの何倍も色んな本があるけど、そもそも僕って
本を読まない。飾っとくだけなんだから意味がないのだ。

 そんな恥ずかしい話は彼にはせずに、彼が実際、読んでる本を
見せてもらうと、これがやっばり凄かった。

 不知火君の部屋にある本には『少年・少女』という定番の文字
がないのだ。

 『少年朝日年鑑』ではなく、『朝日年鑑』……『少年少女文学
全集』じゃなくて、ただの『文学全集』といったぐあい。

 何だかそれだけでコンプレックス。

 「凄いなあ不知火君って、読んでるのって、みんな大人が読む
ものばかりじゃないかあ」
 って言うと……

 「みんな兄貴のお古。家が貧乏だから買ってもらえないんだ。
それより、君の方が凄いよ。あれだけ習い事抱えながらだもん。
昔から先生たちに『朝倉の弁天小僧』って呼ばれてたんだろう」
 彼、他人を持ち上げるすべも知ってる。

 お互い褒めあってても仕方がないから、その後は庭に出て卓球
で汗を流し、家に戻って野球盤でゲームをやった。

 もち、こんな時は彼だって勉強時間のはずだが、いきなり来て
邪魔してしまった。おばさんはおやつを持ってきた時、笑顔だっ
たけど、後で彼、叱られたかも……

 とにかく、夕方まで遊んだ。
 話が合うから楽しいのだ。

 「そうか、君のおうちは朝倉だよね。こんな時分から自転車で
帰ったら途中で暗くなっちゃうよ。今日はうちでご飯食べて行き
なさい。その後、バイクで送って行ってあげるから……お母さん
心配してるよ」

 おじさんに言われて、その通りにしたんだけど……

 おじさんが何度うちに電話しても話し中なんだ。

 そこで、仕方なく家には連絡せずに帰った。
 おじさんが運転するバイクの荷台で、おじさんの腰にしっかり
しがみついて……こんな体験生まれて初めて。とってもとっても
スリリングな旅だった。

 というわけで帰宅。

 すると、何やら大勢の人が家の周りにたむろしている。消防団
の人たちも大勢いたから火事かと思って、玄関の処で心配そうに
しているお母さんの袖を引いてみた。

 「ねえ、ねえ、火事だったの?」

 すると、僕の顔を一瞬見て……
 「そうじゃないの。あんたがいないから探してもらってるんで
しょう」
 という答えだったが……もう一度、僕の顔を見ると、いきなり
しゃがみ込んで抱きしめた。

 「あんた、どこに行ってたの。心配するでしょう。遠くに行っ
ちゃいけないって言ってるでしょうが……」
 何が何だかわからないが、僕の頭を抱いて泣いている。

 だって、お昼には『どこへでも行っちゃいなさい』って言って
たみたいだったけど……
 大人ってすぐに勝手な事を言い出すから、困ったものなのだ。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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