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12/5 御招ばれ<第2章>(3)

12/5 御招ばれ<第2章>(3)

*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。
  私的には……ですが(^◇^)
  あっ、このあたりはR-18解除です。


***************************

 <主な登場人物>

 春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
     レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
     遥との間につくった隠し子。
 美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
     するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
     植松大司教が芸者小春に産ませた子。
      二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
     預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。
 町田先生……美人で評判の先生。春花と美里の親代わり。二人
      とは赤ちゃん時代からのお付き合い。二人は、当然
      先生になついているが、この先生、怒るとどこでも
      見境なく子供のお尻をぶつので恐がられてもいる。
 シスターカレン……春花のピアノの師匠。師匠と言っても正規
         にピアノを教えたことはない。彼女は周囲に
         『春花は才能がないから』と語っているが、
         本心は逆で、聖職者になることを運命づけら
         れていた彼女が音楽の道へ進むのを奨励でき
         ない立場にあったのだ。

 安藤幸太郎……安藤家の現当主、安藤家は元伯爵家という家柄。
       町外れの丘の上に広大なお屋敷を構えている。
        教養もあり多趣味。当然子どもは好きなのだが、
       その愛し方はちょっと変わっていた。

 柏村さん………表向き伯爵様のボディーガードということだが
       実際の仕事は秘書や執事といったところか。
        命じられれば探偵仕事までこなす便利屋さんだ。

 三山医師………ほとんど幸太郎氏だけが患者というお抱え医師。
        伯爵とは幼馴染で、世間でいう『茶飲み友だち』 
       幸太郎氏とは気心も知れているためその意図を
        汲んで動くことも多い。

****************************

 次は春花ちゃんの番です。
 彼女もまた、その出会いの時と同じくオモチャのピアノを抱え
ていました。

 「春花ちゃん。おいで……」
 伯爵様は車椅子から両手を広げて春花ちゃんを迎えましたが、
11歳の少女ははにかみます。彼女は幼な子ではありませんから、
おじいさまの望まれるままにお膝に飛び乗るというわけにはいき
ませんでした。

 「春花ちゃん、伯爵様に失礼よ。バスの中でも言ったでしょう。
伯爵様はあなたを抱いてみたいの。せっかくあなたを求められて
るのにお膝へ行かないなんてもったいないわ……ほら、行って、
行って……」

 町田先生は後ろから抱きついて押し出そうとしましたが、春花
ちゃんが抵抗します。
 すぐに伯爵様が……

 「先生、いいんですよ。やめてください。無理強いはよくない。
……それより、おじいちゃんとしては11月9日を聞いてみたい
んだが、やってくれるかい?」

 「11月9日?……」
 春花ちゃんは、最初それが理解できませんでしたが、すぐに、
11月9日が曲名で私にピアノを弾いて欲しいんだと理解します。

 「いいよ」
 春花ちゃんに笑顔が戻りました。

 彼女はオモチャのピアノをうやうやしく床に置くと自分も床に
お尻を落としてピアノに向かいます。ポニーテールの髪を後ろに
流してポーズを決めます。

 事実はともかく、春花ちゃんの心の中では……
 『私は天才ピアニスト。そのリサイタルが今始ろうとしている』
 という情景になるのでした。

 奇妙な演奏会。
 部屋の片隅にはグランドピアノも設置してあるのに、わざわざ
オモチャのピアノを弾くなんて、ピアノを本気で習っている子供
たちにしてみたら理解に苦しむ光景だったに違いありません。

 ですから……
 「いったい何事?」
 「あの子、何を始めるつもりなの?」
 となるのです。

 でも、理由は簡単でした。
 春花ちゃんは右手でしかピアノを叩けないのです。
 彼女にとってはその右手でメロディーを刻むことだけがピアノ
を弾くことだったのです。

 当然、周囲はあきれ顔、失笑だって起こります。
 「何考えてるのかしらあの子。あれでおじい様へのプレゼント
のつもりなの?」
 「笑わせないでよ。冗談でしょう。あんなのでよかったら、誰
でも、それこそ幼稚園児でも弾けるじゃない」
 「ホント、どういう神経かしら。こっちは、おじい様に聞いて
もらおうと思って一週間必死に練習してきたっていうのに、図々
しいにもほどがあるわ」
 「そもそも、あの子、何弾いてるの?私、あの曲知らないけど」
 「私も知らないわ。単に滅茶苦茶弾いてるだけじゃない」

