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6/9 女の都 ~15~

6/9 女の都 ~15~

*)完全にノーマルな話なになっちゃいました。ごめんなさいね。


 ケイトはその日の夜、ポーラとエリザベスを担当して天蓋付き
の立派なベッドへ入ります。
 そこは子供たちのベッドとは比べ物にならないくらいふかふか
で広々としています。

 そこに本来二人の生徒が添い寝当番として先生の左右に就いて
眠るのですが、それでもまだ十分すぎるほどの余裕があります。

 「先生、こんなに広いと子供たち全員を呼べそうですね」

 ケイトが驚きのあまりこう言うと、先生の答えは簡単でした。
 「そういう時もあるのよ。雷が鳴ってる時は子どもたち全員が
このベッドで寝るの。…みんなお気に入りのぬいぐるみを持って
くるわ。でも、それ以外は独りで寝る習慣もつけないといけない
から……それで当番制なの」

 「私は何を……」

 「ポーラとエリザベスがそれぞれ読んでほしいお気に入りの本
を持ってくるから、それを読んであげればいいわ」

 「そうなんですか。でも、私、あまり難しい本は……」
 ケイトは学校での妹たちの実力を知っていますから不安になり
ます。でも先生は笑って……

 「大丈夫よ、心配しなくても……あの子たち、難しい本なんて
このベッドに持ち込んでこないもの。たいてい絵本だから……」

 「絵本って幼児が読む絵本ですか?」

 「そうよ、あの子たちの昼と夜は劇的に違うの。難しいことは
何も言わないから安心していいわ」

 ケイトは朝もキーウッド先生にそう言われたのですが、そこが
彼女にはわかりませんでした。
 自分より学業が優秀な彼女たちが今さら絵本なんか読みたがる
はずがないと考えていたのです。

 ところが……

 「ねえ、ご本読んでね」
 ケイトの袖を引くポーラの手には『エデンの花園』という絵本
が握られています。
 その後ろに立つエリザベスが握っているのも『二人の天使』と
いう女の都ではよく読まれている絵本でした。

 『高分子化学の基礎』なんて持ってこられたらどうしようなん
て怯えていたケイトは拍子抜けしてしまいます。
 正直、この二人が自分のことを馬鹿にしてわざとやっているの
かとさえ思いました。

 でも、それも違っていたのです。

 今日当番のナンシーもエレーナも先生に読んでもらおうと持っ
てきた本は『森のお姫様』と『水車小屋の小人たち』。いずれも
幼児たちには人気の絵本でした。

 『この子たち、こんな本を読んでもらって面白いのかしら……
そんな時代はとうに卒業してると思うんだけど……』
 ケイトはいぶかります。

 でも、ベッドに入った二人はケイトにぴったり寄り添うと絵本
を食い入るように見、ケイトの声に耳を傾けます。
 その仕草は幼児と何ら変わりありませんでした。

 『この子たちの頭の中ってどうなってるんだろう』
 そんな事を思いながら読み進めていくと、ケイトは不思議な事
に気づきました。

 『えっ!?この本、メーテルが死ぬシーンがないわ』

 一般の本では、主人公ナターシャの親友で花妖精のメーテルが
亡くなるシーンがあるはずなのですが、それがこの本にはないの
です。

 でも、その時は……
 『きっと街ではこんな展開の本も出てるのね』
 と軽い気持でした。

 ところが『二人の天使』を読み始めるとさらにその違いが際立
ちます。

 『何なの、これ!?』

 『二人の天使』は、本来神様の怒りに触れた二人の天使が苦労
に苦労を重ねて再びエデンで暮らせるようになるまでのお話なの
です。
 なのに、ケイトが今こうして読んでる本には、そんな苦労話が
一つも載っていません。

 エデンを追放されたはずの二人が落ち込むシーンなんてどこに
もなくて……むしろ、二人の天使は窮屈なエデンから解放されて
パッピーとばかりに世界旅行を楽しんでエデンに戻って来るので
す。話の筋が最初から最後までとてもハッピーなものに書き換え
られていたのでした。

