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第 6 話

< 第 6 話 >
 乳母車は薔薇のアーチをくぐり前庭の噴水を迂回して玄関ロビーへ。
そこはまるでリゾートホテルの様な造りの洋館だった。
 玄関で待っていたのは河村誠一郎夫妻。女王様、おばば様、小学校で
の担任の先生、女中さんたちなど総勢8名。まるで温泉旅館にでも着い
た時のような歓迎ぶりだった。
 「お疲れさまでした。倉田先生。どうでしょう。みなさん方の賛同は
いただけたでしょうか?」
 「大丈夫ですわ。みなさん、やはり河村様が真里のお父様として最適
だとおっしゃっていまいした」
 「そうですか、それはよかった。いや、私には亀山の子供を抱く適性
がないのかと心配しておりましたから」
 「そんなことはありませんわ。ほら、ご覧ください。小学校の園長先
生からは銀のロザリオ、修道院の院長先生からはお手製のオムツ、司祭
様からは自らこの子のために香油を塗っていただきましたし、元うちの
小学校で教鞭を執っていた香月先生からはお浣腸までしていただきまし
た。こんなに多くの祝福を受けられるなんてこの子も幸せですわ。です
からどうか、末永くこの子をよろしくお願いします」
 大人たちの挨拶を尻目に真里は依然乳母車のなかでその緊張した顔を
崩そうとはしなかった。
 実はこれから、真里にとって今回最大の山場がひかえていたのである。
 「元気でな」
 私は乳母車の中の少女に挨拶してこの場を去るつもりだった。もとよ
りこの儀式は私には関係ないこと。いくら街中フランクなお付き合いが
信条とはいえ、そこまで割ってはいるのはあまりに非礼と思ったからだ
った。
 ところが……
 乳母車から顔を上げた私と河村氏の視線があってしまう。彼はしばし
怪訝な顔で私を見た後、こう切り出したのだった。
 「ひょっとして、合沢先生じゃありませんか?」
 「ええ、そうですが…」
 「やっぱり、そうですか。最初、お顔を拝見した時から似てるなあと
思ってはいたんですが……寄寓だなあ」
 「いや、……」
 私は赤面する。確かに河村氏とは面識がないわけではない。一応この
会社の顧問弁護士の末席に名を連ねているから挨拶程度はかわしたこと
があったのだが、重要な案件を任された事はなく、こみいった話をした
ことも一度もなかった。だから相手が私の事を覚えている気遣いはなか
ろうと高をくくっていたのである。
 ところが、ところが、だった。
 「先生もここの会員になられてたんですか?」
 「いえ、違います。……実を言いますと……私、ここの出身なんです」
 「こりゃあ、こりゃあ、気がつかなっかなあ。では……お父様は?」
 「天野茂氏です」
 「天野興産中興の祖と言われた……」河村氏は嬉しげに頷く。そして
「……いや、ちょうど良かった。あなたもご存じだとは思いますが、私、
恥ずかしながら娘に逃げられましてね…なにぶん慣れない土地なもんで、
しきたりなんかもよく分からなくて……先生、よろしければ私にここの
ことについてレクチャーしていただけませんか。……それともお忙しい
ですか?」
 「いえ、大丈夫ですよ。私も久しぶりの里帰りで、休暇の身ですから」
 「いやあ、よかったよかった、これは天の助けだなあ」
 破顔一笑、彼は子供のように笑うと私の両手を握りしめて助言を請う
たのだった。
 私は誘われるままに河村氏の洋館へ入っていく。この建物、玄関から
応接室あたりまでは洋風の造りだが、そこを過ぎると後は典型的な日本
家屋になっていた。私もその昔、友だちの関係で何度かお邪魔したが、
苔むした灯籠の苔を綺麗に剥いで掃除したり、お池の鯉を追っかけたり、
お父様のゴルフクラブを持ち出してそれを折っちゃったり、とけっこう
悪さをしていた。もちろんこういう事は主人が先生に一言苦情を言えば、
こっちはフルハウスのお仕置きを覚悟しなければならない身なのだが、
当時この館の主だった水谷氏はそんな告げ口は一度もしなかった。
 そんな想いでの日本庭園を横目で見ながら私はさらに奥へと進む。
 着いた処はこの屋敷の居間だった。二十畳もあるその広い和室には、
ペルシャ絨毯が敷き詰められ、床の間と反対側のスペースには小さいな
がらも舞台が造られている。
 この舞台、普段は襖を閉めて舞台は隠されていて、子供たちが楽器を