 散々な言われようですが、春花ちゃんは周囲の雑音をよそに、
トランス状態。お友だちの非難はまったく耳に入りませんでした。

 演奏が終わると、伯爵様だけが笑顔で拍手します。
 そして……

 「おいで……」
 伯爵様は再び車椅子で両手を広げます。

 これで二度目。
 春花ちゃんだって、もうイヤイヤはしませんでした。

 「さあ、いってらっしゃい」
 町田先生にも再び背を押されて、春花ちゃんは初めて伯爵様の
お膝へ登ります。

 緊張した顔で伯爵様のお膝近くまで来ると、いきなり、両方の
脇の下に大きな手が差し入れられ、男の強い力で一気に持ち上げ
られます。

 「あっ!」
 その瞬間、春花ちゃんは思わず声を上げましたが、抵抗したの
はそれだけでした。

 「どうした?こんなおじいちゃんのお膝じゃ嫌かな?」
 伯爵様は春花ちゃんの気持を代弁してそう尋ねます。

 「………………」
 当惑する春花ちゃん。
 ただ春花ちゃんにしてみると、そこは思っていたより心地よい
場所でした。

 春花ちゃんが幼い頃一番よく抱っこしてもらったのは町田先生。
でも、その時とは感触が違います。抱かれているといってもそこ
は軟らかな寝床ではありません。身体を動かすたび、ごつごつと
した強い弾力が身体の芯をグリグリと押してきます。
 それって少し痛いのですが、女の子の春花ちゃんにとっては、
それもまた不思議と気持ちよいのでした。

 おまけにその場所には魅惑的な香りが漂っています。
 嗅いですぐ心地よい花の香りなどとは違いますが、嗅いでいる
うち癖になります。

 『何だろうこの臭い?』
 それって男の体臭というやつなんですが、春花ちゃんは女の子。
自分にはない異性の香りには生理的に心引かれるのでした。

 「いいからじっとしておいで……」
 伯爵様に耳元で囁かれると、それにも心が震えます。体の芯が
熱くなります。とろんと眠くなります。すべてが初体験でした。

 『そうだわ、これって、大西先生の処でも感じたわよね……』
 前にもどこかで感じたようなデジャビュが春花ちゃんの身体を
包み込んでいました。

 そう、お父さんのいない彼女たちにとって男性に触れる機会は
とても少ないのです。そもそも、免疫がありません。ですから、
たまに訪れるその瞬間はとても大きく心の針が振れてしまうので
した。

 最初は嫌がっていた春花ちゃんがわずか数分で今は伯爵様の胸
に顔を埋めてトロンとなっています。まるで『さっき全身全霊で
演奏したからもう気力が残っていない』といわんばかりです。
 そこにいつもの威勢はありませんでした。

 伯爵様は柏村さんに車椅子を押させると、部屋の片隅に据え置
いたピアノに向かいます。
 そして、やおら、春花ちゃんが弾いたばかりの『11月9日』
を左手の和音を添えて演奏し始めるのでした。

 すると、さっきと同じメロディーのはずなのにお友だちの評価
が変わり始めます。
 「これ、さっきの曲かしら?」
 「そうよ。今、この子が弾いた曲だわ」
 「伯爵様が弾くとまるで違った曲に聞こえるから不思議ね」
 「ほんと、これって何の曲かしら?幼い頃弾いた練習曲みたい」

 「綺麗な曲」
 春花ちゃんがつぶやきます。美しい曲でした。
 いえ、春花ちゃん自身、この曲が今さっき自分が弾いた曲だと
思えませんでした。

 「おじいちゃま、これ、私がさっき弾いた曲なの?」
 「そうだよ。とても綺麗な曲だから、私も弾いてみたくなった
んだ。こんなメロディーがすぐに浮かぶなんて、君の心が穢れて
ない証拠だよ」

 「へへへへへへ」
 春花ちゃんは褒められて恥ずかしそうに笑います。
 しばらくは伯爵様の懐で甘えていたい気分でした。

 でも、ほかの子たちの視線を感じて、そのお膝から降りようと
します。すると……

 「待っておいで、今、シスターカレンに向けてお土産を作って
るところだから……」
 気がつけば、伯爵様は、譜面台に置かれた五線紙にお玉杓子を
書き連ねています。

 「君はどのみち楽譜は読めないんだろう?」
 「……うん」
 「だったら、カレン先生に読んで貰えばいい。カレン先生なら
もっともっと美しい曲に仕上げてくださるはずだから……」

 すると、春花ちゃんは顔を曇らせます。
 「先生、私のデタラメなピアノ。がっかりだった?」

 「どうして?……君のピアノはデタラメなんかじゃないし……
がっかりでもないよ。……まったく逆さ。君の弾くメロディーが
あまりにも美しいからカレン先生にお手紙を書く気になったんだ」

