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<小学校低学年時代>

H無縁の雑文です

<小学校低学年時代>

 僕は今ならADHDを疑われていた少年だったと思う。

 とにかく興味のないことには集中心がないし、わけもなく体が
動く。身体を動かしていないと楽しくないし何より平静でいられ
ないのだ。僕が不必要な身体の動きをやめるのは寝てる時だけ。
長時間じっとしていろと命じられるとストレスが溜まってしまい
耐えきれずに奇声をあげてはまた怒られるといった按配だった。

 こんな僕だから勉強する時だって他の子のようにただ勉強机が
そこにあればよいというわけにはいかなかった。家庭教師の先生
がいる時も、単に膝をつき合わせてというだけでは足りなかった。
それでは一向に勉強しないからだ。
 だったらどうするのか。

 母の出した結論は簡単。僕を膝の上に抱きかかえると、大きな
身体で僕の体が動かないようにしてから始めるというもの。
 こうすれば身体は無駄な動きをしなくるし心だって安定する。
幼児にとって母親の抱っこくらい心の安らぐ場所はなかったから
だ。

 しかし、この方法、いつまでもという訳にはいかなかった。

 だって、子供は成長する。大きくなるのだ。重くなるのだ。
 母の膝がその重さにいつまでも耐えられるはずがなかった。

 そこで、母は最初、父親に応援を求めた。
 もともと父親の方が物知りだし、体も大きかったからだ。

 ところがこの人、知識はあるものの体系的に効率的に教えると
なると不向きだった。
 実際、父親の授業は脱線につぐ脱線で一向に話が前に進まなか
ったのである。

 僕自身は、父の脱線授業をとても楽しみに聞いていたのだが、
即物的な思考回路の母にとってそれは大いに不満で、次なる策を
考えることになる。

 母が次に打った手は家庭教師を雇うという選択だった。

 その求めに応じて我が家へやってきたのは、現役の女子大生。
清楚な感じのお嬢さんだったが……
 結果は同じだった。

 そりゃあ彼女、知識もあるし体系的にも教えてくれるのだが、
いかんせん生徒の方にまったく乗り気がないものだから、結果は
父親の時と同じだったのである。

 母は当初、僕の勉強を女子大生にまかせ自分は仕事をしていた
のだが、どうやらそれではうまくいかないみたいなので授業中も
同室するようになり、そして、ついには……
 昔と同じ姿勢で勉強するようになった。

 これには女子大生のお姉さんも目をパチクリさせていた。

 いや、小3にもなった子が母親の膝に乗せられて勉強を始めた
からというだけではない。その作業効率がまるで違うからだ。
 彼女には『まるで別人』と映ったに違いなかった。

 こんな事情から、僕は『お母さんが僕を抱っこしてくれたら、
テストの間違いも少なくてすむのに……』なんて思っていたが、
まさか小学校に母を連れてもこれないから僕のスクールライフは
大きな欠陥を晒したまま過ごすことになる。


 少年の欠陥はこれだけではない。異常なほどおしゃべりなのだ。
とにかく話し出すと頭に浮かんだ映像をすべて言葉にするまでは
止まらなかった。
 しかも、悪いことに極めてドグマチックだ。

 班で話し合って結論を出さなきゃならない時でも、ろくに他人
の会話を聞かないで自説を押し付けるもんだから、クラスメイト
だっていい心持はしなかっただろう。

 友だちがどうしてそうなるのかと尋ねると、たいていが……
 「だって、〇〇さんが言ってた」
 「〇〇という本に書いてあった」
 と、こうだ。

 おかげで『本屋』というあだ名までついてしまった。
 つまり僕はクラスではお荷物、『困ったちゃん』だったのだ。

 そこで担任の先生は仕方なく、僕を学級委員にして他の子とは
別の仕事をさせ、少しずつ協調性を学ばせる作戦にでてきた。

 取りまとめ役なら他の子の迷惑にならないだろうというわけだ。

 だから僕は先生のご指名で何度か学級委員をやったが、これは
僕に人望があったからではない。もちろん名誉でもなんでもない。
たんにクラス運営のためのやむを得ない処置だったのだ。

 そのことは……
 「あなただから、あえて話すけど……」
 と担任の先生から僕は説明を受けていた。

 ところが、うちの母は体育会系の単細胞だから小二の僕でさえ
理解できた理屈を担任の先生が何度説明してもわからないのだ。
 うちの息子は優秀だから学級委員を拝命しているんだとばかり
思い込んでいた。