弾いたり日舞やバレイを披露する時だけ小さな劇場としての役割をはた
しているのだが、普段閉まっているはずの襖が開いているところをみる
と、どうやらこの舞台に真里を上げて、そこで儀式を執り行おうとして
いるのだろう。
 案の定、真里は一段高い舞台に上げられると、まずは舞台の袖で正座
した倉田ママによってしっかりと抱きかかえられた。
 「いいこと、あなたは大日如来様が私に預けてくださった子供なの。
そのご加護があるから女王様も、おばば様も、園長先生も、院長先生も、
司祭様も、みんながあなたを好きなの。だからここへ来ることのできな
かった先生方もあなたに色んな物を授けてくださるのよ。河村様も同じ。
あなたがまず最初に河村のお父様を愛すれば、如来様から授かった能力
がお父様に伝わり、その何倍も大きな愛でくるまれることになるのよ」
 倉田ママは真里を抱きかかえると囁くような小さな声で震える子供の
心を落ち着かせようと説教をしている。
 ところが、その文言は実は私もママから聞いて知っていたから途中で
思わず吹き出しそうになってしまった。
 そんなことをしていると私の隣にいた河村氏が尋ねる。彼は私を客分
として扱い、こんな大事な儀式にもかかわらず『お父様』の隣に椅子を
置いて座らせてくれたのだった。
 「ねえ先生、私がここへ移住を決めた時には係の人から『子どもへの
お仕置きは絶対にできませんよ』と何度も釘を差されたんですよ。でも
今回は、女王様もおばば様も、私にお線香で艾に火をつける役をやって
欲しいと言われるんです。これって受けていいものかどうか………」
 「それは構いませんよ。その趣旨はあくまで自らお仕置きを企画して
はいけないってことで協力を求められた時はその限りにあらずなんです。
私のお父様も滅多に私にお仕置きなんてしませんでしたが、ただママに
頼まれてという形なら何回かありましたから……これはあくまで特別な
時……つまり今回のような時だけです」
 「そうですか。それで一安心です。でも、それにしても、すえる処が
……」
 「大丈夫ですよ。先生」
 二人の話に割って入ったのはおばば様だった。もっとも、私の時代は
本当にお婆さんだったからしっくりいったが、今の人は年配といっても
まだ若く『おばば様』とは呼びにくい年齢だったが、お灸をすえる係は
いくつであってもおばば様なのだ。
 「大丈夫ですよ。すえるのは大陰唇だけですから。ここは外皮ですか
ら、熱さは他の皮膚と変わらないんです。ただ、女の子としては自分の
大事な処にすえられたという意識でとりわけ熱く感じるだけなんです」
 「でも、それって心の傷にはなりませんか?」
 「ならないといったらそりゃあ嘘でしょうけど、心に傷を受けるのは
何もお仕置きだけではありませんから。むしろ、そこに傷を持つことで
常に自分が女なんだいう意識が顕在化して都合がいいんです」
 「徳川家康が三方ヶ原で敗走して城に逃げ帰った時、自分のふがいな
い姿を絵師に描かせてそれを常に見て戒めにしていたという逸話がある
でしょう。あれと同じなんです。常に自分だけが意識できて且つ他人に
は見られませんからここが一番いいんです」
 「残酷なような気がするけど……」
 「河村先生はフェミニストなんですね。でも大丈夫です。もう百年も
続けてきた伝統なんですから。それに、『これが励みになった』という人
はいますが、『足枷になった』という人はいませんから……本当ですよ」
 「男性にとっては凄いことって思うかもしれませんけど、女性にとっ
てはそれほどでもないです。僕の周囲もみんなここにお灸の痕がありま
すけど、ここは身体を許した人しか見ることができないからまだいいん
です。むしろ。お尻のお山にすえられたお灸の方を気にしてましたよ。
Tバック下着が穿けないじゃないかってね」
 「そういうもんですかね」
 「女性って意外と合理的なんですよ。どんなハンディキャップも隠せ
さえすればそれでいいってところがありますから。…………もちろん、
お嫌なら無理強いまではできませんけど、やっていただくと、これから
親子をやっていく上にもスムーズにいくと思いまして……」
 「『これは重要な儀式なんです』と女王様からも聞きましたから承知は
しているですが…何しろこんなこと初めての経験ですから……」

 「女王様は何と?」
