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第 5 話 ②

< 第 5 話 > ②
 「…………」
 当然、真里の顔は引きつるが、目上の人の言葉に『イヤです』が言え
ない悲しい身の上。
 「あなた、オムツとイチヂク持ってるわよね。私がやってあげるわ」
 こう言うと、イチヂクを真里のお尻に差して、香澄から差し出された
オムツをあてがう。あっと言う間の手際の良さに香澄も私も呆然だった。
 「ああ、だめ~~~」
 一分もたたないうちに真里の顔が青ざめる。
 しかし老婦人は落ち着いたもので……
 「さあ、さ、修道院で着替えてらっしゃい」
 こう言って我々三人と乳母車を送り出したのだった。
 そこから五分と行かない処に亀山の修道院がある。煉瓦造りだがこの
街でもっとも大きな建物群だ。この街はもともとこの修道院に付属する
ものとしてできあがっていたから当たり前といえば当たり前なのだが、
OBやOGたちが出世して競うように寄付をしたおかげで周囲に色んな
建物が建ち並び昔ほど目立たなくなっていた。
 修道院というくらいだからキリスト教に関連した建物ではあるのだが、
亀山の宗派はもともと既存の大教団とは一線を画す新興宗教団体だから
修道院も巷のイメージからするとかなり開放的だ。
 門限はあるものの中庭までは誰でも勝手に出入りできるし、尼さん達
も頻繁に街へ顔を見せている。それだけではない。子供たちにとっては
まるで通ってる学校みたいに出入り自由な空間だった。子供達はここで
シスターから補習を受けたり、ここが習い事の教室だったりするからだ。
 ただ良いことばかりではない。特別厳しいお仕置きもまたここで執り
行われるからだ。中世ヨーロッパの拷問部屋みたいな処で執り行われる
お仕置きは、たとえそれほどキツいことをされなくても子供達に与える
心理的プレッシャーは相当なもので、数十年経った今でさえ、かつての
お仕置き部屋辺りにさしかかると心臓が締め付けられるように高鳴った。
 「あら、真里ちゃん、どうしたのかしら?……そう、緊急事態みたい
ね」
 院長室に乗り付けられた乳母車を覗き込むと院長先生は真っ赤な顔の
真里に微笑みかける。僕ら時代は品のいい年輩者だったが今の院長先生
は私より若いのでびっくりした。
 「花江さん、オマルを用意して」
 彼女は秘書役のシスターにオマルを持ってこさせると、乳母車の脇に
それを置いて無造作に真里のオムツを外そうとする。
 慌てた秘書が「そんなことは私が…」と止めたのだが…
 「いいでしょう、私がやっても……人助けは一番近くにいた人がやる
ものよ」
 そう言ってうてあわなかった。そしてオマルを外してすっぺんぽんに
なった真里を抱きかかえると、赤ちゃんをそうする様に真里の両太股を
もってオマルの上にかざしたのだ。
 もちろん、真里も抵抗したのだが、それは必死にというものではなく、
女の子のたしなみとして…あるいは自分はそんなにハレンチじゃないと
いう言い訳に…パフォーマンスしただけ。
 「いや、いや、だめ、だめ、しないで、しないで、わたし……」
 真里はし終わった後も真っ赤な顔のまま訴えるが、もとよりこんな事
を子供にやらせてくれる大人は亀山にはいなかったのだ。
 ここでは『子供が悪さをしていたからお仕置きしたよ』でよかったし、
別の人が『可哀想だから許してあげたよ』で、またよかったのである。
ただし、子供が自ら後かたづけする事までは許していなかった。
 お浣腸されて…オムツにお漏らし…でもそれを片づけるのは必ず大人
でなければならなかったのである。
 そう、これは私たちの時代、いやそれよりずっと以前からの決め事、
決まり事だった。
 お股の汚れを濡れたタオルで綺麗にしながら…
 「恥ずかしい?……だったらよい子にしてなさい。恥をかかないと、
何が正しくて何がいけないのか、あなたは覚えないでしょう」
 「そんなこと……」
 「そんなことないって言いたいの?いいこと、子供は頭では分かって
いても体が覚えないと芸ができないの。体で覚えなきゃまた繰り返すわ」
 大人たちはこのフレーズが得意で、これが言いたいために子供に自ら
処理をさせず自分で行っていたのである。
 院長先生は一通り真里の体を吹き上げると真里のために新たなオムツ
をはめてやる。それは…
