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9/25 娘みたいな人

9/25 娘みたいな人

*)エッセイ?

 私の母はご近所で『娘さんみたいな人』と呼ばれていた。

 私はこれを最初に聞いた時、『そうか、うちのお母さんって、
よその人から見ると若く見えるんだ』なんて、勝手に思い込んで
いたのだが、事実はそうではなかった。

 『娘みたい』とは、『主婦でありながら、娘根性が抜けきらず
いつもちゃらちゃらとしていて、ろくに主婦の仕事もできない女』
というあざけりだったのだ。
 だから、それを言った瞬間、おばさんが僕を見つけて決まり悪
そうに微笑んでいたのを覚えてる。

 実際、彼女、世間からそう言われても仕方のない人だった。
 料理はできない。裁縫はできない。掃除はしない。それでいて
何かにつけて見栄だけは張りたがるから、調理器具やミシンなん
て、自分では使わないけど、ちゃんとそれなりに飾ってあった。
 (もちろん飾るだけ)

 その見栄の最たるものが被服費。自分や子供たちが着る洋服代
には湯水のようにお金をつぎ込んでいた。

 実は彼女、某有名子供服メーカーP社のデザイナーと親しくて、
子どもの着る服は、普段着にいたるまでデザイン画を自分で描き、
このように服をこしらえてほしいとその人に頼んでいたのだ。

 要するに一点もの。当然、値は張るけどおかまいなしだった。

 おかげで、うちのタンスはそうした一点物の服で溢れかえり、
ファション雑誌に自分が送ったデザイン画とよく似た服が載ろう
ものなら……
 「ねえねえ、これ、私の作品よ。彼女、盗作したのよ」
 なんて能天気なことを言ったりするのである。

 都会の真ん中ならいざ知らず、片田舎でそんなもの着ていても
誰も振り向きはしないと思うのだが、娘心は違うようだった。

 むしろ、僕なんか友だちと違う格好させられたおかげで、よく
からかわれていたから、そんな特別な格好をさせられるのが嫌で
嫌で仕方がなかった。

 田舎の少年の普段着は、汚れたシャツに股上の短い半ズボン、
それに野球帽をかぶっていれば、それで十分だったのである。

 前に、父の道楽を書いたが、これは母の道楽だった。

 ただ、逆の見方をすれば、それだけ母が自分の力で稼いでいた
とも言える訳で、ご飯炊きのおばあちゃんと子守のお姉ちゃんを
雇うお金は彼女のノルマ。それをクリアーして、なお余った分が、
家族の洋服代に消えていったのである。

 偉いと言えば言えなくもないんだろうけど、享楽的なお母さん
のおかげで、我が家には貯金というものがまったくなかった。
 こういったことも、彼女が主婦でないといわれるゆえんなのだ。

 ただ、お母さんだって、スーパーマンじゃない。病気する時も
あった。ヒモみたいに生活するお父さんは働くお母さんの前では
まったく頭が上がらない存在だったけど、そんな時は自分で貯め
たへそくりでおぎなってたんだ。
 (世間の夫婦とは逆だね。きっと)

 これは今にして思うことなんだけど、お母さんってのは早くに
亡くなったお父さん(僕から見ればおじいちゃん)にお父さんを
重ねてみてたんじゃないだろうか。

 だから、結婚しても『主婦』という感じじゃなくて、『親子』
(父と娘)みたいに振舞っていたんじゃないか。そんな気もして
るんだ。

 いずれにしても、割れ鍋に綴じ蓋って感じの夫婦だった。

 じゃあ、この娘、自分の子どもたちに対してはどうだったかと
いうと……
 これが結構スパルタで、頭は小突くわ、ほっぺは抓るわ。竹の
物差しで太股は叩くわで……これがない日は一日もなかった。

 ただ、この程度は、彼女にとってお仕置きの範疇ではない。

 彼女がイメージするお仕置きとは、大きな艾でお灸をすえたり、
女の子でもかまわず素っ裸で庭に放り出したり、土間に正座させ
ておいて頭からバケツの水をぶっ掛けたり……なんてのが、それ
なのであって、こういうのになると、さすがに毎日はなくて月に
1回か二月に1回位だった。

 もっとも我が家の場合、お灸といっても実際は脅かしが多くて、
火をつけてそれが肌に回った頃を見計らいもみ消す、というのが
多かった。(もちろん、最後までいっちゃったことだって何度も
あるよ)庭もそこは内庭だから他所さんからはほとんど見えない。
(正確に言うと、見える場所はあるけど大抵そんなことするのは
夜だったからOKなんだ)
 とまあこんな具合に、そこは親だからね、色々配慮してたんだ。

 ただ、そんな頭に血が上ってやる激情型のお仕置きより、この
人、圧倒的に子どもを抱いてた。朝昼晩、それこそ挨拶代わりに
よしよししてくれたから、子どもとしてはお仕置きの時間なんか
より甘えてる時間の方が100倍も多かった気がする。

 ま、やりすぎて過干渉ってところもあったけど……とにかく、
僕たち子どもは彼女の僕(しもべ)というかお人形に仕立て上げ
られていったんだ。

 だから、ペットという側面も……

 中学生になった息子に、「パンツ脱げ」なんて平気で言うし、
出てきたオチンチンは摘んじゃうし、試しに剝こうとするし……
もう、やりたい放題だった。娘と言ってもそんなことは平気な人
なんだよね。

 でも、不思議と卑猥な感じはまったくしなかった。根が明るい
人だったから、こんな事も軽いジョークと片付けられて、それを
子どもの側が虐待だなんて感じることはまったくなかったんだ。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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