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古典的お嬢様生活

         古典的お嬢様生活

 私が子供だった半世紀前、私の生活範囲で『これはお嬢様だな』
と思った子たちの私生活を考えてみる。
 要するに独断と偏見によるお嬢様論。


<朝の仕度>
 これはお嬢様に限らないが躾の行き届いた家の女の子は10才
を超える頃から朝食の仕度を手伝わされる。
 私の知り合いなんか、受験の当日まで朝ごはんの仕度を手伝い、
その後、受験会場へとやってきたほどである。
 ちなみに、男の子にこの義務はない。

<洗濯>
 普通の洗濯物は他人任せでよいが、自分の身につけた下着だけ
は自分で洗うように命じられる。これもやはり初潮が始まるころ
からだ。
 これも男の子は免除。僕なんて大学生になるまで自分のパンツ
を洗ったことなんて一度もなかった。というかそんなことすると、
女の子とは逆で「男の子はそんなことしないの!」ってお母さん
が怒るからなんだ。

<生活スケジュール~日課~>
 親が決めた10分刻みのスケジュールで動く。もちろん決める
時には本人の意向も尊重されるが、一度決まってしまうとルーズ
なことはできない。日課に関しては男の子より厳しい。
 朝の仕度もそうした日課の一つだが、とにかく決められた日課
に違反するとお仕置きもありうるのだ。
 週末の自由時間の取上げとか外出禁止なんてのが多いが、蔵や
納屋に閉じ込められたりするケースも……
 スパンキングは本人に守秘義務(母親からどんな罰を受けたか
を原則として外で言ってはならないことになっている)があるの
で明確にはわからないが、竹の物指しで両手や太股を叩かれたと
いう話はよく聞いた。(そんな話は本人から直接ではなく妹さん
などからよく漏れるのだ)
 ちなみに、男の子(お坊ちゃん)だって、スケジュール自体は
同じように厳しく定められているのだが……こちらは結果責任の
場合が多く、学校の成績さえそれなりなら違反しても女の子ほど
厳しいことは言われないみたいだ。

<身なり>
 当然、うるさい。基本的には自分で身なりは整えるが必ず母親
のチェックがはいる。母親は、髪飾り、スカートの襞、ブラウス
の皺、ソックス、靴、とにかく娘に一分の隙もないように何から
何まで目を光らせる。
 制服はもちろん、私服でも派手なもの、だらしなく見えるもの
は購入NGである。お嬢様というのはどんな場面でも清楚に見え
なきゃいけなかったんだ。

<立ち居振る舞い>
 お嬢様たるもの、立ってる時も座ってる時も、歩いていても、
とにかくどんな時でも背筋がピシッと伸びていなければならない。
 どんな豪華な衣装を身につけていてもへっぴり腰のお嬢様って
のはないんだ。

<表情>
 これも重要。どんな表情がいいのかは一口では言えないけど、
常に他人から見られているという意識を忘れちゃいけないんだ。
そうやって日常生活を送ると、おのずと垢抜けた顔になるみたい
で、お嬢様と成金の娘がクラスで並んで座っていても男どもには
一目で区別がついた。
 一言もしゃべらなくても、発してるオーラが全然違うからね。
神々しいっていうのか……お嬢様ってのは一種の芸能人みたいな
ものなんだ。

<言葉>
 当然、乱暴な言葉は使わないんだけど、だからと言って極端な
へりくだりやら馬鹿丁寧な言葉でもない。品位というか、教養が
にじみ出るというか、うまく言えないけどとにかく凛としている
んだよ。
 よくテレビで田舎出のアイドルがふだん使わない言葉を使って
お嬢様風を演じてみせることがあるけど、本当のお嬢様というの
は物心ついた頃から繰り返し訓練を受けてそうなってるからね、
付け焼刃の猿真似でどうなるものでもないんだよ。