 「私からのプレゼントよ。ここでは新たな家へ行く時は何一つ纏わず
に行くことになってるけど、あなたももう六年生だし、すっぽんぽんで
は恥ずかしいでしょう。もし向こうのお宅で聞かれたら『修道院の院長
先生からいただきました』って言えばいいわ」
 確かにこの時の真里はすでに胸が膨らみ、下草も生え始め、お尻も大
きくなりかけてはいるが、それでも赤ちゃんとして扱うのが亀山のルー
ル。それをあえて破るのは院長先生が真里を『とってもよい子』として
認識しているからに他ならなかった。
 乳母車は最後の寄り道として司祭様の自宅へと向かう。司祭様はこの
街を創った宗教団体の幹部のなかにあっては唯一の男性。私がここにい
た頃は『金曜日の死刑執行人』として女の子たちから畏れられていた。
 私は端(はな)から同性なので関係ないが、女の子たちにしてみれば
ここで日常的にお仕置きを受ける大人としては唯一の異性だったから、
その気の使いようも明らかに他の大人たちとは違っていたのである。
 案の定、司祭様の家に着いた時から真里の表情は明らかにそれまでと
違っていた。
 もちろん、そこには言いしれぬ緊張や恐怖があるに間違いないのだが、
私がここにいた昔、女の子たちの言動を見ていると、司祭様との間には
どうやら負の想いだけではない何かがあることを私は感じ取っていた。
 その匂いが、実は真里の顔の奥からも垣間見えるのである。
 「おう、合沢君じゃないか。帰ってきたのかね」
 こうして香澄と一緒に乳母車で回っていても私に声をかけてくれたの
は司祭様が初めてだった。
 「司祭様は健児のことを覚えてらっしゃるんですか?」
 「もちろん。私がまだ就任したての頃でね、とにかく頭のいい子だっ
たからね」
 「そんなに健ちゃん学校の成績がよかったんですか」
 「いやいや、学校の成績というより、とっても大人びて見えたんだ。
先生方の評判もよくてね、私が下手に厳しいお仕置きを言い渡そうもの
ならあちこちから抗議がくるんもんだ。それだけ人から愛されるすべを
知ってたってことかな。いずれにしても懺悔聴聞僧泣かせだったことは
確かだったよ」
 「へえ~~」
 香澄は意外という顔をした。彼女にはよく先生方からお仕置きされて
は泣きべそをかいてた姿しか思い当たらないからだ。
 確かにそれは嘘ではない。私はよく大人たちからお仕置きされていた
し泣き虫でもあったから。でも、酷(ひど)いお仕置きにあったことは
あまりなかったし、お仕置きされた分はその何倍も甘えて取り返してい
たのである。ここはそれが可能な街だった。だからこそ子どもの楽園で
あり続けるのである。
 「さあ、僕の話はどうでもいいじゃないか。仕事、仕事」
 私は照れ隠しに香澄をたきつけた。
 実際、乳母車の中では小さな心臓を張り裂けんばかりにして真里が待
っていた。
 「おう、可愛いオムツをしてるじゃないか。これは?」
 司祭様は香澄に尋ねる。対応は以前お会いした方々とほぼ同じ。
 赤いほっぺたを人差し指ちょんちょんと叩いてから頭を撫で、手の指
足の指を優しく揉んでいく。そして拘束されている手首のベルトを外す
と、そのまま本物の赤ちゃんを抱き上げるようにお姫様だっこで自分の
胸へと引き上げるのだ。
 もちろん、真里は笑顔を崩さない。時折、不安から顔が引きつりそう
になるが、それでも香澄先生に教わった通り必死に笑顔を作ろうとして
いた。
 「良い子だ。良い子だ。その笑顔はお父様の前でも見せるんだよ」
 司祭様は真里をご自分の膝の上で横座りにさせると再度頭を撫でる。
 「でも、こんな時に笑ってたら馬鹿みたいだって思われませんか?」
 「そんなことはないよ。君が大変な立場にいることは周囲の人たちが
みんな知ってることだからね。そんな中でも笑ってるってことは、君が
努力してる賜だって誰だってわかるもん。君を愛する大人の人たちは、
君のそんな努力を無にしようだなんて思わないから」
 「だって……」
 「だって、何だい」
 「だって、公園ではおばさまにお浣腸されたし、院長先生は部屋の中
でオマルにうんちさせたんだよ」
 「それは仕方がないだろう。君はまだ赤ちゃんなんだから……それに、
お浣腸は向こうにいっても必ずやらされるはずだから……初めてより、
二回目の方が楽だろう。それに何よりこんなオムツ普通は穿かせてもら