 「ええ、あの子が犯した罪を私があえて罪を犯すことで救ってやって
欲しいと……」
 「相変わらず女王様は厳しいですね」
 「でも、そこまでおっしゃる熱意に打たれたんです。この人は嘘を言
わない人だ、信頼できる人だとわかったんでお受けしたんです。………
もともとこの事は私にも非のあることですから」
 「そう言っていただけると嬉しいです。決して秘密が外に漏れるよう
なことはありませんから、お願いします」
 香澄は河村氏の前で両手をついて頼み込んだ。
 そう、これは例外中の例外。これから面倒をみてもらう者とみる側の
神聖な儀式なのだ。聞くところによれば、子供たちがここへ預けられる
時もまた、おばば様がその赤子にお線香を握らせ、裸になった母親の体
に貼り付けられた艾に一つずつ火をつけてまわるのが約束事なのだそう
だ。
 河村氏があえて悪人になることで真里に素直なあきらめの気持をもた
せ、河村氏の愛の中に組み入れたいと大人たちは考えたようだった。
 だから舞台の上の真里は、女王様、倉田先生、お母様、おばば様、…
…彼女をこれから愛していかなければならない多くの人たちにその身体
を完璧に押さえ込まれ、微動だにもできないほどにされて、仰向け両足
を高く上げる姿勢のまま女の子の全てをさらけ出し、お父様のお線香で
二つお灸をすえられたのだった。
 「いやあ~~~だめえ~~~ごめんなさい、もうしません、しません
からゆるして、だめ、熱い熱い、いや死んじゃ、死んじゃう、痛~い」
 耐えきれない恐怖と不安そして現実に訪れた強烈な痛みに真里は悶絶
して悲鳴をあげたが、もとよりそれ以外どうすることもできなかった。
 時間にして三十秒にも満たない一瞬ともいえる儀式だが、女の子たち
はこの瞬間を生涯忘れることはない。
 ここへのお灸はいつも擦れる場所なのでその後もかさぶたができたり
ケロイド状になったりで治癒したあとも「あっ、あの時の……」という
意識が毎日のように蘇るのだ。ただ、それが悪感情になることはあまり
なかった。
 というのもここへのお灸は自分一人の傷ではないのだ。亀山で育てば
山を下りるまでに少なくとも三回はすえられるのが普通で、ここに灸痕
のない子はいなかった。私の親しい友人などは……
 「だって、人に見せるわけじゃないし、何より亀山を出たという証(あ
かし)みたいなものだから」
 と、さらりと言ってのけたほどだった。
 傷跡におばば様から軟膏を塗ってもらった真里は身なりを整えて舞台
を降りる。しかし、これで終わりではない。彼女にはまだまだやらなけ
ればならない仕事がたはさん残っていたのである。
 まずはこれからお世話になるお父様へのご挨拶。
 これは今まで舞台とは違って上座にあたる床の間を背にお父様とお母
様が座り、その前で正座した真里が両手を床について行わなければなら
なかった。
 「お父様、お灸の戒めありがとうございました。これからはお父様、
お母様のお言いつけを守って暮らしますからよろしくご指導ください」
 お灸のお仕置きのあと、子供たちが言わされるこのご挨拶は昔と一言
一句変わっていなかった。
 「わかりました。あなたもお勉強に芸事にしっかり励んでくださいね」
 こうお母様に言われて目の前には漆塗りの箱が登場する。どれも文箱
を一回り大きくしたほどの大きさで三段重ね。ただ、差し出される時に
は一段一段中が見えるようにして置かれるのが普通だった。
 「もうあなたには説明の必要もないとは思いますが、今一度心を新た
にする意味でお聞きなさい」
 「はい、お母様」
 「三段目がお浣腸のセット。ピストン式の浣腸器にゴム管、導尿用の
カテーテルに膿盆、局所麻酔用の注射器やイチヂク浣腸なども入れてお
きました」
 「ありがとうございます」
 「二段目はトォーズとナインテールです。いずれも小ぶりのものです。
実際に行う時はもっと大きなものを出してきて使いますが、戒めとして
ご覧なさい」
 「はい」
 「一段目はお灸のセットです。艾やお線香、お線香立てにマッチ、傷
薬なども入っています」
 「……ありがとうございます」
 真里は一つ生唾を飲んでからお礼を言う。今し方のことがきっと脳裏
を掠めたのだろう。
 「あなたは良い子だからこんな物は必要ないとは思いますが、これを
お部屋に持ち帰って日々の戒めとなさい」
