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5/1 お尻叩き

5/1 お尻叩き

*)ショートショート

 太郎君にはたくさんの従兄弟たちがいるが、一番仲がいいのは
一番近くに住む明広君だ。歳も同じ、学校も同じ、クラスは違う
けど、お互い弟がいるところまで一緒だ。
 家だって歩いて10分くらいしか離れていないから、家同士も
とっても仲がよくてお互い幼稚園時代からの付き合いなのだ。

 そんなわけで、太郎君と明広君はお互いの家をよく行き来して
は遊んでた。
 人生ゲームや野球盤、トランプ、将棋、プラモや模型飛行機の
組み立て……男の子だから外で遊ぶことだって多いよ。キャッチ
ボールやターザンごっこ、庭の木に秘密基地も作った。

 夏休みともなれば、互いの家に宿題帳を持ち込んで机を並べて
お勉強。特に明広君のお母さんである紀子おばさんは学校の先生
だから、太郎君の方が明広君の家へお邪魔する方が多かった。

 でもこの二人、めちゃめちゃお互いを意識していて、相手より
一秒でも早く問題を解いて、紀子おばさんの処へ持って行こうと
いつも競争していたのである。

 その日も、おばさんの出した問題がほぼ同時に仕上がった二人
は、二階の勉強部屋から脱兎のごとく降りてくる。
 目指すは一階の台所で仕事をしている紀子おばさん。

 ところが、お互い我先にと思うあまり階段途中でもみ合いになり、
数段残して……二人とも尻餅。

 「ドスン、ドスン」
 という鈍い音と振動が家中に響いた。

 「ちょっとあなたたち何してるの。お父さんは昨晩徹夜なさっ
て、まだおやすみになってるの。遊ぶんならお外で遊びなさい」

 二人はせっかく仕上げた解答用紙を取上げられ、二人とも答え
あわせもしてもらえないまま、お外へと放り出された。

 時刻はお昼近く。すでに太陽がギラギラと頭の上で輝いている。
いくら元気な子供たちでも、公園広場まで行って他の子と一緒に
遊ぶのはしんどかった。
 そこで、二人でサッカーを始める。

 サッカーといっても最初はじゃれあってるだけなんだけど……
 そのうち白熱してしまって……僕の蹴ったボールが……

 「ガシャン」
 明広君のお祖父さんが大切にしてる盆栽の鉢を割ってしまう。

 当然、紀子おばさんはおかんむりだけど……
 その時はまだびっくりするほどには叱られなかった。
 その時丁度昼ごはんだったからだ。
 その代わり……

 「二人とも、午後はお部屋の中で遊びなさい。静かに遊ぶの。
トランプとかゲームとかできるでしょう。今度何かやらかしたら、
お父さんにお願いしてお尻叩き。明広は最近お仕置きが遠のいて
るからこんなことするのね。昔のように裸で柿の木に縛り付けて
あげましょうか」

 おばさんは怖い顔して二人を脅す。

 そりゃあ、小学生だもん。それだけだって十分怖かったから、
午後の最初はおとなしくゲームで遊んでた。

 ところが、ひょんなことから……
 「本物の刀ならうちにもあるよ」
 と明広君が言うので……

 客間に飾られていた日本刀を見に行ってみることになった。

 ただそこは、本来子供たちが立ち入ってはいけない場所だった
みたいなんだけど……

 「すげえ~~これ重いなあ~~」
 太郎君は床の間に飾られた本身の刀をさっそく持ち上げてみる。

 「これ、抜けるかなあ」
 「もちろん抜けるさ」
 二人は本身の刀を鞘から抜いてしまう。

 「鎧もあるんだね」
 「それは預かりものだから触れちゃいけないんだって……」
 「でも、槍ならあるよ」
 「どこに?」
 「あっ、ほんとだ」
 槍は鴨居に二本も掛けてあった。

 二人は、踏み台などを使い苦労してその槍を床へ下ろす。
 そして、下ろしてしまえばやっぱりそれで遊びたい。二人して
その重たい槍を持って構えた。

 もちろん、じゃれあい。
 でも、やってるうちに声も動作もしだいに大きくなる。

 「ガシャン」
 槍で立ち回りをやってるうちにガラス窓を割ってしまった。

 今日、三つ目のしくじり。

 お互い『やばい』とは思ったが、一度割れた窓ガラスは元には
戻らない。

 そこへ間の悪いことに障子があいて紀子おばさん(お母さん)が
……

「…………」

 彼女の目に……畳の上に無造作に転がる抜き身の真剣。自分の
背丈より長い槍を持つ腕白坊主二人。しかもその奥には今割れた
ばかりのガラスも見える。

 何があったかなんて一目瞭然なんだけど……
 でも不思議なもので、おばさん(お母さん)は子供たちを叱らな
かった。きっと、開いた口が塞がるのに時間がかかったからかも。

 「いらっしゃい」

 それだけ言うと、二人の手を引いて行き、おじさん(お父さん)
の部屋の前で正座して座ってなさいと言うだけだった。

 そうしておいて自分は明広君のお父さんの部屋に入っていく。

 「やばかったね」
 太郎君はこの時まだ笑顔。でも、そう言って振り向いた明広君
は、もう涙を一杯に浮かべて泣いていてたからびっくりした。

 『げげげ…これからそんなに怖いことが始まるのか』
 楽天家の太郎君もさすがに心配になった。

 数分して、明広君のお母さんが書斎のドアから顔だけ出して、
二人を呼ぶ。

 この時、明広君は太郎君から抱き起こされるようにして立った。
もし太郎君がいなかったらこれをお母さんがやってたことだろう。

 二人は俯きながら、お父さんのもとへ……

 明広君のお父さんは大学の先生。仕事柄部屋に閉じこもってる
ことが多くてアウトドアのイメージはないんだけど、大人の中で
も身体が大きくてがっしりしている。
 まだ小五の二人には、まるでそこにグリズリーが座ってるよう
に見えた。