 「音符でお手紙?……それでシスターはわかるの?」

 「不思議かい?……でも、大丈夫。大人の世界ではね、これで
『素敵なプレゼントをありがとう』って読めるんだ」

 「ふうん」
 春花ちゃん首を傾げます。5年生の少女にしてみたら、まるで
狐につままれたようなお話でしたが、とにもかくにも伯爵様には
こちらからのプレゼントを受け取ってもらえたみたいですから、
春花ちゃんとしてはそれで十分だったのでした。

 実は、春花ちゃん、これといった特技が何もありませんから、
伯爵様へのプレゼントを何にしようか悩んでいたのです。そこで
一か八かやってみたのがオモチャのピアノだったというわけ。
 頼りは「あなたはこの教会一のメロディーメーカーよ』という
シスターカレンの軽いお世辞だけでした。


 12名のプレゼンが終わると、次はお茶の時間です。
 といっても、かしこまったものではなく子どもたちはテーブル
に用意されたケーキを配られたお皿に乗せてぱくつきます。

 ここでも、伯爵様は今日やって来た一番幼い子を膝の上に乗せ
ておいででした。

 この日一番の年少さんは4年生の女の子。まるでお人形のよう
な顔をしていますから伯爵様のお気に入りでした。
 伯爵様はその子を膝の上に抱いてあやしながら、お隣に陣取ら
せた春花ちゃん美里ちゃんコンビともお茶の会話を楽しんでいま
した。

 「君たち、ここは初めてだよね?どうして私の処を選んだの?
たしか、先週までは大西先生の処だったでしょう?」

 「そうなんだけど……たまには他の処もいいかなと思って……
お友だちから遊園地みたいにたくさん遊ぶ物があるよって聞いた
から……」
 春花が答えます。彼女は苺のショートケーキとシュークリーム、
それにババロアをすでにお皿に乗せていました。

 「そうか、お庭の遊具のことだね。あれは私が子供の頃遊んだ
おもちゃなんだ」

 「うそ!遊園地から持ってきたんじゃないの?」

 「そうじゃないよ。あれは父が買ってくれたんだ。ブランコも
シーソーもメリーゴーランドもジャングルジムも、みんなみんな
戦前の古いものなんだ。だから、あのメリーゴーランドだって、
電気じゃなくて人力でしか動かないからね、遊ぶ時は必ず大人が
一人付き添わなきゃならない。回す時は重労働だって庭師の松吉
がこぼしてたよ」
 伯爵様は軟らかく笑います。

 「でも、捨てなくてよかった。こうして君たちの役に立ってる
んだから。私は、この通り身体が不自由で、君たちと一緒に遊び
たくてもできないからね。ちょうどよかったと思ってるよ」
 伯爵様は猛烈な食べっぷりの春花ちゃんを眺めながら膝の上に
抱いた女の子のためにケーキを取り分けその子の頭を撫でます。

 「ところで、大西先生の処で、君たちはどんなことをしてたの?」

 「どんなことって……お部屋でトランプとかゲームをしたり、
裏の畑でお芋や西瓜を取って来たり、お母さんとクッキーを作っ
たり……おままごととか……お姫様ごっこだけど……先生ってね、
おままごみたいなこと好きみたいだから、お付き合いしてあげて
たのよ」
 春花は一口サイズの苺のショートケーキを頬張るついでに答え
ます。

 「『お姫様ごっこ』って?」

 「私たちと茜お姉ちゃまがお姫様になって、先生も王様の衣装
を着て、好き勝手に劇ををやるのよ」

 「好き勝手に?要するに寸劇を即興でやるんだね……凄いね、
アドリブ劇だよね。上手にまとまったのかな?」

 「分からないわ。でも、そんなことはどうでもいいの。私は、
お母さんの作ったお姫様の衣装を着て踊っていられれば、それで
よかったから」
 と、春花ちゃん。

 「お母さんや明子さんがいつも拍手してくれるの」
 と、美里ちゃん。

 「……時々ね、お父さんが、昔の王様やお姫様がどんな生活を
してたか、教えてくれたわ」
 春花ちゃん、今度は大きなシュークリームもぐもぐやりながら
答えます。

 「そうか、そういえば大西先生は西洋中世がご専門だったね。
楽しかったかい?」

 「うん、とっても……その時の記念写真あるけどみたい?」
 今度は美里ちゃんがババロアを持ったまま笑います。

 「見てみたいな」

 「たくさんあるよ。今度、持ってきてあげる」
 春花ちゃんは遠くのお皿に盛り付けてあったモンブランにまで
手を伸ばします。
 二人はあまりにたくさんのお菓子に驚いてしまいお行儀はよく
ありませんでしたが、伯爵様がそれに対して嫌な顔をすることは
ありませんでした。