 「はい、お母様。これからお父様お母様の御名を汚さぬよう精進いた
します」
 と、時代ががったというか芝居がかったというか口上を述べてその箱
を受け取るのだが、『やれやれこれで一件落着』とはいかない。
 実はこの儀式、まだ先があったのである。
 「真里ちゃんここへいらっしゃい」
 少し離れたところでママが正座した膝を叩いて真里を呼ぶ。言わずと
知れた合図、『この膝に俯せになりなさい』ということだった。
 そしてその膝の上に腹這いになると…
 「お灸のお仕置きはどことどことどこにすえるんだったかしら?」
 「お尻のお山とお臍の下とお股の中です」
 か細い声はさらに震えて私の耳に届く。きっと恐怖と恥ずかしさがな
い交ぜになっているのだ。
 「お股は終わったけど、お尻とお臍の下はまだでしょう。ここも本当
ならお父様にお願いするところたけど、お前がお股のお灸をすえられた
時、あまりに大きな声をだすから「可哀想だから」とおっしゃって遠慮
されたの。でも、お仕置きを途中でやめるわけにはいかないから代わり
に私がします。いいですね」
 「はい、…………」
 「『はい、』だけ?」
 「はい、お願いします」
 「そうでしょう。肝心なことわすれてどうするの。お仕置きはお願い
するものなの。何度も同じことを言わせないでちょうだい」
 「ごめんなさい」
 真里は謝ったが、もちろんそれで許されるというものではなく…
 「では、始めます」
 となった。
 短めのプリーツスカートが捲り上げられると、まぶしいほど白い綿の
ショーツが顔を出す。しかし、それもほどなくずり下ろされて、真里の
まだ可愛いお尻が現れた。
 とたんに畳にこすりつけるように低くなった少女の顔が真っ赤になる。
 亀山は毎日のように子供がお仕置きされている処だが、毎日同じ子が
罰を受けているわけではない。真里にしても前のお仕置きからはすでに
三週間近く間があいていたから、あらためてパンツを脱がされるとそれ
はそれで恥ずかしいのだった。
 「合沢さん、こういった時は近くによってはいけないんでしょうね」
 「えっ……」私は突然尋ねられたので驚いたがすぐに笑顔に戻って…
 「構いませんよ。あの子はここではあなたの娘なんですから、お尻で
も、お臍の下でも、お股の中だって、「見せなさい」って命じればそれで
いいんです。子供はお父様の命令に『嫌!』とは言えない立場なんです
から」
 「でも、体罰はできないと……」
 「いや、身体検査は親の権限であり健康管理は義務でもあるわけです
からそれは体罰ではないですよ。私のお父様もそうでしたが月に一回は
必ず身体検査と称して子供を裸にしてましたから……もちろん女の子も
……性器も全部です」
 「そうなんですか、何かそれって卑猥なことかなって思ってしまって」
 「確かに卑猥な心で見ればそうでしょうけど……そうでなければいい
んです」私たちの会話に女王様が割り込む。「だって産婦人科のお医者様
はそこを見なければ仕事になりませんもの」
 「そりゃそうですね」
 「いえ、娘の裸がみたいならお風呂に入るのが手っ取り早いですよ。
どこの家でも大抵サウナ室が広めに造ってありますからね。あのベンチ
に寝っころがして調べるんです。亀山の子は幼い頃からお父様への絶対
服従を厳しく仕付けられてますからね。決して暴れたり大声を出したり
はしないはずです。もちろん、ここへ移住する人たちは間違いを起こす
ような人ではないという信頼関係があってのことですが……」
 「行ってみましょう」
 私が誘うと河村氏も腰を上げる。
大人三人にいきなり近寄られた真里は真っ青になった。今、お尻への
お灸が終わり今度はママのお膝を枕に仰向けにされたばかり、当然お臍
の下は大人たちから丸見えだった。
 もちろんだからといって暴れたり大声を出したりはしない。僅かに顔
を背けることだけが彼女にできる精一杯の抵抗だったのである。
 「ほら、真里。お父様がいらっしゃったのよ。ご挨拶は?」
 ママは握った娘の両手を振って催促する。
 「こ、こんにちわ」
 「違うでしょう。こんな時はね、『お恥ずかしいところをお見せしてお
ります』って言うのよ。……あら、それはそうと真里ちゃん、あなた、
床屋さんに行かなかったのね」
 ママの詰問に、その顔から『しまった』と字が浮き上がる。亀山の子
は女の子も床屋さんで髪をセットしてもらう。しかしその時は、上の毛