 『これじゃあ、面白くないでしょう』

 ケイトは思うのですが、見れば二人はケイトに寄りかかるよう
にして、すやすやと寝てしまっています。
 その笑顔は幼児と同じ。幸せそのものの笑顔でした。


***********************

 ケイトは次の日の朝、食事の席でキーウッド先生に尋ねてみま
した。

 「昨夜読んだ絵本、随分と脚色してあったみたいなんですけど、
あれ、先生がなさったんですか?」

 「私が手を入れたのもあるけど、大半はこの子たちの希望なの。
この子たち心は半分男の子だから、女の子が大好きな不幸なお話
は苦手なのよ」

 「男の子って不幸なお話はだめなんですか?」

 「私も王子様たちを教育したことがあるからわかるんだけど、
男の子って、女の子のように不幸を楽しんだりしないの。男の子
ってね、何でも自分の力でやって最後は必ず成功させる。いつも
そんな夢ばかり追ってるの。『不幸だったけど偶然幸せになった』
『誰かが幸せにしてくれた』なんて物語は、男の子の心の中には
ないの。荒唐無稽でもいいから自分の力で無理やり幸せにしちゃ
わないと気がすまないのよ」

 「それで、ご都合主義というか、どんな不幸な状況もたちまち
幸せなお話になっちゃうんですね」

 「この先色んな困難を体験すれば、あの子たちが創るお話にも
深みが出てくるんでしょうけど、今は日常生活でも、やれば必ず
成功するように私たちも仕向けてる最中だから、なおのことなの。
この子たちにとっては、どんな不幸だってたちどころにパッピー
にならないと承知しないのよ」

 「…………」

 ケイトは女の子なので男の子の生理について詳しくはわかりま
せんが、男の子という生き物がお昼にみせる力強さと夜に見せる
繊細さの二面性を持っていることだけは何となく理解できたので
した。


*************************

 天蓋ベッド二日目。
 ケイトの担当はグロリアとローラでした。

 ケイトは昨晩と同じように物語を語り始めます。すると、最初
はおとなしく聞いていたローラでしたが、突然、ケイトから絵本
を奪い取ったのです。

 『えっ、何!?』 

 驚くケイトを尻目に、ローラが始めたのは物語の変更でした。

 彼女は奪い取った絵本を自分の好きなように変更します。
 文章を代え、イラストを差し替えます。
 電子絵本と呼ばれるこの種の本型タブレットならそんなことは
造作のないことだったのです。

 『これだったのね。どうりでどの本もオリジナルが大きく変更
されてると思ったわ』
 ケイトは苦笑いです。

 もちろんこのタブレット、巷でも使われていましたが、ただ、
世間の母親たちは娘がオリジナル版を勝手に修正することを認め
ていませんでした。
 物語の文章をいじったり挿絵を変更したりするのは親の権限。
子供にそんな勝手な真似はさせていなかったのです。

 それがここでは自由だったことにケイトは初めて気づいたので
した。

 ケイトはローラが物語りをどのように変化させるのか興味津々
で見ていました。

 すると、彼女……

 『えっ?…………』
 ケイトは困惑します。

 ローラが修正したのは、ハッピーなはずの主人公の家庭生活。
それが、厳しい母の態度によってお仕置きだらけの生活へと変更
されてしまったのでした。

 しかもそのお仕置きは常軌を逸しているほど厳しくて、まるで
SMです。
 これにはケイトも眉をひそめるしかありませんでした。

 「ねえ、ローラ、どうしてこんなふうにしちゃったの?もとの
ように幸せに暮らしましたでいいじゃない」

 ケイトが言うと普段はおとなしいローラが怒ります。

 「いいじゃないのさあ。ほっといてよ!私はこの方が好きなん
だから!あなたは私の気に入るように読めばいいのよ」

 その大声に、心配したキーウッド先生が、大きなベッドを這う
ようにやってきます。

 「どうしたの?そんな大声だして……」

 「あっ、先生、ローラが絵本を修正したんですが、それが…」
 ケイトはローラからからタブレットを取上げてキーウッド先生
に見せます。

 すると、先生はそれを一読……
 
 でも、慌てず騒がず……
 「随分過激になっちゃったわね。でも、いいわ。ローラちゃん
にはこの方がドキドキして楽しいんでしょうから……これはこれ
で素敵な作品よ。ケイトさん、あなたはグロリアを連れて向こう
で読み聞かせしてあげてて……私はここでせっかく書いたこの子
のご本を読んで聞かせるから……」