 ホントうちは親子して学校の『困ったちゃん』だったのである。

 そんな特殊事情を担任の先生が母親に説明した日のことはよく
覚えている。
 というのも、その日、僕がまたまたちょっとした事件を起こし
てしまったからなのだ。


 その日の数日前、僕は一枚をプリントを持って帰ってくる。
 それは『家庭訪問のお知らせ』だった。

 これを見た母、当然と言うか、いきなり張り切り始めた。
 要するにこちらもこちらで余計な事をし始めたのだ。

 まず最初に、白いシーツを大量に買ってきては、これをお店の
周囲にいくらか残っていた遊郭の看板に被せ始める。
 彼女としては、ここが遊郭街だということを先生に知られない
ための偽装工作なんだろうが……先生は子どもじゃない。ここが
どんな街かぐらいのこと知らないはずがなかった。

 この大仕事のあと、彼女は普段の客には出さないような高級な
お茶と生菓子を用意すると、自分もよそ行きの訪問着でビシッと
決めて、担任の先生を待ち構えたのである。

 当時の家庭訪問は担任の先生と母親のお見合いって感じだった
のだ。

 ま、それはともかく、ここまでは彼女なりに完璧だったのかも
しれないが、最後に一つ、彼女は重大なミスを犯してしまった。

 その準備の最中、まるで夏のハエのように五月蝿く付きまとう
僕たち兄弟に向かって……
 「先生がお帰りになったら一緒にデパートへ行きますからね、
今は静かにしてて頂戴」
 と、軽く僕たちに対してご機嫌をとってしまったのである。

 母は軽い気持だったかも知れないが、僕たちは喜んだ。
 そりゃあそうだ。当時のデパートというのは子供たちにとって
単に買い物をする場所ではない。屋上の遊園地で遊んで、食堂で
お子様ランチを食べてと、色々楽しめる手軽な行楽地でもあった
からなのだ。

 当然、先生がうちに早くやって来て、早く帰ってくれることを
僕たちは望んでいたのだが……。

 こんな時に限って先生の到着は大幅に遅れ、しかもうちに着い
たあともなかなか帰らない。

 おまけに、お母さんが引き止めたりもするもんだから僕たちは
やきもきしていた。

 『このままでは、デパートへ行く時間がなくなってしまう』
 襖一つ隔てて様子を窺っていた僕たちは心配でならない。
 そこで……

 僕はいきなり襖を開けると、つかつかと大人たちの部屋の中へ。
 お母さんが正座する膝にどっかと腰を下ろすと、開口一番……

 「ねえ、先生、もう帰ってよ。これからお母さんとデパートに
行くんだから」
 と宣言したのだ。

 先生が笑った。
 きっと、それって僕らしかったのだろう。

 まあ、誰に対しても恐れを抱かないというか、躾がなってない
というか……
 先生も、もうそろそろお暇(いとま)しようと思っていたから
腰を上げてくれたけど、お母さんの顔は真っ青で真っ赤だった。

 「どうしてあんたはいつもそうなの!!」
 先生が帰ったあとお母さんには叱られてしまった。

 ま、おかげで無事デパートにも行けたし子どもの立場としては
めでたしめでたしではあったが……。

 そうそう常識がないと言えば、こんなこともあった。

 その日は雨上がりで僕は近所の友だちと裏山を駆けずり回って
帰って来たのだが、その勲章としてズボンはドロだらけ、パンツ
にも泥水がたっぷり染みこんでいた。
 
 そこで、床が土間だった炊事場で着替えることになったのだ。
ところが間の悪いことに僕がパンツを脱いだ瞬間近所のおばさん
が入ってきた。

 昔の田舎は隣近所へ出入りするのに麗々しい挨拶なんかしない。
いきなり扉を開けて「こんにちわ」と言えばそれでよかったので
ある。

 その『こんにちわ』のあとに、おばさんが笑った。
 「あら、取り込み中だったわね」

 「いいのよ、大丈夫だから……」
 母は応じたが、おばさんの笑いが僕の心を傷つける。
 そこで……

 「おばさん、出て行ってよ。お母さんが恥ずかしいだろう!」
 と言ったのである。

 これには、やや間があってから二人の笑い声が漏れた。

 「ほら、何言ってるの。お母さんが恥ずかしいんじゃなくて、
あなたが恥ずかしいんでしょうが」
 お母さんが笑われた理由を教えてくれたが……

 でも、それでも僕はきょとんとしていた。

 だって、お母さんの前で全裸になることは珍しいことではない。
お風呂に入る時はいつもそうだ。お母さんが僕の服を脱がし僕の
体を隅から隅まで洗う。オチンチンまで全部洗う。これ我が家の
常識だった。

 それに、たとえおばさんに僕がオチンチンを見られたとしても、
それも驚くような事ではなかった。昨年までは幼稚園だった僕は
今年だって何も身につけず庭の盥で行水してたんだから、隣から
も生垣越しに僕の裸は見えたはずだ。

 だから裸は関係ない。僕にしてみたら、おばさんがお母さんの
している事で笑ったのが許せなかったのである。

訳が分からずボーとしていると……
 「ほらほら、さっさとパンツを穿いて」
 お母さんに言われてしまった。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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