だけでなく下の毛も剃り上げてもらうのが慣例になっていた。
 「ほらあ、こんなに下草が伸びてますよ」ママはさの下の皮膚が吊り
上がるほど下草を摘んで持ち上げる。「あなたももういい歳なんだから、
自分のことは自分でやらないと…」
 「ごめんなさい」
 「ま、仕方がないわ。真里ちゃんもおじさんにお臍の下を触られるの
が恥ずかしいお年頃になったのよねえ」
 おばば様が助け船を出してくれたが…
 「そんなこと言っても規則なんですから……真里、今度下草の処理を
さぼったらお仕置きですからね」
 とうとうママから脅かされてしまう。
 「今日のところは私が処理しましょう」
 おばば様はそう言うと、お湯に浸したタオルでそこを暖め、男性用の
T字カミソリであっという間に剃り上げてしまう。もともと陰毛といっ
ても小学生の身体、まだまだ産毛のようなものだから処理は簡単だった。
 「もう、すでにお灸の痕がありますけど…あれは……」
 河村氏が私の耳元で囁く。
 「最初は二歳ぐらいの頃に皮切りと言っておばば様からすえてもらう
んです。その後、しばらく間があって…四年生か五年生の頃またすえら
れて…六年生か中学一年の頃にもう一回、都合三回は最低でもすえられ
るんです」
 「そんなに…ですか?」
 「いえ、お転婆さんなんか、その倍も、三倍もすえられますよ」
 「へえ~」
 「すえられるたびに灸痕がだんだん大きくなりますからね、五回六回
とすえられる子は目立つお尻は免除してもらってお臍の下とお股の中が
中心になるんです。お臍の下はその後毛が生えて隠れますし、お股の中
は心を許した人以外には見せないでしょうから…」
 「なるほど…」
 「私の子供時代ですら、おばば様が『戦後は回数が減った』と言って
いましたから、今はもっと減ってるかもしれません」
 「…………」
 河村氏が無言で頷く。すると、女王様が…
 「この子の前は五年生の時、脱走の罪でお仕置きされたんです。です
からお灸はちょうど一年ぶりぐらいですわ」
 「脱走?そんなことできるんですか?」
 「できませんわ。ここは入る事も出る事も刑務所並に難しいんです。
中の秘密を絶対に外へ漏らしてはいけませんから……でも、産みの母に
会いたいという衝動を抑えきることはできませんから時々そんな事故が
起こるんです」
 「産みの母とはもう生涯会えないんですか?」
 「この子たちが18歳になるまでは原則面会も禁止しています。里心
がつくとこちらも困りますから……」
 「18歳以降は?」
 「実は東京に私書箱があって、半年ごとに近況を伝える報告書と共に
子供の映像を収めたDVDを入れておきますから子供に未練がある親は
必ず受取に来ます。それを見れば18歳以降の居場所もわかるはずで、
会えた後は本人次第というわけです」
 「合沢さんは、どうされたんですか?産みのお母さんには会われたん
ですか?」
 「ええ、会いましたけど…結局、一緒に住むことはありませんでした」
 「そりゃまたどうして?」
 「血の繋がりは関係ありません。私にとっての母親は高橋というここ
で暮らすシスターあがりの先生だけなんです。もっと言うと、この亀山
の地そのものが私の母なんだと思ってます。……いえ、ここに住んでる
時は、正直お仕置きばかりで地獄のような処だって思ってましたけど、
世間を歩くうち、ここが本当の楽園だったんだって気づいたんですよ。
遅きに失した感はありますけどね」
 「…………」
 私が話す間に真里のお臍の下には七つもの艾がのせられ火がつけられ
ていた。
 彼女は必死に顔をしかめ、身体をよじってその熱さから逃れようとし
ていたが、叶わぬまま艾が燃え尽きてしまう。
 荒い息と嗚咽のなか、彼女がこんな野蛮な行為に感謝することなどあ
り得ないだろうが、その内心は別にして身繕いを終えた真里は私たちの
前に正座して…
 「お仕置き、ありがとうございました」
 と両手を畳につけて挨拶するのだった。

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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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