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9/20 お父さんとのこと(おまけ)

     9/20 お父さんとのこと(おまけ)

*)思い出話をもとにした小説の断片です。スルーしてください。


 お父さんは一応店主だったけど、お店に出ることは少なかった。
お客さんとのやりとりはもっぱらお母さんの仕事だったんだ。

 お父さんはというと、お客さんが持ってきた質物の担保価値を
査定したり、預かった質物を蔵で管理したり、質流れになりそう
なお客さんに葉書を書いたり……ってのが仕事だった。

 もちろん、それはそれでちゃんとやってたんだけど……熱心に
商売をしていたようには、子どもの目からも見えなかった。

 ある時チンピラさんが店にやって来てもの凄い剣幕でクレーム。
その時はたまたまお父さんしかいなかったから応対してたんだけ
ど……くだんのチンピラさん、30分くらいまくし立ててから…

 「あんたじゃわからん、店主をだしな、店主を」
 と叫んだのを覚えてる。

 つまり、チンピラさんにしてみるとお父さんって店主には見え
なかったんだよね、きっと。
 子どもながらに『わからんではない』と思った。

 そんな、だらしのないお父さんなんだけど、生き生きしてる時
もあったんだ。

 お習字をやってるお友だちを自宅に招いて作品をみせっこして
る時。
 お座敷の四方の壁一面にみんなの作品を掛けてお互い批評し合
ってるだけなんだけど、普段は無口なお父さんが饒舌にお友達と
話をしてるし、何より甲高い声でよく笑ってるもの。

 あと……このあたりの田舎では文化人と呼ばれている人たちと
自宅で雑談。これも楽しそうだった。
 そうそう、そんな雑談をまとめて連名でご本も出してる。
 自費出版だから全部持ち出し。もちろん、儲からない。
 お母さんに言わせると、あれは『悪い病気』なんだって……

 ただね、ずっと後になって、東京でたまたまお父さんのご本を
読んだって人にあったら……
 「じゃあ、あなたは先生のご子息?先生はご健在ですか?」
 なんて言われたことがあった。

 ホント、ビックリしちゃった。
 地元で配っただけなのに何の間違いで東京まで行っちゃったん
だろうって思った。
 でも、思うんだよね……

 『いいじゃないですか、たった一人でもお父さんのことを先生
だなんて呼んでくれる人がいて、僕も『ご子息』だなんて呼んで
もらったんだから、大赤字のご道楽だって100%無駄じゃなか
ったんだし許してあげなよ。お父さんって、大酒は飲まないし、
博打も、女遊びもしない人だもん。その人のこれがたった一つの
道楽なんだから』

 ってね、僕はお母さんからお父さんをかばってあげたんだ。

 実際、お父さんの本が世間で注目されたことなんて一度もなか
ったけど、近所のお寺へ行くと、なぜかそこの和尚さんの本棚に
はよく飾ってあった。

 ある和尚さん曰く……
 「ここには人と人との理想的な関わり方が書いてある。これは
仏法にも通じることでな。坊やも大きくなったらわかるよ」
 なんて言われた。

 でもねえ……
 きっと、お友だちのよしみで無理やり買わせたんじゃないかな。
お父さんってね、ああ見えてお坊さんのお友だちは結構多かった
から。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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