<勉強>
 意外に思うかもしれないけどこれは男の子ほどには厳しくない。
小学校時代、男の子の家庭では単元テストの合格点が90点以上
だったのに対し、女の子の場合は大半が80点もとれば親は納得
していたんだ。これはお嬢様も同じだった。
 お嬢様だから男の子並みの成績でなきゃだめだなんて親は言わ
なかったんだ。
 しかも、先生のいう事を聞いて真面目にやっていれば、たとえ
合格点に足りなくても体罰ということにはならない。
 全て結果責任で、不合格点なら理由のいかんを問わずお仕置き。
なんて物騒なことになりがちな男の子の家庭とは立場が違う感じ
がした。
 そもそも女の子が勉強や習い事でお仕置きを受けるのは宿題を
サボったり、練習を怠けたりした時だけ。逆の見た方をすれば、
女の子には最初から成果は期待されていなかったのかもしれない。

<兄弟の世話、家の用事>
 男の子の場合、こうしたことをすると褒めてもらえるのだが、
お嬢様は女の子だからそうはいかない。こうしたことは、女の子
なら当然するもんだと大半の母親は考えていたから、たとえその
為に自由時間や勉強時間が削られても、母親は意外なほどその事
には無頓着だった。そこは庶民の娘もお嬢様も同じなんだ。
 どこへお嫁に行っても困らないように女一通りのことはやらす
家がほとんどだった。決して何もかにも甘やかされてたわけじゃ
ないんだ。

<きょうだい喧嘩>
 相手が兄であれ弟であれ相手が男の子の場合は表面上は男の子
の方が悪いとして決着するが、それでめでたしめでたしではない。
女の子は、その後、陰で母親から叱られることになる。
 『喧嘩なんかして顔に傷でもつけたらどうするの。危なくなっ
たその場から逃げればいいでしょう』
 ってことらしい。不条理な気もするが、何があろうと女の子は
男の子に手を上げてはいけないのだ。

<姉妹喧嘩>
 この場合は是々非々で対応。ただし、事のいかんを問わず姉妹
共々お仕置きという場合も少なくない。理由は、きょうだい喧嘩
と同様、暴力に訴えると不測の事態が起きかねないからである。
 女の子は逆上すると男の子以上に見境がつかなくなる、と考え
られていたのも確かだ。

<イエスウーマン>
 イエスマンならぬイエスウーマン。とにかく当時の良家の子女
は目上の人に対して何を言われても何をされても『ノー』と言え
ないのだ。(そう、どこかの国の外交と同じ)
 もし、それが意に添わなければ、微妙な顔を相手に見せるしか
なかった。
 『目上の人に不快な思いをさせてはならない』
 そう躾けられてきたから、面と向かって『ノー』とは言いにく
かったんだろうね。
 ま、それでも、日常生活で大したトラブルがないのは、お嬢様
って、そもそも紳士的でない人とは付き合わないから。
 相手も女の子が自分の提案に乗り気でないと悟ると、その後は
無理強いしなくなる。もし、女の子が喜ばないようなら自主的に
提案をキャンセルしてくれたんだ。
 つまり、お嬢様は「ノー」と叫ぶ必要がなかったというわけ。
 もちろん、男の子の場合は違うよ。『ノー』と言えなければ、
それは承知したものとみなされたんだ。

<おやつ>
 庶民の子供たちにとって大事な社交場は駄菓子屋さんだと思う
んだけど、お嬢様と呼ばれる女の子たちは、こうした処にあまり
立ち入らない。もちろん、お金がないとかいうんじゃないよ。お
母さんが快く思わないからなんだ。
 現にぼくの付き合ってた女の子は僕が駄菓子屋さんに行った事
あるって言ったらエスコートを頼んできたくらいだった。
 要するに興味はあったみたいだね。
 お嬢様のおやつはたいてい家に用意されていて大人たちと一緒
にお茶の時間として処理されることが多い。僕も招かれたことが
あるけど、お嬢様ってのはそんな場所では一段とキリッとしてい
るからね、とっても緊張したのを覚えている。
 何しろ僕んちのおやつタイムというのはたいていがお母さんの
お膝の上。お母さんがその舌でぼくのお口を綺麗にしてくれるの
を期待してミルクもお菓子も口元をべとべとにしながら食べるの
が僕流だったんだ。
 心配した母親によく「あんた、給食はお行儀よくして食べてる
んでしょうね」って言われてたけど……そこは僕だってTPOは
心得てるつもりだったから大丈夫だった。