えないんだよ。そのお家に初めて入る時は……」
 「ね、それ違うよ。だって私、二ヶ月前までお父様の家にいたもの」
 「だけど、『あそこはイヤだ』って女王様に泣きついたじゃないか。そ
んな身勝手な子が今でも河村のお父様の子であり続けるはずないだろう。
もう一度、あの家で河村さんをお父様って呼びたいなら、それは初めて
そのお家に入る時の儀式をやり直さなきゃいけないんだ。わかるかい?」
 「……うん」
 真里は不承不承小さく頷いて返事をした。
 「大丈夫、みんな君のことが大好きだからね。きっとうまくいくよ」
 司祭様はそう言うと真里の体に香油を塗り始める。手や足、顔、首、
お腹、背中、膨らみかけたおっぱいも例外ではなかった。
 これは裸でいる時間が長い子のために皮膜を作って幼い子の肌を守る
ための処置だった。そして何よりこの甘い椿の香りが司祭様の御印とし
て河村家に届けられることになるのだった。
 園長先生のロザリオ、公園での老婦人のお浣腸、院長先生のおむつ、
そして司祭様の香油も…そのすべてが『この子をお願いします』という
無言のメッセージであり、この子に罰を与えようとする大人たちはそれ
を感じ取ってその子の処断を決めることになるのだ。
 『ここではどんな大人の人たちからも愛される事が大事なの。幸せに
なりたければ、お友だちの好き嫌いもだめ、大人の人たちの好き嫌いも
だめなの。どなたの胸にも快く飛び込んでいくのがあなたのお仕事よ。
必ず良い事があるから』
 ごくごく幼い頃から私はママにこう言われて育った。ただ当時は……
 『そうは言っても嫌いな子もいるし、あまり抱きつきたく大人だって
いるんだけどなあ』
 なんて思いながら聞き流していたが、今にして思い返すと、それは決
して意味のない教訓ではなかったようである。
 乳母車はとうとう目的地へと到着する。
 河村家は秋山四十郎氏のお屋敷を譲り受けたものでそこで暮らしてい
た子供たちも引き受けていた。ここへ移住してこられるお父様たちは、
そのほとんどが現役を退いた方ばかりなので、移住された段階ですでに
高齢の方が多く、だいたい10年から20年位経つと亡くなるか子ども
たちとの暮らしが困難になるかして、新しいお父様と交代されるケース
が多かった。
 当然、子どもたちもその新しいお父様へと引き継がれるため、生活の
仕方に大きな変化はないはずなのだが、赤ん坊の時から面識がある元の
お父様に比べ新しいお父様のもとでは気心の知れないことも多くて自分
の預かった子供たちを新しいお父様にどう馴染ませるか、ママたちには
人知れぬ苦労があった様だ。
 とりわけ、真里のような思春期の子は新しいお父様になかなか馴染め
ないケースも多く、今回のように女王様の処へ泣きつくケースも少なく
なかったようだ。
 私の場合は幸い一人のお父様で中学を卒業できたので体験談は語れな
いが、友だちの話を聞くと、それまで元のお父様の時は何でもなかった
当番の添い寝が新しいお父様になったとたん強姦されるんじゃないかと
いう恐怖に襲われるんだそうだ。
 もちろん、たとえ素っ裸で15の少女が隣に寝ていたとしてもそれで
間違いを起こすような人物はここには入ってこれないはずだが、そこは
それ、思春期の尖った自意識が簡単にうち解けた関係を作らせないもの
だから仕方がない。
 結果、今回のようなことになるのだった。
 玄関を入る際、私は何となく気になって乳母車の中を覗き込んだが、
そこにいる真里は顔面蒼白、焦点の定まらないうつろな目をしていて、
引きつった笑い顔でさえもう求めるのが困難なほど憔悴しているように
見えた。
 「大丈夫か?こいつ?凄い顔になってるぞ」
 私が心配になって香澄に尋ねると、彼女は乳母車の中を一瞥。
 「ん?……」
 笑い出すと…
 「や~ね、大丈夫よ。この子、耐える準備をしているの。女の子って
耐えるだけなら男の子以上に強いのよ」
 彼女にすると『そんな事も知らないの』とでも言いたげな笑顔だった。

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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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