 こうして選手交代。
 ケイトはその夜グロリアを含む三人の子供のお母さんをしなけ
ればなりませんでした。


**************************

 翌朝、ケイトは子供たちが食事の席を立ったあと、再び先生に
尋ねます。

 「先生、昨日のローラ、おかしかったですよね」

 でも、キーウッド先生は笑っていました。
 「そうねえ………普段はおとなしそうにみえるあの子にだって
男の子の血は流れてるわけだし……あれはあれで仕方がないわ」

 「どういうことですか?」

 「男の子って、時々意味もなく形あるものを壊したくなる動物
なのよ。女の子はどんな悲劇的な物語を語っても、現実の生活が
幸せならそれを破壊したいなんて思わないけど、男の子は違うの。
たとえ今がどんなに幸せでも、それに満足しないの。今あるもの
を壊してでももっといいもの面白いもの作りたいのよ」

 「ん?????……」
 ケイトは女の子、先生の言っていることがまったく理解できま
せんでした。そこで……
 「その事と、ローラがあんな過激なお仕置きを書いた事と何か
関係あるんですか?」

 「ま、あなたの歳でこれを理解するのは難しいかもしれないわ
ね。でも、あるの。大ありよ。……あの子はね、今の自分を破壊
したがってるのよ。『おとなしくて、素直で、みんなに愛されて
る…とっても良い子』ってのが嫌なのよ」

 「えっ??どうして??」

 「女の子ならそれで十分かもしれないけど、男の子の血をひく
彼女はそれでは満足しないの。グロリアみたいに、毎日のように
お尻を叩かれてでも、自分も友だちの先頭でいたいのよ。でも、
今はまだ、何をやっていいのかわからないから、まずはめでたし
めでたしで終わる絵本の世界を崩してみて、そのヒントを得たか
ったんじゃないかしら」

 「じゃあ、グロリアなんか、あんなのお気に入りの世界なんで
しょうね」

 ケイトが得意げに言うとキーウッド先生はいぶかしげに彼女の
顔を覗き込みます。そして、首を振ってこう答えるのでした。

 「そうじゃないわ、グロリアみたいな子は実生活がSMみたい
なものだもの。そんな子の夜は予定調和の絵本でないといけない
の。あんなもの読み聞かせたら、とたんに気分を悪くするはずよ。
怒ってローラのお話をめちゃくちゃにしてしまうかもしれないわ」

 「えっ!そうなんですか?」

 「だから、グロリアには席を外させたの。人間は、夢の世界で
は普段の自分にはないものを求めたがるものなのよ」

 「ローラもいつかはグロリアみたいになるんでしょうか?」

 「それはわからないけど…昨日、あの子のクリトリスをそっと
触ってみたの。そしたら、びっくりするほど大きくなってたわ。
だから男の子らしく生きたいと強く願っていることだけは間違い
ないみたいね」

 「そんなことまで……」

 「ん?クリトリスのこと??だって、私はあの子のお母さん。
そんな事、何でもないわ。ただね、これまでの殻を破って生き方
を変えるというのは、夢を見るのとは比べものにならないくらい
大変なことですもの。もしローラが本気でそう思っているのなら、
グロリアみたいに少しお尻を叩いて応援してあげなきゃいけない
わね」

 「えっ!!……」
 ケイトは大きく目を見開きます。

 「だって、嵐の日には家の中で縫い物をして暮らす人もいれば、
あえて嵐の中に船出する人もいる。あの子がそれを望むのなら、
育て方も違うでしょう。それを援助してあげるのも母の勤めだわ。
何よりね、ああして物語の主人公に辛い体験をさせたがるのは、
自分もああいう風にされたいと思う裏返しでもあるのよ」

 「…………」
 過激な発言にケイトは言葉が詰まります。

 「あらあら、心配そうな顔?……でも、大丈夫よ。物語をいじ
ってるうちは何も起こらないから。人間、決意を行動に現す時は、
もう物語はいじらないの。……その時はその時で、また別の兆候
が現れるわ。エネルギーが物語に留まってる間は、まだまだ安心
なのよ」

 キーウッド先生はケイトにやさしく微笑むのでした。

***************************


 <寄宿舎>
担任の先生/キーウッド先生
子供たち /ナンシー。ポーラ。グロリア。エレーナ。
エリザベス。ローラ。マリア。
図書室長 /シスターサンドラ(お婆さん)
王子様たち/マイク。フランク。ケリー。

 

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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