 「二人とも、夏休みでちょっと、羽目を外しすぎちゅったな。
お爺ちゃんの大切な盆栽は壊しちゃうし、あの刀や槍だって刃は
着いていないけどお前たちの玩具じゃないんだよ。わかってるよ
ね、明広」

 「はい」
 明広君は声がすでに涙声。涙だってこの部屋に入って来てまだ
間がないのに何回拭いたかしれなかった。

 「ごめんなさい」
 太郎君だってこんな様子をみれば、これはただ事じゃないって
わかるから、さっそく謝った。もちろん、申し訳なさそうな顔を
している。
 でも、お腹の中では……

 『明広君、どうしてあんなに怯えてるんだろう。……おじさん、
優しそうに見えるけどなあ』
 って、思っていたんだ。

 すると……
 「明広、今日は私からお仕置きだ。お前ももう大きいし言葉で
言えば理解はできるだろうけど、これ以上ほおっておくと大怪我
のもとだからね、次に何か悪さをする時はほんの少し立ち止まる
きっかけにはなるだろう。お母さんじゃ間に合わないそうだから
私がやってあげる。おいで……」

 明広君のお父さんはそう言って椅子に腰掛けたまま両手を広げ
る。

 「……はい」
 小さな声がして、まるでその大きな腕の中へ吸い込まれるよう
に明広君が飛び込むのだ。

 明広君のお父さんは手馴れた様子で膝の上で息子をうつ伏せに
すると、半ズボンだけをずり下げる。
 パンツだけになったお尻をお父さんが平手でペンペンし始める
んだけど……

 「ごめんなさい、もうしません、いいこになります。いやいや、
もう許して、ぶたないで、ごめんなさい、ごめんなさい、だめえ」
 明広君が泣き叫ぶのだ。

 そりゃあ、もの凄い力でバシバシやられていたら、納得なんだ
けど、太郎君にはそんなふうには見えない。
 お父さんは少しスナップを効かせただけで軽く叩いているよう
に見えるのだ。

 『どうして、あのくらいことで大騒ぎするんだろう』
 太郎君の心の中はむしろ不思議だったのだ。

 あれで30回くらい叩かれただろうか、赤くなった様子を確認
するように最後はパンツも脱がして、5回ぶたれた。

 その苦痛に歪む顔は、太郎君がまだ一度も見たことのないもの
すごい形相だったのである。

 『覚悟を決めるしかないな』
 太郎君は思った。
 実際、アー坊(明広君)が開放されるや、今度はター坊に向って
おじさんは両手を広げる。

 『死刑執行台』
 そんな思いで、おじさんに抱かれたター坊(太郎君)だったのだ。

 「………………」

 たしかにやってることは同じ。おじさんはアー坊と同じように
半ズボンをさげてお尻をたたき始めた。

 「ぃぃぃぃぃぃひひひひひひ」
 そりゃあ痛くないはずはない。まだ子供だもん。
 特に、最後の5発はもの凄く痛かったけど…でも、それって、
歯を喰いしばっていれば何とか耐えられるくらいの痛さ。アー坊
みたいに大騒ぎするような痛さではなかったのだ。

 「太郎君、おうちに帰ったら、おじさんが怒ってもの凄いお仕
置きをされたって言うんだぞ」
 明広君のお父さんはター坊に不思議な助言をして開放してくれ
た。

 『とうして、そんな恥ずかしいこと親に言わなきゃならないん
だ?』

 ター坊は長くその意味が分からなかった。でも、大人になって
から気がついた。
 『もし、自分ちの子が訪問先で悪さをしたのにお仕置きがまだ
だったら、家であらためてお仕置きをしなければならない。でも、
すでに報いを受けていたら、相手の親もそれ以上のことを息子に
しないはずで、だから「お仕置きは済んでるよ」って自分の親に
言いなさい』
 という意味だったのである。


 ところが家に帰った太郎君、恥ずかしくてアー坊の家でお折檻
されたことが言えなかった。

 当然、おうちで再びお母さんからお仕置き。

 耳を摘んで仏間に引っ張って行かれると、お灸のお仕置き。
 太郎君の家ではこれが一番きついお仕置きなのだ。

 「ごめんなさい、もうしません、いいこになります。いやいや、
もう許して、お灸しないで、ごめんなさい、ごめんなさい、だめえ」
 気がつけば、明広君と同じことを言っている。

 そして、それが終わりその様子を覗き見していた天敵の姉から
……
 「あんたって、ほんと、男のくせに意気地がないんだから……
いつも据えられてるくせに、こんな小さな艾でビービー泣いたり
して……見ていてみっともないったらないわ」

 太郎君は姉ちゃんの言葉に『だったら覗くな』と思ったけど、
でも、その瞬間、明広君がなぜあんなに怯えていたかがわかった。

 二人にとってお尻叩きやお灸はそれぞれが幼児の頃に味わった
恐怖体験なのだ。
 その強烈な思い出が、歳を経て、今は耐えられるような身体に
なっていても、恐怖心を払拭できない。
 つまり、トラウマになっていたのだ。


 二人は大出世なんてしなかったけど、立派に大人になった。

 僕たちの時代って愛情に裏打ちされたお仕置きが沢山あって、
親に手込めにされた子供時代だったかもしれないけど、その時の
トラウマがあるから、力では自分の方が勝るような歳になっても
親の人生経験を素直にきくことができたわけで……人生の経験則
って大事なことじゃないだろうか。だって社会に巣立ってからも
役にたってるもの。
 太郎君は思うのだ。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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