 「大西先生は君たちに優しかったみたいだね?」

 「はい、とっても……先月は茜お姉ちゃまにお仕置きがあって
先生とは一緒じゃなかったけど、それまでは寝る時はいつも一緒
のお布団だったんです」
 まだ見た事のないケーキに夢中になっている春花ちゃんに代わ
って、美里ちゃんが答えます。

 美里ちゃんは春花ちゃんより少食なのか、お行儀がよいのか、
春花ちゃんより丁寧に伯爵様に応対します。
 でも、その美里ちゃんの口の周りにもすでに生クリームが沢山
ついていました。

 「そうか、大西先生、お嬢ちゃんのお仕置きまで君たちに見せ
たんだ。(はははは)これは驚いたな」

 伯爵様が感慨深げに漏らすとモンブランを手にした春花ちゃん
が割り込みます。
 「私たち見ただけじゃないよ。お父さんと一緒に茜お姉ちゃま
のお尻叩きまでやったんだから……」

 「そう、お尻をぶつ時の鞭の使い方も大西先生に習ったの」
 美里ちゃんが続きます。

 伯爵様はもう目が回りそうでした。
 いえ、伯爵様の家にだってルールはありました。男の子を中心
にお仕置きの鞭というのも、大人になるまでには一度や二度では
なかったのです。

 でも、それは決して他所の人に公開されることはありません。
信用のおける女中さんや家庭教師の先生を除けば赤く腫上がった
傷だらけのお尻を部外者が見る機会などありませんでした。

 まして、女の子の場合はなおさらです。
 10歳以上の子は完全密室で、悲鳴さえも外に漏れないように
地下室や離れで行われるのが普通でした。
 そんな常識を覆す大西先生のお仕置き事情に伯爵様は驚いたの
でした。

 『でも、それをあえていとわないというのは………それだけ、
大西先生がこの子たちにご執心ということなんだろうな』
 伯爵様は大西家での出来事をそのように理解したのでした。

 そこで、一歩踏み込んで……
 『具体的な話を聞いてみようか』
 そんな気持もふっと心をよぎります。

 「それで、茜ちゃんは、どんな罰を受けたのかな?」

 伯爵様が尋ねると、春花ちゃんはこともなげに……
 「どんなって……普通のお仕置きよ。……お浣腸されてお尻を
ぶたれたの」

 「君たちはお浣腸もお手伝いしたのかな?」
 「それはなかったけど、茜お姉ちゃまがお庭でうんちする処は
見ちゃった(はははは)」
 「そうよ、茜お姉ちゃまったら、お父様に抱っこされてウンチ
してたんだから……」

 「そうかい。そりゃあ大変だったね。見てる方も辛かったろう」

 「そりゃあね。ウンチなんて見たくないけど、お仕置きだから
仕方がないよ。……いい気持はしないけど…でも、私たちだって
寄宿舎ではそのくらいされたことあるから…」

 「寄宿舎のお仕置きってそんなに厳しいのかい?」
 伯爵様が尋ねると、こんどは美里ちゃんがそれに答えました。
 「先生に素直にごめんなさいすればそんなこともないんだけど、
たまに女の子って素直になれない時があるのよ。……そんな時は
先生も意地張っちゃうから、お仕置きが自然ときつくなるの」

 「なるほどね。私は、教会の中って天使の園だとばかり思って
いたから……女の子にお仕置きなんてしないのかと思ってたけど
……違うんだね」
 
 「違うわよ。そんなわけないじゃん。女の子だって人間だもん。
だらしない子も、怠け者も、見栄張りや…やたらと嘘をつく子が
たくさんいるんだから……毎晩、誰かの悲鳴が必ず舎監室の方か
ら聞こえるの」

 春花ちゃんが言えば、美里ちゃんも……

 「お浣腸なんて、オムツをされてベッドに縛り付けられるの。
漏らしてしまうまでそのままよ。とっても残酷なんだから……」

 「でも、その後は先生が片付けてくれるんだろう?」

 「先生が?先生はそんなことしないわ。見てるだけよ。自分で
汚した物は自分で片付けなさいって言われるだけ……とにかく、
それを綺麗にしないとお仕置きが終わらないのよ」

 美里ちゃんが得意になって説明していると二人より年上の子が
たまらず口を挟みます。

 「ちょっと、あんたたち、やめなさいよ。せっかくのお菓子が
まずくなるわ。だいいち、そんな事、伯爵様にお聞かせすること
じゃないでしょう。場所柄をわきまえなさいよ」