<飲み物>
 おやつが出たからついでに飲み物についても語っておこう。
 実は、この時代のお嬢様(ま、僕んちもそうなんだけど)には
口にしてはいけない飲み物があった。
 もちろん、お酒なんて論外だけど、それ以外にも『コーヒーや
コーラは子供の飲むものじゃない』と言われてたいていの家では
禁止されていたんだ。
 代わりに用意されていたいたのがココアとサイダー。こちらは
なぜか問題にならなかった。
 あっ、それから、今は当たり前になってるけど、この時代まで
は、良家の子女は勝手に自分ちの冷蔵庫を開けちゃいけなかった
んだ。衣服も学用品もオモチャもおやつも飲み物も……とにかく
生活に必要なものは全~部親からのあてがいぶちで暮らす、それ
が正しいお嬢様生活だったの。だから小五の春までお金を使って
買い物をしたことがないなんていう猛者までいたくらいなんだ。
 ちなみに、僕は男の子だし、何よりぼくの家は良家ってほどの
ものじゃないから冷蔵庫は自由。コーヒー、コーラ、何でもあり
だった。そのうえ、僕は幼稚園時代から父親の晩酌を手伝ってた。
お父さんのお猪口を舐めてたんだ。ぼくんちは、厳しいところも
あったけど、全体としてはルーズで甘々、だらしのない家だった。
おかげで、ぼく、当時から結構いける口だったんだよ。

<習い事>
 日舞、バレイ、生け花、お琴、ピアノ、絵画教室、英会話教室、
乗馬などなど色々あるけど、これらから二つ三つ選んで習わせて
る家が多かった。
 ただ、重要なことは、単に習いに行くというだけじゃなくて、
親は我が子がそこで友だちをつくり、さらにその中で輝いていて
ほしいと願ってたんだ。
 だから、ぼくもピアノ教室に通ってたことがあるけど、生徒が
ほとんど女の子であるため、待合室にはリボンや少女フレンドは
置いてあるけど少年サンデーや少年マガジンは置いてなかった。
 そんな雑誌を見ながらこっそり女の子たちの会話に耳を傾けて
いると、これが学校では見たことないような気取った姿だったの
を覚えている。
 たまたま同じクラスの子がその教室にいたからわかるんだけど、
その子のそんな姿、学校じゃまず見たことなかったもん。
 彼女たちにとってこんな習い事の教室ってのは、ある意味学校
以上に大事な社交の場なんだろうなって思った。
 『えっ!?ぼく?』
 陰日なたまったくありません。学校もぐうたらなら習い事教室
もぐうたらです。疲れてくるとすぐにピアノの鍵盤に寄りかかる
癖があります。ピアノの先生には「ほら、姿勢を正して!」って
よく注意されてました。
 ああ、蛇足ですけどね、僕が時々柄にもなく少女趣味的な作品
を描くのはこの時の経験からなんです。
 
<お人形>
 ま、昔から言われていることだけど、良家のお嬢様なんてもの
は大半が親が道楽でこしらえたお人形です。僕なんて生意気盛り
の頃は、『これじゃあ、タイコもちと同じじゃないか。こんなの
社会でいったい何の役に立つの?』なんて、横柄な口をきいてた
もんです。
 当時の僕は、お嬢様というのがそもそも社会に出る必要のない
特殊な人たちだとは知りませんでした。
 ま、それはさておき……
 親は、愛する娘が、自分はもちろん誰に対しても品よく接して
くれることを望みますが、仕事の成果のようなものは望みません。
そこで、娘の方も何をやっても本当の意味での努力はしません。
あくまで、一生懸命にやってますよというパフォーマンスだけで
いいんです。
 要するに親(=お嬢様はファザコン多いので大半父親です)が
満足なら、それでいいわけです。ですから彼を満足させる以上の
無駄な努力は、最初からしないという訳です。
 そんな事が『お嬢様は気まぐれ』『お嬢様はわがまま』という
評価に繋がるのかもしれませんね。


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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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