 そのあまりの剣幕に二人は思わず下を向いてします。

 彼女の言ってることは正論でした。
 『女の子は、みにくいことや人の嫌がることを口にしてはいけ
ない』
 先生にそう教わっていたからでした。

 伯爵様が施設で行われている女の子のお仕置きについて意外な
ほど無知なのも女の子たちがそうしたことをあえて話題にしない
からでした。


 オヤツの時間が終わると、子どもたちは自由に伯爵邸のお庭や
遊戯室、図書室なんかへ行って遊びます。

 丘陵地の坂道を利用して作った滑り台は50mもあってスリル
満点ですし、電気もモーターでもはなく庭師のおじさんが大汗を
かきながら動かしてくれるメリーゴーランドは、舞台が滑らかに
まわりませんし、乗ってる木馬だってギシギシと音を立てながら
上下します。すべてがゆっくりでギクシャクした動きなのですが、
順番待ちをする子が出るほどの一番人気でした。

 男の子に人気のゴーカートだってあります。
 ただこれもエンジンはありません。坂道を利用して四輪の車が
転がるだけなんです。ですから、終点まで来ると、後はスタート
地点まで自分で押して坂道を登らなければなりませんでした。

 そんなオンボロ遊具でも、子供たちの歓声は絶えることがあり
ません。
 伯爵様もまた子供たちのそうしてはしゃぐ姿を見るのが大好き
でした。
 この日も、木陰に車椅子を止めて子供たちの遊ぶ姿を見つめて
いました。

 「三山先生。ここにいると、先生のお薬はいらんよ」
 伯爵様はいつも付き添わせている主治医に笑顔を向けます。
 そこで、先生の方も……
 「伯爵は、その昔、子どもの甲高い声は苦手だとおっしゃって
ませんでしたか?」
 と切り返すと……
 「ところが、ここに子ども達を招くようになってからそうでも
なくなった。近くでないならなおさらそうだ。金きり声も遠くで
聞けば小鳥のさえずりのようにも聞こえるから不思議なもんさ」

 皮肉めいて伯爵様は語ります。でも、それって、本当は正しい
ことなのかもしれません。昔は多くの浮名を流した伯爵様も今は
好好爺。悦楽の源はすでにレディーではありませんでした。

 レディーを目の前にした子供たち。
 その柔らかい肌に触れ、穢れのない瞳を見つめ、屈託のない声
を聞くと、彼らの生気が自分の体内に取り込まれるようで楽しい
のです。

 若返りの方法に気づいた伯爵様は、できるだけ多くの子供たち
を屋敷に招きいれます。しかも、子どもたちには大人並み待遇を
用意していましたから、子どもたちの間でも人気がでないはずが
ありません。

 伯爵様のお屋敷へ行ってお泊まりしたいという子が殺到、最初
は他のお父さん同様、二人から始めた招待がいつしか定員十二人
となっていました。
 でも、伯爵様がそれで困るということはありませんでした。

 そんなお楽しみの伯爵様の耳元で、柏村さんが囁きます。
 彼は伯爵様に頼まれて何やら調べ物をして帰ってきたところだ
ったのです。

 「施設でのお仕置きは確かに行われておりました」
 「そうか、やはりあの子たちの話は、デタラメではなかったと
いうわけか……」
 「しかも、これがかなり過激でして……」
 「過激?」
 「ええ、実は……」
 柏村さんは付き添いの先生方や子供たちのお泊まりを受け入れ
ているお父さんたちに取材した内容を伯爵の耳元に流し込みます。
 
 「…………」
 それは少なからず伯爵を驚かしましたが、でも、少し考えれば
それももっともなことと理解したのでした。

 「いや、驚きましたよ。こんな可愛くて上品そうな子どもたち
が、施設ではそんな厳しい罰を受けているなんて……」

 柏村さんが驚いたように話すと、伯爵は悟ったようにこう言い
ます。
 「彼らの場合、孤児と言っても氏素性がはっきりしているから
教会もむしろ気を使って育ててるんだろう。そもそも、これだけ
品のいい子が何の体罰もなしにいきなり現れたらその方がよほど
驚異だよ。我々にしてもそうだ。厳しい鞭なくして華族の品格は
守れないとばかり、子供の頃は色々あったね。………わかった、
ご苦労だったね、むしろ、これで納得がいったよ」

 伯爵は、楽しげな子どもたちを見つめたまま、何も言いません
でしたが、その胸中に去来するものは新たなステージへの第一歩
だったのです。

*************(3)************

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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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